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1996年(平成8年)にジョン・ウィリアムズ指揮アトランタ交響楽団によるアトランタオリンピック(五輪)テーマ曲「サモン・ザ・ヒーロー(Summon the heroes)」

 ホメロスの『イーリアス』の結末近く(第23巻)で、アキレス率いるギリシャ軍がヘクトールに率いられたトロイ軍を破った後、戦死した自軍の戦士でアキレスの友人パクロクロスを弔う場面がある。たくさんのギリシャ人たちが涙を流して悲嘆に暮れる厳粛なシーンである。だがパクロクロスの亡きがらが焼かれ、「脂を二重に巻いた」金色の壺に遺骨が収められ、盛り土をした墓に埋葬された後、事態は不思議な展開を見せる。人々が立ち去ろうとすると、アキレスは戦士たちを呼び集め、様々な競技――戦車競争、健闘、レスリング、徒競走、決闘、砲丸投げ、アーチェリー、槍投げ――で競われたのである。試合の主催者であるアキレスは勝者に素晴らしい賞品を与えた。大釜と三脚台(デルフォイの巫女が神託を述べた祭壇の模造品)、「手仕事の得意な女」、乗りされていない6歳の雌馬(お腹には雄ロバの子、つまりラバを宿っている)、それに黄金などが賞品となった。だが競技に参加する者にとって賞品などは大した問題ではなかった。競技に勝つ最大の目的は栄誉を得ることにあった。ギリシャの英雄パトロクロスの追悼試合で勝利した最高の戦車の乗り手、拳闘家、レスラーとして、『イーリアス』のような物語の中でいつまでも語り継がれることが彼らの真の目的だったのである。

 19世紀のフランスで近代オリンピックの構想を抱いたクーベルタン男爵が、人間と神々の絡み合いの物語を驚くほど細部にまで渡って描いたホメロスの作品やそれに類似した古代叙事詩から大きな影響を受けたことは確かだろう。そして古代文明に心酔していたのは男爵ひとりではなかった。科学と産業の力によって世界征服を果たしたヴィクトリア女王(18371901)のイギリス人は、国を挙げて、霊的なもの、神話、超自然的なものに夢中になった。人類学者・民俗学者ジェームズ・フレーザー卿の『金枝篇』(副題には「魔術と宗教の研究」とある)が、百科事典的な規模ときわめて広範囲な規模にもかかわらず大流行したのもこの時代である。

 当時の人類学者や民俗学者の一部には、世界のあらゆる民族に共通するルーツを見出そういう動きが広がっていた。そうした動きは既に19世紀前半に、グリム童話集で有名なヤコブとヴィルヘルムのグリム兄弟でによる言語学研究、中でもインド・ヨーロッパ語族の根源を探る試みなどに現れていた。また、様様な神話、伝説、口承物語の膨大な目録もいくつか作成され、やがてそれらの物語の分析によって、世界中に伝えられている物語が持つ根本的な共通点が明らかにされた。

 ヴィクトリア女王時代に生まれたそうした議論・仮説にはお粗末な空論も多かったが、中には飛び抜けて優れたものもいくつかあった。それはその頃の書斎は人類学者が最も熟知していた分野である古代ギリシャ文明に関する議論である。彼ら古典学者はヘレニズム世界においてギリシャ人たちが何を表現しようと努力し、それがどのように表現さえたかを考察した。そして叙事詩人などの表現者と神々との間にあった特別な関係に特に着目した。ヘレニズム世界においては芸術作品の多くが宗教的な捧げ物だった。それと全く同じように、ホメロスの『イーリアス』に描かれているパトロクロスの葬儀の際に行われたような競技もまた、戦死した英雄への、或いは強大な力を持つ神性への捧げ物であるというヴィクトリア朝の人々は考えたのである

 近代オリンピックを創設するにあたってクーベルタン男爵が試みたものは、古代ギリシャ世界に存在した「捧げ物」の概念を再発見し、芸術家と競技者が人間界と神々の世界の仲介者となるという考えを復活させることだった。ごく短期間とはいえ、オリンピックに芸術作品のコンクールまで採り入れたクーベルタン男爵のオリンピック構想には、ある比喩と象徴が含まれている。男爵が構想したオリンピックにおける競技と芸術は、あらゆる人間が持っている、個人的な利益を越えてより大きな善を求める精神の比喩なのであり、また、それまで誰にも成しえなかったことを達成するために力を振り絞る競技者は、人間であることの限界を越えようとする全ての人間の象徴なのである。

 近代オリンピックが始まって100年の間には、団体競技が加わるなど競技そのものも変わり、次第に高まる愛国主義という変化もあった。だがクーベルタン男爵の精神は今も変わることなく残っている。オリンピックであらゆる競技者が人間の限界を越えようと奮闘する姿は、私たち全ての人間にとっても励みとなっているのだ。

 「私は、[選手が]ボールを捕ろうと全身を伸ばした一瞬を捕らえた1枚の写真を見た。そこには芸術的で詩的な何かを感じさせる瞬間があった。それはまるで、何かの生き物がそれまでの自分には思いもよらなかった方法で飛び始めた、そんな瞬間を捕らえたようだった。そこには私たちを芸術に近づける、精神的で非肉体的な何者かがあった」。

 この ジョン・ウィリアムズ の言葉にクーベルタン男爵も共感したことだろう。この言葉は男爵自身の次のような言葉と共鳴し合っている。「スポーツは、美を生み出すものとして、美が生まれる契機としてとらえられなければならない。スポーツが生み出すのは、生ける彫像である運動選手を生み出すからである。スポーツは、構成、スペクタクル、祝祭の中から美が生まれる1つの契機なのである」。

 

編:ジャクソン・ブレンダー、訳:渡辺正 発行者:Sony Music Entertrainment CD番号:SRCS 8009

 

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