
第3章 これまでの農業の見方・「無機栄養説」 現在の農業は、「無機栄養説」に立脚し、NPKの化学肥料を中心とした無機養分の適正な施肥によって営まれています。 食糧の生産量を高めるために膨大な科学的な検証の結果、太古の時代から続く今の陸上植物の繁茂は「無機栄養説」が支配していることが確認されています。 一切の有機物を排除した無機的環境で植物が正常に生育することは簡単に確認されました。 更に、土壌に存在している膨大な種類の無機・有機の物質の植物に対する影響を具に調査・研究し、有機物は吸収されていても、植物の生育に影響を及ぼしていないことが確認されています。 「無機栄養説」は地球生態系の実態を正しく表現しています。そのことは、植物は光と無機栄養とを用いて成長し、有機物を生み出しているけれど、周囲に大量に存在する有機物を自己の成長に活用していないことになります。 それに対して、このホームページでは「植物が有機物を吸収する=有機物のリサイクル」という現象を活用して、耕地の生産性を飛躍的に高める新しい見方を提案します。 これは、今日の農業の基本的な考え方と異なります。今日の「無機栄養説」に立脚した農業を構築する際に悉く否定され続けたのが「有機栄養説」です。積年の科学的な検証によって、否定され続けた「有機栄養説」を利用して植物・作物を旺盛に繁茂させる、とするこのホームページの主旨は、現在の常識からすれば有り得ない話です。 しかし、「有機物が作物の栽培に活用できる」のであれば、膨大なバイオマス資源が俄然有益な資源としてクローズアップされます。 ここでは、かなり原点に立ち返って、農業の見方、植物の成長の見方がどのようなものであったかを概観します。 このホームページで提案する「有機物のリサイクル」は、従来の常識・無機栄養説とは真っ向から対立します。 このホームページで提案する「有機物のリサイクル」は、従来の有機農業・有機栄養説とは全く違います。
1.NPK肥料が出現する前の農業 どのような時代であっても、食糧を生産する生業(農業)は重要であり、常に、耕地の生産性向上を目指して努力がなされていました。 しかし、現代科学が生まれる前の時代は、どのような栽培手法が良い結果をもたらすか、科学的な検討はできません。精々、近隣の栽培の様子を見て、沢山収穫している耕作者の所作を模範にして改善を図っていたものと思われます。また、時折到来する冷害や日照りのような気象変動で収穫が少なく、餓死もしくは一家離散するような耕作者の所作を他山の石として、栽培技術が高められていたものと思われます。 また、古い時代にあっては、さまざまな情報が広域に伝搬されることは稀で、いろいろな考え方、体験に基づいて多種多様な栽培がおこなわれていたものと推測されます。
2.農業の科学的な検討はリービッヒから 農業に科学的な見方を取り入れたのは、化学が進歩してからです。化学分析が発達するまでは、科学的に思考する術がありません。 化学分析によって農業を概観したのがドイツの化学者リービッヒです。作物を構成する元素を調べ、土壌を構成する元素を調べ、そして、作物が成長する時に土壌から所定の元素を収奪していることを科学的に検証し、現代農業の基盤が構築されました。 作物の収穫は、耕地の養分を奪うことになるので、農業を続けるには取り出された養分を補わなければならないことがハッキリと示されました。 そして、肥料には、収穫によって収奪した元素が的確に含まれていなければならず、闇雲に、手当たり次第、手近なものをぶっかけるのはもってのほか、と警鐘を鳴らしました。 リービッヒは、作物に含まれる元素を調べ、NPKの3つの元素の割合が高いことから、NPKの3元素を恒常的に肥料によって補う必要があることを唱えました。 更に、リービッヒは作物の成長と土壌の成分を調べる過程で、植物の成長が無機養分によって促進されていることを確かめ、「無機栄養説」という見方に立脚した栽培を提唱しました。 一切の有機物を取り除いた無機的環境で植物を栽培すると、植物は正常に生育します。従って、植物の成長に有機物を全く必要としないことは簡単に検証できます。 しかし、有機物が存在することで、より旺盛に成長する可能性も否定できず、その後、世界中で無機・有機を問わず、膨大な量の化合物の影響が調査・研究されました。 その結果、有機物は微量吸収されていても、成長を促進することはなく、「無機栄養説」と言う解釈が実情に即していることが科学的に検証され、今日の農業でも「無機栄養説」に立脚しています。 そして、リービッヒは、植物の成長が、成長に必須なさまざまな要素の中で、一番少ない要素によって成長の上限が規制されているとする「リービッヒの最少律」を唱えました。この最少律の考え方は、農業ばかりでなく幅広い事柄で同様のことが生じていることが知られています。 リービッヒの最少律を、「必須元素」だけに拘った見方と言うように矮小化して評価している見方もあります。 しかし、この考え方は「必須元素」ばかりではなく、現実に成長の上限を規制している「何か」が判った時には、必須元素に拘らず、的確にその制限要因の手当に努めなければならないとするものです。 従って、リービッヒの最少律は、当時の水準としては「必須元素」に拘った表現になっていますが、光・温度・湿度・風・CO2濃度・O2濃度等というように時代の変遷とともに他の要因が加わっても、全く同じ見方が適用できることは言うまでもありません。 新たな制限要因が影響しているのが判れば、それは、「リービッヒの最少律」に従って、適切な手当をすることで収量を高めることができます。 リービッヒと、その後、空気中の窒素からアンモニアを合成したハーバーとの二人のドイツ人化学者によって、農業の体系の殆んどを構築してしまった観があります。
3.「無機栄養説」と「有機栄養説」 リービッヒは、土壌および植物に含まれる元素を定性分析と定量分析で調査し、「無機養分」が植物の成長に大きく寄与していることから「無機栄養説」を提唱しました。更に、養液栽培のように有機物を一切排除した環境で栽培できる手法が編み出されて、完全な無機条件の下で植物が正常に生育することから、リービッヒの唱えた「無機栄養説」が自然の一つの側面を正しく表現していることが確認されました。 しかし、植物が無機成分と光だけで成長するとしても、「有機栄養説」を否定するものではありません。有機物によって、植物がより旺盛に成長することも考えられます。無機的環境で植物が生育することを科学的に検証しても、「有機栄養説」を否定することはできません。 何より、農業はより多くの食糧を安定的に生産するための正業です。そのために有益なものであれば、無機物・有機化合物に拘らず、何でも活用するのは当然です。このため、植物が無機的環境だけで生育することが科学的に検証された後であっても、無機・有機に拘らず、幅広い物質について調査・研究がおこなわれています。取り分け、有機化合物については、時代の推移と共に知識が集積され、種類の多さも理解され、そして、分析方法も進歩しました。 今から約1世紀前、Schreiner等は、養液栽培の手法を用いて、グリシンとメチルグリシンが植物の生育に与える影響を調査しています(第20章参考文献6))。これは、NPKについて0〜80ppmの範囲を8ppmg毎の濃度に調製した培養液に50ppmのグリシン(最も簡単な構造のアミノ酸)を添加したものと、グリシンの誘導体であるメチルグリシンを添加して50ppmとしたものの植物の生育を調査しています。培養液は3日毎に新しいものに取り換えられ、植物の生育を調べています。 これは、アメリカのシカゴ大学の研究室で行われ、そして、アメリカの農務省が公表した文献です。そして、Schreinerの研究室では、土壌に存在する有機化合物を中心に有機化合物が植物の生育に与える影響を随時調査しています。 肥料における「無機栄養説」「有機栄養説」の見方は、1世紀を経た今日でもさまざまなレベルで論じられています。しかし、およそ1世紀も前の時点で、土壌を化学的に分析して、そこに含まれているさまざまな無機物・有機化合物を同定し、そして、それらの化学種が植物にどのような影響を与えているかを丹念に調べています。それは、今日のさまざまなレベルで飛び交う「無機栄養説」「有機栄養説」「自然農法」「有機農法」「オーガニック」等のような話題を支える科学的な基盤よりも、遥かに科学的に高度なものと感じられます。 なお、Schreiner等の当時の認識では、植物は普遍的に有機物を吸収しているが、その量は少なく、吸収しても生育に障害を及ぼすこともあり、顕著に生育を促進する効果は認められていない、とあります。 Schreiner等ばかりでなく、各地で無機物・有機化合物の植物の成長に与える影響が調査され、そのような科学的な調査の集積に基づいて、今日の「無機栄養説」が成立っています。従って、土壌の有機化合物は、普遍的に植物に吸収されてはいても、格別顕著な効果をもたらしていないことが科学的に裏付けられているといえます。
4.植物が吸収する有機化合物 植物が有機化合物を吸収していることは、一般的には腐生植物や食虫植物を例にして知られています。しかし、積年の科学的な調査では、普通の植物でも、多様な物質を吸収する能力が備わっていると理解されています。腐生植物や食虫植物だけに見られる現象ではありません。 植物は、COHNPK…Mo,Ni等の17元素を必須元素とし、種類によっては他の元素も必須元素とする植物があります。しかし、植物は、必要か不必要かで吸収する物質を区別することはなく、細胞膜を透過する物質は分け隔てなく吸収しています。 放射能汚染に際して、セシウムCsやストロンチウムSrが取り上げられたり、有毒物質としてカドミウムCdが取り上げられることがありますが、これらの元素は植物の生育には不要な元素です。植物は、除草剤のように吸収すると枯死してしまう物質も吸収します。このように、植物にとっては迷惑な物質であっても植物は吸収してしまいます。 植物の細胞膜を透過する有機物については、高橋英一が次のように記しています(第20章参考文献7))。 @ 植物の細胞膜はリン脂質の2重層でできている。 A 細胞膜は、水を自由に透過する。 B 細胞膜を透過する物質は、水に溶けていなければならない。 C (有機化合物は)ちいさな分子でなければ細胞膜を透過できない。 D 電荷を帯びていると細胞膜の透過は困難になる。 E 細胞間の移動は、分子量800以下であれば移動できる。 F 植物が必要とする物質の中には、能動的にエネルギーを消費してまで取り込む仕組みになっているものがある。 植物が吸収する有機化合物について上記のような制限があるとすれば、普通の自然環境において、植物に吸収される有機化合物が多量に存在する状況はほとんどありません。 水に溶ける有機化合物であれば、雨によって地下に浸透したり、地表水として流れ去ったりして、所定の位置に長くとどまることができません。何よりも、土壌の微生物・カビのような分解者によって速やかに分解されて、炭酸ガスと水になります。 日々、植物の成長によって生成する有機物は、動物の餌になり、多種多様な有機化合物となります。しかし、この多種多様な有機化合物は、やがて、酸化・分解して無機物になります。 この分解過程において小さな有機化合物を生成し、その中には「水に溶け、電荷を持たず、細胞膜を透過しやすい有機化合物の形態」を一時的に経由することがあっても、自然の環境や通常の耕地で、そのような有機化合物が高濃度に集積することは考えにくいことです。 高橋英一が例示している「エタノール」という有機化合物でみれば、耕地に高濃度に滞留していることはほとんど考えられないことです。また、作物に有機物を与えるために「エタノールを大量に耕地に施肥する」というような勿体ない事態も考えにくいことです。このため、植物が有機物を吸収している現象を確認していても、依然として、「無機栄養説」が植物の成長を支配していると考えることが実情に即していると誰もが考えています。
5.西暦2000年代の見方(第20章参考文献8)) 小野信一は、リービッヒから今日までの無機栄養説の推移を簡潔にまとめています。 今日、「有機農業」「オーガニック」などと喧伝されている栽培であっても、作物が土壌の物質を吸収する過程は「無機化されたもの」となっており、その意味では「無機栄養説」に支配されているとしています。 ただ、有機資材の施肥によって、耕地の土質がフカフカになり、知力が増進される現象は、無機肥料では得られない効果としています。 無機肥料と有機資材とは其々に利害得失があり、両者を巧みに組み合わせて栽培を進めるのが望ましい、と指摘しています。 リービッヒやSchreinerの時代に比べ、今日では、1世紀以上も経過しており、化学的な分析手法も格段に進歩し、膨大な種類の化合物を簡単に分析できる時代になっています。しかし、いくら詳しい分析を重ねても、植物が有機物を吸収しても格別顕著な成長をしないという性質が変化することはなく、「有機栄養説」に拘った調査をしても意味はありません。科学的な解析手段の長足の進歩を加味しても、尚、今日でも農業における「無機栄養説」は揺るぎがないことが、小野信一の記載から窺えます。
6.市井の一般的な理解 山根一郎は、「土と肥料」に関して、簡潔に解説した書籍を上梓し、日本では、この著作は市井の多くの人や農業を志す若者などに広く知られています(第20章参考文献9))。  
その第1頁の「図1−1 作物の生育と環境」は、上図のように示されており、植物が土壌の無機養分を吸収して成長する見方が示されています(赤いアンダーラインは、当ホームページの管理者が記しました)。 この書籍は市井向けですが、同様のものは農業高校向けの教科書として編集されています。即ち、義務教育課程を終えて生業として農業を志す若者が最初に目にする農業の専門書の第1頁の図と言えます。そうであれば、義務教育過程においてこの図の記載が理解できる学力が養われているといえます。 植物が土壌から「無機養分」を吸収して育つという見方は、ほぼ誰もが認識している作物の成長の姿と言えます。 なお、上図の右の図は、ネット上にある中学1年生程度の「理科」の学習のための説明図(リカちゃんの理科教室)であり、概ね、「図1−1」と類似しています。ただ、「図1−1」では、二酸化炭素、炭水化物、酸素というように高度な専門用語が用いられています。一般的な市井の植物・作物に対する普通の認識を示すものとして引用しました。
7.このホームページとの関連 このホームページは、「植物が有機物を吸収する」現象を利用して、植物を旺盛に繁茂させようとするものです。この考え方は、1800年代にリービッヒが提唱してから今日まで広く認識されている「無機栄養説」に反します。 リービッヒが農業に取り組んでから今日まで、農業の生産性を向上させるために科学的な思考が取り入れられてきました。その過程の全ての科学的な調査・研究において、植物の成長に大きく寄与しているものは必須の無機養分であり、有機物は吸収されていても微量であり、生育に格別良い影響を及ぼすことは確認されていません。このため、地球の陸上に繁茂する植物の有機物が、他の植物の繁茂にほとんど貢献していないことが確認されています。植物が有機物を吸収する事例は腐生植物や食虫植物ばかりではなく、普遍的に独立栄養植物であっても有機物を吸収します。しかし、そのことが有機物を吸収した植物の成長を大いに促進していることは確認されていません。 生態系において、植物の成長は重要な基盤となっています。しかし、その植物の成長に、周辺に大量に存在する有機物を活用していない、というのが地球の生態系の姿です。植物は無機物から有機物を生成しています。しかし、有機物をその生成活動に活用していないことは憂うべき現実です。 農業や植物の分野を離れ、普通の社会活動で見れば「リサイクル」は一般的なことです。しかし、植物・作物の領域では「有機物のリサイクル」は活用されていません。無機養分が循環して利用されているだけです。有機物であるCOHの有機3元素を有機物として植物に付加して活用する栽培思想はありません。 このホームページで提案する「植物が有機物を吸収する」現象を活用して、植物に有機物を吸収させ、そして、植物の成長を促進する見方は従来にはない考え方であると共に、これまでの科学的な検証では確認されていないことです。 ネット上にある「リサイクルのウキペディア」によれば、リサイクルの対象には金属、紙、ガラス、繊維等があるけれど、堆肥や腐植の圃場利用はリサイクルに含めない、としています(第20章参考文献10))。 しかし、このホームページでは「植物が有機物を吸収する」と言う現象を「有機物のリサイクル」としています。 即ち、このホームページで提案する事柄は、一般的には否定されていることです。 一般常識からして否定されている事柄が、見直される場合に、ブレイクスルーが生じます。今まで「有り得ない」こととして、思考回路を断ち切られていたものが、一気に怒涛の如く噴き出して、社会を変革します。 「無機栄養説」の下で朽ち果てるしかなかった膨大な有機物が、ある種の有機金属(炭素肥料)とすることで、朽果てることなく作物に付加され、あらゆる耕地の生産性を飛躍的に高めます。 
今、最大の飛躍の最中にあるのかもしれません。全元素施肥は、ある意味、最後の完成された施肥の形態です。 |