下着の健康学

The Health-Examination of The Underwears

 

 

 

2005/07/29

 

 

 

 

 

 

 

 

 

解題

 衣食住は人間が生きるために必要な3大要素である。これらはどれもが健康に生きるために欠かすべからざるものであり、学問として「健康」を考えるときに切っても切り離せない重要なテーマとなるのは自明であろう。

 本論ではその3大要素の中から特に衣類、それも皮膚に直接密着し、その目的によって様々な意味を持ちうる「下着(underwear)」について考察するものである。

 

本論

1.下着の起源

 下着の歴史は古く、石器時代にまでさかのぼることができる。フランスのロセール洞窟で発見された板石浮彫の男子立像には、腰紐のようなものがしめられていた。この発見により、人間が衣服をまとったのは約4万年前とする説が一般的である。その後、古代エジプトにおいて織物技術が発明され、王が着ていたカラシリスという半透明な腰衣が本格的な下着の発祥である。この腰衣が変化していき、この時代の後期には、ローブ(robe)形式やペプロス(pep-los)形式のものがもてはやされるようになった。そして、バストラインを強調するため、ローブの胸部を美しいベルトで締める風習が生まれ、これは現代のブラジャーの起源と考えられる。

 日本での下着の起源は所謂、ふんどし(褌)に遡ることができる。ふんどしの伝来については大陸伝来説と南方伝来説の2説がある。NHKスペシャルの「日本人はるかなる旅」を見れば日本人が北方系、大陸系、南方系アジア人の混血民族であることが分かるが、フランスでの例も考えると、やはりかなり古くから持ち込まれていたであろうと推測される。しかし、日本ではふんどしはもっぱら男性のみが身につけるもので、明治以降西洋の衣服が入ってきてもしばらく女性は下着をつけていなかった。女性が下着をつけるようになるのは1932年の白木屋火災事件がきっかけであるといわれている。白木屋とは当時の百貨店の名前である。このとき、スカートをはいた女性が下着を着けていないがために、避難のために外に用意されたマットに飛び降りることができずに煙のために命を落とした。これを重く見た当時の政府が女性に下着をつけるよう呼びかけたのが始まりである。

 

2.現代の下着に対する考察

 確かに、下着の発祥は局部を守り、体温を保護することであっただろうと考えられる。しかし、現代において下着は高度に洗練され、そのデザイン性や体をいかに美しく見せるかという点において注目されるようになってきた。本項では現代において実際に使用されている下着の実例を挙げながらその機能性と健康学的側面からも考察を付したいとおもう。

 

最近では下着の上に着る服(アウター:outer-wear)のことを考えて設計されている下着が多い。下着を取り扱った雑誌などの宣伝文句には「アウターの邪魔をしない、バックスタイルが主役になる・・・」などと書かれている。(図1参照)

       

1 背中を見せるスタイル

 

 こういった背中を見せるスタイルからはこれまでの、女性は肌をあまり露出しないという保守的・封建的な価値観からファッションとして素肌を見せることが肯定的に捉えなおされていることが考えられる。また、図1右のように背中に複雑に紐がかかるスタイルからは肌と下着が演出する幾何学的文様が行く人の目を留めるであろう。

 さらに直裁的に下着の美しさを追及したのが図2に示されるような下着である。

図2 下着の美しさを追求したもの

 

このような派手な柄をした下着はやはり、ただの肌着としての下着というだけではなく、元来表面的に見えない部分であるにもかかわらず、デザインを凝るということが重要な要素となっていることを如実に示していると考えられる。

 

   

図3 下着を見せるスタイル

 

 これは最近流行りだしたスタイルであると考えられるが、下着をあえて見せることをおしゃれとする向きもある。これを「見せパン」(見せるパンツの意)などと呼ぶそうである。通常のショーツよりも腰にでる部分が長く、ズボンの上にまでかかるようになっている。その「見える」ところにはリボンを飾ったり、デザインを凝らすなど人目を引くように設計されている。

 次に挙げるのは胸を大きく見せるために脇や背中のほうから肉を持ってくるタイプのブラジャーである。(図4参照)

図4 脇肉を胸に持ってくるタイプの下着

 

 このタイプのブラジャーは平成期初頭から所謂「寄せて上げるブラ」とか「天使のブラ」として世の中をにぎわすようになり、胸を大きく見せるための一番簡単な策として手軽に用いられている下着である。このタイプのブラジャーは脇の肉や背中の肉を胸に持ってくることで、胸が大きく見えるような張力が脇や背中にかかる仕組みをしている。したがって、普段ありえないような不自然な位置に脇や背中の肉が移動することになるため、体への負担は少なからずあるはずである。このタイプのブラジャーをつけて障害を負ったという記録は未調査であるが、可能性としてないとは言い切れない。そういった健康上の不安があるのは次の例も同様である。(図5参照)

 

      

図5 体を「矯正」するタイプの下着

 

 図5左は所謂コルセット(corset)と同じ発想で腹部のくびれを強制的に作るものである。それの全身タイプが中央に示したものである。こちらは腹部に取り付けられた紐でくびれを作り、臀部を持ち上げるような構造をとっている。右に示したものは一見普通のショーツであるが、生地に張力を与えることで下腹部のたるみを矯正したり、腹部を圧迫することでくびれを作るものである。

 これらの下着は中年層の女性に人気があり、丁度体形の崩れが気になってきた世代をターゲットにした商品である。今こういった商品は通信販売などで幅を利かせてきているようである。

 しかし、健康面から考えると、こういった商品は非常に良くないものである。年齢とともに体形がくずれてくるのはある意味しかたがないことであり、また、運動不足などが重なった場合、そのたるみは本来スポーツによって引き締めるべきものである。それを外的な物理的圧力によって締め上げるのは単純に考えても健康上よくなさそうである。実際、コルセットをつけたときに便秘になりやすいということも、奈良女子大学の登倉尋実教授(被服生理学)らの実験結果から明らかになっている。(※)便秘は美容の大敵であるだけでなく、大腸がんや種種の生活習慣病の原因となりうる。便秘をすることでなかなか痩せない。だからまたこういった下着に走る・・・というような悪循環が想像できる。

 体を一時的にきれいに見せようとしても、それは一見非常に簡単な手段ではあるが決して健康にとってよいものではないことを自覚するべきである。自分の体は自分が一番良く分かった気になっていても、実は内面から脳には届かぬ悲鳴を上げていることがあるのである。それに、こういった道具を使って一見きれいな体を体現したとしても、それは道具をつけているときだけの一時の幻想に過ぎない。

バランスの良い体形を身につけたいのであれば、やはりスポーツやトレーニングをして地道に獲得していくより他はない。

 

結論

 下着は他の衣類と同じで本来的には自分の体を守るという非常に基本的な道具であった。それは人類の長い歴史の上で欠かすことのできない役割を演じながら、現代に至ってはファッション性が多分に重要視されるようになった。しかし、自分の体を美しく見せようとするがあまり、本来自分のみを守るべき下着は人間の健康をも脅かす側面まで登場している。ここでの考察を通して、やはり、下着は下着たるべきであり、体を守ることが基本的性質として保証されているべきであると痛感した。結局、自分の健康を害するような下着を作り、着ているのは人間自身なのである。

 ここで紹介した下着を身につけているモデルはいずれも素晴らしいプロポーションをしている。しかし、それは下着が素晴らしいからではなく、下着を素晴らしく見せるために彼女たちが日夜体を動かしトレーニングした成果であることを忘れるわけにはいかない。バランスの良い体形を得るためにはやはりスポーツで体を動かし、トレーニングで鍛えるしかないのである。美しい下着は美しい体にこそ映えるのである。これは下着に関わらずファッション性を求める女性の衣類全般にも言えることかもしれない。「寄せて上げて」胸を作り男をだますのではなく、もっと違う努力をしたほうが誠実である。もちろん、このことは男性についても十分当てはまることである。表象的な付加価値をつけることに努力するのではなく、自己の内面からの成長に向けて努力する。そういう健全な努力が求められるのである。健康な魂は健康な体に宿るのである。

 

() SoneYKato, N, Kojima, Y, Takasu, N and Tokura, H. (2000) Effects of skin pressure by clothing on digestion and orocecal transit time of food.J. Physiol. Anthropol., 19: 157-163

註:写真はNissen 05年9月20日号より転載