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【日本一の鈍感男】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/01/23(日) 03:16:31

「あのな、清水、俺、えーっと、その、あの、いわゆる、ひとつの・・・・・・・・・・・」
クラスで一番大きい俺を学校で一番小さい清水が見上げている
『好きだ』この一言がなかなか言えない俺の心臓は破裂しそうだ
「で・、その、うーん・・・・・・・・・・・清水って眉毛太くて濃くてカッコいいよね」
またやってしまった
『好きだ』の一言が言えずに誤魔化してしまう
これで3度目
清水はまたか、やれやれ・・・・・・・って顔で俺を見ている
「あのねえ、女の子はルックス誉められたらイヤな気はしないけどねえ・・・・・・
眉毛が太くて濃いってのは誉め言葉になってないよ」
身長差が35cmもあるのに俺が見下されているようだ
「他の女の子に恋の告白するときなんかにこんなこと言っちゃダメだぞ!で、用件はそれだけ?」
今更好きだなんて言えないから黙って頷く
「じゃあ、教室に戻ろうよ。次の時間は数学でしょ?稲葉先生怒らせると怖いよ」
あー、何やってんだろ、俺
情けなさ全開で清水と教室に戻る

「あのさ、清水、えーっと、うーん、すっ、すっ、すっ。すっごくショートカットが似合ってるよ」
「あらそう?ありがとう」
「で、その、あの、うーん、髪切った?」
「切ったからショートカットなんでしょ?もう、用件はこれだけ?」
「・・・・・・・・うん」
4回目
でもちょっとは前進したと思う

「えーっと、んー、その、何と言うか・・・・・・・・・・・清水って小さいよね」
「言われなくてもわかってます」
「ちっちゃいからポケットに入れていろんな所に連れて行きたくなっちゃうよ」
「例えばどんなところ?」
「えーと、遊園地とか、映画館とか、トイレとか・・・・・・・」
「あのねえ、女の子トイレに連れていってどうするのよ?用がないなら帰っていい?」
「・・・・・・・・・・・・・・はい」
5回目
いつものやれやれ顔で清水は去っていく
でも、ずーっと一緒にいたいという意思は伝えられた・・・・・・のかな?
清水が敏感なら俺の気持ちに気付いてくれるだろう

6度目の呼び出し
「ずっ、ずっ、ずっ、ずっ、ずっ、ずっ・・・・・・・・・・」
ズンドコ節でも歌っていつものように誤魔化してしまおうかと思った
清水の顔を見ると・・・・・まだ誤魔化していないのにやれやれ顔になってる
これじゃあいかん!
覚悟を決めると俺は大きく息を吸って目を閉じた
「ずっと前から好きでした!付き合ってくださいっ!!!!!」
息を吐き尽くしてから、恐る恐る目を開く
清水は・・・・・嬉しそうな表情だ
「やればできるじゃ〜ん!このこのっ!」
俺のわき腹を人差し指で突っつく
「でもダメ!お付き合いはできませーん!」
その日から3日間に渡って、下校時間、休み時間、家に帰ってからの電話などでマンツーマンで清水にダメ出しされ続けた

ダメ出しを俺なりに分析してみたが、どうもムードが足りないということらしい
「父ちゃん、女口説くときにムードが足りなかったらどうすんだ?」
俺は風呂上りの晩酌を楽しむ父ちゃんに聞いた
「んー?ヌード?そりゃストリップだろ?」
ダメだ、酔っ払ってる
「何バカなこと言ってるんだい!?ムードって言ったら映画だよ!」
母ちゃんが父ちゃんの頭をフライパンで引っ叩きながら言う
そうか、映画か
明日は日曜日
俺はすぐに電話で清水を映画に誘った
2つ返事でOKしてくれた

「ねえ、あの映画にしよっ!」
清水が指差したのはハムスターが主役のアニメ映画だった
他にめぼしい映画がないのでOKした
子供向けの下らない映画だろうと思っていた
でも面白くて引き込まれてしまった
「あんまり面白くなかったね」
映画の後で寄った喫茶店でコーヒーを飲みながら清水が言う
「そ、そうだね」
不本意だけど同意する
チョコレートパフェを食べ終えた俺は清水にアタックする
「俺と付き合って下さい!そして一緒にデートして下さい!」
飲んでいたコーヒーを吹き出した清水が笑いながら言う
「あんたみたいな鈍感な人とは絶対にデートなんてできません!」

その後も毎日清水と一緒に下校したり、夜、家から電話したりして清水のことを知ろうとした
そして何度も告白した
しかし全て断られた
うーむ、何がいけないのか?
何が足りないのか?

一緒に恐ろしい体験をした男女は、恐怖感と恋愛のドキドキ感の区別がつかなくなる
そして、容易に恋愛関係に落ちてしまう
TVで言っていた
よし、これを使おう
次の日、学校で清水を遊園地に誘った
今度の土曜日ならいいよ、って言ってくれた

午前中は無難なアトラクションで楽しんでるフリをして、午後になったら絶叫マシーン
そういう計画を立てた
実際に実行してみると、清水と一緒だとどんなアトラクションでも楽しい
清水もとっても楽しんでいるようだ
これならうまくいきそうだ

「ねえ、あれ乗ろう」
俺がジェットコースターを指差す
「えーっ?怖いのはちょっと・・・・・・・・・・」
嫌がる清水と一緒に強引にジェットコースターに乗った
ものすごく怖い
これなら絶対上手くいく
清水を見ると午前中より楽しそうだ

「今度はあれに乗ろう」
清水はさっきのより数倍恐ろしそうなジェットコースターを指差す
よ、よし、これなら清水も怖がるだろうと思い頷く
おしっこちびるかと思った
腰が抜けた
清水は「もう一回乗ろう」って楽しそうに言ってる
必死に断った

帰りの電車
震えが収まらない俺の手を清水がぎゅっと握ってる
向かいの席を見ると、カップルが同じように手を握り合ってる
ん?これって・・・・・・・・・・・・・・?
頭の中でこれまでのことを整理する
よし、間違いない
「ねえ、清水、大事な話があるからちょっと次の駅で降りない?」
清水は「うん、いいよ」って言った

快速列車は通過する小さな駅
ホームには俺と清水以外誰もいない
売店も、自販機も、ベンチもない
ホームの隅に並んで立った

「なあ、清水、おまえさあ、俺が付き合ってくれとかデートしようって言うといつも断るよな?」
「うん」
「でもさあ、これってデートじゃないのか?
毎日一緒に帰ったり電話したりって、付き合っているって言うんじゃないか?」
清水の顔をじーっと見つめた
清水はみるみるうちに笑顔になり、腹を抱えて笑い出した
「ゴメンね、いつ気付くかなーって思ってずーっと黙ってたの」
「な、なんだよ、それ、ヒドイなあ」
「じゃあ、鈍感クンに気付いたご褒美をプレゼントしまーす!目を閉じてください」
俺は目を閉じた
唇の先に何かが触れた
微かに湿っている
その何かが唇から離れてから俺は目を開けた
「どうですか?ご褒美のチューは?」
清水は嬉しそうにおれを見上げながら言った
ホームに電車が入ってきた
俺は黙ったまま清水の手を引いて乗り込んだ

電車の中ではご褒美のチューのことしか考えられなかった
ファーストキスだから当然だろう
しかし、何か違和感を感じる
何かがおかしい
神妙な表情の俺を、清水はニヤニヤしながら見ている
電車が乗換駅に着いた
清水は俺の手を引っ張って乗り換えるべきホームを目指す
階段で、一歩前を歩く清水を見て違和感の正体がわかった
乗り換えの電車が来るまで15分
俺たちはベンチに並んで腰を下ろした

「なあ、清水、さっきのキスじゃないだろ?」
清水はニヤニヤしながらこっちを見ている
「だって、おまえ背伸びしても届かないだろ?
それにあそこには踏み台になりそうなものは何にも無かったし・・・・・・・・」
清水は右手の人差し指と中指で投げキッスをして、そのまま指2本で俺の唇に触れた
ああ、そうだ、この感触、さっきの『ご褒美のチュー』と一緒だ
「鈍感クンにしては気付くの早かったわね」
そう言うと清水の顔が近づいてきた
鼻息の暖かさを感じる
指先よりもずっとずっと柔らかいものが唇に触れた
「これが本当のご褒美のチューだよ」
心臓がかつてない速さで高鳴る
血液が首から上に集まる
鼻血が噴き出した

「もう!何でこんなことだけ敏感なのよ!」
俺を膝枕している清水が怒る
「ゴメンネ」
そう言いたかったが、両方の鼻の穴にティッシュが詰まってるのでうまく言えない
「でも、そういうところがカワイイんだよね」
清水が俺の頬っぺたを突っつく
電車を2本見送った所で鼻血が止まった
「ねえ、清水、俺のこと好き?」
鼻からティッシュを抜きながら聞いた
「あんた本当に鈍感ね」
「え?」
「嫌いだったらファーストキスの相手に選ばないでしょ!」

おしまい