心理学実験レポート 実験法Ⅱ「概念形成」

―プロトタイプ理論の検証―

 

2006年1月26日

 

 

 

1.目的

 人は,さまざまな外界の現象・情報を自己の内面に取り込もうとするとき,種々の事物に共通する本質的な特徴を抽象した概念(concept)を形成して理解することが,一般的に知られている。概念は,認識レベルでさまざまな範疇に分類されることで,ラベリングされた体系として存在しうるが,その範疇化(categorization)の過程でどのような処理が行なわれているのかについては,さまざまな学説が対立しているのが現状である。その中でも,今回はReed(1972)によるプロトタイプ理論(prototype theory)を,実験を通して検証することが目的である。

 

2.方法

 視覚パターンのカテゴリー学習試行の過程を観察し,学習によって形成されたカテゴリー表象を転移テストの回答の正誤や,被験者がそう回答した根拠などから検討する。

2-1.体制

 実験者,記録者,被験者の3人1組で行なう。実験毎に各役割を交代する。

2-2.材料

イ) 目の高さ(a),両目の間隔(b)口の高さ(c)がそれぞれ4段階で変化する顔図形の描かれたカード64枚を用いる。(※1)各カードの裏面には,図形番号と4種類の規則に従った場合のカテゴリー(AまたはB)が記されている。(※2)

※1顔図形の各属性(a),(b),(c)の変化の仕方は以下の通り。

(a)鼻の上端からの目の高さが0mm5mm10mm15mm.

(b)左右の目の中心間の間隔が 12mm18mm24mm30mm.

(c)あごからの口の高さが 5mm10mm15mm20mm.

※2カテゴリーを決定する4種類の規則は以下の通り。

カテゴリー

規則1

規則2

規則3

規則4

2,4,6,13,19,37,49

1,21,35,41,50,52,54,61

1,10,14,16,21,31,41,61

1,3,7,16,18,28,40,52

16,28,40,46,52,59,61,63

4,11,13,15,24,30,44,64

4,24,34,44,49,51,55,64

13,25,37,47,

49,58,62,64

図1は,規則3でのA,Bそれぞれのカテゴリーからの例。

1.左が1番(カテゴリーA),右が64番(カテゴリーB)

 

ロ) 実験者はあらかじめどの規則を採用するか決めておき,規則にしたがって64枚のカードから学習試行用のカード16枚(カテゴリーAに属するもの8枚+カテゴリーBに属するもの8枚)を抜き出す。なお,本実験では,規則3を適用した。

ハ) 残りの48枚のカードが転移テスト用となる。

 

2-3.手続き

ⅰ)学習試行

      実験者は,学習試行用カードをよく切り混ぜた後,顔図形を1枚ずつ被験者に提示して「顔の全体的イメージから判断して,カテゴリーAかカテゴリーBのどちらと思うか」と尋ねる。この際,実験者はカードの裏側だけを見るようにし,表側の顔図形は見ないようにする。

      被験者は,提示されたカードに描かれた顔図形がA,Bどちらのカテゴリーに属すると思うか口頭で答える。

      実験者は,規則に従った正しいカテゴリーを被験者に伝え,記録者は記録用紙に顔図形番号,正解のカテゴリー,被験者の反応を記録する。

      16枚の提示が終了したら30秒の休憩を入れる。その間に実験者は,同じ16枚のカードを切り混ぜておく。

      ①から④までの手続きを10回反復する。10回反復しても正反応がほとんど得られない場合は数回追加する。

 

ⅱ)転移テスト

      実験者は,転移テスト用のカード48枚をⅰ)学習試行と同じように被験者に提示する。

      被験者は,顔図形がAカテゴリー,Bカテゴリーのいずれに属すると思うかを解答用紙に記入する。記録者は,顔図形番号と正解のカテゴリーを記録用紙に記録する。この際,被験者に正しいカテゴリーは知らせない。

      48枚の提示を1回終えたところで実験を終了する。

     被験者はa)何に注目し,どのような方法を用いて学習したか,b)学習したカテゴリーの主観的特徴はどのようなものかを記録用紙に記入する。

 

3.結果

 まず,A,B各カテゴリーのプロトタイプを選出する。16枚の学習試行用の顔図形に対して属性値a,b,cの平均値を求める。その結果を以下の表1にまとめる。

 

表1:カテゴリー別の各属性の平均値

 

 カテゴリーA

 

 

 カテゴリーB

4.375

 

10.625

 

17.25

 

24.75

 

15.625

 

9.375

 

 

 

 

 

単位mm   

 

 

 

 

 

 

これらに最も近いものを64枚の中から選び出し,それらを各カテゴリーのプロトタイプとみなす。カテゴリーAは26番(a=5mm,b=18mm,c=15mm),カテゴリーBは39番(a=10mm,b=24mm,c=10mm)をそれぞれプロトタイプとした。

次に全てのカードのプロトタイプからの距離Lを求める。プロトタイプの属性値をそれぞれ,P,P,Pとしてプロトタイプからの距離を求めたい顔図形の属性値をそれぞれ,X,X,Xとすると,距離Lは次式で求められる。

 プロトタイプはカテゴリーAとカテゴリーBの2つがあるため,それぞれに対応して距離もL,Lが求められる。また,|L-L|を求めその値からプロトタイプからの距離が大きければ誤答も多くなるという仮説を検証する。

 

3-1.学習試行におけるLと誤反応数の関係

 学習試行におけるL,Lまた,|L-L|と誤反応数を表にまとめると,表2のようになる。

 

表2:学習試行におけるL,L,|L-L|と誤反応数

category

番号

|L-L

誤反応数

A

1

12.69

16.4

3.71

3

A

10

5

12.69

7.69

1

A

14

7.07

15.36

8.29

0

A

16

13.93

15.36

1.43

2

A

21

7.81

13

5.19

3

A

31

7.81

11.18

3.37

2

A

41

7.81

13

5.19

5

A

61

12.69

16.4

3.71

3

B

4

16.4

12.69

3.71

2

B

24

13

7.81

5.19

2

B

34

11.18

7.81

3.37

1

B

44

13

7.81

5.19

1

B

49

15.36

13.93

1.43

1

B

51

15.36

7.07

8.29

1

B

55

12.69

5

7.69

1

B

64

16.4

12.69

3.71

3

合計

 

188.2

188.2

77.16

31

 

まず,Lと誤反応数間においてピアソンの積率相関係数を求めたところr-0.029であり,無相関の検定を行なったところ,t-0.11<2.145(両側検定 α=.050,ν=14)であり,帰無仮説(Lと誤反応数間に相関はない)は棄却できない。よってLと誤反応数間に相関関係があるとはいえない。(図2-1参照)

次に,LBと誤反応数間での相関係数はr0.363(無相関の検定:t1.459>1.345両側検定 α=.200,ν=14)であった。(図2-2参照)また|L-L|と誤反応数間では,r-0.330(無相関の検定:t1386>1.345両側検定 α=.200,ν=14)となった。(図2-3参照)

 

 

以上から,LBと誤反応数の間にはやや弱い正の相関があり,これはプロトタイプからの距離が大きくなれば,誤反応数が大きくなったことを示している。これは,プロトタイプを中心とした範疇化による概念形成がなされるという仮説に沿った結果であると考えられる。

 また|L-L|と誤反応数間ではやや弱い負の相関が認められた。|L-L|が大きいということは,そのカードに描かれている顔図形がよりカテゴリーAまたはBのプロトタイプに近い属性を持っているということであり,|L-L|が小さいということは,両カテゴリーのプロトタイプから遠いことを表わす。すなわち,|L-L|と誤反応数の間に負の相関があるということは,|L-L|の値が大きくなればなるほど誤反応数の頻度が低くなるということを表わしている。逆に,|L-L|の値が小さいほど,誤反応数が多くなっているともいえる。これは,プロトタイプに近い顔図形のほうが正しく分類できているということであり,プロトタイプ仮説を支持するものである。

 参考までに,この被験者が10回の試行を行なう中で,誤反応数が回数を重ねるごとに減少していることを図3に示す。プロトタイプがこの被験者の中で形成されたとするならば,およそ7回目の試行の前後で完成され,7回目以降では完全に正しく分類できたものと推察できる。

 

 

 

 

3-2.転移テストの結果とカテゴリー形成

 転移テストの結果,48枚を提示したうち43枚が規則に則った正しいカテゴリー分類ができていた。誤った分類をしたのは5例で,いずれも|L-L|の値が比較的小さいことが表から読み取れる。(表3参照)

 

表3:転移テストの結果

category

number

La

Lb

|La-Lb|

正誤

A

2

11.18

12.69

1.51

×

 

27

6

7.07

1.07

×

 

53

12.69

13

0.31

×

B

12

13

12.69

0.31

×

 

23

7.81

5

2.81

×

転移テスト全体の平均値

10.45

10.447

4.16

 

 

 また,転移テストのカードを顔図形のプロトタイプからの距離によって4つの群に分類し,その中で誤反応があった数をLALB,|L-L|ごとに表にまとめると表4-14-24-3のようになる。

 

4-1.転移テスト用図形のLAの大きさごとの正反応数

 

短い群

やや短い群

やや長い群

長い群

正反応数

10

12

10

11

43

誤反応数

2

0

2

1

5

総数

12

12

12

12

48

 

4-2.転移テスト用図形のLBの大きさごとの正反応数

 

短い群

やや短い群

やや長い群

長い群

正反応数

10

12

10

11

43

誤反応数

2

0

2

1

5

総数

12

12

12

12

48

 

 

4-3.転移テスト用図形の|L-L|の大きさごとの正反応数

 

短い群

やや短い群

やや長い群

長い群

正反応数

8

11

12

12

43

誤反応数

4

1

0

0

5

総数

12

12

12

12

48

 

 これらの値についてχ検定を行なう。表4-14-2は偶然同じ値なので同様の計算をしたこととする。

ν=4-1=3,よってχ=2.456>2.37より,5%水準で帰無仮説を棄却。

また,

ν=3,χ|LA-LB|=9.6>9.35より,2.5%水準で帰無仮説を棄却できる。

 表4-14-2から,プロトタイプとの距離が短い群からも多少誤反応は出ているが,半分以上がやや長い群,長い群からであることが言える。また,表4-3からは|L-L|の値が小さいほど誤反応が多いことが分かる。これは,3-1で述べたのと同様に,プロトタイプからの隔たりが大きいものは誤反応しやすいということであり,プロトタイプによって顔図形を範疇化している可能性が高いことを示すものである。

 また,それぞれのカテゴリーのプロトタイプであるカテゴリーA26番とカテゴリーB39番は,いずれも正しい分類がなされていた。このことも,プロトタイプ仮説を支持する結果である。

 実験を終えた被験者によるカテゴリーの表象に対する記述では,「Q1.何に注目し,どのような方法を用いて学習したか?」という問いに対して,「目の間隔と目と口の距離」であると答えている。また,「Q2.学習したカテゴリーの主観的特徴はどのようなものか」には「顔が集中しているか拡散しているか」と回答している。これらの記述は,直接プロトタイプ仮説を支持するものではないものの,顔図形の属性に着目して分類が行なわれたことを示すものである。具体的には,「目の間隔」(b)や「目と口の距離」(a)が挙げられる。また,「顔が集中しているか拡散しているか」はそれぞれの属性の差の総和を表現しているととれる。ここで,カテゴリーAは26番(a=5mm,b=18mm,c=15mm),カテゴリーBは39番(a=10mm,b=24mm,c=10mm)をそれぞれプロトタイプとしていたことから考えると,26番に比べて39番のほうが総合的に各属性の値が大きいと言える。すなわち,この,「顔が集中しているか拡散しているか」という被験者の言説がプロトタイプを概念化し,それによって顔図形の分類を行なっていた可能性を示唆するものであると考えることができる。

 

4.討論

 今回の実験結果は,Reed(1972)の提唱したプロトタイプ理論をかなりの割合で支持する結果だといえる。しかし,3-1でプロトタイプと各顔図形との距離Lと誤反応数が,必ずしも有意な関係性にあるとは言えず,今回の仮説では積率相関係数がうまく出なかったことを説明することはできない。実験中の不備などの他の要因がある可能性も否めないので追試験を行なう必要性が残されている。

 今後は視覚的なカテゴリー分類のみならず,聴覚,触覚,嗅覚,味覚などについても同じプロトタイプ仮説が通用するのかなど,実験的に調べられれば,人がどのようにして世界を認識しているかを理解する一端緒となると思われる。

 

***参考文献***

『実験手引き書1・2』(馬場久志,2005)

Does Response Scaling Cause the Generalized Context Model to Mimic a Prototype Model?』(Daniel J. Navarro, Jay I. Myung and Mark A. Pitt,2004

http://quantrm2.psy.ohio-state.edu/injae/prt_gcmg.pdf

『広辞苑 第5版』(岩波書店)

Wikipedia 日本版 米国版

『心理学のための実験マニュアル』(利島保,生和秀敏/編著 北大路書房)