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小さな勇気

1 名前:名無しさん 投稿日:05/03/10(木) 05:08:28

「ねぇ・・・、いつまで寝ているのかなぁ・・・」
「う・・・ん・・・もう・・・ちょ・・・っと・・・」
「学校に遅れるでしょー!」
オレは、渋々起きた。

「て、ゆーかぁ!何でわたしが起こしに来ないといけないかぁ・・・」
朝が弱いオレを毎日起こしに来てくれているのは
隣の家に住んでいる舞波だ。
オレは小学2年の時に北海道から転校してきた。
その時からずっと家族ぐるみでのお付き合いがあるのだが
舞波は、学校があるときは必ずこうやって起こしに来てくれる。
「ごっめぇん。いつも感謝していますって。」
「わたしだって夕べは夜の10時過ぎまで新曲のダンス練習をしてたんだから、
ホントはもっと寝ていたいんだからね!」

そう・・・舞波は、去年、所属しているハロプロキッズから
Berryz工房のスタメンに選ばれてデビューしたのだった・・・。

学校までの30分の間に舞波は、モー娘。のことやダンス練習での出来事や
メンバーの裏話を楽しそうに話してくれる。
決して話し上手なコじゃないんだけどオレはいつもこの話を楽しみにしてるんだ。

「ねぇ、今度の新曲イベにも来てくれるんだよね?」
「え?いつ?」
「夏ごろになるかなぁ?」
「夏休み中なら行くよ。またクラスのみんなで応援に行く!」
「ホント!嬉しい♪」
「今度は笑いすぎるなよ(笑)」
「わかってるって」

前回のイベの握手会のときクラス中で見にいって
オレ達をみつけた舞波の笑いが止まらなくなるという珍事を起こしてしまった。

5時間目・・・

「今日は、ハロモニのロケがあるから早退するね」
「そうなの?頑張って。」
「アキナちゃんも部活頑張って!」
「うん・・・って、アキナちゃんって呼ぶなって!」
「アハハ。じゃっねぃ♪」

「舞波ちゃんとアキナちゃんって双子みたいだね」
「身長も同じくらいだし女の子みたいな顔してるし・・・
それに、名前が女の子だし。ね、アキナちゃん(爆)」
さっそく女子がからかいにくる。

・・・『アキナ』という名前はオレにとってはコンプレックスだ。
オレが産まれる直前に父親が海外に単身赴任になったため
男か女かを確認せずにつけられた名前らしい。
名前のとおり見た目も女の子っぽく育ちましたよ。
女顔も嫌なんだよ!

「うるさいな!『ちゃん』づけはやめろって!それに顔のことも・・・」
「えええ!かわいい顔してるって誉めてあげたのにぃ!」
「誉めてない!」
「誉めてるの」

ジリリリリリリリリリリリ!!!!!

言い争いを遮るかのように6時間目のチャイムが鳴った。
この時間だけ真面目にノートとらなきゃ・・・
舞波がいないときはオレがノートをちゃんととっておくことになっている(らしい)

放課後には部活がある。
転校生であるオレには友達を作るいい機会だと思って始めたサッカーだ。
決して強いチームじゃない。
今年に入って8試合で3勝4敗1引き分けと微妙に負け越している。
部員数も17人しかいなくてオレ達が卒業すると部員数が確保出来ないということで
来年から隣の小学校のチームと合併するらしい。
ようするに・・・今年の夏の大会で負けると、このチームも解散っていうわけ・・・

1回戦でいきなり負けたくはないな・・・
口には出さないけど、みんながそう思って練習していた。

それにしても東京の5月って北海道と比べると暑いよな・・・

「ねね、今度の土曜日練習試合なんだって?」
「どっからそんな情報を・・・舞波の情報って早いね」
「舞波情報は早いのです♪」

と、舞波は得意げな顔をしている。
こういうときの舞波の顔ってなんか好きだな・・・

「桃ちゃんが観に行きたいって。」
「!」
「桃ちゃんとみやぁが、サッカー観たいって言ってたの。
土曜日、オフだから観に行こうかなぁって」
「マジで!? 桃ちゃんってあの桃ちゃんだよね?」
「そうです。アキナちゃんが、だぁ〜い好きって言ってた桃ちゃんです。」

オレ、もうはや浮き足立ってるんだけどぉ・・・

実は、1度だけ嗣永桃子に会ったことがある。
舞波の両親にドライブ兼ねて舞波を迎えに行くのに誘われたときにスタジオから
舞波と桃ちゃんが一緒に出てきた。
そのまま一緒に食事をすることに・・・
そのときの印象は中学生だけあってお姉さんだなぁって感じだった。
「男の子ならもっと食べなきゃね」とか言って
とり皿に料理を盛ってくれたり
緊張しているオレにいろいろと気をつかってくれたりした。
それ以来、桃ちゃんのファンになった・・・というか、好きなんですけど・・・

「ね、オレのことって覚えてくれているの?」
「あ、なんか、桃ちゃんって言ったら随分食いつくね」
「え、あ、い・・いあやぁ・・・」
「覚えてるよ。あの少女漫画に出てきそうな
かわいい顔した男の子だよねって言ってたから」
「マっジでぇ〜♪」
「あ〜。わたしが『かわいい』とか言ったら怒るクセに
桃ちゃんが言ったら怒らないんだぁ」
「いいの、いいの♪」

その日の午後も舞波は仕事で早退した。

オレのテンションは土曜日に向けて右上がりになっていた。

対戦チームは、昨年の秋の新人戦でベスト8に入った
実力的にはちょっと上のチーム。
1ヵ月後に迫った都大会に向けての調整にはちょうどいいチームに思えた。

金曜日の朝

いつもどおりに起こしに来てくれた舞波と学校へ・・・

・・・舞波、疲れているのかな?いつもと感じが違う・・・
いつもは、夕べのメンバーことや『娘。ドキュメント』のことを話してくれるのに・・・

雰囲気に耐え切れずにオレの方から別件の話を振った。
(なんとなくこの話題に触れちゃいけないと感じたから)
「オレさ、今度の土曜日はスタメン決定だから」
「・・・そうなの?また、なんだかんだいってベンチに座ってるとかない?」
「そんなことないさ。いつもは監督が守備重視でいくからFWのオレが・・・」

「まい・・・は?・・・」

「用事思い出したから先に行くね」

舞波は、走って行ってしまった・・・
今・・・オレの目には、舞波が泣いていたように見えた・・・

「あとで、メールするから」
と言い残して今日も舞波は早退した。

今朝のことが忘れられず、もやもやしながら帰宅した。
携帯から『あなたなしでは生きてゆけない』の着信音が鳴る。
舞波が勝手に人の携帯でDLして設定した着信音だ。
「部活は終わったかな?^^
わたしは、今休憩中だよ。りぃちゃんとパン食べてる^^」
写メつきのメールが来た。
あっけらかんとしたメールと菅谷梨沙子との変顔の写メで
さっきまでのもやもやが、一気に晴れてしまった。
「明日は、桃ちゃんとみやぁとりぃちゃんも行くって。
観客が増えてよかったですねー^^だから、ちゃんと試合に出てね」
「はいはい・・・こっちはスタメン決定ですから、どうぞご心配なく。」

今日は、明日に備えて早く寝た。
舞波は、まだ帰ってきていないようだ・・・

興奮しているせいかもう目が覚めてしまった。
時計を見ると午前4時32分・・・
試合開始時間まで6時間近くもある。

ランニングでもしてくるかな・・・
6月近い東京の朝でもちょっと肌寒く感じた。
今日の試合のイメージトレーニングをしながら近所を散歩した。
・・・桃ちゃん達が観に来るんだよな・・・

活躍できたらいいなぁ・・・

軽いランニングを終えて自宅に戻ってきた。
「朝帰りなんてまだ早いんじゃない?」
物陰からいたずらっぽい笑みを浮かべた舞波が現れた。
「あ、おはよ・・・つーか、朝早くね?」
「そろそろ戻ってくる頃だと思ってポカリ持って待ってたの」
「あ、サンキュ!」
「もぉ〜、いつもこのぐらいの勢いで起きてくれたらいいのに!」
「そ、それはな・・・」
「ホラ!あんまり飲みすぎると試合で走れなくなるぞ」
「はいはい・・・」
「桃ちゃん来るからって調子に乗りすぎて怪我なんてしないでよ」
夕べは遅かったのかな?・・・目の下のクマが気になった・・・

早起きのおかげでグラウンドには珍しくオレが一番に着いた。
10時半からのキックオフに備えて軽い調整と
作戦の打ち合わせが始まった。

「・・・あそこにいる女の子って・・・テレビで見たことある・・・」
誰かが大きな声で言った。

振り向くとフェンス越しに茶パツの夏焼雅と
雅に抱きつくような感じで立っている菅谷梨沙子
そして、小柄でかわいい嗣永桃子
付き添うような形で舞波がいた。

ホ、ホントに来たんだ・・・

来るとわかっていても実際にこんなところで見ると不思議な感じだ・・・。
気がついた人たちが騒ぎ始めている。

練習の合間を見計らってオレは彼女達に近づいて話し掛けた。
「こんにちは。マジで観に来たんだ。」
「あー!いきなり桃ちゃんに話し掛けてるぅー」
舞波が口を尖らせながら不満ありげに言った。
「いいじゃない♪お久しぶりだね。相変わらずかわいい顔して・・・ウフ♪」
「あ、いや、どうも」
なんか顔が赤くなっちゃうよ。
「桃ちゃん知り合いなの?」
梨沙子ちゃんがマジマジとみつめながら言う。
「来る時電車の中で桃ちゃんが説明してくれたでしょー」
もぉ〜という顔で雅ちゃんが梨沙子ちゃんに話し掛ける。
「あ、今日は、日差しが強そうだから・・・」
とオレが言いかけると
「日焼けに注意してね、だって。普段そんなこと言わないくせに(笑)」
舞波が遮るように続きを言った。

「アキナー!!ミーティング始まるぞぉ!」
「あ、ごめん。呼ばれたから・・・じゃあ、あとで・・・」
「アキナちゃん。桃子に1点プレゼントして♪」

突然の桃ちゃんからの申し出にオレは引きつった笑顔で答えるしかなかった。

間近で見ると梨沙子ちゃんや雅ちゃんもかわいいなぁ・・・
でも、やっぱ桃ちゃんかなぁ・・・

今日の作戦は、とにかくサイドをえぐれとのことで
オレに活躍の場がたくさんありそうだ。
約束の1点が取れるだろうか・・・

そして試合が始まった。

前半20分
ルーズボールが右サイドに流れる。
それをキープしたのはうちのチームだ。
左サイドにポッカリとスペースが開いた。味方からロングが飛んでくる。
オレはフリーでボールを受ける。
味方に合わせてセンタリングを上げるも
相手GKがパンチングで危機を回避する。

前半終了間際
中盤でパスカットされそのまま攻め込まれる。
GKと1対1になるが相手のシュートが枠を外れて
そのまま前半を終える。

前半は、お互いに見せ場もなく一進一退の攻防で終始した。

ハーフタイム中

「アキナー!しっかりしろぉー!!」

その声に振り向くと舞波がメガホンで叫んでいた。
「桃ちゃんが観てるぞー!」

ちょっちょっと・・・なんかヘンな汗が出るんですけど・・・

後半開始早々
ペナルティエリア5m手前でフリーキックのピンチ。
直接とみせかけたフェイントを入れたキックは
そのままゴールの中へ・・・失点。

先制点だけは許すなというミーティングでの話だったが
簡単に許してしまった。

何気に桃ちゃん達の方を見ると
舞波と桃ちゃんは「やられた〜」という顔をしている。
梨沙子ちゃんは何やら一生懸命に雅ちゃんに話し掛けている。
雅ちゃんは、「うんうん」と話を聞いてあげているように見えた。

まだまだ時間はあるし・・・
オレは自分に言い聞かせるようにして動揺を抑えた。

試合は、一方的に相手のペースになっていった。
オレも、相手の攻め上がりが早くて下がりっぱなしになっていた。
たまに訪れるチャンスもすぐにつぶされてものに出来ないでいた。

0−1

試合終了まであと5分・・・

左にボールが流れる。
スピード勝負には絶対の自信があるオレは
DFのタイミングに合わせて切り返す。
最後のチャンスと感じたオレはそのまま中央に切り込み賭けに出た。
そのままシュートに持って行くつもりだった。
しかし、相手は中央を固めてシュートコースどころか
ゴールすら視界から消されていた。
しかし、右サイドに穴が開いている・・・そこにボールを流した。
右サイドをフリーで上がってきたうちのDFがロングシュート。
相手GK手前でバウンドしたシュートは
伸ばした手をかするようにゴールに突き刺さった。

1−1
土壇場で同点!!
チームは同点ゴールを決めたDFを祝福している。
でも、なんだかオレは複雑だよ・・・

試合はそのまま同点で終わった。
最後に追いついて負けなかったことはチームの自信になったと思う。
オレはちょっぴり残念だけどね・・・

ベンチに戻る時に、チラッと桃ちゃん達の方を見た。
オレの視線に気がついた桃ちゃんが手を振っている。
ゴールを決められなかったこともあり素直に応えることは出来なかったが
小さく手を振り返した。

試合が終わってオレはなんて言い訳しようか考えながら
彼女達の元へ走った。

「よく走った。偉いぞ。りぃ〜はちゃんと見てたもん!」
もぉ〜って感じで雅ちゃんが梨沙子ちゃんを見ている。
「負けなくて良かったじゃん」
舞波は相変わらずだなぁ・・・ハハ・・・
桃ちゃん・・・?
「1点プレゼントしてって約束したじゃん!」
ぷーって感じで頬っぺたを膨らましている。
「ご、ごめんなさいっ。あの・・・その・・・」
「でも、いっぱいシュート打ってくれたしよく走ってたからやる気を認めて
明日、ご褒美にデートしてあげる♪」
「・・・!」
突然の桃ちゃんのデート発言にオレ達4人は思わず同じ反応をした。
「桃ちゃんは優しいんだからぁ・・・」
呆れた顔で舞波が言った。

あのあと、オレは桃ちゃんから携帯のアドレスのメモをもらった。
帰りの駅で梨沙子ちゃんが
「りぃ〜も一緒にデートについてくぅ」と駄々をこねていたが
雅ちゃんが
「わたしが代わりに、りぃ〜ちゃんとデートしてあげるからぁ」
「ホント?」
「2人だけが嫌ならわたしも行くから」
と舞波との3人で行くことになり
結局、オレは桃ちゃんと2人っきりで・・・

夜、8時頃携帯にメールが届く。
「可愛いコちゃんは、起きてますか??」
桃ちゃんからだ。・・・完全に主導権を握られているな・・・
「あの・・・オレとデートだなんていいんですか?
桃ちゃん、アイドルじゃないですか?」
デートに誘われてちょっと有頂天になってはいたが
相手は、年上だし売り出し中のアイドルだし・・・
不安になったので素直に聞いてみた。
「わたしのこと気にしてくれるんだぁ。うれしい♪
でも、わたしも一人の女の子だから
アイドルだとか年上だとかは気にしないよ。
だから、明日デートしよっ!」

押し切られる形で日曜日は、桃ちゃんとナンジャタウンに行くことになった。

朝、起きると部屋に舞波がいた。
「あ、あのさぁ、いるなら何か言ってよね」
「はいはい。せっかく池袋まで案内してあげようっていうのにさ。」
「あう・・・なんで池袋って知ってるの?」
「わたしと桃ちゃんは、仲良しなんだからぁ。
夕べ桃ちゃんからメールが来たの。
そしたら、ナンジャタウンでデートっていうから
きっと、アキナのことだから池袋までの行き方知らないだろうと思って」
「ま、まさしくその通りでございます・・・(汗)」
「いくつになったら山手線くらいひとりで乗れるようになるのかしらぁ〜〜?」
「そのうち乗れるようになるって・・・ハハ・・・」
舞波のズバリな答えに乾いた笑いしかこみ上げてこなかった・・・

「このまま、乗ってたら池袋に着くから放送ちゃんと聞いてるんだよ」
「舞波は、ここまで?」
「わたしは、りぃ〜ちゃんとみやぁと竹下通りに行くから原宿まで」
「あ〜なるほどね。」
「・・・アキナ、あんまり土地感わかってないでしょ?」
「えへへ・・・バレた?」
「バレバレだから(笑)」

電車に乗っている間、オレはいつでもおとといの朝の涙のことを聞けたハズだった。
でも、舞波はそれを知ってか知らずか
昨日の試合の最中の彼女達の話をずっとしていた。
梨沙子ちゃんは、試合が始まってから
しばらく間違って相手のチームを応援していたとか
雅ちゃんは、みんなにジュースを買って来てくれたとか
桃ちゃんは、食い入るように観ていて顔にフェンスの痕がついていたとか
楽しそうに話ししていた。

舞波・・・元気じゃん・・・

池袋に着いた。
さてと・・・桃ちゃんに連絡するか・・・。

ポンッ

「?」

不意に背後から頭を小突かれた。
振り向くとそこには髪を下ろした桃ちゃんがいた。
すそにシャギーの入った髪がちょっと大人びて見えて・・・
昨日の桃ちゃんより全然大きく見えた。

「おはよっ♪」
「あ、今電話しようかと・・・」
「フフ♪アキナちゃんが何号車に乗ってるかは
舞波ちゃんから連絡済みだよ。
山手線もひとりじゃ危ないって言ってたからホームで待ってた」

舞波・・・

「お腹は空いてない?朝食べないで来たから桃子はお腹が空いちゃった」
「あ、オレも少し空いたか・・・な?」
「ホレホレ♪男の子だったらもっと元気よく喋る!」
「ハ、ハイ!」

「ねぇ・・・そんなに駅が珍しいの?」
「い、いや・・・なんだかおっきくて・・・人がいっぱいいて・・・」
「札幌駅ならこれぐらいあるでしょ?」
「オレ、もっと小さな町から転校してきたから・・・
それに札幌駅なんて覚えてないし・・・」
「そんなにキョロキョロしてたら誘拐されちゃうよ。
女の子みたいな顔してるんだから・・・ウフ♪」
と言って桃ちゃんはオレの手をつかんで歩き始めた。

みんなにはどう映っているのだろう・・・
アイドルと普通の小学生が手をつないで歩いている姿が・・・
気にするなと言われても・・・ねぇ・・・

舞波達はちゃんと会えたのかな・・・

途中、マックでチーズバーガーを食べて
シェイクを飲みながらサンシャインに向かった。
マックでは、桃ちゃんがダンスレッスンの話や学校での話、
コンサートでの失敗談なんかで笑わせてくれた。

冷たいシェイクが緊張を少しずつほぐしてくれていた。
シェイクの飲み比べをしたり
オレの長い髪を桃ちゃんがふざけて結っちゃったり
その姿を携帯で撮ったりしてサンシャインシティにつく頃には
普通のカップルに見えていたかも。

・・・サンシャインビル・・・
遠くからでも見えていたけど近くで見るとホントでかぁい・・・

「なんか、そういう反応する人って新鮮(笑)
ホントにアキナちゃんは可愛いんだからぁ♪」
「からかうのやめてよぉ(笑)」
オレ・・・顔真っ赤になってるし・・・

気がつけばオレ達はずっと手をつないでいた。

お昼を食べるのも忘れて遊んでいた。

「楽しすぎてお昼も忘れちゃったね♪」
「うん。お昼食べます?」
「何が食べたい?」
「ん〜・・・アイスクリーム」
「アキナちゃん!それは、ご飯じゃないでしょぉ〜」
「だってもう3時だからおやつの時間だよ」
「こらぁ!お姉さんに口答えしたなぁ」
桃ちゃんは笑いながらオレの頬っぺたを軽くつねった。

遅めのお昼を食べているとき
ふと舞波が気になって何気に携帯を見た・・・
「舞波ちゃんのことが気になっているのかなぁ?」
桃ちゃんにズバッと心を見抜かれて口篭もっているオレに
「あぁ〜、やっぱり図星だぁ。女の子を前にして別な女の子のことを
考えてるなんてサイテー」
「い、いや、違うったら。これは、その・・・あの・・・」
「うそうそ(笑)ちょっといじめただけ。そんなに動揺しないでよ(笑)」

ふと桃ちゃんが真顔になって尋ねてきた。
「アキナちゃんはぁ、舞波ちゃんのことをどう思ってるの?」
「・・・どう・・・って?」
「だからぁ、どういう子に見えているのかなぁって」
「舞波は・・・・・・」
突然の質問にすぐに答えることが出来なかった・・・

オレは記憶を辿って話始めた。

「小2の時にオレが舞波の家の隣に引っ越してきて・・・
引っ越した初日から近所を案内してくれたり・・・
一緒に学校に通ったり、プールに行ったり遊んだり・・・・・・あ!」

そう・・・オレは、重要なことを想い出した。

「オレは転校生だったからいじめられてたんだ・・・。
女の子みたいだってからかわれたり・・・田舎者よばりされたり・・・」

桃ちゃんは、うんうんとうなづきながら
オレのたどたどしい話を聞いている。

「いつだったか・・・舞波は、今は同じクラスだけど
そん時は隣のクラスだったのに
どこでウワサを聞きつけたのかオレのクラスに飛び込んできて
オレをいじめてるヤツを突き倒したんだ・・・
舞波・・・自分で突き倒したくせに・・・
怖かったんだろうなぁ・・・その場で泣いちゃって・・・」

「どうなっちゃったの?」
「人がいっぱい集まって来ちゃって
どうしていいのか困っちゃってオレが、『見るなぁ〜〜〜!!』って
・・・舞波は・・・普段おとなしくて
あんま喋んないし・・・でも、ホントはすごくやさしくて・・・
でも、自分を表現するのが下手だから・・・でも・・・でも・・・」

桃ちゃんは確信を得たという表情で
「・・・キミ達は、もしかしたら・・・」
「え?」
「ウフフ♪」

桃ちゃんは何かに気がついているらしい。

「舞波ちゃんは、いつもダンス練習の
休憩時間になるとアキナちゃんのことを話してるよ。
今日も朝起こしに行ったとか・・・試合で点数入れたとか・・・
犬に噛まれて泣いてたとか・・・」
「犬に・・・いらんことまで・・・(汗)」
「舞波ちゃんね、アキナちゃんのことを話してるときが
一番楽しそうな表情してるの。いつもいっぱいいっぱいな顔してるけど(笑)」

「前に一度、ご飯を食べたことがあったでしょ?
実は、桃子がアキナちゃんがどういうコなのか興味があって
ちょっと無理やりに着いて行っちゃったんだぁ・・・」
「え?どういうこと?」
「あの舞波ちゃんが、楽しそうに語る男の子ってどんなコなのかなぁって」
「・・・・・・」
桃ちゃんは、また真面目な表情に戻って話を続けた。
「舞波ちゃんが、キッズに応募したホントの理由があるの・・・」
「ホントの・・・理由・・・?」
「モーニング娘。に入りたかったわけじゃないの。
もっと、切なる想いがその理由なの・・・」

舞波が、キッズに応募したホントの・・・理由・・・

・・・ホントの理由・・・

桃ちゃんは話を続けた

「アキナちゃん、サッカー始めたでしょ?」
「うん」
「ある日、舞波ちゃん・・・練習を見てたんだって。
そこには、背の高い上級生に混ざって必死にボールを追いかけている
アキナちゃんの姿があった。つい、この間までクラスでいじめられていて
おとなしかったアキナちゃんが、ものすごく活き活きとしてたんだって。」
「あぁ・・・オレ、昔から足だけは速かったし・・・それだけだけど・・・」
「でも、いつのまにかいじめを克服して今や
この間の試合のように長髪なびかせて走るだけで
みんなに注目される存在になった・・・」
「確かにいつのまにかいじめられなくなったよ・・・」

「舞波ちゃん言ってたよ。アキナちゃんは、『ボールがラインを越えるまで
絶対に途中で諦めたりしない。サッカーで足の速さと諦めないところを
自分の個性として表現する場所をみつけた』って。」
「そんな・・・」
「アキナちゃんが輝いて見えるって・・・」
「でも、それと『ホントの理由』ってなにが・・・」

「舞波ちゃん・・・アキナちゃんが段々離れていくような気がしたんじゃないかな・・・
だから、自分も表現できるものを探していた。
その時に、たまたまキッズの応募をみつけて飛び込んだんだよ。」
「・・・そうだったのか・・・だって、今までアイドルになりたいなんて
一度も聞いたことなかったのに・・・キッズに受かったって・・・」

オレは、今まで舞波が・・・同級生がアイドルになったと単純に喜んでいた・・・

「舞波ちゃん、アキナちゃんに負けないように輝こうとしてるの。
輝いて・・・アキナちゃんに振り向いてもらおうとしてる・・・」
「振り向くって・・・」
「まだ桃子の言ってることがわからない?」

オレは、それまでの桃ちゃんに対してのドキドキとは違ったドキドキ感を感じていた。

「だって、オレいつも舞波に起こしてもらったり迷惑ばっか・・・」
「舞波ちゃんは、喜んで起こしに行ってるんだよ。」

オレの言葉を途中で遮って桃ちゃんは話し続けた・・・

「『人気者になっても寝顔を間近で見られるのはわたしだけの特権だから』って」
まい・・・は・・・

月曜日・・・

「ほらぁ・・・もぉ〜、寝坊すけさん。朝だってばぁ。」
「ん?え?」
「学校っ!!」

いつもの1週間が始まった。いつもどおりの起こされ方をして
いつもどおりの通学路を歩いて・・・
舞波は、昨日のことがなかったかのように話し続けている。

変わったのはオレの中で舞波が意識する存在になっていたことだった・・・

放課後の部活で夏の都大会の組み合わせと日程が発表された。
小学生最後の大会・・・そして、勝っても負けてもチームは解散・・・
決勝の日は、8月8日日曜日。
勝ち進んでもこの日が、オレ達の最後の日・・・

この日の夜・・・舞波から見るなと言われていた
『娘。ドキュメント』を初めて見た・・・

「なんで、ぶつかるの?ちゃんとやってきたんでしょ?
ぶつかるのおかしいじゃない!」

いきなりダンスの先生が怒るところから放送された・・・
そして怒られているのは・・・舞波・・・

部屋の隅で足を抱えて座り込む舞波・・・
ふさぎ込む舞波に桃ちゃんが何やら話し掛けている。

――休憩時間になっても
ひとり遅れを取り戻すべく練習に励む石村舞波ちゃん――
ナレーションが流れる・・・

・・・まい・・・は・・・

次の日の『娘。ドキュ』でも舞波が怒られるシーンがあった。

次の日も・・・その次の日も・・・
涙になって必死に追いつこうと舞波はひたすら踊る・・・

『舞波ちゃん、アキナちゃんに負けないように輝こうとしてるの。
輝いて・・・アキナちゃんに振り向いてもらおうとしてる・・・』

舞波は今日もいつもと変わらぬ笑顔で起こしに来る・・・

ある朝、舞波が突然こう言い出した
「今度の夏のイベントは、わたし・・・燃え尽きるまで頑張るから・・・」
まい・・・は・・・?
「小学生最後の夏をサイコーに輝いてみせるの・・・
桃ちゃんよりもみやぁよりも熊井ちゃんよりも・・・誰よりも・・・」

『輝いて・・・振り向いてもらおうとしてる・・・』

オレの大切な人は・・・

「舞波・・・オレ・・・・・・
・・・・・・あれ?」
「ほら!走らないと遅刻するよ!」
「あ、ちょっ、ちょっとぉ〜〜〜」

放課後・・・

「部活頑張ってね。わたしは、補習受けてくるから・・・帰り一緒になるかもね」
「そうなん?補習頑張って。あ・・・」
「あ?」
「・・・終わったら・・・教室で待っててよ・・・」
「・・・うん・・・」

今日一日授業中に考えて・・・考えて決断したんだ・・・
ホンのちょっとの・・・小さな勇気があれば・・・言える・・・

6月に入ってから日差しは長かった。

部活が終わって、約束どおりに舞波の待つ教室に戻った。
教室には初夏の夕日が射していた・・・
オレと舞波・・・ふたりだけの・・・

「帰ろう♪」
「うん・・・待って・・・舞波・・・あの・・・」

何もない教室にしばらく沈黙が流れる・・・

「オレ・・・舞・・・」
「あぁぁ〜〜〜あのね!」
遮るように舞波が喋り始めた・・・
「イベントの日が決まったんだ・・・8月8日・・・15時半から
ラクーアで・・・新曲発表と握手会・・・」
「それ、決勝戦の日と同じじゃん!」
「でも、決勝なんていけないでしょ?」
「・・・いや。いく。決勝までいく。決勝は11時からだもん。
ギリギリ間に合うよ。」
「行けたらいいね・・・」

会話がすぐ途切れる・・・

「・・・オレは・・・舞波が・・・」
「ダメぇ〜〜〜〜〜!!!!」
舞波が耳をふさぎながら叫んだ。

「まだ、ダメなんだもん。全然ダメなんだもん・・・」
「・・・・・・」
「輝いてないの。まだ、わたしは輝いてないの、だから・・・だから・・・」

こんなことってありかよ・・・
オレの気持ちに気づいてるクセに・・・それなのに・・・なんで?

「どうすればいいんだよ・・・」
「・・・・・・」
舞波は泣き崩れていた・・・
オレ・・・情けねぇな・・・
どうにもならなくてあたふたしてるじゃん・・・

舞波が沈黙を破った。
「今のわたしに告白なんてしないで・・・よ・・・」
「え?」
「今のわたしには・・・アキナの想いを受け止めるだけの自信がない・・・」
その言葉を聴いて何か閃いた。
「じゃ、じゃあ・・・8月8日までに勝負だよ。」
「勝負?」
「オレは今度の大会で決勝までいって優勝して輝いてみせる。
舞波は、その日のイベントで最高に輝いてみせる・・・
そしたら・・・もう一度・・・告白させてよ」

オレは、次の日の朝から早朝トレーニングを開始した。

今年の梅雨は早く終わり7月に入ると夏の太陽がギラついていた。

「この1ヶ月1度も起こさなかったの初めてだよ」
「まぁね・・・オレだってその気になれば・・・(今だけですが)」
「ふ〜ん・・・ちょっと寂しかったなぁ」
「え?なに?」
舞波ってたまにボソッって喋るから聞き取れないことがある。
「何でもないよ。いよいよ明日開幕ですか?」
「うん。明日だね・・・舞波はどう?」
「わたしは、順調、順調、OH!順調です♪」
「確かに最近番組で怒られなくなったね」
「・・・あー!!見ちゃダメだって言ったのにぃ〜〜〜」

しまった・・・オレ、アホじゃん・・・
「もぉ〜♪」
でも、何だか舞波も嬉しそう・・・
「明日、オレ試合で学校休むからノート頼むね。」
「もち♪試合頑張るだよぉ」
オレはウインクをしながら『もちろん』という意味を込めて親指を立てて返した

都大会開幕

「ユニフォーム2着よしっ!シンガードも持ったし・・・ソックスもOK。
あとは・・・タオルに・・・」
「はい!ポカリぃ♪」
舞波ぁ・・・
「やっぱり朝はこの部屋に来ないと一日がなんか落ち着かなくて」
「顔赤くしながら言うなよ・・・照れが移るじゃん・・・」
朝からなんだかくすぐったい感じだった。

「アキナ・・・」
「ん?」
舞波がオレにあるものを差し出した。
その小さな手のひらには赤とオレンジの色でキレイに編みこまれたミサンガがあった。
「ちょっと下手だけど・・・作ったの・・・
アキナの好きな赤と舞波の好きなオレンジ・・・」
「舞波・・・つけてよ」
オレは左手首を舞波に出した。
「はい♪勝利のお守りぃ♪」
「ありがとう♪舞波のお守りは?」
「もう一本あるけど・・・」
「オレがつけるよ。誰よりも輝けるように・・・」

オレ達は、順当に勝ち進んだ。
スター選手など不在。日替わりでみんなが活躍した。
『最後の大会』に悔いを残さないように・・・

オレにはもうひとつ、勝たねばならない理由がある。
試合中に疲れて足が動かなくなったときは
左手首のミサンガを見て舞波を想って走った。
『輝きたい・・・』

準決勝前夜・・・
1ヶ月間におよんだトーナメントも
明日の準決勝と来週の決勝を残すだけとなった。
舞波は、一週間後に控えたイベントの追い込みで大変そうだ。
桃ちゃんからのメールも最近ないし・・・

夜の10時過ぎ・・・
携帯から『白いTOKYO』の着音が鳴った。
桃ちゃん?

「よ!このモテ男ぉ〜〜。女の子をふたりも泣かせるなよぉ〜〜」
添付された写メには髪をくくった桃ちゃんと左手首のミサンガを
強調して見せている舞波が肩を組んで写っていた。
桃ちゃん・・・感謝してるよ・・・オレ。
返事を返す前にまた、桃ちゃんからメールが来た。
「明日勝つんだから来週の決勝戦は、桃子も見に行くからね♪」

準決勝の朝

8月に入り関東はますます蒸し暑さを増した。
正直、北海道出身のオレにはこの蒸し暑さがつらい。
サウナの中を全力で走るような感覚ですぐにバテてしまう。
今日の最大の敵はこの蒸し暑さだな・・・

さすがの舞波も夏休みに入ったのと夜遅くまでのリハーサルで
朝は起きてないみたい。
夕べも遅かったみたいだし・・・

学校までチャリで行って貸切のバスに乗り込んだ。
バスの中のエアコンが気持ちいい。
ふと、手首のミサンガを見た。
「ミサンガって切れたら願い事が叶うんだよ」
舞波の言葉を思い出した。

会場近くまでバスが来たとき
『あななし』の着音が鳴った。

舞波!

「今日は、すごく暑いね。さすがに起きられなかったよぉ・・・
顔を見ることが出来なくてちょっと寂しいよ。
試合頑張ってね・・・chu―   舞波  」

「あ、あ、あ・・・」
なんか口篭もってるオレにチームメートからツッコミが入る
「おまえ何言ってんだよ・・・」
「ちょっちょい・・・オレをカッコよく写せ!カッコよく!」

カシャ!

オレは今撮ったばかりの写メと返事を送信した。
「今日は絶対に勝つ!来週の8日に最高の輝きを見せる」
今撮りの写メのポーズは左手でガッツポーズをとっていた。
ミサンガを見せるために・・・

準決勝の相手はベスト4の常連だった。
今日の作戦は、前半守りを重視する。
カウンター狙いで中盤から最終ラインの距離を
コンパクトに固めてひたすら相手の攻撃に耐えるだった。

試合開始のホイッスルが鳴った。

相手は監督の言っていたとおり
弱小のうちのチームに対して開始から攻め込んできた。

前半7分
相手の右CKからニアポストに相手のエースが飛び込んでくるも
DFが伸ばした足にあたりノーゴール。
前半8分
直後のCKから中央に合わせるもうちのDFがクリア。

前半15分
カウンターから飛び出した味方のMFが相手DFを一人かわしてシュート。
GKが弾いたところをオレが詰めるが焦って枠を外してしまう。

前半終了間際
中央でパスカットされ右サイドの裏をついた
相手MFにドリブルで切り込まれるも
ドリブルが大きくなりGKが飛び出してクリア。

前半終了のホイッスル

前半終わって
シュート数 2本−9本
相手は段々とミスが出始めていた。

「あぁ・・・あんとき決めてりゃ・・・」
悔やむオレにキャプテンが
「しょうがないさ。それは結果論だし。次のチャンスに決めてくれよ」
「ケッカロン・・・?」

たまにうちのキャプテンって難しい言葉を使う・・・

監督が言った
「最初の10分間我慢するんだ。相手はもう交代出来る選手がいない。
うちはまだ、あと1人交代出来る。残りの時間にチャンスが来る・・・」

この蒸し暑さでクラクラしてきた。
頭から水を被った。残りの時間にチャンスが来る・・・

後半開始のホイッスルがフィールドに響いた

後半相手は試合を決めようと
前半よりも攻撃をしかけてきた。

後半3分
意表をついた相手側のロングシュート。
うちのGKがファインセーブ。

後半6分
うちのDFのクリアミスに反応した相手のFWが
そのままミドルシュート。精度を欠いて枠をそれる。

後半11分
うちのDFもバテてきている・・・オレも足が動かない・・・
そんな間を突かれた・・・
ペナルティエリア前中央でパスと見せかけたフェイントに味方DFが
置き去りになりGKと1対1になりボールは左隅に転がり失点。

うちはもはや最後の交代枠に攻撃の選手を入れるしかなくなった。
DFに替え攻撃的MFを入れる。
3バック・・・リスクが大きいが攻撃するしかない。

オレは蒸し暑さで目眩を感じながら走った。

残り時間は5分を切っていた・・・

相手は守りを固める。逃げ切るつもりだ。

もう・・・走れない・・・
いつも以上に汗が滴り落ちる。

・・・まだ、試合は終わっていない・・・

相手が守りに入ったことでボールの支配率は
うちのチームが占めていた。

残り時間2分・・・

相手DFのクリアミスを突いて味方MFがロングシュート!
GKがファンブルしたところを味方のもうひとりのFWがシュート。
相手DFに当たりコースが変わり土壇場で同点に追いつく。
優勝でもしたかのようにベンチも入り混じって抱き合って喜んだ。

後半終了のホイッスル

試合は、Vゴール形式の延長戦に入った。
準決勝からは延長戦があり最後はPK戦になるのだ。

延長戦まで2分間のタイムが与えられた。
オレはずっと左手首のミサンガをみつめていた。

舞波だってこの暑さの中、リハーサルに頑張ってるんだ。
みんなもまだ、諦めていない・・・
土壇場で追いついたこっちに流れがある・・・

もう一度、オレに力を・・・
ミサンガに祈った。

「みんなよく追いついた。これがこの試合の最後の時間だ。
オレはみんなを誇りに思う。いいチームにまとまってくれた。
最後・・・ホントに最後の時間だ。思う存分にプレーしろ。
オレのこの試合の最後の指示は・・・『悔いの残るプレーをするな』だ」
監督が目に涙を浮かべながら叫んだ。

「ハイッ!!」
オレ達も監督の気持ちを受け取り気合の篭った返事をした。


奇跡を呼ぶ延長戦のホイッスルが鳴った。

前半、後半と違い激しいぶつかり合いになる。

延長前半2分
うちのキャプテンが、空中での激しい当たりで腰を強打。

延長前半4分
カウンターからドリブルで抜け出したオレに
相手DFが激しいスライディングタックル。
宙を舞う勢いではじき飛ばされる。
オレのシンガードが割れた。

延長前半7分
うちのDFがペナルティエリア内で相手FWの足を引っ掛けてしまう。
相手チームにPKが与えられた。

うちのGKは5年生だ。
ミニバスケあがりと経歴は変わっているが
ボールに対する反応がチーム1でキャッチも安定している。
身長も160cmを越えていたりしてガタイもいい。
しかし、今はすでに泣き顔になっている。
まわりの味方もベンチも夏休み中に来てくれた全校の生徒も
『シーン』と静まり返ってしまっていた。

オレは、ひとりGKの元まで駆け寄った・・・

「何泣いてんだよ(笑)最高の見せ場じゃんかぁ。」
ちょっと胸を小突きながらオレは話続けた。

「おまえの思った方向へ飛べばいいんだよ。
おまえの選んだ方向が、オレたちの選んだ方向なんだから」
「でも・・・ヒック・・・でも・・・ヒック」
「いいんだよ。防げばおまえがヒーローになるんだから。
自信を持っていけよ。ハートを強く持っていけよ。」

反則をしたヤツも膝を抱えてしまっている。
「立てよ。まだ、終わっちゃいないよ。さぁ、立とう・・・」

オレ・・・どうしたんだろう・・・
負けるかもしれないのになんで落ち着いているんだろう。
暑さでやられたかな・・・

審判がホイッスルを咥えた・・・

そのころ舞波は、
リハーサルを重ねるごとに調子を上げていった。
ダンスの先生もビックリしているぐらい
動きが大きくなりダイナミックになっていた。
「舞波ちゃん、動きにメリハリがあっていいよ!
上と下の整理もついてるよ」
「ハイッ!」

「じゃあ、ちょっと休憩しまぁすっ!」
「ハーイ!!」

舞波は、ヘンな胸騒ぎを感じた・・・

「舞波ちゃん・・・どうしたの?」
「・・・何でも・・・ない・・・よ・・・りぃ〜ちゃん・・・」
「でも、何だか様子がヘンだもん。りぃ〜、気になるもん。」
「・・・ミサンガが・・・切れちゃった・・・」

オレ達の激闘は続いていた・・・

運命のホイッスルが鳴った

一呼吸おいて相手の5番が助走を始めた。

まるで時間の流れがないような空間に感じた。
真夏の太陽だけが、
自分には関係ないよというようにギラギラと照りつけた。

ボムッ!っとボールを蹴る音がフィールドに響いた。

・・・舞波・・・ごめんね・・・約束守れなかったよ・・・

舞波は、連絡をとろうと手にした携帯を置いた。
アキナ・・・わたし信じてる・・・

・・・『今度の夏のイベントは、わたし・・・燃え尽きるまで頑張るから・・・』
『小学生最後の夏をサイコーに輝いてみせるの・・・』
『はい♪勝利のお守りぃ♪』
『まだ、ダメなんだもん。全然ダメなんだもん・・・』

いままでのことが頭をよぎる・・・

まい・・はぁ・・・オレ・・・ごめんね・・・

『告白なんてしないでよ!』

舞波の言葉が、頭の中をよぎった・・・

ボールはGKの逆を突いたが、精一杯伸ばしたGKの足にボールが弾かれた!
こぼれたボールをキープしたのはキャプテン。
そして・・・動けないキャプテンの代わりに
思いっきりロングボールを蹴りこんだのは
PKのきっかけを作った反則をしたDFだった。

「あ・・・あ・・・」

オレに向かってボールが飛んでくる。
「マジ・・・(汗)」
オレを飛び越えたボールは相手のペナルティエリア手前で大きくバウンドした。
相手チームのGKが一瞬飛び出しを躊躇した。
オレは、無我夢中で飛び込んだ。
空中で激しく衝突するふたり。
頭に衝撃が走る・・・
ボールが当たったのか、それとも相手GKの手が頭に当たったのか・・・

もつれて地面に落ちるふたり。

その直後、ホイッスルがフィールドに響き渡った・・・

反則?それとも試合終了のホイッスル?

『ワーーーーッ!!!』

会場から大きな歓声が聞こえた。
オレは静かに頭を上げてゴールを見た。

ゴールの中にボールがぽつんと転がっていた・・・

「アキナー!!」
チームメートがみんな抱きついてきた。
「オレ・・・オレ・・・」
「Vゴールだよ。決めたんだよ!」
「アキナ先輩の言ったとおりに飛んだんです。自信を持って・・・」

オレの左手首についていたミサンガが切れていた。

激闘を制したオレ達の代償は大きかった。
腰を強打したキャプテンは、決勝にはドクターストップがかかった。
オレの左足は、全治3週間の打撲。大きく腫れ上がっていた。

監督の車で自宅まで帰ってきた。

早めに帰ってきた舞波が、玄関前にちょこんと座っていた。
車から降りるオレに気がついた舞波が駆け寄ってきた。
「ミサンガが切れちゃったの・・・アキナ!・・・大丈夫???」
松葉杖をついたオレの姿を見て舞波が大きな声を出した。

「あ・・・いや・・・そんな大きな声、出さなくても・・・」
「だって、松葉杖・・・」
「ただの打撲だから」

水色のキャミソールに短パン姿という
いつもよりラフな恰好をした舞波に少しドキドキしていた。

「あ!ミサンガ・・・」
舞波が、オレの左手首の異変に気がついた。

「・・・うん・・・オレも試合中に切れちゃった・・・」

「願いが叶うのかなぁ・・・。あ、それよりも怪我ぁあああ!!」
「だから、大丈夫だってば」

「階段上れる?」
「う〜ん・・・なんとかね。」
「ほらほら、そこの観葉植物につまづくよ」

やっと部屋に辿り付いたって感じでオレは舞波がいるにも関わらず
ベッドの上に横になった。疲れていたんだよ・・・

舞波が何か言いたげにもじもじしていた。

「あ、ごめん・・・舞波・・・」
「なんで謝るの?」
「いや・・・何となく」
「あ、あの・・・」
「ん?」
「夜ご飯食べてからまた来てもいい?」
「いいけど・・・夜出られるの?」
「出てくるもん」

オレは、夕食のときに家族に今日の試合のことを興奮しながら話した。
そして、急いでシャワーを浴びて部屋に入った。
部屋にはすでに舞波が来ていてベッドに腰掛けていた。
「遅いよぉー」
「シャワー入ってたからねー」
「ホントだ(笑)髪濡れてるよぉ」
「乾かすの間に合わなかった(笑)」
「風邪ひくから乾かしなよ」
「いいよぉ」
「ダメ!!風邪ひいたら来週の決勝戦に出られなくなる!」

舞波・・・かわいいなぁ・・・

「わたしが乾かしてあげよう♪」

洗面所から勝手にドライヤーを持ってきた舞波が
オレの髪を乾かし始めた。

「髪伸びたね♪」
「しばらく切ってないしなぁ・・・」
「髪の毛まで日焼けして茶色くなってる。」
「中学行ったら短くしないとなぁ」
「えぇ〜・・・ヤダよう。長い方が可愛いもん♪」
「可愛いって言うなってぇ」
「すそが、クセ毛でくるんってなってるとこが好き♪」

舞波の『好き』という言葉に顔が赤くなってしまった・・・

雰囲気を察した舞波があわてて言い直す。
「あ、ハハ・・・くるんってなってるとこがいいの」

「あらあら。何かいい雰囲気だことぉ♪」

追い討ちをかけるようなことを言いながらお母さんが部屋に来た。

「はぁい。舞波ちゃんの好きなイチゴ持ってきたから食べなさい」

お、ナイスお母さん!

「えぇ!!!ありがとうございますぅ!!!わぁ〜〜大きなイチゴだよぉ♪」
「マジででかいわ・・・」
「ねぇ・・・口開けて♪」
「え、いいよ。」
「何照れてるの?」
「だってさぁ・・・」
「いいから『あ〜ん』って♪」
どうでもよくなってきた・・・なんだろうこの甘い感じの雰囲気は・・・
「あ〜ん」
オレは言われたとおりに口を開けた。
「はぁい。あ〜ん・・・」
パクッ!
「あ、舞波っ!何だよ自分で食いやがった!!」
「あははははは」
舞波は、腹を抱えて笑い転げている。

オレもなんだかつられて爆笑した。

「そういやさぁ」
「なぁに?」
「一緒に写メ撮ったことないよね・・・オレら・・・」
「うん・・・」
「・・・撮ろうか・・・」
舞波は、何も言わずにただコクンと頷いた。

写メを撮るため二人は寄り添った。

カシャ!

「お、上手く中央に写ったねぃ♪」
「ねー♪写りいいじゃん♪」
「顔似てるかなぁ・・・」
「雰囲気似てるって昔から言われるよね」
「自分達じゃわからんなぁ」
「ねー♪」

とりとめのない会話をしていたけど
オレは今日の試合の体力の消費が激しすぎて
いつのまにか眠りに入ってしまった。

エアコンの利いた部屋だったが
体に何か温いものがかけられた感触があった。

耳元で微かに何かを囁く声が聞こえる感じがした。

『今日は・・・ったね。おつ・・さま♪
したも、・・・サルがあ・・・もう・・・ね
ゆっく・・・んでね♪』

・・・深い眠りに入ろうとしているオレの唇にやわらかいものが触れる感触があった・・・

朝、10時に目が覚めた。起きると舞波はいなかった。
体には毛布がかけられていた。
「舞波・・・」
机の上にメモが書いてあった。

『おはよう♪今日はゆっくり休んでちょーだい♪
ケガしてるんだから遊びに行ってちゃダメだからね。
それと大きなイチゴおいしかった。
そうそう・・・いっしょに写した写メ・・・
待受画像にしてもいいよね?ダメって言ってもしちゃうからね。
わたしは、リハーサルに行ってきます。
Bye-Bye♪     舞波』

オレ、寝ちゃったんだ・・・
昨日の激闘を物語る全身の倦怠感に混ざって左足に激痛が走る。
「いってぇ〜〜〜〜」

そのときには、深夜に起きた出来事など忘れていた。

試合で大きな怪我をしたオレとキャプテンは、
今日と明日の練習は強制的に休みにされた。

キャプテンの容態が気になりメールをしてみた。
『昨日の夜から右足が前に出なくなって。
レントゲンじゃ何とも無いって言われたのに
整骨のひとが触ったら骨盤がズレてるってさ・・・
足が動かなきゃ試合どころじゃないもんね。
おまえはどうよ?』

『ハレがひかないね。踏み込むと痛いよ。
ひたすら冷やすしかないだろうね。』

『おまえだけは試合に間に合わないと困るから』

『あんたもね(笑)』

『おまえが個人的に【困るだろ】って言ってんの!』

キャプテンとのメール中に『あななし』の着音が鳴った。
あ、舞波・・・

『朝昼兼用のご飯は食べまちたかぁ?o^^o
アキナのことだから昼まで寝てたと思うけど(笑)
あまりエアコンの利き過ぎた部屋に引きこもってると
体調崩すから気ぃつけないさい!』

なぜかメールには鼻血を流した雅ちゃんの決定的瞬間の写メが添付されていた。

なんだこりゃ?・・・と思いつつも
待受画像を夕べの舞波と一緒に撮った写メに設定し直した。

しばらく写メを眺めていた。

夕べのことを少しずつ思い出していた。

イチゴ食べたり写メ撮ったり・・・

毛布をかけてくれたのは・・・たぶん舞波だろうな・・・
ひとりでちょっと照れていた。
なんか言ってたような気もするけど・・・思い出せないや。

そういえば・・・なんか・・・唇に・・・
ま、まさかね・・・まだ、オレたち小学生だし・・・

エアコンが利いているのにヘンな汗が流れてきた。

窓を開けて窓枠に腰掛けて足を外に投げ出して外を見ていた。
むわっとする温い空気がエアコンの利いた部屋に流れ込んだ。

「そこに腰掛けたら危ないって言われてるでしょーっ!!!」

声のする方向を見ると舞波が家に帰ってくるところだった。
ひとりじゃないですね・・・もうひとり・・・
よぉく見ると桃ちゃんだ・・・
桃ちゃんは手を振りながら飛び跳ねてる。

オレも手を振り返した。

今、オレの部屋には舞波と桃ちゃんがいる・・・

桃ちゃんがオレの部屋を見渡して一言
「『Simple is best』って感じの部屋だね♪」
「・・・しんぷる伊豆べーすと?」
舞波は、オレの顔を見ながら『シーッ』という感じで
唇に人差し指を当てながら笑っている。
「空間が広く感じていい部屋だね。」
「あ、何にもないってこと?」
「そんな感じかな?」
「舞波は、気に入ってるけどなぁ・・・」
舞波の何気なくつぶやいた一言に気がついた桃ちゃんが
「はいはい。ごちそうさま♪」
と言いながらコンビニの袋を床に置いた。
意味に気がついた舞波が顔を赤くしていた。

「アキナちゃんが怪我したっていうからお姉さんがお見舞いに来たんだぞ♪」

コンビニの袋いっぱいのお菓子と冷蔵庫の麦茶を飲みながら
3人は夕方の時間をオレの部屋で過ごした。

コンビニで買い物中に、子供に声かけられたとか
昨日の試合のこととか
桃ちゃんのお母さんの話とかいろんな話で盛り上がった。

新曲を日本中の誰よりも先に
二人に口ずさんでもらったりにしたことは内緒だけどw

「明日、もう一度病院に行ってくる。」
「ハレが引けば治るの?」
桃ちゃんの問いに答える。
「いや。痛みも引かないと走れないよ。」
「まだ、痛い?」
舞波が心配そうにオレの顔を覗き込んだ。
結構、間近まで迫ってた舞波の顔を見たとたん
夕べの唇の感触を思い出した。

オレの視線の先には舞波の唇があった・・・

火曜日

もう一度検査のために病院へ行くことになっていた。
昨日に比べるとハレはだいぶ引いていたが痛みはまだあった。

医者は、ハレが完全に引くのと痛みがなくなるまでは
練習に参加してはダメだと言った。
試合に出るには当日までに痛みがひいていることが条件で
フル出場は医者として薦めないと言われた。

帰りの車の中で監督が気落ちしているオレに
「気分転換にどっか寄らないか?」と尋ねてきた。
たいした用事もなかったが駅前のタワーレコードに寄った。

夏休み中の駅前は私服の学生で賑わっていた。
タワーレコードの中はエアコンが利いていて涼しかったが
駅前同様に学生で混雑していた。
足を引きずっていたのであまり歩きたくはなかったが
何の気なしにアイドルのコーナーに向かっていた。

トップエンドにはハロープロジェクトのコーナーがあった。

モーニング娘。・・・メロン記念日・・・後藤真希・・・
そうそうたるメンバーの中に『Berryz工房』のCDがあった。
オレは無意識にジャケットの中の舞波を探していた。
ふと目をそらすと『Berryz工房』のイベント告知のポスターが貼ってあった。

『来る8月8日、ラクーアでBerryz工房握手会決定!!』

オレは、足が折れても決勝戦に出なければならない・・・
そう決心した。
「そういえば、おまえの学校にアイドルいるんだよな?」
いつのまにか監督がオレの後ろにいた。
「あれ?監督なんか買ったんですか?」
「おぉ〜。マイケル・ジャクソンBEST。ほら、今裁判してるだろ?
もし有罪になったらプレミアつくかもしれんからな。」

大人ってたまによくわからないことを言うなぁ・・・

「オレの家の隣に住んでますよ。アイドル・・・」
「マジでか?このCDの中にいるのか?」
「ハイ。この右端に写ってる石村舞波っていうコです。」
「どれどれ・・・他のコと比べるとちょっと地味なコだな・・・」
「い、いえ!今度のイベントでは、誰よりも絶対に輝いてるもん!!」
思わず大きな声を出してしまったために
周りのお客さんが一斉にオレを見た。

車の中では、監督の買ってきたマイケル・ジャクソンのCDが流れていた。

「監督・・・」
「どうした?まだ、さっきのことで怒ってるのか?
そのことだったら何ぼでも謝るぞ。」
「いえ・・・そのことじゃなくて・・・日曜日の決勝のことです。」

一瞬、会話が途切れた・・・

エンジン音がやけに目立って響いていた


「オレを試合に使ってください。」

「・・・医者はダメだと言ったぞ。」
「・・・医者は・・・ですよね?」
オレは続けた・・・
「監督個人はどう思ってるんですか?」
「・・・走れないだろ・・・その足じゃ・・・」

オレはさっき決心した気持ちを監督にぶつけた。

「オレはどうしても試合に出て優勝したいんです!
足が折れても試合に出たい・・・。10分間しか走れないのなら
その10分間でもいい!だから、オレを使ってください!!」
「おまえがそんなに必死になる理由ってなんだよ。
なんか理由があるから言ってんだろ?」

「オレは・・・約束をしたんです・・・」

オレは、監督に舞波とのことを全部話した。

「・・・おまえは、その子が好きなのか?」

「・・・・・・好きです。俺の大切な人なんです。」

「小6で両想いってやつか・・・しかも、相手はアイドルだぞ・・・
・・・ドラマみたいな話だな・・・」
監督がつぶやいた。

「ドラマ??」
「とにかく・・・足の痛みを早くなくしてくれ。話はそれからだ。
それと・・・」
「それと・・・?」
「キャプテンが今度の試合に出られないんだ。
だから決勝戦のキャプテンを決めたいんだが、
みんながおまえじゃなきゃダメだって言うことを利かないんだよ・・・」

オレは、舞波の帰りを家の前で仔犬のダンと遊びながら待っていた。

「おまえの飼い主様はなんで『ダン』って名前にしたんだろうねー♪」
よくわからないけど、かまってくれることが嬉しいらしくて
尻尾を振りながら走り回っている。

「ただいまぁ♪」
「おかえりっ♪」
舞波が少し疲れた顔をして帰ってきた。
「足はどうだった?」
「うん・・・。痛みが引けば試合に出られるかもしれない。」
「ハレはぁ?」
「だいぶ引いたよ。痛いだけ。」
「そっかぁ・・・間に合うかなぁ・・・」
「間に合うさ・・・。絶対・・・。」

ダンが、オレたちふたりを首をかしげながら見ていた。
「ダンがこっち見てるよ。」
「・・・わたしたち・・・お似合いかなぁ?」
舞波が、エクボを作りながらとんでもないことをダンに話し掛けた。
ダンは尻尾を振って応えている。

・・・ちょっと・・・そういうところ桃ちゃんに似てきました?

水曜日

痛みはまだあるもののハレはほとんど引いていた。

今日は、グラウンドに練習を見に行こうと決めていた。
チャリに乗り足を気にかけながらゆっくりとペダルこいだ。
通学路の途中にある柿の木に差し掛かった。
オレは、柿の木の前で止まった。
オレと舞波はこの柿の木を『大きな木』と呼んでいた。

小学3年生のとき・・・

ある日の登校時に、舞波が『大きな木』を見て
「あの木になってる柿が食べたい♪」と言った。
「ダメだよぉ。遅刻するもん。」
オレは、舞波の手を掴んで学校に行こうとした。
「ヤダ、ヤダぁ。柿が食べたいのぉ!!」
掴んだ手を振り解いて舞波がごろついた。
「もぉ〜・・・」
オレは、高いところが苦手なのを我慢して
『大きな木』によじ登り
柿を1個木の上から舞波に向かって落とした。
「ありがとう♪」

降りてくる途中で『大きなクモ』に遭遇したオレは
ビックリして木から落ちてしまった。

『大きなクモ』を間近に見たショックと落ちたショックが重なって
教室に着いてもオレはずっと泣いていた。
「ごめんね、ごめんね・・・」
休み時間の度に舞波は、オレのところに来ては謝っていた。

そして学校帰りの途中・・・

小さな川の堤防にふたりで腰掛けて
朝、『大きな木』から取った柿を半分づつに分けて食べた。

あのとき大きく見えていた木も
今は『普通の柿の木』と変わらない大きさに見える。
あれから20cmくらい身長が伸びた・・・かな・・・

土地感が全然つかめなくてどこへ行くにも
舞波の後をくっついて歩いてたっけ・・・

近所のおじさんやおばさんから『ふたご』って呼ばれてたもんな・・・

グラウンドに行くとみんな、いつもどおりの練習をしていた。

オレはみんなに気づかれないように遠くから眺めた。
「今は・・・我慢・・・」
ボールを蹴りたくてうずうずしている自分に言い聞かせた。

その頃舞波は、自己紹介の台詞を考えていた・・・

「行き詰まっちゃった・・・」
「舞波ちゃん・・・どうしたの?」
「自己紹介の台詞が思い浮かばなくて・・・」
「りぃ〜はねぇ、なんか適当♪」
「それ、みやぁにチェックしてもらった方が絶対いいよ。」

「みやぁ〜〜!!りぃ〜のチェックしてぇ〜〜〜」

向こう側で、雅の後をついて回る梨沙子を見ながら
昔の自分達の姿を重ねてちょっとニヤけていた・・・

木曜日

「舞波ちゃん!自己紹介だいたい1分30秒くらいでまとめてね。」
「ハイ。」

「ねね。やっぱ、1分30秒じゃ短すぎるよね?」
話かけてきたのは髪を切った千奈美だった。
「やっとまとめたけど作り直そうかなぁ。」
「友理奈は作り直したって。みやぁは、りぃ〜ちゃんのも作ってる(笑)」

舞波は、ニコニコしながら話す千奈美の顔をマジマジと見ていた。
「舞波ちゃん、そんなにみつめると恥ずいジャン♪」
「千奈美の笑顔っていいなぁって思って・・・」
「な、何言ってんのぉ〜〜♪舞波ちゃんもエクボが可愛いよぉ♪」
「そんなことないもん」
「そんなことあるって♪みんな最近の舞波ちゃん可愛くなったって言ってるよ。
この間のリハのVTRをつんく♂さんが見て、
舞波ちゃん変わったって言ってたってスタッフの人が言ってたよ。」
舞波は照れ笑いをしながら嬉しそうに
携帯のアキナとのツーショットの待受画面を見ていた。

オレは、足の痛みと相談しながら軽いランニングを始めていた。
決勝まであと3日・・・

金曜日

痛み止めの薬を飲み尽くしていたオレは朝から病院にいた。

「先生!・・・どうしても決勝には出なきゃいけないんです。」
「・・・気持ちはわかるんだが、
痛みがあるとどうしてダメなのかを説明しないといけないな。」

先生は、椅子に座りなおしながら説明をした。

「・・・・・・それでも、いいのかな?」
「・・・今のオレには将来とか・・・未来のことなんて難しくてわかりません。
ただ・・・今度の決勝には、今までのことやこれからの大事なことが
全て込められている気がするんです。
ちょっとだけ・・・ちょっとだけ、
他の人よりも全てを賭けなきゃいけない時期が早く来ただけなんです!!」

明日までに痛みが引かなければ
日曜日の朝に痛み止めの注射を打って試合に出ることになった。

最後に先生は、
「若いっていうのは、いいな。そこまでキミを熱くするものは何なんだい?
あと、わたしに出来ることと言ったらキミの熱い想いが無駄にならないように
考えられるだけのことでサポートするだけだよ。だが、無茶はするんじゃないよ。」

舞波は、衣装合わせをしていた。

「ん〜〜・・・少し痩せたかも・・・」
「そりゃあ、あんだけ練習すれば痩せもするでしょう。」
桃子が笑いながら答えた。
「踊りも完璧だね。あとは・・・トーク!!大丈夫?」
「トークかぁ・・・苦手だなぁ・・・」
「みんなにアピールするのは苦手でも
ひとりの男の子にアピールするのは出来るんだぁ♪」
桃子はいたずらっぽい笑みを浮かべて舞波を覗き込んだ。
「えぇ〜、それどういう意味ぃ?ちょ、ちょっとぉ〜〜」
「舞波ちゃんが、赤くなったぁ♪舞波ちゃんが、赤くなったぁ♪」
「も、もぉ〜〜」
「誰かさんを思い出したのかなぁ?」

桃子と騒がしくじゃれあう舞波の姿があった。

土曜日 〜約束の日の前日〜

舞波は、朝から既にいなかった。
オレは、練習に参加した。
痛みは消えずに残ってはいたが、
休んでもいられない気分だった。
1本1本のシュートを足の痛みを確かめるように蹴った。
フォーメーションの練習では
全力疾走は控えめにしてポジションの確認に終始した。
みんな、明日に向けてこれ以上にないくらい気合が入っていた。

泣いても笑っても明日が最後の都大会だから・・・

「・・・から15分時間取ってるから・・・・・・でお願いします。」
「ハ〜イ!」

明日のイベントの本番を前に最終調整に入るBerryz工房のメンバーたち。

最終的な段取りも決まり今日が最後のリハになった。
明日のリハが、舞波の学校行事(6年生全員の決勝の応援)ということで
土曜日に早まったのだ。
本番までの時間は他のメンバーには臨時オフということになり
その時間を利用して桃子がどさくさで
応援に来るということになったらしい。

「ねぇねぇ、明日、勝ったら優勝でしょお♪すっごいねぇ。有名人になるじゃん♪」
梨沙子は能天気に舞波に話し掛けた。
「・・・そうだ!舞波ちゃんのとこの学校、決勝行ったんだもんね。
うちの学校は2回戦負けだったよぉ。」
梨沙子の話を聞いていた雅が続いた。
「・・・う・・・うん・・・」
「舞波ちゃんが緊張してどうするのぉ?試合に出るのは彼氏クンでしょ♪」
舞波がイベントのことよりも
アキナのことを気にしているのを見抜いた桃子がツッコミを入れた。

「え?彼氏ぃ〜〜〜!?」

梨沙子と雅は顔を見合わせて言った。

オレたちの練習は明日に備えて早く切りあがることになった。

「どうだ?足の具合は?」
「まだ、少し痛みが・・・」
オレと監督の会話の間に準決勝でヒーローになった小5のGKが入ってきた。
「先輩!明日は出られるんですよね?キャプテンとして・・・
ボクは信じています。準決勝のときのホントのヒーローは先輩なんですから。
あの一言がなかったらあのまま終わってたかもしれないし・・・
みんな、ボクのこと『凄い』って言ってくれたけど
ホントに凄かったのはあの場面で冷静だった先輩です!」

あのときは・・・自分でもよくわからなかった・・・
暑さにやられて・・・半分諦めかけていた。もう、ダメだと思ってた。
心の中で舞波に謝りかけてた・・

『告白なんてしないでよ!』
舞波の声が聞こえたんだ・・・

『オレは今度の大会で決勝までいって優勝して輝いてみせる。
そしたら・・・もう一度・・・告白させてよ』

オレはGKの両肩をつかみ
「もちろん出るよ!フル出場さ!みんなでここまで来たんだ。
最後まで・・・最後までみんなと一緒だよ!」

「だ、大丈夫か??お、おい・・・」
突然のオレの決心に監督が目を白黒させた・・・

休憩中の舞波の携帯から着音の『FIRST KISS』が鳴った。

「あらぁ?彼氏さんからメールかしら?」
雅がからかうように言った。

『今日は、重大な発表がありまぁっす。帰りは遅い?』

アキナからのメールは
顔文字もなければ絵文字もない。
文面に何にも飾り気のないものだったが
舞波の胸を昂ぶらせるには十分なメールだった。

「『じゅうだいなはっぴょう』って何かなぁ」
「りぃ〜ちゃん!!覗き見しちゃダメだってばぁ!!」
「あばばばば・・・舞波ちゃん、怒ったぁ〜〜〜」

メールを後ろから覗き見した梨沙子を追いかける舞波を見て
雅が桃子に言った。

「・・・舞波ちゃんって彼氏いたんだ・・・もしかして、あの時の?」
「さぁ?・・・これから彼氏になるのかもねぇ♪」

終わる様子のない梨沙子と舞波のじゃれあいを見ながら
桃子はちょっとお姉さんっぽく意味ありげに微笑んだ。

「お疲れ様でしたぁ〜〜」

リハは、思っていたよりも早く終わった。

「舞波ちゃん、プロポーズされるのかなぁ?」
まだ、懲りずにいる梨沙子を雅が諌めた。

午後5時30分
急いで帰れば7時前には駅に着くかな・・・

返事をする前にアキナから続きのメールが来ていた。

『7時に駅で待ってるから。』

舞波は、やってきた電車に飛び乗った。

最も寄りの駅に着いたのは6時55分。
ギリギリ7時前だった。

改札を出た舞波は、周りを見渡した。
なかなか、アキナの姿をみつけることが出来なかった。

そのとき『FIRST KISS』が鳴った。
『舞波発見!!!』
舞波は、あわててもう一度周りを見渡した。
「いないよ・・・どこにいるのぉ・・・」
不安になりかけたとき、
目を塞がれ一瞬視界が真っ暗になった。

「キャーーー!!!!!」

予想外の反応と大きな悲鳴に驚いて
いたずらをしたアキナがしりもちをついた。

「ご、ごめん(ね)」
ふたり同時に言ったので声が被った。

それに気づいて思わずふたりで吹き出した。

オレはチャリの後ろに舞波を乗せて駅からの帰り道を走っていた。
足が痛いので少しふらつきながらの危ない運転だったけど・・・

舞波は、女の子らしく横乗りしていた。

オレは、腰に巻かれた舞波の腕と
背中にもたれかかる舞波の頭の感触に
心地よさを感じながらチャリをこいだ。

「大丈夫?ちょっとふらついてるけど、足痛いんでしょ?」
「これぐらいへーきだって・・・」
「わたしが前に乗ろうか?」
「・・・それって、オレ、カッコ悪くない?」
「だって、足痛いんでしょ?」
「いいよ。大丈夫なの!」

もぉ〜という感じで半分呆れながら
舞波は、アキナのちょっと頼りない背中に頭をもたれた。

今・・・ちょっとだけ甘えてもいいよね?・・・

日が長くなってきたので7時を過ぎてもやっと空が赤くなってきた程度だった。

「ねぇ!・・・今、曲がるところ通り越したよぉ!どこ行くのぉ??」
「内緒ぉ!!」
「え?聞こえないよぉ?」
「ナ・イ・ショ!!!」
「内緒ぉ!?意地悪ぅ!!」

オレは、行き先を心配する舞波を無視して目的の場所までチャリをこいだ。

「舞波・・・着いたよ」
「『大きな木』じゃん♪」
「うん♪・・・3年前に起きた出来事を覚えてますかぁ?」
舞波は、はにかみながら答えた。
「・・・よく覚えているよ・・・」

「ちょっと困らせたかったんだ・・・」

下を向きながら舞波は、話しつづけた。

「アキナが、高いところを苦手なのも知ってたし・・・
どうしてあんなことしちゃったんだろ・・・
アキナがみんなに優しいから・・・ちょっと意地悪したの」
「・・・・・・」
「でも、アキナったら怒らないで怖いの我慢して柿を取ってくれた・・・
でもね、最後にあんなことになるなんて思わなかったの・・・」
「オレはただ・・・舞波の喜んだ顔が見たかった・・・だから、木に登ったんだ。」
「わたし・・・昔から不器用で・・・こんな態度しかとれなくて・・・
なのに、アキナは勇気を出して木に登ってくれた・・・」

舞波は下を向いてしまった。

「そそ、じゅ、重大発表!舞波・・・オレ・・・明日、試合に出るよ。
まだ、痛いけど最後だし・・約束だし・・・」

雰囲気を変えようと話し出したときだった。

「・・・わたし、不安なの・・・
あんなに練習したのに・・・ダンスの先生にだって
誉められたのに・・・なのに・・・不安で・・・
本番で間違えそうで・・・自信がなくて・・・
・・・わたし、逃げたいの・・・」
「どうした?いつもはそんなこと言わないだろう?」
泣きながら震える舞波の華奢な両肩を掴みながらオレは尋ねた。

「・・・だって・・・明日は、特別な・・・日だもん・・・」

そして、震える声で舞波は言った。

「わたしに・・・ほんの少しでいいから・・・
少しだけ『小さな勇気』を・・・分けてください・・・」

オレは、黙って舞波を抱きしめた・・・

舞波の涙に夕日の光が反射した。

オレは、おでことおでこをつけて舞波の顔を見た。
オレが、いじめられて泣いていたときに
舞波がよくこうやって慰めてくれた。

「はぁい♪泣かない、泣かない・・・」
「う・・・ぐす・・・・ヒック・・・」

少し落ち着いた舞波が小さな声で話始めた。
「アキナは、いつのまにか強くなっちゃったね。」
「そんなことないよ・・・オレだって明日になるのが怖いもん・・・」

オレの心臓の鼓動が速く大きくなっている。

「わたしに『小さな勇気』を分けてくれる?」

オレは何も言わずに黙って舞波の顔にかかる髪の毛を両手でかき分けた。

そっと目を閉じる舞波・・・

そしてオレは静かに唇を重ねた・・・


夕日がふたりを静かにいつまでも包んでいた。

 

日曜日

オレは、朝早く病院で痛み止めの注射を3本も打ち試合会場に向かった。

試合会場には、驚くほどの観客がすでに集まっていた。

オレは、チームに合流しアップを始めた。
客席では、見覚えのある顔がいっぱいあった。
オレは、自然に舞波を探していた・・・

「いたいた・・・せーの! アキナーーーーー!!!!!!!!」

こ、この特徴のある声は・・・(汗)

声のする方向を見ると桃ちゃんと舞波が
うちの学校の生徒から少し離れたところにいた。

桃ちゃんは、相変わらず元気に手を振っているが・・・
舞波は・・・今までにないくらい穏やかな表情で手を振っていた。

オレは、ふたりに手を振り返した。

「さて・・・今のはどっちに振り返したでしょう?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながらながら桃子が言った。
「もちろん、わたしにだよぉー!(笑)」
舞波が、得意げな顔をして答えた。

着ていたジャージを脱いでユニフォーム姿になった。
オレの背番号『7』番に気がついた客席からどよめきが聞こえた。
怪我をしたからみんなオレが試合に出ないと思っていたのかな・・・
いや、オレの左腕につけられた
『キャプテン腕章』を見て歓声が上がったのだろう。

試合に出られなくなったキャプテンに代わり初めて『キャプテン腕章』をつけた
オレンジ色のユニフォームを着た『7』番は静かに燃えていた。

相手は、前年準優勝、新人戦優勝で今大会の優勝候補だった。

注射が効いていたのか足の痛みは感じなくなっていた・・・

「大丈夫・・・これなら普段と変わらずに走れる・・・」

オレは舞波と桃ちゃんがいる方向に向かって
右手で2,3度左胸を小突いた。

「試合が始まる前になったら舞波に向かって合図するから。」

夕べふたりで決めた合図だった。

主審、線審を先頭にセンターサークルに向かい
両チームが並んで歩き出した。

『7』番のオレを見つけて客席から
「あいつ出るんだ」という声が聞こえた・・・


舞波は、客席から祈るように胸の前で手を組みながらアキナを見つめていた。
そんな舞波を桃子が寄り添うように立っていた。
「大丈夫・・・アキナちゃんなら大丈夫・・・」
桃子は必死に祈りつづける舞波にただ『大丈夫』としか声をかけてあげられなかった。


「集中力を切らすなよ!お互い、声を出していけよ。
自信を持っていけば大丈夫だ!」
試合前にベンチでキャプテンは部員全員を激励した。
そして最後にオレと目が合った。

「・・・オレは、ずっと前から何となく気がついてたからな。」

キャプテンは、オレの左腕に腕章を締めながら小さな声で言った。

「何のこと言ってんだよ・・・」


「オレは・・・舞波とは幼稚園から一緒なんだよ。」

「え?」
キャプテンと舞波は幼馴染だったのか・・・

「家が離れてるから一緒に遊ぶってことはなかったけど
昔から舞波のことは知ってる」

驚きを隠せないオレにキャプテンは話を続けた。

「オマエが転校してきてから舞波は何だか雰囲気が変わったよ。
明るくなって、よく笑うようになった。
そして、いつもオマエが一緒にいた・・・」

オレは・・・転校前の舞波がどんな女の子だったのか知らなかった・・・
最初からそういうコだとずっと思っていた・・・

「アイツの笑顔を守れるのはオマエしかいない。
だからオレは、アイツのことを諦めた。」
「え?」
言っている意味がわからなかった。


そして、キャプテンは続けて言った・・・

「オレも舞波が好きだった。」

ピッピィ―――――!!

試合開始のホイッスルが鳴った。

最後の都大会

それぞれの想いを胸にして最後の戦いが始まった。

試合は、お互いに出方を伺うように慎重な展開から始まった。

「マーク外さないで!」
「集中!集中!」
「もっと早く!」
「逆サイド!!」

みんな声を出し合って相手のチャンスをつぶしていった。
しかし、しだいに試合は、相手ペースになっていった。

前半18分
左サイドを突破され味方のDFが左に流れたところを
空いた逆サイドに振られフリーでシュートを打たれる。
しかし、シュートがバーに当たりノーゴール。
絶体絶命のピンチを相手のミスで逃れる。

前半20分
相手のロングパスからカウンターが入る。
味方GKがペナルティエリアを飛び出す好判断で
相手のチャンスをつぶす。

前半22分

相手のMFが一瞬ボールコントロールをミスった。
下がり目の位置にいたオレには、
パスコースに入るのに充分な時間が生まれた。

一瞬の隙を突き思いっきり伸ばした足にボールが引っかかる。
オレは、スピードを生かして右サイドをドリブルで上がった。
「あ!!」
ひとりかわした時にバランスを崩した。
体勢を崩しかけたときに味方が中央から右サイドに流れるのが見えた。
相手のDFも追いかけるように右に流れている・・・
中央にスペースが空いた!!

転びながら空いたスペースに強引にボールを蹴り込んだ。
ボールは、味方にも相手にも触れずに相手GKにキャッチされた。

「どうして、誰も走り込まないんだ!!」

少ないチャンスを生かしきれない自分たちに早くも焦りが見え始めた・・・

「神様ぁ・・・どうか・・・今日だけはわがままをきいてください・・・
この試合勝てますように・・・アキナが輝きますように・・・」

舞波はすがるような思いで祈った。

「アキナちゃんなら・・・きっと奇蹟を起こしてくれるよ・・・」
桃子は舞波の肩をそっと抱き寄せた。

イベントに間に合うためには試合終了前にここを出なければならなかった。
そんな現実を桃子は知っていた・・・

「『7』番が舞波ちゃんにとって『ラッキー7』になりますように・・・」

フィールドには、倒されても立ち上がる『7』番がいた・・・


真夏の太陽は午前中から容赦なく照りつけた。

この暑さでは、体力の消耗が激しすぎた。
前半だけで足が止まりがちになってきた・・・

「あと5分の我慢だ!!」

オレたちは防戦一方になっていた。
11人全員が自陣の守備に回っている。
相手も同じ11人なのに倍の人数がいるように感じた。


ピッピッピィィーーーーーーーーーー!!!!

前半終了のホイッスルが鳴った。


まるで、1試合やり終えたかのような虚脱感があった・・・
失点を0に抑えられたことがラッキーだった。
オレたちは、実力の差を痛烈に感じていた。

「攻めきれない・・・」
「打開策がないよ・・・」
「振り回され過ぎだ」

攻められっぱなしとこの暑さで苛立ちが爆発した。
オレは、キャプテンとしてどうしなければならないか焦っていた。

「・・・オレは、諦めない・・・絶対にチャンスが来る。
このまま我慢をしていれば、きっと相手の動きが止まってくる。
そうなるまで・・・守り続けるしかない・・・」

「みんな、その時がくるまでもう少し我慢しよう・・・」


「もう・・・生きた心地がしないよぅ・・・」
その場で座りこむ舞波を優しく諌める桃子。
「すごかったね・・・でも、みんな頑張ってるんだよ。」
「うん。・・・アキナ・・・足、大丈夫かな・・・」

このコは、ホントにアキナちゃんのことが好きなんだな・・・
桃子は、暖かい目で舞波を見守っていた。
「さぁ!後半は、もっと力を入れて応援しなきゃ♪」
「うん!絶対に勝つもん!」
「フフ♪」
「・・・何がおかしいの?」
「今の表情って桃子とアキナちゃんの前でしか見せない表情だなって思って♪」
恥ずかしくなって赤くなる舞波
「意外とおこちゃまの顔になっちゃうよね?」
「ひどぉい!もぉ〜」


オレは、客席にいるキャプテンを見た。

お互いに何も声をかけることなく黙って頷いた。

そして、舞波と桃ちゃんのいる方向に右手で軽く左胸を小突いた。

全てをかき消すように後半開始のホイッスルが鳴った。


「立ち止まって後悔するぐらいなら死ぬ気で走って来い!!」
監督の最後の送り出すときの言葉が頭の中でリピートした。

後悔なんかするもんか!
オレは・・・勝って輝いてみせるんだ!!!

オレはポジションを無視して全力でボールを追い回した。

味方も前半と打って変わってボールを持った相手に複数で詰めより
まるで、ゾーンプレスでもしているかのように追い詰めていった。

後半18分
味方のクリアボールを相手DFがボールコントロールミス。
味方が詰めてゴールに押し込むが回りこんだ相手DFが足ではじき出す。
こぼれたボールにオレと相手DFが走り込む。

呼吸が荒くなり顎が上がる。
体を投げ入れたが間に合わず
相手DFのクリアの方が若干早かった。

・・・体を投げ入れたのではなく崩れ落ちるように転倒したのだった。

オレの足は思い出したかのように激痛が走り始めていた。

「痛ぁ!!!!!」

オレの声にフィールド上にいるチームメートが駆け寄ってきた。
主審が時間をとめた。
客席もオレの異変に気づいてどよめき始めてた。


「舞波ちゃん、もう行かないと間に合わなくなるよ。」
「えぇ!!・・・でも・・・でもぉ・・・」
「やっぱり・・・そうなると思った。今日来て正解だったよ。」

舞波の性格を理解している桃子は、こうなることを予測して応援に来ていたのだった。

「試合の途中だけど・・・今、行かないと今度は舞波ちゃんが
アキナちゃんとの約束を守れなくなるよ!」

現実を理解してきた舞波の目に涙が溢れ出した。

舞波の気持ちを察している桃子は、
自分も泣きそうになっているのを我慢して
試合会場から舞波を連れ出した・・・

「アキナちゃん・・・ごめんね。もう行くね。
桃子も『勝つ』って信じてるから・・・
夕べ、桃子も神様にいっぱいお願いしたから・・・」

会場を出てすぐに、何かが起こったのか客席がどよめいていた。

オレは一旦、外に出ることにした。

すぐに監督がやってきた。
「やばいか?」
「いや・・・大丈夫です。」

足にコールドスプレーをかけながら監督が言った。
「ハーフタイムにオレが言ったことを覚えているか?」
「ハイ。」
「だったらもう一度好きなだけ走ってこい!」
「ハイ!」

フィールドに戻るとき舞波と桃ちゃんがいた方を見た。
もう、ふたりの姿はなかった。

「間に合ったかな・・・」

試合の途中で抜けることは夕べの桃ちゃんからのメールで知っていた。

オレは負傷した左足をかばうように戻った・・・

後半終了まであと3分

「もうちょっと我慢すれば延長になる。それまで踏ん張ろう!」

オレたちは、引き分けにして延長戦での勝負を選んだ。

『弱者には弱者の戦い方がある』

普段から監督が言っていた言葉だ。

相手の動きも止まってきてミスも多くなってきていた。
現に反則でホイッスルを吹かれる回数が増えてきていた。

ほとんど体力の消耗戦に等しい試合を
無機質なホイッスルの音が試合の終わりを告げた。

延長か・・・

先に点を入れた方が優勝・・・

延長戦が始まる前に
オレたちは、円陣を組んだ。

「これで最後だよ・・・。いい試合してるよね、オレたち。
優勝候補でも何でもないオレたちが決勝戦の延長を戦うんだから。
もう少し・・・もう少しだけ、頑張って走ろうよ。」

オレンジ色の11人がフィールドに散らばっていった。

真昼の炎天下の元、
延長開始のホイッスルが鳴った。

太陽光線に熱せられたグラウンドは
地熱で陽炎を作っていた。


「笑顔♪笑顔♪」
電車に乗ったとたんに堪え切れずに泣き出した舞波を
桃子が必死に慰めていた。

「試合はどうなったんだろう・・・」

この会場には、もう・・・舞波はいない・・・

こんなに壁が厚いとは思っていなかった。
大会優勝を目指しているチームと
なんとか負けずにいきたいというチームの『意識の差』だった。
その『差』にオレは、気がつき始めていた。

ボールは、おもしろいように相手チームに回され
味方はいいように振られまくった。

11人全員がペナルティエリア付近で
相手とボールを奪い合う光景も見慣れてきた。

たまにカットをしても前線には味方がおらず
すぐにパスはカットされた・・・。

舞波と桃子は最終の打ち合わせにギリギリで間に合った。
ステージ袖で打ち合わせをする舞波の目にはもう涙はなかった。

「舞波ちゃん!いつまでも泣いてちゃダメ!
桃子たちはBerryz工房なんだよ。Berryzを見に来る人たちに
その涙は見せられない・・・」

電車の中で桃子が大きな声を出した。
初めて見せる桃子の厳しい表情に
泣いていた舞波は一瞬怯えた。

「舞波ちゃん・・・アキナちゃんは
泣きながらステージに立つ舞波ちゃんを見て
『輝いてる』って思うかなぁ?」
今度は優しい声で言った。
「・・・そうだよ・・・そうだよね・・・
アキナは今、頑張ってるんだ。わたしも頑張らなきゃ・・・」
「うん♪そうだよ。頑張らなきゃ。笑顔は出来る?」
「うん♪」


延長前半終了のホイッスルが鳴った。

「ハイ!OK!」
「この調子で本番お願いしまぁす!!」

「お願いしまぁっす!!」

最終的な段取りが無事に終わり後は数時間後の本番を待つのみとなった。

「試合・・・終わったかなぁ・・・」

舞波は、アキナからメールが着ていないかと携帯をチェックした。

「まだ、なんの連絡も着てないの?」
舞波と同じ試合結果が気になる桃子が舞波に尋ねた。
「うん・・・まだ、試合してんのかなぁ・・・」
「まさかぁ。延長戦とか??」

舞波が時計を見ると1時になるころだった。


延長戦の後半を戦っていた・・・

敵味方のみんなが限界を越えていた。

あちらこちらで足をつる選手が現れた。

脱水症状にならぬようにお互いの監督が水分補給を促した。

オレは、足を引きずって歩き
走るには程遠い状態になっていた。

それでも何度かカウンターアタックを試みた。

延長に入ってオレたちにもチャンスが何回か回ってきていた。

「向こうも疲れてるんだもっとボールに詰めろ!」

ベンチからも声が飛ぶ。

そして、時間は最後のプレーを迎えた。

相手にコーナーキックが与えられた。


時間的にもこれが最後のプレーになるのか・・・
これを凌げばカウンターのチャンスも考えられる。

相手の『8』番が左足で早くて低めの弾道のボールを蹴り込んだ。

ニアポスト付近で交差した選手の足に当たったボールが高く跳ね上がった。

そのボールに何人かが飛び込んだ。

ボールは大きな弧を描いた・・・

そして、味方のGKの手をかすめた。

『パサッ』

乾いた音が熱気で蒸れる会場に場違いな響きをもたらした。

センターサークル付近でカウンターを狙っていたオレは
その場にしばらく立ちすくんだあと
味方がゴール周辺で倒れ込むのを見て負けを知った。

「・・・負けた・・・」


無機質なホイッスルの音が
オレの想いを切り裂くように会場に響いた。

遅れて始まった試合は、度重なる中断と延長を含めて1時を過ぎていた。

相手の選手が、優勝に抱き合って喜んでいた。

オレは、しばらくその場に呆然としていた。
『負け』という現実が感じられず
フィールドに泣き崩れる味方を見ても
自分達のことに思えなかった。

「・・・負けたんだ・・・」

切れたミサンガの効力は準決勝で消えてしまっていたんだ・・・

段々と視界が揺れてきた・・・
それは、地熱が起こす陽炎のせいではなくて
オレの目に溜まった涙がそうさせていた。

『オレは今度の大会で決勝までいって優勝して輝いてみせる。
舞波は、その日のイベントで最高に輝いてみせる・・・
そしたら・・・もう一度・・・告白させてよ』

2ヶ月前のことを思い出していた・・・

・・・ごめんね・・・舞波・・・『約束』・・・守れなかった・・・

オレは涙を堪えて、キャプテンとして最後の役割を務めた。


「みんな!立ち上がれ!
応援してくれたみんなに挨拶をしよう」

ひとりひとりに声をかけて客席に向かった。

みんなが整列したのを確認してオレは客席に向かって最後の挨拶をした。

「今日は、応援ありがとうございました。
試合には・・・試合に・・・は・・・負け・・・まし・・・・・・」
我慢していた涙が目から溢れ出した。
何度も、何度も言い直そうとしたが言葉が出なかった。

客席からも泣き声が聞こえていた。

「バカ!!泣いてる場合じゃねぇよ!
まだ、オマエの試合は終わってねーんだよ!」
客席で試合見ていたキャプテンが大声で怒鳴った。

「走れ!まだ、間に合う!早く行け!!」

何言ってんだよ・・・

キャプテンが、客席から1通の封筒をオレに投げ寄越した。

その封筒は封をしていなかった。

中を見ると入場券とイベントのチケットが入っていた。

奥の方に紙切れがあった。
紙切れには慌てて走り書きしたのだろう
乱れた文字でメモがしてあった。

『東西せんでいいだばし→中央せんにのりかえて→水どうばし
このとおりに来ればラクーアに行けるから
まってるね     まいは』

「延長前に舞波が来てこれを・・・
試合が終わったらオマエに渡してくれって・・・」

「でも・・・負けた・・・」

「頼む!!行ってくれ!!アイツのために行ってくれ・・・」
オレが言い終わる前にキャプテンが叫んだ。

「勝ったか負けたかなんて彼女は何とも思ってないんじゃないのか?」

後ろにいた監督が静かに話し始めた・・・

「結果はどうであれ、彼女はオマエが来ることを待っている。
待ってくれている女を泣かせるのか?」


時刻は午後2時を回っていた・・・

照りつける太陽は勝者にも敗者にも平等な光を注いでいた。


「監督・・・」
「彼女がオマエを待っている理由は、
イベント会場に行けばわかるんじゃないのか?」

そして監督は、戸惑うオレ手に『あるもの』を渡しながら言った。

「行って来いよ。ここで諦めるのはオマエらしくないんじゃないか?
ボヤボヤしているとホイッスルが鳴っちまうぞ。」
「・・・・・・」
「立ち止まって後悔するぐらいなら死ぬ気で走って来い!!オレの最後の指示だ!!!」

バッグから『切れたミサンガ』を握り締めて、オレは会場を走り出た。
もうひとつのオレの手には、監督から手渡された1万円が握り締められていた。

「1万もあれば、なんぼアイツでも無事に会場に着くだろう。」

そして、客席にいるキャプテンに親指を立てながら言った。
「ナイスなアシストだっただろう?」

キャプテンは、笑いながら親指を立てて応えた。
「オレも最後の最後でシュートが打てました。」

「外にタクシー1台止まっているからそれに乗って駅まで行けよ。」

会場を出るときにキャプテンが言っていた。

確かにタクシーが1台止まっていた。
泥だらけでボロボロのユニフォーム姿のオレを見たら
タクシーはすぐに後部座席のドアを開けた。

「あ、あの・・・」
「駅までだろ?」
「あ、ハイ・・・」

オレを乗せたタクシーは駅に向かって走り出した。

「試合には勝ったのかい?」
「・・・いえ・・・負けました・・・」
「そうか、負けたか・・・」
「・・・ハイ・・・あ、あの・・・」
「なんだい?」
「なんで、乗ってすぐにオレが駅に行くってわかったんですか?」

「おじさんの息子も試合に出るハズだったんだよ。」
「・・・だった?」
「息子はキャプテンしてたんだが準決勝で怪我してね。」

「え!!キャプテンのお父さん!?」

そう言いながら運転手は、オレの方をチラッとみてウインクした。

おじさんの豪快な運転のおかげ(?)で意外と早く駅に着いた。

「いくらですか?」
「ん?お金はいいよ。」
「え?・・・でも・・・」
「息子のチームメートから、お金は受け取れないなぁ(笑)」

キャプテンのお父さんはさらにこう言って笑い飛ばした。

「第一、メーター動かすの忘れてたから
いくらかわかんねぇんだよ。わっはっはっは」

「すいませんありがとうございます。
ありがとうございます・・・ありがとうございます・・・」

オレは、何度も何度も頭を下げた。

「いいから、早く行きな!
上りと下りを間違えんなよ!わっはっはっは」

オレは、痛み止めの効果の消えた足を引きづりながら
出来る限りの全力でホームに向かって走った・・・

泥だらけのユニフォーム姿はさすがに電車のなかでは目立った。

でも、今のオレにはそんなことは全く気にならなかった。
駅に停まる度に時計を探し時間を確認した。

もう30分切ったか・・・

ユニフォームが汚れていたのはわかっていたので
電車の隅っこでオレは他人に迷惑がかからないように小さくなっていた。

電車の中では何も考えることが出来なかった。
オレはただ、手に握られた『切れたミサンガ』をみつめていた・・・

『ちょっと下手だけど・・・作ったの・・・
アキナの好きな赤と舞波の好きなオレンジ・・・』
『舞波ちゃん、アキナちゃんに負けないように輝こうとしてるの。』
『人気者になっても寝顔を間近で見られるのはわたしだけの特権だから』

ここ3ヶ月のことが頭の中をよぎっていた・・・

地下鉄は、目的の駅に向かってガタンゴトンと一定のリズムを刻んでいた。

飯田橋駅に着いた。

オレは、舞波の手紙の通りに乗り換えるため
JRの乗り場まで走った。

延長戦を終えたばかりで痛い足を引きずりながら
知らない駅を走るというのは実際以上の距離を感じた。

泥だらけのオレの姿に
すれ違う大人たちは異様なものを見るような目で
オレを見ていた。

家族連れや学生の集団を避けながら改札を通り
すぐやってきた電車に飛び乗った。

電車内はエアコンが利いていて気持ちが良かったが
電車はすぐに水道橋駅に到着した。

テレビで見た東京ドームが見える・・・

時間は既にイベント開始時間を過ぎていた・・・

オレは、舞波が待っているラクーアまで
痛みで感覚が薄れた足を引きずって走った。


「大丈夫?」

イベント開始直前になっても会場の客席に姿を現さないアキナを気にして
表情がこわばる舞波に桃子が声をかけた。

桃子が、もう一度ステージの袖から客席を見渡しても
アキナの姿が見えなかった。

事情がわからない佐紀はそわそわしている桃子や
極度に緊張した表情の舞波にどうしていいものか困り果てていた

「笑顔出来る?」

舞波の顔を覗き込んで桃子が言った。
「ちょっと遅れてるだけだよ。ちゃんと来てくれるから。」
「わかってる。わかってるよ・・・・」

舞波は、衣装のポケットに入れた
『切れたミサンガ』を握り締めた。
ひとりの女の子からBerryz工房の舞波へ・・・

「笑顔♪笑顔♪」
ステージの袖で出番待ちをしている間、
桃子を中心にメンバーは笑顔の意識を高めていた。

そして、イベントが始まった。

夏休みで家族連れの多いラクーアで
ひとり息を切らせているオレは浮いた存在になっていた。

特設ステージって・・・どこだ?・・・

シューズのままで来たので俺が走る度にカチャカチャと
スパイクとアスファルトが当たる音がした。
人が並んでいるところがステージかと思って走って行くと
アトラクション待ちの列。
違うとわかって止まろうとすると
スパイクのピンがアスファルトに滑って転んで
そのたびに擦り傷を作った。

そのときどこからか・・・


「Berryz工房集合!」

と聞こえてきた・・・
オレは、スピーカーから聞こえてくる声を頼りに走った。

「Berryz工房集合!」
「Fu−!!」

「それでは、学年順から自己紹介いってみよー!
まずは、菅谷梨沙子ちゃんからぁ!」



桃子は、客席にアキナが見当たらないことを焦っていた。
「なんで、まだ来ないの・・・」

「・・・はぁ〜・・・」
対称的に舞波は、半ば諦めていた。
イベントだけは、完璧にこなしておこう・・・

「続いては・・・石村・・・舞波ちゃん!」
佐紀が、舞波の様子を見ながら紹介した。

舞波が、ステージ中央に立った。
「小学6年、12・・・」

言いかけたときだった。

客席に走り込んで来る泥だらけで汚いオレンジのユニフォームが見えた。

「あぁああっ!!来たっぁああああああ!!!!!」
同時にオレンジのユニフォームを発見した桃子が
ヘッドセットマイクが『ON』なのにも関わらず声をあげた。
会場に桃子の声が響いた。

カチャカチャカチャ・・・ズルッ!!

「痛っ!!」

慌てて飛び込んだのでシューズが滑って最後は大コケしてしまった。
気づいた回りの人たちに笑われてしまったが
起き上がったとき真正面のステージ中央にはすでに舞波が立っていた。

客席からステージを見上げるオレと
ステージから客席を見下ろす舞波の目線が合った・・・

一瞬だけ時間が止まったように感じた。

舞波は、声を出さずに口だけを動かして何かをオレに言った。


「待ってたよ」

そして舞波は、自己紹介の続きを始めた。


「小学6年、12歳。石村舞波ですっ!
えっと、・・・・・・」

両手を胸にあてがい言葉に詰まる舞波。
応援と冷やかしが混ざるファンの声援。
心配そうにみつめるほかのメンバー、

そしてオレ・・・


真夏の太陽がステージを照らしていた。

意を決したように舞波の口が再び開いた。


「わたしは・・・歌もダメだし・・・
ダンスも覚えが悪いし・・・トークだって下手で・・・
いつもみんなの足を引っ張ってばかりで・・・
何でBerryz工房に選ばれたんだろうって・・・ずっと思ってた・・・」

静まり返る会場

「今日、ある人と約束をしました。
その人はサッカーをやっていて今日が決勝だったんです。
応援に行ってたんだけど最後まで見ることが出来なくて・・・
その人は、決勝で勝って輝いて
わたしが、このイベントで輝くことが出来たら・・・
告白してくれるって言ってくれました・・・」

突然の内容に会場がざわめいた。
メンバーもスタッフも段取りになかったことで
慌てふためいていた。

「わたし・・・昨日まで、全然自信が持てなくて
今日が来るのがとても怖かった・・・
だけど、その人はそんなわたしに・・・
『小さな勇気』をくれました。」

舞波のからだは、真夏の太陽を
いっぱいに浴びていた。

「さっき、同級生から
『試合は負けた』ってメールが着ました。
負けちゃったから・・・
告白はされなくなっちゃった・・・」

会場を見渡しながらMCをしていた舞波が
オレに目線を合わせた。

「告白はされないけど・・・
今日、わたしが輝いてたら・・・
・・・わたしの方から告白してもいいよね」

会場はどよめきだちそして、異様な盛り上がりを見せた。

「石村舞波!今日のために一生懸命練習してきたので
応援ヨロシク!!!!!」

割れんばかりの拍手と声援で舞波は迎えられた。

「舞波ちゃん、スゴイ・・・」
桃子と雅が顔を合わせて言った。

イベントは大成功だった。
そして、残すは握手会のみとなった。

順番待ちで一斉に列が出来た。
背の低いオレには、客席からステージ上の
メンバーの姿を見ることさえ出来なかった。
それにオレは、泥だらけのユニフォーム姿だったこともあり
順番待ちの列には加わっていなかった。

握手会も終わりに近づき
順番待ちの列も終わりに差し掛かったとき

「ちょっとぉ!!そこのオレンジの『7』番の人!!
何かあるの忘れてるんじゃない?」

桃ちゃんがステージ上からオレに向かって言った。

舞波は、黙ってオレをみつめていた。

ちょっと躊躇したが
思い切ってステージに上がった。

そして、舞波の前に歩いていった。

「・・・負けてごめん・・・」
「負けたことなんて気にしてないもん。」

ちょっと間を空けて
「・・・今日のわたし・・・輝いてたかなぁ・・・」
舞波は不安げな表情でオレに尋ねた。

「も、もちろん。一番だったよ!
一番キレイだったもん!!一番輝いてたもん!!!」

舞波はホッとした表情を見せた・・・

オレは、上目遣いでみつめる舞波にドキドキが止まらなかった。

「・・・昨日、『小さな勇気』を分けてもらったから・・・
・・・その勇気で告白します!」

「アキナのことが好き!大好き!!これからもずっと好きだもん!!
これからもずーーーーっと一緒にいたい!!
だから・・・・・・

・・・・・・だから・・・・・・ずっと傍にいさせて・・・・・・」

時が止まってオレと舞波だけの空間になっていた。

「・・・オレの大切な人は・・・舞波だよ。
ずっと気がつかずにいたんだ・・・すぐ傍に大切な人がいたことに。
・・・オレの方こそずっと一緒にいて欲しいよ・・・」

ウォォォオオオオオオオオオ!!!!!!!!

静かだった会場が一気にわいた。

「あぁぁあああ!!ふたりとも・・・マイク入ったままだぁ!!!!」

桃ちゃんが慌てて言った。

 

〜〜エピローグ〜〜

その後、このイベントのことが事務所でものすごい問題になってしまった。
舞波がハロプロからクビになるんじゃないかぐらいの勢いになったが、
世間では意外にも舞波のこの行動が、同世代の女の子の共感を呼び
Berryz工房は、新たなファン層に支えられて国民的にも人気が出ていった。

そして12年たった・・・

24歳になったオレは今、スペインから帰国の途にある。

あのイベントがきっかけとなり、ハロプロ――ガッタス――北澤監督の伝で
中学生活をヴェルディ東京のユースですごし、
中3の時15歳でJ1デビュー。
17歳のとき日韓戦でA代表デビュー。
2010年、2014年とW杯に出場。

2014年のW杯の時には、途中出場の3試合で4得点。
この活躍でスペインの古豪アトレチコマドリッドに移籍した。
2年目でレギュラーに定着、3年目の今年、念願の得点王になった。
日本人のサッカー選手としてオレはスペインで大成功を収めていた。

オレは今でも『7』番をつけている。

成田空港記者会見場

「得点王おめでとうございます。」
「ありがとうございます。
みなさんが日本から応援してくれたおかげで
1年間、好調を維持することが出来ました。」
「もうひとつ、おめでとうですよね?」

「はい・・・ずっと、
長い間ボクを支えてくれた女性と結婚します。
その女性を紹介します。


ボクの隣にいます、石村舞波です。」


〜〜おしまい〜〜