「『窮鼠猫を噛む』って、ほんとかなぁ?」

 幼い日の土瑠(ドル)は、自分のコラッタ♂を、野生のペルシアン♂と戦わせていた。

 ちなみに、鼠と猫とかいう関係性とは無関係に、ペルシアンの方が強い。
 レベルでいうと、10ぐらいの差がある。

 無論コラッタは一方的にやられていたが、まぁそこはポケモンの世界。
 ほんとに食べられてしまうようなことは無いだろう、うん、たぶん(ぇ)。

 ……ところで昔のゲーム中に出てきたポケモン図鑑の文章では、確かピジョンあたりがタマタマを捕食するらしき説明文があったよね←

「えーっと、とりあえず助けるところから始めようか(汗)」

 そう声をかけるのは、父親のウツギ博士。
 この頃、あの素直で無邪気だったはずの息子に、将来に対する一抹の不安を覚えつつあるらしい。

「ほんとに猫に噛みつくところ、見てみたかったんだけどなぁ」

 そう言って、仕方なしにコラッタをボールに戻る。
 思えば、この辺りから『今』の片鱗が見え始めていたのかも知れない(何)。

 窮鼠猫を噛む。
 有名なことわざなので大体の人が意味を知っているだろうが、鼠でも追い詰められれば猫に噛みつくという、弱者でも強者に反撃することがあるという例えである。

「コラッタをペルシアンに噛みつかせて、どうしようってのさ……」

「そしたら、かっこいいなーと思ったんだよ」

「どこがッ! ……いいかい? 自分のポケモンは、もっと大切にしなきゃダメだよ。無理をさせるのは、とてもかっこ悪い事なんだよ」

「…………」

 不満そうな表情のドルではあったが、父親にそう言われては、納得がいかずとも頷かざるを得ない。
 子供とは、そういうものである。

 

 

 

Arch-Generation Director's Cut 002

 

 

 

 真の意味で納得することと、納得したフリをすることとは、全く別である。

 子供は親にしかられると、たとえ納得できなくても、そういうフリをしなければ説教が終わらない事を自然に学んでいく。

 それは、大人になっても変わらないだろう。
 目上の者に言われた事は、大概しぶしぶ聞き入れるしかないものだ。

 

 

 

 父親の理屈も分かる。
 無理に戦わせた結果として負ければ、多くの者は同じように叱ることだろう。

 しかし、もし勝ったならどうだろう?

 やはり、無理をさせるなと叱られるのだろうか。
 では、無理どころか、圧勝であればどうか。

 

 その時代や土地柄にもよるのかも知れないが、どうも人というのは弱者を応援したがる傾向があるようだ。
 故に、弱者にきつく当たる者を蔑む。

 理由は、憐れみ?

 たぶん、そうじゃない。
 弱者が勝つ方が、意外性があってオモシロイからだ。

 体の大きい者と小さい者が戦ったら、実際の実力はさておき、とりあえず大きい者の方が強そうだし勝ちそうに見える。
 猫と鼠の関係だって、それとさして変わらない。

 だから小さい者がもし勝てば、その意外性に人は快楽を覚える。

 アタリマエの展開など、つまらないからだ。
 人は、良い意味で予想を裏切られたい生き物なのだ。

 

 だからもし、小さな鼠が大きな猫に勝ったら、皆が鼠をアイドルに仕立て上げる。

 もちろん、外見の美醜にもよるのだろう。
 どんな小さくても、クモやムカデが一般大衆に愛されるとは考えにくい。

 ただ、とりあえず相手と比べて明らかに巨体なヒーローなど、そう簡単にははやるまい。

 大きい者同士の対決となるとまた話は変わってくるが、小さい者と大きい者とが対決した場合。
 小さい者が大きい者に勝つ方が、明らかに人々の関心を引くのは目に見えている。

 このコラッタだって、そうではないのか?

 大量にうじゃうじゃ沸いて、巨大な集団でいる内は、害獣扱いして人里の外に追いやろうとしたり、もしかしたら本当に駆除し始めるかも知れないのだ。
 まぁ実際、大量にいると害を成すのかも知れないが。

 ところが、コラッタがたった1匹だけでいるところを猫に襲われていれば、途端に庇いだてし始める。

 かっこいいか否か、可愛らしいか否か……好かれるか否か、など。
 所詮、そんなものでしかない。

 

 だったら、体の大きなポケモンを育てても面白味が無い。

 巨大なポケモンを数多く率いて活躍するトレーナーの人気が出たとしたら、それは単に、それに対を成す存在がいないだけ。
 たとえどんな手段を使おうとも、もし小さなポケモンだけを率いて同等以上の活躍が出来たなら、そちらの方が明らかに注目を集めるはずだ。

 誰がって?

 もちろんポケモン達と……それをポケモントレーナーとして率いる、自分自身が!

 

 

 

「という訳で、俺の人気の為に負けてよ」

「Σ意味分からんっ!?」

 グレースは割と本気で、そう訴えた(ぇ)。

 

 マサラジムのリーダーを辞める事となったドルは、最後の仕事として、以前に約束をしていた霧切(ムキル)との対決に臨むのだった。

 が、途中でこの面倒くさい男が現れたのが問題の始まり。

 グレースは、かつてムキルが戦った組織の一員。
 そいつが、今度こそ決着をつけるべくムキルを狙ってきていたのだ。

 彼が従えるのは、巨体を誇る岩・地面タイプのイワーク♂。
 対して、ドルは電気タイプの小柄なピチュー♂を繰り出す。

 体格的にも属性的にも、ピチューの方が不利なのは目に見えているのだが。

「大体、俺が用のあるのはムキルの方だ。てめぇはひっこんでろ!」

「(なんつー、凄まじく小物っぽい言い回し。ぜってぇ即座に倒されるような、やられ役だろ)」

 つまり、あて馬になってもらうにしても、残念な存在だった(オイ)。

「てめぇ……。口には出さなくとも、その表情、絶対に失礼なこと考えてるだろ!」

「そんなぁ。勝手な想像で、人の事を悪く言わないでよ(わーうぜぇコイツ)」

 ドルは態度こそ大人しく振舞うが、表情までは隠し切れてなかったらしい。

 それ無しにしても、彼を知る霧切(ムキル)は後方から眺めつつ、グレースの指摘が間違いなく的を得ていることをこの場の誰よりも確信する。
 奴が標的として狙っていた相手、すなわちムキルが、実はグレースにとっての一番の同情相手になろうとは、何とも皮肉な話である。

「俺はこれでも、GR団主力の戦闘要員だ。あんまりナメているようだと、本気で叩き潰すぞ」

 GR(グレートロケット)団は、前作フューチャーにおいてムキル達が対決した悪の組織。
 何人かの団員、そして大幹部との交戦こそあったが、未だその戦力の全貌が明らかになっていない存在だった。

 このグレースも、幾度かムキルに襲撃をかけてきた、GR団の一味なのだ。

「(あー、だりぃ)じゃあ、さくっと波乗り」

 ザパアァァンっ!!

「な……ん、だとぉぉぉ!!?」

 突如、周囲から噴き出した大量の水が、イワークとグレースをあっという間に洗い流してしまった。

 以上。
 ドルvsグレース、終わり(ぇ)。

「つか、PP尽きてたんじゃなかったんスか!?」

 それまで(関わりたくなかったので、わざと)傍観していたムキルが、ピチューの放つ大出力の波乗り攻撃に驚いていた。
 しかもこの威力は、今まで力を隠す為にわざとセーブして戦ってたとしか思えない。

「体力的なスタミナ消耗はともかく、PPが尽きただけなら、ピーピーエイドっていうアイテムがあるでしょ」

「うわー、この人そんなの隠し持ってたのか。絶対、俺にやる気だったろ、今の攻撃……(汗)」

 そうこうしている内に、ごく限られた範囲内でのみ発生した大洪水に流されたグレースは、とっくに見えなくなっていた。
 たぶん近くの海とかに、排水されていったものと思われる←

「しかし、今度こそピチューはスタミナ切れだね。小柄な分、体力的にはやっぱり無理があったみたいだし(こんな所で隠し玉を使わなけりゃ、俺の勝ちは揺るがなかったのによ)」

「けど、それならなんで俺に任せずに、無理してグレースと戦ったんスか? 元々あいつの狙いは、俺だった訳だし」

「……昔っから、でかいポケモン引き連れていばってる奴を見ると、つい率先して倒したくなっちゃうんだよ。悪い癖だとは思うけどね」

 そう言いながら、ピチューをボールに戻すドル。
 妙な乱入のせいで、ムキルとドルの決着は、またも有耶無耶になってしまった。

「ジムリーダー戦、どうします?」

「(なんかもう、めんどくせぇんだよな。帰りてぇ……)」

「あ。バッジ貰うまで、帰しませんよ?」

「…………」

 仕方がないので、ドルは『至極嫌そうな顔つき』でムキルにこう述べる。

「一対一で改めてバトルして、決着をつけよう。先にダウンした方が負けの、一発勝負さ」

 先の戦いで、すでにお互い何匹かはダウンしたり、力を消耗している。
 かといって、いったんポケモンを休ませに帰ってから戦わせるのも面倒だ。

 お互いの手持ちポケモンの中で、全快状態の1匹を選んでのサシの勝負。
 その提案に対し、当然ムキルも異存は無い。

「……いいっスよ。それでやりましょう」

 かくして、今度こそ決着をつけるべく、2人は改めて向き合った。

 由井霧切(ヨシイ ムキル)。
 宇津木土瑠(ウツギ ドル)。

 待った無しの一発勝負が、幕を開ける。

「行くぞ、クロニド」

「コラッタ、返り討ちにしてやれ」

 ムキルが繰り出すは、先の戦いで出していた赤ニド同様に赤の淡い輝きを持つ、色違いとしても非常に珍しい姿のニドラン♀。
 クロニドと名付けられたこのニドランは、すかさず頭部から毒針を連射し、弾丸のように放たれる無数の針でコラッタを狙い撃つ。

「(そういや、ムキルのポケモンも未進化の小型なやつばかりだったな)」

 毒針攻撃など、今さらドルのコラッタには取るに足らない攻撃。
 俊敏な足取りで左右に駆け巡り、全ての毒針を避けつつ距離を縮める。

「ったく、うざったい奴だな」

「……!」

 毒針など、所詮は牽制に過ぎない。
 にも関わらず、そんな態度を取る事がムキルには意外だった。

 根はともかく、普段のドルは感情を表には出さず、嫌味なくらい内面とは正反対な大人の態度を見せるのだ。
 その彼が、うっかりであっても感情を言葉に出すのは、よほどな事である。

「せっかく小型なネズミポケモンで戦っても、対戦相手までがチビなんじゃ、倒したところで全く箔(はく)が付かないだろ!」

「Σ何その理不尽な怒り!?(汗)」

 かと思えば、クロニドの目前にまで迫ったコラッタが怒りの前歯で噛みついてくる。
 とっさにかわして、毒突きの反撃に出るクロニドだが、コラッタも小柄な身を生かして攻撃もかわす。

 どちらも、攻撃力は大型ポケモンに劣らぬほど育てられていることは、互いに理解できている。
 それでもスタミナ的には、やはり小柄な分だけ物足りなさがある。

「……つまり、攻撃はひたすらかわして、隙を突いての一撃に賭けるのが常套!」

「ほんと、似た傾向な戦い方をするだけあって、ムカつくほど理解してるな」

 そう、結局どちらも戦い方には近いものがある。
 そしてそれは、実力についても同じこと。

「……だって。今のあたしで、勝てる気しないもの」

 そうつぶやくのは、本日1回目の対決のときから、離れたところで眺めていた景子(ケイコ)。

 彼女もジムリーダーに認定される程の力量は備わっているし、手持ちポケモンもバクフーンにデンリュウといった最終進化形が揃っている。
 しかし、見ていて彼女は理解する。
 あの未進化ポケモン達を相手にしても、恐らく自分は勝てないであろう事に。

 無論、ケイコのようなトレーナーの方が普通と言える。

 ポケモンは育てていけば通常は進化させるし、そのたびパワーも体のサイズも大きくさせていく。
 それをあえて小柄のままのポケモンで戦わせるのは、どうも普通のポケモンバトルにおける定石とは少し異なるものが必要らしい。

 だが、ムキルとドルは、経緯こそ違えど似通った戦い方を身につけ、おおよそ同等な力量(レベル)にまで至っている。
 ゆえに、相手の戦術というものが、お互い自然と見えてきてしまうのだ。

「(だからこそ、お前には負けられねぇよ!)」

 ブワァッ、と。
 突如、コラッタが自分の周囲に炎を立ち昇らせて、クロニドを一瞬怯ませる。

「! 火炎車!?」

「もらった!」

 直後、コラッタが炎の膜を突き抜け、一直線にクロニドへ向けて、鋭利な前歯を走らせる。

 当たりさえすれば、一撃で倒せる自信がドルにはあった。
 そして、相手に生まれた一瞬の隙を見て、彼は確信する。
 もう敵のニドランに、逃げ場は無いと。

「ストライク♂!! こうなりゃ、あいつら全員ぶちのめせぇっ!!」

「なっ!」

「はぁ!?」

 そんな折、またも状況をややこしくする声が聞こえてきた。

 宙を滑空するオニドリル♂には、その足につかまり声を荒げるグレースの姿。
 そして彼が繰り出したらしきストライクは、高速でムキルとドルに迫ってきていた。

「(ほんと、しつこい奴だな!! 狙いは……ムキルか)」

 ドルは内心、わずかな安堵を覚えたことを否定できない。

 本来ならば呆れ果ててやりたい所だが、迫り来る敵ストライクは想像以上に素早かった。
 恐らく事前に高速移動を積んでいたらしく、外部からの攻撃には隙だらけだったムキルとドルには、このスピードを対応するのはあまりに厳しい。

 そしてストライクは、やはり当初の標的であるムキルに対して、その両手の鎌を向けていた。

「……ガンテツ流」

 だが。
 ある意味で、ドルが真に肝を冷やす事になるのは、ここからだった。

「スピードボール!」

 『対応するのはあまりに厳しい』を対応する様を、ドルは目の前で見せつけられる。
 ムキルは、ドルが予想だにしなかった反応速度で、気付けばすでに懐から取り出したボールを投げつけている。

 無論、狙いはグレースのストライクだ。

「な、に……?」

 他人のポケモンは、モンスターボールで捕まえることができない。
 それは、ポケモントレーナー達にとって大前提である常識の1つだ。

 スナッチマシンと呼ばれる、相手のポケモンを奪ってしまう特殊な道具もあるらしいが、通常はポケモンを捕まえた時のボールに付いているセキュリティ機能が働き、別のボールによってポケモンを捕獲することを許さない。

 当然、ムキルの放ったスピードボールも、ストライクの体を取り込もうとしたところで弾かれるだろう。
 しかし、その『取り込もうとした』瞬間の、わずかにストライクが動きを止めた隙さえあれば、彼には十分。

「行っけぇ!」

 直後、クロニドがムキルの前方に飛び出す。
 ニドラン♀の、本来は額の体毛に隠れた小さな毒のツノが、鋭利に剥き出しとなって一閃を放つ。

 ザシュゥッ!!

「スト、ライク……!!?」

 必勝を確信していた奇襲を破られ、グレースは呆然とストライクが倒れ込む姿を見下ろしていた。

「『ブロウ・シャッター』。お前みたいな卑怯な奴には、ぴったりの技だろ」

 勝ち誇った言葉で、ムキルは言い放った。

 それはかつてジョウトの支配人との最終決戦において、三幹部の1人を撃破した際にも用いた技。

 ボールが相手ポケモンを取り込む際のわずかな隙に、ポケモンは動きを止めるのみならず、完全に構えが解かれ無防備な状態となる。
 そんな、防御力の機能しない瞬間に一撃を放ち、ボールごと敵を打ち砕く。

 公式試合ではまず使えない、実戦闘向きの邪道な技である。

 だが、いかに邪道だろうと、実戦において必要とあらば容赦無く叩き込むのが、ムキルだった。
 そんな姿を目の当たりにして、なお……。

「もらったぁ!!」

 仕掛けたのは、他ならぬドルであった。
 大技を放ち終えた直後のニドランに、コラッタの鋭利な前歯がまっすぐに迫る。

「(正直、驚かされたよ。俺だったら、あんな奇襲は絶対に捌けねぇ……だからこそ確信した。俺がお前に勝てる隙は、今しかない!)」

 彼にとっては、今この瞬間ですら試合の最中なのだ。

 もう、この戦いは待った無しだ。
 後でどう文句を言われようが、知った事ではない。

 結局、戦いというものは……勝った者が称えられるのだから!

「……っ!!」

 ズシャァッ!!

 そして、決着はついた。

「…………。馬鹿な……」

 クロニドは、更にもう半回転、体をひねってからの迎撃。
 グレースのストライクに放ったのと同様、額のツノによる横薙ぎでドルのコラッタを返り討った。

 毒突きというよりは、針の先端に用いての斬撃に近い。
 小さな身体をまともに切り裂かれたコラッタは、当然その一撃の重みに耐えきれず、ドサリと地に伏す。

 今度こそ、紛れもなく戦いの幕は下りた。

「……っ。…………」

 声にならないとは、まさにこの事。
 あれだけ完璧な隙を突いたにも関わらず、ムキルのニドランの攻撃は、コラッタのそれよりも早かったのだ。

「……いいんスか。今回も邪魔入っちまったけど、この勝負……俺の勝ちで」

「っ! ぐ……」

 言われずとも、これは認めざるを得ない。

 グレースにしろドルにしろ、あの仕掛けた奇襲はどちらも、受け手が本人達自身であれば到底対応できないもの。
 それを、見事なまでに返されたのだ。

 どう見ても勝ち目の無い状況下を、ムキルは打ち破って見せた。
 それは正にドルが目指していた、『小さな鼠が大きな猫に打ち勝つ』という事と、似る。

「…………。えっと……ドル、さん?(汗)」

「…………。ほらよ」

 ぶっきらぼうな態度で、ドルは何かを投げつける。
 それを向けられたムキルが思わず掴み取ると、彼の手には1つの小さなバッジが収まっていた。

「……あ、これ」

 マサラジムリーダーに勝利した証、シャイニングバッジである。

「仕方ないだろ。俺の気が変わらない内に、さっさと行け」

「! ありがとうございますっ」

 その言葉を口にした事で。
 二転、三転とした再戦を、ついに自分が制したとを、ムキル自身もようやく実感する。

「待て。やっぱ悔しいから、返せ」

「Σ気が変わるの早っ!? 返しませんよ!!」

「…………。ちっ」

 舌打ちをしたドルは、自分の方から、さっさとこの広場を退場する。
 自分から負けを認めた事で、ドルとしては居心地が悪かったのだろう。

「しかし、グレースの奴。あんだけ邪魔しに現れておいて、いつの間にかいなくなってやがるし!」

 さすがにグレースの方も、今度こそ自分の敗北を理解したらしい。
 気づけば、早々に撤退していった後だった。

「(……最近、動きを全く見せていなかったGR団。そいつらがまた、動き出したって事なのか?)」

 “組織は未だにお前をターゲットにしていて、そこへ俺が派遣されただけの事!”

 そのグレースの言葉は、つまり。
 GR団が、ムキルを完全にブラックリスト扱いにしたことを意味している。

「そうか。また……あいつらとの戦いが始まるのか」

 グレースはムキル的に、うっとうしいという程度にしか認識が無いが(ぇ)、奴が所属するGR団自体の戦力は強大。
 それは、これまで何度も連中と戦ってきたムキル本人も、十分理解している事だった。

 

 

 

「最後のお勤め、ご苦労さま。先代さん」

 帰り際にかけられた声すら、ドルにとっては嫌味に聞こえてうっとうしい。

「それは、どうも」

「内心は『余計なお世話だ』ってとこかしら? あたしとしては、本音でねぎらってるつもりなんだけどね」

 リボンでまとめられた自分のポニーテールを手で撫ぜつつ、ケイコは横目気味な顔で言う。
 もっともドルの性格上、素直に受け取ってくれないであろう事は、彼女も承知の上だ。

「あたしがいうのも何だけどね。そんなにうがった考え方じゃなく、もうちょっとシンプルなったらどうですか?」

「むしろ、君の思考がシンプル過ぎるね」

「あたしは、ストレートな性分だからいいんですよ」

 ドルは歩みを止めず、横を過ぎ去る彼女に対して振り返りもしない。
 ただ、先代として彼女に残すのは、この一言だけだった。

「……もっと実力が上のジムリーダーなんて、沢山いるよ。せいぜい、もっと腕を磨くことだね」

 

 

 

 続く

 

 

 

 本来ディレクターズカットの意味は、映画などにおいて営利志向のプロデューサーの意向に沿って完成されたものと比べ、芸術志向のディレクターの意向に沿って改修されたものを指すっぽいです。

 アクジェネのディレクターズカットは厳密にはちょっと意味が異なり、本編と比べて次の点に違いがあります。

 まず、情景描写をわざと雑にしてます。
 あんま変わらないかも知れないけど←
 例えばセリフや地文の末尾に(汗)とか(ぇ)とか、割と抵抗無く使ってますね。

 昔と比べてそういう表現を抑えようと思う一方、こちらの方がギャグ寄りの話が非常に表現しやすく、また案外人気が出るようなのです。
 そこで、表現方法を堅苦しくせず、あえて雑なままで書くというスタンスで、ディレクターズカットを書いてみました。

 そしてもう1つ、アクジェネは実質上フューチャーの続編なのですが、アクジェネ本編自体はいかにフューチャーを読んでなくとも問題無く読めるかを目指しています。
 なので、フューチャーのキャラをアクジェネで出す際に、工夫するのが結構面倒です(特にGR団)。
 その辺を気兼ねなく、単なる勢いで書く作品、それがアクジェネにおけるディレクターズカット版です。

 したがって根本的に意味が異なる為、本編とディレクターズカットは全く別の物語として進行します。
 また、本編は連載物として書いてますが、ディレクターズカットは数話程度で話が1つ完結するものを目指し、どちらかというと短編やオムニバスに近いものとしています。

 本編とは別の連載、という位置づけにはしたくなかったのです。
 書ききれないし!(ぁ)

 という訳で、次回がいつになるのかは分かりません。
 気が向かなければ、今回の話でディレクターズカットは完結です(ぇ)。

 でも気が向けば、また数話程度で完結する物語を書き始めます。
 そして、その数話が終われば、また次の話はいつ書かれるか分からない……と、その繰り返しになっていくことでしょう。

 

 主人公は本編と同じシクーにするつもりなのに、このままシクー未登場のまま、結局続きが書かれる事なく終わってしまったらどうしよう(駄)。

 

[日乃水葉さんの一言感想]

 雑魚相手でも容赦ないドルが素敵です(ぇ)
 後、素でムキルのボール活用術は忘れてた←
 いやー、いい勝負でした。でもドルに一言。ホント、油断大敵だよ?

 

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