☆☆Merry Christmas☆☆   





「嫌だ嫌だ嫌だ」


今年の冬は例年になく寒波が厳しい。 そうでなくても寒さを毛嫌いしている俺にとって、冬は毎年地獄のようなのに。更に寒いなんてやってられない。


「こんな日に外に出たら凍死してしまう」
「するわけなかろう!」
「いや、する。それともなんだ。お前は俺に凍え死んで欲しいのか?すまないがそれは無理な注文だ」


そうだ。わざわざ数少ない休みに、こんな寒い日に、何故外出しなければならん。休みはゆっくりと炬燵に入って温んでいるに限る。というより、もう出たくない。
弦一郎は、そう断固として動こうとしない俺を心底困り果てたような目で見下ろしていた。俺の家へ来てもう数十分になろうというのに、相変わらず突っ立ったままで。


「お前は体温が高いからいいだろうが、冷え性の俺の身を少しでも案じてやろうとは思わんのか?相変わらず暴君なことだ」
「蓮二!」
「分かったらもう帰れ」


寒い日には特に機嫌が悪いせいもあって先から弦一郎には辛辣な言葉しか吐いていない。仕方ない、心底寒いのだから。







結局。
俺は弦一郎に引きずられる形で駅前のターミナルに来ている。
たいした興味も引かれないクリスマスイブ。ターミナルの広場には巨大ツリーが夜闇を輝かしく照らしだしている。
幾人もの人々がその光に目を奪われ、見上げた格好のまま、立ち止まっていた。
…その幾人もの中に、自分が入っているのは何故だろう。

「…弦一郎。まさかこれを見る為だけに俺を引っ張り出したのか、」
「い、いや、そうだが、違うぞ」
「どっちだ。」
「今日はクリスマスイブというものだろう…」


【Christmas Eve:クリスマス前夜。12月24日の夜。】
【Christmas:イエス=キリストの誕生を祝う祭り。12月25日に行われる。多くの民族の間にみられた、太陽の再生を祝う冬至の祭りと融合したものといわれる。】


それがどうした。
はっきり言って俺は寒さでそれどころではない。興味もない。
しかし、弦一郎がクリスマスやましてイブなどに興味があるとは知らなかった。こいつも一応現代に生きているのか。だからといって。

「俺はキリストの誕生を祝うつもりはさらさらないが」
「また屁理屈を持ち出したな…そんなものはどうでもいいのだ、」
「どうでもいいとは?」
「俺は、ただ…」
「何なんだ」

いい加減にしてほしい。こっちは寒くて一刻も早くこの場から離れて温まりたいんだ。いつもは鬱陶しいほどに快活な男がこの寒い中、何を言いよどんでいる。
指先の感覚がなくなってきた。

「は、話を聞いたのだ」
「誰から、何の」

苛々もピークに達するというのに一々先を促してやる俺はなんと弦一郎に優しいことか。感謝して、さっさと終わらせろ。

「くっ……クリスマスイブにこの時計台のツリーの下で、あ、あ、愛を告げると、その相手とこの先も長く共にいられる…と…だな…」

なんということだろう。
クリスマスイブに煌々と輝くツリーの下で顔を真っ赤にした厳つい男が羞恥に震えている。
なんて光景だ。
おかしい。おかしすぎて、たまらない。寒さも和らいだようにすら感じる。
この男はわざわざ聖なる夜にこんないかにもロマンチックという形容の似合う場所にこれまた自分よりも大きい男を誘い出し、あまつさえ『永遠の愛』を語りだす始末だ。
傍から見ても、決して気色のいい物ではないだろう。在り得ない。相変らず、弦一郎は周りが見えていない。

「れ、蓮二?」
「……お前は正真正銘の大馬鹿者だ」
「………なんだと…!」
「くだらない事をしている暇があったら早く帰って炬燵に入るぞ」
「お、おい、俺は真剣に…!」

「プレゼントは・・・お前でいい」

「……な、!」

これは俺の最大限の譲歩だ。
弦一郎の声はでかい。だから先から好奇の視線が痛くて仕方がない。気分も悪い。
話は炬燵の中でもできるだろう。
弦一郎のマフラーを引き、半ば引きずるような体勢で家路をたどる。
俺にはこんな場所も迷信も必要ない。
愛を語りたいなら語ればいい。クリスマスという浮かれた空気に流されて話くらいは聞いてやろう。

これが俺の、最大限の譲歩だ。

不器用で、鈍感で、誰よりも愛しいこの男にも、
めりーくりすます。








Merry Christmas2006!