■掲示板に戻る■


【小児病棟】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/01/26(水) 18:16:05

今日から僕は入院する
半年ぶりの入院だ
心臓のシュズツを受けるためだ
僕は生まれつき心臓に重い病気があって、ずうーっと入院してたまに退院する生活を送ってきた
そして、何回もシュズツを受けた
でも、でも、今度のシュズツが無事に終われば・・・・・・・僕は元気になる
そう、今度の入院が最後の入院になるのだ
「前の病室ね、満員だから今度は別の部屋なんだけど、いい?」
ナースの飯田さんが言う
「うん、いいよ・・・・・・別に仲の良かった奴とかいなかったし」
僕は病院では患者仲間とはなるべく仲良くならないようにしている
それは、別れがつらくなるからだ
元気になって、先に退院する友達を、素直に祝福できなくなってしまう
そして、もう一つの別れが、とてつもなく辛くなってしまう
もう一つの別れ・・・・・・・・・・
朝、目覚めると、誰かのベッドが空になっている
小児病棟では珍しくない、とってもとっても悲しい別れ
誰とも仲良くならなければ、誰かのベッドが空になっても、悲しみが大きくならない
そして、僕がいなくなった時に、誰かをいっぱい悲しませなくってすむ
だから、僕は病院では友達を作らない

「じゃあ、この部屋の、そこの奥のベッドがキミのベッドだからね」
僕は飯田さんに言われたベッドに向かう
そして同じ部屋の仲間に、軽く自己紹介をする
仲良くなりたくないから、わざと愛想を悪くしながら

「チサトだよ!よろしくね!」
僕の隣のベッドの子が笑顔で手を伸ばす
「ああ、よろしく・・・・」
素っ気無く答えて軽く握手
ベッドの名札には「岡井千聖」と書いてある
僕と同じ3年生か
茶色くて、ちょっと髪が長い、女の子のようなかわいい顔つきで、明るく元気な子のようだ

入院する子のタイプには、2種類のタイプがいる
入院や病気に怯えて、ヒステリックになったり暗くなっちゃうタイプ
そして、チサトのように、病気にも入院にも慣れっこで、明るく元気に振舞うタイプ
実は、危ないのは・・・・・・突然ベッドが空になっちゃうのは・・・・・チサトのようなタイプだ
だから、僕は絶対にチサトのようなタイプとは仲良くならない
「ねえ、キミはどこが悪いの?」
「心臓」
「心臓!?チサトと一緒だねー!力を合わせて頑張ろうね!」
患者同士で頑張ったって病気が良くなったりすることは無い
だから僕はこういうタイプが嫌いなんだ
「ねえ、キミもシュジュチュ受けるの?」
僕はちょっと笑ってしまった
「ぷっ、バーカ、シュジュチュじゃなくてシュズツだよ」
「えーっ!?シュジュチュだよぉ〜!」
「シュ・ズ・ツ!」
僕らのやり取りを聞いていたナースの飯田さんが口を挟む
「はいはい、2人ともちゃんと言えていませんよ」
「じゃあ飯田さんは言えるのかよ?」僕が聞く
「カオリちゃんはちゃんと言えるの?」チサトも聞く
「・・・・・・・・・・・・・・オペ・・・・」
僕ら3人は声を上げて大笑いした

僕は、絶対仲良くなりたくなかったチサトと、仲良くなってしまった

チサトはよく本を読んでいる
僕もチサトの本を何冊か読ませてもらった
「この動物図鑑、気に入った?」
「うん、僕ね、大きくなったらね、動物の仕事をしたいんだ・・・・・・飼育係とか」
「へーっ!飼育係かぁ〜!なれるといいね!」
「チサトは大きくなったら何になりたいの?」
「チサトは・・・・・うーん・・・・とりあえず元気になって学校に行きたい!」
僕はドキっとした
チサトは、大人になった自分が想像できないくらい重病なんだろうか・・・・?
「あっ、チサトはサッカー好きなの?」
嫌なことは考えたら現実になるような気がした
だから話題を変えたいと思った
「うん!チサトね、元気になったらサッカーチームに入りたいんだ!」
そして今読んでいるサッカー雑誌の写真を指差しながら嬉しそうに喋り出した
僕はチサトのベッドに移って横に座り、話を聞いた
チサトからはほんのちょっと甘くていい匂いはした
「・・・・・・・・でね、この人すっごいんだよ〜!」
チサトが僕の方を見てニコっと笑う
なんでだろう、この笑顔を見ていると、すっごく幸せな気分に・・・・・・・・・・
「あっ、あっ、あっ、た、大変だあ〜!心臓が、僕の心臓が〜!」
急に心臓がものすごい速さでドキドキし始めた
「あ〜!大変だあ〜っ!大丈夫!!??ナースコール!」
僕と一緒で心臓が悪いチサトは、僕の心臓のドキドキがどれほど危険か知っている
慌ててナースコールを押してくれた
ナースの飯田さんがすっ飛んできた
そして僕を抱えてドクターのいる処置室に急いだ
処置室で僕は、体温を測られ、いろんな色のコードを体につけられ、血を抜かれた
ドクターの寺田先生がやって来て、検査結果に目を通す
「う〜ん、これは・・・・・・・・・・」

「どっこも悪くないで〜!少年!」
寺田先生が僕の頭を撫でながら言った
「言うてみ、何したら急にドキドキしたん?」
「チサトと一緒に本を読んでて、チサトの笑顔が気になるな、って思ったら急に・・・・・・・・」
寺田先生とナースの飯田さんは顔を見合わせて急に笑い出した
「ワッハッハッハッハ、少年、それは恋や、ちょっとだけ大人になったってことや!」
え〜!?だって、チサトは女の子みたいに見えるけど、男の子だろ?
僕ってヘンタイだったのか〜!?認めたくない、認めたくないぞ〜!
僕は怒りで顔が真っ赤になった
「あらあら、顔が赤くなっちゃって、図星ね?みんなには黙っていてあげるから」
飯田さんは僕の気持ちも知らずに言う
「少年、あのドキドキは、嫌な感じ、せえへんかったやろ?ちょっと嬉しい感じだったやろ?」
言われてみれば確かに幸せな感じのドキドキだった
僕は思わず黙って頷いてしまった
「な?それが恋や!それがロックや!」
僕はすっかり混乱してしまった
僕はヘンタイなの?それとも僕は本当は女の子なの?
さり気なく股間を触ると・・・・・・ついてる、やっぱり男だ
「今度からチサトちゃんでのドキドキは気にしなくていいからね」
飯田さんが嬉しそうに言った
僕は飯田さんに手を引かれて病室に戻った
みんなが大丈夫?って心配してくれる
下を向いて何も言わない僕の代わりに飯田さんが「大丈夫よ」って言ってくれる
自分のベッドに戻ると、チサトが
「何事もなくってよかったね!心配したよ!」
って言ってくれた
僕はチサトの顔を見ることが出来なかった

シュズツ前日
「え〜っ!?4回もシュジュチュ受けてまた受けるの〜ぉ?」
「うん、でもたぶん今度のシュズツで最後」
「怖くない?」
「うん、もう慣れっこ、へっちゃらだよ」
「強いなぁ!チサトは何回受けても怖くて怖くて」
「へぇ〜!?チサトも何回もやってるのか!?ちょっと傷見せてよ」
軽い気持ちだった
「えっ?や、やーだよぅ!や〜だ〜!」
「いいじゃん、僕も見せてあげるから」
僕は自分のパジャマをめくった
「や〜ん、見たくない、見ーたーくーなーい!」
「いいじゃん、ほらチサトも見せろよ!」
僕はチサトのベッドに飛び移り、チサトのパジャマに手をかけた
「やーん、やーだー!やめてよ〜!うわあ〜ん!」
チサトは泣き出してしまった
「コラ、女の子になんてことするんだ!」
いつの間にか僕の後ろに現れていたナースの飯田さんにゲンコツを食らった
「ヒドイよぉ・・・・・・・」
チサトは半べそだ
「チ、チサトって・・・・・・・・・・・女の子だったの?」
僕はヘンタイじゃなかったんだ、と思ってほっとした
「ひょっとして・・・・・・チサトちゃんのこと男の子だと思ってたの?」
目を点にしながら訊ねる飯田さんに黙って頷いた
「そっ・・・そんな・・・・・・・・・うわああああああああーん!!!!」
チサトはさっきよりも激しく、とても入院患者とは思えない声の大きさで泣き出した
そして飯田さんがいくらなだめても、僕がどんだけ謝っても、泣き止まなかった
チサトは・・・・・チサトちゃんは、消灯時間まで泣きつづけた

シュズツ当日
「頑張ってね〜!」
「帰ってきたらまた遊ぼうね〜!」
みんなが励ましてくれる
シュズツを受ける誰かの姿は、明日の、昨日の、自分の姿
だから仲が良くない相手でも、ケンカ中の相手でも、何があってもどんな相手でも励ましてあげる
それが小児病棟の仲間の暗黙のルール
「チサト・・・・ちゃん、シュジュチュ、行ってくるね」
チサトちゃんが笑顔で送ってくれたら、仲直りできる気がする
チサトちゃんが笑顔で送ってくれたら、元気になって帰って来れる気がする
でも、チサトちゃんは・・・・・・・・
「・・・・・・・・ガンバレ・・・・・・・・・・・・」
小さい小さい、微かにしか聞こえない声で呟いただけだった
一度も僕に顔を向けてくれなかった
でも、明日この部屋に帰ってくれば・・・きっと・・・・・仲直りできるよね?
へっちゃらだと、怖くないと思っていたシュズツが、ちょっぴり怖くなってきた
「大丈夫・・・・・・・・・大丈夫だよ」
僕のベッドを押すナースの飯田さんが、僕の不安に気付いたようだ
僕の手を握ってくれた
ちょっぴり勇気がでた
この手がチサトちゃんの手だったらもっともっと勇気がでたのに
シュズツ室に入った
マスクをした寺田先生が待っていた
「ほな、頑張ろっか?」
僕は黙って頷いた
麻酔が効いてきて眠くなった

「・・・・・・メンネ・・・・ゴメンネ・・・・・・・」
チサトちゃんの声が聞こえる
「ゴメンネ・・・・・・・バイバイ・・・・・・・・」
チサトちゃんが悲しそうな顔をして手を振っている
チサトちゃん?どうしてバイバイなの?チサトちゃん!?
目が覚めた
ここは・・・・・・シュズツ後に、麻酔が覚めるまで入れられる部屋だな
「目が覚めた?」
飯田さんじゃあない、見たことないナースの人が聞く
「・・・・・・うん・・・・・・・・」
僕は搾り出すように声を出した
まだ麻酔が残っているのか、頭がボーっとする
「もう少し眠る?」
「・・・・・・うん・・・・・・・・・」
次に目が覚めた時、僕はすっきりした気分で目が覚めた
麻酔はもう抜けたらしい
シュズツを受けた傷口が痛い
昨日のナースが痛み止めの薬を飲ませてくれた
しばらくすると飯田さんが来た
「おかえり」
僕は黙って頷いた

飯田さんが言うには、シュズツが終わったその日の夜には麻酔が解ける予定だったけど、
僕は次の日の夜遅くまで、まる1日余分に眠りつづけたらしい
「みんな帰りが遅いから心配していたんだよ」
飯田さんが僕をベッドのままチサトちゃん達のいる病室に押していった
「わあ〜!おかえりー!」
「良かったぁ!おかえりー!」
みんなが祝福してくれる
「遅れちゃってゴメンね」
僕はみんなの祝福が恥ずかしくって、小さな声で答える
チサトちゃん、まだ怒っているかな?
そう思ってチサトちゃんのベッドを見ると・・・・・ベッドは空だった
チサトちゃんの荷物はきれいに片付けられていた

チサトちゃんがいない・・・・・・・・・
まさか・・・・チサトちゃんは・・・・・・・あの時の夢の中のバイバイは・・・・・・・
誰かに聞きたいと思った
でも・・・それは・・・・悲しみを堪える誰かに、悲しみを思い出させてしまう
絶対に聞いちゃいけないことなんだ
「これ・・・・・チサトちゃんから・・・・・・・・・」
飯田さんがチサトちゃんの動物図鑑を差し出す
これ・・・・・・カタミってやつだね・・・・・・・・・
この図鑑を開いたら、僕はチサトちゃんの笑顔を思い出して泣いちゃうだろう
僕が泣いたら同室の仲間や、飯田さんに悲しみを思い出させてしまう・・・・・・・・
僕は必死に涙を堪えながら、動物図鑑をベッドの下のリュックサックに放りこんだ
ああ、チサトちゃん・・・・・・仲直りしたかった・・・・・・・・・
チサトちゃん、泣かせちゃってゴメンね・・・・・・・・・・
僕は泣いてるのがバレないように、枕に顔を埋めて寝たふりをした
その日の晩御飯から僕は食事が許可された
大好物のコロッケが出たけど美味しくなかった

誰かが突然いなくなっても、すぐに吹っ切って、忘れる
そうしないと自分の病気に悪い影響が出る
小児病棟のベテランなら、みんな知っている
友達を作らない僕の得意技
なんだけど、僕は3日経ってもチサトちゃんのことを思い出にすることができなかった
寺田先生は、僕のシュズツ後の回復が遅いのを気にしている
このままじゃもう一回シュズツしないといけないかも・・・・・・とも言っている
僕はチサトちゃんに会えるなら、チサトちゃんに謝れるなら、天国に行ってもいいとさえ思っている
それなのに、そんな僕の気持ちを知らずに、同室のみんなははしゃいでいる
無神経もいいところだ
「みんなー!元気ー!」
と、無神経なチサトちゃんの声がする
だいたい元気なら入院しているわけないじゃないか!
ん?チサトちゃん?
「お見舞いに来たよー!」
サッカーのユニフォームを着たチサトちゃんが病室に入って来る・・・・・・・・・・・・
チサトちゃん・・・・・・・足がある・・・・・・・・幽霊じゃない・・・・・・

チサトちゃんは僕のベッドに走ってきた
「うわー!戻ってきたんだ!良かったあ!ねえ、お手紙読んでくれた?」
「え?手紙?」
「プレゼントした図鑑に挟んであったでしょ?」
僕は慌ててリュックサックから動物図鑑を取り出した
真ん中らへんに4つ折りにされた紙が挟まっていた
『仲直りできなくてゴメンね 今日戻ってくるはずなのに戻ってこないので心配しています
 千聖は今日、一足先に退院します このずかんを千聖だと思って大事にしてね 
 元気になったらいっしょにサッカーしようね 早く退院できるようにおいのりしています
 岡井千聖より』
「お手紙読んでくれなかったの?ヒドいなあ」
チサトちゃんは、この前僕の心臓をドキドキさせた笑顔で僕の顔を見つめる
「チサトちゃん・・・・・チサトちゃんが生きてた・・・・・・チサトちゃんが・・・・・」
僕は必死に堪えようとしたけど、涙が出てきた
「え〜っ!?チサトが死んじゃったって思っていたの?また早とちりしちゃってえ〜!}
「だって、だって、だって・・・・・・・・・・うえぇええぇぇぇ〜ん!」
僕は声を上げて泣き出してしまった
「もう、男の子が泣いちゃダメでしょ?でも、チサトのこと、心配してくれてありがとう」
そう言うとチサトちゃんは僕のおでこにキスしてくれた
心臓が、ものすごい速さでドキドキドキドキする
でも、これは・・・・・・・嬉しい、幸せなドキドキだ
ロックなドキドキだ 
「もう〜、傷見せてあげるから泣き止んでよ〜!」
「えっ!ちょっ、ちょっと、ダメだよ、お嫁に行く前の女の子がこんな人前で・・・・・・・・・」
「バーカ、冗談冗談♪」
チサトちゃんは飛びっきりの笑顔で僕をからかう
僕の心臓はもっともっとロックになった

おしまい