老化は何故起こる?
老化のプログラムは遺伝子に書き込まれていません。なぜ老化現象は起こるのでしょうか?人間の体の組織・臓器には、一生の間、細胞増殖をほとんどしない非再生組織(神経や筋肉など)と常にあるいは必要に応じて細胞増殖を行う再生組織(皮膚、消化管、呼吸器などの上皮や肝など)に分類できます。
 私たちは食物を消化し、吸収された炭水化物や脂肪酸などを細胞内で燃焼してエネルギーを得ています。このときに、酸素は正常な燃焼に使われ水になりますが、一部は活性酸素と呼ばれる化学的反応性に富む副産物を形成します。活性酸素は、DNAやリン脂質、蛋白質などを酸化して傷つけます。このように私たちが酸素を利用してエネルギーを得ている限り、副産物の活性酸素の発生とその結果生じる細胞障害は免れることができません。
非再生組織では、活性酸素による細胞障害が加齢とともに蓄積され、細胞機能の低下(老化)が起こるとされています。一方、再生組織では、1つの細胞に活性酸素による障害が生じても、細胞分裂の結果、その障害は2つの娘細胞に希釈され受け渡されるため、障害が蓄積しにくいのです。ではなぜ再生組織の老化が起こるのでしょうか?

細胞が分裂するとき、DNAはコピーされる必要があります。これを複製と呼びます。また、DNAの両末端をテロメアと呼びます。DNAの複製の際、テロメア部分のコピーが完全には行われず、できた2本のDNAは元のDNAに比べて末端が少しだけ短くなることが知られています。1回の細胞分裂で短小化するテロメアDNAはわずかであっても、一生の間の莫大な数の細胞分裂の繰り返しによって、テロメアは次第に短小化し、ついにはある閾値に達してしまいます。そうなると、細胞分裂は停止し、この状態が細胞老化と呼ばれ、細胞分裂が必要な時にも分裂が行われず、その組織は次第に機能が低下し老化をもたらします。

このように、老化はある年齢以上に達してはじめて起こるものではなく、代謝活動の代償であるゆえ、老化を完全に阻止することはできません。では、老化を遅延させることは可能でしょうか?それは、余分な活性酸素生産、テロメア短小化を防ぐことです。たとえば、喫煙による気管上皮の障害を繰り返すと、気管上皮は障害を修復するために非喫煙者よりも速い速度で増殖を行います。その結果、喫煙者の気管上皮が一生の間に行う細胞分裂回数ははるかに多くなり、若年のうちに気管上皮が細胞老化状態となり、肺の機能異常、肺癌の発生などを起こしやすくなります。したがって、生理的活動を行うためにはやむをえない活性酸素産生やテロメア短小化は必要悪と考えられますが、生活習慣による無駄な活性酸素産生やテロメア短小化をできるだけ少なくすることが、固体老化を遅らせることの鍵であると考えられます。