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【アメリカ】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/02/25(金) 20:10:02

「なぁ、お前は誰が好きなんだよっ!」
「俺?俺はーやっぱ夏焼でしょー」
「お前もぉー!?はっはっは、いや実は俺も」
「やっぱりかぁ!!そうだと思ってたんだよな〜」
「何か夏焼って良い匂いするよな〜」
「するする!!すれ違う時、こぉ〜フワフワ〜っと、ドキドキするよな〜。あっ後、菅谷も結構良いと思うぜ」
「えぇ〜、菅谷かぁ〜、まぁ確かに可愛いと思うけどぉ・・・・」
放課後の誰も居ない教室での討論会はこれ以上に無い盛り上がりを見せていた。
いつも宿題をやって来ない俺とその友達の辻と加護は、放課後残って宿題をやらされるのが日課である。
もちろん、いつもは先生が見張っている訳だが、今日は先生達の会議があり、俺達は野放し状態だ。
「んでお前は?」辻が俺に振ってきた。
「俺?俺は・・・べ、別に・・」
「おいおい、俺達二人の好きな人を聞いといて・・・そりゃねぇぜ!!」
加護が素早く俺の後ろに回り込み、ヘッドロックを決めてくる。
「かっ、勝手に言ったんだろっ・・・ぐ、苦しい・・・って」
「さあ吐け!吐かないと、もっと強くするぞっ!」
(ちくしょう・・絶対言ってやるもんか!・・・・・・うっ・・・・・・・・・し、死ぬ・・・・)
「わがっだ・・・言うっで・・・・はっ離しで・・」
そう言って加護の腕をタップすると、加護は「よしよし」という顔で放してくれた。
「さぁ!!俺達に好きな人を言ってみなさい!!」
苦しくて息が上がってる俺に、辻が迫ってくる。
「はぁはぁ・・・わかったよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・理だよ・・」
「へっ?聞こえねぇって!!」
「・・・・・・・・・鈴木愛理だよ!!!」
「マジでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
辻のアフォな叫び声が廊下にまで響き渡った。

「へぇ〜鈴木かぁ〜、まぁ確かに可愛いかな、夏焼の次だけど」
「やっぱ夏焼だよなぁ」
「ほら夏焼ってさぁ・・・」
「言わせたのに結局あいつ!・・・・夏焼の話かよ!!!もういいよ!!」
俺はいじけて机に顔を伏せた。
「あっ、ごめんごめん、ついね」
「よし!じゃあ鈴木の話しをしようじゃないか!!」
二人が無理に話そうとしてるがよく分かる。
「別にいいって、無理して話さなくても。」
「えーと鈴木ね、鈴木、何かあったかな〜鈴木愛理・・鈴木愛理・・・」
俺が怒った顔で言ったが、加護は焦ったように聞こえない振りをして「鈴木、鈴木」と唱え続けている。
「鈴木・・・・あれっ?そーいえば鈴木って卒業したらアメリカに行くみたいな噂なかったっけ?」
「えぇぇ!!??」
「あぁーあ、何か『父親の仕事の都合で』みたいな事聞いたような聞かないような・・・・」
「えええええぇぇぇぇぇぇ!!!!!!そ、そんなの・・・」
そんなの嘘だ・・・・・・
卒業まであと一ヶ月しかない・・・・・・・・・
「鈴木の父親って何の仕事してんの?」
「さぁ・・・・」
それは俺も聞いた事が無かった。てゆーかアメリカって・・・・
「プロゴルファーだよ」   
突然教室の入り口の方から答えが聞こえてきた。
俺達三人が一斉に振り返ると、先程まで話題になっていた夏焼雅が立っていた・・・・

「夏焼!!!!何で居んの!?」
「い、いつから居んの!?」
辻、加護が焦って言う、まずい・・鈴木の事も聞かれたかも・・・・・
「えーっと・・・『愛理の父親って何の仕事してるの?』ってとこぐらいからだよ」
よかった、とりあえず聞かれてなかったようだ。
「ふでばこ忘れちゃったんだ・・・・・・・・・・あったあった」
雅は自分の机からふでばこを取り出した。
「あははははっ、そうなの大変だね。」
辻が優しく声を掛ける。辻の奴、にやけ過ぎだ。
「じゃあね・・・」夏焼は俺達を見ずに、素早く教室を出て行ってしまった。
元気が無かった。
加護もアイツの様子がおかしかった事に気づいたのか不思議そうな顔をしている。
「いやぁ、聞かれたかと思って焦ったー!!」
辻は気づいていないのだろう。
「・・・・・・・・・・・・夏焼・・・泣いてなかった??」
少し間をおいて加護が言った。
「まぁさか、いつも元気な夏焼が泣く訳ないじゃーん!なぁ!」
「あ、あぁ・・・」
俺の居た所からでは髪に隠れた横顔しか見えなかったので、何とも言えなかった。
「泣いてたような気がするんだけどなぁ・・・・・」
加護が納得していない様に言った。
確かに夏焼の事も気になっていたが、鈴木愛理がアメリカへ行ってしまうかもしれないという事の方が気になって仕方なかった。

「なぁ鈴木がアメリカ行くってホントかな??」
何とか宿題を終わらせた俺達は教室を後にし下駄箱で上履きを履き替えていた。
「わかんねぇって、何回同じこと聞いてんのさ」
辻が不機嫌そうに答える。
「だって・・・・」
「まぁ明日本人に聞いてみろ!じゃあな!」
辻と加護は北門から帰るので、南門から帰る俺とは下駄箱で別れる。
「明日は土曜で休みだよ」
二人には聞こえないように呟き歩き出した。
辻は本人に聞けと言ったけど、もし本人に聞いて本当にアメリカに行ってしまうという答えが帰ってきたら・・・・そう考えると恐くて聞けない・・・・聞きたくない。
『どうしよう、いやだ』と二つの単語が頭の中をグルグル回っている・・・泣きそうだ。

ゴツッ! 「痛てっ」

下を向いてたので気がつかなかったが、すでに閉まっていた門に頭をぶつけた。
「・・・・・ううっ」   
頭の痛みも手伝って堪えていた涙が溢れてきた。

「こらっ男の子が頭をぶつけたくらいで泣いちゃ駄目だぞ」

門の向こう側から慣れ親しんだ声が聞こえてきた

「あっ・・・待ってたの?」
「ほら〜大丈夫??ぶつけたトコ見せて」
その子は俺の問いかけを無視して門を開けながら心配そうな顔で近寄って来た。
「大丈夫だよ、もういいから」
「はいっ涙拭いて」と差し出されたハンカチで俺は涙を拭き取った。
「そっちこそ大丈夫かよ・・・さっき・・・元気無かったじゃん」
「・・・・・雅の事心配してくれてるの〜?、よしよし、一人前の男になったねぇ〜♪」
嬉しそうに微笑みながら頭を撫でてきた。
「何だよ、やめろよ〜、はい」
夏焼の手を振り払い、ハンカチを返した。
「ほら、暗くなってきたから早く帰ろっ」
そう言って夏焼は歩き始めた。
「あっちょ待ってよ」

辻や加護はもちろん、クラスのほとんど全員が俺と夏焼の家が隣同士で、
幼稚園に入る前から一緒に遊んでいた幼馴染だという事は知らない。
普段、学校内では殆ど喋る事が無いので、周りには気づかれないだろう。
(辻と加護、他の夏焼に好意を持ってる男子にばれたら五月蝿くてしかたなさそうだし・・・)
女子と一緒に居るのはダサい、みたいな子供の発想が俺を縛りつけ、
「学校では近づくな」なんてひどいことを言った事もある。
そんなひどい事を言っても夏焼は「はいはい」と呆れながらも、優しく接してくれた。
夏焼は一人っ子の俺にとってお姉ちゃんの様な存在だ。

「なぁ・・・・」
「何?」
夏焼が振り返る
「・・・・いやあのさ・・・・」
「何〜?」
「・・・えー・・だからー・・」
「ほら〜男ならウジウジしないのっ」
「うん・・・・お前さぁ・・・鈴木・・・鈴木愛理と仲良いよな・・・」
「うん仲いいよ」
「あの〜・・・・鈴木って・・・・」
「卒業したらアメリカに行っちゃうのか?って?」
俺が言おうとした事をそのまま夏焼が聞き返してきた。
「なっ・・・何で分かったの?」
「ふふっ、雅には何でもお見通しだよっ♪」
そう言いながら顔を近づけてきた、フワッと香水のような匂いがする・・・辻加護が言ってたいい匂いっつーのはこれか・・・・んっ?
「あっお前まさか!さっきの話聞いてたの!?」
(まさか・・その前の話も・・・・・)
「あはは〜バレちゃったか〜、ホントはね加護君が『鈴木、鈴木、鈴木』って言ってる時ぐらいに教室の前に着いてたの」
「何だよ〜」
(よかった・・・・そっからか・・・・)

「あのね・・まだちゃんと決まったわけじゃなくてね、もしかしたら行くかもって事らしいよ。」
「やっぱホントなんだぁ・・・」
夏焼の前だから平然を装っているが『ガーン!!!』っと体の中心で鐘を鳴らされた気分だ。
「いやっ、だからまだ分からないの!もう少ししたら分かるらしいから、その時ちゃんと教えてあげるね」
「う、うん・・・」
「でも、なんでそんなに愛理の事気にしてるの?」
「えぇ、いや、ほ、ほら俺はクラスメートとして、そのっ・・・・」
「ふ〜ん」
まずい、話題を変えなきゃ
「・・・・あっそういえば、さっき教室で加護がお前が泣いてたって言ってたんだけど・・・ほら元気無かったみたいだし・・・何かあったの?」
ちょうど俺の家と夏焼の家の前まで到着した時に聞いた。
「えっ・・・・・」
一瞬夏焼が固まった、ように見えた。
何かまずい事聞いちゃったのかな、と思い慌てて付け足す
「あっいや悩みとかあるんなら相談に乗るけど?」
「ううん・・大丈夫・・・ほら大事にしてたふでばこ忘れちゃったから、
あの・・ちょっと不安で・・・・・辛くなっちゃっただけだよっ」
といつもの元気な夏焼スマイルだった
「なぁんだ、そうか、じゃあお腹空いたし入るわ、じゃあね!」
ふぅー危ない危ない、バレるとこだった。
「うん・・・・じゃあね♪」
俺は慌てて家に入って行く。

「・・・辛くなっちゃっただけだよ・・・・・・・・・・・・・・」

夏焼はじわじわと滲んでいく俺の背中を見つめながら呟いた。

翌週の月曜日、一時間目は体育だった。
「今日の体育はマラソンやから」
「えぇーーーー」
担任の中澤先生の発言に生徒一同が消沈する。
「えぇーやない!ほなそこに一列に並びやー」

だるい・・・・ひどく寝不足だ。
鈴木の事が気になって、せっかくの土日の休みはあまり寝ることができなかった。
「タイム計るからちゃんと走るんやで〜」
「よっしゃあー夏焼!俺の走りを見ててくれ!!」
辻が夏焼に向かっておかしな事を叫んでる。
夏焼が少し困った笑みを浮かべながら頷く、辻の能天気さが羨ましい。
俺は菅谷とじゃれ合っている鈴木をボーっと見ていた。
鈴木・・・アメリカになんか行って欲しくない、同じ中学に行きたい・・・・

「私マラソン苦手なの・・・・」
「お、おう、須藤」(いつの間に隣に・・・)
「今愛理の事見てたでしょ」
(図星!!!)
「み、見てないわ!何言うてまんねん!」
「じゃあ梨沙子?」
「ちゃいますって!」
「何で関西弁なの?・・・まぁいいや、マラソン頑張ろうねっ」
「う、うん、俺の走りを見とけよ」
「ふふっ、うん見とくね」
(あれ、俺としてはツッコミをいれて欲しかったんだけど・・・・・)

須藤は不思議な子だ。
初めはおとなしい子かと思ってたけど、仲良くなってみると以外に明るい子で、
一見ボーっとしてるようで、実は細かい所までよく見ている。
結構親しみやすい子だ。
正直俺はの夏焼以外の女子と接するのが苦手だったりするけど、
須藤とだけは普通に話すことが出来る。
俺と夏焼が幼馴染なのも知っている。
俺にとっては数少ない女友達と言えるだろう。

「行くでぇ、よーいスタート!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
中澤先生の合図と共に辻が奇声を発しながら凄い勢いで走りだす、
何つーか・・・・必死だ・・・・・
一方俺はというと、やっぱり寝不足のせいで体が重い。
「ゆっくり行こうかっ」
隣に居る須藤に声を掛ける。
「私に気使わなくていいよっ」
少し眉間にしわを寄せ須藤が答えた。
「いや、俺がゆっくり行きたいからっ」
「そう・・・・・・・・・じゃあ・・一緒にゴールしようねっ」
須藤は嬉しそうな満面の笑みだ
「おうっ」

今まで気づかなかったけど、須藤って結構可愛いかも・・・
須藤の笑顔に少しだけドキッっとする俺が居た。

「はぁはぁはぁ・・・」
走り始めて10分くらい経っただろうか・・・・・きつい。
体力には割りと自信があった、でもさすがに二日間ろくに寝てないのはきつい。
隣の須藤を見るとやっぱりキツそうだ、もう周りが何も見えて無さそう。

「大丈夫っ?顔色悪いよっ?」

いつの間にか夏焼が隣を走っていた。
「はぁはぁ・・・・・・・・・・駄目かもっ・・・・・・」
こう答えるのがやっとだった、頭がクラクラしてきてる。
「リタイヤした方がいいんじゃない??」
大したスピードで走ってない為、夏焼は余裕そうな顔だ。
リタイヤ・・・・・既に運動音痴の加護はリタイヤして朝礼台に座って休んでいる。
(体調が悪すぎる・・・・しょうがないか・・・・・・・・・・・)

『じゃあ・・一緒にゴールしようねっ』

諦めかけた瞬間、須藤の言葉が頭をよぎる。
須藤の方を見ると、汗だくになりながら必死に走っている、
多分夏焼がいる事に気づいていないだろう、真っ直ぐ前だけを見てる。

「はぁはぁはぁ・・・いやっ・・・はぁはぁ・・・・・頑張るわ」
夏焼が心配そうな顔でこっちを見つめている

「無理しすぎちゃ駄目だよっ、じゃあ先行くねっ」
俺の気合が伝わったのか、夏焼はそう言い残しスピードを上げ、先に行ってしまった。

『す、須藤、俺もう駄目だぁぁ』
『・・・・・・』
『あ、あれ?ちょっ須藤?』 
『・・・・・・』
走り続ける須藤に俺の声は届いていない
『須藤ー!ちょっ待っ、ちょ待ってくれよ!須藤ぉ〜』
須藤は前方にそびえる白い壁を通り抜け、走って行ってしまった。

壁?
じゃなくて天井だ。
(ここは・・・保健室?)
俺は保健室のベッドに横になっていた。
「なんで・・・・」

「お目覚めですか?お兄さん♪」
聞き覚えのある声が聞こえてくると同時に、ベッドを囲うカーテンが開いた。

「!!!」
突然の事に声が出なかった、慌てて体を起こした。
自分の心臓の音がどんどん大きくなっていくのがよく分かる、
それはカーテンが突然開いたことに驚いたからではない

「す、鈴木・・・・・」

優しく微笑む鈴木愛理がそこにいる

「おっはよぉ〜」
いつの間にか保険室のベッドで寝ていて、目の前には鈴木愛理が居て、
俺に向かって「おはよ〜」と言っている。

「大丈夫ぅ?まだボーっとしてるね〜もうちょっと寝てたら?」
「う、うん」
「じゃあーお休み〜♪」
鈴木が静かにカーテンを閉める。
「あぁおやすみ・・・・・・・・・・・・・・じゃなくって!!何で!?」
俺が慌ててカーテンを開ける。
「あはっノリ突っ込み?やるね〜」
鈴木が笑いながら言う・・・かわいい・・・
「何で俺こんな所に!?ってゆうか何で鈴木が居るの!?」
「何で?って言われてもな〜、君がマラソン中に倒れて保健室に運び込まれて〜
んで保健委員の私が付き添ってあげてた訳さっ、覚えてないの〜?」
鈴木が本棚に並んでいる本を一冊手に取りながら聞いてきた。
「・・・・そうだったのか・・・」

(やっぱり夏焼の言った通りリタイヤするべきだったか・・・・・

・・・・・・いや待てよ!?これ、いい感じの状況じゃないか?)

室内を見渡す、どうやら保健の先生は居ないっぽい、俺と鈴木の二人っきりだ。
(リタイヤせずに頑張って良かった!!神様!!ありがとう!!!)
俺は心の中で叫んだ。

鈴木は黙々と本を読んでいる。
(これは鈴木とゆっくり話せるチャンスだ・・・何か言わなきゃ・・・・)
「あっ、ありがとうな、付き添ってくれてて」
「いえいえ、保健委員の仕事だし、それにお陰でマラソンと今の二時間目をサボれたからね〜♪」 
顔を上げず、視線は本のままの鈴木が答える。
「今二時間目なんだぁ・・・・いや〜ちょっと寝不足だったんだよね」
「寝不足?何か悩み事でもあるの〜?」
「お、おう・・まぁな」
「・・・・・ひょっとして恋の悩みかな??」」
本から顔を上げた鈴木はニヤニヤとイタズラな笑みを浮かべ俺の目を見つめてきた。
「ち、違うよ!」
「ふふっ青春ですね〜♪」
鈴木は笑いながら再び本に視線を下ろした。
鈴木の明るい笑顔を見る度に「ドキッ」とする。
自分の顔が赤くなっていないか心配だった。

俺と鈴木、二人っきりの保健室はしばらくの沈黙が続く・・・・

アメリカ行きの事を聞いてもいいのだろうか・・・・と俺は鈴木本人を目の前にして悩んでいた。
鈴木の方をチラッと見ると、真剣に本を読んでいる。

(俺の事なんか興味無いんだろうなぁ・・・・)

(いやいや!挫けるな俺!ん〜と・・・)

「す、鈴木って保健委員なんだな?」
「・・・・?そうだよ?」
鈴木がこっちを向いてくれた、少し不思議そうな顔だけど。
「えっと・・・・鈴木保健委員似合ってるよね、何か。」
「ふふふっ、ありがとっ」
「あ〜・・鈴木って・・・」
「ねぇねぇ私の下の名前知ってるっ?」
「え・・・?あ、愛理だろ?」
「そう、愛理だよ。こんなに可愛い名前があるのに、何で君は『鈴木』って呼ぶの?」
「そりゃあ・・・名字が鈴木だから・・・・・」
「隣のクラスにも鈴木君って居るじゃない?だからできれば愛理って呼んで欲しいんですけどぉ」
「えぇ!??」
鈴木の突然の要求に俺は思わず驚きの声が出た。
「だ〜か〜ら〜隣のクラスに鈴木君って居るでしょ?・・・・」
「いやいや、聞こえてるよっ・・・・聞こえてるけど・・・」
鈴木は俺が聞いてなかったと思ったのか、もう一度同じ事を繰り返し言おうとする。
俺が慌てて話を遮ると、鈴木は口をプクッと少し膨らました。
「じゃあ何?愛理って呼ぶのが嫌なの??」
「え〜、別に嫌じゃないけどー・・・」
「じゃあいいじゃん♪はい呼んでっ」
「う、うん・・・・・・あ、愛理?」
(・・ドクン・・ドクン・・ドクン・・・・・・)
もう心臓が張り裂けそうだ。
「ふふっ、それでよ〜し!」
鈴木は満面の笑みで納得している。
今日一番の笑顔を見た気がする、この時の笑顔が一番ドキッとした。

『キーンコーンカーンコーン』

そこでちょうど二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「さぁ、休み時間、休み時間〜♪」
鈴木が機嫌良さそうに本を机に置き立ち上がる。
鈴木のことを愛理と呼べて、俺は天にも登るような気持ちだった。
しかし肝心なアメリカ行きの事は聞けなかった・・・・・・・・・・

『ガラガラッ!!』

突然凄い勢いで保健室のドアが開く。

須藤・・・・?
「茉麻ちゃんっ!?」
須藤は何も言わず、凄い形相で入って来たので、鈴木があっけにとられている。
無言のまま俺が居るベッドの横まで来る。
「・・・・・大丈夫?」
緊迫した顔で俺に向かって呟いた、
「ちょっと寝不足でさっ!!でも、もう大丈夫!!ほらっ、この通り!」
俺は腕を上下に振って、体調が回復したのをアピールした、が
「もう・・・ビックリしたんだから〜・・」
心配させまいと明るく接したのが逆効果だった、須藤は安心したのか泣き出してしまった。
「ごめん・・・泣くなよ須藤〜」

「あ〜、茉麻を泣かせたなぁ〜」
「あれ?夏焼、いつの間に?」
そこには夏焼が居た、須藤に気を取られていて気がつかなかった。
いつの間にか鈴木が居なくなっている事に気づいたのもこの時だった。
「ひどーい!茉麻と一緒に入って来たんだよ〜」
夏焼はそう言うと、泣いている須藤を座らせて顔を自分の胸に持っていき、頭を撫でている。
「ほら〜茉麻、こんな奴の為に泣くと涙がもったいないよ〜」
「おいおい、こんな奴って・・・・」
俺がツッコミをいれようとすると、
夏焼は自分の口の前に人差し指を立てて、「シィーッ」のポーズで俺を黙らせた。

(・・・・そーいえば小さい頃、泣き虫だった俺を、夏焼はいつもこんな感じで慰めてくれてたなぁ)

「マラソン中に倒れたんだよ、覚えてる?」
思い出に浸っていた俺は、夏焼の声で我に帰る。
「いや覚えてないけど、さっき愛・・・鈴木から聞いたよ。ってか鈴木は?」
「愛理ならさっき出て行っちゃったよ、愛理だって君の事心配してたんだからねぇ」
「鈴木が?」
(さっきは全然そんな素振り見せてくれなかったけど・・・・・・・)

「まったく・・・無理しすぎちゃ駄目だって言ったのに・・・・」
夏焼が「やれやれ」という顔をして、横目でこっちを睨んでくる。
「いやだって・・・・」
「だってじゃないのっ!」
「うぅ、だって須藤と・・・・・・・・須藤と一緒にゴールしたかったんだよ・・・・」
「えっ?」

夏焼の表情が一瞬曇ったような気がする。

「・・やっぱり私のせいで!!うあぁん・・・」
せっかく泣き止んできていた須藤が声を出して泣き始めてしまった。
「あ、いや、別に須藤が悪いとかじゃなくてっ!あの、何て言うか、そのっ・・・・」
慌ててフォローしようとしたが、泣き続ける須藤の耳には届かないだろう。
夏焼に「馬鹿ッ」と口パクで罵られる。

「ご、ごめんなさい・・・」
それ以外の言葉が見つからなかった。
モタモタしていると三時間目が始まってしまうので、俺と夏焼二人掛かりで何とか須藤をなだめ、
三人で教室に戻った。

 
教室に入ると
「ははははははっ!お前大丈夫だったか!?倒れた時白目むいてたぜ!?
ははははははっ!こ〜んな感じで!!」
辻が床に寝転び白目を向いている、俺が倒れた時の再現をしているらしい。
「あはははっ、ほら辻、あんま人の不幸を笑っちゃいけないぞ!あははっ」
「そういう加護も笑ってんじゃんかっ、もういいよ!」
この二人を相手にすると余計疲れるので俺はさっさと席に着いた。
「あははっごめんなぁ、怒るなよ〜」
加護が席まで追って来た、辻は向こうで数名の男子に囲まれてゲラゲラ笑いながらまだ再現し続けている。
「もういいって」
「そう?それより後でちょっと相談があるんだけど・・・・」
「相談?」
加護の表情が一気に引き締まった感じがした。

「何だよ?相談って」
昼休み、俺は相談があるという加護と二人で屋上にいた。
「どうだった?」
「へっ?何が?」
「保健室でだよっ、鈴木が付き添ってたんだろ?アメリカ行きの事はもう聞いたか?」
「あ〜あ・・・いや俺ずっと寝てたからし・・・起きてからも何か緊張しちゃって」
「ふ〜ん、そうか」
「何だよっ、聞いたわりには興味なさそうだなっ!・・・んで相談って?」
加護の目つきが急にキリッとなる。
「お前さぁ・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・・ホントは夏焼と結構仲いいだろ??」
「えっ!!??い、いや・・・それは・・・その・・あの・・・」
「俺に隠したって無駄だぜ!!!」
「うっ!」
加護が得意のヘッドロックを決めてきた。
(苦しい・・マズイ・・・俺がこのパターンで自供しなかった時はない・・・・)
「うっ・・分かったよ言うよっ・・・うぅ・・離して・・・」
「よし・・・・吐いて貰おうか」
見抜かれていたのか・・・
加護はいつも辻と一緒になってはしゃいだりするが、実は以外に冷静で鋭い奴だったりする。

(バレてるなら仕方ない、加護にだけなら話してもいいか・・・・・・・)

家が隣同士で幼馴染だということ、俺にとっては未だに姉ちゃんの様な存在だということ、
加護に全てを打ち明かした。

「何で分かったんだ?」
「前から何となーく感づいてたんだよ、今日だってほら、マラソンの時夏焼と何か話してただろ?」
「うっ・・・・」

(加護は途中でリタイヤしてたからな・・・見てたのか・・・・)

「それに保健室から戻って来た時も一緒だったしな」
「ううっ・・・・・・・・」
「そーゆー場面を前からちょくちょく見てた訳よ」
「・・・・・・頼む!他の男子には言わないでくれ!!特に辻には!!!特に辻だけには!!!!」
俺は加護にまるで、追い詰められた子羊の様な瞳ですがった。
「分かってるよ、その代わり・・・・・」
「その代わり??」
加護の顔が少し赤くなる
「俺の・・・・俺の夏焼への恋を手伝ってくれないか??」
「えっ・・・・・・」
一瞬夏焼の笑顔が脳裏を過ぎる。

俺が・・・・?
夏焼が好きな加護の事を手伝う・・・・・?

この感覚はなんだろうか・・・・・
まるで心がぶ厚い雲に覆われてしまった様な・・・・

「なぁーいいだろ?お前と夏焼はただの幼馴染なんだろー?」
「えぇ?うん・・・まぁ・・・・」
「じゃあいいじゃん、もちろん俺は鈴木との事を手伝うからさ!同盟って事でさ!」
「・・・・・・・・。」

俺は自分の部屋のベッドに横になりボーッと考えていた。
加護と半ば強引に同盟を組まされた日から数日が過ぎた。
この数日間で加護に色々な事を聞かれた、
夏焼の好きな食べ物、嫌いな食べ物、好きな色、好きなテレビ番組、寝る時の服装・・・・・・・
・・・挙げ出したらきりが無い。
正直あまりいい気はしなかった、
俺と夏焼、小さい頃からずっと一緒に居た大切な幼馴染・・・
その大切な思い出に土足で上がり込まれ、踏み荒らされた気分だ。
机の棚の一番隅に置いてあるアルバムを手に取り、ゆっくりと開いた。
昔の写真のほとんどが夏焼と一緒に写っている。
小さい頃の記憶が蘇る・・・・・

『ちゃんと雅の後について来るんだよ?わかった?・・・・

『転んだの〜?ほんっとドジなんだから〜、はいっ、これで血拭いてっ・・・・

『ほらっ早く行かないと遅刻しちゃうよ!・・・・

『もぉー男の子なんだから泣かないの!・・・・


「コツンッ」
(ん??)
部屋の窓に何か小さな物が当たったような音がした気がした。

「コツンッ」
(・・・なんだ?)
カーテンを開け、窓の外を覗くと・・・

・・・小石を投げようとしている夏焼と目が合った。

「こら、窓が割れたらどーすんだ?」
「ちゃんと加減してるんだからっ、今ちょっと出れる?」
「あぁ、ちょっと待っててっ」

俺の部屋は二階なので、
(夏焼の奴・・どうしたんだろ?)などと考えながら、
急いで部屋を出て階段を降りる、
居間でテレビを見ている母親に後ろから声を掛けた。
「俺ちょっと出掛けて来るわ」
「えっ!?もう11時過ぎよ!こんな時間にどこ行くの!?」母親が振り返って怒り気味の顔で言う。
「ちょっと夏焼と会うだけだよ」
「あらっ!雅ちゃんに!?」
急に母親は笑顔になった。
「それなら安心ね♪雅ちゃんによろしく言っといてね」
「はいはい、んじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃ〜い」
母親は既にテレビに釘付けだ。
(何つーか、呑気な母親だな・・まぁ夏焼が一緒だから安心できるんだな)

呑気なのは俺の方だった・・・・
夏焼がこんな夜に呼び出してくるのはこれが初めてだ。
この時点で『ただ事では無い』と気付くべきだった・・・

「お待たせ、何?どうしたの?」
「ちょっと来て・・・・」
夏焼は俺の顔を見ることなく、スタスタと歩きだしてしまった。

こんな夜遅くに外に出ることもあまり無いので、俺は少しばかりウキウキていた。
「何かこんな夜遅くに会うと新鮮だな♪」
「・・・・・そうだね」
数メートル先を歩く夏焼に声を掛けるが、元気が無い。
「元気・・・無いね?」
「・・・・・・・」
無言のまま、夏焼は家から歩いて5分程の小さな、こじんまりとした公園に入って行く。
俺も夏焼に後に続いて公園に入る。
公園の隅にある電灯の下に来た辺りで夏焼の足が止まったので、
夏焼との距離約1メートルの所で俺も足を止めた。

立ち止まってから少し間を置いて、夏焼が重い口を開いた。
「さっきね・・愛理から電話があったんだ・・・・・」
「え?鈴木から?(夏焼、声が震えてる・・・?)」」
夏焼は急に振り返り俺に勢いよく抱きついてきた
「なっ!ちょ、ちょっと夏焼!?」
「うぅ・・・うぅ・・・」
「泣いてる・・・の?」
「うぅ・・・行っちゃうよぉ・・・」
夏焼が微かに呟いた。
「えっ?」
「うぅ・・・うぅ・・・愛理が・・・・・愛理が・・アメリカに行っちゃうよぉ・・・」
「・・・・・・!!」

もっと早く気付くべきだった・・・『ただ事では無い』と・・・・・・・・・

驚きのあまり声が出なかった、
いや絶望で声を出せなかった。
夏焼から「行くかもしれないし、行かないかもしれない」と聞いてからも、どこか半信半疑だった。
俺は、行く確率20%、行かない確率80%ぐらいで考えていた。

「うぅっ・・・うぅっ・・・・・」
「夏焼・・・」
泣き続ける夏焼に何て声を掛けたらいいのか分からない・・・
ホントは俺だって泣きたい、涙を堪えるのでいっぱいいっぱいだ。
(ここで俺が泣いたら誰が夏焼の支えになるんだ!!泣くもんか・・・・泣くもんか・・・・)

「な、泣くなよ〜夏焼ぃ・・・・」
俺は昔夏焼が俺にしてくれたように夏焼の頭を撫でた。
「うぅ・・だってぇ・・・愛理がぁ・・」
「ほら、アメリカつったって同じ地球上だぜ?一生会えないって訳じゃないって!」
必死に自分へ、そう言い聞かせていた。
(そーだよ・・・外国に居たって手紙のやり取りくらいはできるんだ・・・)

いくら言葉を掛けても夏焼は泣き止んでくれない。
最終的に俺は、震えて泣く夏焼を黙って力一杯抱きしめ続けてやる事しかできなかった。

「早く寝てゆっくり休むんだぞっ」
「・・・・・・」
「じゃあ、おやすみ!」
「・・・・・・・・・・・・・ごめんね・・・・・」

『ガチャ』
夏焼は一言呟いて家に入って行った・・・
・・その瞬間堪えていた感情が一気に溢れる。
胸が熱くなり、冷たい涙が頬をつたう。
俺はその場に泣き崩れた。

俺はどうすればいいんだ・・・・
鈴木に気持ちを伝えるべきなんだろうか・・・・
一ヶ月も経てば彼女が居るのはアメリカだ、告白する意味はあるのだろうか・・・・・

泣き続ける俺に3月の冷たい夜風が容赦なく吹き付ける、
薄着だったけど今の俺にはそんなことどうでもよかった。

翌日・・・・
重い頭を持ち上げて、時計を見る。
(もう3時か・・・学校は終わってるな・・・・・)

案の定、風邪を引いた俺は学校を休み、寝込んでいた。
今日一日寝てたので大分よくなったが、まだ頭が重い。
それは風邪のせいとかではなく、鈴木の事を考えているからかもしれない。
鈴木に気持ちを伝えるかどうか・・・・
いくら考えても答えは出なかった。

「アメリカかぁ・・・・・」

『プルルルルルルッ、プルルルルルルル・・・・・
(んっ?電話鳴ってる・・・・)
『プルルルルルルッ、プルルルルルルル・・・・・・・・・・・・・・・』
(あっ母ちゃん出かけてるんだった。)

「まったく病人を一人置いて、どこほっつき歩いてるんだか・・・」
一人でブツブツ言いながら階段を降り、電話のある居間まで行く、

「はい、もしもし・・」
「お〜俺俺!加護加護!風邪だってな!大丈夫か!?」加護のデカイ声が頭に響く、
「なんだよ、声がデカイんだよ」
「わりぃ、わりぃ、それより大変なんだよ!!」
「・・・鈴木愛理のことか?」
「えっ!?何で!?知ってんの!?」
(だから声デカイんだよ・・・・)

「昨日夏焼から聞いたよ」
「家隣なんだよなぁ〜、良いよなぁ〜・・・じゃなくて、もう学年中鈴木の話で持ちきりだったぜ!!
何人かの女子はうわぁんうわぁん泣いちゃっててさ」
昨日の夏焼の姿を思い出す・・・・・
「夏焼は?」
もしかしたら夏焼も学校休んでるかな、なんて俺は勝手に思っていた。
「んっ?あぁ夏焼は元気だったよ、やっぱいつでも元気な夏焼スマイルは最高だな!!」
「そうか・・・」
(俺にだってなかなか弱いトコ見せてくれないからな・・夏焼は・・)

『ピンポーン』
家のチャイムがなった、
「んっ?誰か来た、用はそれだけだろ?じゃあ切るわ、じゃあな」
「いやまだ!!・・・・・」
切る前に何か言ってたみたいだけど、どーせ夏焼の話だろう・・・
今度は家のインターフォンに出る。

「はい、えっーと・・どちら様ですか」
「あっ須藤です、同じクラスの・・・・」
「須藤!?ちょ、ちょっと待ってて!」

インターフォンを切ると俺は急いで二階への階段を駆け上がる、
クラスメートにパジャマ姿を見られるのは、学校で大便に行ってたのが友達にばれるのと同じくらい
最悪な事だ。

急いで着替えた俺は、玄関まで行ってドアを開けた。

「どうしたの??須藤・・・と菅谷??」
「あっあのね、手紙届けに来たんだけど・・・」
「あ〜そうか、えっとありがとう」
「立ち話しもなんだからとりあえず上がっていい?」
菅谷が突拍子もないことを言いながら、家の中に入ってこようとする。
「こら、りぃちゃんっ、駄目だよっ」
須藤が慌てて止める、俺は困って何とも言う事ができない。
「え〜梨沙子疲れたんだも〜ん」
「駄目!そんなわがまま!」
駄々をこねる菅谷に須藤が少し強めに言った。
(このままだと喧嘩になっちゃうんじゃないか・・・・?)
「あーっといいよ、上がって。俺以外誰も居ないし」
「え〜でも・・・」
気を使う須藤を尻目に菅谷は「わーい」と既に靴を脱ごうとしている。
「ほら、須藤もっ」
「じゃあ・・ちょっとだけ、お邪魔しますっ」

嬉しそうに須藤が微笑んだ。

「割と元気そうだねっ」
「うん、ずっと寝てたから・・・」
「あ〜ずる休み〜?いけないんだぁ〜」
菅谷が座っているソファーの上を跳ねながら言う、
「いや、ほんと風邪引いてるんだよ!熱だってちょっと・・・あったし・・・」
「ホントかなぁ〜」
菅谷が突然立ち上がり俺に近づいてきた。
「どれどれ〜」

菅谷は自分のおでこに手を当てながら俺のおでこに手を当ててきた。
菅谷の日本人離れした、色白ですごい綺麗な顔が俺の顔に近寄る、
距離にして約20cm・・・
(ううっ、顔が・・ち、近い・・・菅谷・・・いい匂いがする・・・・)
「う〜ん熱あるかな〜・・・何度くらい?」
菅谷の宝石の様に綺麗な瞳が、この近さで真っ直ぐ俺の目を見つめてくる。
「な、何度だったっけなぁ〜・・・・」
困った俺は思わず目をそらした。

「こらっ!りぃちゃん!!彼に近寄っちゃ駄目!!」
須藤が声を張り上げた、
(てゆーか「彼に近寄っちゃ駄目」って・・・・)
まるで「変な人に近寄るな」と子供を叱る母親の様に言われ、俺は微妙に傷ついた。
「ほ、ほら風邪うつっちゃうし・・・」
俺の気持ちを察したのか、須藤が慌てて付け足す、何故か須藤の顔も赤い気がする。
「は〜いっ・・顔赤いよ?ホントに熱あるんだね」
顔を離した菅谷が少し心配そうな顔で言う、
「だ、だろ?」
顔が赤いのは菅谷の顔が近かったからだ。

「はいこれ今日配られた手紙と、今日返された国語のノートと、後中澤先生からの伝言もねっ」
「うん、ありがとう」
須藤に差し出されたプリントと、先生からの伝言らしい小さな紙を受け取る。
先生からの伝言の紙を開いてみる・・・

『風邪引いても宿題はやって来るんやで』

と一言だけ書かれていた・・・・・・なんて生徒思いの優しい先生なんだ・・・・

「そーいや、夏焼は?アイツが持って来るのが一番都合がいいじゃん」
「うん、そこまで一緒に帰って来てたんだけどね、「用事がある」って自分家に入ってっちゃった」
「そっか・・・」
(昨日の事があるから会いづらいのかな・・・)
「みやの事・・・気になる??」
「い、いやー別に・・・」
「みーやは君のじゃなくて、私のお姉ちゃんだからね!」
菅谷が少し怒った顔で言ってきた。
「おいおい俺達が何年の付き合いだと思ってん・・・てゆーか菅谷知ってんの!?幼馴染だって事っ」
「知ってるよっ、みーやから聞いたもん」
(あいつっ・・・・俺と夏焼が幼馴染って事がどんどん広まってる気がする・・・)
「まぁまぁ、それより愛理の事・・・みやから聞いたりした・・・?」須藤が深刻な顔で言う、
「うん・・・」
「卒業式の3日後らしいよ・・・」さすがの菅谷も、真面目に寂しそうな顔で言う。
「3日後かぁ・・・」
夏焼に、加護に、そして須藤と菅谷に・・・・・
人に言われる度に、
嘘だと思いたい鈴木のアメリカ行きが、どんどん現実味を増していく・・・・

「愛理元気だったなぁ・・・私、愛理が無理して元気な振りしてるような気がして・・・」
須藤が悲しそうに言う。

三人の間に少しの沈黙が訪れる・・・・
ふとテーブルの上に置かれた、プリントに目をやる。
一番上に置かれたプリントの見出しに『お礼の会の人へ』と書いてある。
「これ『お礼の会』って何?」
二人にプリントを指差して聞いた。
「あ〜そうそう!君も『お礼の会』の一員だから!」
須藤が思い出したように言う、俺には訳がわからない・・・
「何?『お礼の会』?」
「ほら、毎年六年生がこの時期にやってるじゃない?」
「あぁ何かやってたよーな気がするな」
俺は適当に言いながらそのプリントを読んだ。

うちの学校には毎年六年生が、卒業記念と、今までお世話になった学校にお礼をするという意味で、
学校の為に何かしたり、何かを作ったり、残したりするという伝統がある。
ちなみに去年の卒業生は、ボロボロになっていた花壇を新しく作り変えていた。
『お礼の会』とは具体的に何をするかを話し合って決める、実行委員会のようなものらしい。

「んで、なんで俺が?」
「初めは〜私とりぃちゃんとみやと愛理が立候補したの、そしたら加護君と辻君が立候補してきて、
それで加護君が君の名前も勝手に挙げて〜、結局君を含めた7人でやることになったんだよ」
須藤が答える、菅谷は横で「うんうん」と頷いている。
(なるほど・・・鈴木も立候補したから加護が俺の名前も挙げといてくれたのか・・・・
夏焼もいるから加護にとっては一石二鳥ってやつだな)

もし鈴木のアメリカ行きがなければ、
俺は鈴木と一緒にこの『お礼の会』に参加できる事を飛び跳ねて喜ぶだろう・・・

「もしかして、嫌?」
須藤が不安そうに俺を見つめる。
「ううん、嫌じゃないよ!じゃあ〜頑張って最後にいい思い出作ろうなっ!」
「お〜〜!!」菅谷が元気に返事をする。
「うん、頑張ろうねっ」須藤も嬉しそうだ。

でも俺は・・・
(「最後に」かぁ・・・・・・)
自分が無意識で言ってしまった事に少し後悔していた。

翌日、まだ少しだるいけど学校に行く事にした。

朝の会・・・一時間目・・・二時間目・・・中休み・・・三時間目・・・・・・
いつもと何も変わらない、普段通りに時が過ぎていく・・・・
多分鈴木のアメリカ行きの事は、皆意識して触れないようにしてるのだろう。
鈴木を見ててもいつもどうり、いや今まで以上に元気だし、
朝、夏焼に会った時も「おはよ♪一昨日はごめんねっ」と笑顔で軽〜く一言、俺は呆気に取られた。
加護には「せっかく『お礼の会』に入れといてやったのに」と電話を途中で切ったことを怒られた。

皆鈴木の件は忘れ去ったように笑っている・・・
昨日休んだせいで、俺は一人取り残されたような気分だった。

昼休み、気が浮かない俺は一人屋上で、生徒達が遊ぶ校庭をボーっと眺めていた。

「ふふっ、青春ですね♪」

後ろから聞こえてきた・・・
この声・・・この台詞・・・・

振り向くと、
保健室で見たのとまったく変わらない笑顔の鈴木が、後ろに手を組んでたたずんでいる。

「鈴木・・・・・・・」

俺が言った途端鈴木は「もう」と言って口を膨らます。
「じゃなくて・・・えっと・・・・あ、愛理・・・・・・・ちゃん?」
「『ちゃん』は余計なのっ、まったくぅ〜」
鈴木が腕を組む。
「うぅ・・ごめん 、どうしたの?屋上なんか来てさ」
「君がココに上がってくのが見えたからね♪」
「えっ?・・・じゃあ鈴木は・・・じゃなくて、愛理は俺を追って来たの?」
「そうだよっ」

(鈴木が俺を・・・・?)

「な、何で??」
「う〜ん・・・何となく君と話がしたくってさっ」
俺に歩み寄りつつ笑顔で鈴木が言う。
「は、話?・・・何?」
「私・・卒業したらアメリカ行くの・・・知ってるっ??」
鈴木は笑顔のまま言う、
「あぁ・・・・知ってるよ」
とうとう本人の口から聞いてしまった・・・・今日も学校を休むべきだったのかもしれない・・・・

「それでねっ、卒業までにいい思い出をたくさんたくさん作りたいなぁ、って思ってねっ♪」
「いい思い出?」
「ほら君とはさ、5年生の時からクラス一緒なのに、私が保健室で付き添った時まで
ちゃんと喋ったこと無かったじゃない?」
「あぁ、まぁね」
それは俺が5年の時から鈴木の事が気になっていたからだ。
「だからねっ、私がアメリカに行くまでに君とも仲良くなっておきたいなぁ、って思ったのっ♪」
「お、俺と・・・・」
(・・ドクン・・ドクン・・ドクン・・・・・・)

「嫌?じゃないよね?嫌とは言わせないよぉ」
驚いて固まっていた俺に鈴木が問いかける。
「嫌じゃあないよ!!全然!!よろしくな!鈴っ・・・愛理!!」
俺は嬉しさのあまり自然に笑みがこぼれた。
「もう、ちゃんと呼んでくださ〜い」
「うぅ・・ごめん・・・・」
「ふふっ♪」鈴木が吹きだす。
「はははっ」俺も鈴木の可愛い笑顔につられて笑う。

俺と鈴木、二人の笑い声が少し曇っている空に明るく響いた・・・・・

「そ〜いえば聞くところによると君は雅ちゃんと幼馴染で大の仲良しらしいね?」
「えぇ!?誰に聞いたの!?」
「誰でしょう??」
イタズラな笑みを浮かべながら屋上の入り口へと歩き出す、
「待ってよ、誰に聞いたんだよ〜・・・・ちょっと・・・・あ、愛理〜!」
俺の問いかけを聞こえないふりをしていた愛理が入り口の前で突然振り返る、
「結構女の子の間では有名だよ♪」
「そ、そうなの・・・・・・待って!辻にだけは!辻にだけは絶対に言わないでくれぇ!!」
俺は心から叫びながら、入り口に入っていく愛理を追いかけた。

愛理と話している内に心のうやむやは消えていた・・・
そして吹っ切れたと同時に一つ、心の中に決めた事がある・・・・

卒業式の日、愛理に俺の思いを伝えようという事だ。
愛理がアメリカに行ってしまうのなんか関係ない、
この気持ちを伝えなきゃ何も始まらない、新たなスタートが切れない。
俺はそう考えるようになっていた。

そして次の日の放課後から俺と愛理を含む『お礼の会』の7人の集まりが始まった。

「えーとりあえず今日から、我が『お礼の会』が始動する訳だが・・・」
「ちょっと!なんでバカ辻が仕切ってんの!」
教壇の前に立ち仕切りだした辻に菅谷が強烈な突っ込みを入れる。
「バカ辻だとーー!このアホ菅谷!」
「みーや〜バカ辻がアホ菅谷って言った〜」
菅谷が隣に座っている夏焼に抱きつく。
「まぁまぁとりあえず何かいい案ある人いる?」
「そーだ!何か良い案ある人いるか?」
菅谷の頭を撫でながら言う夏焼に続いて加護が言う。
加護としては夏焼をサポートしているつもりらしいが、同じ言葉を繰り返しているだけだ・・・・
「去年は花壇の作り変え、一昨年は体育倉庫に絵を描いてたよねっ、その前は確か・・・」
須藤が思い出しながら今までに行われた例を挙げていくが、
皆考え込んでしまい、シーンとなる教室・・・・
ここぞとばかりに辻が手を挙げた、
「はいはーい!!何かさぁ!こうドカーンっとさぁ!!こん位の銅像とか建てようぜ!!!」
両手をいっぱいに広げながら銅像建てるという案を挙げる辻・・・
「何言ってんの!私は校舎とかに絵を描きたいなぁ・・・一面ピンクに塗っちゃうのも良いかも、
梨沙子ピンクが一番好きだからっ」
辻に突っ込みを入れつつ、校舎に何か描くという案を挙げる菅谷・・・・
(呆れて突っ込みも入れられん)なんて思いながら皆の顔を見ると、
どうやら夏焼、須藤、加護、そして愛理も同じ思いであることが表情から読み取れる。
「まぁ今日集まったばかりだしねっ♪君は何かある??」
「えっ?俺・・・?」
愛理が俺に振ってきた、まだ一言も声を発していない俺に気を使ってくれたんだろう。
(愛理の期待に答えなきゃ・・・この会を成功させて愛理にいい思い出を作ってあげるんだ・・・・・)
変なプレッシャーが俺に圧し掛かる。辻、菅谷までが黙って俺が答えるのを待っている。
「・・・・・ごめん・・・・・特に無い・・・・・・」
「じゃあさ!じゃあさ!こういうのはどうよ!!?・・・・」
俺が答えた瞬間また辻が喋りだす・・・・
(これは長期戦になるな・・・・)  辻、菅谷意外の皆の思いはただ一つだろう・・・・・・

『お礼の会』で集まり始めて数日、今だ良案は出ていない・・・

「じゃあ算数の授業を無くしちゃうっていうのはどうだ!?皆喜ぶぞぉ!!!」
「辻もたまには良い案出すのね〜、後ついでにプールも無くしちゃおうよ!
梨沙子泳げないからプール嫌〜い」
「プールは駄目だぁ!!プールほど楽しいもんは無い!!!」
「え〜〜〜、みーやはどう思う??」
「えぇ・・・・・ふふふっ」
菅谷に助けを求められた夏焼が困って笑いだす。

ここ数日で何となく思った事が、実は辻と菅谷って結構お似合いなんじゃないかということ。
二人の掛け合いを見ていると結構面白い、皆も楽しそうに笑っている。

卒業なんかしたくない・・・このまま皆と笑っていたい・・・・・・

きっと皆も同じ事を思っているだろう・・・・

無意識に皆と一緒に笑う愛理を見ていた、

・・・愛理とも・・・・愛理ともずっと一緒に笑っていたい・・・・・・・・

俺は、楽しければ楽しいほど増す、切なさを必死に押し殺して笑っていた。

翌日の昼休み、辻、加護、他数名の男子と遊んでいると、
遠くの方で、愛理が校庭の隅にある桜の木を一人で見上げているのが見える。

(愛理、何してんだ?)
俺は気づかれないように後ろから近づいて行った。

「青春ですね♪」

俺が後ろから声を掛けると、愛理は驚いたようにパッと振り向いてきた。
少し目が赤い・・・・泣いてる??

「真似したなぁ〜・・・もうっ」
「はははっ、ごめんごめん」
愛理はすぐにいつもの笑顔に戻った。
(気のせい・・・?こんな元気な愛理が泣く訳ないか・・・・)

「何してんの?一人で・・・」
「ふふっちょっと桜見てたんだ〜♪」
「桜を?・・・好きなの?桜っ」
愛理に言われて桜を見上げる・・・桜の蕾ができているが、さすがにまだ花は咲いていない。
「うん・・・でもさすがにまだ咲かないよね〜・・」
愛理が再び振り返り桜を見上げる、
「そーだな・・・・やっぱ4月になんないと咲かないかな〜」
「・・・・うん、・・・知ってる??・・・・アメリカにも桜の木ってあるらしいよ・・・
・・・・何かイメージに無いよねぇ・・・」
「えっ・・・?」
しまった・・・もう・・4月には愛理は・・・・・
ここ最近愛理と仲良くなれて少し浮かれていたのかもしれない、俺は自分の発言を死ぬほど後悔した。

言葉に詰まってしまった俺は何も言えず、ただ愛理の背中を見つめていた・・・
「最後に・・・・」
「えっ?」
「・・・・・最後に・・・日本で満開の桜見たかったなぁ・・・・・・・・」
愛理の肩が震えている・・・・やっぱり泣いてたんだ・・・・
「あ、愛理・・・・」

俺の中の愛理は・・・頭がよくて・・・スポーツもそこそこできて・・・・歌が上手くて・・・・
・・いつも元気で・・・・誰にでも優しくて・・・・ちょっとお茶目で・・・・心が強くて・・・・
その愛理が泣いている・・・・

「な、泣くなよ・・・愛理・・・」

俺は後ろから愛理の手を取り強く握った。

「愛理・・・・俺・・・・」

「ふふっ、もぉ〜そんなに強く握ったら痛いよぉ〜」
「あぁっ、ご、ごめん!!」
振り向いた愛理はいつもの可愛い笑顔だ。
俺は慌てて手を離した。
「あ〜顔真っ赤だよ〜♪」
「う、嘘泣きかよっ・・くそっ」
「ごめんごめん、君の事からかうの面白いんだもん♪」
「もういいよっ!」
俺は照れを隠すために振り返り歩き出そうとすると、

「でも・・・・でも嬉しかったよ・・・・君が手を握ってくれた瞬間、嬉しかったよ・・・・」
愛理が静かに、でも明るい声で言う。
(・・ドクン・・ドクン・・ドクン・・・・・・)鼓動が速くなる・・
「日本の桜の花を見たいっていうのも・・・・ホントだよ、桜・・・好きだからっ♪」
「・・・そうか・・・・・・・・・・・」

手を握った時、雰囲気で『好きだ』と言いそうだった、
焦るな・・・・卒業式の日に言うって決めたんだ・・・

「私がね雅ちゃんと茉麻ちゃんと梨沙子を誘って『お礼の会』に立候補したんだ・・・」
愛理が静かに話しだした、
「この小学校には鈴木愛理が居たんだぞぉ、っていうのを証明できるモノを何か残したかったんだ♪」
「・・・・・」
胸が痛かった、愛理はそんな思いで『お礼の会』に参加していたのか。
「もし私がねっ、いつか日本に帰って来られたらねっ、真っ先にココに、この小学校に来たいな・・」
愛理が桜の木に手を当てながら言う、

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうだ!桜!!桜を植えようよ!!!」
「えっ?」
「記念樹だよ!『お礼の会』で桜の木を植えるんだよ!!愛理桜好きなんだろっ!?」
「う、うんっ」
凄い勢いで言ったので愛理は呆気に取られている、
「よしっ決まりだ!!その桜が愛理がここに居たっていう証拠になるんだ!!!木ならずっと残されていくと思うし!!!」
「記念樹かぁ、でも辻君が納得しないよ〜」
「大丈夫!俺が何とかするよ!!絶対!!!」

「・・・・・・・・うんっ、ありがとっ♪」

その日の放課後、早速みんなに俺と愛理、二人で提案してみた。
「うんっいいと思うよ!桜の木を植えるって」
「あっ俺も!俺も!」
「え〜どっかに絵描きた〜い」
「私も良いと思うなぁ・・・木だと成長していくのを見れるのが楽しそうだしっ」
「えぇぇぇぇぇ!!!!!嫌だよ〜!!桜埋めるなんてぇ地味じゃん!!もっと派手にさぁ!!・・」
辻と菅谷はブーブー言ってたが多数決2対5で桜を埋めるという案が通った。
愛理が「やったね」とこっちに微笑みかけてくる、
「じゃあ俺中澤先生に報告してくるわ!!!」
「あっ私も行くっ」
俺は嬉しくて、すぐに教室を飛び出した、その後に須藤も着いてきた。
「良かったねっ、もう卒業までに決まらないかと思っちゃったよ。」
「あぁ、ほんと良かった・・・」
胸に熱いものが込み上げてくる、
(ちゃんと決まった訳じゃないんだ・・・まだ泣けない・・・)
俺は涙を堪えながら、須藤と一緒に職員室へと急いだ。

「桜の記念樹か〜ちょっと難しいで〜、卒業まであと二週間くらいやろ?今から手配するとなると
もう間に合わんかもしれへんわ」
中澤先生が困った顔して言う。
(そ、そんな・・・・・・)
「お願いします!!桜を植えたいんです!!!愛理・・・僕達がこの小学校に居たっていう証を残したいんです!!!」
今まで生きてきた中で一番深く頭を下げただろう、堪えていた涙が目から勝手に流れだしていた。
俺は必死だった。
「私からもお願いします!!」
須藤も俺と同じくらい深く頭を下げてくれた。
「いや〜そんなこと言われてもやな〜・・・・・・」


「俺達からもお願いします!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
職員室中に凄い声が響き渡った。この馬鹿デカイ声は・・・・・・
振り向くと職員室の入り口辺で、辻が深々と頭を下げている、
辻だけじゃない、夏焼も、菅谷も、加護も、そして愛理も・・・・・
「つ、辻・・みんな・・・・」更に涙が溢れてくる。
「お願いします!!!!!!」
俺は改めて先生に深々と頭を下げた。

「よっしゃっ、分かったわ!先生が何とかしたるでぇ!だから皆頭上げてーやー」

「・・・・あっ、ありがとうございます!!!」
もう俺の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。

先生にOKを貰った俺達は職員室を後にした。

「はい、涙拭いてっ」
「あ、ありがとう」
俺は夏焼が差し出してくれたハンカチで涙を拭った。
「辻・・・皆どうして・・・・?」
「まぁ桜も良いかなって、ちょっと思ったんだよっ!!」
辻が少し照れながら答える。
「お前が出て行った後、鈴木から話聞いたよ桜の話」加護が言う
「愛理・・・・・・・」
「よかったねっ♪」愛理は俺に向けてVサインをした。
「皆・・・・ありがとう・・・・菅谷も」
「梨沙子桜の花好きだよ、ピンク色だからっ♪」
「ありがとう・・・・うぅ・・・ありがどう・・・・」
また涙が溢れてきた。
「はははははははははっ!!また泣いたぜ!!!お前ホント泣き虫だなぁ!!!」
「ふふっ」「ははははっ」
辻につられて皆笑い出した。
「うぅ・・・笑うなよ〜・・・・うぅっ」

この時、須藤だけが笑っていなかったことは誰も気づかなかっただろう・・・・・

 

『お礼の会』の集まりは終わってしまったが、
放課後は俺たち7人で集まって遊ぶようになっていた。
「よっしゃー!!!今日はかくれんぼだ!!うん、そうだな!かくれんぼの日だ!!!ということでかくれんぼやろうぜ!!!」
「え〜!今日は『ニクソン』やるって言ったじゃ〜ん!!」
いきなり仕切りだす辻に菅谷が突っ込む、もうお決まりのパターン。
「お前の遊びは訳分かんねーんだよ!!今日はかくれんぼの日なんだ!!!」
「え〜、みーや〜」
自分より一回り以上もある物干し竿の様な棒を2本抱えた菅谷が、夏焼に助けを求める、
「・・・・・・・かくれんぼなんてしばらくやってないからねっ、かくれんぼもいいんじゃない??」
夏焼が困った顔で言う、他の皆もどちらかというと辻側だ。
皆が困るのも無理はない、辻の言うとおり菅谷が言い出す遊びは訳が分からない、
というかシュールすぎて俺たちには、よく理解できなかった。
昨日は『ほっかいどう』という遊びを日が暮れるまでやらされた・・・・
「う〜ん・・・みーやが言うんならしょうがないけど・・・・そのかわり辻が鬼だからね!」
菅谷が膨れっ面で辻を睨みつける、
「おう!!一瞬にして全員探し出してやる!むしろ一瞬にして全員探し出してやる!!!」

「い〜ち・・にぃ・・さ〜ん・・よ〜ん・・・・・・・」
辻が顔を手で覆い数え始めると、皆は散らばり思い思いの場所に隠れだす。
俺はとりあえず校庭の隅にある体育倉庫の中に隠れてみた、
すぐ見つかりそうなので跳び箱やボールが入った籠でバリケードを作り、その裏に隠れた。

『ガラガラッ』
突然ドアが開く、

(辻の奴、早くないか!?)
恐る恐るバリケードの隙間から覗いて見ると、中を見渡している須藤の姿があった。

「須藤・・・こっちこっち」
「あっ・・・・・・・・・私もいい??」
「うん、ちょっと狭いけどな」
バリケードを一旦崩し、須藤を中に招きいれた。

「これならなかなか見つからないねっ」
「お、おう」
(ち、近い・・・・・)
思ってたよりスペースが狭かった、俺と隣に座っている須藤はかなり密着している。
柔らかい須藤の体から彼女の体温が伝わってくる。

薄暗い体育倉庫に二人っきりで、しかもこんなに密着してて・・・・・
俺は自分の体がどんどん熱くなっていくのがよくわかった。

「君さ・・・」
「えっ?」
須藤に話しかけられて俺は反射的に須藤の方を向いた、
こっちを向いている須藤の顔が目の前にある。
おそらく菅谷が俺の熱を測った時よりも近いだろう・・・
須藤もあまりの近さに恥ずかしくなったのか「あっ」と小さく声を出し、下を向き黙ってしまった。

「な、何??」
「うん、あのね・・・・・・君さ・・・愛理のこと好き・・・だよね?」
「う、うん・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?」
突然の事で思わず本音で答えてしまった、
「え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」
「シーッ、見つかっちゃう」
須藤が口の前に人差し指を立てる、
「あ、ご、ごめん・・・・何で?何で分かったの?」
俺は少し声を押さえて聞いた。
「分かるよ・・・・・・君の事ずっと見てるんだから・・・・・」

「俺のこと・・・・?」
思わず須藤の方に顔を向けると、須藤も顔をこっちに向け俺の目をじっと見つめてきた。
やはり顔が近すぎてドキドキする・・・・
俺が再び顔を下ろそうとしたその時、

「逸らさないで!・・私を・・・・・・私のこと見て・・・」
「えっ・・・」
須藤は俺の目をじっと見つめたまま、切なく消えそうな声で言った。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
無言で見つめ合う俺と須藤・・・・・

「私・・君のこと・・・好きだよ・・・・・」

俺は須藤の真っ直ぐで綺麗な瞳に吸い込まれそうな感じがした・・・

須藤の突然の告白で頭が真っ白だ。

(・・・・・・・俺が好きなのは愛理だ、駄目だ!断んなきゃ!断んなきゃ!・・・)

「須藤・・・・あ、あの、俺さ・・・・」
「分かってるよ・・・さっきも言ったでしょ?君が愛理のこと好きなのは分かってるよ・・・・」
「じゃあ・・・どうして・・・」
「最近の君見てるとね、凄い自分の気持ちに正直っていうか・・・本当に愛理のこと好きなんだなぁ、っていうのがよく分かるの」
「そ、そうか?」自分では必死に隠しているつもりだった。
「そーゆー君の事見てたらね、私もこの『君のこと好き』っていう気持ちを正直に伝えたい、って思ったの・・・」
須藤が俺のことを・・・・全然気がつかなかった。
「たとえ・・・・」
今まで俺を見つめてた須藤が下を向いてしまった。

「たとえ・・・・・振ら・・・れる・・って分かってて・・もねっ」

泣いている・・・下を向いている須藤の顔は見えないが、それは確かだ・・・・

「ごめん・・・須藤・・・・」
須藤との思い出が頭を駆け巡る。

『じゃあ・・一緒にゴールしようねっ』

『もう・・・ビックリしたんだから〜・・』

『あっあのね、手紙届けに来たんだけど・・・』

もしかしたら須藤は俺に向けてサインを出してたのかもしれない。
そのサインに気づかなかった事と、須藤の気持ちには答えてやれないという事が、
俺の胸を強く締めつける・・・・が・・・

「ごめん須藤、俺は愛理が・・・・鈴木愛理が好きだから須藤の気持ちには答えられない・・・・」

俺は意を決して泣いている須藤に言った、

「・・・うん・・・・・・・正直に言ってくれてありがとうっ」
「あれっ!?」
顔を上げた須藤は笑顔だった、
嘘泣き・・・?んっ?このパターン・・・・・・・・
「ふふっごめんねっ、愛理が君の前で泣き真似すると簡単に引っかかるって言ってたからっ♪」
「そ、そんな〜・・・・」
俺は一気に力が抜けてしまった。

「辛いよ・・・・・悲しいよ・・・でもね・・・思いを伝えないままでいるよりはね、思いを伝えちゃった方が、例え振られたとしても吹っ切れるもんだよっ」
「そーゆーもんかね?」
「そーゆーもんっ、よかったよ君が真剣に答えてくれてっ、それだけで私は満足だよ・・・
ほらっ・・私の場合、振られるって・・・・分かってたからっ」
須藤は笑顔で言うが、俺はその笑顔に違和感を感じた。

「あっ、あのさ・・・何て言うか・・俺が言うのもなんだけど・・・・無理すんなよ・・・」

一瞬にして須藤の笑顔が消え去り、その目にはジワジワと涙が溢れ出していく。
「あれ・・・泣かない・・って・・・決めてた・・のに・・・・・」
「ごめんな・・・・須藤・・・」
「・・うぅ・・・謝らないで・・・私が・・・私が惨めに・・・なっちゃう・・だけだから・・・」
「・・・・・・・」
「・・・今だけ・・・・辻君に見つかるまでの間だけ・・・・・手握ってて・・も・・・いい?」
俯いたまま泣く須藤が俺の手を握ってきた。
「うん・・・・」
俺は須藤の手を握り返した、
「優しいね・・・君は・・・・・暖かい・・なぁ」
須藤の手は柔らかくて・・・・暖かくて・・・・
小さい頃、母親と手を繋いだ時の様な安心感がある・・・

物音一つしない体育倉庫には、須藤の泣き声だけが響いていた・・・・・

「もう大丈夫、落ち着いたからっ」
「うん」
「あ〜あ、泣いてすっきりしたなぁ」
須藤が微笑む、その笑顔に違和感はまったく感じられない。
「俺たち・・・これからも友達だよな?」
「・・・うん♪」
「だよな、よかった」
満面の笑みで返事をしてくれた須藤を見て、俺は安心した。
「他にも自分の気持ちに素直になって、ちゃんと告白して欲しい子がいるんだけどなぁ〜・・・」
須藤が独り言のように呟く。
「他にも??誰?」
「それは言えないよぉ〜・・・」
「なんでよっ、誰だよ〜」
「ふふふっ、ヒントはねぇ・・・今遊んでる君と私以外の5人の中にいる、かなっ」
「五人の中に?」
(辻、加護、夏焼、菅谷、愛理の中に?
辻、加護は事は須藤よりも俺の方がよく知っているだろうから違う、
菅谷?・・・いやいや菅谷は素直に生き過ぎだろ、
夏焼の事だって大体の事は知ってる・・・と思うし、
という事は愛理!?愛理に好きな人がいるってこと!?)

「ちょっとそれどういう意味・・・」
俺が須藤に問い詰めようとした瞬間、

『ガラガラッ!!』
いきなり体育倉庫のドアが開いた

「うぅ、誰かぁ出てきてくれぇ〜」
聞こえてきたのは半泣き状態の辻の声だった。

かくれんぼを始めてから既に一時間近く経っていたらしい。
誰も見つけられず、半泣き状態で探し続けていた辻と一緒に、さっき居た朝礼台に戻ってみると、
皆もさすがに集まっていた、
「もう!全然面白くな〜い!」と辻が菅谷に罵られ、
「もう帰る」と言い出したので今日は解散になった。

夏焼との帰り道・・・・
「明日、桜植える日だねっ」
「あぁ、そうだな」
「何か考え事??」
「えっ?何で?」
「雅ちゃんには何でもお見通しなんだからっ」
「別に、ただボーっとしてただけだよっ」
「ふ〜んそう・・・明後日がリハーサル、明々後日が卒業式本番、何かアッという間だね」
正直、夏焼の話は俺の耳に入ってなかった。

俺は須藤の話を思い出していた、

『他にも自分の気持ちに素直になって、ちゃんと告白して欲しい子がいるんだけどなぁ〜・・・』

(愛理には好きな人とかいるのかなぁ・・・・)
今までまったく考えたことが無かった。
・・・いや、たとえ愛理に好きな人がいようと、アメリカに行ってしまおうと、
俺は須藤が言ってたように、俺の気持ちを正直に伝えるだけだ。

俺の中で、愛理に告白するという決意が一層強まっていた。

卒業式を二日後に控えた今日の放課後、遂に桜の植栽が行われた。

今日はこのクラスでの小学校生活最後のイベントごとだ、
そりゃ〜もうクラスの皆で盛り上がってお祭り騒ぎ・・・・・・のはずだったが、クラスメートのほとんどは校庭に散らばり、普段の放課後みたい
にそれぞれ遊んでいる。
辻に至っては数名の男子の先頭に立って、サッカーなんか始めやがった。
校庭の隅でテキパキと作業をする業者さん達を眺めてるのは、
辻を除く、俺たち『お礼の会』の面々と、数名の女子だけだった。

「それでは作業が終わりましたんで・・・・」
「ありがとうございます〜無理言ってすいませんでした〜」
業者の人に中澤先生がお礼を言っている。

「私達の桜だねっ♪可愛いなぁ〜」
愛理がまだ約2メートル程しかない桜の木に手を添えながら嬉しそうに言う。
「うん、俺達の桜だ!」
(別に盛り上がらなくてもいいさ!愛理が喜んでくれている、それでいいんだ!)

「じゃあ、コレ立てるね」
「あ〜!梨沙子がやるぅ〜」
「はいっ」
須藤が持っていた『平成○○年 弟××期生 卒業気念』という俺達が作った小さな看板を菅谷が受け

取る。

「よいしょ・・・・・・・できたぁ〜」
「・・・あれ?記念の『き』の字違うよ?」
夏焼が気づく、
「あっホントだ」
「やだ〜誰〜??」
「梨沙子じゃないよ〜書いたの」
「誰だっけ〜??」
「この字・・・辻じゃね?」

「・・・・・辻ーーーー!!!」
皆が声を揃えてサッカーをしている辻を呼ぶ、声は怒ってるけど皆笑顔だった。

無事『お礼の会』が終了し、俺は胸は満足感でいっぱいだ。

「夏焼〜帰ろうぜ〜」
「うん・・・」
最近は夏焼と一緒に帰るのが当たり前だ。
前まではクラスの奴とかに見られたら嫌だったけど、今はそんな気持ちはあまりない。
俺ももうすぐ中学生、いつまでもガキみたいな事は言ってらんない、と思ったりもしていた。

「今日も楽しかったなぁ、もう明後日には卒業かぁ」
「うん・・・・今日ね・・・」
「ん?」
「今日・・・加護君に告白されちゃった・・・・・」
「え・・・・・えぇ!?(何で!?加護の奴何で今日!?)・・・そ、それで??」
「・・・・・私には好きな人がいるって・・・断っちゃった・・・」
(す、好きな人!?好きな人がいたのか・・・知らなかった。)
夏焼はただの幼馴染、でも俺は凄い寂しい気分だった。
「・・・・・」
「・・・・・・」
何か急に気まずくなってしまい、少しの間沈黙が続いた。

「す、好きな人いるんだ?」
俺は微妙に照れながら聞いてみた、夏焼にこんなに気を使ったことは今までに無いだろう。
「・・・さぁ・・・わかんないよ」
「えっ?」
「いるかもしれないし・・・・いないかもしれないなっ♪」
夏焼は『クスクス』と笑いながら茶化す
「そんなっ・・・おい!加護は真剣にお前の事思って!!・・・ちゃんと考えてやれよ!!!」
「・・・!何で怒ってるのっ?」
あまり怒ったりしない俺が結構な勢いで言ったので、夏焼はかなり驚いているようだ。
須藤の事もあって、俺はこういう事にやたら敏感になっていたのかもしれない。
「加護がどんなにお前のことで悩んだか、お前は分かってないからそんな簡単に振れるんだよ!!!」
「知ってたの?加護君が私を・・・って事・・・」

俺は一瞬「しまった!」と思ったが、もう遅い。

「し、知ってたよ・・・協力してほしいって言われて・・・俺が夏焼の事一番よく分かってるし・・」
急に加護に協力していたことを後ろめたく感じ、さっきまでの俺の勢いは無くなっていた。
「そう・・・もういいよ・・・・」
夏焼は俺に背を向けて歩き出す。
「ちょっと待てよ!」
俺はそう言いながら夏焼の肩を掴んだ。
「痛いよ・・・」
こっちを向きはしないが、立ち止まった夏焼が言う、少し泣きそうな声だ。
「好きな人の事は置いといて、もう一回加護の事ちゃんと考えてやってくれよ・・・」
泣かせてはいけないと思い、なるべく優しく声を出したつもりだった、が

「好きな人がいるなんて嘘よ!本当はいないわよ!!君は私の事何にも分かってないじゃない!!!」

振り向いた夏焼の目にはたくさんの涙が溢れていた。

俺が怒るのも珍しいが、夏焼がこんなに怒ったのは初めて見る。
「離してよ!!」
「あっ、ちょっ、夏焼!!」
夏焼は俺の手を振りほどき、走り去っていく、
呆然と夏焼の背中を見つめる俺・・・自分の意思とは無関係に涙が頬を伝う。
これが俺と夏焼の初めてのケンカだった。

そのまま俺は一人で帰宅した。
家に入る前に、隣の家の夏焼の部屋を見てみたがカーテンが閉められていて、
中の様子を伺うことはできなかった。

夕飯を食べて・・・・風呂に入り・・・・
心が晴れないまま時間は過ぎていく。

俺が夏焼に対して、理不尽に怒りをぶつけた事なら今までに何回かある、
そんな時でも夏焼は決して怒らなかったので、ケンカにはならなかった。

(あんな冷たい目をした夏焼初めて見たなぁ・・・)

何で夏焼があんなに怒ったのか正直よく分からない、
加護に夏焼の事を喋ったのが分かったのか・・・?

(夏焼が理由も無く怒る訳がない・・・悪いのは俺の方だろう・・・・)
とりあえず明日学校で謝ろう、と結論を出して俺は眠りについた。

「坊主!!!しっかりしろぉ!!大丈夫か!!!」
見覚えのあるオジさんが水浸しの俺を抱えている、
夏焼はその傍で、うわぁんうわぁん声を上げて泣いている・・・
・・・これは?・・・思い出した・・・幼い頃の俺の記憶だ、
確か夏焼が風に帽子を川に飛ばされて、取ろうとした俺が誤って川に落ちて溺れてしまった時だ、
通りかかった人が助けてくれて俺は何とか一命を取り留めたんだ。
結構大騒ぎになったんだよなぁ・・・
「うぅ・・・ごめんね・・・私が帽子を飛ばされたせいで・・・・」
幼い姿の夏焼が大粒の涙を零しながら何度も俺に謝ってる、
「うぅ・・・ごめんね・・・・ごめんね・・・・・」

気がつくと俺は自分のベッドに横たわっていた。
(夢か・・・・何でこんな夢を?)
時計を見るとまだ五時過ぎ・・・僕は起き上がりカーテンを開けてみた。

まだ完全に日は上がっていない、点々と浮かぶ雲を朝焼けが真っ赤に染めている。
(雲が真っ赤だ・・・・)
その景色は美しくもあるが、どこか恐ろしげなものだった。

(今日は卒業式リハーサル・・・まず夏焼に謝んなきゃ・・・)

夏焼まだ怒ってるよな〜、という不安を抱きながら学校へ行った。

「え〜、まず出席番号順にバァーっと整列して、ドドドッと体育館に入場します、
入場すると右側にボォアバァァーっと・・・・・・」
朝の会、先生が今日のリハーサルの流れを黒板に図を書きながら説明している。

朝の会が始まる直前に夏焼は教室に入ってきたので、朝の内に謝ることはできなかった。
夏焼を見てみるとやはり元気が無さそう、
加護もいつもは辻と騒いでいるが、今日は静かだ、
加護からさっきチラッと聞いた話だと、卒業式だと他にも告白する人がいるかもしれないから、早めに昨日告白したらしい。
もう一つ気になる事がある、普段まったく遅刻などしない愛理がまだ来ていないという事。

「えぇ〜みたいな流れになっています」
先生の説明がやっと終わり、騒がしくなる教室

「あと最後に一つ、皆に知らせなあかん事があります・・・・」
(ん?先生の声が急に暗くなったような気が・・・・)
「鈴木愛理さんが卒業後アメリカに行ってしまうという話を皆さんは知ってますね?」
騒がしかった教室が一気にシーンとなる・・・・

『ドクン・・・・』

「実は・・・急に予定が早まって・・・・」
先生の声が震えている、

(まさか・・・違う!嘘だ!・・・言うな!言わないでくれ!!!)

「鈴木さんは今日・・・日本を発つことになりました、せやから皆と一緒に卒業式に出ることは・・・できません・・・・」

教室は誰も居ないかと思うくらい静かで、廊下から生徒達の騒ぎ声だけが響いている・・・

「おそらく・・・・そろそろ家を出ている頃だと思います・・・」
中澤先生が上を向いてる、涙が零れ落ちないように

嘘みたいに静かだった教室が、次第に女子たちの泣き声に包まれていく、

「それでは皆さん!あと10分程でリハーサルが始まります!トイレなどは済ませといてください!」
少し間を置いて先生は無理矢理な笑顔で言うと、足早に教室を出て行った。

(何も考えられない・・・・頭が真っ白って言うのはこういうことなんだろうな・・・・
夏焼・・・須藤・・・女子は皆泣いてる・・・・菅谷が一番泣いてるかな・・・・)

『バシッ!!』

ボーっとしている俺の頭に激痛が走った。
「何ボーっとしてんだよ!!行くっきゃないだろ!!!鈴木ん家に!!!」
痛みと同時に聞こえてきたのは辻の馬鹿デカイ声、
「もう居ないよ・・・リハーサルにだって間に合わなくなるし・・・」
「リハーサルなんて俺達がどうにかしとくさ」
後ろから聞こえてきたのは加護の声だ。
「でも・・・でも・・」
愛理の笑顔が頭に浮かぶ、
      (会いたい・・・愛理に会いたい・・・)

辻と加護が「行け!」という顔で俺を見つめる、

「辻、加護・・・・・ありがとう・・・ありがとう!!」
俺は席を立ち、すごい勢いで教室を走り出た・・・・

(俺の馬鹿!あきらめるとこだったじゃないか!!)

「こらっ廊下を走るな!!待ちなさい!!!」すれ違った教頭先生が怒ってる、
(待つもんか!立ち止まるもんか!!もうあきらめない!!間に合う・・・絶対に!!)
今の俺は誰にも止められない、そう思ってた・・・・でも・・・・

丁度下駄箱を走りぬけようとした時、

「待って!!」
俺を呼び止める声、振り返らなくても誰の声だかすぐに分かった、
俺は足は勝手に止まってしまった・・・

「夏焼・・・・・」
下駄箱の影から息を切らした夏焼が姿を見せた。

「待って・・・話したい事があるの・・・」
「いや、ごめん!俺急がないと・・・・」
俺が再び走りだそうとすると、

「私知ってたの!愛理が今日行っちゃうってこと!!」

「えっ・・・・・」

「昨日夜中に愛理から電話があったの、いろいろ準備で忙しいからって私だけに・・・」
「そ、そうか」
「あと・・・君が愛理のこと好きなのも・・・知ってた・・・」
(えっ・・・・)
「・・・じゃあ・・・・じゃあ愛理が今日行く事、教えてくれたっていいじゃないか!!」
俺が思わず大きな声を出すと、夏焼は体を「ビクッ」とさせ驚き、下を向いてしまった。

違う・・・夏焼に怒りをぶつけるのはお門違いってやつだ・・・
でも、いつも優しくて、人の事を一番に考えてて、そんな夏焼が・・・何で・・・
俺と夏焼二人っきりの下駄箱で、刻一刻と時間は過ぎていく・・・

「夏焼、何で・・・」
「私・・・君の事・・・君の事好きだから!!」
「・・・・・・!」
その声は外から吹き込んでくる風の音で、かき消されてしまうかと思うくらい小さくて、
夏焼の目から涙が零れだす、

「君の事好きだから、君が私から離れていくのが恐くて・・・
うぅ・・・ずるいよね、卑怯だよね・・・・教えないなんて・・・・・」
「夏焼・・・・」

須藤が言ってた「自分の気持ちに素直になって、ちゃんと告白して欲しい子」って・・・

その場に泣き崩れる夏焼、
「・・・今だって・・・こうやって君の事引き止めて・・・私最低だよ・・・ごめんね・・・ごめんね・・・」

『うぅ・・・ごめんね・・・私が帽子を飛ばされたせいで・・・ごめんね・・・ごめんね・・・・』

俺は今日見た夢を思い出していた。

『・・・泣かないで・・・・僕、笑ってる雅ちゃんの方が好きだよ・・・だから泣かないで・・・・

あの時、確か俺は泣きじゃくる夏焼の手を握ってそう言った・・・・でも今は・・・・

「夏焼ごめん、俺・・・」

『キキィィーーーーー!!』

俺の声をかき消したのは、いきなり玄関に突っ込んできた自転車のブレーキ音だった、

「須藤!?」
「これ乗ってっ、早く行って!」
「どこから自転車なんか・・・・」
「早く乗りなさい!」
俺は須藤に言われるがまま、自転車に乗った、

「早くっ!!」
「あ、あぁ、須藤・・・夏焼の事頼む・・・」
「うん、愛理によろしくねっ!!」
「ありがとう・・・間に合ってみせるから!」

(夏焼ごめん、俺は愛理が・・・・)

夏焼の事が気になっていたが、俺はその場を後にし、校門に向けて一心不乱にペダルをこぎはじめた。

「みーやっ、泣かないで」
泣き続ける夏焼の隣にしゃがみ込み、頭を撫でる須藤、
「・・・・・・・」
「ほらっ彼なんかの為に泣くと涙がもったいないよ〜」
「・・・彼ね・・・泣き虫だし、頼りないし、はっきりしないし・・・
・・・でもね良い所はもっともっといっぱいあるんだ・・・」
「うんそれは私も分かってるよ、みや程じゃないけどねっ♪」
「・・・私・・・嫌われちゃったかな・・・・」
須藤は震える夏焼の体を抱きかかえた。
「それはないよ・・・・みーやがね、彼の良い所をいっぱい分かっているように、
彼もみーやの良い所いっぱい分かってると思うよ、今までずっと同じ時間を過ごしてきたんだから」
夏焼の目には更に涙が溢れる、
「うぅ・・ありがとうっ・・・ありがとうっ・・・茉麻・・・」
「もう〜泣かないで〜雅ちゃ〜ん♪」

『ガシャン!!』
手を叩きつけると、金属音が静かな住宅街に響き渡る、
金属でできた立派な門から感じる冷たさが手から全身へと伝わっていく、
それとは対照的に胸がどんどん熱くなっていく。

間に合わなかった・・・・・

愛理の家の門は硬く閉ざされ、中に人が居る気配はない・・・

「くそぅ・・・」涙を堪えることができない、愛理・・・・

   『ふふっ青春ですね〜♪』

    『君とも仲良くなっておきたいなぁ、って思ったのっ♪』

     『でも嬉しかったよ・・・・君が手を握ってくれた瞬間、嬉しかったよ・・・・』

「うぅっ・・・・うぅっ・・・・」
(「好きです」たった一言、そう言えばいいだけなのに!!もっと早く言えばよかったんだ!!)

愛理の家の門前で泣き崩れる俺・・・

                ・・・その傍に止まる一台のタクシー・・
・・・夢かと思った・・・・・

「愛理・・・・・?」

タクシーから降りてきたのは愛理だった。

「人の家の前でそんなに泣かないでくださ〜い♪」
「な、なんで・・・」
「えへへ〜ちょっと忘れ物しちゃったんだ」
「忘れ物・・・・・?」
「うん・・・君の気持ち・・・・」

ドキッ・・・

「キャ〜、私今いい事言ったなぁ♪」
愛理は両手を顔に宛てて、「恥ずかしい〜」って感じのポーズを取る、
「なんで!?俺が来る事分かってたの!!??」
俺が不思議そうな顔で聞くと、愛理は上着のポッケから携帯電話を取り出した、
「うん・・・今さっきね雅ちゃんから電話があったの・・・
『君が来るからどうしても家に戻ってほしい』ってね、もう困ったよ〜空港に向かってる車の中で戻ってほしいなんて言われて〜、でも雅ちゃん泣いてるんだもん・・・断れないよ〜」
(夏焼・・・・)
「そっか夏焼が・・・ごめん愛理・・・ありがとう」
「ううん・・・さぁどうぞ♪」
「どうぞ?」
「もぉ〜何しに来たの〜?時間無いんだから〜」
愛理が口を膨らましながら、足をバタバタさせる。
(・・・・・あっ、そっか・・・よ、よしっ、言うぞ!!!!!)
俺が顔を引き締めると、愛理はニコッと笑い黙って俺を見つめる、

「あっ・・・えっと・・あの・・・俺は愛理の事が・・好きです!大好きです!!」
「・・・ごめんなさい」
愛理は迷う事なく頭を下げた。
「えぇ・・・早っ・・」消沈する俺、
「う〜ん・・・やっぱりね日本とアメリカなんて遠距離すぎるよ・・」
「いや俺待つよ!愛理が帰って来るまで、十年だろうが二十年だろうが・・・」
俺が言い終わる前に、愛理は俺の口に人差し指を宛てて止めた。

「ダ〜メ♪まだ若いんだから、それにね・・・君は愛理ちゃんのあまりの美貌に目が眩んで、
一番近くにいる一番大切な人の事をちゃんと見れてないと思うなぁ〜」
「・・・・夏焼・・か・・・」
愛理が黙って頷く、
「でも・・・夏焼は本当赤ちゃんの頃から一緒にいて、俺の中ではお姉ちゃんみたいな存在で・・・」
「好きって言われた今でもそう思う?」
「そ、それは・・・」
確かに、
夏焼に「好きだ」と言われた時点で、俺は夏焼の事を女の子として意識せずにはいられない・・

「遠くに行っちゃう私よりも、近くにいる子を大切にしてほしいなぁ・・・」
愛理が空を見上げながら言う、
「でも俺は本当に愛理の事が好きなんだっ!!」
「うん・・・ありがとっ、嬉しいよ、でも・・・私もう行かなくちゃ・・・」

「・・・・・・飛行機の時間あるもんな・・・」
俺も愛理と同じ様に空を見上げながら言った瞬間、

『チュッ』

一瞬だけ俺の頬に暖かくて柔らかいものが触れた、
「なっ、い、今っ・・・・」
「ふふふっアメリカでは今のが挨拶なんだよ♪」
「キ、キ、キ、キ・・・」
顔がどんどん熱くなっていく、
「もぉ〜そんな顔真っ赤にされるとこっちまで恥ずかしくなってくるでしょ〜ただの挨拶だってば〜、お別れのあ・い・さ・つ!!」
愛理の顔がどんどん赤くなっていく、こんなに照れる愛理を見たのは初めてだ、
「うぅ・・・だって・・・・」

「最後に約束してほしいことがあるの・・・」

声が今までの明るい声ではなくなった、
「・・・な、何?」
「絶対に雅ちゃんを泣かせないで・・・」
愛理は少し切なそうな顔で言う、
「・・・・・・・うん分かった」
「あともう一つ、手紙なんか送ってこないでね・・・」
「えぇ!?何で!?」
「何でもっ」
「・・・・・・・分かったよ」
「よしよし、じゃあ行くね」
愛理は振り返り、待たせてあったタクシーへ歩きだした、

「あっありがとな!わざわざ戻ってきてくれて!アメリカでも元気でな!!」
タクシーの前まで行った愛理は再び振り返り、こっちを向いた、
「この最後の一ヶ月、君と仲良くなれて、すっごいすっごい楽しかったよ・・・
もうちょっと・・・・もうちょっと早く仲良くなれてれば・・・・君の事好きになってたかもなっ♪」
「えっ・・・・・」
愛理はそう笑顔で言い残しタクシーに乗り込んだ。

『君の事好きになってたかもなっ♪』

愛理の言葉がいつまでも心に響いてて、
俺は走り出すタクシーをボーっと見つめていた、

愛理がタクシーの中で振り向き、俺に向かって手を振る・・・

(・・・・行っちゃう・・・本当に愛理が行っちゃう・・・・・)

「あっ・・りがとう・・・・ありがとう!!!ありがとう愛理!!!ありがとう!!!・・・・」

涙が止まらない、自然と出た言葉が『ありがとう』だった、
何に対して『ありがとう』と言ってるのか自分でもよく分からない、
でも俺は離れていくタクシーに、愛理に向かって『ありがとう』と泣きながら叫び続けた・・

「俺・・・振られたんだよな・・・・」
一人残された俺は呟いた。

振られることは覚悟していた、
悲しみよりも、思いを伝えることができたという満足感が強いかもしれない、

(愛理・・・ずっと笑ってたな・・・)

愛理は最後の最後まで悲しそうな素振りを見せなかった、
元気で、明るくて、クラスの人気者の愛理のままだった、
皆と別れるのは悲しくなかったのだろうか・・・・

「・・・こうして俺の甘く切ない初恋は幕を閉じた・・・・・みたいな・・・」
何となくカッコつけて自分でナレーションをつけてみた。
「・・・・・・よしっ!」
俺は目から零れ落ちる涙を拭い、大きく深呼吸を一回して気持ちを整理すると、
勢いよく自転車に乗り込む、

正直何て言えばいいかなんてわからない・・・でも俺が愛理に告白して終わり・・じゃないんだ・・・

俺は学校に向けて力強くペダルをこぎ始めた・・・

沈黙が続く車内・・・

「ラジオ付けてもいいかい?」
「あっ、はいどうぞ〜」
運転主がラジオを付けると沈黙だった車内に音楽が流れ出す・・・

「すいません・・・音上げてもらってもいいですか・・・?」
運転主がラジオのボリュームを上げる、

「お嬢ちゃんこの曲好きなのかい?」
「・・・・・はい」
「この曲、何とか娘っつー若い子達が歌ってるんだよねぇ?おじさんにはちょっとわからないけど」
「・・・はい・・」
「・・・・?」
彼女の異変に気づく運転主、
「・・・」
「お嬢ちゃん・・・泣いてんのかい??」
「・・・いえ・・」
「いや、でも〜・・・」
彼女は目から大粒の涙を零しながら無理矢理笑顔を作って言った、
「・・・人生って・・・素晴らしいですね♪・・・・」
「へっ?・・・あ、あぁ・・・そうだねぇ」

これから日本を飛び立つ一人の少女を乗せ、
タクシーは成田空港へと向かい走り続ける・・・・・

・・・校門の前で夏焼は俺を待っていた、
戻って来た俺に気づいてるだろうけど、夏焼は下を向いたままで、俺を見てくれない。

「あの、夏焼・・・・・・」
「おかえり・・・・」
視線は下のままでそう呟く夏焼・・・・

「・・・た・・・ただいま」
「もうリハーサル始まっちゃってるよ・・・」
「うん、待っててくれたんだ?」
顔を上げる夏焼、
「待ってたよ・・・ずっと待ってたんだよ・・・
君が私の事、一人の女の子として見てくれるのを・・・ずっと・・・」

夏焼の目にはまだ少し涙が残っていて、何て言うか・・・すごい色っぽい気がした、
こんな夏焼の表情を見るのは初めてだ・・・いや、今まで俺には見えてなかっただけかもしれない。

「夏焼・・・待たせてごめん・・・待たせすぎだよな・・・・」
「・・・待たせすぎだよ・・・ばか・・・」
夏焼はそう言って俺に背を向け、学校の中へと歩き出した、

「俺振られちゃったよ・・・夏焼・・・・・・・慰めてくんない?」

振り返った夏焼は、可愛いはにかんだ笑顔で言った、
「もう・・・ばか・・・・」

リハーサルをサボった俺たち二人には、当然この後に中澤先生の大説教が待ち構えていた・・・・

「ニクソンイチッ!・・・・ニクソンニ!・・・・ニクソン・・サン!・・・」
「違うっもっと、こう・・・高くやるのっ」
「あ〜もうやめだ!訳わかんね〜もん!!」
「あっちょっと待ってよ〜〜」
「ほらっ二人とも、撮るからこっち来て」
向こうで遊んでいる辻と菅谷に声を掛ける須藤、

「ほら〜ネクタイ曲がってるよ、もぉ」
「あぁ・・」
夏焼が俺のネクタイを直す、
(夏焼・・・いい匂いするなぁ・・・)
「あっ・・・・今私にドキッっとしたでしょ〜」
「な、何で分かったの・・・じゃ、じゃなくて・・何言ってんねんっ」
「雅ちゃんには何でもお見通しなの♪」

「俺もネクタイを直してくれるような幼馴染がいたらなぁ〜」
加護が俺たちに向かって嫌味ったらしく言う、

「早う撮るで〜」
シャッターはたまたま居合わせた中澤先生に頼んだ、

「ほないくで〜・・・こら辻!ふらふらすんなや!・・・・・・はいっ、チーズッ・・・・・

『愛理へ・・・元気??愛理がアメリカに行ってからもう半年も経っちゃったね・・・・

アメリカでの暮らしももう慣れたみたいだね、さすが愛理だよ、

私達は相変わらず・・・じゃなくてねっ!大ニュースがあるのっ!!

この前ね!なんとあの辻くんが梨沙子に告白して振られちゃったの!!

仲悪くなっちゃうかな〜って思ったんだけど、今も普通に遊んでるよ、

私は結構あの二人お似合いだと思うんだよね♪ 愛理はどう思う??

ふふっ、こんな事ばっかり書いてるとまた愛理に「彼との事はどうなの!?」って怒られちゃうね、

う〜ん・・・あんまり今までと変わらないかな・・・

「友達以上、恋人未満」って感じっ、彼ってはっきりしないからさ、
 
私のこと一人の女の子として見てくれてるのは分かるんだけど・・・・

・・・あっ心配しないでねっ、それでも私・・・幸せだよ♪ 
 
え〜っと私達はそんな感じです、それじゃあお返事楽しみに待ってるから!

P、S、私達が植えたあの桜の木の前で撮った写真も送るね!

ちょっと遅れちゃったけど私達の制服姿初披露だよ♪
                  
・・・離れていても親友の夏焼雅よりっ』

季節は秋・・・気温は程よく暖かいけど、ちょっと肌寒い気もして・・・
春に見事な花を咲かせた桜達は、次の春にまた綺麗な花を咲かせるためにその葉を舞い躍らせる、
吹きつける秋風が僕の辛い記憶を・・・・
「なに黄昏てるの?皆行っちゃったよ?」
夏焼が俺の視界にひょこっと顔を出す、

「何だよ〜今いいトコだったのに〜」
「あっ、もしかして・・・今愛理の事考えてたんでしょ〜」 
「なっ、違うよ!」
「もぉ、だ〜か〜ら〜、雅ちゃんにはな・・・」
「何でもお見通し♪・・・だよな・・・ずっと一緒にいたんだから」
「う、うん・・・何?急に・・・」
夏焼の頬が少しだけ赤らむ、
「あのさ・・・夏焼・・・えっと・・・その〜何て言うか・・・こ、これ・・・これか・・」
顔を赤くした夏焼が不思議そうに俺をじっと見つめる、
「だから〜・・・あの〜・・こ、こ、これ・・・・・・うんっ!何でもないっ、行こうぜっ!」
「あっ!ちょっと何〜気になるよ〜」
「ほら皆もう行っちゃってるじゃん」
「ちょっと・・・待ってよ〜」

・・・・これからも・・・これからもずっと一緒だよな?夏焼・・・・


                            『アメリカ』  〜おわり〜