The palpitation?




「くれてやろう」

紙袋を提げた腕を突き出して。
相変わらず尊大な物言いに、相変わらず、と知れていて少し、頭にきた。

「いらん」

第一、俺は何かをくれと頼んだ覚えもないし、”くれてやられる”覚えもない。

「なっ、何故だ!」
「誰だってそんなに偉そうに言う奴の物をもらいたいとは思わない」
「う゛ッ」
「大体いきなりなんだ?」
「それはだな・・・その、」

珍しく歯切れが悪い弦一郎に読書を中断されている俺は苛立つばかりだ。
その、とか、ほら、とか乳幼児ではあるまい。
日ごろから片言会話はやめろと言っているのに。
弦一郎はどうも「その、あの、あれ」で俺が全て理解できると思っているところがある。
冗談じゃない。俺はエスパーではないのだから分かるわけがないだろうに。

「はっきりしろ。用がないなら俺は忙しいんだ、帰れ」

今読んでいる本はふらと立ち寄った本屋で惹かれて手に取った本で。
ここのところの部活続きのせいで買ったはいいが中々読めずにいた。
そしてようやくの休日。本を手にすれば、これだ。全く苛立つ男だ。

「と、とにかくこれをやる!」

ズイッと紙袋もろとも押し付けられて、思わず受け取ってしまう。

「これは何だ?」
「では、俺は帰る!邪魔してすまなかったなっ」
「お、おいっ、弦ッ・・・・・・・?」

俺が受け取るや否や、背を向けてどすどすと、荒げた様子で去っていく。
おかしいのは今日に始まったことではないにしろ、本当に今日のあいつは何なんだ?
しかも。
心なしか顔が赤かったような気がしたのは俺の気のせいか?
眉を寄せて首を傾げた。
押し付けられたソレの中をがさがさと確認すれば、やたらパステルカラーに明るい(女性的な)四角い箱が出てきた。
どうやら和菓子のようだが・・・・

「・・・・・・・・・・・・ときめき?」

そのパステルカラーの包装紙には趣があるような、ないような印字で確かに「ときめき」とあった。おまけに下部には薄赤のハートが3つ。
名前から推しきれない中身に包装を手早く、それでも丁寧にあけていく。

「・・・・・・・羊羹か?」

包装をといた箱の中には艶やかな桃色に染め抜かれた、珍しい羊羹がぽてりと。
そういえば久しく羊羹を口にしていなかったな。
時計を仰げば一服にはちょうどいい時間。
俺は読みかけの本にきちんと栞を挟み、それを切り分けるべく、台所に向かった。
ついでに熱い茶も淹れて、弦一郎も呼ぼう。

「れ、蓮二?!」

弦一郎はいきなり押しかけてきて抱きついた俺に戸惑っているのか、やたらどもりながら俺の名を呼んだ。

「何だ」

あの後、台所に立って桃色の羊羹を切り分ければ中からは真白いハート。
一瞬、目を見張って更に切り分ける。やはりハート。
咄嗟に箱の中にあった商品紹介紙をつかみあげれば―。

それからすぐに家を出て斜め向かいの真田家の玄関をくぐることはせず、直接縁側に面した弦一郎の部屋に上がりこんで、広い背中に思い切り抱きついた。

「ど、どうしたのだ・・・っ?」

広い背中がおかしなほど強張っていて、思わず笑みが零れそうになる。
鼻先をすりつけて、腹に回した腕に力を込めて。
家着の和服に押し付けているせいで少しばかりくぐもった声で、げんいちろう、と呼んだ。

「な、何だっ?」

きっと赤くなんているんだろうな。それは少し気持ち悪いな。
ああ、後ろから抱きついて良かった。

「げんいちろう」
「何だ・・・っ?」

ああ、後ろから抱きついて良かった。
顔が、熱い。
きっと俺の顔もみっともなく赤くなっているんだろうな。
「全く、似合わないことをするな」
「なっ」
「でも、そんなお前に俺はうっかり―」

ときめいてしまったのだからどうしようもない。

「弦一郎、どうしてくれる」

この胸の動悸を。




なぁどうか。
どこまでもどこまでも、このハァトを繋げていておくれ。



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