植物が有機物を吸収する/収量が2-3倍に高まる炭素肥料、17種全元素施肥栽培という考え方

第14章 堆肥・腐植などの栽培との比較


西暦2014年01月21日

第14章 全元素施肥栽培から見た堆肥・腐植等を利用する有機栽培


この第14章では、慣行栽培に炭素肥料を追加して栽培する全元素施肥栽培から見た、堆肥や腐植を利用する有機栽培について記します。

但し、このホームページでは有機農業に関して独自のデータはありません。公表されている堆肥・腐植等を利用した有機栽培に基づいて全元素施肥栽培との違いを述べます。

その概要をつぎの「いろいろな栽培の取組の比較」の表に示します。

このホームページでは、これらの栽培の収量は凡そ次のようなものと推測しています。

「NPK慣行農法:有機栽培:全元素施肥栽培=1:0.4〜0.8:1.9〜3.5」


1.無機栄養説に対する見方

其々の栽培が、無機栄養説に立脚しているか否かという視点で見ると、このホームページで提案する全元素施肥栽培以外の全ての在来の栽培は、無機栄養説に準拠しています。

従って、有機栽培もNPK慣行農法も植物が外界からNPK等の14種の無機養分を吸収して成長する栽培といえます。このため、植物体の96%を占める有機物は、当該植物の光合成によって獲得した有機物で構築されることになります。

「無機栄養説に従うか否か」という視点によって栽培の取組を明確に区分出来ます。そして、従来の栽培は例外なく無機栄養説に従っています。それは、化学肥料に依存した栽培であれ、堆肥・腐植等有機質資材による栽培であれ、約100年以上も科学的な調査によって検証されています。


2.有機物の施肥と吸収

有機栽培では、有機質資材を施肥しています。この点では、全元素施肥と共通しています。しかし、有機栽培では、施肥資材の有機分が炭酸ガスと水に無機化され、作物に有機分が吸収されることはありません。NPK慣行農法では、堆肥・腐植のような有機質資材を必ずしも必要ありません。しかし、NPK慣行農法に有機質資材を併用する栽培の取組もあります。しかし、何れにしても、全元素施肥栽培以外では、作物が有機物を吸収することはありません。


3.生分解への依存

無機栄養説に従う栽培では、有機物や分解者(カビや微生物)が存在しなくても植物が正常に成長することは科学的に確かめられており、NPK慣行栽培では、一切の生分解に依存しなくても構いません。全元素施肥においても、生分解作用は無縁です。しかし、有機栽培では分解者による生分解が必須です。


4.分解者の種類

NPK慣行農法と全元素施肥栽培では、生分解に依存しないため分解者の種類は無関係な事柄です。しかし、有機栽培の中には分解者の種類に特色がある、とするものがあります。しかし、どのような分解者が有機物を分解するにしても作物が受け取る元素は無機14元素であり、無機栄養説の範疇です。


5.植物が吸収する元素

無機栄養説に従う栽培では、植物はNPK…Niの無機14元素です。ただし、必須元素ではなくてもカドミウムCd、セシウムCs、ストロンチウムSrというように植物体内へ取り込まれている元素もあります。しかし、無機栄養説に従う場合には、COHの有機3元素が有機物の形態で多量に吸収されることはありません。

全元素栽培だけがある種の有機金属化合物を経由して有機物(COH元素)を取り込むことができます。予め、ある種の有機金属(たとえば、酢酸カルシウムやモノカルボン酸カルシウム塩)に転換された有機金属は、土壌において生分解作用を受けず、植物に作用し、植物体内へ移行することができます。そして、植物体内において、有機金属の有機分を開放して別の化学種となり、結果として土壌から植物体内へ移行した有機化合物が消耗されるために、土壌側から植物体内側への当該有機金属化合物の移行が継続して進行します。


6.植物が吸収する元素

無機栄養説に従う栽培では、植物はNPK…Niの14種類の無機元素を吸収します。他方、全元素施肥においては、前記の14種類の無機元素の他にCOHの有機3元素が追加され、必須17元素の全ての元素が吸収されます。


7.植物が吸収する元素の割合

無機栄養説に従う栽培では、14種の無機元素が土壌側から吸収されます。それらの無機元素が占める割合は、植物体の乾燥重量の約4%とされています。僅かです。このことは、施肥による補給量が少なくて済むと考えることもできます。農業は最も古くから続いている生業であり、「原始産業」と揶揄されることもあります。しかし、最も効率のよい所作と見ることもできます。僅かな施肥で大量の収穫物を得ることができます。

ただ、有機栽培では大量の有機質資材を施肥し、その中の無機養分だけを作物に与えることになり、圧倒的に多量な有機物は分解者への餌の提供にとどまります。

他方、全元素施肥では有機物も無機物も施肥の対象となり、必須17元素の全てが施肥対象であり、作物が吸収する元素となります。

今までの全ての栽培が無機栄養説に従う栽培であったために、見落とされやすいことがあります。それが、肥料を吸収することで付加される植物体の成分元素です。即ち、今までの栽培では、施肥の吸収による増量は植物体の4%です。極めて少ない割合です。処が、96%を占める有機物の領域に対して施肥による付加があると、肥料の吸収によって増大する成分元素(植物体)の部分が極端に増大します。これは、吸収された肥料が植物体に付加されて、植物が増大することです。今までのように僅かな無機養分の施肥で膨大な成長を促すのではなく、大量の施肥で、施肥量に見合う成長を得ることです。施肥を受け入れる元素が増え、受け入れる植物体の割合が高まることで作物が旺盛に繁茂します。


8.有機金属の利用

有機金属は、従来の肥料の形態にはあまり想定されていない化学種です。有機栽培では、天然の有機物を生分解して堆肥や腐植を調製し、これを有機質資材として栽培に利用します。いろいろな分解者を利用することがあるにせよ、「生分解を活用する」ことにおいては同じです。有機栽培は、天然の有機物の生分解過程を利用した栽培です。生分解過程において、有機金属が生成したり、関与したりすることはありません。

全元素施肥における有機金属は、有機物を生分解から保護する役割を担います。有機金属に対して生分解作用が無力であるため、有機金属は無機養分のように振舞い、そして、植物に吸収されます。この有機金属の化学種を適切に選定することで、植物体内に吸収された当該有機金属が植物体内で別の化学種となって消耗し、結果として、消耗による濃度低下を補うように土壌側から継続して当該有機金属が植物体内へ移行します。

これまでの肥料の吸収は、無機養分の吸収でもあり、吸収量としては少ないものでした。何故ならば、いくら多量に無機肥料を施肥しても、植物が肥料を旺盛に吸収して「肥料の塊」のような植物になることはありません。植物体の無機養分の割合は所定の割合に止まります。

ところが、有機金属の吸収量は従来の肥料の吸収量を遥かに凌ぎます。何故ならば、植物体に占める有機分の割合は極めて高いからです。吸収量が多くなることから、吸収を促すための吸水の適切な維持も重要となります。


9.植物の有機物の獲得

無機栄養説に従う従来の植物の成長の概念では、植物自身を構成する有機物は当該植物の光合成によって合成された有機炭素に由来するものと考えられていました。植物は外部の有機物を吸収して成長していません。NPK慣行農業であれ、有機栽培であれ、その考え方は共通しています。植物体の96%は有機物が占めています。その有機物は植物自身の光合成の産物です。従って、見回す限りの緑・有機物・バイオマスの有機物は、当該植物が種子の時点から自らの光合成で生み出した有機物です。有機質資材を施肥する有機栽培でも同じです。

処が、全元素施肥では、一部の有機物を吸収によって獲得しています。吸収によって獲得した有機物は、他の植物の光合成で生み出された有機炭素であり、他の生命体の名残でもあります。有機物の獲得の形態に、従来とは異なる概念が導入されたことになります。


10.植物の有機物の獲得に対するヒトの助勢およびその特性

従来は、植物が有機物を獲得する経路は「自身の光合成だけ」と考えていました。光合成を促進するためには「人工照明」、「高濃度CO2」、「適温の維持」等があります。しかし、このような栽培環境を整えるには、植物を外界から隔離した施設栽培になります。広大な露地栽培では、このような要因を調節できません。即ち、人間の食糧生産において圧倒的な割合を占める露地栽培や簡易ハウスでは、光合成は自然条件によって支配され、ヒトが助勢することはできません。従って、NPK慣行農法であれ、有機栽培であれ、その光合成にヒトの助勢はできません。

全元素栽培では、人工照明、高濃度CO2、適温の維持というような施設栽培でしか管理できない事柄は無力です。しかし、有機物を施肥対象とできることから、擬似的に光合成産物を植物へ供給できることになります。即ち、「吸収」という経路を利用して有機物を植物へ供給できます。光合成を直接助勢するものではなく、光合成産物である有機物を補給することで、擬似的に光合成の助勢をしています。


11.耕地の生産性の推移と有機栽培

NPK等の化学肥料に依らず、堆肥や腐植等の天然の自然界に存在するバイオマスを利用した栽培は、1840年のリービッヒの無機栄養説以前の栽培の形態です。勿論、このような有機農業の栽培も時代と共に改善されて生産性を高めています。日本でいえば、豊臣秀吉の太閤検地の時代の生産性に比べ、江戸時代末期や明治時代では2倍程度も向上していると考えられています。しかし、ハーバーによって空中窒素の固定が可能となり、無機栄養説に従う全ての養分が化学肥料として適量補給できる時代になり、古代からの有機農業に比べ、約2.5倍程度の生産性の向上となりました。

それを示したのが、次の図の赤矢印(NPK化学肥料を中心とした現在の慣行栽培)です。

黒い線が有機農業の生産性です。

なお、今日の有機農業は、NPK慣行農法の生産性の80%程度の水準まで生産性を高めているとされています。それは、動力を利用した近代社会の形態の変化による処が大です。大規模畜産や大規模食料加工産業から大量のバイオマスが発生し、大量の堆肥や腐植を利用できるために、結果として、大量の無機養分を圃場へ投入できたからです。江戸時代や桃山時代のように全てが人力による農業形態では、全ての人が食料を得て生き永らえることだけで精いっぱいの生活環境であり、雑草を入手するだけであっても地域の共同体の合意の下で限定された範囲の下草を手に入れるだけでした。現在のように膨大な堆肥を強力な機械力で大量に散布できる時代は、ごく最近の短い期間だけのことです。しかし、そのために、NPK慣行農法の約80%の収量に迫るほどの生産性を高めることができました。決して、「有機栽培の技量向上」だけによる生産性の向上ではありません。

堆肥や腐植を利用した場合の有機物資材に含まれている成分がどのように利用されているかを示したのが次の図です。

堆肥は、原料となるバイオマスを生分解によって、元の原料が判りにくい程度まで分解したものです。どの程度の分解にするかは、いろいろな考え方があります。特異な微生物を利用した分解や特異な雰囲気で分解したものなど多種多様です。ただ、家畜糞尿のような原料では、原料に固有の汚物感が消える程度の分解をしなければ好まれません。一般的には「易分解成分を分解させる」という加工になっているとされています。即ち、耕地に利用される堆肥や腐植は難分解成分を中心としており、土壌の生物によって穏やかに分解されて炭酸ガスと水になり、これまで包含していた無機養分を土壌に開放することになります。急速な生分解では、作物がガス障害を受けることもあり、堆肥や腐植を生産する際には、十分な熟成期間を維持することが重要視されています。

しかし、堆肥や腐植を利用する有機栽培では、無機栄養説に従った植物の成長となるために、植物が有機質肥料から受け取る成分は無機養分に限定されます。

今日の有機農業では、植物が吸収する物質はあくまでも無機養分です。

この無機養分を圃場へ供給する資材として「有機資材」が用いられているだけのことです。

従って、有機農業であっても、植物は植物の全ての有機物を自らの光合成によって形成しなければならず、外部の有機物を利用することはありません。

有機農業の生産性が、NPK化学肥料による慣行栽培に比べて80%程度が上限、とされているのは、化学肥料による施肥効果が極めて迅速なためと見られています。多くの栽培は、自然の風土の下で行われており、自然の気象は将来の予測ができません。このため、栽培は、常に気象と生育の具合を確認して、状況に応じた手当をしなければなりません。その手当の効果が発現するまでの期間が長いのが有機農業の特徴です。臨機応変な手当は化学肥料の方が優れています。

【有機質肥料と微生物資材について】

有機農業の主体をなす有機質肥料と微生物資材については多数の事例や販売資料などが流布されており、数え上げたらきりがありません。

伊達昇編「便覧有機質肥料と微生物資材」(1988年2月29日第1刷発行農文協)が日本の各地の農業試験場の専門家によって多様な資材を収録しているので参考になります。これらの資材の特徴として、各銘柄の生産量が少なく、利用されている地域もごく狭いことが挙げられます。多くの場合、副産物として発生した有機物を原料としているため、原料が少なく、有機質肥料としての流通地域も狭いものとなります。

微生物資材は、有機質肥料の規模の小ささを解消し、微生物を方々へ持ち歩けば各地で同じような資材ができる便益があり、比較的広域に同一の銘柄や考え方の資材が見られます。

なお、NPK化学肥料は、世界のどこで生産してもそん色ない性質の肥料が生産できることから、海外の文字を表記した肥料もごく普通に流通しています。


12.有機物のリサイクル=全元素施肥栽培

このホームページでは「有機物の植物へのリサイクル=炭素肥料」という新しい見方を提案しています。上の有機栽培の図と対比するために全元素施肥の概念図を示します。

有機物をある種の有機金属化合物へ転換してから施肥し、植物へこの有機金属化合物を吸収させ、吸収させた有機金属化合物が植物体内で有機分を代謝に与えて別の金属化合物となります。ある種の金属が、有機物を植物の成長に送り届ける役割を演じています。

このホームページでは、この金属としてアルカリ土類金属の一つであるカルシウムを使用しています。カルシウムは、石灰岩として地球上に広く分布しています。

有機金属化合物に転換された有機物は、土壌のカビや微生物による生分解作用を受けません。従って、施肥された有機金属化合物は、無機養分と同じように、植物に吸収されるか、地下へ浸透して地下水脈を経由して土壌から流亡するか、何れかの挙動をします。

このようにして調製された有機金属化合物が植物に吸収された時、植物体内において、他の成分と結合し、他の有機金属化合物(赤青のブロック)へ変化します。従って、植物体内における施肥した有機金属化合物(緑青のブロック)の濃度が低下するために、土壌側から植物体内へ緑青の有機金属化合物が移行しやすくなります。

これまでの農業や植物の成長の考え方は無機栄養説です。従来の考え方では、植物は外部の有機物を活用していません。精々、痕跡程度の有機物の吸収が確認される程度であって、現実の農業や栽培に顕著な優れた効果を及ぼすことはありません。

しかし、このホームページで提案している「有機金属化合物を経由した有機物のリサイクル」であれば、耕地の生産性が2−3倍に高まる、という大きな効果があります。この効果の大きさは、無視できない大きさです。先の図の緑の矢印で示した「全養分施肥栽培」です。


13.フードマイレージから見た食糧生産の在り方

フードマイレージについて他の章でも触れました。多くの人は毎日約1.6kg程度の食料を食べ、約2kgの排泄物を生み出しています。生涯では約50トンの食料を食べています。人間は家畜ではないので、体重は60kg程度で、牛のように500kgにもなることはありません。この1.6kgの食料を摂取するために、日本人は平均で19トン・kmという物流を形成していると示されました。1.6kgの食料を約12000kmの彼方から運搬している計算です。しかも、毎日です。約40年後には石油が枯渇し、海外との交易はほぼ永久に断たれます。勿論、それ以前の時点で、産油国からの石油の供給は断たれることから、食べ物すら窮することになります。

今日では、世界的に見れば食料は生産過剰の状態であり、飽食の時代です。食料が生産過剰であるために、食料の価値が低下し、食糧生産の価値が低下しています。このため、食料の経済は、「食糧の生産」よりも、「食糧の流通」が重要視されます。食料の市価に占める生産費の割合は極めて低く、流通経費の割合が高くなっています。このため、食料の経済においては、「流通」の役割が異常に高く評価され、流通が主導的な役割を演じています。長大なフードマイレージを見るだけで、食糧生産よりも、食料の流通に膨大なエネルギーが費やされていることが判ります。しかし、石油が途絶えた時、食料の物流は消滅します。

野生動物を見ると、食料が得られる場所に居住しています。食料が得られない場所に居住することはありません。

今、日々、化石資源を消耗しています。そして、今の建物や構造物の半分かそれ以上のものが今の姿の状況で、化石資源が枯渇する時代に突入することが予想されています。地震に対する耐久性を増した建造物は40年程度の耐用年数はあります。その時、数十階を誇る役所や数百mを誇る電波塔へ昇降するエネルギーが無くなる事態に追い込まれます。勿論、健康には良いかも知れません。昭和39年頃をさかいに、モータリゼーションが進み、若年層の腰痛が散見され、今日では、腰痛は国民病です。日常生活における歩行が増せばこの種の病は解消されます。

食料供給が大過剰の時代では、食料の効率的な生産はほとんど顧みられることがありません。

しかし、化石資源が枯渇し、物流の燃料が消滅した時、より高い耕地の生産性が求められます。

フードマイレージという新しい概念は、今の社会の異常性を適切に示し、また、どのような形態が望ましいかをも示します。


14.無駄が多いかも知れない有機栽培

有機栽培は、天然の有機物を肥料に用いる栽培です。NPK慣行栽培に用いるNPK化学肥料の原料は「リン鉱石」「カリ鉱石」「空気」「石油」等であり、作物組織とは無縁な物質です。それに引き換え、有機栽培の原料となる天然の有機物は、家畜糞尿、食品残渣、雑草等で生体組織と言えるもので、作物の組織に近いものと言えます。

この図表は、植物組織の成分の割合を示しています。動物組織では、構成元素も多くなり、割合もやや異なります。しかし、その傾向には共通点があります。

有機栽培は、このような生体組織を原料として、植物へ肥料として供給します。そして、植物を育てます。育てた時の植物体に似ている生体組織を植物に成長に肥料として利用することは、たいへん巧みな所作に見えます。

処が、無機栄養説では植物が肥料から得るものは「無機養分」に限定され、供給された有機物は無駄になります。有機栽培では有機物を肥料としているために、大量の肥料を施肥します。しかし、肥料として利用される部分は僅かな部分を占めるだけの無機養分に限られます。

このため、有機栽培は大量の有機質肥料を施肥する割には、作物に吸収される部分が少なく、勿体ない栽培に見えなくもありません。

他方、全元素施肥では、無機養分ばかりか有機物も施肥対象になり、無駄が少なくなります。


15.有機物の保存性

無機栄養説に従う堆肥や腐植を利用する栽培では、作物の必要とする無機養分を天然の有機物(バイオマス)によって補います。作物が成長する時に使用している無機養分は、何らかのバイオマスによって準備されたものです。しかし、栽培に活用されるのは、準備したバイオマスの固形分の約4%を占める無機養分だけです。残りの約96%を占めているCOHの有機3元素は活用されません。

処が、このホームページで紹介する「全元素施肥栽培」では、有機物を有機金属化合物(炭素肥料)として作物に補給できるので、従来の無機栄養説に従う施肥設計と肥培管理にこの炭素肥料を加えることで、全元素の手当ができます。バイオマスを原料に利用するのであれば、原料の大多数の成分を活用できることになります。また、炭素肥料となったものは生分解を受けないか、受けにくいので長期間にわたって保存ができます。それは、NPK等化学肥料と酷似しています。

窒素肥料は空気を原料とするために、何処でも製造できます。リン酸肥料とカリ肥料は、それぞれの鉱物資源の産出する地域で生産されます。リン酸肥料もカリ肥料も100年以上は原料が存在しています。ただ、海外との交易に必要な石油は約50年分の埋蔵量です。他方、有機物のリサイクルに必要な原料の一つである有機物(バイオマス)は、毎年、風土から生産されます。また、金属としてカルシウムを使用する場合には、無尽蔵とも言えるほどの石灰岩がそれぞれの地域に存在しています。

炭素肥料とする有機金属化合物を生産する際に、「家畜糞尿に生石灰を添加して混合する」というように、バイオマスをそのまま利用する時には生成する炭素肥料にバイオマスに含まれている無機養分も含まれることになります。ただし、セルロース、繊維素、糖質などに精製された原料を利用してエタノールを生成し、その後、酢酸を経由して酢酸カルシウムのような有機金属化合物を生産する経路では、無機養分がほとんど含まれていない炭素肥料となります。

しかし、何れの形態であっても、有機金属化合物は長期間にわたって保存しやすい化学種です。約3億年前の地層とされる処に有機金属化合物が堆積していて、それが地表に露呈した狭い地域で高名なワインが生産されています。3億年の保存ができるのであれば十分な期間と言えます。


16.収穫物の食味

作物の食味の如何はヒトばかりか野生動物にとっても重要です。有機栽培の作物は、概して、「美味しい」ということで喧伝されています。往時、日本にスーパーマーケットという小売形態が生まれて、各地に広まった頃、『野菜から味が消えた』といわれました。スーパーマーケットには、一年中、冷えたビールが大量に保管され、一年中リンゴが販売されていました。スーパーマーケットの屋上で野菜を栽培している訳ではなく、その頃の野菜の栽培形態に変化が生じたといえます。日本では、化学肥料の生産技術は未熟でした。農業のほとんどはドイツによって完成され、栽培の科学的な原理が確立したのは1840年のリービッヒによる無機栄養説とリービッヒの最少律です。そして、どうしても乗り越えることができなかった窒素肥料の合成が完成したのは1906年のハーバーです。太平洋戦争の後に、ドイツの科学技術文献を押収したアメリカがドイツの資料を公開することによって、世界中がドイツの技術を真似ることができ、飛躍的な科学の普及がなされました。日本では「PBレポート」として有名です。戦後の日本の科学的な発展は、このPBレポートによる処が極めて大きいと言われています。即ち、ドイツとアメリカの技術が導入され、幅広い方面で科学的な進歩がみられました。

農業も化学肥料が生産され、普及するようになりました。それまでは、し尿や雑草、下草等を地中の桶で嫌気性雰囲気の下で熟成させた液肥が肥料の主体です。植物の生育は、日光、炭酸ガス、水、必須無機養分、温度、湿度等さまざまな要因によって決まります。NPK化学肥料の出現によって、耕地の生産性は飛躍的に高まりました。ということは、NPKが圧倒的に不足していたといえます。そうであれば、日照や炭酸ガス濃度は十分すぎるほど多量に供給されていたことになります。このため、大昔の栽培では、植物としては無機養分の不足のために生育が抑制されている状態であり、光合成は大過剰であり、体内の糖分濃度が高い状態に保たれていたものと推測されます。このようにして考えれば、有機栽培による作物が美味しいのは、収量が抑制されるためと見ることができます。

従って、食料の供給過剰の時代の下で、より美味しいものを求めるために有機栽培が注目されるには、それなりの根拠があるものといえます。

他方、このホームページで紹介する全元素施肥栽培の考え方であれば、作物に有機物を供給することができるために、光合成によって得られたブドウ糖の消耗が少なくても作物が旺盛に育ち、常に、植物体内の糖分濃度が高く維持されているものと推測されます。

さらに、この時の有機物の供給源として利用している有機金属化合物の金属成分が植物体内でエグミ成分を難溶性有機金属へ転換することがあり、作物のエグミを軽減することが考えられます。このエグミの軽減は、従来の栽培ではほとんど考慮されていない効果です。

全元素施肥の立場から見れば、有機栽培の食味の向上は、減数処理によって体内の糖度を高める類の手法に見えます。全元素施肥は、植物の有機物獲得量を増大させて光合成産物の消耗を減じ、結果として、収量を高めて、同時に食味の低下を抑制しています。そして、有機金属によるエグミ成分の除去は施肥した有機金属の消耗することで、吸収を促進し、同時に、エグミを軽減しています。

このように、収量の高まり、糖度の高まり、エグミの軽減について、科学的な根拠に基づいている点で従来の有機栽培とは異なります。


★ 堆肥・腐植・有機農業・様々な分解菌による生分解等、これらは全て「無機栄養説」の範疇であり、作物に無機養分を与える作法に過ぎません。

★ 無機栄養説の範疇である以上、NPK慣行農法と同様に最高到達点であっても、無機14元素の完璧な手当だけです。

★ NPK慣行農法は、既に、無機14元素の完璧な手当の領域に達していると見られます。

★ 生分解に依存する有機栽培は、慣行農法の即応性にまだ追いついていない感があります。

★ また、追いついても、慣行農法を追い越すことではありません。

★ 折角、有機分を施肥しても作物に有機物を与えることではなく、単に、無機化するだけです。

★ 有機物を作物に供給できる全元素施肥からすれば、補給物質量に劣るかもしれません。

このホームページの視点からすれば、全体として、次のような位置付けになるものと思われます。

栽培の取組には、多種多様なものがあり、それぞれの立場と、環境によって最適なものが選択されています。

このホームページで提案する全元素施肥栽培は、これまで「無機栄養説」に限定されていた栽培の取組を「全元素施肥」と拡張したことになります。

即ち、選択肢が増えたと言えます。




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