第10章 栽培と食味 この第10章では、栽培によって食味の異なる作物を生み出すことについて検討します。 食べ物の美味しさは、客観的な判定手段がありません。従って、この章は、あくまでもこのホームページの主観的なものの見方を記しただけのものであることを予めお断りします。 食べ物の食味や美味しさの判断は、あくまでも一人ひとりに固有な主観的な判断に委ねられます。 同じ栽培形態で単収を10倍に高めることは大変な困難が伴います。しかし、コメという最も普遍的で、一番沢山食べられている作物であっても、国際価格が1s50〜60円であるのに対して、日本の国産米の美味しい銘柄はその20倍の値段でも圧倒的な品薄状態です。どちらも露地栽培による農産品です。 食の経済は、圧倒的に「美味しさ」という主観が支配しています。作物の栽培で、「収穫量」という客観的な指標が重要視されるのは、家畜飼料のように美味しさに無関係な「動物の餌」としての栽培が中心となります。人間が関与する領域では、生産過剰の状態であれば、圧倒的に主観的な見方が支配しています。 この「美味しさ」についていえば、ペットの犬や猫に搾乳しただけで加工していない高価な牛乳を飲ませると、以後、普通に販売されている安価な牛乳を与えても不機嫌で飲まない、という行動に出ることがあります。野生の猿やカラスは、美味しく熟した作物を選んで食べ、不味い作物には食害を与えないとされています。ものの美味しさには、人間ばかりでなく、犬や猫、野生動物でも何やら嗜好があるようです。 JP1359005号に示された家畜糞尿を生石灰CaOで分解処理した生成物を利用した栽培では、収量が増大すると同時に食味が向上していることが指摘されています。しかし、食味の向上を客観的に評価する手法がありません。糖度を計測したり、実際に食べたりして経済的な価値(売価)が決められているようです。味覚センサーが開発されても、何が最も美味しいのかを客観的に指示すことはできていません。
1.栽培の生産価値の一つの見方 当ホームページでは、家畜糞尿や植物残渣を生石灰CaOで分解処理した生成物を用いた栽培から見えるいろいろな現象を多角的に検討しています。NPK化学肥料は通常通り施肥し、そして、この生石灰処理生成物を土壌改良資材として用いた時、収量が激しく増え、そして、美味しくなるとされる現象を検討します。 
この図は、横軸に単収Yを示しており、慣行栽培の単収を「1」とし、当ホームページが参考にしている栽培を便宜上「2」として表示しています。これはJP1359005号の実施例で1.9〜3.5倍の収量の増加が記録されいてることを参照して、慣行栽培の2倍程度の値は非現実的ではない範囲として例示しました。 縦軸Pは、収穫物の単位重量当たりの価格(単価)を示し、標準的な収穫物の価格水準を「1」とします。また、収穫物の糖度が高まっていることと、エグミが軽減されていることで、美味しさが増したことにより、それぞれ、「2」、「3」の水準として評価が高まるとしています。但し、この縦軸の単価Pの数値は、説明の便宜上に付した『参考値』にすぎません。 座標のA、B、C、D、E、Fの6つの点は、それぞれの栽培による結果を示しています。 【点A:標準】 点Aは、慣行農法の標準的な単収と標準的な品位を示し、そして、標準的な単価となっています。 点Aは、Y=1、P=1の座標に大きな○印があり、左の赤は糖度の高さ、右の黒は収穫物のエグミの強さを模式的に示しています。 点Aの収穫物は、糖度とエグミは共に標準的なものとなっています。エグミを感じない作物も数多くありますが、ここでは、エグミ成分が微量であっても存在しているものとして表示しています。通常の栽培においては、耕作者は例外なく想定される最高の成果を得るべく栽培しており、点Aの収穫の成果は、当該地域におけるほぼ最高到達点とされる成果です。 【点B:収量が2倍】 もし、単収YがAの2倍に増加したら、点Bの価値が創造されたことになります。 点Bの創造価値は「Y×P=2×1=2」と計算され、点Aよりも2倍になります。収穫物の糖度もエグミも点Aと同一の水準です。 もし、点Bの成果と同様の成果を得るには、耕作面積を2倍にすれば、収穫物としては同じ品位ものものが同じ量だけ揃うことになります。耕作者にとっては、点A→Bの変化は歓迎すべき変化です。しかし、作物を購入して食べる消費者にとっては、この変化は、格別な意味を持ちません。 多くの人は、同じ風土の耕地で、収量が2倍に増えることはほとんど体験したことがないかも知れません。A→Bという収量の増加があった時には、図に示したように、同じものが2倍も収穫されると考えるかもしれません。 【点C:単収が2倍で、糖度が上昇する】 しかし、作物2倍も旺盛に成長する背景には、作物の成長を促す原因が高い水準に維持されていることがあります。例えば、作物体内のブドウ糖濃度が高く、そして、作物体内の糖度が高い状態です。体内の糖度が高いために、植物体内の様々な代謝が迅速に進行し、そして、大きな作物体を形成します。 このため、単収が2倍になった作物の体内の糖度は点Cのように高い状態となっており、糖度が高いために高い評価を受けてしまうことが見込まれます。現実に、先人達は好天の年は全ての作物が豊作になり、美味しくなる、という経験を伝えています。そして、世界で最も高額なワインとされるものも、天候の良い年に収穫されたものが良品として高額になっています。 単収が標準的なものよりも2倍も多い状況は想定外の大豊作ということもできます。現実に、食味が良くなっているために、高い値段で取引されています。 即ち、収量の増大の背景には、体内の糖度が高く、美味しい状態が伴っており、単に、収量の増大ばかりでなく、食味の向上による価値の創造が生じている可能性があります。点Cのような効果を生成するには、人工照明や高濃度炭酸ガス、あるいは、光合成に適した温度条件等を整えることで達成できるでしょう。南の方角が海に面し、太陽の反射光が得られる山の斜面に石垣を設けてイチゴを栽培する例があります。「同一産地のミカン」であっても、実は、南に海面が開けた南斜面では美味しく、北斜面では劣る、という現象を指摘する現地の耕作者もいます。遠方の消費地からすれば、南斜面のミカンも北斜面のミカンも、双方共に正しく同一産地名を表示したミカンのために、購入時の指標にはなりません。 【点D:収量が2倍で、糖度が上昇し、エグミが減少している】 このホームページでは、低位有機酸カルシウム塩(有機金属化合物)の吸収によってエグミが低くなっていると推測しています。エグミの強い作物として「ホウレン草」があります。通常、湯がいて灰汁抜きしてから食べます。ホウレン草にはシュウ酸が含まれているために、エグミがあり、野生動物は食べません。ホウレン草は鳥害を受けない作物の一つです。しかし、このような栽培を数年つづけると鳥害を受けることがあります。ホウレンソウにエグミがないことにスズメが気付き、大きく成長したホウレン草までもがスズメの鳥害を受ける事態になります。 植物の多くは、単に成長するばかりでなく、外敵から防衛する機能を持つものが結果的に生き残って世代を繋ぎ、旺盛に繁茂していると見られます。エグミや毒素やトゲ等が結果的に自己防衛の手段となり、そのような性質を獲得した植物が、外敵から身を守り、旺盛に繁茂しているといえます。有機酸カルシウムに含まれるカルシウムの性質によってエグミが軽減され、食味が向上します。それが、点Dです。従って、施肥する有機酸Ca塩が、既に「シュウ酸カルシウム」のように難溶性の有機酸カルシウムであれば、その効果は奏しません。何よりも、難溶性であることから、土壌水に溶けにくく、土壌水の移動によって作物に到達する可能性が低くなります。このため、施肥する時の有機金属化合物としては、適度に水溶性であることが望ましいと言えます。身近な化学種による有機金属化合物としては、酢酸カルシウムや蟻酸カルシウムなどの低位モノカルボン酸カルシウム塩があります。C2あるいはC1の有機物であれば、巨大な分子量をもつ有機化合物から転換するにしても、簡単な化学操作で転換しやすい化学種です。 この低位有機酸カルシウムの吸収によるエグミ成分の削減は、作物の持つ「毒々しい味」の一つの例にすぎません。全ての毒々しさの成分をカルシウムが除去するものではありません。しかし、膨大な植物の中から食用に適した植物を見出し、それに灰汁抜きという手を加えて食べていることを勘案すると、往時は食糧事情に窮していたことが窺えます。また、植物の側でも、外敵から身を守るために、さまざまな術を講じてきたことも判ります。 エグミ成分の一つであるシュウ酸がカルシウムとが結合して生成する「シュウ酸カルシウム」は尿路結石の主成分であり、石灰岩の中にも見出される天然の化学種です。 この点Dでは、糖度が高く、エグミが低いために、高い価値となっている場合があります。この点Dの作物は、有機金属化合物(有機酸カルシウム塩)を施肥した場合に顕著に表れる現象であり、このため、ほとんどの人には体験したことのない食味を提供することになります。 カルシウムによる作物体内の蓚酸の軽減は、人工照明、高濃度炭酸ガス、あるいは、温度調節による適温の維持というような光合成や代謝を活性化させて収量を高める栽培では実現しにくい側面を持ちます。 このように、栽培の術が収穫される作物の量や性質(甘さやエグミ等)に対して、それなりの根拠によって影響している側面がある、と当ホームページでは推測しています。 作物の甘さやエグミの度合は、明確な栽培条件の如何によって支配されており、その具体的な所作をせずに、祈念だけではほとんど効果を奏さないものといえます。 【点E:過酷な栽培条件】 作物の栽培は、適地適作が原則で、それぞれの風土に適した作物が栽培されています。しかし、適地適作ではなくても、そこに居住する人が必要であれば栽培しなければならない作物もあります。同じ作物でも、風土が違えば、収量が異なります。点Eは、その風土によって耕地の生産性が低く、また、糖度が低い状況を示しています。特に、緯度が高い地域に見られる傾向です。世界的に見れば、北欧、北米(カナダ)、ロシア(極東)、英国などでは収量が低く、糖度が低い傾向にあることが指摘されています。これは、地球が丸い形状で、高緯度地方の耕地は、太陽の仰角が小さく、単位面積当たりの日照量が少ないことに起因していると推測され、耕作者の手腕では是正することができない要素です。広い国土の国々では気付かない現象です。 【点F:点Eにおける炭素肥料の利用の推測】 もし、点Eにおいて当ホームページが推奨する見方で炭素肥料(低位有機酸カルシウム塩)を肥料として利用した時に推定される変化を点Fとして示しました。単収Yは向上し、糖度は上昇するでしょう。そして、エグミが軽減され、食味が改善します。このため、炭素肥料を利用しない今の慣行農法の中緯度の栽培(点A)と遜色のない生産性になることが予想されます。 【点A〜Fの創造価値】 栽培によってどの程度の価値が創造されたかは、上記の図では「収量×単価=Y×P」で示され、A〜Fの点と、そこから横軸と縦軸に垂線を結んだ「四角形」の面積によって示されます。それぞれの数値は説明の便宜上設定したものであり、厳密ではありません。このA〜Fの「収量×単価」の比率は、次のようになります。 A:B:C:D:E:F = 1:2:4:6:0.25:2 【一般的な食味の向上の考え方:双曲線】 植物や作物の種類は多数あり、その食味についても千差万別です。ただ、一般的な考え方としては、減数処理です。作物の光合成量に一定の限界があるのであれば、収穫量を減らすことで、成長の負荷を減らし、収穫物の糖度を高める考え方です。メロン、トマト、果樹などの栽培では果実や蕾を削除することが散見されます。最も過激な減数処理はメロンの栽培で見られ、1株の果実を最小限の1個まで減じて栽培することもあります。 収穫物が地下にある馬鈴薯や根菜類などのように減数処理ができない作物もあります。
2.栽培の所作による作物の成長への影響 耕作者の全てが、栽培による成果を最大に高めるべく配慮しています。 収量を高めるための配慮や食味を改善するための配慮など、具体的な工夫は多岐に及びます。 ただ、栽培の術とその効果との関連において明瞭ではないものが数多くあり、むしろ、明瞭なものは稀です。 最も信頼性の高い術が、無機栄養説に従う施肥設計と肥培管理です。 現在では、押し並べて食糧が過剰に生産されているために、不味い食物はほとんど価値を持ちません。美味しい食べ物が不当とも言えるほど法外に高く評価されているのは、食料の生産が過剰になっているためとされています。ある種のメロン栽培のように1株から1個の果実を採取するだけの栽培は、往時では考えられない暴挙です。トマトでは1房の蕾を制限し、ミカン栽培では周囲の海岸が摘果した小さなミカンの果実で埋め尽くされるほど大量の摘果がなされています。 当ホームページでは、作物の食味について、「糖度」と「エグミ」との2つの観点に分け、そして、炭素肥料による栽培が良好な結果を与える可能性があることを推測しています。 有機物のリサイクルによって、作物に自らの光合成産物以外の有機物を付加し、リサイクルされた有機物が作物の成長に利用されることで、作物自身の光合成産物の成長に伴う消費を削減し、結果的に作物体は高濃度の光合成産物の濃度となり、即ち、日照が多く、豊作の年の状態になり、作物は旺盛に成長すると共に糖度の高い状態に導かれます。即ち、成長の促進と同時に美味しさの高い状態が生まれています。 更に、この有機物のリサイクルの時に、有機金属として施肥される金属成分が、植物体内の蓚酸のような毒々しさを与える成分と結合して、難溶性金属塩を形成し、毒々しさを軽減することで、食味が更に向上していると推測されます。
3.食味が大きな価値をもたらす このホームページでは、有機物を植物へリサイクルする新しい考え方を紹介しています。有機物の原料はバイオマスです。天然の有機物です。これまで天然の有機物を圃場へ利用することは日常的に行われています。堆肥や腐植の利用です。しかし、堆肥や腐植の圃場利用では、有機物が土壌において生分解を受けて炭酸ガスと水になり、有機物は植物へ移行できません。無機栄養説が自然界の陸上植物を支配し、陸上の栽培を支配しています。ある種の有機金属化合物へ転換することで、土壌において生分解を受けず、あたかも、無機成分と同様の挙動をして植物体内へ有機物が移行できます。 即ち、バイオマスに対して適切な化学操作を施して、所望の有機金属化合物へ転換しなければなりません。このために、ある程度のコストが生じます。 家畜糞尿や残飯をそのまま圃場に投げ捨てることに比べて、このような化学操作のコストは高額に見えるかもしれません。 したがって、この有機物のリサイクルによって、上記の化学操作のコスト以上の価値を創出しなければなりません。 このような有機物のリサイクル(炭素肥料)によって、有機物が根から補給されて収量が2倍になり、そして、「A」⇒「B、C、またはD」というように変化した時に、食味の向上により、増収分以外の従来の収量を含めた収穫物全体の価値が高まり、大きな利益を創出したことになります。 仮に、このようなバイオマスを燃料に利用するために、石炭燃焼炉へ投入した時に増加する燃焼熱量は、バイオマスの熱量だけです。 即ち、増収と同時に食味の向上が生じる場合には、食味の向上の効果は、従来の収穫量に対しても及ぶために工学的なエネルギーとしての利用よりも大きな価値を生みやすいと言えます。 次の図は、このことを極端に示した図です。 
これは、点Aから点Dへ移行した時の考え方を示す図です。黄色の面積が従来の栽培の価値の大きさです。そして水色の面積が増大した価値の大きさを示しています。 この図は、炭素肥料を利用した時の耕作の価値がどのように推移するかの考え方を細かく分けて示しています。 本来、「増収(a)」だけの価値しか持たないはずのものが、食味の向上によって、大きな価値が創出されることが示されています。 
バイオマスの利用では、工学的なエネルギーの利用や堆肥や腐植の利用の形態が数多くみられ、炭素肥料への利用はまだ例が少ないと言えます。 このように、家畜糞尿という負の価値しか存在しない産業廃棄物ではあっても、生石灰CaOで殺菌処理し、汚物による公害を防止することによって、その有機物が「有機金属化合物=有機酸カルシウム」へと転換され、この有機金属化合物が作物に取り込まれることで、収量の増加と食味の向上を招き、増収と共に収穫物全体を美味しさによる価値を高めるため、大きな価値を創造することになります。 そして、このようにして創造された価値は、家畜糞尿を生石灰で殺菌分解した時の費用を大きく上回るものがあります。そのため、JP1359005号によって提案された廃棄物の処理方法は1980年以後、長きに亘って利用され続けています。 |