
プロ野球のビジネス
since 2002/12/04
第1章 プロ野球を通したビジネス
1 「 through と of 」
2 「スポンサー企業を第一に」
3 プロ野球を通したプロ野球のビジネス
プロ野球ビジネスは,「プロ野球のビジネス」と「プロ野球を通したビジネス」の二つに分けることができます。「プロ野球のビジネス」とは,球団やリーグ自身が行うビジネス活動であり,「プロ野球を通したビジネス」はプロ野球を利用して行う企業のビジネス活動です。「プロ野球のビジネス」と「プロ野球を通したビジネス」は,両者は明確に区別できるわけではなく,多くの部分が重なりあっています。言ってみれば,プロ野球ビジネスを球団側から見るのか,投資をしようとしている企業側から見るかといった視点の違いと見ることもできます。
プロ野球ビジネスを「プロ野球のビジネス」と「プロ野球を通したビジネス」に分ける考え方は,スポーツナビの広瀬一郎氏が書いた「ドットコム・スポーツ」にでてくるスポーツ・マーケティングの考え方をもとにしています。
広瀬氏は「ドットコム・スポーツ」の中で,スポーツ・マーケティングを,スポーツ社会学では,「マーケティングthroughスポーツ」と「マーケティングofスポーツ」の二つに考えることがあると述べています。「マーケティングthroughスポーツ」とは,スポーツを通して広告キャンペーンなどの企業活動を行うことであり,「マーケティングofスポーツ」とは競技団体がその競技の普及と競技レベルの向上を図る,そのスポーツ自体のマーケティングを指す,としています。とはいうものの,現実のビジネスでは「of」と「through」の両者を明確に区別できるわけでもなく,重なり合う部分も多い,として,1998年秋に起こったJリーグ・フリューゲルスの消滅事件を例にとり,この関係を説明しています。以下は,その抜粋です。
あの時,フリューゲルスを擁護する世評もメディアも,その意見のほとんどは「of」の観点からであった。なぜ全日空がチームに出資しているのか,つまり,「through」から論じられなかったことは残念であった。もしフリューゲルスがリーグ上位ならば,全日空はチーム経営を続けたのであろうか。サポーターの人気がリーグで一番だったら,存続していたのか。たしかにこれらは必要条件であろうが,全日空の経営の観点からは十分条件ではない。実際,悲しいことだが,フリューゲルス問題の直後に全日空の株価は上昇した。 チームの人気と株価は関係ないというのであれば,スポーツ・マーケティングを語る資格はない。どんなに「フリューゲルスが素晴らしいチーム」であるかを強調したとしても,なぜ,出資しているかに対応した論理がなければ,どこまでいっても議論はすれ違うばかりである。「なぜ全日空はチームを持ったのか?」「何を期待しているのか?」つまり「フリューゲルスは企業にとってどういう価値を提供できるか」ということが重要な点なのである。あの時点で,スポーツ・マーケティングからの議論が見られなかったことが実に残念であった。 以上,広瀬一郎著「ドットコム・スポーツ」から |
マーティングは,ビジネスの一部門であり,今回話すプロ野球ビジネスの話はスポーツ・マーケティングの話と多くの部分が重なり合っています。また,フリューゲルスの話は,「球団の親会社が野球という興行を通して利益を追求する(小林至氏)」という親会社ビジネスが闊歩しているプロ野球ビジネスの世界にあっては極めて示唆に富んでいます。
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「なぜ全日空はチームを持ったのか?」「何を期待しているのか?」つまり「フリューゲルスは企業にとってどういう価値を提供できるか」
これを「through」 と 「of 」で説明すると次のようになります。全日空は,フリューゲルスを利用して利益を追求しようしたのであり,全日空にとってフリューゲルスは「マーケティングthroughスポーツ」でした。つまり,フリューゲルスの「マーケティングofスポーツ」というのは,全日空というスポンサー企業に,いかに利益のでる「マーケティングthroughスポーツ」を提供できるかということであり,フリューゲルスは,全日空というスポンサー企業に,「マーケティングthroughスポーツ」で利益を提供できなかったということになります。ビジネスの世界では「through」を通して「of」が見えてきます。
up 第1章
「through」を通して「of」が見えてくる例として,スポーツ・マーケイターのヨシ・オカモト著「メジャー・リーグに就職する方法」から見てみましょう。以下は,その抜粋です。
アメリカでは自分の会社のためではなく,スポンサー企業のことを第一に考えた企画内容でなければなりません。つまり10万ドルの企画は10万ドルの収入を得るための企画ではなく,スポンサーに10万ドル以上の効果をもたらす,プロモーション企画でなければならないのです。(略) スポンサー企業の利益を考えれば,まずその会社と商品を理解し,どのような市場がどのようなターゲットを狙っているかというマーケティング・プランも知らなければなりません。(略)その規模と方針にマッチした企画でなければ,どんなに素晴らしい企画であっても見向きもされません。 そして,相手のマーケティング戦略をリサーチ,理解して初めて,「それならば,このような企画でしたら,吉野家さんがターゲットとしている顧客層に有効に伝わる宣伝になると思います。年間○○万ドルほどの予算でスポンサーになっていただけないでしょうか」と具体的な提案に移るのです。 |
これは,オカモト氏が牛丼の吉野屋に売り込む際の話です。当時,吉野家はロスを中心に急速な出店を行っていました。そこに,マーティダックス(NHL)にいたオカモト氏が目をつけ,多種多様なスポンサー契約を企画してプロモーションしたときの話です。
「スポンサー企業のことを第一に」という言葉は,よく言われる「相手の立場にたつ」ということと同じですが,マーティダックスのビジネスとして考えた場合,スポンサーとなって欲しい企業に対し,マーティダックスを通したビジネスをいかに展開してもらうかが,マーティダックスのビジネスということになります。つまり,スポンサー企業のWin(利益)が,球団のWin(利益)につながるということです。オカモト氏は,また,「スポンサー契約にはいろいろな形態と規模がありますが,吉野家に対してもスタジアム内の多種多様な看板広告から場内モニターでの広告,プログラム広告,シーズンチケットの購入,テレビ・ラジオ中継のCM,いくつかのスポンサー企画を考えました」とも述べています。スポンサー企業と球団が「Win−Win」関係となるためには,多種多様なサービスをいかに提供できるかということも鍵となります。
ここでのオカモト氏の話は,アイスホッケーでの話でしたが,スポーツビジネスの世界では,共通性があり,実際,MLBビジネス入りを希望していたオカモト氏は,そう言われてNBA,NHLとスポーツビジネスでのキャリア・アップを図り,その後野球の世界へと進んでいます。
up 第1章
ここまでサッカーとアイスホッケーといった他のプロスポーツの話になりましたが,プロスポーツビジネスの世界では,すべからく共通性があり,すべてのプロスポーツが「スポーツのビジネス」と「スポーツを通したビジネス」に分けることができます。そして,「スポーツのビジネス」と「スポーツを通したビジネス」は,明確に区別できるわけではなく,多くの部分が重なりあっています。その重なり合った部分では,「スポーツを通したビジネス」が「スポーツのビジネス」となることも共通しています。
ここで,スポーツのビジネスを,スポーツ・コンシューマー(消費者)との関係から見てみましょう。
スポーツ消費者は,観戦者や視聴者,購買者といった多様な形態をとります。チケット販売やグッズ販売,競技場内での飲食物販売といったものは,スポーツ消費者からの直接的な売り上げです。これに対して,テレビ中継や看板広告といったものは,プロ野球消費者から直接利益をあげるのではなく,放送会社やスポンサー企業といった第三者を介して間接的に利益をあげるものです。つまり,スポーツのビジネスは,収益の面からみれば,スポーツ消費者から直接売り上げがあるものと間接的に売り上げにつながるものとの二つに分けることができます。
後者の第三者を介してスポーツ消費者から間接的に収益を上げる部分が,「スポーツのビジネス」と「スポーツを通したビジネス」が重なり合う部分です。放送会社やスポンサー企業にとっては,「スポーツを通したビジネス」であり,プロスポーツ側にとっては,「スポーツのビジネス」になります。とはいっても,「チケット販売が『スポーツを通したビジネス』ではなく,テレビ中継が『スポーツを通したビジネス』であるということではありません。オカモト氏が述べているようにチケットが,スポンサー企業の接待や福利厚生に利用される場合もあります。逆に,テレビ中継も,ペイテレビの普及によって直接,プロスポーツが視聴者である消費者から収益を上げることができるようになってきています。また,スポンサー企業の中には自治体も含まれます。
話をプロ野球ビジネスに戻すと,プロ野球ビジネスとは,「プロ野球のビジネス」と「プロ野球を通したビジネス」の二つの意味があり,「プロ野球のビジネス」は,球団やリーグ自身が行うビジネス活動であり,「プロ野球を通したビジネス」はプロ野球を利用して行う企業のビジネス活動のことです。また,テレビ中継や広告・スポンサーシップといった分野では,「プロ野球のビジネス」と「プロ野球を通したビジネス」は重複しており,放送会社やスポンサー企業にとっては,「プロ野球を通したビジネス」であり,プロ野球側にとっては「プロ野球のビジネス」すなわち,「プロ野球を通したプロ野球のビジネス」ということができます。
「プロ野球を通したプロ野球のビジネス」は,相手方となるスポンサー企業に,プロ野球という興行を利用していかに利益を上げてもらうか,プロ野球とスポンサーとなる企業との間にいかに「Win-Win」の関係を築くかが問題になります。そのためには,スポンサー企業にいかに儲けさせるかということと,そのための多種多様なサービスをいかに提供できるかが課題となります。
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なお,チケット販売やグッズ販売,競技場内での飲食物販売など,プロ野球消費者から直接売り上げがある分野におけるプロ野球のビジネス,および,「球団の親会社が野球という興行を通して利益を追求する」という親会社ビジネスの問題がまだ残ることになります。
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