|
「なにそれ」
尊敬すべき先輩の第一声は結構な冷たさだった。
カカシの顔は半分以上が隠されているので、声くらいは優しくしてくれないとただの怖い人だ。
案の定、連れはヤマトの手を握ったまま背中の後ろに隠れてしまった。
「しばらく先輩に面倒を見て頂ければと思ったんですが・・・」
後ろに隠れてしまった連れがイヤイヤと首を振るのを見て、必要の無い罪悪感が込み上げる。
「あのねぇ。なんでオレがお前の隠し子の面倒見なきゃなんないのよ」
「隠し・・・違いますよ!」
「そんなもん見りゃわかるでしょーよ。お前そっくりの黒い目に・・・」
やれやれ、とヤマトの後ろに屈みこんだカカシがあれ。と呟く。
連れの方はと言うと、気配を漂わせずに目の前に現れた異形の忍にビビリまくって声すら出ない。
「イルカ先生の隠し子?」
「隠し子設定から離れて下さい。ご本人です、ほらイルカも」
「イルカ?」
顔がほとんど見えないのに、ムッとしたのがわかった。
「この状況でそんな些細なことも見逃さないのはさすがだと思いますが、ちょっと勘弁して下さい」
「なんでお前がイルカ先生のこと呼び捨てにすんの」
「カカシ先輩、ボクの話聞いてます?」
「聞いてるよ」
「だったらあだだだだだたっ!!」
ぽんっと置かれた手が、次第に力を込めて肩を粉砕しかける。
「わかりましたわかりましたっ!イルカ先生ですっ、先生!!」
「わかればいいの。オレより先に呼び捨てなんて百年早いよ、お前」
「・・・せんせぇじゃない」
「ん?」
涙目でカカシを見上げる小さなイルカが可愛らしくて、屈みこんで視線を合わせる。
「イルカ、せんせぇじゃない」
「・・・」
ヤマトのズボンをぎゅっと握り締める姿はどこからどうみたって幼児だ。
結い上げた髪も、鼻筋を横切る傷も、真っ黒な瞳も今朝見送った恋人でしかないというのに。
「ねぇ、イルカ先生どうしちゃったの」
「普通それから聞きますよね、イエイエなんでもありませんっ!!」
「術の後遺症?」
「はい。クナイに術式が組んであったようで、依頼人を庇ったイルカ先生が」
「せんせぇじゃないっ」
「ああ、すまない。そうだねイルカは先生じゃないよね」
「うん」
ホットミルクを両手で抱えて飲んでいたイルカが唐突に口を挟む。それに幼稚園の先生よろしくヤマトが対応した。
「・・・・どういうこと?」
「さっぱりです。ただあの通り子供ですから敬語で話したり先生と呼ぶと不安になるのかもしれません」
「や、お前がイルカ先生といきなり仲良くなってる理由」
「・・・そこですか先輩」
尊敬したことを後悔したくなるほど嫉妬丸出しのカカシにゲンナリする。
「おうちかえりたい」
「言っただろ。ここがイルカのお家なんだよ」
「ちがう」
カカシの目を気にしながらヤマトの袖を引く。それを見ていたカカシがバッと顔を逸らした。
顔は見えなくとも、その肩が小刻みに震えているのを見れば気持ちがわかる。
「先輩・・・大事な恋人が突然こんなことになってツライのはわかりますが」
「ヤバい」
「ええ。ただ五代目にも診てもらってますし」
「可愛い」
「は?」
「すっごい可愛いんだけど。なにあの駄々捏ねイルカ」
「は?」
そのカカシの言葉がヤマトの不憫ライフの幕開けだった。
|