か げ ゆ ら 。
そ れ は 、影 の よ う に 揺 ら ぐ 。



たとえば、光が息絶えたとき。
目指すべきそれが消えて、目指すべきそこを見失う。

「それでも・・・過去は、消えないんだ」

低く、まるで影を差したかのようにゆらりと響く。ああ自分の声だ。
何を、言ったのだろう。
たった今口にしたはずなのに、酷く記憶が覚束ない。
何を、動揺しているんだろう。
―――、」
何かを言おうとして僅かに開いた唇は音を紡ぐことはせず、ただ微かに熱を吐いた。 ぎゅ、と拳を握る。ああ俺の手だ。一人、の手だ。 重なった温もりはもうないというのに、おかしいほどにそれを、掌は、心は、覚えていて。ぼんやりと、泣きたくなった。
「蓮二」
曖昧な思考を切り崩すかのような声、空気が冴える。
「・・・何だ、」
「どこを見ておる」
その声に、視線に彼の顔を見る。ゆらりと頭をもたげて。
くしゅりと縮まった布のように寄った眉間の皺は、3本。何か、しただろうか。
そう考えて首を傾げる。
「どうした?」
「どこを見ておるのだ」
「何を、?」
「お前は誰を見ておる」
そこで彼は首を振った。ゆるりゆうるり。流れる髪は只管の黒。 何故彼がこんなに思いつめたような顔をしているのだろう。
ああ、今日は何故か思考が曖昧すぎる。

―蓮二。

声が、響いて、滲んだ。
「・・・・・弦一郎・・・・・?」
『 さ だ は る 』
ああ俺はまた夢を見ていたのだろう、あの日の彼を。 4年も経ったというのにいまだあの日、あの言葉が頭から離れないで俺を過去に縫いとめる。
「蓮二、」
「蓮二、」
『 れ ん じ 』
そしてこの声が、眼差しが、俺を今に打ち立てる。
眦が焼けるような、熱さに揺らぐ。

「弦一郎、俺は、ここにいる」

例え、あの日に縫いとめられた心がそこにあっても。
眦が焼けるような、熱さに揺らぐ。
ああ、これは何だ。
するりと音もなく伸びてきた浅黒く焼けた、厚い手が目元を掠める。
俺はそれにただ目蓋を伏せる、また、音もなくつう、と。



影のようにゆうらり、傾いだ。






あの日の声が浮かんでは揺らぐ。