病院にかかる

1. 2000年9月・10月

●病院にかかることを軸に、自分の気持ちを書き留めます。

●ここの文章には、書き表されている表現以上の意味はありません。
 特に、お医者さんとのやりとりについては、これからの自分にとって大切だと思ったことを心に刻もうと記したものです。責めたり褒めたりというように、お医者さんの言葉を何か吟味しようというものではありません。

●お医者さんの言葉は、おっしゃったそのままの言葉ではありません。私の解釈で、要約しています。

●日記をもとに掲載しています。一人称の使い方などは今と変わっていますが、そのまま掲載します。

2000年9月

  •  ある病院の代表番号へ電話。「ジェンダークリニックにかかりたい」との旨を伝える。
     が、通じない。聞いたことのない言葉なのかなと思った。総合案内へ回されるが、ここでも伝わらない。「精神科だと思う」と告げると、そこへ回された。「あ、ジェンダー外来ですね」と、(たぶん)看護婦さんの声。何だか明るい声でほっとしたが、結局ここへは行かず、違う病院をたずねることにした。

2000年10月 初めての診察

  •  約1か月躊躇した。しかしやはり思い詰めて、行こうと思っていた病院へ電話する。代表電話で精神科に回してもらい、「性別違和で悩んでいる」と伝えると、看護婦さんらしき声で、「性同一性障害ですね」と返ってきた。そうストレートに言われると戸惑うが、こちらも覚悟の上のことなので、受付時間・曜日などを聞く。専門の先生が来る日を、確かめなければならない。
  •  病院に着く。診察受付の用紙に記入しなければならない。案内の人が親切に教えてくれる。「どのような症状か」と聞く欄がある。案内の人の視線を感じながら、「性別に対する違和感」と記入する。病院にかかる以上、院内の人(職員・看護婦さん)に自分の悩みが知られるのは、覚悟の上である。
     遡れば、病院にかかろうかと思ってから1年は経つが、頭の片隅にはいつも、看護婦さんにどう思われるのだろうかというおそれがあった。「男が女になるなんて気持ち悪い」と思う人が世の中にはいることを、僕は知っている。だから、笑顔の向こうに何があるのか、僕はこわい。
  •  精神科の受付で、問診票を渡される。「ジェンダークリニック」との文字が見える。ここは医療チームができているのだと、安心する。
     問診票は、結構項目が多い。かなり立ち入った質問である。が、僕はそれ以上に書き込んだ。書きたいことがあった。いまどのようにつらいかを書いた。この作業のおかげで、だいぶ緊張がほぐれた。少なくとも、診察室で面と向かっていきなり説明を求められなくてすむわけだ。
  •  担当医と話す前に、予診があった。「初診の場合、下で働く医師が予診をする」と、「下で働く」その先生は言った。この時はすでに、日常会話のように自分のことを話すことができた。
     ここに来る前に僕はいろんなことを想像していた。泣いてしまわないかとか、何も言えなくて黙ってしまわないかとか。でも、本当に普通にしゃべることができた。お医者さんが丁寧に、極めて謙虚な話し言葉で対応してくれたからかもしれない。問診票に一度書いたからかもしれない。受付から1時間以上の時間が落ち着かせてくれたのかもしれない。
  •  予診の先生には、子どもの時の感じ方はどうだったかとか、衣服のこととか(ちなみに僕はその日、ジーパンにジージャンにスニーカーだった)、今の気持ちがいつごろから始まったかとか、同性のことをどう感じていたかとか、家族の構成とかを聞かれた。
  •  昼食を挟んで、本診察に入った。予診の先生と同じようなことを聞かれた。だいたいは問診票にも書たから、僕は補足的な話をした。
     中・高校の制服をどう思っていたか、子どものころ化粧品や女の子の服を着けたことはなかったか、同性に惹かれたことはなかったか、死のうと思ったことはあるか……。
  •  まず見立てをしないといけないようだった。診断の後に治療なんだ、今は診断する時間なんだ、だから、こちらが悩みをうち明けると言うよりも質問に答えるという感じなんだ、と、僕は理解した。診断が出れば治療で、学会のガイドライン通り精神療法から入るわけなんだ。
  •  僕は、自分がどれだけ思い詰めているかを、話した。思い詰めて他にしようがなくなったから、ここへ来たのだ。「ホルモンを打ってしまっても看てくれるか」と聞いたら、「すぐにでもしたいんだね」と察してくれた。次回の診察も、早めてくれた。次回は、ホルモンや遺伝子の検査もすることになった。「(ホルモンを)他で打ってしまいそうになったら、その前にいつでも電話して」と言ってくれた。
     僕は、できるだけ学会のガイドラインに沿って治療を受けたいと思っている。アフターケアのことが心配だからだ。公に認められた医療を受けていれば、治療後の異常についても気兼ねなく受診できる。僕の気持ちの問題にしかすぎないかもしれないけれど。
     でも、あまり時間がかかると待ちきれないとも思っている。ぎりぎりせっぱつまって、この病院を訪れているのだ。しかし、お医者さんがこう言ってくれ、次回の診察も早めてくれたから、今は待てる気がしている。

2000年10月23日 2回目の診察

  • 先月からの心の動きを話す。30分ほど、主治医と話をする。

     先生からの話
     「あなたは、長い期間で見ると、女になりたいという思いが大きく変化してきている。特にこの間は思いが強くなっている。ということは、今後も変わる可能性がある。もっと気持ちが強くなるかもしれないし、弱くなるかもしれない」

     「つらいだろうということはよくわかる。今がつらい時期だろうと思う。変更を望んでから長い時間を経ている人が積み重ねているようなある種の慣れというものが、まだないのだから」
  • 泌尿器科へまわって、検査をする。胸や体毛・性器などの目診、前立腺の触診。性器の計測。採血(コレステロール値、染色体、ホルモンなどの検査のため)

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