「向こうへ行ったぞ!」

「この、コソドロが! 逃げられると思うなッ」

 深い暗がりの先にある曲がり角。
 わずかに、はためいて見える布が、不敵に手を振るように見えた。

 それが少女のはくスカートだと、恐らく誰も気づいていない。

「(コソドロねぇ。あんた達だって、おおかた裏の売人辺りから『これ』を仕入れたんでしょうに……)」

 闇の中を疾走するは、14〜15歳程度の女の子。
 隣に漆黒のポケモンを連れ走る彼女は、背後をあざ笑う俊敏の動きで、追っ手をかく乱させていく。

 少女は、月明かりの差し込む窓の近くへやって来た。
 今いるのは、ビルらしき建物の中なのだ。
 ふと、彼女は窓から下を眺める。
 ぱっと見、現在位置は4階程度の高さだろうか。

「これなら行けるわよね、イクリス?」

 シャーっと、低く鳴いた漆黒のポケモンに、少女はその背から抱きかかえるようにしてつかまった。
 するとポケモンは、全くためらいもせずに窓から飛び出す。

「あっ」

 追跡者達が辿り着いた時には、すでに手遅れ。
 がっちりつかまる少女の重量などものともせず、ポケモンは垂直の壁を駆け下りて行った。

「……逃げられたか」

「貴様! 全く、何をやっているか!」

 今まで少女……と言っても、彼は相手が男か女かも確認できず終いだったようだが。
 とにかく、その彼女を追いかけていた男は、すぐ後ろから別の中年男性に怒鳴られた。

「も、申し訳ありません。社長」

「謝って済む問題か! あの珠の美しさなら、オークションにかければかなりの額で売れたであろうに……。苦労して入手した品だったというのに、あんな訳の分からんコソドロ相手に奪われるとは!」

「……たっ、大変です!」

 そこへ更に別の男が、社長と呼ばれた者のそばへと駆け寄る。

「今度はどうした!?」

「け、警察が……強制捜査をしに来たとかで……! 我が社の不正が、バレたようです!」

「……な、何ぃ!!?」

 自業自得とはいえ、その社長はこの日を厄日だと思わずにはいられなかっただろう。
 だが、その結果……この会社は盗難に遭ったどころの騒ぎではなくなり、コソドロ事件に関しても闇へと葬られたのであった。

 

 

 

Prologue

 

 

 

 乳白色の柱は、広間の中を美しく整列していた。
 少年と少女、そして1匹のブラッキーは、広間の端を並んで歩いている。

 日本人らしい黒眼黒髪をした少年に対し。
 少女は緑眼を持ち、髪は茶色に近いオレンジといった外見。

 スカートとズボンを一緒にはいた格好をしており、17歳の少年と比べて2〜3ほど年下に見える。

「なぁ。今朝のニュース、見たかよ?」

 聖堂、という単語を連想できる場所だった。

 普通の建物と比べ、明らかに高い位置にある天井の付近には、幾枚かのステンドグラスが並ぶ。
 それは外から来る日の光を、鮮やかな色々に塗り替えていく。

 明るく灯された空間内だった為、はっきりと伺える程ではないが。
 こうして生まれた何色もの光が、柔らかく内部へと差し込んでいた。

「あの、お前が忍び込んだっていう会社の重役達。みーんな捕まったらしいな」

「元々が、ロクでもない所っぽかったからね」

 少女は、率直な言い回しで返答する。
 一方ブラッキーはというと、その少女へと寄り添うようにしながら歩いていた。
 どうやらこのポケモン、彼女の方が連れているブラッキーのようだ。

「ま。あたしとしては、盗難事件がうやむやになった方が好都合で良かったけど」

「そうか? 仮に警察の捜査が及んだとしても、ティシアなら全部返り討ちにしちまうだろ」

 少年の口調も、極めて率直な口ぶり。

「何をするにしても、ティシアは強いしな。まったく、何でこんなバケモノみたいな女に育ったのやら」

「なっ、ちょっとタイチ!」

 ティシアと呼ばれた少女が、ムっとするのも当然の言われ様。
 隣を行く少年こと太智(タイチ)に、両手の拳をポカポカ打ち付ける。

「それが、許婚(いいなずけ)に対して言う言葉かー!」

「わりぃわりぃ。けど、ティシアも大変だよな。祭主様の指示とはいえ、結構コキ使わされてね?」

「……あたしの任務なんだもの。今更どうこう言ったって、しょうがないでしょ」

「そっか。でも、あんま無理すんなよ」

 壁際を歩いていたタイチは、ふと聖堂内の中央路へと目をやった。
 大人の神官数名と共にゆっくり歩く、ティシアと同年齢ほどの少女がいる。

「…………」

 顔はタイチ同様、日本人的なのだが、かなりの美少女と言えた。
 赤を基調とした巫女服のようなものを身にまとい、清廉な足運びでタイチらの横を過ぎていく。
 そのまま彼女は、神官達に促されるように歩み続けていった。

「大変って言えば、セレナ様よね」

 たった今、通り過ぎていった少女の名を、ティシアは口にする。
 名前からは判別しづらいが、前述の通り、日本人らしい顔をしていた。

「祭主様の娘ってだけで、巫女にされちゃうなんて。あたしだったら、そんな束縛された環境耐えられなーい」

「……うーん、いつ見てもすげぇ可愛いよな」

 ティシアの顔が、ピクっと一瞬ひきつる。

「セレナ様って、14歳だろ? 大体からして、その歳であのスタイルは反則だろ。特に胸……」

 ずぎゃっ!

 タイチのわき腹辺りに、ティシアの手がめり込んでいた。
 グーかと思えば、わざと指を立てた形での地獄突き状態。

「ぐぇ……。何っすん……だ……」

 一瞬にしてタイチが悶えたのは、言うまでもない。

「嫌らしい目で見てたから、ちょっとした洗礼よっ」

「つか、今の攻撃音ぜってぇおかしいから!!」

 タイチが叫び返しても、つーんとしながらティシアはそっぽを向くばかり。

「……何だよ。ひょっとして、妬いてるのか?」

「なっ!?」

「心配すんなって♪ ティシアも、負けず劣らずいい体してっからよ」

 ポンポンと、ティシアの尻を二度ほど弱く叩いてみる。

「きゃっ!!」

「そういや、お前もセレナ様と同じ14歳だったよな。最近の子って、みんな大人なんd……」

 まぁ直後に、釣り上がった目つきでティシアがかかと落としを炸裂させる訳で。
 刹那の間、脳がブラックアウトしたタイチは、気づけば床にへばりついていた。

「このセクハラ男……いきなり何するか!」

「な……何って、そりゃこっちのセリフだッ……。どうせ許婚なら、将来結婚するんだし同じk……あだだだだ!!?」

「…………」

「ま、待てよ! こっちだってなぁ。我満して、胸じゃなく尻にしてやtt……あぎゃぎゃぎゃぎゃッ!!?」

「……それで、許しを乞うてるつもりか」

 ぐりぐりぐり〜……と、タイチの背に右足を捻りながら、何度も何度もえぐってゆく。
 そのたびに響くタイチの悲鳴が、状況を知らぬ者が聞けば実に愉快な声色であったとか、なんとか。

 そんな折檻(せっかん)な刻に終わりと告げたに来たのは、歩み寄ってきた1人の神官。
 先ほど巫女セレナに付き添っていたのと、また別の人物のようだ。

「そろそろ……よろしいかな?」

 やや言いづらそ〜に、彼はそっと声をかけてきた。

「え? あ、はい」

 なおもタイチの背に足を乗せたまま、ティシアは顔を向ける。

「祭主様が待っている。ティシアに、すぐに来て欲しいとの事だ」

「分かりました。行くわよ、イクリス!」

「シャーっ!」

 イクリス。
 そう呼ばれたブラッキーは、低く鳴いてティシアに答える。

 そしてティシアは最後に、左足で踏み出すのをタイチへのトドメの一撃として。
 ……ぐしゃ。

「うげっ!?」

 たたたっと、ティシアとブラッキーは並んだまま、祭主の部屋へと駆けてゆくのだった。

 

 

 

 戸を開けると、中には数名の神官と共に男性が待っていた。

 この、聖堂とおぼしき場所の主。
 周りから、『祭主様』と呼ばれる男だ。

 そこまで年配という印象は全くなく。
 何らかの長と名乗るにしては、若めの印象がある。

「失礼します」

「ティシアだな。昨晩のご神体奪還の仕事は、ご苦労だった」

 ティシアが室内に入ると、早速祭主が言葉をかけた。

「年端のゆかぬ女子(おなご)に、泥棒まがいの事をさせてしまったのは少し心苦しいが、よくやってくれた」

「(まがいどころか、完璧に泥棒だったんじゃ……)」

 ……とは思ったが、あえてそれを口にする事せず。

「まぁ、あんまり気にしないでください、祭主様。そもそもご神体を持っていたトコだって、すぐに警察に捕まっちゃうような連中だったんですから」

「うむ。しかし戻って来たとはいえ、ご神体を行方不明にさせてしまった事は前代未聞の失態……。ご先祖様に申し訳が立たんな」

「(てゆーか、行方不明も何も、明らかに盗まれたから無くなったんでしょ。単に、聖堂内の警備が甘かっただけのような……)」

 内心で、ひたすらツッコミを続けるティシア。
 このまま、ぐだぐだ話を聞いても、学校の朝礼における校長の催眠トーク並みに眠気を催しかねない。
 さっさと話を済ませようと、彼女はさくっと祭主に問う。

「それで、あの……今度は何ですか? また任務ができたから、あたしを呼び出したのでは」

「おぉ、そうだった。まずは、この書類を見ておくれ」

 祭主は、1つの封筒をティシアに手渡す。
 のり付けがされていなかったので、すぐにティシアは中を見て確認する事ができたのだが。
 途端、彼女は目を丸くする。

「……何ですか、これ?」

「紹介状だ。君についてのな」

「って事は、つまり……」

「そういう事だ。ティシア、君の力であれば、それをこなせるであろう」

 紙に目が釘付けになっていたティシアは、それを聞いて祭主の方へと向き直す。
 改めて祭主は深く頷き、言葉を続けた。

「君には、我々『煌(こう)』一族の者の代表となってもらいたい。一族の1人が『その立場』に立つ事で、大きな利となるのだ」

「その役目を、このあたしに?」

「君の耳にも届いてるであろうが……我々は今、危機に瀕しているかも知れないのだ。お告げにある、『煌』に破滅をもたらす者の存在によってな」

「……!」

 それを聞いて、ティシアは顔をこわばらせる。

「それが真実なのかは定かでないが、我々はそんな未来を受け入れる訳にはいかん」

「……はい」

「ならば破滅を避ける為の、力が必要だ。君には、その中心に立ってもらおうと考えている。……尽力してくれるな?」

 

 

 

 先ほど聖堂の広間を歩いていたセレナは、ひざまずくような体勢で祈りを捧げていた。

 彼女の前に安置された、大人の拳大ほどの大きさがある、『ご神体』と呼ばれる水晶のような珠。
 何より目をひくのは、その珠がまるで自ら輝いているような光を放っている点である。

「…………」

 それまで目を閉じていたセレナは、ゆっくり瞳をさらし始め、視線を珠の光に向ける。
 ギラギラとした光は、それでいて吸い込まれるような錯覚にも陥る、不思議な魔力を宿すかの如し。
 セレナの美しい顔の肌を、いつまでも照らし続けていた。

「どうやら、洗礼が足らなかったようね」

 思わず見惚れていたタイチの背後で、低い声色のティシアが拳を持ち上げていた。
 ビクっと反応したタイチは、恐る恐る後ろを向く。

「ばっ……お前、暴力を振る場を考えろって……」

「こら、お前達! 静かにしないか。戻ってきた御神体を清める為の、祈りの儀の最中なんだぞ」

 近くにいた神官が、小声ながらも鋭い口調で、ティシア達を叱り付けた。
 更に「騒ぐようなら他所へ行け」と追い討ちされ、2人は縮こまる。
 とはいえ、それは離れた位置にいたセレナの耳にも届いたらしく、おもむろにこちらへ顔を向けてきた。

「……!」

 まるで、「いつも仲良しでいいわね」とでも言いたげに。
 セレナはにっこり微笑むと、再び無言で正面へと目を向ける。

「……あれ?」

 不意にティシアは、疑問符混じりの小声を発する。
 彼女は、セレナが腰の辺りにつけている何かに気がついたのだ。

 それは、手の平に乗る程度の大きさをした球体。
 上半分が赤、下半分が白で塗られたような小さなボールだった。

「ねぇ、タイチ。セレナ様が腰につけてるボールみたいなの、何?」

 ひそひそと、タイチの耳元に話しかける。

「あぁ。モンスターボールじゃねぇのか?」

 同じく小声で、タイチは答えた。

「……って、何それ?」

「知らねぇのかよ」

「このフィオレ地方じゃ、見た事ないもの」

 知る人にとっては常識でも、知らぬ者には未知の物体でしかない。

 彼女らが住む地域に、モンスターボールはおろか、余所から来ない限りポケモントレーナー自体がほとんどいないのだ。
 ティシアのように、ポケモンと共に暮らし、連れ歩いている者なら大勢いる。
 だが彼女らの常識にとって、ポケモントレーナーというのは、全く別の概念になってしまう。

「まぁ、平たく言えばだな。ポケモンが中に入る事のできる、ボールだよ」

「ポケモン? って、あんな小さなボールに入るモンなの?」

 試しに彼女は、足元に佇んでいたブラッキーを、一番身近にいた存在として見下ろす。
 ブラッキーは座ったままで、シャーっ? と鳴きつつ、ティシアを見上げて首をひねっていた。

 体長1mほどの大きさであるブラッキーでも、ポケモンの中では割と小型種に部類されるであろう。
 しかしそれですら、あんな小さなボールに入れるとは考えづらい。
 ティシアがにわかには信じられなかったのも、当然だった。

「他の地方じゃ、あのボールにポケモンを住まわせて旅するポケモントレーナーっていうのが、沢山いるんだとよ」

「じゃあ……セレナ様も、そのポケモントレーナーっていうやつなの?」

「さぁな。モンスターボールの形をデザインした、ただのアクセサリーか何かじゃねぇの? 俺達の住んでるフィオレ地方には、トレーナーがいるって話はまず聞かないからな」

 ティシアは「ふーん」とつぶやき、改めてセレナの姿を見た。
 タイチにはあれだけの制裁を下したが、確かに女の彼女から見ても、セレナは美しい。

 そういえば……と、ティシアは1つ疑問に思う事があった。

 ティシア自身がそうであるように、一族の婚姻は基本的に親、または一族上層の者達が取り決めている。
 例えばティシアは、幼い頃からタイチが許婚である事を決められていた。

 しかし不思議と、セレナに関しては許婚相手を聞いた事がない。
 祭主の娘として、巫女という重要な立場であるにも関わらず……にである。

 

 

 

 許婚といっても、その言葉をどう捉えるかは人それぞれだ。
 ティシアは一族以外にいる友達との会話で、次のようなものがあった。
 友達に、自分には許婚がいると話した時の事である。

「え〜……。それって、ティシアは嫌じゃないの?」

「嫌じゃないのって……何で?」

 首を傾げるティシアに、その友達は言葉を続けた。

「やっぱり将来の結婚相手は、自分で決めたいじゃない。親とか他人に決められるのって、私は嫌だなぁ」

「うーん、そうなのかな?」

 やはり一族の者とそうでない者とでは、考え方に差異が出てくるものなのか?
 ティシアは、その友達が言うようには思ったりしない自分自身の思考も踏まえて、そう感じた。

「ティシアの許婚って、前に私も会った事あるわよね。タイチ君だっけ? こう言ったら怒るかも知れないけど……そこまで顔がかっこいい訳でもなかったし、何だか女好きでいやらしそうな感じしなかった?」

「あははっ♪ それは言えてるわ。別に本当の事だから、怒ったりなんてしないわよ」

 けらけらと、ティシアは明るく笑って返す。

「それでもティシアは、自分で結婚相手を選びたいとは思わないのね」

「そうね。あたし達の一族は、ずっと昔からそうしてきた訳だし。それにあたしとしては、むしろ恋愛結婚とかの方が気が進まないの」

「え、どうして?」

「そういう一時の感情って……熱しやすく冷めやすい、とでもいうのかな? 自分の気持ちが、ずっと変わらないでい続ける保障がないから」

「うーん、そういうものなのかしら」

「大体、自分で将来のお相手を探す方が大変じゃない? 結局、誰とも結婚できずに終わっちゃったら悲しいし。あたし達の一族では、みんなが最初から結婚相手決まってるから、少なくともそういう心配はないのよ」

「あ〜、そういう考え方もあるのかぁ。でもやっぱり、ティシアはそういう環境の中で育ってきたから、私の思うようには考えないのかもね」

 ……そんな時、ティシアは自分が彼女とは違う育ち方をしてきた事を自覚する。

 彼女は自分が育った環境や、その中にあるしきたりを、特別にどうとか思った事はない。
 しかし外部の者から見ると、必ずしも同じように考えるとは限らなかった。
 それは逆もまた然りで、自分が疑問に思った事を相手は何とも思っていない、というケースも……。

 

 

 

 ふと、ティシアは隣にいるタイチへ目を向けた。
 自分の許婚として定められた、その少年の方へ……。

「? 何だよ」

「……別に」

 タイチに尋ねられると、ティシアはすぐに視線を前へと戻す。
 それから、一呼吸おいて……彼女はその場を後にする事とした。

「あたし、ちょっと出かけてくるわね」

「また仕事か?」

「そんなとこ。今度は、どんな任務だと思う?」

 ふふふっと、やけに楽しげな笑みを向けてくるティシア。
 いつもと違う様子に、タイチは不思議そうに目を丸める。

「……なんでそんな嬉しそうなんだよ」

「この封筒。さて、なんでしょう?」

 そういえば祭主様の部屋から戻ってきた時から、大型の茶封筒を脇に抱えている。
 かと思えば、自分から出題っぽく聞いてきたティシアは、自分から即座に封筒の中身を取り出して見せた。

「じゃん! ポケモンレンジャー入隊紹介状!」

「…………。はぁ?」

 何の事やらと、タイチの丸い目は元に戻らず途方に暮れる。

 まぁ、ポケモンレンジャーという単語の意味は分かる。

 事件や事故、災害などから人とポケモンを守る、救助活動隊の事だ。
 彼らはキャプチャ・スタイラーと呼ばれる独自の機械を使い、野生ポケモンに救援を呼びかけ、力を借りながら行動に当たる者達だ。
 フィオレ地方にポケモントレーナーがほぼいない分、このポケモンレンジャーという職業が大きな役割を果たしている。

「これであたしも、晴れてポケモンレンジャーの仲間入りって訳よ!」

「……そんなに、なりたがってたか? お前」

「具体的に、ポケモンレンジャーを目指してた訳じゃないけどね。こういう、人を助ける仕事には憧れるわ」

「(あー、そういやティシアって、昔っから『正義の味方』ものが大好きだっけなぁ)」

 彼女には男兄弟がいる訳でもないのだが、どういう訳か小さい頃から、男の子向けのテレビにはまってた気がする。
 いわゆる『弱きを助け、強きを挫く』系が大好きだったのだ。

「(そんなもんばっかり見てたから、こんな性格になったんじゃねぇだろうな……)」

「夜までには帰ってくると思うから。さっ、イクリス」

 ブラッキーを呼びかけ、彼女は走り出す。
 その先に何が待つかを、まだ知る由もなく……足取りは、実に軽やかだった。

 

 

 

 ガツンっ!

「祈りの儀の最中は、静かに!」

 気づけば前のめりに倒れるティシアの頭部に、鋭い擬音を発したにふさわしき、たんこぶ1つ。

「……ごめんなさい……」

 

 

 物語は、紡がれ始めた。

 その先に待つ過酷な戦いを、まだ知る由もなく……。

 

 

 

 続く

 

 

 

 これ最初に書いた当時は、まだポケモンレンジャー1作目が出た頃でした。
 そしてこの後書きは、改訂時に書き直しているものです。

 今ではすでに、レンジャーだけで3作品も発売済み。
 これ書いてる時点では、バトナージまでしかやってないんだよなぁ。
 今後も3作目をやるかは不明なのですが(汗)。

 といっても実は本作、あんまりポケモンレンジャー的要素が出てくる物語ではありません。
 プロローグにもあったように、主人公ティシアには今後ポケモンレンジャーになってもらいますが、話の本筋は全く別ベクトルです。
 そこは、まぁ……他の小説でも、ただバッジ集めたり図鑑集めたりするだけの物語は書いてないので、今さらって事で!(ぇ)

 

 本作の舞台は、ゲームにおける、カントー、ジョウト、ホウエン、オーレ、ナナシマに続く第6地域・フィオレ地方。
 もしかしたら、途中で別地方にも少し飛ぶかも知れません。
 あと、場所がフィオレ地方といえども、ポケモントレーナーは数名出てきます。

 別地方といえば、実はフィオレ地方以外にももう1つ(?)、サブメイン扱いとなる舞台を用意しております。
 それについては、追い追い明かしていきます。
 つーか、今後の話のサブタイトルだけ先に眺めてしまえば、見る人が見れば分かるかも(苦笑)。

 本作は、アークジェネレーションと内容が一部リンクした作品です。
 アクジェネは本家ポケモンの舞台を担当し、本作はポケモンレンジャーなどの番外編的ポケモンの舞台を担当する、というのがコンセプトの1つにあります。
 もっとも、本家以外のポケモンも今ではだいぶ増えたので、全部の舞台を網羅はできませんけどね。

 担当とは言っても、あくまで舞台だけです。
 作品の内容そのものは、どっちにしてもバラエティに富んだ本末転倒、主旨脱線ストーリーを目指します(ぇ)。

 

 それでは、続きとなる第1話以降もお楽しみに。
 次回、1st「頂点を称す者」。

 

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