プロ野球って何だろう
(2000年版)

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2000/12/23

by B_wind

index

はじめに

1 大変動

2 リーグ戦興行共同体

第1 リーグ戦スポーツ

第2 競争と均衡

第3 四つの法則

3 プロ野球ビジネス

第1 選手

第2 顧客

はじめに

 20世紀最後の年,2000年のプロ野球は,東京読売巨人軍長嶋監督の背番号3フィーバーで明け,ON対決を制した長嶋巨人の日本一で幕を閉じました。全国の巨人ファン,長嶋ファンは,狂喜乱舞し,経済評論家は経済効果を囃し立てていました。

 監督長嶋が話題になる一方で,金満巨人に対する風当たりとそれを阻止できなかったプロ野球全体への失望と不満が蔓延していたと思います。選手の話題といえば,去年の新人王巨人軍上原と西武松坂の交通スキャンダル,巨人軍選手のカンチョーの祝福,巨人軍杉山捕手の痴漢行為と低俗なものが多かったのも今年を象徴しています。そして,最後に21世紀の選手たちに対するドラフトの裏金情報です。

 こんな日本プロ野球の世紀末に対し,MLBでは,日本での初の公式戦開催,前横浜ベイスターズ,シアトル・マリナーズ佐々木投手の活躍(同投手はAL新人王に輝きました),オリックス・ブルーウェーブ,イチロー選手の入札・シアトル入団といった日本にとって21世紀への期待と夢に満ちた20世紀最後の年でした。

 日本のプロ野球にとって21世紀はあるのか,アメリカの二グロ・リーグのように消滅にむかうのか,はたまた日本の,アジアのメジャー・リーグに生まれ変わることができるのか。今,日本のプロ野球は大事な岐路にたっていると思います。プロ野球ファンも,ある種の危機感をもっていると思います。 
目次   3

1 大変動

 日本のプロ野球を取り巻く環境は,今後10年で大きく変わろうとしています。早ければ,5年以内に大きな変化が現れると思います。プロ野球がこの変化に対応できるか,現状では,悲観的にならざるをえません。

 日本プロ野球の取り巻く環境といっても,プロ野球も日本社会の一部ですから,日本社会を取り巻く環境変化の中に,位置づけられ,少子高齢化,IT革命,平成不況,ビジネスの国際化といった日本社会の環境変化を受けることになります。しかも,その環境変化は他の社会よりも早くプロ野球に訪れます。親会社依存,巨人依存の今の日本のプロ野球では,この環境変化に自律的に向かっていくことはできないでしょう。

第1 少子高齢化

 我が国の高齢化は急速に進み,2000年現在17%であった65歳以上の人口の割合が2010年には,22%を超えるようになります。1947年(昭和22年)〜1949年生まれの団塊の世代700万人が,この10年で60歳を超え,定年を迎えるようになります。この団塊の世代こそ,戦後のテレビの普及・高度成長と相俟って登場した長嶋・巨人の活躍を刷り込まれた世代です。この長嶋世代が社会の第一線から退くことにより,長嶋=巨人=プロ野球の影響力は小さなものになっていくでしょう。

 現在の40代・50代の世代は,野球一辺倒でしたが,それより下の20代・30代の世代は,Jリーグの登場以来野球もサッカーもという世代です。彼らが,30代・40代になるこれからの10年でスポーツファンの構造も大きく変化していきます。

 高齢化とともに進むのが少子化です。我が国の人口も2010年までには,減少に転じると言われ,2000年には150万人いた20歳人口も,2010年には120万人に減少します。単純にみても,人口の減少は,パイの減少を意味しますからプロ野球ファンの絶対的減少,少子化は,選手人口の絶対的減少をもたらします。   

第2 サッカーの定着

 サッカーの世界では,プロ・アマ問題はありませんから,10代からの一貫とした育成システムが可能で,我が国でも1990年代の初めにトレーニングセンターを各地に設け,育成システムを構築してきました。日本は,いま,世界の中で最もうまく育成システムが機能している国の一つであるとされ,ほとんど日本国内での努力だけで,中田を初め中村俊・西澤・小野といった若い優秀な選手を続々と生み出し,1999年の世界ユース優勝,シドニーオリンピックの決勝トーナメント進出,アジアカップの優勝という成果を出してきました。

 Jリーグは,1993年地域に根ざした総合スポーツクラブとしてスタートしましたが,親企業色を出そうとしたクラブが低迷する一方,磐田・鹿島・浦和といった地域密着のクラブは経営的に成功を収めつつあります。広島や新潟では,バレーボールやバスケットボールといった他の競技との連携が生まれ,文部省や通産省が推進する地域総合スポーツクラブの担い手として期待されています。

 2002年にはFIFAワールドカップが日韓共同で開催されます。入場者300万人,予選を含めた参加国・地域は160余,テレビ視聴者は延べ400億人を超えるという世界最大のスポーツイベントは,日本中をサッカーに釘付けにするでしょう。また,それに合わせ,日本各地に4万人を超える競技場が公費で建設されています。

 このように,日本のサッカー界は,単にサッカーというスポーツにとどまらず,地域・社会・行政との関係を深めています。

第3 MLBの攻勢

 NBAやNFLといったプロ・スポーツと競争する米国メジャー・リーグ(MLB)は,球団の拡張に伴う選手不足やフリーエージェント革命による選手年俸の高騰を背景に,近年,海外への膨張政策を押し進めています。選手の供給基地として,また,放送権やグッズの新たなマーケットとして海外に注目し,世界戦略が練られています。

 我が国でも,野茂以来伊良部,吉井,佐々木といったエースピッチャーがFAを行使して,大リーグに進出し日本人投手の大リーガーは珍しくなくなりましたが,2000年秋には,オリックスのイチローが入札でマリナーズに,阪神の新庄がFAでメッツにと2人の野手が大リーグに挑戦することになりました。また,NPBを経験せず,直接,大リーグに挑戦するケースも増えています。このように,日本の野球選手にとって,MLBはもはや遠い世界のことではなく,手の届く身近な世界になっています。日本もBSデジタルやCSデジタルの登場により多チャンネル時代を迎えますが,その有力コンテンツとしてMLBの中継も増えると思われます。日本人大リーガーの登場は,番組の視聴者を増やすでしょう。

 2002年には2度目のMLB公式戦日本開催が,2003年春には,MLB主催のワールドカップが米国で開催されるといいます。また,2003年には,ドラフトを米国だけでなく世界の選手を対象にするという話もあります。

 このMLBの世界戦略の前に,NPBは何ができるのでしょうか。また,日本人選手は,高額マネーを求めて大リーグに挑戦するのではないという事実をどこまでNPBは危機に感じているのでしょうか。ファンも選手も魅力のある方を選ぶでしょう。 

第4 企業スポーツの終焉

 平成不況と言われるバブル崩壊後の長引く不況は,企業の構造改革を求め,それが,日本独特の企業スポーツの終焉をもたらそうとしています。企業の福利厚生や宣伝媒体として隆盛を極めた企業スポーツは,この数年,休部・廃部が相次いでおり,アイスホッケーでは1999年の古河電工の廃部に次いで2000年には雪印が廃部を表明し,古河電工を引き継いで誕生した日光アイスバックスも行き詰まりを見せ,リーグの存続さえ危うくなっています。

 社会人野球は,1963年の237をピークに2000年には99に激減しています。プロ・アマ問題で対立しているように見えるNPBですが,実際には,社会人野球に依存しており,毎年即戦力として多くの選手が入団していました。NPBの育成機関としての役割も担っていた社会人野球の衰退は,ファームが選手の育成機関として機能しないNPBにとって,極めて重要な問題だと思われます。

 企業スポーツの側も,スポーツにおける企業の役割を見直し,「同一地域の企業や自治体および市民の皆さんと共同してチームを構成・支援する“広域チーム”という新たな活動形態」新日鉄ブレイザーズに企業スポーツの新しい方向として位置づけ,地域総合スポーツクラブへの転換の動きがあります。

 企業スポーツから地域スポーツへの転換期に,NPBは,何の役割を果たすことができるのでしょうか。既存の育成システムが衰退していく中で,NPBは新たな育成システムを構築できるのでしょうか。

第5 IT革命

 巨人一辺倒のマスコミを取り巻く環境も,今後の10年で大きく変わります。2000年12月1日にBSデジタル放送が始まり,チャンネルが10チャンネル増えます。これは,さらに数年後には30チャンネルになるといわれています。地上波も,2003年から東京・大阪・名古屋圏でデジタル放送を開始し,2006年には全国で開始する予定になっています。BSアナログ放送は,2007年頃には廃止,地上波も2010年にはアナログ放送を廃止する方向です。既に,CSでは,デジタル化が進み200チャンネル以上の多チャンネル化が進んでいます。

 放送のデジタル化は,多チャンネル化をもたらし,放送資源としてプロ野球の価値が高まっていますし,地上波の巨人偏重報道に大きな変化をもたらす可能性をもっています。また,BS・CSデジタル放送は,地上波ローカル局を直撃することが予測されています。さらに,2005年には,光ファイバー網が日本全国を張り巡らされるようになると,ブロードバンド・インターネットは,マスコミという言葉を死後にする可能性さえもっています。
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2 リーグ戦興行共同体

 プロ野球とは,リーグ戦興行共同体です。プロ野球は,フィールド上では競争しますが,ビジネス上では協調する存在です。各球団は,独立したチームとしてフィールドで競争します。しかし,それと同時に,ビジネス上では,試合の興行権やローカル放送の放送権といった地域市場の権利は,各球団にフランチャイズによって認め,全国放送やグッズの全国販売といった地域を超えるものは,全球団が共同管理するといったものです。

 MLBでは,この協調体制が確立していますが,NPBでは,なかなか協調関係が生まれません。NPBでは,一応フランチャイズはありますが東京に3球団あるなど,実際の地域独占は確立していませんし,放送権には,フランチャイズが含まれていません。また,放送権や商標権の共同管理体制ができていません。

 プロ野球は,他のプロスポーツとの間では競合状態にあり,共同体としてこれらの競合相手と競争していかなければなりません。MLBは,NFL,NBA,NHLと,選手の獲得競争,観客動員,視聴率の獲得競争といった面で競合関係にあります。同様にNPBも,国内では,Jリーグと国外ではMLBと競合関係にあります。ただし,これらの競合相手とも,スポーツ(の振興)という枠内や地域レベルでは,協調関係が成立します。
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第1 リーグ戦スポーツ

 野球を含めた対戦型のスポーツは,1チームでは試合ができません。2チームいて初めて試合が成立します。対戦型のボールゲームにとってこれは当然のことであり,スポーツとしては当たり前のことです。ところが,これが,経済の話になるとちょっと変わってきます。

 例えば,プロ野球の球団は企業ですが,この企業,単独では,商品を生産できないのです。プロ野球の商品である試合は,2球団(チーム)がいて初めて成立します。つまり,二つの企業が協働して初めて試合という商品を生産することができるのです。このようにプロ野球やJリーグなどのプロ・スポーツ(対戦型ボールゲーム)は,単独では,商品が生産できないという特殊な産業なのです。

 注 以下,「スポーツ」といった場合,野球やサッカーなどの対戦型ボールゲームのことをいいます。プロ・スポーツのスポーツも同様です。

 プロ野球やJリーグなどのプロ・スポーツを長期に渡って経営するためには,安定的な収入を確保する必要があります。通常,スポーツ興行の基本的な収入は試合の入場収入です。近年,メディアの発達により,放送収入の比重が増したとはいえ,重要なのは,競技場に足を運ぶ観客です。観客を集められなければ,視聴者も確保できません。

 そもそも,対戦型のスポーツというのは,2チームあっても,毎試合同じでは,優劣がはっきりしてすぐ飽きてしまいます。対校戦ならまだしも,普通は,数チームが集まって,優劣を競い合う大会を催します。対戦型スポーツの魅力は,単なる試合の勝敗だけでなく,大会での優勝争いも魅力の一つです。

 つまり,対戦型スポーツの魅力は,試合内容の面白さと大会での優勝争いという二重の魅力であり,プロスポーツでは,ハイレベルな試合内容と,優勝争いが求められることになります。大会の方式には,勝ち抜き戦のトーナメント方式と総当たり戦のリーグ戦とがあります。トーナメント方式では1試合で姿を消してしまう場合もあり,入場者収入に頼るプロスポーツにとって,経営が成り立たないチームもでてきてしまいます。

 そこで,プロ・スポーツでは,特定の球団がリーグを組織し,試合数が事前に確保され,優勝争いの機会も均等な総当たりのリーグ戦が通常行われます。リーグ戦は,年間の試合数があらかじめ決められており,予算をたてることが可能で,プロ・スポーツの近代経営には不可欠なものです。

 ただし,リーグ戦の形態や試合数は,スポーツの種類によって異なっています。NPBでは,27試合総当たり戦の135試合を行い,Jリーグでは,ホーム&アウェイによる30試合を行います(2000年度)。

 プロスポーツは,試合での勝敗争いというゲームと,リーグでの優勝争いというゲームの二重構造になっています。
 プロ・スポーツは,リーグ戦興行共同体として,単に試合を興行するだけでなく,リーグ戦というより上位のカテゴリーをもった興行形態を執っています。ですから,プロ・スポーツは,リーグ戦という競争をフィールド上では行いますが,ビジネス上は,リーグ戦という興行をリーグに加盟している全球団が一緒になって行っているわけです。このプロ・スポーツ特有の二重構造を理解しないことには,プロ・スポーツ・ビジネスであるプロ野球を理解することはできないでしょう。

  「プロ・スポーツは,リーグ戦スポーツである。」
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第2 競争と均衡

八百長と競争

 プロ野球で一番意味嫌うものは八百長です。八百長は,あらかじめ試合の内容や結果が決まっています。そもそも,プロ野球は,勝敗を競い合うボールゲームです。ボールゲームには,シナリオはありません。よく,野球は,筋書きのないドラマに例えられますが,まさに,その通りで,結果が初めから分かっていては,それはゲームではありません。プロ野球というのは,試合やリーグ戦といったフィールド上の競争が,前提であり,競争のない八百長は,プロ野球の存在意義を失うものなのです。

 プロ野球の八百長事件として,MLBでは,ブラックソックス事件があり,NPBでは,西鉄の黒い霧事件があり,これらは,プロ野球の存在を脅かす事件に発展しました。そこで,プロ野球は,八百長を断固排除するために,関係した選手の永久追放という形で断罪したのです。近年のMLBでのピート・ローズの永久追放も,プロ野球が八百長を断固として許さないという姿勢を示す現れです。

 また,MLB,NPBともに,八百長を疑われないように,同一人や同一の会社が複数の球団を所有することを禁止しています。アイスホッケー日本リーグにおける西武鉄道とコクドのような兄弟チームは,MLBでもNPBでもあり得ません。この八百長との対決は,フィールドでの競争を前提とするプロ野球にとって,自らの存在意義を証明するものです。

絶対的な戦力格差

 では,八百長ではなく,球団間に絶対的な戦力格差があり,戦略や戦術に関係なく,初めから試合やリーグ戦といった結果が分かってしまっていたらそれはゲームと言えるのでしょうか。リーグ戦を構成する球団の間に実力の差がありすぎると,勝敗の結果があらかじめ予想され,結果も予想どおりになります。これは,勝敗を競い合うボールゲームで,その対価としておカネを得ているプロ野球にとって根幹を揺るがすものです。

 プロスポーツも,エンターテイメントとして,ショービジネスの一種と考えることができますが,スポーツがショーとは異なるのは,それが競争であるという点です。ですから,競争の成立しないゲームは,プロスポーツの存在意義を自ら否定することになります。このため,プロスポーツでは,いろいろな競争の演出が行われています。MLBやNPBでは,有力な選手が1球団に偏らないようにドラフト制があり,サッカーでは球団の入れ替え制があります。さらに,フィールドやコートでの競争を演出するために,ルールやリーグ戦の方式を変更する場合があります。

 プロ野球の場合,MLBの歴史をみると,この一世紀は根幹となるルールの変更は行われていませんが,投打のバランスによりマウンドの高さやストライクゾーンの大きさを変更したりしています。近年では,リーグ戦の方式を変更したり,,ナショナル・リーグとアメリカン・リーグとの交流戦が行われています。

競争の演出

 八百長がだめで,競争の演出は許されるのか。競争を演出することは,八百長ではないのか。こういった疑問が出てくると思います。ところが,プロ野球を含めたプロス・ポーツは,観客があって初めて成立する見せるスポーツですから,「見せる」という行為において,ショービジネスと共通性があります。プロ・スポーツの商品はゲームであり,ゲームの内容が魅力に乏しければ,観客は減り,プロスポーツは成り立たなくなります。このゲームの魅力のためには,ゲームの演出は許されるものだと思います。進行中のゲームの中身を演出することは許されませんが(それは,スポーツだからです。),ゲームのお膳立てを演出することは,プロ・スポーツとして当然認められるものです。その中には,競争の演出も含まれ,戦力の均衡策も含まれます。 

戦力の均衡策

 プロ野球の各球団は,独立した球団です。これは,八百長を防止するためです。兄弟球団は許されません。しかし,各球団は,リーグ戦を共同で興行する共同体でもあります。一見,この相矛盾する関係が,プロ野球なのです。そのため,戦力の均衡策には,球団の独立性を保証しつつ,共同体として関係を逸出さない範囲で行われます。

 ドラフト制というのは,戦力の均衡策としては,戦力である新人選手の入団を規制するもので,直接的な手段です。それよりも,間接的な資金面での均衡策が一般に採用されています。資金面での均衡策というのは,一球団が独占的に資金を得るのではなく,各球団が均等に資金を得る機会を設ける形で行われます。それがフランチャイズ制であり,共同管理なのです。一球団だけが利益を独占し,その利益をもとに,戦力を補強し,強大なチームを作る,といのうではなく,各球団の利益を得る機会を公平にし,一球団の戦力が突出しないようにします。この方が,リーグ全体にとって利益になることなのです。

 各球団は,フランチャイズの地域内では,プロ野球の権利を独占的に行使しますが,プロ野球は,所詮は娯楽であり,多分に嗜好的なものですから,他のスポーツや他の娯楽と競合関係にあり,決して独占企業という分けではありません。 

プロ野球(共同体)の論理

 このように,プロ野球は,リーグ戦興行共同体として,フィールド上では競争しますが,ビジネス上では協調する存在であり,通常,外部要因が介在しなければ,この考え方でプロ野球は運営されていきます。つまり,NPBのように親会社が,プロ野球に介入してくると,このプロ野球の論理は,おかしくなってきます。

  「プロ野球の論理とは,共同体の論理である。」

 なお,共同体の論理は,プロ野球以外のプロ・スポーツにもあてはまることです。
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第3 四つの法則

 プロ野球は,試合内容やリーグ戦での順位争い・優勝争いを通して観客を集め,収入を得るしくみになっています。ところが,このプロ野球をビジネスとした場合,注意しなければならないことがあります。それがプロ野球の四つの法則です。

 スポーツとは,主に身体を使って競争するゲームですから,プロ野球の順位争いは,選手の身体的活動の結果であり,選手の身体的能力に大きく左右されることになります。これが第一の法則です。

第一法則 球団の成績は,球団の戦力に依存する。
 これは,各球団のマネージメント能力,スカウティング能力,コンディショニング能力が同等と仮定した場合です。実際には,各球団のマネージメント能力等には差があり,必ずしも球団の成績は戦力に依存する分けではありません。

 次に,プロですから,選手の評価は,通常,金銭によって評価されます。近年ますますこの傾向が強まっています。球団に資金力があれば,有力な選手と数多く契約できる可能性があります。実際の選手の入団動機には,出場機会,育成能力,球団施設,球団の評価なども含まれますが,金銭的評価がプロ選手の最大の評価であることには変わりありません。

第二法則 球団の戦力は,球団の資金力に依存する。
 これは,選手の入団の動機が金銭によるものだけと仮定した場合です。実際の選手の入団動機には,選手の出場機会,球団の育成能力,球団施設,球団の評価などの要因も含まれます。

 球団の戦力が,球団の資金力に依存するとした場合,球団は,どこからどれくらい資金を調達できるかが問題になります。これが,第三の法則です。

第三法則 球団の資金力は,フランチャイズに依存する。
 これは,全国放送やグッズの全国販売が,プロ野球全体で共同管理されていることが前提になります。つまり,プロ野球の論理に従っている場合です。

 この場合,フランチャイズ地域,つまり,フランチャイズとする都市の規模によって,球団の収益が決まり,リーグ成績も決まるというものです。なお,ここでいう人口には,絶対的人口である居住人口と相対的人口である野球人口に分けることできます。絶対的人口は,球団経営を決定しますが,相対的人口は,球団の企業努力によって変えることができます。

 プロ野球が,共同体の論理で運営されていない場合,第三の法則はあてはまりません。結果として,第一,第二の法則により資金力のある球団が,強豪チームになります。そして,この資金力が1,2球団に偏ったら,リーグ戦の勝敗もおおかた予想通りとなり,競争も形だけのものになってしまいます。自由競争論には,ビジネス上の競争がフィールド上の競争を阻害するという矛盾をもっているのです。

 ビジネス面の自由競争は,球団間の資金力の差を生みだし,それが,リーグの順位を固定化させることになります。なお,プロ野球の論理の範囲内での自由競争では,絶対的な戦力格差は,生じにくいため,選手の獲得市場での自由競争は,あり得るかもしれません。

 ただ,プロ野球の論理に従ったとしても,第三の法則により,地域人口に差がありすぎると,球団格差が生じます。これは,MLBにおけるニューヨーク,シカゴ,ロサンゼルスといったビッグ・マーケットとカンザス・シティやモントリオールといったスモール・マーッケトという球団環境の絶対的格差が,順位の格差になって表れるという問題が起こっています。そこで,MLBでは,共同体の論理をさらに一歩進め,収益の再分配にまで進んでいます。

 最後に,ここまでプロ野球の法則を三つあげましたが,もう一つ,第四の法則があります。

 第四法則 球団の資金力は,球団の成績に依存する。
 プロ野球は,試合内容やリーグ戦での順位争い・優勝争いを通して観客を集め,収入を得るしくみになっていますから当然ですが。

 当然のようなこの法則が第一法則ではなく,第四法則なのは,観客を集める要因には,ただ単に,強ければ観客が集まるとは限らないからです。昔の阪急ブレーブスが強くても観客が集まらない例であり,今の阪神は,弱くても観客が集まる例です。また,プロ野球も企業である以上,商品の生産は,最後になります。

 第四法則では,共同体の論理の中では,フィールド上の競争を促進する働きがあり,共同体の論理が働かなければ,フィールド上の順位をさらに,固定化する働きがあります。

 プロ野球ビジネスには,この四つの法則がありますから,この法則をコントロールすることが,プロ野球ビジネスの成功の鍵です。

  「プロ野球ビジネスには四つの法則がある。」

 なお,これら四つの法則は,プロ野球以外のプロ・スポーツにもあてはまることです。

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3 プロ野球ビジネス

 プロ野球は,高度な野球技術を持った選手がチームを組み,観客から金銭を得て行う野球のことです。チームを運営し,ゲームを主催(興行)するのが球団です。球団は,プロ野球という経済活動を営む経済主体であり,プロ野球の普及と発展を目的とする組織,すなわちプロ野球企業なのです。リーグや機構は,経済主体又は企業の集合体であると同時にそれ自体が経済主体であり企業ということになります。

 一般に,企業は,原材料や労働力を仕入れ,製品を生産し,販売します。プロ野球も同様に,選手市場から選手を雇い入れ,試合を行い,興行市場で野球観戦や野球放送,関連商品を販売します。

 経済主体とは,経済活動を自らの意思決定により行う単位のことをいいます。企業とは,目的を達成するために利潤を追求する独立した組織のことをいいます。どちらにしても,自らの意思決定により活動する主体的組織のことです。親会社の宣伝媒体としか考えられていないNPBは,果たしてプロ野球と呼べるか疑問があります。

 プロ野球のビジネス環境には,一次環境として選手と顧客(観客,視聴者,購買者),二次環境として企業(親会社,スポンサー),都市(自治体,地域)があります。一次環境とは,プロ野球を構成する要素であり,二次環境とはプロ野球を支援する要素です。

 選手や顧客というファクターはなければ,プロ野球は成立しません。都市(自治体や地域)や企業(親会社,スポンサー)というファクターは,なくてもプロ野球自体は成立しますが,プロ野球経営の中では不可欠のものです。
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第1 選手

 プロ野球とって,選手は最も基本的な要素で,選手がいて初めてゲームが成立しますし,球団の戦力として,球団経営を決定します。このプロ野球選手には,次のような特徴があります。

第一に,プロ野球選手は,育成期間が長いということです。

 野球は,技術的要素の高いゲームで,経験も必要であり,一人前の選手に育てるのに時間がかかります。MLBでは,マイナーからメジャーにあがるまでに5・6年かかるとされ,選手のピーク年齢も,投手で24歳から28歳,打者で28歳から32歳と高くなっています。選手の育成組織であるマイナーリーグは,ルーキー・リーグからAAAまで4階層からなり,毎年百数十試合行っています。

 ですから,メジャー・リーグにあがるまでに打者で700試合近く経験していることになります。ベースボールは,人工的に作られたバスケットボールやフットボールと異なり,プロ競技として発達してきたたこともありますが,一つのメジャー球団で,5つから7つのマイナー球団を要し,支配下選手は300人を数えます。これは,世界のプロスポーツの中でも類をみない規模です。

 これに対し,NPBでは,選手層が薄く,一軍が育成機関を兼ねているのが現状です。また,野球が学生競技として発達した関係から,高校野球だけでなく,大学・社会人野球も盛んで,大学・社会人を経て24歳を過ぎてから入団する場合も多くあります。従来,NPBでは,大学・社会人野球が盛んであったため,そこから即戦力の新人を獲得してきました。選手の育成には時間がかかることを無視され,ファームは軽視されてきました。ファームは,一軍の従属物であり,試合数も少なく,育成方針もないというのが現状でした。大学・社会人野球が,ファームの代替になってきたのです。

 ところが,近年のバブルの崩壊でこの社会人野球チームの廃部や休部が相次,この選手育成システムは崩壊の危機に直面しています。このため,横浜ベイスターズの湘南シーレックスに見られるようなファーム改革やオリンピックチームへのプロ選手の参加といった社会人野球との交流などの動きが見られるようになりました。

第二に,プロ野球選手は,野球という集団競技の構成員だということです。

 選手は1人では試合はできません。選手は,チームとして試合をすることになります。経済学的にいえば,選手は,試合という商品を生み出す原材料であり,労働力ということになります。一般に,良質の原材料と優秀な労働力から高品質の製品が生み出されます。すなわち,優秀な選手が揃えば,球団も強くなるというわけで,球団の成績は,球団の戦力に依存するというプロ野球の第一法則(第1章参照)になります。

 野球の観客動員の条件のひとつに,「勝つこと」というのがあります。野球は勝敗を競い合うボールゲームですから,勝つことは当然です。勝つためには,戦力的優位に立つことが必要です。戦力的優位に立つためには,優秀な選手をどれだけ確保できるかがポイントになります。

第三に,プロ野球選手自身が,商品だということです。
 
 観客は,試合の勝ち負けだけではなく,選手のファイン・プレー,ホームランや奪三振に魅了されます。さらに,スターとわれる選手にでもなれば,そのネーム・バリューだけで観客を引きつけます。

 「勝つ」だけでは,昔の阪急ブレーブスのように観客は集まりません。そこには,選手のプレーヤネームだけで観客を呼べるスター選手が必要なのです。このスター選手が観客動員の二つめの条件です。スター選手とは,選手自身の存在だけで集客力のある選手のことで,超一流の技術やカリスマ性が要求されます。ただし,それを満たす選手は僅であり,逆に,スター選手の価値とは,その希少性に起因しています。

 人気と実力を兼ね揃えたスター選手の存在は,観客動員のための二つの条件を一度に満たすとともに,戦力として球団の成績を上位に押し上げる能力があります。つまり,スター選手は,球団のフィールド面とビジネス面を同時に成功に導くことを期待されている選手です。とすれば,スター選手の市場価値は,高いということになり,自由競争になった場合,スター選手の報酬は高くなるでしょう。

 このように,プロ野球にとって選手というのは,収入源であるとともに,費用でもあります。前章でプロ野球の法則をあげましたが,その第一,第二,第四法則から導かれる答えは「球団経営は,選手に依存する」というものです。スター選手を始め優秀な選手を集めれば,成績もあがり,観客は増え,収入も増えます。しかし,その分,選手の報酬も高くなり,費用もかさみます。このため,プロ野球ビジネスとは,選手費用を抑え,いかに優秀な選手を集めるかがポイントになります。

 選手の供給が多ければ,選手市場は,市場メカニズムにより適正化します。しかし,選手の供給が少なければ,必然的に,選手報酬は高騰し,資金力の乏しい球団は経営危機を招きます。そこにルールがなければ,手段なき競争となりプロ野球全体を腐敗させることになります。このため,プロ野球の歴史は,選手市場における競争の制限とその戦い(人権侵害,独占禁止法)の歴史でもあります。


 1871年,世界初のプロ野球リーグ「ナショナル・アソシエーション・オブ・プロフェッショナル・ベースボール・プレーヤーズ」が誕生しましたが,これは,リーグというよりも,選手の協会といったもので,報酬の高騰と八百長まがいの不正が横行し,わずか5年で崩壊してまいました。ついで,1976年に誕生したのが最初で最古の大リーグ,ナショナルリーグで,創設にあたって,統一契約書によって選手を雇用するということを憲章で定めました。これは,選手争奪を防ぐためのもので,契約の自由更新とも言える保留条項も盛り込まれました。このように,ナ・リーグは,リーグ内の引き抜き防止の手だてを講じましたが,まだ,リーグ間の競争が残っていました。

 ナショナル・リーグ誕生後,アメリカン・アソシエーション,プレーヤーズ・リーグ,ユニオン・アソシエーションといったリーグが続出し,リーグ間競争が出現しました。それが,優秀な選手の不足,リーグ間の引き抜き合戦,選手報酬の高騰へと続き,球団経営を多難なもにしました。その中で勝ち残ったのが先発のナ・リーグと後発のアメリカン・リーグでした。1903年,両リーグとマイナー・リーグとの間に,ナショナル・コミッションといわれる協議会か設けられ,選手市場のカルテルが完成していきました。

 これにより,選手コストが抑制され,球団経営の安定化をもたらしましたが,逆に,選手の報酬が低くなり,1919年の八百長事件ブラックソックス事件に繋がったともいわれています。1920年コミッショナー制度の創設,ベーブルースの出現によりホームラン時代が到来し,プロ野球も黄金時代を迎えます。そして,これはまた,ベーブルースからジョー・ディマジオ,ミッキー・マントルと続く,ヤンキースの黄金時代をもたらしました。1947年から63年にかけて,ヤンキースは,ワールドシリーズに14回出場し,そのうち10回も制覇するという勢いでした。

 このため,ヤンキースに入団する新人選手が増え,他球団は,高額な契約金や年俸で対応しようとしました。その結果,新人選手市場が高騰し,他球団の経営を圧迫するようになりました。このため,1964年MLBでは,戦力の均衡と契約金の抑制のためドラフト制を採用しました。ここに,野球カルテルが完成したわけです。

 ところが,保留条項により選手報酬が低く抑えられている間にバスケットボールやフットボールで高給選手が続出し,プロ野球は必ずしも魅力のあるスポーツではなくなってきました。野球人口の減少,有望選手の流出となり,MLBのレベル低下がいわれる時代を迎えます。1947年ジャッキー・ロビンソンの登場以来,急増していたアフリカ系選手は,70年代,大リーガー中30%を超えていたものが,90年代になると10%台に落ちています。同時期,アフリカ系選手が占める割合は,バスケットボールで75%,フットボールで60%と高率を占めています。それが,フリーエージェント革命以後,選手の報酬が高騰し,野球は選手寿命が長いことから,選手にとっては魅力のある産業に変わっていきました。

 フリーエージェントとは,一定期間,メジャーリーグや一軍で出場すれば,球団が保有権を失い,選手は自由に他球団と契約を結ぶことができるというものです。これは,選手市場に,自由市場が復活したことになりますが,供給される優秀な選手が限定されていることから,必然的に,選手の報酬は高騰することになります。選手の供給が少ないから選手の報酬が高騰する。だから,選手の供給を増やせば,供給と需要のバランスがとれて,安定化するという意見があります。

 しかし,選手の需給バランスは,前章で述べたようにプロ野球の第一,第二法則により球団の資金力によって決定されるので,球団の資金力の均等化が前提になります。その方法としては,各球団の選手費用を均等化する方法と各球団の収益を均等化する方法があります。前者には,サラリーキャップ制が,後者にはレベニュー・シェアリングと呼ばれるものがあります。

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2 顧客

 プロ野球の収入を分類すると大きく三つに分けることができます。
 一番目にあげられるのが,球場からの収入で,これには,入場料,売店収入,広告収入,駐車場収入などがあります。二番目が,放送収入です。これには,ラジオとテレビがあります。三番目が,その他の収入で,キャラクターグッズなどの関連商品の販売収入やライセンス収入,そしてスポンサー収入です。

(1)球場からの収入

 プロスポーツにとって,競技場からの収入が基本になります。一般に,プロ球団が競技場を所有するか,管理しており,入場料収入だけでなく,競技場での売店の売り上げ,看板などの広告収入,駐車場収入などが,球団に入る仕組みになっています。ところが,日本では,貸し球場がほとんどで,球場からの収入は,入場料とグッズの売上だけに限られています。さらに,その中から高額な使用料を徴収されているのが現状です。これは,神戸グリーンスタジアムのような公営球場であろうと,福岡ドームや甲子園球場といった球団と同系列の球場にしても,同様です。

 球場の収入は,球場の賃貸収入のほかは,入場料収入や売店収入にしても,観戦に来た観客によるものです。毎日,試合がある野球にとって,観客は,球場から1時間から1時間半以内の地域に住んでる住民が大多数です。このように,球場からの収入,すなわち,観戦市場は,地域に依存するローカルな地域市場ということができます。このため,プロ野球では,各球団の地域市場が重複しないようにフランチャイズ制をとっています。フランチャイズとは,地域興行権のことで,一定地域の興行権を特定の球団に独占的に認めるというものです。

 球場からの収入は,入場料収入と球場収入に分けることができます。入場料収入は,入場者が野球観戦のために支払う料金のことで,球場収入とは,売店収入や広告収入など入場者に付随して発生する球場の売上のことです。

【入場料収入】

 MLBを参考に,球場からの収入をもう少し詳しく見ていくと,入場料収入には,年間予約席,特別観覧席の売上,そして当日席の売上があります。年間予約席や特別観覧席の売上は,一年間の安定収入になりますから,どの球団も,シーズン前の最大のビジネス勝負になります。また,入場料収入にも,共同体の論理が働いており,ホームチームの入場料収入は,ア・リーグで15%,ナ・リーグで10%ビジター・チームに分配される仕組みになっています。昔,日本でも,ホームとビジターで,7:3で分けていた時期があったそうです。

【売店収入】

 まず,売店収入(売り子の販売も含む。)には,飲食物とグッズの販売に分かれます。飲食物は,MLBでは,ハンバーガーやホットドックなどの軽食が中心です。これに対し,日本の球場では,幕の内弁当など本格的な弁当料理が中心です。これは,試合開始時間の関係があり,MLBでは,ナイト・ゲームの開始時間が,夜の7時・8時の場合が多く,夕食を食べてから野球を見に来るのに対し,日本では,試合時間の長さと終電の関係から夕方6時台に試合が始まるのが普通です。このためどうしても,日本では,夕食を球場で食べることになります。雨で中止になった場合の,損害は日本の場合の方が多いかも知れません。

 グッズ販売には,イヤーブックをはじめ,旗やメガホン,その他球団のロゴ入り商品から選手のキャラクターズ・グッズなどがあります。
 NPBでも,入場料以外に売店からの売り上げから収入を得られるのであれば,入場料を安く抑え,売店収入で設けるということもできます。

【広告収入】

 これは,球場の看板収入のことで,球場に詰めかけた観客やテレビ放送に映ることによる間接的宣伝効果があります。日本の場合,野球場の場合は,広告は常設され球場の収入になりますが,Jリーグなどでは,スポンサーの広告が,ピッチのまわりに仮設され,一部がJリーグの収入になります。

【駐車場収入】

 MLBでは,自動車社会ですから,1万台2万台という収容能力を誇る広大な駐車場がざらですが,NPBでは,一般に,電車・バスなどの公共交通を前提にしているため,駐車場はほとんどありません。
 ただ,Jリーグのカシマ・スタジアムは,ワールドカップの開催に合わせ,1万台以上の駐車場を計画しています。

(2)放送収入

 興行権の二次利用とでもいえるのが,放送権です。これには,ラジオとテレビがあり,最近はこれにネットが加わります。
  媒体  エリア   対象
  CATV  地域   分衆
地上波
 
UHF  地域   大衆
VHF  地域,広域,全国   大衆
  BSデジタル  全国  大衆
  CS  全国   分衆
  インターネット  全国,地域   個人
 
 放送には,情報伝達機能があり,これが,宣伝効果と代替効果を生みます。
 野球放送は,テレビドラマと異なり,野球場での観戦の代替物ですから,野球観戦の球場に来れない人への拡大効果がありますが,逆に,本来,野球場に来る人が野球場に来ないという減少効果もあります。このため,MLBでは,球場の近隣で放送してない球団もあります。

 野球放送には,表のように,ローカル的なものから全国的なものまであります。観戦市場が地域に依存するのに対し,放送市場には,CATVや地上波のように地域に依存するものとBSやCSといった衛星放送のような地域に依存しないものがあります。地上波であっても,ネットを組むことにより全国規模の放送が可能です。

 MLBでは,このため,フランチャイズの考え方を,放送権にも広め,ローカル放送の放送権を,フランチャイズとして当該地域の球団に認めています。これに対し,地域を超える全国放送については,MLBの共同管理としています。地域を超え侵入してきた放送は,侵入されてきた地域をフランチャイズとする球団の興行権と競合状態になるからです。共同管理は,放送には,宣伝効果もありますから,対戦カードは偏らないよう編成され,その収益は各球団に配分されます。ワールド・シリーズやオールスター・ゲームも,MLBの共同管理とし,収益は各球団に配分されます。

 これに対し,NPBでは,放送権のフランチャイズは認められていないばかりか,マス・メディアが球団を経営し,放送権を独占するという状態になっています。放送権の独占は,宣伝効果と代替効果によって特定球団が人気と利益を独占する結果となっています。
 メディアについては,別の項目を設けたいと思います。

(3)その他の収入

 その他の収入には,球場以外でのグッズ販売やロゴ入り商品のライセンス収入があります。また,企業とのスポンサーシップ契約も含まれます。これには,ロゴのライセンス使用料だけでなく,タイアップ事業などを含めたものとなります。その他収入は,試合に直接関係なく成立する点が特徴です。もちろん,球団の成績や人気が,売上を左右します。
 このその他収入にしても,ローカル的なものと全国的なものとに分かれます。


 プロ野球の顧客は,その媒体によって,形態が変化します。球場からの収入の場合は,顧客とは入場者のことで,放送収入では,それは視聴者になります。その他収入の場合は,購買者という形をとりますが,それは直接又は間接なものも含みます。これらの関係を図式すると次のようになります。

 プロ野球にとって,もっとも基本的なものが野球観戦のため球場に来た入場者で,次に疑似球場という野球放送の視聴者,さらにその周辺にその他収入としての関連商品市場の購買者がいます。このように,プロ野球は入場者が基本で入場者が増えれば,視聴者や購買者が増えます。入場者が増えなければ,視聴者も購買者も増えません。
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