俳優と呼べ!!
  ワールドカップまっ最中の6月、ジーコからの声はなかったが別のところから声が掛かった。
それは県・広報室。群馬県の産業や観光などを広く世に紹介するテレビ番組を作っているのだそうだ。
そこで全国で唯一のウクレレ量産メーカー「三ツ葉楽器」を取り上げるとともにウクレレ教室の活動
なども紹介する。
 そんな話だったのが、いつのまにかこの俺がタレントの代わりにミニ・ドラマに出演することに
なってしまった。それも片岡鶴太郎氏演ずるところの片野岡教授行きつけのバーのマスター役で、
まったくの二人きりの芝居にどうなることやら・・・。
 とにかく、これから俺の肩書きには「俳優」と付くようになった。

台本が届いた。
おお、結構せりふがあるではないか。
しかし読んでいくうちにオヤッと思うことがふたつ、みっつ。
まだこの台本作家は古いウクレレのイメージしかないのだろうな、と思った。

“バーのカウンターでアロハ姿でハワイアンを弾くマスター”とある。 
なに、アロハ?ハワイアン?
ウクレレ=ハワイアン、いい加減にこの組み合わせはやめて欲しい。
今ウクレレが注目されているのはハワイアンがブームということだけはなく、
音色と共に立派な楽器として認知されたからなのだ。
ジェイクしかり、オータサンしかり、みんなジャズやポップスも弾いている。
というより俺はそんなにハワイアンは弾けないのだ!
まあ、しかし数秒のことなので何曲か用意していくことにした。
衣装は向こうが用意してくれるらしい。
ウクレレはカラフルなブルーを三ツ葉楽器から借りてきた。

店に入ってきた教授に気づき、「ああ、どうも。いらっしゃい!」
初せりふである。これは重要だ。
一目で「こいつはシロートだな。」などと視聴者に思われてはいけない。
吟味すると、「ああ、どうも」はウクレレに夢中になり突然の教授の登場に少々慌てて、
また変なところを見られてしまったというテレがあり、「いらっしゃい!」ではきっぱりと
マスターの顔に戻る。この心の動きをさりげなく表せてこそ役者である。
イチローは大勢が決まった昨シーズン後半、守備に着きながら口元をグラブで隠して
「フルハタさん、・・・」と練習したそうである。それに倣って俺も「どうも、いらっしゃい」
と何度も言いながら毎朝のジョギングをした。
顔をしかめたり、真顔になったり、すれ違った人々はきっと気持ち悪かっただろう。

アロハ姿をほめられて・・・「夏だし、こんな格好もいいでしょう」
こんなせりふの時にはやはりちとシャツの両肩あたりをつまんだり、
両手を広げて見せたりするのだろう。
台本にはそのへんが何も書かれていない。これは俺に任せるということなのか。
それともどーせシロートに言ったってショーガナイと思っているのだろうか。
アロハは県庁職員の持つウクレレ柄が用意されることになったのだが・・・。

“マスターの演奏する懐かしい曲に体をゆだねる教授”
ツルちゃんの懐かしい曲なのだからマッチの曲にしようと言ったが却下された。
だから俺はハワイアンはあまり知らないんだっつーの。
それも10秒でそれらしい曲なんて・・・。
「森の小径」?「小さな竹の橋」?それってみんな和製ハワイアンじゃん。
それだったらジャズでもロックでもウクレレが楽しそうに聞こえる曲の方が良いんじゃないの。

教授にウクレレを手渡し、つま弾かせて「センスいいですね」と言う。
そんなこと言うの。
いきなり手渡されて弾けたらセンスいいどころじゃないでしょう。
不自然なのでここは断固変えて欲しい。ドン!(机をたたく音)

「近くのウクレレ教室を紹介しましょうか。」
近くのじゃなく「朝倉町集会室の」に変えちゃおうかな。
ドキュメント部門で紹介されるのはNHKと六さんのウクレレ教室。
俺のところは2回も取材しながら使ってくれないのかよ。

多くの疑問を抱えるなか、あわただしく撮影日程が決まった。
そして当日、現場の県庁へ車を走らせた。
口の中でせりふをブツブツとつぶやきながら・・・  



撮影