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【一輪車】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/01/28(金) 00:54:55

体育の時間
「よーし、全員集合!」
髪の毛を七色に光らせて、大谷先生がみんなを集める
「今日まで1ヶ月、練習してきた一輪車ですけど、今日はその練習の成果を見せてもらいます」
そう、今日の体育は一輪車のテストだ
勉強が苦手な俺は、体育では絶対に誰にも負けてはならない
姉ちゃんのカレシに負けないような立派な男になるために決めたことだ
「はい、ちゃんと乗れる人は50メートルのタイムを計ります
 で、まだ上手に乗れない人は、何メートル乗れるかの距離を測ります」
俺は自信満々でタイム組の方に向かう
はたけはタイム組、たいせーは距離組だ
まずは距離組が1人ずつテスト
たいせーはフラフラしながらやっとのことで18メートル進んだ
「やったあ!最高記録だ!」
「おまえなあ、コシが逃げてるんだよ、もっとドードーとすればもっともっと上手になるんだよ!」
「おい、クマ、腰が『逃げる』じゃなくて『引ける』、だからな」
「まあまあ、でっかい男になる俺は細かいこと気にしないからどっちでもいいのだ」
「熊井くん、細かくないから気にした方がいいよ」
ってな感じのバカ話をしているうちにタイム組の番になった

はたけの番になった
はたけが障害物をジグザグに交わしながらゴールを目指す
ゴールが近付いた40メートル地点のあたりでバランスを崩したが、すぐに体勢を立て直した
「畠山くん、42秒5!」
戻ってきたはたけが悔しそうな顔をしている
「うーん、あそこでバランスを崩さなければ40秒切れたな」
40秒を切ることは、タイム組の目標になっている
が、40秒を切れるのは俺を含めて4人くらいだろう
俺の番になった
「はたけ君、キミの仇は討ってやるから草葉の陰で見守っていなさい」
「・・・・・クマ、俺死んでないけど」
大谷先生の合図でスタートする
今日はいつもよりスピードが乗っている
ミスしなければ新記録が出そうだ
残り10メートル、5メートル、最後の障害を交わして3メートル、2メートル、1メートル、ゴール
「熊井君、28秒9!」
よしっ!初の20秒代だ
歓声が上がる
「クマ、すげえじゃん!」
俺は最高の気分だった
だが、この最高の気分は、俺がはたけやたいせーとバカ話しているうちに砕かれてしまった
突然歓声が上がった
「萩原さん、24秒7!」
大谷先生の絶叫が信じられなかった

俺は自分の記録が破られたことより、俺の記録を破ったのが萩原だってことに驚いた
萩原は細くって、ちっちゃくって、なんかボーっとしているような感じで、見ていて危なっかしかった
そんな萩原が、俺の記録をどうして破れたのだろう?
「なあ、クマ、気を落とすなよ」
「そうだよ、たかが一輪車ですよ?そんなに悔しがらずに〜」
「愚か者!これは勝負だ!たかが、ではないのだ!負けたことを悔やんではならないのだ!
・・・・・・・・・つーか、何で萩原があんなに凄かったんだろう?」

その日から俺は、萩原の秘密を探るべく、彼女の観察を始めた
萩原は、やっぱり頼り無さそうな感じだった
ボーッとしている時が多かった
そして、歌や踊りが好きでよく歌って踊っていたが・・・・・・・・・・これも何となく危なっかしかった
そして、これは意外だったのだが・・・・・・・見ていると幸せな気分になれる、素敵な笑顔を持っていた

「ちょっとおまえら2人に聞きたいことがあるんだけど」
はたけとたいせーを前にして、俺は言った
「萩原のことなんだけどな、実は萩原の顔を見ていると、嬉しくなって来るんだ
 萩原の笑顔を見ると、幸せな気分になるんだ
 萩原に見られているとな、ものすごい心臓がドキドキして、顔が赤くなっちゃうんだ
 萩原のことを考えてるとな、胸のあたりがグギャギャギャギャン、ってなっちゃうんだ
 なあ、萩原って、一体何者なんだ?」
はたけとたいせーはしばらく黙って俺の顔をじーっと見ていたが、2人同時に声を出して笑い出した
「あーっはっはっは、クマ、それって、それって・・・・・ヒッヒッ」
「ふはははははっ、それ、恋だよ、恋!」
「こっこっこっここっこっこっこっこっこっこ恋いいいいいいいいいい!!!!????」
「っはっはっは、クマ、おめーニワトリかよっ、プププププッ」
はたけもたいせーも腹を抱えて涙流しながら笑ってる
盛大に笑い者にされたのにも関わらず、不思議なことに腹は立たなかった
俺は姉ちゃんのように、強くて男らしい女の子のことが好きになると思っていた
だが、萩原は正反対のタイプなので、まさかこの気持ちが恋だとは思ってもみなかった
「で、俺は一体何をすればいいのだ?」
俺は笑いの収まってきた2人に訊ねたが、2人は再び盛大に笑い出した
「ふう、ふう、ふう、クマ、おまえさあ、何がしたいの?」
腹を押さえて、肩で息をしながらはたけが聞く
「それがわからん、だが、何かをしたいという気持ちはどんどん大きくなる」
「く、く、熊井くん、とりあえず告白したらいいんじゃないかな?」
息を整えながらたいせーが言った
「おお、愛の歌だ、クマ、命をかけて愛の歌を歌え!1週間で燃え尽きろ!」
おっぱいからセミにすっかり鞍替えしてしまったはたけが言う
俺は2人の助言に従ってラブレターを書くことにした

俺は姉ちゃんがカレシから貰ったラブレターを赤い日記帳に挟んで隠し持っているのを知っている
俺は姉ちゃんと「2度と日記を盗み見ない」と約束した
だがラブレターを見ないとは約束していない
俺は姉ちゃんがいないのを見計らって、ラブレターを堂々と読んだ
「ふむふむ、なるほどなるほど・・・・・・・・これが女心を掴むラブレターか」
俺はこのラブレターを参考にしてラブレターを書き上げ、翌日萩原に渡した

俺の目の前で手紙を読む萩原は、何だか困ったような顔をしている
「ねえ・・・・・舞は変な人なの?」
「へ?変・・・・・・?そんなことない、大好きだ、大好きだからこの手紙書いたんだよ!」
「でもこのお手紙、変って字がいっぱい書いてあるよ」
「ち、違うよ、これは恋って読むんだぞ」
「え〜!?恋って字は別の字だよ〜!」
萩原は嬉しそうに笑った
胸がグギャギャギャギャンってなった
「で、どうなの?返事は・・・・・・・・・・・?」
「実はね、舞もね、スポーツが得意な熊井君のこと、かっこいいなあって思ってたんだ」
萩原が恥ずかしそうに下を向いた
この恥ずかしがる顔、見ていると顔がポッとなってしまう
「じゃあ、じゃあ・・・・・・・・・」
「うん、熊井君、よろしくね!」

「なあ、クマ、最近おまえ付き合い悪いぞ」
「まあ、いいじゃないの、はたけ君、熊井君はいま幸せなんだから」
そう、俺は最近、毎日のように萩原と一輪車で遊んでいる
俺は萩原に一輪車を教わって・・・・・・一輪車が下手になったかもしれない
俺が一輪車で転ぶと、萩原は「大丈夫?」と優しく声をかけて、手を引いて起こしてくれる
俺が転んで膝を擦りむくと、「大変!消毒しなくちゃ!」と言って、唾をつけてくれる
怪我をするたび、傷が増えるたび、萩原と仲良くなれて、幸せな気分になれる
そんな気がして、いつの間にか痛いと幸せの区別がつかなくなってしまった
俺はわざと転ぶことこそしなかったが、転ぶ回数がものすごく増えた

だが、この痛い幸せは・・・・・・・・・・長くは続かなかった

「なあ、萩原、勝負しようぜ」
もうすぐ夏休みの始まる暑い日
いつもと違って元気のない萩原を励まそうと思って、俺は勝負を持ちかけた
俺に勝てば萩原は元気になるだろう
大きめの石を地面において障害物にして、コースを作った
「じゃあ、いくよ、よーい、ドン!」
俺の号令で2人同時にスタート
やっぱり萩原の方が早い
だが・・・・・・・・途中で萩原が転んだ
萩原が一輪車で転ぶのを見るのは初めてだった
「おい、大丈夫か?・・・・・・・・・・血が出てる、消毒しないと!」
いつもとは逆に俺が萩原を引き起こし、俺が萩原の傷口に唾をつける
悲しそうに下を向いていた萩原は、俺が唾をつけた指で傷口を撫でると泣き出してしまった
「ごめん、痛かった?大丈夫?」
「うえーん、ちがう、痛くない、痛くないんだけど・・・・・・・うえーん」
泣き止まない萩原を、俺は仕方なく家までおぶって送っていった

萩原が泣き止まなかった理由は、翌日大谷先生から教えられた

「今日は残念なお知らせがあります」
いつも元気な、姉ちゃんのように男勝りの大谷先生が、女に見えた
「実はみんなの仲間の萩原さんが、2学期からお父さんのいるドイツに引っ越すことになりました」
クラスは騒然となった
萩原はみんなの前に呼び出され、ちょっと悲しそうな顔で俺の方を見てから、
みんなにお別れの挨拶をした

帰り道
「お父さんと一緒に暮らせて・・・・・・・・・良かったね」
自分の心とは正反対の、形ばかりの祝福を投げかける
「うん・・・・舞ね、ずっとパパといっしょに暮らしたかったから、すごく嬉しいんだ」
俺と手を繋いでいる萩原も、言葉とは正反対の、すごく悲しそうな表情で言った
「6年生になったら戻ってくるから・・・・・・永久にさよならじゃないから・・・・・・」
「うん・・・・・・・・待ってる・・・・・・萩原のこと、忘れないよ」
俺も萩原も、その後は家につくまで一言も喋れなかった

「姉ちゃん!頼みがあるんだけど!」
俺は家に帰ると、姉ちゃんに迫った
「・・・・・という訳で、大好きな友達に、大事な女の子に、プレゼントをしたいんだけど・・・・・・・・・」
「ハイハイ、お小遣い貸して欲しいのね」
「それもあるけど、女心がわかる人紹介してくれ!」
姉ちゃんのゲンコツが俺の頭にヒットした

次の日曜日
俺と、姉ちゃんと、姉ちゃんに呼び出された、なかさき姉ちゃんの3人で、アクセサリーショップに行った
「ねえ、こういうのはどう?」
姉ちゃんが選ぶものは、俺はかっちょいいと思うのだが、なかさき姉ちゃんに却下される
「この辺にあるようなカワイイ感じなのが普通の女の子を喜ばすんだよ」
なかさき姉ちゃんが選んだのは、男勝りのうちの姉ちゃんも虜にするようなかわいいブローチだった
「そうね、この辺のならデザインもいいし、値段も手ごろだし、いいんじゃないの?」
そう言う姉ちゃんの視線が、その一群のブローチの中の一つに釘付けになった
「ねえ、これがいいんじゃないの?あんたたちにピッタリでしょ?」
俺と萩原のいきさつを知っている姉ちゃんが選んだのは・・・・・一輪車の形をしたブローチだった
予算オーバーで困っている俺に、姉ちゃんは黙って1000円札を差し出してくれた

終業式の日
萩原は明日、この街を出てしまうらしい
俺は家に帰ると、昨日買ったブローチを手に、萩原の家に向かった
「渡したいものがあるんだけど・・・・・・・・・」
俺は萩原を神社に呼び出した
萩原も何か手に持っている
俺は萩原に、あの一輪車を早く見せたくて、ブローチを袋から出して差し出した
「これ・・・・・俺たちの思い出に・・・・・・俺だと思って大切にしてくれ!」
ブローチを見た萩原はポカーンと口をあけていたが、しばらくして笑い出した
そして手に持っていた物の包装を破いた
「舞も熊井君に・・・・・これ・・・・・・・・・・ふふふっ」
萩原の手には、俺の手にあるのと全く同じ一輪車のブローチが握られていた
俺も笑ってしまった
「熊井君、これじゃ交換しても意味ないね」
俺はかぶっていた野球帽を脱いだ
初芝選手の直筆サイン入りの、千葉ロッテの野球帽、俺の宝物だ
俺はこの野球帽に自分で買って来たブローチを取りつけた
そして無言で萩原に手渡した
萩原は無言で帽子を受け取ると、長い髪の毛を結んでいるリボンをほどいた
そしてそのリボンを折りたたんで花を作ると俺の胸に当て、一輪車のブローチで止めた
萩原は俺があげた帽子をかぶると
「また明日だね・・・・・・ちょっとだけ長い、また明日」
と笑顔で言った
「うん、ちょっとだけ長い、また明日」
俺も笑顔で答えた
俺と萩原は笑顔で見つめ合った
笑顔だったけど・・・・・・・涙が出てきた

家に帰ると姉ちゃんは、俺の胸の一輪車を見て不思議がっていた
「なあ、姉ちゃん・・・・・・・・・・・・しばらく部屋から出てってくれない?」
姉ちゃんはにっこり笑って、理由も聞かずに部屋から出てくれた
俺は姉ちゃんの優しさに感謝しながらドアを閉め、思いっきり泣いた
声を出して泣いた

それなりに踏ん切りをつけて時計を見ると、1時間ちょっと過ぎていた
部屋を出てきた俺に、姉ちゃんは「今日は一緒に風呂入るか?」と言った
さすがに4年生になると姉ちゃんと一緒の風呂はいろいろと恥ずかしい
だけど、俺は姉ちゃんの心遣いが嬉しくて、黙って頷いた

この前最後に一緒に風呂に入った時と同じように、体と頭を洗い終えた俺は、
湯船に浸かって姉ちゃんが長くてきれいな髪を洗う後ろ姿を眺めていた
髪を洗い終えた姉ちゃんも湯船に入ってきた
「なあ、姉ちゃん」
「なーに?」
「ちょっとだけ、ほんのちょっとだけなんだけど・・・・・・オッパイ大きくなったね」
姉ちゃんは無言で俺の頭をプラスチックの桶で殴った
コーン!という気持ちのいい音が、浴室内に響いた

おしまい