「やぁ、いよいよ明日から交代だね」

 暖かな春風が舞う、花の季節のマサラタウン。
 ポニーテール少女こと景子(ケイコ)は、朝早くから散歩途中、道端で出くわした少年に声をかけられる。

「それにしても、トレーナーになって1年足らずでジムリーダーか。凄い快挙だよね。改めておめでとう」

「……ありがとうございます。でも、あなたの上っ面だけの挨拶は、もう十分に経験させていただきましたから。先代さん?」

 面持ちから、ケイコの心境を読み取るのはたやすかった。
 この顔は間違いなく、「やな奴に出くわしちゃったな〜」という不快感の表れだった。

「(ちっ。むかつくガキだな)」

 そして期待(?)を裏切る事なく、少年の心の内はこんなもんだった。
 滅多に表情には出さないが、彼の内面は常日頃から態度が悪い。

 ケイコと少年は、ほぼ同年代に見えた。
 実際、少年がケイコの1〜2歳上というだけの年齢差である。

「それで? 先代さんは朝っぱらから、どちらへお出かけ?」

 髪をまとめているリボンを揺らし、つーんとした表情で、トゲを含んだ口調で問うケイコ。
 今更まともに取り合うのも面倒なのか、少年は淡泊に返答してくる。

「俺がマサラジムリーダーの仕事に携わるのも、今日で終わり。だから、『最後の仕事』をやりに、ちょっとだけ……ね」

 

 

 

Arch-Generation Director's Cut 001

 

 

 

「はっ。思った通りだな」

 マサラタウン、民家が建ち並ぶ中の物影だった。
 1人の青年が息を潜め、にやにやと広場の方を眺めている。

 ……はっきり言わずとも、怪しい。

「あとは、消耗するのを待つだけだぜ」

 

 

 

 アークジェネレーションの前作、ポケットモンスター・ザ・フューチャーの前半部主人公、霧切(ムキル)。

 彼が前作において、とある人物に1つの約束を取り付けていた事が、今回の始まり。

 そして今、ムキルは約束を果たすべく立っている。
 場所は、現在12に増えたポケモンリーグ公式カントー地方ジムの1つを抱える、マサラタウン。

 マサラジムは、つい数年前に新設されたばかり。
 ムキルの約束相手とは、そんな新時代のジムのリーダーを任された少年だった。

「実を言うとね。俺、ジムリーダーを辞めることになったんだ」

 ムキルの待つ待ち合わせ場所にやって来るなり、その少年が唐突に述べたのは、この一言。
 それはムキルにとっても、意外な情報となった。

 マサラジムのジムリーダー。
 本名、宇津木土瑠(ウツギ ドル)。

 かつてはジョウト地方ワカバタウンに研究所を構え、ポケモン進化論において数々の学説を発表した、ウツギ博士の息子である。

「その顔は……ジムリーダーになってみたはいいが、結局面倒なことばっかりだったなって顔っスね、ドルさん(汗)」

「(うっせーな。全くうざい奴だ、ムキルは)」

 ムキルの言葉を否定もせず、ドルはムキルの前に立つ。

 ちなみにここは、別にジム内に用意された闘技場という訳ではない。
 マサラタウンは民家が少なく、町というより村に近い。
 そんな訳で、どこにでもある空き地にて、2人は待ち合わせていたのだ。

「だから俺にとっては、これが最後の仕事になるんだよね。どうせなら外で思いっきり戦って、気分よく終わらせたいと思ったのさ」

「そうっスか。でもあいにく、ドルさんの最後の仕事だからと言って、勝たせてあげようとは思ってないんで。そこは期待しないでくださいね」

「(ちぇっ。やっぱそうかよ、ホント使えねぇ奴)」

「でなきゃ俺も、改めて勝負してもらう意味がないんっスよ。……勝たせてもらいます」

 それこそが今、2人が対峙している理由。

 以前もムキルは、ドルにジムリーダー戦を挑んだ事があったのだが、結果は引き分け。
 それでもバッジを欲するムキルは、ドルと改めて再戦する約束を取り付けていたのだ。

「じゃあ、ムキル。ルールは、フルバトルだよ」

「ちょっ!!? 前も同じ展開あった気がするけど、俺手持ち4匹しかいないっスから!!(汗)」

 フルバトルとは文字通り、手持ちポケモンの繰り出しや交代数無制限の対戦方法。
 通常、手持ちを6匹フルに持つ者同士が取るルールだ。

 しかし仮に、手持ちが5匹以下である者がいたとしても、相手が6匹持っていれば、5匹で6匹を相手しなければならない。
 なので、手持ちポケモンが6匹フルに満たない者にとっては、必然的に不利なのである。

「(お前、挑戦者ならジムリーダーの定めたルールに従えっつーの(怒))……じゃあ、しょうがない。3vs3で、てっとり早く決めてしまおうか」

「了解っス。それじゃ、まずは赤ニドだ!」

 ムキルがポケモンを繰り出す。
 淡い赤の光をまとった、特殊な色を持つニドラン♀。
 これがムキルの、パートナーポケモンだ。

「それなら俺は、ヒノアラシだ」

 ジムリーダー、ドルが繰り出すのは火ねずみポケモンのヒノアラシ♂。

「じゃ、行きますよ。赤ニド、毒突き!」

「それなら、ヒノアラシ。最初は軽く、フレアドライブからだ」

「って、何が軽くだぁ!!?」

 

 

 

 ズドォォォンっっ!!(ぇ)

 

 

 

 今日までマサラジムのリーダーを務めるドルは、決まった属性の使い手ではない。
 代わりに彼がこだわるのは、種族。

 火ねずみポケモン、ヒノアラシ♂。
 水ねずみポケモン、マリル♂。
 子ねずみポケモン、ピチュー♂。
 そして普通(?)に、ねずみポケモンのコラッタ♂とサンド♂。

 ドルは、ねずみ型ポケモンの使い手として、ジムリーダーに上り詰めた少年だった。

「……ん、あれ? でもドルさん、前はピチューじゃなくって、ピカチュウを持ってなかったっスか?」

「ポケモン交換したんだよ」

「え゛。何でピチューとピカチュウを……?」

「そんなのは別にいいでしょ。それに今度の奴は、前のピカチュウには無かった技もある」

 と、ドルが宣言した時、突然彼の周りから水があふれ出す。

 噴き上がる水の中心には、ドルと共に立っているポケモンが1匹。
 それこそ今さっきドルが繰り出し、そして上記の通りムキルに疑問を持たせたポケモン、ピチューだった。
 水を発生させたのが、ピチューであることは間違いない!?

「っ!! まさか……」

「そう。こいつは、波乗りピチュ−だ」

 バシャアアンっっ!!
 大量の水がムキル、そして赤ニドに降りかかる。

「(やばいっ。弱点攻撃でもない波乗りをあえて使った理由は、1つしか……)」

「さぁ、これで逃げ場は無くなったね」

 辺りは水浸しで、ムキルと赤ニドもぐっしょり濡れた状態。
 言わずもがな、この水は電気をよく通す。

 ドルにとっては、チェックメイトだった。

「ピチュー、チャージビーム!」

 その小柄な体躯に似合わず、「ピヂィィィっっ!!」と、それはそれは大きな雄たけびをあげるピチュー。
 電撃の光線は、その鳴き声の大きさにも負けぬ勢いで発射された。

 ばちばちばちばちっっ!!

「うぎゃああああ!!?」

 ムキルは感電し、赤ニドと共にぐったりと倒れてしまった。
 それを見届けたドルは、くるっと回れ右し……さっさと帰る(ぇ)。

「ふう。トレーナー本人が倒れちゃったら、試合続行は不可能だよね。最後の仕事も終わ……」

「……終わって、たまるかぁ!!」

「!? うわっ!!」

 ズガっ!!
 いきなりベロリンガがぶつかって来て、ドルとピチューをぶっ飛ばした。

「……いてて。ったく、しぶとい奴だな」

「うるせぇっ。負ける気は無いって言ったっスよね!? なら、そう簡単に終われるか!」

 吊り上がった目で、ぶすぶすと焦げたような黒煙をかすかにあげて(何)。
 ムキルは怒鳴り散らしながら、ドルを仕方なしに向き直らせたのだった。

 

 

 

 そんなこんなで、2人の戦いは続く。
 いつの間にか広場の片隅で、傍観者が1名増えていたことにも気付かずに。

「参ったわねぇ。こりゃ」

 髪には、リボンとポニーテール。
 そしてキュロットスカートを身につける、彼らと同年齢ぐらいの女の子。

 ジムリーダーとして、ドルの後を引き継ぐ者。
 ケイコは、先代最後のジムリーダー戦を、途中からではあるが眺めていた。

「あの2人、めっちゃ強いのね……」

 目の前では、ムキルのベロリンガ、そしてドルのマリルが衝突している。
 特性『力持ち』のマリルは、たとえ小柄でもパワーは大きい。
 いや、あれはもう特性とか関係なしに強い断言できるほどの、力量(レベル)の高さを伺えた。

「マリル、アクアテールだ」

「ベロリンガ、アームハンマーっ!」

 それは、マリルと対等に渡り合うベロリンガも同じこと。
 鈍重そうな身なりでありながら、その実かなり素早く動いて、小さき巨人たる対決相手と渡り合っている。
 パワーもスピードも、その時のケイコにとっては未知の領域だった。

「先代の力がどんなものか、一度ぐらい見てやろうと思って見に来ただけだったんだけどなぁ」

 近くには手頃に座れる場所も見つからなかったので、ケイコはその場でしゃがんで地べたに座る。
 別に立ってても良かったのだが、何となく座りたい気分だった。

「……正直、甘く見てた。ジムリーダーになるからには、先代ぐらいすぐにでも追い抜いてやるつもりだったけど」

 ぐっと、ケイコの拳に力が入る。

「あたし、まだ遥かに格下だわ」

 彼女とて、新米と言えどもジムリーダーに認定される腕前の持ち主なのだから、確かな実力は備わっている。

 まして彼女は、トレーナーになってからの急速な上達ぶりを見せた。
 それは、有能なポケモントレーナーの輩出に数多く貢献してきた、あのオーキド博士にさえ「天才」と言わしめる実力である。

 だが、そんな彼女ですら、自分がまだポケモントレーナーとしての世界の入口付近にいることを自覚させられた。
 そんな迫力が伺えるこの戦いですら、繰り広げる2人は、まだケイコとほぼ同年代なのである。

 マサラジムの新リーダー、竜山景子(タツヤマ ケイコ)。

 普段は負けず嫌いな彼女も、この場においては、力量の違いを認めるしか無かった。

 

 

 

 結局、試合中にムキルとドルが、ケイコの存在に気づくことはなかった。

 もっと近づくとか、例えばケイコが邪魔しに攻撃しにかかるとか(!)、それなら気づくぐらいの研ぎ澄まされた神経は持っている。
 どちらも、トレーナーとしては手練れなのだから。

 とはいえ、そういった危機が迫らない限りは、今の試合に全集中といった訳なのだ。

「フレアドライブ!!」

 ドガァッ!!
 ヒノアラシが再び参戦していた。
 炎の捨て身タックルこと、フレアドライブがベロリンガに激突する。

「ベロリンガ!!?」

 相変わらずドルのポケモンは、いずれも小柄の割に威力は絶大。
 精度も抜群で、今の一撃にせよ、避けようと思って避けられるものではなかったからこそ、ベロリンガが直撃を受けるという結果になったのだ。

「くっ、戻れ」

 今のは、戦闘不能に陥るダメージだった。
 ムキルは仕方なく、ベロリンガをボールに戻す。

「……けど、ドルさん。ヒノアラシも、もうバテバテですよ?」

「何っ!?」

 反撃と言わんばかりに、ムキルが言ってのけた。
 もちろん反撃と言っても、単に今ある状況を述べたに過ぎない訳で、いずれにせよヒノアラシは倒れていた。
 フレアドライブは自身もダメージを受ける技なのだから、連発すれば自然こうなるのだ。

「こうなったら、ピチュー!?」

 と、ドルは振り返るが、そこにも同じ状況があった。
 こちらは単に、技の使い過ぎ。
 PPが底をつき、体力的に厳しくなっているようで、息切れしながら伏せていた。

「(ちっ。まだHPはあるだろうが、戦闘は無理か……)」

 内心で舌打ちするドルが、最後に残されたポケモンに目を向ける。
 マリルだけは、まだ戦闘可能状態にあったのだ。
 もっとも、ベロリンガとの戦いでダメージも残ってはいるのだが。

「(ムキルはまだ、赤ニドを引っ込め、次に出したベロリンガが戦闘不能になっただけ。まだ3匹目も繰り出してないだと……!?)」

 つまりムキルは、まだ2匹も残っている。
 すでに最後の1匹のみとなったドルとは、いつの間にか差が開いていた。

「へぇ。また、一段と腕をあげたんじゃないか。ムキル(……正直、うぜぇ)」

「まぁ、それなりに」

 そっけなく返して、ムキルは次のポケモンを繰り出す。
 最初にも出していた、赤ニドだった。

「ドルさん。前から気になってたことがあるんっスけど」

「? 何さ」

 最後の1匹となったマリルを従え、ドルは彼の目を見返す。

「…………。なんで、ねずみ使いになったんスか?」

「それかい(汗)」

 まさかこのタイミングで聞かれるとはと、正直ドルはびっくりしていた(ぇ)。

「理由なんて特にないよ。でもま、最初のポケモンであるコラッタを捕まえたのは、駆逐されたねずみの巣の跡だったっけね」

「……? ねずみの巣?」

「人にとって、大抵ねずみは害獣だろう? 俺が前に住んでた、ワカバタウンにしたって当然同じ。昔、コラッタが街中でやたら大繁殖したことがあって、一斉に駆除することになったんだ」

 ドルは、1つのモンスターボールを取りだす。
 今回の戦闘メンバーに入れたポケモンではない。
 このボールの中に、今でも当時のコラッタを持っているのだ。

「つまり、ドルさんのコラッタは、その時に駆除されかけたコラッタの1匹?」

「駆除っていうか、まぁ……人里の外への追い出しに近かったけど。1つだけ、残されたコラッタのタマゴがあってさ。そいつを孵した、生まれたのがこいつだったんだよ」

「……だから、ねずみ使いを目指すようになった訳っスか」

「それは安直過ぎでしょ。けど、確かにねずみは嫌いじゃないね。特にドブネズミのような、可愛がられない系統のねずみには親近感がある」

「ふーん……」

 そこで、話はひと段落だ。
 対戦中の、ささやかな小休止に過ぎない。

 それも終われば、バトルは再開される。
 残りポケモンは1対2で、ムキルのが優勢。

「じゃ、そろそろやりましょうか。続き」

「そうだね」

 ムキルとドルは、改めて対戦を続行……。

「って、いつまでだべってんだ、お前らっ!!」

 ……できなかった。

「え゛」

「何?」

 妙な青年が怒鳴ってやってきたので、ムキルもドルも、目が点になる。
 それは、離れたとこで見ていたケイコも同じ。

「…………。何、あいつ?」

 呆れ混じりの目つきで、現れた男を眺めていた。

「こっちは、お前らが消耗するまで、ひたすら待ってたんだっつーの! なのに呑気に喋ってやがって、ちっとも決着がつかねぇじゃんか。待ってる俺の身にもなれってんだ!」

「そんなの知らねぇよ!! っつか、お前グレース!?」

 どうやら、ムキルの知る奴だったらしい。
 男の名を呼びながら、ムキルは改めて驚いていた。

「(何だ、先代の対戦相手の知り合いか。……けど、何しに来たっていうのかしら)」

 ケイコも立ち上がる。
 念のため、手頃なポケモンの入るボールを1つ、その手に握りしめていた。

「お前……ホント、しっつこい奴だな」

 ムキルはムキルで、男に対して若干引き気味な姿勢を取っていた。

「俺に言うな。組織は未だにお前をターゲットにしていて、そこへ俺が派遣されただけの事!」

「……マジで?(汗)」

「そういう訳だ。覚悟しやがれ!!」

 グレースは、イワークを繰り出す。
 かくして、突然の乱入戦がスタートしてしまうのだった。

 

 

 

 続く

 

 

 

 日乃水葉さんの小説リクで、前作フューチャーで約束されていたムキルvsドルが見たい、ということで書いた話。
 ドルは何故か、女性読者さんにやたら人気があるんですけど(ぇ)。

 でも結局、決着がついてないうえに、余計なやつまで出てきてしまいました(蹴)。
 2話構成でお送りするので、次回は決着つくんじゃないかなーと……そんな淡い期待を持ってます←

 

[日乃水葉さんの一言感想]

 ドルは相変わらずマイペースですね(ぇ)。
 それを気にしないムキルとかケイコもさすがです(謎)。
 なんかめんどくさい奴約1名いるけど気にしないでおきます。
 ・・・なんにせよドルが見れたからいいし(結局それ!?)

 

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