【アクアの日常あるいは平穏な日々・アリスの1週間戦争】

 10巻「課外授業」、空白の1週間。もしもその間に陰謀が渦巻いていたとしたら・・・?


<ミッション1・濡れ衣作戦>

アリスと藍華、雪舞う冬の合同練習の帰り道。

藍華「ふーっ、きょうもお疲れ・・・て、後輩ちゃん、なんか不機嫌ね?」
アリス「藍華先輩。世の中に怒らない人って、本当にいるんでしょうか」
藍華「ああ、きょうのアリシアさんの話?」

アリス「お気に入りのマグが割れて、舟が漂流したのに。灯里先輩を一度も怒りませんでした。でっかいありえません」
藍華「そこがアリシアさんの偉いところよ。それに全部、不可抗力だったじゃん」

アリス「アリシアさんの冷静沈着な対応は、でっかい計算外です・・・マグの落下とロープの細工は、完璧だったのに」ちっ
藍華「待て待て待て待て!なんかヘンだと思ったら、きょうの全部、あんたの仕業かい!」
アリス「天野先生には内緒ですからね。そんなことより、こうなったら、なんとしても灯里先輩にでっかいミスをしてもらい、アリシアさんをキレさせましょう!藍華先輩も、協力してくれますよね?」
藍華「え?うーん、怒ったアリシアさんもちょっと興味あるかな・・・でもうまくいくかしら」

ちょっぴりダークなアリスの宣戦布告だったのです・・・


<ミッション2・偽装グラス作戦>

翌日のARIAカンパニー。

藍華「で、どうやって灯里のミスをとがめる気?」
アリス「ミスを待つのは非効率です。要は灯里先輩が、自分がミスしたと思い込めばいいのです」
藍華「具体的には?」
アリス「灯里先輩はきょう、舟で高級ネオ・ヴェネツィアングラスを運びます。そこで舟に商品を1個残してしまうというミスはどうでしょう」
藍華「それ、会社の信用問題にならない?」
アリス「ダミーのグラスを1万円で用意しました」
藍華「よーするに、ねつ造じゃん」
アリス「すぐに疑いは晴れます。アリシアさんが怒れば作戦完了ですから」

藍華「大変です、アリシアさん!」
アリシア「どうしたの?アリスちゃんに藍華ちゃん」
アリス「灯里先輩の舟から高級グラスが。商品じゃありませんか?」
アリシア「あら大変!・・・まずいわね。灯里ちゃんを呼んで頂戴」

灯里「アリシアさん、急用ってなんでしょう?」
アリシア「灯里ちゃん、ちょっと座って。舟から高級グラスが見つかったんだけど、心当たりはないかしら」
灯里「あれえ?まだあったんですかあ。お礼の安売りグラス」
アリス・藍華「・・・へ?」

灯里「実は運んでいる間に、職人さんとすっかりお友達になっちゃって。観光客用の売れ残り、2〜3個置いてくよって言われたんです。あれー、まだ1個、残っていたんだあ」
藍華(うわっ、またお友達パワー炸裂かよ!)
アリシア「でもこのグラス、色使いがいいし・・・彫りも仕上げも一級品よ。安物には見えないわ」

灯里「ぶっちゃけ私、この世には嘘モノはないって思うんです・・・でもこりゃどー見てもイミテーションですよ」あははは
アリス(言ってることが矛盾してるだろ!)
アリシア「小さいグラスだけど、1万円はするんじゃないかしら」
灯里「ないないない、安物!500円!アリシアさん、見る目ないなあ」
アリス・藍華(見る目がないのは、お前だっ!)

灯里「そうだアリシアさん。昨日のマグのお詫びにそれ、さしあげますよ」
藍華(安物呼ばわりしといて、上司に譲るかフツー?)
アリシア「そう?私は気に入ったけど・・・じゃあ取引先に電話して、欠品がないようだったらいただくわ。これでおあいこね、灯里ちゃん」
アリス(1万円が・・・私の1万円が・・・)
灯里「あれ、どうしたのアリスちゃん。涙目になってるよ」

ミッション、失敗。


<ミッション3・乗りかかった舟作戦>

藍華「きのうは派手に空振りしたわね。きょうはどうするの」
アリス「仕掛けが婉曲に過ぎました。もっと灯里先輩の直接的な大失敗じゃないと。きょうの合同練習、アリシアさんも同乗しますよね?」
藍華「うん、そのはずだけど」
アリス「灯里先輩のエスコートでアリシアさんが乗る瞬間、舟を揺らしてアリシアさんを海に落とします」
藍華「げ。そこまでやりますか」
アリス「大義のためには、時には小義を捨てるのです」
藍華「お嬢さま。あたくし理解しかねるのですが、どこからどの辺までが大義なのか、説明してくれませんこと?」

舟に乗る3人娘。
アリシア「では水先案内人さん。エスコートをお願いできますか?」
灯里「はい、お客様。お手をどうぞ」
アリス(・・・今です!)
藍華(アイアイサー)
ぐらぐらぐら!

灯里「きゃーっ!」
アリシア「灯里ちゃん、私に捕まって!」
藍華(あれ?アリシアさん、立っているのに落ちない・・・)
アリス(もう一押しです。えいえい!)
藍華「ちょっと後輩ちゃん、揺らしすぎ・・・きゃああああ!」
アリス「藍華先輩っ!いきなりつかむのは反則・・・ひえええええ!」
ざぶーん。じゃばーん。

藍華「・・・冬の海ね」へっくし
アリス「・・・身を切る冷たさ、って奴ですかね」くしゅん
アリシア「二人とも大丈夫?横波は急に来るから、注意しないと」
灯里「さすがアリシアさん、素晴らしい平衡感覚ですぅ」
藍華・アリス(忘れてた・・・三大妖精の技術って、ダテじゃないんだった)

ミッション、失敗。


<ミッション4・ドリフ作戦>

ARIAカンパニーの一室で、密談する2人。

藍華「で?きょうはどうやってアリシアさんを怒らせる気?」
アリス「今回の計画は完璧です。この部屋の扉と階段にヒモを結び、上にタライを仕掛けました」
藍華「灯里の失敗、関係ねーじゃん!」
アリス「『ざまあみろ。はひ』と書いた、犯行声明のメモも用意しました。仕事から戻ってきたアリシアさんが扉を開けると、タライが直撃します。その後、水が落ちます。これなら100%キレます」

藍華「それって、地球の日本で300年前にあったギャグじゃないかしら」
アリス「古典ゆえに確実です。しかし火星で金属のタライを探すのは苦労しました」
藍華「後輩ちゃん。その暗い情念を、もっと有意義な方向に向けるべきじゃないの?」
アリス「シャーラップ。今はこのミッションが最優先課題なのです」
アリシア「2人とも、楽しそうね。何が優先なのかしら」うふふ?
2人「・・・え?」

アリス「あ!あのあのあの・・・アリシアさん。どどど、どこから部屋に?」
アリシア「床下の非常はしご。急ぐ時は重宝するのよ。知らなかった?」
アリス「そ・・・それは存じ上げませんでした」(大汗)
アリシア「それより、今から舟協会の幹部の人が来るの。悪いけど、部屋を片付けてくれないかしら」

アリス「え?えええええっ!そ、その前にタライを外・・・」
アリシア「ん?なあに?」
アリス「いえ、ななな何でもありません。ちょっと失礼します!」
藍華「あ、後輩ちゃん!その扉、ダメーーーっ!」
アリス「へ?」
かこーーーーん。ざばーーーーん。

アリス「・・・」くしゅん
アリシア「あら、このメモ・・・灯里ちゃんもいたずらっ子ね。帰ったらよーく言い聞かせるから、許してね。ちょうどタライもあるし、一緒に床をふきましょう」
アリス「はい・・・」くしゅん

ミッション、失敗。


<ミッション5・羽根つき作戦>

藍華「だんだん越後屋とお代官様の気分になってきたわ」
アリス「越後屋って何ですか?そうそう、今回のミッションは日本の古い風習にヒントを得ました。名づけて、羽根つき作戦」
藍華「ああ、羽子板で羽根をついて、負けたら顔に筆で墨を塗るって奴?」
アリス「お昼寝しているアリシアさんを墨汁でパンダ顔にします。ついでに『ほへ』と書けば、偽装も完璧」
藍華「羽根つき、してねーじゃん」

アリシア「すやすや・・・」
アリス(今です。藍華先輩、いきますよ)
アリシア「すやすや・・・うーん、もう食べられないッ!」
アリス(!!)
藍華(何?今のは何?)
アリス(寝言です。日本の古典漫画で100回は使われたギャグです。心配要りません。いきますよ、今度こそ!)

アリシア「すやすや・・・チョモランマーーーっ!!」
アリス(!!)
藍華(何?今のは何?)
アリス(寝言です。日本の古典アニメで1回使われた記録があります)
藍華(後輩ちゃん。越後屋も知らずに、何でそんなこと詳しいの?)
アリス(説明は後です・・・今度こそ、いきますよ!)

灯里「ただいまー!あれ二人とも、筆と墨汁持って何してるの?」
アリス「うっ・・・その・・・!!」
藍華「これ?・・・えへへー、その・・・あ、羽根つき!羽根つきしてたの!」
灯里「そうなんだー。私も昔、日本でやったよー。あ、アリスちゃんが筆持ってるってことは、藍華ちゃんが負けたんだね?」
アリス「へ?・・・ああ、そうなんです!藍華先輩、覚悟してくださいね」
ぬりぬりぬりぬり。
藍華「ぎゃーーーす!」

藍華「ちょっと後輩ちゃん!もっとマシな言い訳、思いつかないの?!」
アリス「羽根つきってフォローしたの藍華先輩じゃないですか!だったらこの展開しかないでしょ?」
藍華「じゃあ、あんたも一緒に負けたことにするわ!くらえ、墨汁!」
アリス「ぎゃああああ!や、やりやがったなあ、このトゲバラ女!」
藍華「なんだとー、このミカン小娘!」
灯里「やめて、二人とも墨汁が・・・きゃああ!目が、目がーーーっ!」
アリシア「すやすや・・・人がゴミのようだわ・・・すやすや」

ミッション、失敗。


<ミッション6・あらあら作戦>

藍華「後輩ちゃん・・・もうやめようよ」
アリス「ダメです。使いたくなかったのですが、奥の手を使います」
藍華「聞くのが怖い気がするわ」
アリス「アリシアさんの制服の合わせ糸を、水で溶ける糸に縫いかえました。舟を漕いでいると突然背中が開いて、あらあらいやーんになるのです。このミッションなら、いかなる聖人君子淑女もキレます」
藍華「そりゃそうだけど、バレたら半殺しね・・・後輩ちゃん、最近フォースの暗黒面に堕ちてない?」

晃「よう藍華、アリスちゃん。合同練習は順調か?」
アテナ「こんにちは、藍華ちゃん、アリスちゃん」
アリス「あ、どうも・・・って、ええっ!!」
藍華「あ、晃さんにアテナさん・・・って、ななな、何でARIAカンパニーの制服着てるんですかっ?!」
晃「ん?ああ、月刊ウンディーネの撮影なんだけど、アリシアが毎度同じ制服じゃ面白くないからって提案してさ。アテナとスペアを借りたんだ」
2人「・・・」(玉汗)

晃「どうした?似合ってないかな。ちょっときついから下脱ごうかな」
藍華「ひ、必要ありません!よよよ、よくお似合いです!」
晃「なんだあ藍華。アリシアの服に、なんか仕掛けたのか?あははは」
藍華「めめめめめ滅相もございません!糸をすりかえるとかしませんよ?」
晃「糸?ふーん、そうか。なんか変だな。じゃあ、行ってくる」
ばたん。しーーーーん。

アリス(アリシアさんの危機回避能力と晃先輩の勘の鋭さは、でっかい予想外です)
藍華(撮影って・・・ちょっと後輩ちゃん!例の服、誰が着たのかしら?)
アリス(確率3分の1ですが・・・オチが読めた気がします)
藍華(それって、私が殺されるってオチ?!)
アリス(ミッションには犠牲がつきものです。骨は拾います)
藍華(ぎゃぴーーーーっ!)

アリス「その後、晃先輩と藍華先輩の身に何が起きたかは、ここではとても書くことができません。みなさまのご想像にお任せします。合掌」

ミッション、失敗。


・・・翌日の学校の帰り道、次なる作戦を思案中のアリスちゃんは、アリシアさんと鉢合わせ。相当焦りましたが(藍華談「そりゃそうだわ」)、最後はアリシアさんの灯里ちゃんに対する思いの深さに、脱帽したのでした。

ところが、戦いはそこで終わらなかったのです。


<ミッション7・最後の聖戦>

学校の帰り道、アリシアさんの心の広さに感服したアリス。ARIAカンパニーで藍華とも合流し、3人で仲良くお茶を飲む、平和な光景が戻りました・・・

アリス「やっぱりアリシアさんはすごいです!」
灯里「どうしたの?アリスちゃん、きょうはすごくうれしそう」
アリス「この1週間、実は色々あったのですが、アリシアさんを見直しました!」
藍華「色々ねえ。命があるのが不思議な1週間だったわ。半殺しにはされたけど」
アリス「アリシアさんが怒らないって本当だったんですね!でっかい尊敬です」
灯里「・・・」

灯里「あのね、アリスちゃん。誤解しちゃってたら申し訳ないんだけど」
アリス「なんでしょう?」
灯里「私アリシアさんに叱られたことや怒ったトコを見たことがないって言ったけど」
アリス「ええ、そうでしたね」
灯里「アリシアさんが怒らないとか怖くないとかは、一言も言ってないよ?」
アリス「??」

アリシア「藍華ちゃんも合流したのね。仲良く何の話?」
アリス「あ、アリシアさんの話です!すごい尊敬できる先輩だって」
アリシア「あらあら、恥ずかしいな」
アリス「なんて言うか、私が絶対かなわない大人の包容力というか・・・そう、年の功!年季の差と申しますか、でっかい年の功と言いましょうか!」

ぴしっ。

アリシア「年季の差・・・年の功・・・もうすぐ大台・・・さよなら青春・・・」
灯里「私、急用思い出しました。さよなら!」ぴゅ〜〜〜〜〜〜〜
藍華「あのーアリシアさん・・・言ってない言葉まで、脳内変換してません?」
アリス「あと、心が広いというか、度量が広いというか・・・そう、太っ腹!貫禄と申しますか、でっかい太っ腹と言いましょうか!」

ぴしぴしっ。

アリシア「貫禄・・・太っ腹・・・先月2キロ増・・・メタボ妖精・・・」
藍華「私、急用思い出しました。さよなら!」ぴゅ〜〜〜〜〜〜〜

アリシア「アリスちゃん。私たち2人っきりって、2度目かしら?」うふふ
アリス「はい!」
アリシア「そうそう私、生クリームたっぷりの、新しい特製ココアの作り方を覚えたの」うふふ
アリス「いただきます!」
アリシア「そう・・・アリスちゃん、ミッションに無理強いは禁物よ。私なら、相手の方から乗ってくるまで「こっち」「こっち」と呼び続けるわ。それが私のやり方」うふふ
アリス「??」

・・・その晩。
アリシア「もしもし、アテナちゃん?アリスちゃん、きょう泊まっていくから。アリスちゃんったら、お昼にココアと間違えてタバスコとマスタード1びん飲んじゃったの!まだ火を噴いているのよ。おかしいわね」うふふ
アテナ「アリシアちゃん・・・事情は聞かないから、ほどほどにお願いね・・・」

ミッション、完了。

(2008年1月)


●ぷに絵

アリシア「あら?」

アリス「・・・・・・」



<アリスの1週間戦争・後日談>


アリス「この話に続きがあるの知ってます?」
藍華・灯里「え?」

アリス「原作では確かに『課外授業』は収録されましたが、なぜか問題の1週間の記載はありませんし、そもそもアリシアさんがキレる話は、マンガでもアニメでもまったくなかったそうです」
藍華・灯里「・・・」
アリス「この話は、マンホームで誰かが広めた作り話なんだそうです」
藍華・灯里「・・・」

藍華「つまりアリシアさんがキレるっていうのはデマ話で、ARIAの本編にはそんな話はいっさいなかったと?」
アリス「はい」
藍華「でも今回のアリスちゃんを含めて、ネオ・ヴェネツィアには目撃例がけっこうあるわよねえ?」
アリス「はい」
藍華「それっておかしいじゃん・・・何で天野先生が描かなかったキレるアリシアさんが、未来のこの街に実際にいるのよ?」



アリシア「だから怖いんじゃないかしら」うふふ

「・・・・・・」


ぎゃぴーーーーーーっ!!!

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