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【満月の猫】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/01/24(月) 21:20:30

「じゃあね〜!また明日〜!バイバーイ!」
夕方の公園
6時になるとみんな帰っていく
僕だけ1人、もう少し遊んでいく
両親は共稼ぎで夜遅くまで帰ってこない 
7時になった
そろそろ帰ろうかな
今日は満月がきれいだ
「ミー」
砂場の近くのベンチの下に何かいる
子猫だ
真っ白で、痩せていて、毛並みのきれいな猫だ
左の前足にケガをしているようだ
「どれどれ、ちょっと見せてごらん」
僕は猫を抱き上げる
「ミー!ミー!フギャー!」
白猫は右前足と両方の後ろ足をばたつかせ、必死に抵抗する
「わっ、痛え!こら、引っ掻くな!」
右手の甲に傷を作りながらもケガしている足を見ると・・・・・骨が折れている
僕はこの猫を家に連れて帰って手当てをすることにした
近所に動物病院はない
とりあえず手当てをして、明日になったら父さんに車で動物病院に連れていってもらおう
家への帰り道、僕の胸の中で白猫は必死にもがく
傷が増えた

救急箱を押し入れから引っ張り出し、消毒薬と包帯を取り出す
念の為、子猫の折れた足を消毒薬で拭いてやる
「ギャー!フギャー!」
毛を逆立てて怒る
また引っ掻き傷が増えた
もう痛いのにもなれた僕は、猫の折れた足を真っ直ぐにして、割り箸を当てて包帯を巻く
素人にしては上手にできたと思う
猫は包帯を口で外そうとする
「こら!我慢しろ!我慢しないと治らないぞ!」
猫に言葉が通じるはず無いよな、と思いながら叱った
だが猫に通じたのか、それとも僕の気迫に押されたのか、猫はシュンとして包帯を気にしなくなった
温めた牛乳と煮干を別々の皿に乗せ、猫に差し出す
猫はものすごい勢いでミルクを飲み干し、煮干を平らげた
「おまえ、腹ペコだったんだな」
引っ掻き傷を消毒しながら呟いた
「おまえ、名前は何ていうの?」
「ミー」
「そうかミーちゃんか、僕んちの猫になる?」
「ミー」
腹が膨れた猫は嬉しそうに鳴く
「よろしくね、ミーちゃん」
僕はミーを抱きかかえた
ミーは自分でつけた僕の引っ掻き傷を舐めている
お詫びのつもりだろうか?
窓を開けて外を見ると、大きくてきれいな満月を雲が隠そうとしている
「ミ?ミー!」
突然ミーが僕の胸から逃げだし、開いている窓から外へ逃げていった

翌日は雨だった
公園で遊ぶこともできないので僕は1人で家でテレビを見ていた
ミーが帰ってきてもいいように、昨日の窓は開けっぱなし
「すいませーん」
その開いてる窓から誰かが顔を突っ込んで声をかける
初めて見る女の子が立っていた
「昨日は猫が・・・・・私のミーがお世話になったのでお礼を・・・・・・・・・」
そう言う女の子に玄関の方に回ってもらい、家に上げた
「ミーの飼い主の人?」
「あ、えーっと、そんな感じです」
「この近所に住んでいるの?」
「あ、うーんと・・・・・・この辺一帯ですね」
「名前は?」
「ミーです」
「猫じゃなくてキミの名前」
「あの、えーと、マイミです」
ちょっと変わった子だな、と思った
よく見ると上品で美人な感じで、白くてきれいなワンピースがよく似合っている
お金持ちのお嬢様かな?だからちょっと庶民の僕とは違っているのかな?
そんなことを思った
「で、今ミーはどうしているの?」
「あ、ミーは、えっと、その・・・・・・・・たぶん家でゴロゴロしてます」
彼女のワンピースの左の袖から包帯が覗いていた

マイミちゃんとの会話は楽しかった
気がつくと夜の9時を過ぎている
「マイミちゃん、帰らなくていいの?」
「え?帰るって・・・・・・私の家に?帰った方がいいですか?」
「家の人もたぶん心配しているよ!帰らなくっちゃ!」
僕は彼女に家に電話を掛けさせようと思った
彼女の電話番号を知るチャンスだ
でも、マイミちゃんは「うち、電話ないの」と言った
変な子だ
とりあえず家まで送っていくことにした
雨は上がっていた
マイミちゃんに帰り道を聞いても「あっちかな?」たぶんこっち!」「やっぱりこっち」と要領を得ない
同じ場所をグルグル回っているようだ
困り果てて夜空を見上げると、雲が晴れようとしている
もうすぐ月が見えるだろう
その時、マイミちゃんが
「あ。ここ、ここでいいから、じゃあね、ミーによろしく!」
と言うと走って闇に消えていった

家に帰るとミーがいた
マイミちゃんは「ミーが遊びに来たら優しくしてやってね、美味しい煮干もお願いね」って言ってた
僕はミーに煮干を出してやった
「なあ、おまえの飼い主、かわいいな、美人だよな」
と、煮干を齧るミーに声をかけた
ミーは何故か恥ずかしそうに僕にネコパンチを繰り出した

その日からマイミちゃんは時々僕の家に遊びに来るようになった
そして、最初に会った日のように夜遅くまで平気でいたかと思えば、
まだ夕方の4時前なのに慌てて帰ろうとすることもあった
ミーも夕方や夜中にひょっこりやって来ては煮干を食べていく
そして窓から逃げていく
不思議なことにマイミちゃんとミーが一緒に僕の所に現れることは1度もなかった

テレビでは松浦亜弥が歌っている
マイミちゃんはその歌に合わせて楽しそうに踊っている
長くて細い手足をリズミカルにしならせる
つま先から指先まで、細くて美しい全身のラインに目を、心を奪われる
「ねえ、マイミちゃんおマイミって・・・・・・・・・・・・・・・」
歌が終わって軽く息を切らせるマイミちゃんに聞く
「踊るの『舞』に『美』しいって漢字を書くの?」
マイミちゃんはちょっと考え込んでから
「うん、そういうことに・・・・・・じゃなくて、そうだよ」と言った

「舞美か・・・・・彼女らしい、素晴らしい名前だね」
彼女が帰った後で煮干を食べに来たミーに言った
ミーは恥ずかしそうに俯いて、いつもは完食する煮干を残してしまった
その夜、僕はミーを抱いて寝た
朝起きるとミーはいなくなっていた
夕方になって遊びに来た舞美ちゃんは、どういう訳か恥ずかしそうにして一言も喋らなかった

「ねえ、舞美ちゃんってかわいいよね、最高だよね・・・・・・・・・・・・・・」
牛乳を舐めるミーに語りかける
「僕ね、今度舞美ちゃんが来たらね、告白しようと思うんだ」
その瞬間、ミーがゲホゲホむせて牛乳を吐き出してしまった
「おいおい、ミー何やってんだよ〜!・・・・・・・舞美ちゃんに会ったらよろしく言っといてくれよ」
ミーがこぼした牛乳を拭きながら語りかけた
ミーは恥ずかしそうに小さな声で「ミ〜」と鳴いた

翌日、いつになく真面目で、それでもどこか恥ずかしそうな顔をして舞美ちゃんはやって来た
僕はミーを拾った公園に舞美ちゃんを連れ出した
そして想いを告げた

「ごめんね・・・・・・・・・気を悪くしちゃった?・・・・・・・嫌なら今言ったことは忘れて・・・・・・・・・・」
僕の告白に下を向いて黙り込んでしまった舞美ちゃんに声をかけた
「違うの・・・・・・・・嬉しくて・・・・・・・どうしていいのかわからなくって・・・・・・・・・・・・・・・」
下を向いたまま舞美ちゃんが答えた
「・・・・・・・・あの・・・舞美ちゃん・・・・・・・・・・・・・」
僕は舞美ちゃんの両肩に手を当てて呼びかけた
舞美ちゃんは顔を上げて僕の顔をしっかりと見つめる
声をかけてみたんだけど・・・・・・・・・・・・・・・何を言えばいいのか?何をしたらいいのか?
僕の困惑が舞美ちゃんにも伝わったようだ
舞美ちゃんは無言でニコっと笑うと、目を閉じて唇を軽く尖らせた
キスを求めているのだろうか?周囲は夕闇に包まれている
僕は呼吸を整えると、舞美ちゃんに顔を近付けた

「イヤ〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
今にも唇が接触する、鼻息を肌で感じるような距離に近付いた時、僕は舞美ちゃんに突き飛ばされた
舞美ちゃんはものすごい速さで夜の帳の下りかけた町へと走り去る
滑り台が、星が、満月が、情けない僕を嘲笑っているような気がした

「なあ、ミー、僕、フラれちゃったよ・・・・・・・・・・」
どういうわけか煮干を食べようとしないミーに語りかける
「女心っていうのはわからないね・・・・・・・・・・」
ミーを抱きかかえて、ミーの顔を正面に捉えて言う
僕はミーにキスをした
「猫が相手ならできるんだけどね・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ミーは僕の腕から飛びあがり、窓から猛ダッシュで逃げていった
あーあ、ミーにもフラれちゃった

翌日、ちょっとした用事で学校を出たのは6時を過ぎていた
舞美ちゃん、僕んちに来たかな?でも昨日あんあことがあったし・・・・・・・・・
そんなことを想いながら走って家に向かう途中、あの公園のそばでミーを見つけた
ミーは車に轢かれたのだろうか、血まみれで、苦しそうに痙攣していた
「おい、ミー、大丈夫か?しっかりしろ!」
だが、直感でもう助からないだろう、とわかる
僕は泣きながらミーを抱え、公園に入るとベンチにミーを横たえた
月光に照らされたミーの体の白い毛は、赤黒く濁った血に染まっている
僕はせめてミーの体をきれいに拭いてやりたいと思った
ポケットからハンカチを取り出し、水道の元に走る
月が雲に隠れたのか、辺りが少し暗くなる
ハンカチを濡らしてベンチに戻ると、そこには血まみれで息も絶え絶えの舞美ちゃんが寝ていた
「ちょ、ちょっと、舞美ちゃん、どうしたの?救急車呼ばなきゃ!」
慌てて公衆電話に向かおうとする僕を「待って・・・・いい・・・・の」と舞美ちゃんは制した
「話を・・・・・・・・・・聞い・・・・て・・・・欲し・・・・・・・・いの」
苦しそうに舞美ちゃんは語り出した
僕が喋っちゃダメだ、と言っても聞いてくれない
「私はね・・・・・人間じゃ・・・・・・・・・・ないの・・・・・・猫又とか・・・・・化け猫とか・・・・・・・」
舞美ちゃんは血を吐いた
僕は舞美ちゃんの顔の血をハンカチで拭いて、震える手を握った
「そう・・・呼ばれて・・・・・・・いる・・・・・生き物・・・・・・・最後・・の・・・生き残り・・・・」
僕はわかった、と頷いた
「私・・は・・・・・・ミーで・・・・・・月・・・・・・・・」
「舞美ちゃんはミーで、月が出ているとミーになるんだね?」
舞美ちゃんは苦しそうに笑顔を作ると頷いた

「私は・・・・人間・・・・・嫌い・・・・だったけど・・・・・・・あなた・・・・優しくて・・・・好き・・・・」
そこまで言うと舞美ちゃんは最後の力を振り絞って起きあがった
「人間の姿で・・・・・・キス・・・・・・・したかった・・・・・・・・・・・」
肩で息をしながら涙を流している
「うん、わかった・・・・・・・・・・」
僕が顔を近づけると「よご・・れちゃう・・よ」と苦しそうに言う
僕は無視してキスした
血とミルクの味がする
突然舞美ちゃんの気配が消えた
目を開けるとミーが月に照らされてベンチで痙攣している
「おい、ミー、しっかりしろ!」
ミーの痙攣はだんだん弱くなり、そして動かなくなってしまった
「ミー・・・・・・・・・舞美ちゃん・・・・・・・・・・・・・・・」
僕は泣きながらミーのお墓を公園の隅に作った

あの日から、僕は毎朝ミーのお墓に手を合わせてから学校に行く
そして今日のような満月の日は、ミーが大好きだった煮干とミルクを供える
手を合わせてミーが安らかに眠れるように祈る
そして舞美ちゃんと出会わせてくれたこと、素敵な思い出をくれたことのお礼を言う
「じゃあ、帰ろうか」
僕の横で手を合わせる舞美ちゃんに声をかける
ミーが死んで、猫の命を失って、舞美ちゃんは人間になった
もう月が現れても猫の姿になることは無い
自分の分身の冥福を祈り終えた舞美ちゃんは、「うん」と嬉しそうに答えた
2人で手を繋いで公園を出た

10年後の満月の夜
ミーのお墓で手を合わせる僕の隣には、僕と同じ苗字になった舞美ちゃんがいる
そしてもう一人、新しい命が舞美ちゃんの中にいる
「女の子が生まれたらミイって名前にするからね」
「男の子だったら?」
「女の子に決まっているの!」
舞美ちゃんがそう言うなら女の子に決まっているんだろうな、と想う
「ミーちゃん、元気で煮干の好きな女の子が生まれるように見守っていてください」

おしまい