第24章 全元素施肥から見た不足の要因と収量の推移
第24章では、これまでの耕種農業において、「何が不足していたのか?」という不足の要因に限定して概観します。 
1.植物の成長は「リービッヒの最少律」が支配 上の図は、「全元素施肥から見た不足の要因と収量の推移」を示したものです。 植物の成長は、「リービッヒの最少律」に従って成長しています。このことは、太古の昔から、未来永劫続く自然の摂理と考えられています。この現実を図の上段に示します。どのような生息環境であれ、植物はさまざまな成長要因の中で一番低い水準の要因に従って生育します。 このリービッヒの最少律に従いながらも耕地の生産性は徐々に高まっています。 安土桃山時代に太閤検地が行われて耕地の面積とコメの生産高が計量されました。その時に比べて、今日では様々な肥料が潤沢に利用することができるため、耕地の生産性は高まっています。 作物の栽培では、例外なく、万人が生産量が高まり、且、収穫される作物がより美味しくなることを祈念し、そして、そのための努力をしています。 耕地の生産性が高まったのは、1840年のリービッヒの無機栄養説とリービッヒの最少律の提唱により、栽培の向上に対する明確な指標が示されたことが大きな飛躍です。化学分析に基づく自然の摂理に従う明瞭な目標の設定は、世界中の耕種農業に明確な努力目標を与えました。
2.何が不足している要因か? 時代の推移と共に不足要因が変化しています。それは、概して、収量が上昇した時に「何が不足であったか」が把握しやすくなります。収量に変化がない状況では、「何が制限要因となっているか?」が理解できないために、収量が停滞している場合があります。このホームページでは、これまでの栽培では、3つの段階があったと考えています。 【1900年代初頭以前:NPKが不足】 NPK等無機化学肥料が完成したことで収量が飛躍的に高まりました。安土桃山・江戸時代という科学が存在しない時代の栽培では「NPK等無機養分が不足していた」と理解されました。即ち、1900年代初頭以前の栽培では、NPK等無機養分の不足によって収量が規制されていたと言えます。 【1900年代初頭〜現代:光合成が不足】 無機栄養説に従う化学肥料が完成している現代は、光と炭酸ガス濃度が不足していると言えます。結果として、光合成量が不足しています。しかし、現代の太陽光と炭酸ガス濃度は格別低い水準にあるのではなく、自然の風土の水準に他なりません。ただ、耕地の生産性をより高めるには、光合成を改善しなければなりません。このことは、植物工場における人工照明・高濃度CO2の下での栽培で収量が飛躍的に高まっていることから判りました。しかし、人工照明や施設のコストが非常に高く、更に、エネルギー消費が膨大であるために、人工照明や厳格な施設栽培が全面的に導入されることはありません。今の栽培の主力となっているNPK慣行農法は、1900年代初頭に完成し、そして、その生産性の上限は光合成によって規制されています。 【1980年〜:NPKは充分、COHもかなり充分、不足は環境要因か?】 1980年に提案されたJP1359005号の実施例が、人工照明や高濃度炭酸ガスを利用することなく、激しく収量を高めています。その原因は、「ある種の有機金属化合物」が作物に有機物を導入していることが推測されます。 植物が有機物を吸収することは、これまでの植物の性質の理解では否定されていることです。これまでの理解では、土壌において有機物はカビや微生物の生分解作用によって炭酸ガスと水とまで分解される、と考えられていました。 ところが、ある種の有機金属は生分解作用を受けずに、植物に吸収され、植物に有機物を補給することができます。その結果、従来の無機養分の施肥技術にこの有機金属化合物を追加することで植物が必要とする17元素の全てを人為的に供給できることになります。植物が有機物を吸収できることになれば、擬似的に光合成産物の獲得になり、光合成の助勢と見ることができます。 NPK等の無機養分の植物への供給は非常に大きな収量の領域まで対処できることが判っています。このため、今の栽培では、圧倒的に光合成の水準が低いといえます。JP1359005号の増収の理由は、作物に有機物を与えることで、擬似的に光合成を助勢していると見ることができます。
3.さまざまな栽培の取組が混在 現在の農業生産は、圧倒的に供給過剰です。先端的な農業形態では巨大な動力を持つ農機が四六時中無人で稼働し、衛星からの信号で寸分の狂いもなく正確無比が農耕を続けています。人は燃料を補給し、多数の農機が指示通りの稼働をしていることを画像で確認するだけです。そして、僅かな人の手で膨大な人のための食料が生産されています。人工的な動力がない時代では、大多数の人が生き永らえるための必要最低限の食料を手にするだけで精一杯であったものが、今の先端技術を駆使すれば、ほとんど額に汗することなく食料が生産できます。 この大供給過剰のために、食糧生産の重要性は低下しています。それで、耕地の生産性についても「これ以上高める必要はない」という見方も提案されています。 肥料と農機とを潤沢に利用できる先進国の農業では、ほぼその生産性は上限に達しているように見受けられます。勿論、その上限とは無機栄養説に従う上限です。即ち、露地栽培においては、自然の光合成が上限を規制しています。前項でいえば【1900年代初頭〜現代】の生産性に当たります。 処が、肥料も農機も不足している地域が多数あります。次の図では、茶色の矢印が低い地域である、インド、アフリカ、中南米、東欧、旧ソ連圏等では肥料の消費量や耕地の生産性から見れば、改善の余地が大きいと言えます。 取り分け、農機が不足している地域の耕地の生産性の向上は効果が大きいといえます。これらの地域は、周囲に広大な緑があるために炭素肥料の生産は比較的簡単であり、それぞれの地域の資源の活用で、一気に青色の矢印の領域へ移行することができます。 
4.リービッヒの最少律の要因と具体的な手当と収量の関係 栽培における作物の生育を規制している制限要因を第5章に示したドベネックの桶で概観します。 
このドベネックの桶は、作物にCOHを供給できる炭素肥料が存在することを前提に書きなおされています。 制限要因である桶の板は3枚になっています。「光合成COH」、「NPK…Ni(無機14元素)」および「他の要因(風土)」としています。 ■(A)桃色領域: 化学肥料が出現する前の昔の栽培では、収量が「1」という低い水準にありました。黒太線で示します。この時代の栽培では、NPK等無機養分が不足していました。しかし、それは、NPK化学肥料が潤沢に使用できる1906年以降に判ったことです。この昔の時代は、何が不足なのかもさっぱり判らない時代です。しかし、それぞれの風土の自然条件によって(A)桃色領域が充当されているために黒矢印の収量が達成されています。 ■(B)水色領域: NPK化学肥料が完成して、耕地の生産性は約「2.5」と向上しました。1906年から現在へ続く時代です。青太線です。それは、NPK…Niの無機14元素が十分に補給されたためです。その後の植物工場の出現で、NPK…Niの無機14元素の施肥技術は、収量が「100」の水準まで対応できることが確かめられました。(B)水色領域です。従って、今の普通の栽培においてはNPK…Niの無機14元素が不足する事態は考えられません。全て、作物が必要とする施肥量を充当できます。光合成さえ多くなれば、今のNPK等の施肥技術で法外な収量を達成できることは判っています。今の不足は光合成です。植物工場の実績がそのことを証明しています。 ■(C)緑色領域: ある種の有機金属を施肥することで、光合成の不足を補って生産性を高めることができました。(C)緑色領域と赤太線(破線)です。このグラフでは、収量は「4.5〜8.5」の水準です。破線に成っているのは、生産性を高めるとすれば、この破線の部分の改善によるものと推測される部分です。光合成の不足を、人工照明と高濃度CO2で補うことができるのは当然です。しかし、人工照明や高濃度CO2は費用が高すぎて利用できません。 光合成の代替として、「有機物の吸収」が有益でした。それが「炭素肥料=全元素施肥」と言う考え方です。
5.栽培の取組は「無機栄養説」に従っている 今日の栽培の基盤は「無機栄養説」です。NPK等の無機14元素については肥料が準備されています。 しかし、『炭素肥料』、『COH肥料』あるいは『エネルギー肥料』という見方は今の栽培にはありません。炭素C、酸素Oおよび水素Hの有機3元素は肥料には含まれていません。 このホームページで多用している「炭素肥料」、「COH肥料」、「エネルギー肥料」あるいは「全元素施肥」という用語は一般の辞書にはありません。このホームページで自然現象を説明する際に便利な語彙として用いています。 現在の栽培が「無機栄養説」に従う限り、大多数の人にとっての努力目標は、NPK…Niの無機14元素の施肥についての手当です。 このホームページでの検討によれば、現行の露地栽培・簡易ハウスの栽培において生産性の上限を規制している要因は光合成であり、「日照量」と「炭酸ガス濃度」です。どのようなNPK肥料を用いてもCOHは付加されません。光合成が制限要因になっている状況で、NPKなどの無機肥料は全くの無力です。上記のドベネックの桶でいえば、自然の光合成の水準が「2.5」で、それに見合う無機養分は既に充分に手当されています。一般的な肥料をどのように施肥しても、収量を高めることはできません。 先進諸国の農業の生産性は、上記のドベネックの図の青太線で示される水準にへばり付いた状態と言えます。ほぼ、耕作者の全員の収量が、この青太線の近傍に分布していると言えます。
6.炭素肥料=植物が有機物を吸収する…という見方でなければ改善できない このような状況は、原理的には1906年のハーバーの空中窒素の固定に成功した時点で生まれた状況です。そして、いろいろな紆余曲折はあるにせよ、今の栽培は青太線が上限となっています。この上限は、其々の風土の光合成によって制約を受ける水準です。 光合成を増強するために、擬似的に有機物を吸収させる手法が可能です。 そのためには、「無機栄養説」から脱却しなければなりません。 今のさまざまな栽培の在り方についての考え方を見ても、大方は無機栄養説に基づく施肥の種類と肥培管理です。 このホームページでは、ある種の有機金属化合物が「炭素肥料」として機能し、植物に有機物としてのCOHを供給しているとしています。上記の図では、上向きの赤太矢印であり、COHの水準が高まることで、収量が高まります。また、収量が高まることでNPK等の施肥設計もより高い水準の収量に見合うものとなり、更に、肥培管理や栽培期間の観察による適切な追肥が要求されます。そして、炭素肥料の施肥で収量が高まることを認識した時に、その新しい高い水準に見合う施肥設計と肥培管理とを構築することになります。
今の大多数の人は、無機栄養説に従う栽培を念頭に置いているために、上の図では、収量が「2.5」以下の範囲での栽培に止まります。
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