第22章 モデルで見る全元素施肥の経済性の特異性
1.全元素施肥とは このホームページでは、「全元素施肥=有機物のリサイクル=炭素肥料」という新しい概念の取組を提案しています。これは、特定の栽培手法が格別に優れているというものではなく、今までの自然の理解、栽培に対する理解が合理性に欠ける、という問題の提起でもあります。 そして、より巧みな自然の理解として、「作物の栽培に置いて、COHNPK以下の17元素の施肥」を視野に入れた栽培が望ましいと提案しています。 これは、今までの栽培の基盤となっていた「無機栄養説」が突破され、「有機栄養+無機栄養=全元素施肥」という新しい形態の栽培の取組です。 植物の約90%は水分が占めています。植物の固形分の割合は約10%です。その固形分の約96%は光合成で獲得してる有機物です。作物の栽培では、残る固形分の4%に相当する子無機養分を適切に施肥するだけで、96%の有機物は作物の光合成によって「タダ」で入手でき、そして、通常であれば全体の90%を占める水分も「タダ同然」で周囲の環境から獲得できるものです。 このため、耕作者は作物の栽培において固形分の4%を占める無機養分を適切に手当するだけで、膨大な量の作物を収穫できます。通常は、光合成で得られる有機物や環境から得られる水分はタダ同然で構築されます。 処が、このホームページで提案する「全元素施肥」と言う考え方は、有機物をも施肥する栽培の取り組みであり、これまでの無機栄養説に基づく栽培では「タダ」で入手していた有機物を肥料として補う考え方です。多くの場合には、収穫物は安価であり、肥料は高価です。従って、収穫物の有機物を施肥によって部分的に補てんするような考え方は、従来の栽培においては全く想定していないことです。 この章では、実際に示されている事例の範囲で、全元素施肥がどのような経済性を持つかを検討します。
2.モデルによる検討 第2章に示したJP1359005号の実施例には、対照区に対して1.9〜3.5倍の収穫量になった事例が示されています。そして、この事例において使用した資材には「炭素肥料=有機金属化合物」に相当する酢酸カルシウムが多量に含まれています。 このことから、COHの有機3元素を含めた全元素施肥が実施されていたものとこのホームページでは考えています。 そこで、慣行栽培に対して収量が2‐4倍に高まると仮定して、その収穫物がどのようなものに由来するかを概観します。 あくまでも、全元素施肥と言う聞き慣れない栽培の考え方が、従来とはどのような相違があるかを明瞭にするために、収量の範囲を意図的に上方に拡大しています。 
作物の約90%は水分が占め、約10%が固形分となっているものと仮定しています。更に、固形分の96%は有機物によって構成され、14種の無機養分の合計量が約4%と仮定しています。この水分、固形分、有機物、無機養分の比率は一般的なものといえます。 グラフの最上段は、仮想対照区の収量を棒グラフで示しており、水が水色、有機物が濃い緑色、無機養分が赤色で示されています。其々の面積は、上記のような割合です。 その下段は、仮想試験区で、仮に全元素施肥で収量が2倍となったときの収穫物の成分の内訳を示しています。本来であれば、仮想対照区と同じ濃い緑色の有機物が光合成で得られているはずです。それに対して、薄い緑色の「有機分の増量分」が増加したことになります。即ち、この薄い緑色の部分が「炭素肥料の有機分の影響」で補われた可能性があります。言い換えれば、肥料代金を支払った部分です。勿論、赤色の部分の無機養分も肥料代金が必要です。 この段の収穫物の成分のうち、肥料代金に計上される可能性がある部分が赤色と薄い緑色の部分です。これを赤線で囲みました。これは、最上段の対照区に比べて費用の負担が大きいことが推測されます。最上段の費用負担は、痕跡状の僅かな赤色の無機養分だけです。 以下、収量が3の場合、収量が4の場合の仮想試験区もグラフを示しました。下の2段の説明は要しないでしょう。 この全元素施肥の栽培は、NPK等無機養分の施肥がリービッヒの最少律の制限要因になることがない水準に達していることを前提として、更に収量の増加を求めるためのものです。従って、無機14元素については過不足なく施肥されているものとしています。 
この表は、上図のグラフを数値化したものです。 この章では、炭素肥料を用いて全元素を施肥によって補う栽培の収量が高まる、ということを示すために設けたものではありません。 仮に、COHの有機元素が施肥によって供給することができるようになったとき、無機栄養説に比べてどのような違いが生じるかを類推するための検討です。 上のグラフと表では、仮想対照区〜仮想試験区(3)の範囲は、JP1359005号の実施例に含まれる範囲でもあり、かなり現実に近いものを想定して、無機栄養説との違いを検討しています。 【仮想対照区】 仮想対照区では、人為的な補給はa無機養分だけです。その収量が「1000」であったとき、推定される無機養分量は「4」です。即ち、人為的に助勢した無機養分量の250倍の収穫(成長)に繋がるといえます。非常に大きな倍率です。耕種農業は古くから営まれている原始産業とも揶揄されることもありますが、1作の栽培期間で、僅かな補給で膨大な量の作物を収穫する極めて効率の優れた営みであることが判ります。 【仮想試験区(2)】 同様に、その下段の仮想試験区(2)についてみます。収量は仮想対照区の2倍に設定されています。この時、有機bの欄は、仮想対照区と同じ「96」としています。これは、仮に炭素肥料によって収量が2倍に増加しても、その栽培過程において対照区と同量もしくはそれ以上の光合成量が生み出されていると推測し、その光合成による成長量として対照区と同じ値を用いたものです。これは、他の仮想試験区においても全く同じとしています。 従って、増加した有機分「c」である「有機c」の欄には、炭素肥料によって増大した有機分が記されています。 そして、無機肥料の施肥によって補われる「無機a」の欄と炭素肥料によって増加した「有機c」の欄とは、其々、赤線によって区分しています。赤線の枠は、費用を要する肥料によって増加した部分と解されます。 このような表の見方は、仮想試験区(3)(4)にも共通しています。 【施肥量に対する収量の倍率=Y/(a+c)の欄】 そこで、人的な施肥量に対する収量の倍率を検討します。それを「Y/(a+c)」の欄に示します。 この「Y/(a+c)」によって示される値が「人的な施肥量に対する収量の倍率」を正しく表現するものではありません。しかし、このような数値でみると、従来の無機栄養説に従う栽培と全元素施肥の栽培との違いが顕著にしめされるため、敢て、このような指標を用いています。 さて、仮想対照区では、この値は「250」となっており、仮想試験区(2)では「19」となっています。これは、従来の栽培では、施肥養分量の約250倍の収穫(成長)を手にすることができ、そして、炭素肥料を利用した栽培では、収量が2倍になった場合には、施肥養分量の約19倍が収穫(成長)となることが示唆されます。 即ち、無機栄養説に従う慣行栽培は、極めて効率の高い営みであることが示唆され、そして、炭素肥料を用いる全元素栽培は、投資効率が激減することが判ります。 驚くべきことに、より高い収量を設定した仮想試験区(4)におけるこの値は「13」であり、仮想対照区の5%程度にしかなりません。 即ち、無機栄養説による原稿の栽培は、極めて効率が良い栽培であることには違いがありません。 それに比較して、炭素肥料を用いる全元素栽培は、どうしても効率が低下します。 この恐ろしいほどの全元素施肥栽培の効率の低さが、「光合成ならタダで得られる有機物を施肥で補う」という所作から万人を遠ざけていたかもしれません。 無機栄養説に従う栽培と、敢て、有機物を施肥して全元素施肥栽培とする新しい栽培の見方とでは、これまでの常識では越え難い深い溝があります。 このような違いは、「線グラフ」によっても書き換えることができるでしょう。しかし、それは必要に応じて誰でもできることから省略します。 上の棒グラフの「仮想対照区」と「仮想試験区(4)」とを見比べると、赤枠の費用を要する部分の違いが明瞭に判ります。 炭素肥料を用いた栽培が現実のものであったとしても、元来、自然の光合成によって無料で得られる有機物をわざわざ費用を投じて炭素肥料を施肥したのでは、利益を得る部分が全く見当たりません。 このため、多くの当業者は、このホームページで提案する炭素肥料を用いた全元素施肥栽培に懐疑的になるかもしれません。 何よりも、太古からの大自然界の膨大な植物の繁茂のほとんどは「無機栄養説」に従っており、「植物が有機物を吸収すること」自体疑わしく、更に、「植物が有機物を吸収して2‐3倍も成長する」ということは有り得ない事柄と受け取られるでしょう。【有機物の吸収についての疑問は、「ある種の有機金属化合物で大量に吸収される」ことが解明されているので、ここでは省略します。】
3.利益率と利益額:耕種農業の事情 前項の検討では、全元素施肥栽培では収量が増加するけれど、炭素肥料の投資額が大きくなり、利益率が恐ろしく低いものとなることが推測されます。一般的な生業では、極力経費を抑制し、利益率を高めることが優先されます。このような経済的な視点からすれば、従来の無機栄養説に従う栽培が優れていることが判ります。 処が、耕種農業は最も原始的な産業であり、多くの地域では最も歴史の長い産業となっています。このため、其々の耕地は特定の所有者が存在し、耕作者は自由に耕作面積を拡大できない状況がほとんどです。耕種農業は、経営規模を自由に拡大しにくい産業であり、他産業とは異なります。従って、耕種農業では限られた耕作面積で利益額を最大にする栽培が模索されています。このため、前項において、「Y/(a+c)」、「(a+c)/s」あるいは「b/s」という「率」の評価は必ずしも適切ではありません。 ダイコン、ニンジン、コメと言うように農産物は、誰もが日々接しているものであり、格別な配慮を払って注視するものではありません。ほとんど、何も考えることがない「物」でしかありません。しかし、ほとんど無関心な「物」であっても、食糧事情が窮すると見方が変わります。何にも増して、真っ先に注目するのが食材です。 日本では、自国でエネルギー資源を産出しないために、「今、直ちにエネルギーが断たれる」ことがあっても不思議はありません。そして、世界の平均で見れば、石油の枯渇が40年後程度にひっ迫しており、石油がなければ交易が断たれます。交易が消滅した時に、国内の食糧自給率は約40%とされ、食べ物が不足することが考えられます。 食糧が不足すれば、誰しも食材に関心を寄せます。 今日のように食料が豊富で、過食の時代は人類の歴史上極めて稀な状況です。そして、石油の枯渇と同時にそのような状況は未来永劫消滅します。 このホームページでは、「炭素肥料」、「有機物のリサイクル」、「植物の有機物の吸収」、「全元素施肥栽培」というような全く新しい見方の栽培や自然観を提案しています。そして、その最大の目的は、「耕地の生産性が2‐3倍に増える」ことにあり、そして、そのために必要な資源が「バイオマス(天然の有機物)」というように、ほぼ世界中の何処でも人が居住する場所では未利用状態で溢れている物質です。 ここで提案する在来のNPK慣行農法に炭素肥料を加えただけの「全元素施肥栽培」では、収穫物の糖度が高まり、概して、美味しいものが収穫されています。安く生産されているにもかかわらず、食味の向上のためにより高い値段で販売されている傾向にあります。この現象の是非については、このホームページでは触れません。しかし、石油と言う最も貴重な化石燃料の消費を抑制するのであれば、それぞれの地域の食糧生産性を高めることは有益と言えます。美味しいものが生産されることが、化石資源の消費の抑制になるのであれば、それは、便利なことと言えます。
4.炭素肥料を用いた全元素施肥栽培に関連するデータ 以上で検討したように、耕種農業では限られた耕地面積で最大の効果を上げるために、「利益率」ではなく「利益額」で評価することが一般的です。利益率で消化するのであれば、従来の無機栄養説に従う栽培が圧倒的に効率の良い生業と言えます。しかし、利益額で評価するのであれば、事情は異なります。JP1359005号によって提案された廃棄物の処理方法によって産出された土壌改良資材が、幅広い作物に利用され続けているのは、単位面積当たりの耕地が生み出す利益が大きくなるためと推測されます。 JP1359005号の実施例では、1反歩(1000u)当り2トンの処理残渣を土壌改良資材として施肥しています。そして、収量が1.9〜3.5倍に高まっています。 このホームページでは、その背景に「炭素肥料=有機物の植物へのリサイクル」がある、と推測しました。家畜糞尿のような汚物の中の有機物が、一旦、「ある種の有機金属化合物」へ転換されてから作物に吸収されている、と推測しています。 即ち、汚物の中の有機物が作物の有機物へ転換されたことになります。 このことが、当事者に対してどのような経済的な影響を及ぼすかは、状況により異なります。従って、関連する一般的なデータを添付し、若干の説明を補足するにとどめます。 
この表は、一般的な物品の市価をまとめたものです。地域によって、時代によって異なります。必要に応じて、其々が実状に近いものを作成して利用してください。単位を「千kcal」としていますが、sやL等での市価も併記しています。また、食材に特徴的な点として、「美味しものが高い」という傾向があります。この傾向に多くの人が納得しているように見受けます。こと農産品の素材についていえば、「炭素肥料=全元素施肥栽培」の視点から言えば、美味しいものが安く生産される傾向にあり、社会通念が自然の摂理に合致していないかもしれない、という疑問は生じます。 
この図表は、同様に千kcalの値段を示したものであり、バイオマスを「炭素肥料=全元素施肥」の考え方で耕種農業に活用した時に大きな価値が生まれる可能性を示唆しています。 
この表は、日本のバイオマスの発生量を示しています。さまざまな場所でバイオマスが発生していることが示されています。あまり実感の湧かない巨大な量といえます。家畜排せつ物の「8800万トン/年」は、日本の人口を一億二千六百万人としたときには、『一人毎日1900gの家畜糞尿』となります。これは、一人の1日の排泄量にほぼ等しい量です。なお、日本人は肉乳卵に関してほぼ半分を海外へ依存しているため、日本人の平均的な生活では、一人の排泄量の約2倍の家畜糞尿が発生していることになります。   この図表は、炭素肥料による栽培の時の大まかな傾向を示したものです。炭素肥料の影響によって収量が増し、糖度が高まり、また、シュウ酸によるエグミの強い作物ではエグミを軽減する効果が指摘されています。特に、野生のスズメがエグミが強いとされるホウレン草を啄ばむようになります。即ち、人間の評価ではなく、野生動物の習性をも変えるようにエグミが軽減されます。このため、全元素施肥による栽培では、収量の増大と単価の向上との相乗効果のために、従来の栽培に比べてより大きな価値を創造するものとみられます。 この章では、「有機金属」という従来ではあまり使用されていない化学物質を施肥することで、「有機物を植物にリサイクルする」という従来では想定されていない状況を生み出し、そして、耕地の生産量を高め、且、耕地の生産額を高めていることを概観しています。
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