【僕に舞い降りた天使】
『ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・』
閑静な住宅街、
立派な一軒家にチャイムの音が鳴り響く、
「すいませ〜ん、どなたかいらっしゃいませんかぁ〜」
門の中を覗き込みながら一人の少女が声を張り上げる。
「もう、困ったなぁ・・・すいませ〜〜〜ん!!」
その少女は携帯電話を取り出した。
「あっ、もしもしぃ、あの〜今居ないみたいなんですけど・・・・・・・・・・えぇ〜!そんな事言われてもぉ・・・・・・・・・はぁ・・・・はい、わかりました・・・・失礼しまぁす」
携帯を切ると困った様子でその場に立ち尽くす少女、
その目の前を重そうな荷物を背負い込んだ老婆が通りすぎようとしている。
「あ、あの〜荷物お持ちしましょうか?」
「あら・・・そうかい?お願いしてもいいかい?腰が痛くて・・・悪いねぇ・・」
「いえいえ」
老婆が荷物を少女に渡す・・・・が、
『ゴツッ!!』
あまりに荷物が重いのでバランスを崩し、少女は電柱に頭をぶつけてしまった。
「痛〜い!!」
「あらあら、大丈夫かい?やっぱりそんな小さい体でコレは持てないわねぇ」
「ち、小さいっ・・・・いえっ、大丈夫です!持てます!持たせてください!!」
「そ、そうかい、悪いわねぇ〜」
どうやら「小さい体」という言葉が少女の闘志に火をつけたらしい。
「小学生かい?この辺の子かい?」
「いえ〜私は・・その、ちょっと遠くから来まして・・・」
「あら〜大変ねぇ〜・・・・・・・・
「なぁ、ココの答え何??」
「・・・自分で考えて」
「ちぇっ!何だよ!せっかく話し掛けてやったのに!!もういいよ!!」
「・・・・・・・(話し掛けてくれなくて結構だよ)」
聞いてきた奴は他に答えを聞きに行ってしまった。
「アイツちょっと頭良いからって調子に乗りやがって、だいたいさ・・・・」
「がり勉野郎が・・・・」
「・・・タロウのくせに・・・・」
さっきの奴が他の奴と俺の話をしてるのが聞こえてくる、
まぁ大して気にはならない、だいたいいつもこんなもんだし。
僕の名前は中島タロウ、
ぶっちゃけ僕には友達がいない、特に必要だとも思ってないし、
学校はただ勉強をしに来るトコ・・・と言っても塾ではもう中二ぐらいのレベルまで進んでいるから小学六年生の授業なんて僕には必要ないんだけど。
楽しい事、嬉しい事、悲しい事・・・そんなモノは僕の日常には存在しない、
だからどうしたって?・・・ただそれだけの事、別にそーゆー事を求めてる訳じゃないさ。
「タロウく〜ん、お勉強ばっかしてると頭がパンクしちゃいますよぉ〜??」
(この特徴のある声は・・・)
「僕に話しかけると嗣永まで仲間外れにされるよ?」
「えへへ〜私はクラスの人気者だから大丈夫だよっ♪」
「・・・(自分で言うなよ)」
確かに、嗣永桃子は元気で明るくて、クラスの人気者、
だけど、休み時間勉強してると、いつも邪魔してくるので、僕にとっては正直うざったい存在。
「・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・どっか行ってくんない?勉強に集中できないから」
「休み時間なんだから外出て遊ぼうよぉ〜」
「やだよ」
嗣永は僕の腕を両手で掴んで引っ張ってきたので、
僕は空いてる方の手で嗣永の手を振り払った、
「あ〜もう〜せっかく一緒に遊んであげようと思ったのにぃ、えいっ!」
「あっ、何すんだよ!返せよ!」
僕が握っていた鉛筆を嗣永が奪ってきた、
「ふふふっ、返して欲しかったらココまでおいで〜♪」
「早く返せって!」
「きゃ〜〜〜!タロウ君が怒ったぁ〜〜〜〜♪」
僕が立ち上がりながら少し強めに言うと、
嗣永は僕の鉛筆を持ったまま、嬉しそうにはしゃぎながら教室を走って出て行ってしまった、
「・・・・・」残された僕は無言で席に着き、筆箱から鉛筆を取り出し勉強を再開する、
数秒後・・・
「ちょっとぉ・・・何で追っかけて来ないのぉ!?」
少し息を切らした嗣永が戻ってきた、
「別にー、鉛筆他にもあるし・・・持ってきたいんなら持ってけば?」
「あぁ〜もう貰っちゃうからねっ?ホントに持ってっちゃうからねっ?」
「好きにして」
「・・・ふんっ」
顔をプクっと膨らましながら嗣永は教室を出て行った。
たった一人教室に残り黙々と鉛筆を走らせる僕、
開かれた窓の外から、校庭で遊ぶ生徒達の明るく楽しそうな声がガヤガヤと聞こえてくる・・・
「うるさいなぁ・・・」
そう呟き、窓を閉めに行く、
閉めようと窓に手を掛けた時、ふと校庭で遊ぶ嗣永の姿が目に止まる。
数人の女子と大勢の男子に囲まれ、楽しそうに走り回ってる嗣永、
「・・・・・・」
『ガラガラ!!!!』
勢いよく窓を閉めると静寂に包まれる教室、僕は席に着いてまた勉強を再開した。
学校に来て誰とも遊ばずに、勉強し続ける、
毎日その繰り返し・・・・・ただそれだけの事・・・・・・友達なんか・・いらないんだ・・・
学校が終わると僕はいつものように一人で下校した。
「ただいま〜」
「あっお兄ちゃんおかえり〜」
玄関に入ると、妹の早貴がぶかぶかのエプロン姿で駆け寄って来た、
「何でエプロンなんか着てんの?」
「今ね洗い物してたの♪」
「洗い物・・・あぁ父さんまたしないで仕事行っちゃったのか」
「うん、偉い?私偉いでしょ??」
早貴がその場でピョコピョコと飛び跳ねて聞いてくるので、
「あぁ偉い偉い」と俺は適当に褒めて自分の部屋に入ろうとした、
「お兄ちゃん!今日ね!学校でね・・・」
「えっと、ごめん早貴、俺塾あるから・・・帰ってきたら聞くよ」
「あっ・・・うん・・・ごめんなさい・・・」
エプロンのお腹ら辺をギュっと握り締めションボリする早貴、
そんないつものやりとりをしていると、
『ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・』
(・・・ん?誰だ?)
僕はインターホンをとった、
「どちら様ですか?」
「あっ!中島タロウ君ですか!?」
若い女の人の声だ、女の人というより女の子の声かな?
「はい、そうですけど・・・」
「私・・・えっと・・・・・・天使です!」
「・・・・・はぁぁ?」
「え〜あなたのことを救いに〜・・・」
「あっ宗教の勧誘ならお断りします」
「いや勧誘じゃな・・・」
『ガチャ』
僕はインターホンを切ると、
(最近多いんだよなぁ、こういう勧誘)などと思いながら自分の部屋に入ろうとした・・・が、
『ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・ピーンポーン』
「・・・・・、・・はい?」
「あの〜宗教とかじゃなくて、私はその〜タロウ君に・・・・」
「だから〜!結構です!!」
「ちょっとお話しだけでも聞っ・・・・」
『ガチャ!』
(しつこいなぁ・・・もう)
『ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・ピーンポーン・・・ピーンポーン』
(何だよ!!!)
「帰ってください!!しつこいと警察呼びますよ!!!!」
「ぁっ・・・えっと・・・たっ、宅急便で〜す・・・」
「・・・・・・」声質は変えてるけど明らかに同じ人だ、
『ガチャ!!!』
「どうしたの?誰?」
勢いよくインターホンを切った僕に、早貴が寄ってきた、
「あぁ、何か変な勧誘だよ」
「ふ〜んお兄ちゃん・・・今日も・・・遅いよね?」早貴が少し悲しそうな顔で聞いてくる、
「なるべく早めに帰ってくるから」
「うん・・・・・」顔を俯かせる早貴、
僕が塾の日は早貴が一人で留守番をしなければならない、
早貴は小学四年生、昔からこんな感じの生活だから歳のわりにはしっかりした子だけど、
やっぱまだまだ誰かに甘えたい年頃なんだろうな・・・・
僕は自分の部屋で塾の準備を済ませると、早貴に見送られながら家を出た。
「中島タロウ君?」
家の門を出て歩き始めた時、不意に誰かに呼び止められた、
振り返ると、そこには一人のちっこい女の子がニコっと微笑んでいる・・・てゆーか誰だ??
「もぉ〜やっと会えた〜」女の子が『はぁ〜』と大きくため息をつく・・・んこの声!?
「君もしかしてさっきの・・・勧誘の人!?」
こんな女の子が勧誘?僕と同い年くらいか、下手したら年下だ、
「だから〜宗教とかの勧誘じゃありません」彼女は眉間にしわを寄せ否定する、
「じゃあ何なんですか!?」
「天使です♪」
「・・・・・・・」
意味が分からなかった、この見ず知らずの女の子は何が目的でこんな嘘をついているんだろうか・・・
「あの、勧誘じゃないんなら何が目的なんですか?」僕は疑いの目で彼女を睨んだ、
「私こういう者です」
彼女は名刺の様な紙を一枚僕に差し出した、
『天使☆清水佐紀』
その紙にはそうとだけ書かれている、何なんだよ・・・一体。
僕は無言でこの『自称天使』に視線を移す、
彼女はニコニコと笑みを浮かべながら、僕を見つめている、
もちろん見た目は至って普通の女の子・・・背がちっこいから年下に見えるけど、話口調からすると年上のような気がする、服装だって普通の『ちょっとオシャレな小学生』って感じ、背中に羽が生えてる訳でもないし、だいたい天使なんか存在するわけないじゃんか!
「・・・えっと僕急ぐんで・・・さようなら」
「ちょっ、ちょっと待ってよ・・・タローく〜ん」
あまり関わりたくないので、僕が逃げるように歩き出そうとすると、彼女が腕を掴んできた。
「天使なんて存在するはず無いじゃんか、『非現実的』だよ、そんなの『非現実的』だよ!離してください!!非現実的!!」
「きゃっ」
僕が強めに腕を振り払うと、軽そうな彼女がバランスを崩し1メートル程先にしりもちを着いた。
「あっ・・・・(しまった)」
「いった〜い」彼女はお尻を摩っている、
「うぅ・・・君が悪いんだからね!『非現実的』なんだよ!」僕は再び歩きだそうとする
「あっ・・・・・・・と、友達が一人も居ない中島タロウ君!」
「・・・・!」
その言葉に反応して足を止めてしまう僕、彼女はいつの間にかメモ帳の様なもの開いていた、
「友達が一人も居ない中島タロウ君・・・小学6年生・・・成績は学年トップ・・・運動は苦手・・・
父親、妹と三人暮らし・・・母親は現在小学4年生の妹、早貴ちゃんを生んですぐ他界・・・」
彼女はそのメモ帳に書かれているであろう僕のプロフィールをスラスラと読み上げている、
「・・・学校では孤立している・・・休み時間は・・・」
「う、嘘だ!!僕には友達いっぱいいるんだぞ!僕はクラスの人気者なんだ!!!」
僕の目にはいつのまにか涙が溢れていた、
「・・・・」彼女は口を止め僕を悲しそうな目でジッと見つめる、
「非現実的女!!」
僕は涙を拭いながらそう叫びその場から走りだした・・・・彼女は追って来ない。
残された『自称天使』の清水は「ふぅ」とため息を一回つくと、ペンを取り出し、
そのペンでメモ帳に書かれた僕のプロフィールの一番下に「性格に問題がある」と書いた、
しかし・・・暫く考え込んだ後、その横に「(改善の余地あり)」と書き足した。
塾から帰るとさすがにアイツは居なかった、
今まで人前で泣いた事なんか無かったのに・・・あの時僕は泣いてしまった、
『友達が一人もいない・・・、学校では孤立している・・・』
その言葉達が、壊れたカセットテープの様に僕の頭の中で何度も何度もリピートされていた、
次の日の学校・・・
授業中、いつもならとりあえずノートは取っているけど、今日はそんな気力は無かった、
昨日からの心のモヤモヤは大きくなるばかりだ。
「ぉぃ・・・おい!中島!!」ボーっとしていた俺の頭に先生の声が響く、
「・・・はい?」
「はい?じゃないだろう!次の3番の答えは何だ?と聞いているんだ!」
「あ、あぁ・・・えっと・・・3番・・・3番?」
「全く何をボーっとしとるんだ!!」
「・・・すいません」頭を下げる僕、
「はははっ、だっせぇ」 「ざまぁみろ」 「だからタローなんだよっ」
教室中から「クスクス」と笑い声が聞こえてくる、優等生の僕が怒られるのが可笑しいんだろう、
「まったく!中島は・・・」
「せんせぇ〜3番の答えは『時々、足をつるから』で〜〜す♪」
先生の説教を遮ったのは嗣永だった、
「あっ・・・あぁ・・・正解だ・・・、中島、ちゃんと聞いときなさい」
「・・・はい」
先生の怒りは治まっていない様だったが、嗣永の小悪魔的な満面の笑みに無理矢理納得させられたっぽい。
ちょうどここでチャイムが鳴り授業が終わった。
「タロ〜ちょっと来なさ〜い」
塾が無いので部屋でゆっくりしていると父さんが読んできた、
リビングに行くとソファーに早貴がチョコンと座っている、早貴も呼ばれたんだろう、
「タロウ最近どうだ?学校は」僕が座ると父さんが聞いてきた、
「あぁ・・・楽しいよ」嘘だ、楽しいなんて思った事無いくせに、
「そうか、実は父さんな・・・来週から主張で北海道に3週間程行かなきゃならなくなったんだ」
「え〜〜〜〜!」早貴と僕が声を揃えて驚く、
父さんの出張は前からちょくちょくあったけど、だいたい2、3日だ、3週間って・・・・
「まぁまぁ落ち着け、タロウももう6年生だし早貴もしっかりしているから大丈夫だろ・・・」
「嫌、俺塾あるし・・・」「私お料理できないよ〜」と反論する僕と早貴、
「ははははっ最後まで聞きなさい、大丈夫だろう・・・と思ったんだけどな、やっぱり3週間は長すぎる・・・・そこでだ!!父さん決めた・・・・住み込みのお手伝いさんを雇う事にした!!!!」
もし漫画だったらバックに『ドドーーーーーン!!』と書かれてそうな勢いで父さんが言う、
「え〜〜〜〜!!!!」再び早貴と僕が声を揃えて驚く・・・でも早貴は少し嬉しそうな顔だ、まぁ俺も特に反対という訳ではないけど、
「お手伝いさんかぁ・・・」早貴が笑顔で呟く、
「でも大丈夫かよ?今時お手伝いさんなんて・・・しかも住み込み・・・信用できるの?」
「ダイジョーーーブ!その点は大丈夫だ、父さんの会社の社長さんに紹介して貰える事になっているから、それに金と部屋ならいくらでも余っいるからな!はっはっはっは!はーはっはっはっは!」
父さんの馬鹿っぽい高笑いが部屋中に響き渡る、
はぁ・・・・お気楽というか何というか、同じ血が繋がった人間とは思えないよ・・・
「さっそく明日から来てくれるから、タロウ・・・早貴・・・・・・・・楽しみにしとけよ!!!」
父さんは何故かガッツポーズを決めて満足している、
「うん♪」早貴も嬉しそうに両手でガッツポーズをして返す、
僕・・・家でも浮いてるのかなぁ・・・・・