終電

 15年前、私は八重洲の居酒屋でアルバイトをしており、 帰りはいつも最終電車。毎日ギリギリに飛び乗っていました。

 その日は事故でもあったのか電車は定時に来ず、随分遅れていました。仕方なくホームのベンチに座り本を読む事にしました。しばらく読んだ頃、私の前をうろうろしている人が居ます。なんとなく目を上げました。身長2mはありそうなガッチリした大男です。

「随分でかいなぁー」と思い顔を見てみました。驚いたのはその「目」でした。完全に据わっています。酔っ払っている様ではなく、かなりヤバイ目です。そして口元がモゴモゴ動いて何か呟いています。

 私は非常に興味が沸いて来たので、そっと傍に寄ってゆきました。

何を言っているのか良く聞き取れないのですが、同じ事を繰り返し呟いています。

「す・・???かん」何だ?「す・・け??つかん」は?「すぱいけいさつかん」???「スパイ警察官」!!!

我慢出来ないほど興味大爆発になりました。

 ニヤケ顔が出ないように奥歯を噛み締めて更に観察しました。ざっと全身を見た後、腰のベルトに付けている物に目が留まりました。良く見るとなんとそれは大きなナイフ!刃渡り20cm程のサバイバルナイフです!

「あぁ〜これはダメだ、近くに寄ってはダメだ!」慌てて離れました。その時電車が到着しました。しかしどうしても興味を捨て切れず、危なそうなので、隣の車両に乗り観察を続けました。遅れていたせいもあってか終電にしてはかなり込んでいました。

 その大男は車両真中辺りの吊り革に掴まって相変わらずブツブツ言っています。思わず笑いそうになったのは、隣の車内の変化です。あんなに込んでいたのが、その男の周りだけ円を描くようにして空きました。

 そりゃー誰だって大男が大きなナイフを腰に下げ「スパイ警察官」ってずっーと言っていれば傍に居たくはないですよね。その後私は男より先に下車したのですが、降りたホームから車内の男と目が合いました。

 表情も生気の欠片も無いその目は、今でも忘れられない「危険な目」でした。    

 それにしても「スパイ警察官」って何だ?

 

 



工事現場半透明招き声終電坂の途中舞う声