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『お前、強いよなぁ』
『あ?』
絶好の昼寝日和。ポチと二人でうとうととお気に入りの木の上で微睡んでいたところに、大好きな声が聞こえてカカチはパチリ、と目を開けた。
『ほらお前んトコ、ってもカカシ上忍の息子だけどさ。まだ十やそこらだろ?』
『カカチか?そうだな今年で十歳になる』
『・・・上忍なって結構経つよな?まだそんなもんか、あーけど確かに小っちぇか』
失礼な。確かに身長が伸び悩んでいるのは事実だが、まだ成長期が控えている。
とりあえずポチが上に乗せるのを拒否するくらいには大きくなったつもりでいるのだ。
『二つで上忍になっちまったからな。で、カカチがどうかしたのか?』
『いや、下の妹が下忍試験に受かってよ。昨日家族総出で見送りしたんだよ、お袋なんか号泣しちまって』
『初任務か、懐かしいな』
懐かしげな声に誰の初任務を思い浮かべているのだろうと興味が湧く。
カカチの初任務は赤ん坊の頃で、正直自分でも覚えていない。それに暗部の任務だったから極秘だろう。
アカデミーにはイルカと一緒に初任務を受けた生徒がいるのかもしれないと思うと、羨ましかった。
『ああ、俺も涙止まんなくなって最後妹も号泣してんの。D級任務だから危険ねーってのに』
その認識は褒められない。任務を級で判断する忍は難易度が上がった時の対応が遅い。命取りになる。
実際、元々D級任務だったものがS級扱いになって、手に負えずカカチたちの管轄になることも少なくない。
『そんなことわかんねぇだろ』
『・・・だな、里の外は何があってもおかしくねぇよな』
『まぁな。だからってわけじゃねぇけど、これからも見送りはちゃんとした方がいいぞ』
『それそれ。イルカ、カカチ上忍も見送ってんじゃん』
『当たり前だ。カカチは俺の息子同然だからな』
実際には息子なのだが、その辺りは納得済みのことなので今更どうこう思ったりしない。
『よく、あんな笑顔で送り出せるな。って感心したんだよ』
『・・・』
『カカチ上忍ここんとこ負傷者リスト常連だろ』
舌打ちしかけたのを隣から伸びた肉球に阻まれる。睨みつけても動じない相手というのは厄介なものだ。
『別にカカチに限ったことじゃないだろ。むしろ怪我だけで済んでんの感謝しなきゃな、と思ってるぞ』
『暗部一隊全滅したらしいもんな』
今度はごく小さくだが止められない舌打ちが漏れた。
目の前で大勢の仲間を失った、伸ばした手は届かず、目が覚めたのは病院だ。
感情で動いた。行くなという部隊長の命令に背いた結果、恐らく自分の隊も危険に晒した。
こんなみっともない帰還は人生初めてだ、さっさと忘れて欲しいのに。
『俺、暗部に身内いたら笑顔で見送れる気しねぇよ』
涙が止まらない。と続けた男の気持ちはわからない。
いつだってこれが最期なのだと覚悟して死と隣り合わせの戦場で生きている。
『だからさ、笑って見送れるイルカは強ぇなぁと思ったんだよ』
『・・・強くなんかねーぞ』
『いや強いだろ。お前こないだカカチ上忍見送るとき、ちょっとコンビニレベルだったじゃねぇか』
『そうか』
『覚えてねぇのか?「おう気をつけてな、腹出して寝るなよ」って、あれS級任務だとか衝撃だったぞ』
『あー』
『カカチ上忍も軽かったけどな「はいほー腹出し禁止・・・って、なんかえっろーい」って』
言われて思い出す。続けて『あ、中出しじゃないんだ』で叩かれた。
けれどカカチを見送るときのイルカはいつもそんな感じだ。見送られるカカチも。
アカデミーには行ってないからわからないけど、こんななのかな。と思ったりもする。
『・・・泣いた顔を最期の記憶にして欲しくねぇんだよ』
イルカの声に驚いて、思わずポチの背中に置いていた手をきつく握る。
『もし俺より先に逝くことがあっても、心配しなくていいんだって思って欲しい』
親不孝だと思っていた。天才だのなんだの言われたところで、一緒にいてあげることも出来ない。
そんな息子や恋人を持って、本心は嫌なんじゃないかと思ったりもした。
『愛されてることはわかってるし』
上忍のくせに馬鹿だな。そんな声が聞こえてくる気がする、上忍関係ないじゃない。と心の中で返して笑う。
そんなことを言えばきっと言うのだろう、そういう可愛くないところは俺に似たんだなって。
でもすぐに反論される。カカチの可愛いところは唯一の長所で、そここそイルカに似てござる。
待ってよ唯一の長所ってなに。俺、むしろ短所が無くて困ってるくらいなんだけど。
自信を持って言えば、両親が同時にため息をつく。オレに似たのでござろうか。いや俺の育て方が。
何故寸分たがわずイルカに似なかったのでござろう。冗談やめろ、お前に似てて心底感謝してんだからな。
ああ、そうだ。
隣のポチと目が合う。同じことを考えている顔だった。
一歳で引き離されて一緒にいられた時間は数えるほどしかない、けれど記憶が溢れている。
『愛せた俺は世界で一番幸せなんだからな、って』
笑って、泣いて、悩んで、喧嘩して、仲直りして、愛して、愛されて、
そしていつも想い合っている。
きみのしあわせを。
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