第18章 まとめ
1.農業に新しい飛躍があった:有機物のリサイクル=全養分(元素)施肥栽培 西暦1906年、合成の窒素肥料が出現し、無機栄養説に従う栽培理論を理想的に実践できるようになり、耕地の生産性は2.5倍程高まったとされています。 そして、1980年、有機物をある種の有機金属へ転換してから施肥することで、その生産性は更に2〜3倍高めることができました。植物の固形分の96%を占めるCOHの有機3元素が施肥に追加され、必須の全元素(養分)が施肥できることになりました。COHを補給する炭素肥料は光合成を補う役割を果たします。 
2.余りにも完璧だったリービッヒの無機栄養説 リービッヒの唱えた無機栄養説は余りにも完璧に自然の生態系を表現していたために、「植物の繁茂に有機物の加える(植物が有機物を吸収する)」という考えは見捨てられていたかもしれません。 しかし、ある種の有機金属は、植物に吸収されました。現代化学はほとんどの有機物を、この植物が吸収できる有機金属へ転換する技術水準にあります。有機物を植物へ送り込む入口(有機化合物)が判れば、全ての有機炭素をその条件に合う有機物に転換して、そして、食糧の増産に繋げることができます。 有機金属は聞き慣れない化学種です。然し、尿路結石(シュウ酸カルシウム)の主成分も有機金属です。そして、実は、数百年前から自然環境で営まれていた栽培でこの現象は存在していたと言えます。約2haという狭い地域であったため、気付かなかったようです。図の緑の点線が大昔まで伸びているのはそのためです。 有機金属は聞くまでは判らないかもしれません。しかし、台所で簡単に調製できるものです。勿論、産業としては「家畜糞尿に生石灰CaOを加えて殺菌分解する」という方法や化学薬品によって簡単に製造します。100年前、ハーバー・ボッシュの手によるアンモニア合成法からすれば、桁違いに低い技術水準です。
3.有機金属は無機肥料のような性質 この炭素肥料として利用するある種の有機金属は、無機肥料(無機物)のような性質を持ちます。土壌で生分解を受けることはありません。土壌水によって無機養分と同じように移動します。そして、無機養分と同じように、植物体内へ濃度拡散します。そして、植物体内で他の物質と反応すると、消耗されます。土壌から植物へ浸透した有機金属化合物が体内で消耗されると濃度が低下します。内外の濃度差を是正するように土壌側から植物体内へ有機金属が移動します。これは、無機養分の挙動と同じです。無機養分は、植物の成長に応じて植物組織に固定され、体内濃度を減じて、その減少分だけ土壌側から植物体内へ移行します。体内に移行した有機金属は、植物体内のさまざまな有機物と結合し、そして、土壌から持ち込んだ有機分を代謝に供給します。無機養分に比べて圧倒的に多量の有機金属が土壌から取り込まれます。 この有機金属(炭素肥料・有機物のリサイクル)の利用には、分解者(カビ・微生物等)による生分解作用は一切利用していません。 
4.資源の無駄がない全養分施肥栽培の考え方 無機栄養説に従う植物の成長では、植物の固形分の4%を占める無機養分だけが外部から補給される元素です。96%を占める有機物は、植物自身が光合成で構築するしかありません。しかし、全養分施肥栽培では、有機物も施肥対象になります。施肥対象になる有機物は周囲に溢れています。腐敗して無機化されるのを待つだけの無駄なバイオマスの有機物が「炭素肥料」へ転換できます。所望の有機金属に転換すれば、分解者に邪魔されずに植物へ吸収させることができます。有機物を植物に吸収させる際に、分解者の生分解作用を一切利用しない、という見方は従来には少ないといえます。しかし、この全養分施肥栽培の考え方は、資源を無駄なく利用する合理的な考え方に見えます。 
5.無機養分の吸収と有機金属の吸収の模式図 有機金属の吸収は、無機養分と似ています。土壌の無機養分は、土壌水の吸収と共に植物へ吸収されます。しかし、このとき、土壌側と植物側の濃度の関係で、土壌側が高濃度であれば植物内へ濃度拡散します。土壌側の濃度が低ければ、水が吸収され、無機養分は分離され、土壌側に濃縮されます。植物の成長によって植物体内の無機養分は所定の部位に固定され、濃度が低下します。そして、濃度低下を補うように土壌側から無機養分が移行します。土耕では、このように圃場に施肥された無機養分は自動的に濃度が調整され、植物が必要な時に植物に吸収されます。(養液栽培では、根の土壌近傍の緩衝機能がないために、無機養分毎に養液中の濃度を管理し、吸水によってそのまま養分が植物体内へ移行するようにしています。養液栽培の技術が年々向上するのは、最適な養液濃度のデータが蓄積されるためかもしれません。) 
次の図は、無機養分を有機金属に置き換えた図です。基本的には無機養分と同じです。無機養分と違う点は、土壌から植物内に流入した有機金属が、他の有機金属化合物へ転換している点です。赤と黄色です。緑の有機物が開放されて、成長のための代謝に利用されます。新たに生成した「青・赤」「青・黄色」の別の有機金属化合物は体内に難溶性有機金属化合物として存在します。土壌から流入した有機金属は消費されて、体内濃度が低下することになります。このような有機金属の消費によって、土壌側の有機金属が植物体内へ流入を続けます。 

6.たった一つの有機化合物のリサイクルができればよい 植物に有機物を吸収させる場合、たった一つの有機化合物が植物に吸収されることが判れば十分です。 化学者は、自在に有機化合物を転換して、植物に吸収される有機化合物へ作り変えることができます。 約920万種類以上もある有機化合物の全てについて植物への吸収を調べる必要はありません。低位モノカルボン酸カルシウム(アルカリ土類金属)が植物へ吸収された以上、有機物の植物へのリサイクルは全て可能になります。太古の時代から無機栄養説に従って繁茂していた陸上の植物は、ある種の有機金属を施肥すれば、有機物を吸収します。
7.植物体内の吸収成分の行末 土壌から植物体内へ移行した無機養分は、導管を通じて葉部へ至り、師管を通じて植物の成長に伴って成長した部位に所定の量だけ消費され、体内濃度は低下する。その低下分を補うように土壌側から移行する。 
有機金属の吸収の場合には、吸収された有機金属が導管を通じて葉部へ至り、難溶性有機金属塩(赤青・黄青)を形成し、緑の有機分を代謝に与え、植物の成長に寄与します。植物は、自らの光合成でブドウ糖を生成して成長に充てるほか、有機金属の吸収によって有機物を体内へ取り込むため、有機金属の施肥は植物の成長に必ずプラスになります。施肥した有機金属が、別の化学種になるために植物体内の有機金属の濃度は低下し、土壌側から有機金属の吸収が継続します。 
8.農業の飛躍には明確な根拠があった 70億人の生命を支えている世界中の耕作者は、日々、そして、年々、豊かな実りとなるべく努力をしています。農業は実業であるために、その改善には自然の法則に基づいた明確な根拠を必要とします。 最初の飛躍はリービッヒとハーバーによってなされました。無機栄養説とそのための施肥肥料とが完成しました。約1世紀前に今のNPK化学肥料を中心とした慣行農法の形態が完成し、耕地の生産性は約2.5倍高まりました。先進国における今の生産性は、ほぼ上限にへばり付いた状態に見えます。 1980年に提案された一つの栽培事例は、結果として、慣行農法にある土壌改良資材を追加して施肥し、慣行農法の2-3倍の収穫量を達成しています。 このホームページでは、「無機栄養説」では手当できないCOHの有機3元素とこれに伴うエネルギーとを作物に供給する「炭素肥料」を想定し、有機物を植物に吸収させることでCOHとエネルギーとを作物に与える、という見方をしました。そして、この飛躍的な増収が、ある種の有機金属化合物が植物に吸収されているためと解しました。 作物の固形分の4%を占める無機養分だけを施肥で手当てするのがこれまでの無機栄養説に従う栽培です。96%を占めるCOHによる有機物は全て自己の光合成で生み出さなければなりません。炭素肥料によってCOHを補うことは、これまで自己の光合成で形成していた96%の有機物を、施肥で助勢することです。作物の17種の必須元素の全てを手当てできるようにしたのが炭素肥料です。 約1世紀前、NPK以下無機14元素の施肥によって、農業は大きく飛躍し、科学的な農業になりました。 そして、COHを加え、全17元素の施肥によって、再び農業は大きく飛躍することになりました。 この飛躍は何れも、質量保存則、エネルギー保存則という自然の摂理をリービッヒの最少律に従い、丹念に手当をしたための飛躍と言えます。
9.全養分施肥栽培で収量が2-3倍に増える意義 作物の栽培手法は、多種多様なものがあり、耕作者の意図で適宜選択されています。恐らく、耕作者の数と等しいだけの栽培の考えがあるでしょう。しかし、リービッヒの無機栄養説の実現で耕地の生産性は2.5倍に高まり、耕作者の割合は減少しました。全養分施肥栽培で更に2-3倍の生産性向上になれば、より少ない耕地、より少ない耕作者で食料の需要を満たすことができます。 また、江戸時代のような栽培に比べ、5-8倍もの生産性になります。往時、ほぼ人力で賄っていた食糧生産を、その20%以下の労力で生産できます。的確な手当が生産性を高め、そして、労働の価値を高めます。より多くの人が、狭い土地でも有効に活用できます。
10.収穫物の価値の高まり 食味の良い収穫物を得ることも大切です。誰でも、より美味しいものとなるべく期待しています。サル、猪、鹿あるいは野鳥は、巧みに美味しい作物を嗅ぎ分けて田畑を荒らします。全ての生命体の活動エネルギーはATPであり、そして、ATPはブドウ糖を原料に生産されています。糖度が高く、甘く美味しい作物は、あらゆる動物に共通して「最良の餌」といえます。他方、植物は動物から身を守らなければなりません。棘を纏うことで食害を避けた植物もいます。毒々しい成分を生成することで我が世の春を謳歌している種もあります。今、地表に繁茂している植物は、何らかの自己防衛策を見につけています。 有機金属化合物を利用して作物に有機物を与える栽培では、作物がより多くの有機物を獲得するために、旺盛に成長し、そして、糖度が高くなります。更に、有機金属化合物の金属成分がある種のエグミ成分を除去するために、より美味しくなります。 このホームページで紹介する有機金属を炭素肥料と考えて栽培することで、より旺盛に繁茂すると同時に糖度が高まり、更に、エグミの強い作物でもエグミが軽減されています。エグミが強く野鳥が食べないホウレン草も、数年すると野鳥が食べ出します。 炭素肥料による栽培は、収量と食味に関して、それぞれ明確な自然の摂理に基づいて改善しているといえます。 
11.体験したことのない領域 耕種農業は、自然の風土を巧みに利用した生業です。リービッヒとハーバーとによって構築された科学的な現代農業でも、自然の気象変動によって大きな影響を受けています。栽培の変動が社会に大きな影響を与えたことは記憶に新しい出来事です(1993)。その変動は±15%程度の範囲と見込まれます。1世紀前、アンモニア合成法の完成で耕地の生産性は2.5倍に高まりました。大きな飛躍です。そして、全養分施肥栽培によって生産性が1.9-3.5倍に高まっています。これは、今の栽培の変動幅を大きく逸脱しています。 
全く体験したことがない新しい味覚の作物が収穫されることを示唆しています。「1〜5」までしかない通信簿に、生徒の全員が「10〜15」の水準になってしまうような有り得ない出来事です。しかし、同様の変化は、約1世紀前にあったことです。
12.有機物のリサイクルが実現した 太古の時代から地球生態系で繁茂する陸上植物は無機栄養説によって繁茂してきました。小さな種が巨大な成長体へ成長するとき、外界から補助できるのは僅かな無機養分だけです。96%を占める有機体は全て自己の光合成で獲得しています。そして、折角生産した有機体は、後の世代の成長に付加できません。腐敗し、無機化を待つだけです。意味もなく腐敗を待つバイオマスが氾濫しています。 しかし、有機物をある種の有機金属化合物とすることで、有機分を植物へ付加できます。有機物のリサイクルが見出されました。腐敗を待つだけだった膨大な有機物は、全て有機金属へ転換できます。そして、後の作物の有機物として付加できます。家畜糞尿の有機物が、食料の有機物へ付加できます。しかも、この有機金属を利用した栽培の収穫物は糖度が高く食味が改善されています。 朽果てるのを待つだけの有機物を植物の繁茂にリサイクルできる作法が解明されました。 そのための原料は、ほとんど全ての地域に未利用状態で溢れています。 有機物のリサイクルは、生態系のリサイクルでもあり、おそらく、最大のリサイクルと言えます。 
|