アジアのオート三輪車
気になるアジアのオート三輪事情
・東風と西風〜オート三輪タクシーのルーツ
東南アジアからアフリカ東海岸まで、アジアとインド洋沿岸地域には多くのオート三輪が棲息しています。その大部分は庶民向けの軽便なタクシーとして利用されており、都市の重要な公共交通機関の役割を果たしています。慢性のひどい交通渋滞、排気ガスでけむるような道路、定員オーバーのオート三輪が他の車の脇をを縫うようにして走り抜ける。アジア各地の都市に共通して見られる光景です。
興味のない旅行者にとっては、いずれも同じ時代遅れの乗り物に見えるだけなのかもしれませんが、これらは大きく分けると東から伝搬したものと西から伝搬したものの二系統に分類されます。
東の代表は日本のミゼット、西の代表はイタリアのAPEで、いずれも1950年代の原型が現地化され、改良を重ねながら使用されています。インドの経済圏・文化圏ではAPEをもとにしたBAJAJが普及しています。タイを中心とした東南アジア地域では、ミゼットをもとにしたトゥクトゥクが普及しています。なかにはインドネシアのようにミゼットとBAJAJが共存している地域もあります。
・重要な産業〜人力車時代からの伝統
アジア・インド地域のオート三輪は主に安価なタクシーとして使われ、市民に密着した手軽な移動手段として繁栄してきました。同時にこれらは、多くの労働者を雇用する重要な産業となています。かつて、都市に流入してくる元農民にとっては、サムローやシクロと呼ばれる人力車の車夫になることが手っ取り早い現金収入の道でした。オート三輪の時代になってからもこの情況は変わりません。親方からオート三輪を賃借りすればタクシー運転手の出来上がり。これで田舎で働いていたときの2−3倍の日銭を稼ぐこともできるでしょう。真面目に貯金すれば、自分も将来2ー3台のオート三輪を買いそろえて親方になれるかもしれません。観光客に運賃を吹っかけ、お土産屋に連れまわしてコミッションをもらい、運悪くパトロール警官につかまればワイロを払う、オート三輪タクシーはこうして今日も走り続けています。
・環境問題〜都市を追われるオート三輪
近年、オート三輪は環境問題とという逆風に直面し、存続の危機に立たされています。これらオート三輪の多くは排気ガスが汚い2サイクルエンジンを搭載していたうえ、車検制度のない国では整備不良の車両も多く、これに加えて精製の悪いガソリンを使っているため、派手に白煙を上げて走る姿が一般的でした。自動車の保有台数が増加し都市の大気汚染が深刻になると、オート三輪は大気汚染の元凶として営業禁止命令を突きつけられるようになりました。
エンジンの4サイクル化やCNG(天然ガス)化によって、排気ガスがクリーンなオート三輪を供給する見通しはついています。しかしタクシーの許認可権という政治家の利権がからむ問題だけに、一筋縄では解決しない問題のようです。
・インドのオート三輪 人口10.27億人
インド文化圏を代表する三輪がBAJAJです。オートリキシャ(auto-rickshaw)と呼ばれはするものの、人力車を改良してできた乗り物ではありません。
BAJAJグループはインドの有力な企業です。1948年にBAJAJ AUTO を設立、欧州からスクーターの輸入を始めました。イタリア、PIAGGIO社のVESPAはインド国内でもヒットし大きなシェアを占めました。その後1950年代に開発されたVESPAのオート三輪APEもインド国内に導入され、こちらも人気を集めました。APEの豊富なバリエーションには後部座席を備えた三輪タクシー仕様があり、インドでこれをモディファイしたものがauto-rickshawとなったようです。
当時のインド政府は外貨を節約するためと自国の工業化を進めるために、スクーターや三輪トラックをインド国内で生産する会社を必要としていました。こうした政策を受けて、BAJAJ社とPIAGGIO社はインド国内でスクーターやオート三輪のノックダウン生産を行う契約をかわしました。
インドベスパのライセンス生産はBAJAJ社が日本のオートバイメーカーとの関係を深める1970年代まで続きました。その後もほぼ同じモデルが、BAJAJで市場に供給されています。
・CNGエンジンで生き残りをはかるBAJAJ
CNGとは圧縮天然ガスの略称です。一時「世界で三番目に大気汚染のひどい都市」と呼ばれていたデリーの環境改善のために、オートリキシャにCNG燃料を使うことが義務づけられたのです。2001年から始まったこの規制は、当初CNG燃料を供給できるガソリンスタンドが不足したために混乱、公共交通機関のストライキや交通暴動と呼ばれた騒乱騒ぎなども起きました。現在ではデリーを走るオートリキシャはすべて緑色と黄色に塗り分けられたCNG仕様のBAJAJに代わっています。新しいオートリキシャは原型のAPEと異なりリアエンジンを採用しています。BAJAJ社は4サイクルエンジンとCNGエンジンのBAJAJを販売の中心にして、今でも世界最大のオート三輪メーカーとして健在です。
・その他マイナーなインドのオート三輪
戦後イタリアでオート三輪をつくっていたのは、PIAGGIO社だけではありませんでした。次に有名なところではLambretta社もオート三輪を作っていました。こちらのモデルもインドでライセンス生産されたようで、運が良ければインドや東南アジア各地で遭遇可能です。
BAJAJ TEMPO 社は、ドイツのTEMPO三輪トラックのライセンス生産から出発し、BAJAJ社よりもやや大きなオート三輪を販売しています。オートリキシャ用のモデルはMINIDOR と呼ばれています。
ちなみにTEMPO三輪トラックは三輪としては珍しい前輪駆動方式を採用しています。ドイツでは1957年に生産が中止されましたが、その工場は分解されてインドに送られました。インドで40年ほど作られた後、残念ながら2000年に生産終了をむかえました。1934年の原型から数えると実に66年間もほぼ同じモデルが作られた長寿車でした。ドイツのTEMPO社は後にハノマーク社と合併し、さらにメルセデスの商用車部門に吸収されました。
・バングラデシュのオート三輪 人口1.29億人
インド文化圏であるバングラデシュではBAJAJがタクシーとして使われています。これらはベビータクシーと呼ばれ、古くて危険なバスとともに市民の重要な交通手段となっています。これらの多くはインドから輸入された中古車で、2サイクルエンジンを積んだ古いタイプです。このため政府からは、都市の大気汚染の元凶とされ非難を受けてきました。
2003年1月から、2サイクルエンジンのベビータクシーはダッカ市内での営業を禁止されました。代わって導入されたのは、BAJAJの新型で、こちらはCNGエンジンを積んだモデル、色も全面緑色に変わりました。一気に入れ替わったベビータクシーは今もダッカの市民を運び続けています。
・ネパールのオート三輪 人口2474万人
ネパールの首都カトマンズなどではインド製BAJAJの中古車が大量にタクシーとして使われています。ネパールではBAJAJも含め、オート三輪はすべてテンプーと呼ばれています。中古BAJAJは流しのタクシーとして使われ、ひとまわり大きなオート三輪はビクラム・テンプーと呼ばれる路線バスとして使われています。ビクラム・テンプーは電車のように対面式に座る6人乗りです。こちらもインド製の中古車で、BAJAJ
TEMPO社製のものが多いようです。
盆地状の地形からカトマンズでは排気ガスが滞留しやすく、ここでも大気汚染が大きな問題となりました。デリーの規制よりも早い1999年から、ディーゼルエンジンを搭載したビクラム・テンプーのカトマンズ乗り入れは禁止されました。インドから輸入されるディーゼル燃料の品質が悪く、このためさらに排気ガスが汚くなっていることも問題とされました。
代わって政府は電気自動車化したモデルの導入を推進しています。バッテリーで動く電気テンプーは車体を白く塗られ、サファー・テンプーと呼ばれます。今後は数年毎に取り替えが必要な電気テンプーの廃バッテリーをどう処理するかが課題となりそうです。
・パキスタンのオート三輪 人口1.49億人
インドと政治的には仲が悪い国ですが、小型タクシーは中古のBAJAJです。呼び名もインドと同様リキシャーと呼ばれています。車両は古く、インドのオートリキシャよりも派手に飾り付けられています。
・ケニアのオート三輪 人口2868万人
東アフリカにはたくさんのインド系企業が進出しています。ケニアのナイロビなどでは、インドから輸入したBAJAJを使ったタクシーを見ることができます。
・インドネシアのオート三輪 人口2.15億人
インドネシアでもBAJAJを使ったタクシーが活躍しています。ただし、インドネシアを走っているのは相当古い中古車だけです。インドネシアの場合、中古車といえども自由に輸入をすることはできません。ジャカルタなどを走っているBAJAJは、1975年からの約10年間にタクシー用に輸入されたものです。その後中古BAJAJの輸入は中止され、インドネシアには約20年間、小型タクシー用の車両は供給されていません。さまざまな修理を重ねながら走り続けていたBAJAJも、現在では老朽化は否定できません。
近年、有力政治家が経営する企業が、BAJAJの後継として自社の小型四輪車カンチル(子鹿)を採用するよう政府に働きかけています。小型タクシーの車種変更が実現すれば、市価2000万ルピアで取引されているBAJAJは500万ルピアで下取りされ、タクシードライバーは3250万ルピアでカンチルを購入しなくてはなりません。インドネシアのBAJAJは存続の危機に立たされているようです。
1万5000台が走るというBAJAJと比べるとごく少数派ですが、インドネシアではミゼットがまだ生き残っています。これらは1962年に戦後賠償としてインドネシアに引き渡されたミゼットMP型で、現地でベモと呼ばれるミニバスに改造されました。6人から8人が乗れる対面ベンチシートが付いています。もっと新しい四輪車のベモも走っているなかで、デビ夫人とともに海を渡ったオート三輪がいまだに現役で走っているとは驚きです。
・タイのオート三輪 人口6346万人
トゥクトゥク(TUKTUK)はタイを象徴するような有名な存在です。
トゥクトゥクとはエンジンの音を表す擬音です。本来はサムロータクシーと呼ぶのだそうですが、トゥクトゥクの方が通りがいいようですね。サム(三)ロー(輪)とは三輪のことです。
トゥクトゥクは1960年代タイに輸出されたダイハツ・ミゼットを改造したタクシーです。主流はバーハンドルを持つミゼット1型タイプのものですが、後期のミゼットMPを改造したものもあります。
長年使っている間にパーツのタイ化がすすみ、ついにはシャーシやボディまでタイで生産できるようになりました。修理の技術を蓄積した小さな工場が、タイ製のトゥクトゥクを製造するようになったのです。同じような成り立ちのクルマに、ジープを改造したフィリピンのジープニーがあったのが思い出されます。ただしエンジンはいまだに日本から輸出されたダイハツ製の中古エンジンを搭載しています。
都市ごとにスタイルの違いがあり、バンコク型、チェンマイ型、アユタヤ型などがあるそうです。
バンコクではタクシーが普及しているうえ、交通渋滞対策などから2002年にはトゥクトゥク営業の新規登録がうち切られたため、トゥクトゥクの台数は徐々に減少しています。
・ラオスのオート三輪 人口553万人
ラオスは小さく貧しい国で、公共交通機関もあまり発達していません。タイから輸入されたトゥクトゥクが、タクシーだけでなくミニバスの役割も果たしています。北部ではオートバイを独自に改造した三輪がトゥクトゥクと同様の用途に使われています。馬の代わりにオートバイがつながったミニ馬車のような形をしていてジャンボーと呼ばれます。
・ベトナムのオート三輪 人口8206万人
ベトナムでは人力車タクシーのシクロが生き残っているくらいで、オート三輪タクシーは普及しなかったようです。例外はホーチミン市の一部で使われているセ・ラムというオート三輪です。荷台に対面式の座席を持つ乗り合いタクシーで、ベースになっているのはLambrettaのオート三輪のようです。
・中国・台湾・韓国のオート三輪については情報収集中です。
これらの国にも多くのオート三輪があります。
(1)公共交通機関ではなく、主に自家用小型貨物車として利用されている。(2)雑多なオートバイの改造品である。(3)手づくりに近い生産規模のモデルが多く、国を代表するような有名な車種はない。
等の共通した特徴があります。
・マレーシア、シンガポール、フィリピンでは四輪車が普及しており、オート三輪タクシーは見られません。
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