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【Bye Bye またね】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/01/29(土) 23:10:55

僕の名前は田中れい、小学校六年生になる
母さんと二人暮しだ
父さんは貧乏考古学者でほとんど家に居ることが無く
海外で彷徨ってるって、母さんが言ってた
生まれて父さんを見たのは、記憶に残ってるので3回ぐらいかな
母さんは女手一つで僕をしっかり育ててくれた
とても感謝している

その母さんが急遽父さんの要請で海外に行くことになった
実は母さんは、父さんと同じ研究室にいたらしく
結婚するまでは父さんより出来た研究員だったらしい
とにかく僕は、独りぼっちになってしまう
そこで母さんは、父さんの妹の裕子おばさんのところに僕を預けることになった
父さんの実家は、県外にありおじいちゃんもおばあちゃんも早くに亡くなっていて
裕子おばさんが一軒家に独りで住んでいる
引っ越すことになり、僕は今の土地に別れを告げ
新天地に生活を移すことになった
僕はほとんど身一つで裕子おばさんの住む町に越していった

裕子おばさんは結構ワイルドな人で、迎えに来るような人ではなかった
「男なら一人で来なさい」
電話はもう切られていた
気のせいか電話の向こうで人の声がしたような気がした
一人暮らしのはずなのに?
とにかく改札を出てさてどうしようかと貰った地図を見ていると
「ねえ、君、れい君でしょ」
顔を上げると其処には人懐っこい顔をした少女が僕を見ていた
「私よ、もー、忘れた?」
鼠みたいな顔をしてる。と言ってもかわいい鼠って感じだけど
「傷ついたー。舞波よ。裕子おばさんの隣に住ん出る石村舞波よー。ちっちゃい頃よく遊んだでしょ」
怒った素振りで腰に手を当てる。その仕草も小動物っぽくて、可愛かった
「あー、舞波ちゃん?そういや、いたいた」
幼稚園の頃の記憶がボンヤリと思い出されていた
裕子おばさんのところに行った時、年が同じと言うことでよく遊んでたような気がする。
「いたいたは、ないでしょー。折角、迎えに来てあげたのにぃ」
怒ってるらしいが全然迫力が無かった
「ごめん、ごめん。でもなんで?裕子おばさんに言われたの?」
「ひど〜〜〜〜い。婚約者なんだから迎えに来るの当たり前じゃない」
「こんやくしゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
場所も忘れて大声を出してしまった。いったいどういうことなんだ?

呆然としている僕に
「ははは、びっくりした?幼稚園の時、れい君が言ったんだよ
『舞波ちゃん、僕のお嫁さんになってね』って」
舞波ちゃんが僕の肩をぽんぽん叩く
「何だー、幼稚園の時か。びっくりした」
からかわれている事に気付き、安心した
「私は本気だよ」
くりくりした目で僕を見た。僕は身動き取れなくなった
「あははっ、なんてね〜。さ、行こうか。結構遠いからね」
舞波ちゃんは、方向転換して裕子おばさん家に僕を案内してくれた
その間も、舞波ちゃんは色々喋り続けた
愛嬌あるから許すことにした

「じゃあ、晩御飯の時また来るからね〜」
バイバイしながら、隣のなんとなく記憶にある門構えの家に舞波チャンは消えていった
うーん、凄いパワーだ

僕は、裕子おばさんの家の玄関を開け、呼んでみた
返事が無い。おかしいな、買い物かな。
まあ、いいかどうせ今日から住むんだしと、家に上がる事にした
台所で荷物を降ろし、椅子に座っていたが
外を歩いた所為か、トイレに行きたくなってきた
うろ覚えで、トイレと思しき戸を開ける

そこには、茶色い長い髪をした女の子が、お風呂から出てきたところだった
目が合った
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
その悲鳴で慌てて
「ごめんなさい」
戸を閉めて台所に戻った
バスタオルで体を巻いていたから何が見えたってことは無いけど
僕には刺激が強すぎた
鼻血の処理をしていると
「チカン君、何者なの?」
先ほどの茶髪の女の子が其処にいた

「いや、あの、僕は今日から、その」
しどろもどろで、我ながらとっても怪しい
「ひょっとして君が田中れい君?」
眉間にしわを寄せ女の子が僕を睨んだ
何で僕の名前をこの女の子は知ってるんだ
裕子おばさんが結婚したなんて聞いたことないし
第一、この女の子はどう見ても僕より年上に見える
「裕子さんから聞いてるわ。まさかチカンだったとはね」
女の子は腕組みして僕を怪しそうに見ている
よく見ると、とても綺麗な女の子だ
今まで生きてきてこんな整った顔の女の子に出会ったこと無かった
「ごめんなさい。僕は今日から裕子おばさんのところに世話になる田中れいです。
あの、さっきは何も見てません・・・ていうか、あの・・その」
「まあ、ワザとじゃ無さそうだし許してあげる。次は許さないけどね」
冗談とは思えない怖い顔だった
「私は夏焼雅。あなたと同じ6年生よ。よろしくね」
僕は二つのことに驚いていた
一つは何でこの子がここにいるかという事
そしてもう一つは僕と同い年という事だった

「ただいまー」
玄関が勢いよく開く音がした
裕子おばさんにしては、声が幼い様な気がする
足音がこっちに向かってくる
「みや姉ちゃんだだいま〜」
声の主が、夏焼に抱きついた
「梨沙子、おかえり。おつかいご苦労様」
後ろから
「あれ、れい君。もう着いてたの。もう少し迷うかと思ってたのに」
大きな買い物袋を一杯下げた裕子おばさんがゆっくり入ってきた
「あの、隣の舞波ちゃんが迎えに来てくれてて」
「舞波ちゃん?あ〜、石村さんとこの。舞波ちゃんね〜」
いやらしい顔で僕を見た
しまった、つい。舞波ちゃんのペースで辿り着いたから、すっかり舞波ちゃんがデフォになってた
裕子おばさんは、口に手を当て呟いた
「舞波ちゃん、どうやら本気ね」
よく聞こえなかったが、それより気になってる事を訊いた
「裕子おばさん、この子達どういうこと?」
さっきから登場してくる女の子達に戸惑いを隠せない
「えっ、言ってなかった?私ね事情があって一人暮らしをせざるをえない子を預かってるの
ほら〜、どうせ部屋一杯余ってるし」
「彼氏もいないからそんなに必要ないしね」
「そうそう、一人は寂しくって、つって、何言わせるんじゃい」
夏焼の絶妙な突っ込みにノリ突込みで返す裕子おばさん
「まだ、帰ってきてない子もいるけど、みんな女の子だから。れい君、手出したら駄目よ」
力いっぱい首を振る

しかし、まだいるのか。しかも全員女の子ってどういうことだ。疑問に思って尋ねると
「若い娘が一人暮らしなのよ〜、男なんか下宿させたら危険でしょ。小さい女の子だったら安心かなと思って」
「そうそう、裕子さんに狙われて危険よね〜」
「雅ー、辛口トークは一日一回までだっつってんだろがー」
裕子おばさんはさっきと違って怖い顔で夏焼を睨んでいる。こんな人だったっけ?
「おほほ、まあ、紹介しとくわね。雅ちゃん、梨沙子ちゃん、この子は昨日話した私の甥の田中れい君」
紹介されたので「田中れいです。よろしく」と返事する
「でね、この茶髪の子が夏焼雅ちゃん、君と同じ6年生ね。
で、私と買い物行ってたこの子が菅谷梨沙子ちゃん。小学4年生よ」
二人は僕を見て挨拶をする。梨沙子ちゃんは、警戒してるのか夏焼の腕を掴み、隠れるように俺を伺っている
「私は夕食の準備を始めるから、雅ちゃん。れい君を部屋まで案内してあげて」
元気よく返事をして夏焼は僕に着いて来るよう促す
「れい君、今後は私に叔母さんって付けなくていいからね」
その顔は、怖かった

「こっちこっち」
夏焼は、脇に梨沙子ちゃんを従えて部屋まで案内してくれた
「大丈夫よ、梨沙子。スケベだけど悪い人じゃ無さそうだから」
梨沙子ちゃんがたまに振り返る。その顔は固いままだ
もう勘弁してくれ。ひょっとしてずっとスケベが僕の代名詞になるんだろうか。鬱・・・
一階の一番奥の部屋が僕の新しい生活の場だった
「隣は裕子さんの部屋ね、因みに私たちは2階だから、覗こうとしても駄目よ」
「いい加減許してくれー」
「ふふっ、君次第ね」
いたづらな笑みを浮かべながら、梨沙子ちゃんを連れて出ていった

部屋の中で、先に届いていた段ボール箱をあけ、服を箪笥にしまってると
「君ー、新入りさんは〜」
扉がいきなり開いて、二人組のちいさい女の子が立っていた
声をかけてきた女の子は小学校4年生ぐらいだろうか、髪を頭のうえで束ねている
「桃ちゃん、ノックしないと駄目だよ」
隣でいる、より小さい女の子が注意する
「気にしない、気にしない。なかなかかわいい子じゃない
私は嗣永桃子、こっちが清水佐紀、二人とも中学1年生よ
分からないことがあったらお姉さんズに何でも聞きなさい」
と、年上ーと出かかったのを押さえて
「今日からお世話になります。田中れいです。よろしくおねがいします」
「よろしくですー」
清水さんが敬礼みたいなポーズで挨拶してくれた
「君、私達が年上で驚いてるね。ごめんね、ちっちゃくて」
嗣永さんが拗ねている
「桃ちゃんの言った事気にしなくていいからね。もうそろそろご飯だからキッチンに来てね」
清水さんて、ちっちゃい見かけによらずしっかりしている。やっぱり中学生は違うなー
扉が閉まった後、でも、この下宿の女の子たち
何でみんな可愛いんだろうって気付いた

僕は、片付けの途中だったけど準備できてると言うことでキッチンに向かった
キッチンに入るともうみんな座っていた
「れい君、こっちこっち」
舞波ちゃんが自分の隣を指差してる
ていうか、ホントに居る事に驚いた
「れいく〜ん、もう、素敵な彼女が出来たのね。イチャイチャするなら私の居ない所でね」
嫌味ったらしく、裕子さんが僕を肘で突いてくる
「家、大丈夫なの?」
「うん、大丈夫」
ふと笑窪が出来ることに気付いた
「この子が昨日話した田中れい君、6年生よ」
裕子さんの紹介で挨拶をした。まだ知らない子が、一人座ってる
「え〜と、一応座ってる順で、さっき呼びに言った清水佐紀ちゃん、嗣永桃子ちゃんこの二人が中一ね
梨沙子ちゃん、雅ちゃんはもう言ったと、ああ、友理奈ちゃんがまだだったね」
友理奈ちゃんと呼ばれた女の子は、こっちを向いた
凄く芯のしっかりしてそうな感じの子だ、もちろん可愛い
「熊井友理奈ちゃん、小学5年生よ。れい君の一つ下ね」
「よろしく〜」
可愛い子ばっかりで舞い上がったのかちょっと浮かれた感じで挨拶した
友理奈ちゃんは、気持ち頭を下げたぐらいで素っ気無かった
「さあ、それじゃ夕食にしようか」
裕子さんの合図とともに夕食が始まった
みんなとの歓談中も友理奈ちゃんは、僕には冷たかった
まあ、人見知りするんだろうなぐらいに思っていた

夜も更けてきたので隣の家ではあるが舞波ちゃんを送ることにした
「じゃあ、また明日ね」
八重歯が覗いてとても愛くるしい
舞波ちゃんみたいな子に好かれるのも悪くないな、なんて考えながら家に戻った

玄関を入った右手に二階への階段がある
丁度、友理奈ちゃんが、中程の位置まで降りてきていた
目が合った
「友理奈ちゃん、僕、何か気に障る事したっけ」
友理奈ちゃんは、黙って僕を睨んだまま何も答えない
「思い当たる節が無いんだけど、よかったら教えてくれない」
靴を脱いで家に上がった
暫く黙っていたが、意を決したのか
「私、あなたみたいなお風呂覗いたり、チャラチャラする人、きらい」
そう言うと振り向いて階段を上っていった
下に降りるんじゃないのか?
どうやら、僕は友理奈ちゃんに嫌われたらしい
二階に追いかけるわけにも行かず部屋に戻ることにした
とにかく明日は、転校初日だ。早く寝とこう

こうして新生活の初日は終わった

翌朝、みんなと集団登校で学校に行った
僕は職員室前でみんなと別れ、校長先生に挨拶を済ませ
担任の石井先生のところに案内された
「うちのクラス(2組)は、みんな言い子ばっかりだからすぐ馴染むわよ」
色々緊張をほぐそうとしてくれる。いい先生でよかった

2組には舞波ちゃんも夏焼も居なかった、残念
僕は、一番後ろの徳永千奈美って子の横に座ることになった
「私、徳永千奈美。よろしくね」
地黒なのか日焼けなのか健康的な肌をしている
笑うと全日本笑顔選手権で優勝しそうなぐらい笑顔って感じになる
「田中君はスポーツとかしないの?」
「う〜ん、特には」
「不健康だな〜。よし、こうしよう。放課後私に付き合って」
どうしたらそういう事になるんだろう?
「ひょっとしてクラブの勧誘」
「へへ〜」
バレたかって感じで顔を綻ばせた

「転校生〜、男女の徳永なんかに心奪われたら駄目駄目」
僕の首根っこを後ろから誰かが羽交い絞めにした
「出たわね、羽路小の馬鹿コンビ」
徳永が、呆れた顔をする
振り返ると、男子児童が二人立っていた
「俺は、亀井。このクラスの体育委員だ。
そしてこいつが道重、俺の幼馴染の腐れ縁だ。まあよろしく」
スポーツが得意そうな方が亀井で、眼鏡のナヨッとしたのが道重というらしい。
「田中君、こいつらと接触すると馬鹿がうつるわよ」
「うるへー、男女」
「なにー」
徳永と亀井が睨み合ってるのを道重が割って
「まあ、まあ、二人とも。それよりも田中って、1組の夏焼と同じ家に住んでるって本当?」
「うん、そうだけど」
「なに〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」
クラス中が、男子の怒号・悲鳴に包まれる。女子も興味津々な顔だ。
何か大変なことになったなと思いながら
「いや、でも、叔母さんちが、下宿屋でそれで、あの、別に二人っきりって訳でもないし」
「貴様、たとえ、部屋は違えども一つ屋根の下、我らが羽路小3美人の一人と同居だとー」
亀井が、徳永との喧嘩をいつやめたのか、僕の胸倉を掴んできた
「こいっ」
僕は、亀井に引きずられて教室を後にした、道重も付いて来る
屋上に上る時に次の授業のチャイムが鳴っていた

教室には石井先生が、授業の為、来ていた
「ねえ、亀井君たちはどうしたの」
「さぼりで〜す」
徳永がそう答えたのを知ったのは昼休みに先生に叱られた後の事だった

屋上に着くなり、
「いいか、田中。わが羽路小には3美人と言う女神達がいるのだ」
「亀井が勝手に決めたんだけどね」
茶々を入れる道重の頭を叩く
「1組は夏焼、2組は須藤、3組は村上という素晴らしい3人なのだ」
徳永や、舞波ちゃんが入ってないのが気になったが、亀井の私見なので言うのを止めた
「その3人の中でも夏焼雅は、別格であり、唯一無二、華やかにして雅やか
神聖にして侵すべからずの至高の存在なのだ」
必死だ。昨日風呂あがりの姿を見たなんていったら殺されかねない
「で、僕をこんな所に連れてきてどうするの?凹るの?」
「そんな野蛮なことはしない。ただ、頼みがある。パジャマ姿の夏焼の写真を撮ってくれ」
手を合わせて拝む二人が滑稽だ
「嫌だよ、裕子さん怖いし、自分で頼めば」
「それが出来ないから頼んでんじゃね〜か」
と、胸倉を掴みにかかるので軽く避けた
「僕も大人しく殴られるのは嫌だからね」
「こいつ」
「もう、いいじゃん、亀井あきらめようよ。俺でも断るよ」
「ちっ、覚えてろ」
二人は校舎に入っていった
僕は昼休みまでここでいることにした
でも、夏焼って人気あるんだな。まあ、確かに小6とは思えない綺麗さだけど
あと二人、須藤と村上とか言ってたな。後で見とこっと

僕は、時計も携帯も持ってないので時間が分からなかった
どれぐらい屋上でいただろうか、悪寒がしてきた
耐え切れず、保健室に行くことにした
「すみませ〜ん、悪寒がするんですけど」
「何、風邪でも引き始めてるんだろ。薬飲んで寝てろ」
保健の藤本先生はとってもお上品だった
僕は寝るほどでもなかったがまだ授業が終わってないので昼休みまで横になることにした
ベッドは二つあってもう一つには先客がいた
すやすやと寝息が聞こえてくる。とても、無防備だ
「君、村上さんに変な妄想するなよ」
カーテン越しに、藤本先生の声が聞こえてきた
「しません」
僕も横になったが、亀井が言ってた3美人の一人はこの子だと分かって眠れそうに無い
「おい、少年。私はちょっと職員室に行ってくるが、変なことはするなよ」
そういう事は言わないで行ってくれー
横が、気になって仕方が無い
熟睡してるみたいだし、間近で顔を見るチャンスは今しかない
悪魔の誘いに負け、近寄ってみた
寝息が感じられるところまで顔を近づけてみた。柔らかそうなほっぺだ
つっつきたい誘惑に耐え、起きるといけないのでベッドに戻った
偉いぞ、俺
暫くして、藤本先生が戻ってきて
「少年、大丈夫か。キスなんかしてないだろうな。犯罪だぞ」
「してません」
力の限り否定した
4時間目が終わり、教室に戻ると徳永が先生が呼んでたよって満面の笑みで教えてくれた

そして僕と亀井たちは、思いっきり叱られた

 

教室に戻る途中で夏焼と舞波ちゃんに会った
二人は同じクラスなのだ
「何、転校初日から叱られてるの」
夏焼が、呆れてる
サボりの原因が夏焼のパジャマ姿撮ってくれと頼まれてた事だとも言えず苦笑いした
「れい君て見かけによらず不良だねー」
ニコニコして舞波ちゃんが肘で突っついてくる
「ところで、クラブ何かするの?まあ、後二月で卒業だけど」
「う〜ん、特に決めてないなー。今まで何かやってた訳でもないし」
徳永に誘われたことを思い出しながら
「もう、卒業まで少しだし、止めとくよ」
「そう。なんにしても、いい思い出を残して羽路小を卒業できたらいいね」
微笑んだ夏焼は、確かに神聖にして侵すべからずだなって思った
「あ〜、れい君、赤くなった。駄目だよ〜、舞波がいるのに〜」
「違うって、なんかいい事言うなーって感心したんだよ」
「本当に?」
舞波ちゃん、意地悪だ
「まあ、許したげる。また後でねー」
舞波ちゃんが手を振りながら1組の教室に入っていった

教室に戻ると徳永が嬉しそうに
「やるね〜、田中君て。いきなりサボり?」
「冗談じゃないよ、あいつらの所為でこってり絞られたよ」
亀井たちを指差す
「あいつら馬鹿だからね。田中君、係わると本当に馬鹿がうつるよ」
でも、気のせいかなそんなに二人のことを嫌ってるようには聞こえなかった
それより、僕は体調が急激に悪くなってきていた
やっぱり、寝てる女の子の傍で舞い上がっちゃったからかな
何もしてないけど
「大丈夫、なんか見る見る弱ってるんだけど」
机に突っ伏して教科書を見せてもらってる僕を徳永が気遣ってくれてる
「何とか、生きてるよ〜」
実際は、かなりヤバイ状態で黒板もよく見えない
しかし、酷くなる悪寒に耐えながら転校初日を終えた
徳永は、顔色が悪い僕を心配してくれて
「今日は、真っすぐ帰って寝るんだよ。調子よくなったら、私とバドミントンしようね。バイバイ」
心遣い感謝

僕が教室を出ようとしたとき誰かが
「さようなら、気をつけてね」
って、言ってくれたような気がしたが
もう、頭がくらくらしてたので返事もせずに教室を後にした
舞波ちゃんと夏焼が肩を貸してくれると言ってくれたけど
其処まで甘えるわけにもいかず、また風邪をうつしても悪いので自力で帰った
家に帰ると、裕子さんがおかゆを作ってくれた
帰ってきた皆も心配してくれた
薬を飲んで寝床に入るとすぐに意識が無くなった・・・

どれぐらい、僕は眠ったのだろうか
息苦しく、頭が重い、今何時なんだろう
ーン、ピンポーン、ピンポーン
あれ、何かインターフォンが鳴ってる様な気がする
誰か、裕子さん、清水さん、嗣永さん、夏焼、友理奈ちゃん、梨沙子ちゃん
誰もいないのかな
仕方が無いので立ち上がったが、全身を訛で固められた様な体の重さを感じていた
一歩、一歩が田んぼの中を進んでる感じだ
玄関に辿り着いた時には、限界が来ていた
扉を開けるとそこには背の高い女性が立っていたような気がした
「母さん」
無意識に呟くと
目の前に立っていた女性に、倒れこんだ

目が覚める
枕元に人の気配がする
「よかった、気がついた」
優しい声が、心地良い
しかし、枕元に座っている女性を僕は知らない
「あ、私、須藤です。今日、田中君休んだから、日直の私がプリント届けに来たの」
僕の動揺を察して自己紹介してくれた
この子が最後の3大美女の須藤さんか
ちょっとマシになった頭がそんな事を考えているとは思いも寄らないだろう
控えめな感じがするけど、なるほど確かに魅力的な感じだ
「昨日の帰り、返事できないくらい疲れてたみたいだから心配してたの」
本当に心配そうにこっちを見てる。昨日の声は須藤さんだったのか
「ごめん、気付いてたんだけど。本当に死にそうだったんだ」
「いいの、そういうつもりで言ったんじゃないの」
何か、和める雰囲気を持ってる子だ

「あ、あの、僕が倒れてから、ずっと、いてくれたの」
「うん、だってびっくりしたの、いきなり倒れこんでくるから」
「迷惑かけちゃったね、ありがとう」
「そんな事無い。私、日直だから気にしないで・・・」
理由になってないぞ

須藤さんは、気のせいか風邪の僕より顔が真っ赤になっていた
「さっき、玄関で私のこと母さんて言ったでしょ」
もじもじしてるのを見るとこっちまでドキドキしてくる
「そんな事、言ったんだ、ゴメンね、熱の所為だと思う」
「あっ、いいの。でも、私ね生まれて初めて母さんなんて呼ばれたの。
私って田中君のお母さんに似てるのかなあ?」
確かに、小学6年生で母さんなんて呼ばれた人間はそうは居ないだろう
「いや、なんと言うかその、ごめん」
謝ってばっかりだ
「田中君、母さんと離れ離れで寂しくない」
「平気だよ、もう慣れたって言うか。それにここの人皆優しいから」
「そう」
あれ、須藤さんがなんか元気なくなったように見えた
「夏焼さんと一緒だと嬉しい?」
「い、いや、別に好きで一緒に住みはじめたんじゃないし」
須藤さんは一体、何が言いたいんだろうか?
「私も、ここで住もうかな。そしたら、ずっと看病できるのに」
さりげなく何を言い出すんだこの子は。

沈黙が、訪れた
ずっと須藤さんに見つめられている
黙ってると間が持たない
暫くして須藤さんがモジモジしだした
「何?」
出来るだけの笑顔で言葉を促した
「千奈美ちゃんの事、どう思う?」
さっきからこんな質問ばっかりだ
どう答えていいのか分からない
「何か、初対面なのに凄い仲良くなってるよね」
須藤さんは真っ赤で声もだんだん聞き取りにくくなっていた
須藤さんも初対面なのに凄いこと聞いてるぞ
「千奈美ちゃんみたいな子好き?」
体をくねらせて俯いたままだけど、とっても恥ずかしそうだ
「いきなりどうしたの?」
僕も、何だか須藤の照れがうつったのか、風邪の所為か分からないけど
体中が熱くなってきた

「あ、あの、その・・・」
須藤は雰囲気に耐え切れなくなったのか
「変な事聞いてごめんなさい、帰ります」
急に鞄とコートを持って小走りに出て行った
残された僕は、開いたままのドアを見つめていた
何か、変わった子だな須藤って・・・
届けに来てくれたというプリントは何処にも見当たらなかった
ふと時計を見ると午後4時半である
僕、丸一日位寝てたのか

少し調子が良くなったので顔でも洗おうと洗面所に向かってると
友理奈ちゃんが帰ってきた
手には近所のスーパーの袋を提げていた
僕の顔を見て躊躇していたが、意を決したのか
「これ、あげる」
そういって、腕を一文字に伸ばして僕に渡してくれた
中にはみかんが一杯入っていた
風邪にはみかんが一番だ
「ありがとう」
しかし、既に友理奈ちゃんは返事も無く階段を上っていた
う〜ん、まだ打ち解けてくれない

みかんの袋を提げて、洗面所から部屋に戻った
もう、特に気分も悪くなくなってきたので布団を片付けて
友理奈ちゃんのくれたみかんを食べてると
突然、ノックの音がして舞波ちゃんが入って来た
「あっ、起きてる。大丈夫なの?」
驚いた感じで近づいてくる
「うん、もう頭痛もしないし、悪寒も治まったみたい」
「ゴメンね〜、部活(バトン)が長引いちゃって」
手を合わせてすまなそうにする
「はは、実を言うと今まで寝てたんだ。だから、気にしないで」
笑って、舞波ちゃんに元気なところをアピールした
「すっご〜い、一日中ずっと寝てたんだ。じゃあ、熱も下がったのかな」
舞波ちゃんが、右手を僕の額に当ててくる
びっくりしたけど舞波ちゃんの手の柔らかい感触が、心地よかった
「う〜ん?」
左手を自分の額に当てて比べてる
「うん、大丈夫っぽいね」
手を胸に当ててほっとしている。心配してくれてたみたいだ

「昨日、お見舞いに来ても目覚めないで苦しんでたみたいだから心配したんだよ〜」
「ありがとう、舞波ちゃんの笑顔で元気出てきたよ。明日は学校行けそうだ」
「エヘヘ、じゃあ明日は一緒に学校行こうね」
八重歯が覗く。
「舞波ちゃん、集団登校だから嫌でも一緒に行くんだよ」
「意地悪〜」
二人は、微笑みあった
玄関先まで舞波ちゃんを見送りに部屋を出た
「じゃあ、また明日ね」
「うん、お見舞いありがとう、また明日」
玄関の扉を閉める時、舞波ちゃんがウインクしてくれた
あんな良い子が幼馴染だなんてついてるな僕

部屋に戻ろうとすると、入れ替わりに夏焼と梨沙子ちゃんが帰ってきた
「今、奥さんが帰ってったよ」
夏焼が、ふざける
「舞波ちゃん、奥さんなの?」
梨沙子ちゃんが真顔で尋ねてくる
「こらこら、変な事言わないでよ」
「へへ〜んだ、知らない」
何で夏焼が、こんなに絡んでくるんだろう
「そうだ、これあげるよ。梨沙子と買って来たんだ」
その手には、スーパーの袋一杯のみかんが・・・
「ワザと?」
「ん?何か言った」
「いや、ありがとう」
好意で買ってきてくれたんだ。ありがたく受けとこう

「あ、そうだ、今日裕子さん、べ〜やんのコンサート見に行ってるから遅くなるって
だから、皆でご飯作るから部屋でゆっくり静養しててね」
「べ〜やんて、誰?」
「知らない。でも、裕子さんそういってたよ」
べーやんのコンサートって・・・病人の甥より優先するのか。ある意味裕子さんらしい
でも、そのかわり皆が料理を作ってくれると聞いて楽しみだ
「皆作れるの?」
「あ〜、疑ってるな〜。じゃあ、食べさせてあげない」
「そんなー」
「嘘よ。まあ私だけが作るんじゃないから安心して」
腰に左手を当て、右手の人差し指で額をちょんと叩いた
「とにかく、病み上がりは部屋で寝てること、はいはい」
僕の背中を押して部屋に戻るよう促す夏焼が、頼もしく見えた
部屋に戻ったが、布団はもう片付けてたので椅子に座ってボーっと夕食を待つことにした

どれぐらい経っただろうか、ノックの音がして夏焼が入ってきた
「おまたせ〜」
薄いピンクのチェック柄で胸に赤でMの刺繍が入ったシンプルなエプロン姿だった
手にはエプロンとお揃いのチェック柄のミトンをつけていた
「あ、できたの?」
「うん、て言ってもほとんどお姉さんズが作ったんだけどね」
舌をちょっぴり出して、肩をすくめる
その仕草に、ドキッとした
なるほど、3大美女の筆頭だけはあるなと亀井のセンスを心で褒めた

「メニューは何?」
「それは、見てのお楽しみって事で〜」
後ろに手を組んで少し僕の方に屈んで微笑む
肩から、長い茶色い髪が、引力に逆らえずさらりと、垂れる
「そ、それは楽しみだ」
僕は、赤くなった顔を見せないようにあえて夏焼を見ないで部屋を出ようとする
「ふふっ、さ、行こ行こ」
夏焼は、僕を導くように前に出て先を歩く
後ろから、夏焼の長くてサラサラの髪をずっと見ながらキッチンに向かった
夕食は、クリームコロッケだった

「元気そうだね、安心した」
清水さんが僕の顔を見てホッとしてくれた
「すみません、心配かけて」
「いいって、いいって。それよりご飯食べれる?れい君用におかゆも用意したけど」
清水さん、本当にいい人だ
「大丈夫です、もうすっかり元気で腹ペコですよ。まあ、おかゆでコロッケ、頂きます」
「大丈夫よ〜、私たちの作った晩御飯食べたら病気なんて吹っ飛ぶわよ」
後ろから嗣永さんが、ご飯を皆につぎながらつっこむ
「そうですね」
笑いながら席に着いた

みんな揃ったところで、いただきま〜すの合図とともに夕食が始まった
一口食べて、あまりに美味しいので
「うまい」と、素直に驚くと
「あったりまえでしょ〜、私達が作ったんだから」
嗣永さんが、とっても誇らしげだ
「三人寄れば料理もそれなりになるって感じかな」
清水さんは、とっても控えめだ
「まあ、裕子さんがいない日は皆で作ってるからね。それなりに腕が上がったのかな」
夏焼が、まとめた
「それなりじゃなくって美味しいです。この前、私が手伝った時なんて・・・」
友理奈ちゃんが、急にいじけた

「この前の友理奈ちゃんは、悪くないわよ。料理が難しすぎただけよ」
どうやら、僕の来る以前、友理奈ちゃんが手伝って失敗したことがあるらしい
でも、みんな初挑戦だったらしい難しい料理で仕方が無かったとの事だ
「前の、美味しかったよ。私なんかまだ手伝ったことないし」
梨沙子ちゃんなりに友理奈ちゃんを慰めてる
「まあまあ、友理奈ちゃん。失敗は成功の母よ。とにかく食べましょう」
「はい」元気な返事だ。こんな声出るんだって、驚いた
箸で摘んだハート型のボイルしたにんじんを見てると
「かわいいでしょ〜、私が切り抜いたんだよ〜」
夏焼が、白い歯を見せてニコニコしている
にんじんも可愛いけど夏焼も・・・って、何考えてるんだ僕

みんな食べ終えて片付けた後、各々くつろいでると裕子さんが帰ってきた
「お、皆ちゃんと作って食べたのね。よしよし。いい子達だ」
裕子さん、何だか上機嫌だ
「あら、れい君、すっかり元気そうね。よかったわ」
裕子さんはニコニコしながら
「カラスの女房って名曲よねー、一緒に聴こ」
僕の知らない曲だったけど気に入ってるらしい
会場で買ってきたCDをその日死ぬほど聴かされた
皆、僕を残して、とっくに部屋に戻っていた
酷いよ、料理褒めたのにー

ある日の昼休み
「おい、田中。相談がある」亀井達が深刻そうに寄ってきた
「どうしたの?深刻な顔して」
「実は・・・」亀井が、耳に顔を寄せてくる
「エー、夏焼をー」
「馬鹿、声がでかい」亀井が道重を叩く
「なんで俺?」道重が不思議がる。多分僕を叩くと、願いを聞いてくれないという配慮だろう
しかし、夏焼とデートしたいだなんてなんて事言い出すんだ
「無理だよ、第一なんで僕がそんなことしなきゃいけないんだよ。自分で誘いなよ」
とにかく断った

「まあ、続きを聞け。誰も1対1でなんて言ってないだろ。グループだよグループ」
亀井が必死で食い下がってくる
「グループって言っても誰と誰?」
面子が気になり、聞いてみた
「決まってるだろ、俺と道重とお前だよ」
僕を指差した。そんなところだと思った
「何で、僕がそんなのに参加しなきゃいけないんだよ」
亀井と夏焼のキューピット役なんてごめんだ
「まあ、待て。ちゃんとお前には徳永を用意してある」
「ハァ?」
言ってることが理解できない

「この企画をお前に話す前に徳永に言ったんだ。お前が来るなら行くって二つ返事でOKだったぞ」
「そうなの?」
「そうだとも、あんな男女だが、お前が来ることで夏焼を誘うことが出来る。
田中、連鎖の上にお前は乗っかってるんだよ。徳永からお前、お前から夏焼ってな」
気楽に言ってくれるよ。夏焼を誘ったら、絶対に舞波ちゃんにばれるじゃないか
そしたら、舞波ちゃんと夏焼の板ばさみになってしまう。今後の生活の上で、それは絶対困る
家で会うときならまだしも、グループとはいえデートだ。絶対、無理だ。それはまずい

「とにかく断る。今後の僕の生活に係わる問題だよ」
もう、この話に関わりたくないので席を立とうとすると
「ねー、女子面子見つけたよー」
徳永が満面の笑みで僕達に近づいてきた
「女子面子って何だよ」
亀井が、つっこむ
「決まってるでしょ、今度のお出かけよ、亀井、あんた自分で誘っといて忘れたの」
何かおかしな方向に話が向いてきた

「あんたじゃどうせ、女の子の面子見つけられないと思って誘ってきてあげたわよ」
どうだと言わんばかりに徳永が亀井を指差す
「茉麻と、3組の愛よ、どっちも可愛いでしょ。喜びなさい」
「なんだってー」三人同時に驚いた
亀井たち勝手に決められてさぞや落胆してるだろうな
「でかした、男女ー、たまには役に立つなー」
大喜びだ、誰でも良いのかよ
「徳永さん、いいの?」
「田中君行くんでしょ。楽しみだねっ」
腕を組んできて喜んでる・・・駄目だこりゃ

「でもなんで須藤さんと隣の組の子なの?」
「茉麻と、愛は部活(バトミントン)で一緒なの。まあ、同じ集団登校グループでもあるんだけど」
「ふ〜ん」
ふと、須藤の方を向くと、こちらに気付いたのかニコッと笑って、すぐ下を向いた
「あれ?」
徳永が僕の方を見る
「なに」
僕と須藤を交互に見ている
「ま、いいか。今度のお休み楽しみだね」
何か、意味深な笑みを浮かべてる
「おお、男女、田中は任せた」
亀井が僕と徳永の背中をバンバン叩く
何か、心配になってきた・・・

放課後、部活が休みの夏焼と一緒に帰宅した
家の前で中を伺う女の子がいた
背丈からしても梨沙子ちゃんの友達かな、まあ、梨沙子ちゃんはそこそこ背、有るけど
「どうしたの、梨沙子ちゃんの友達?梨沙子ちゃん呼んで来ようか」
問いかけに、驚いたその子は
「あ、あの、あ、友理ちゃん、あ・・・」
オドオドしながら走り去っていった
友理?友理奈ちゃんか、でも、ちっちゃいな、小3ぐらいに見える
「あの子、確か・・」
夏焼が何か思い出したようだ
「知ってるの?」
「うん、確か5年生の中島さんだったかな?」
「友理奈ちゃんの友達なのかな」
「前に、遊びに来たことあったと思うけど・・・大人しい子だったから、よく覚えてないな〜」
何の用だったんだろ?

家に入ると丁度、友理奈ちゃんがリビングでテレビを見ていた
「あ、友理奈ちゃん。家の前で中島さんがいたよ」
夏焼が、マフラーを取りながら伝える
「うん」
何か元気の無い返事だ
その時はまあ、何でもないことだと思ってたんだけど・・・

翌日、昼休みに理科準備室に届け物をした帰りに、ふと見ると校舎の裏で人だかりが出来ていた
なんだろうと思って見てみると友理奈ちゃんがいる
さらに、その人だかりの中に、昨日の少女、確か中島さんだっけ、がいた
中島さんは泣いているみたいに見えた。まさか、いじめ?友理奈ちゃんが?馬鹿な!
近づいてみるとなにやら周りの女の子達が、中島さんを囃し立てている
「こら、何やってんだ」
いじめなら許せない。しかも友理奈ちゃんが絡んでるかもしれないのだ
「やべ」その声を合図に、皆散っていった
「友理奈ちゃん」
呼びかけたが、彼女は僕をチラッと見ただけで走り去っていった

「大丈夫?」
中島さんに声をかける。助けられて安心したのかより泣き出した
「ひょっとしていじめられてたの?先生とか知ってるの?」
「いじめじゃないです・・・違うんです・・・」
首を振りながら、中島さんも走り去って行った

教室に戻った僕はよほど怖い顔していたらしく
「どうしたの?何か腹の立つことあったの?」
徳永が心配そうにしている
「いや、なんでもないんだ」
「そう」
徳永もそれ以上は聞いてこなかった

放課後、掃除当番を終え家路に着こうとした
正門を通り過ぎた時
「あ、あの・・・」
中島さんが僕を待っていた

中島さんは、黙々と先を歩く
「ねえ、何か話があるんでしょ」
度々、話しかけてみるが黙ったまま歩いている
暫くして小さな公園に着いた
「あの、ここで・・・」
中島さんは、色の禿たベンチに腰掛けた。僕も隣に座る
沈黙が続く
「どうしたの、ひょっとして友理奈ちゃんに関係すること?」
中島さんはゆっくり頭を下げた
「実は、私、とっても気が弱くて体も小さいからそれで、皆によくからかわれるんです」
そんな理由で苛められて堪るもんか
「でも、いつも熊井さんが、助けてくれてたんです。一緒に遊んだりとかもしました」
何だ、友理奈ちゃん助けてあげてたのか、安心した
「初めて友達の家に行ったのも熊井さんのところ、あ、お兄さんのところでもあるんですよね」
そんな事はどうでも良いぞ
「とにかく、熊井さんだけは、普通に接してくれてました
この、星座のペンダントも熊井さんと一緒にショッピングに行った時に買ったんです」
水瓶座の意匠のペンダントを僕に翳してくれた
「私の宝物です」
ぎゅっと握り締めてとても幸せそうに笑った
中島さんを知ってから初めての笑顔だった

「熊井さんは、皆を止めたりもしてくれてました」
「くれてました?」
さっきから気になってたが過去形だ。今はしてないのか?
「ええ、私をかばうと熊井さんまで苛められそうになって、それで私がもう余計なことしないでって」
「そんな・・・わざと憎まれ口を・・・」
中島さんの言いたい事はわかるけど、でも、そんな、友理奈ちゃん・・・
「あ、誤解しないでください。熊井さんは表立って止めないだけで
皆がやり過ぎないように気を配ってくれてるんです
だから、熊井さんは悪くないんです。そのことを伝えたかったんです
お兄さん、熊井さんと一緒に住んでるから、昼のことを誤解して熊井さんを責めたりしたらい・・」
「間違ってるよ」
もう、我慢できなかった
「一緒になって苛められるからってそんなの間違ってるよ」
理想だとは分かってる、中島さんの受けているいじめは想像以上で
とばっちりはゴメンだと思う気持ちも分からないではない
「友理奈ちゃん、間違ってるよ」
それしか言えなかった。僕に何が出来る
現実問題として友理奈ちゃんの立場に立った時、同じようにしてしまうかもしれない
一緒だ、友理奈ちゃんを責める権利なんて無い
ただ、現実の問題として身近な人が関係してると思うとやりきれない

「お兄さん、駄目、絶対に熊井さんを責めないで」
僕は、中島さんをまともに見ることが出来ない
「友理奈ちゃんは、私の友達だから」
搾り出すように訴える中島さんは強く見えた
「分かった、約束するよ。友理奈ちゃんを責めたりはしない
でも、僕とも約束して、何があっても挫けないでね
今日から僕も友達だよ。僕には気を使わないで良いからね。何でも相談するんだよ」
「はい。ありがとうございます
「ところで昨日何しに来たの?」
「誰にも言わないって約束してくれますか?」
その内容を聞いて僕はどうしても友理奈ちゃんに中島さんと前みたいになって欲しいと思った
本人から言うまで誰にも言わないと指切りして、各々家路についた

家に帰っても特に友理奈ちゃんに話しかけたりしなかった
ていうか、中島さんの痛いほどの想いが、逆に何も出来なくしていた
食事の時も僕は黙々と食べた。皆何かを感じてるのか何も聞かなかった

部屋に戻っても、何か釈然としないままぼんやりしていた
突然、ノックの音がして友理奈ちゃんが入ってきた
「何も言わないの」
友理奈ちゃんはドアのところで立ったままだ
「中島さんと話したよ」
「そう・・・」
俯いてしまった
「早貴と初めて会ったのは3年生のとき。それまではよく知らなかった
ちっちゃくて可愛くて、でも、食べ物は親父臭いものが好きなの」
中島さんのことを語る時、何か嬉しそうだ
「いろんなことを話し合ったり、いつも一緒だった
でも、5年生になって○○が、早貴と何かでもめたらしいの
よくは知らないけどつまらないことらしいわ」
一呼吸於いて
「それからよ・・・」
「最初は助けてたりしたけど、次第に皆が私も無視しだしたの
だから、怖くなって・・・。でも、私は何もしてない・・・
いや、一番酷いことを早貴にした・・・早貴の気持ちを裏切ってしまった」

微妙な空気が流れている。どうにかしなくてはと思い
「友理奈ちゃん、星座のペンダント持ってる?」
と、問いかけてみた
うつむいてた顔をこちらに向ける
無言で首からかけているペンダントをシャツから引き出す
中島さんと同じ素材のしし座のペンダントだ
「中島さんがね、私の大切な友達と買った宝物だって」
友理奈ちゃんは、ペンダントをじっと見つめて
「私も、宝物・・・」
固まったまま動かない
「友理奈ちゃん、親友って言うのはね、失ってから本当の大切さを知るんだよ」
僕の方をパッと見て、何か思いつめたような瞳を向けてきた
「早貴ちゃんは大切な友達・・・」
そう呟くと部屋から出て行った
分かってくれただろうか?

次の日、気になって仕方が無い僕は友理奈ちゃんのクラス5年3組の前を休み時間の度に見に行った
なるほど、中島さんは、寂しそうに一人でいる
友理奈ちゃんはと見ると、こちらも一人で寂しそうに中島さんを見ていた

昼休み、給食を食べた後、見に行くと二人ともいない
もしやと思い、昨日の場所に行ってみた。いない。屋上?いない
体育用具室?
いた
今度は、中島さんと友理奈ちゃん二人が、何か言われてるみたいだ
「熊井、あんた庇うとどうなるか分かってんだろうね」
いじめのリーダー格らしい女子が、友里奈ちゃんに詰め寄っている
「私、もう決めたの。自分だけが助かる為に友達を傷つけたくない」
「熊井さん、いいの。私はいいの」
「駄目よ、早貴。あなたは私の親友よ、楽しい時も辛い時もいつでも一緒」
「何、かっこつけてんの、馬鹿じゃない。望み通り、一緒にいじめてやるよ」
リーダー格が、吐き捨てる
「いいわよ、早貴と一緒なら。今まで、早貴は一人で耐えてきたんだもの。平気よ」
友理奈ちゃんが中島さんの前で手を広げ庇っている
「熊井さん、ありがとう・・・」
中島さんは、泣いていた
「私も負けない。だって、熊井さんが私のこと親友って言ってくれたから」
二人とも大切なものに気付いてくれたんだ
何か、とても嬉しかった
よし、後は僕の出番だ

「つまらないことしてるね」
僕のいきなりの出現に驚いてる様子だ
友理奈ちゃんも中島さんもびっくりしている
「何だよ、関係ないだろ」
一人が、いきがる。リーダー格か
「関係なくは無いんだな、二人とも大事な僕の友達なんだ」
「ち、覚えてろ」

逃げようとした、苛めグループの前に誰かが立ちはだかった
「ずいぶんくだらない事してるのね、○○さん」
「と、徳永先輩、村上先輩も・・・」
「練習はよくサボるのに、こういうことは熱心なのね」
徳永さんの横にいた村上さんも腕を組んで、リーダー格の子を睨んでいる
どうやらリーダー格の子は、バドミントン部らしい
「今回で止めるんなら見逃してあげるわ」
二人とも凄い迫力だ
「す、すみませんでしたー」
「私たちに謝ってどうすんの」
徳永が、友理奈ちゃん達の方を見る
いじめグループは、友理奈ちゃんと中島さんの方を向いて
「ごめんなさい、もうしません」
と、深々と頭を下げて詫びた
友理奈ちゃんは、中島さんの前で立って守っている。中島さんが泣きながらすがり付いている
「いいわ、もう行きなさい。それと、○○、練習は来なさいよ
スポーツしたら、いじめなんて詰まんないって思うから」
徳永、なんて格好良いんだろう
いじめグループはそそくさと逃げて言った

僕達だけが残った
「二人とも、何かあったら私たちかこのお節介なお兄さんに話してね。力になるわ」
徳永は、ウインクした
「ありがとうございます」
友理奈ちゃんと中島さんは深々とお辞儀をして感謝している
「田中さん、私、何が一番大切か分かった気がする。ありがとう」
友理奈ちゃんが、初めて名前で呼んでくれた
「二人ともお互いのことを大切に思ってるんだ。その気持ち忘れないでね」
「はい」
二人とも、元気ないい返事だ。もう、この先何があっても大丈夫だろう
本当に、強いのは僕でも徳永達でもない、二人の友情なんだから
一緒に居られる時間が今月一杯だとしても・・・

友理奈ちゃんたちと別れ教室に戻る時
「ちゃんと起きてる時にあえて嬉しいわ、田中君」
村上さんが、おもむろに言った
「えっ、何々、愛、田中君の事知ってるの?」
「ちょっとね」
そういって微笑む村上さんは女神様のように見えた
「千奈美、今度の休みが楽しみね」
村上さんは自分のクラスに戻っていった
「ちょっと〜、どういうこと?」
「え?いや、人違いでしょ」
僕は、逃げ出した
まずいな〜、村上さんあの時起きてたのか
「白状しなさい〜」
徳永が追いかけてきた

休日はもうすぐだ・・・

待ち遠しかった?休日が来た
嗣永さんと清水さんは買い物に出かけた
夏焼は、舞波ちゃんと部活だ
梨沙子ちゃんは、家に友達を呼んだらしい
そして友理奈ちゃんは、迎えに来た中島さんとお出かけらしい
「おはようございま〜す」
中島さん、すっかり元気になったようだ。笑顔も溌剌としている
「おはよう、今日は何処行くの?」
「内緒です」
「はは、楽しんでくるんだよ」
「あ、早貴。待たせたね、いこ」
友理奈ちゃんも始めて会った時の刺々しさが無くなった
「ううん、大丈夫。いこ、友理奈ちゃん。」
「じゃあ、いってきま〜す」
二人は手を繋いで出て行った
「うん、いってらっしゃい」
二人を見ながら『友理奈ちゃん』か、本当にもう大丈夫そうだな
中島さんが、転校することはまだ友理奈ちゃんには内緒みたいだけど
精一杯、今を楽しんで欲しいな。今まで苦労した分も・・・

さて、僕も行くかな
「行ってらっしゃい。あんまり遅くならないようにね」
裕子さんが、送り出してくれる
「はい、じゃあ、いってきます」
僕は皆との待ち合わせの駅に向かう
「遅いぞ、田中」
亀井たちはもう駅に来ていた
「あれ、女の子達は?」
「もう、お待ちかねだよ」
みんな気合入ってるな。約束の5分前に着いたのに全員揃ってるなんて
「あ〜、来た〜」
徳永がにこやかに迎えてくれる。
髪を左右とも束ねてる。ピンクのスニーカーで白いタイツに黒のベロアのミニスカート
上は白いブラウスの上にベージュのベスト、その上にスカートと同じベロアの黒のジャケットを着ていた
「おはよう、田中君」
須藤も笑顔が眩しい。黒の革靴に白のハイソックス。黒のハウンド・ツース・チェックの膝丈のスカート
上は黒のタートルネックのセーターに薄いピンクのダッフルコートを着ていた
「はじめまして〜、田中君」
村上が悪戯っぽく挨拶してきた
ハーフの黒いブーツにグレー系のバーバリーチェックの巻きスカートを穿いている
上はグレーのセーターに赤地に黒のタータンチェックのPコートを着ていた
みんな、三者三様に決まってる
「なんだ、なんだ。何か田中怪しいな?」
亀井が僕の首をスリーパーに取る。道重も疑いの目で見てる
「何にも怪しくないよ。それより、行こうよ」
納得いってない亀井達もしぶしぶホームに向かった

休日の所為か電車内はそんなに混んでなかった
僕達は椅子に座ることが出来た
「なあ、田中。正直に言え。どの子狙いだ」
亀井が顔を近づけてきた。女子3人は反対側の椅子に座ってて聞こえてないみたいだ
「えっ、どの子って」戸惑ってると
「徳永はお前が好きだ。そこでだ、お前は徳永と消えろ」
「な、何言ってるんだよ。皆で一緒にいればいいじゃないか」
「しっ、声がでかい」
「兎に角だ、俺が村上、道重が須藤と言うことで手を打とうじゃないか」
「やだ」お断りだ、皆で楽しんだらいいじゃないか。まだ小学生なんだし
「お前、徳永じゃ不満なんだろう」
「そんなんじゃなくて、やだ。皆で楽しく遊びたい」
「く〜、頑固者め。まあいいか、ただし抜け駆けは無しだぞ」
亀井が僕の胸をぽんと叩いた。道重も横で頷いている
「ね〜、何ひそひそ話してるの」
徳永がいつの間にか目の前に立ってた
「着いたよ」
いつの間にか目的地の駅に着いたようだった

僕達はテーマパークにやってきた
早速入場パスを買って皆で入場する
「まず、何に乗る?」
徳永が目を輝かせている。心からこういう所が好きそうだ
「そりゃ、ジェットコースターでしょ」村上も案外過激だ
「賛成ー」須藤もわくわくした顔で皆を見ている
「よし、そうと決まったら早速行こう。でもさ、何種類かあるみたいだぜ」
亀井が、マップを見ながら指差す
確かに、ジャングル、宇宙旅行、廃鉱山等あるみたいだ
「じゃあ、じゃんけんで組み分けしよう」徳永が、提案する
「3組になってそれぞれ回ってこようよ。で、お昼にここに集合ね」
「そうね、その方が効率的かも」村上が同意する
何だか、自然に亀井の望んだようになって来てる気がする
「よーっし、じゃんけんだー」亀井、力はいりすぎ

結局、亀井が徳永、道重が須藤、僕が村上という組み合わせになった
「よりによってお前かよ、男女」亀井が毒づく
「それはこっちの台詞よ。変なことしたら殺すわよ」
「するか」
なんだかんだ言って、名コンビじゃないのか亀井と徳永
「よろしくね、須藤さん」道重は案外紳士だ。問題ないだろう
「うん」須藤は元気よく返事はするが、チラッと僕の方を寂しそうに見た
「田中君、行こっか」村上が、ジャングルコースターに向かって歩き出す
「あ、うん」後を追う僕に
徳永が「愛に変なことしちゃ駄目よ〜」って送り出す
「しないよ」全く、徳永ったら、藤本先生みたいだ

案外、列は少なく30分ぐらいで僕達の番が来た
ジャングルコースターは最後の大滝のところまではゆっくりなので村上が話しかけてきた
「○○さんね、あの後は、いじめやめたみたいよ。真面目に部活来てるし」
「そう、よかった」
中島さんと友理奈ちゃんの問題もどうやら片がついたみたいだ。よかった
「でも、かっこよかったよ。あの時」
「え、それは村上さんや徳永さんもだよ。正直、あの時、二人が来てくれなきゃあんなに上手く解決しなかったよ」
「でも、あの二人に勇気を与えたのは田中君よ」
「そんな〜、村上さん。おだてないでよ」
「私は、思ってないことを言ったりしないよ」
「ありがとう。じゃあ、僕も言うよ、村上さんたちのおかげで上手く解決したのは確かだよ」
「お互い様ってことかな」
ふふふ、ははは。二人は顔を見合わせて笑った

「でも、村上さんて本当に強そうだったよ。こうやって腕組んでさ」
僕はあの時の村上さんの顔真似をして腕を組んだ
「そんな怖い顔して無いよ〜」
軽く僕を叩いてふくれた
「でもね、最初、保健室で何されるかと思っちゃった。近づいてきてじっとしてるから」
「気付いてたの?恥ずかしいな」
「うん、でも熱で思うように動けなくって。あの時だったらキスできたのにね」
「なっ、しないよそんな。ただ、可愛いほっぺだなとおもって。いや、あのその・・・」
完全に村上ペースになっていた。でも、からかわれてるんだろうけど悪い気はしなかった
「したら、一生口きいてないけどね」
微笑みながら、睨んでる。よかった本当に変なことしなくて
「でね、暫くして千奈美が君の事、嬉しそうに話すのよ。だからどんな子か詳しく知りたくなって」
そんなに徳永ったら僕の事話してるんだ
「それで今日のことOKしたの」
「ふ〜ん」

「でも、あの時に君がとても優しくて強い子だって分かったの」
「そんな、普通だよ。偶々、友理奈ちゃんが関係してたからってだけで、他の子だったらわかんないよ」
「でも、普通、しないわ。あの時の気味は本当に格好よかった」
村上は僕の方をずっと向いたままだ
「私、あの時から君のことが気になってしょうがなくなっちゃった」
「またまた〜」
「ううん、本当よ。そ〜ね〜分かりやすく言えば、一目惚れしちゃったの」
村上は、薄暗い照明の中でも眩しく見えた
「そ、そ、そんな。え?」
「でも、ライバル多そうだけどね。ふふっ」
村上は前を向いた
「そんな」
僕が何も言い返せず赤くなってると
「あんまり、照れないで〜。私まで照れちゃう」
そう言って下を向いて真っ赤になってはにかんでいる
村上さんて、きりっとした人かと思ってたけどなんかかわいい一面もあるんだ
そんな事を思ってると、いきなり体が浮いた。最後の滝つぼ落下だ
うわわわわーーーーーーー僕と村上の悲鳴が、その他の悲鳴とともに滑り落ちていった
二人とも水に濡れちゃった

その後、宇宙空間で1時間半並び時間をロスしたので廃鉱山コースターには乗れなかった
とりあえず、約束の時間が来たので集合場所に向かった
その間、僕は村上とたわいも無い話をしてた様な気がする
ただ、集合場所に着く前に村上が言った台詞だけは心に残った
「私、誰にも負けないから」
大きな目が、印象的だった

集合場所には亀井と徳永がいた
「あ、来た来た」
徳永が、両手で僕達に合図する
「遅いっ」亀井が腕を組んで怒る
「え〜、まだ20分も前だよ」村上が時計を見ながら徳永に駆け寄る
「田中君、変なことしなかった?」
「何を聞いてるんだよ、徳永さん」
「いや、重要なことだ、村上さんに何もしてないだろうな」
亀井が調子に乗って付け加えてくる
「し・て・な・い」もう、いい加減にしてくれ。人を何だと思ってるんだ
わはははーーー。僕以外が笑った、全く・・・
そうこうしてるうちに道重たちもやってきた
「じゃあ、昼食にレッツ・ゴー」徳永は何処までも元気だ

僕達は、食事を終え一休みしていた
「ジュースが飲みたくなっちゃった。田中君いこ」
僕は徳永に半強制的に引っ張られてジュースを買いに行くことになった
「ねえ、愛と何話したの?」
皆が見えなくなってから僕を覗き込んで言った
「この前のお礼だよ。後は、部活のこととか」
「ふ〜ん」
意味ありげなトーンで半歩先を歩く
無言で二人とも歩いている。
どうしたんだろう、いつもの徳永らしくない
まさか、亀井が言ってたみたいに僕のこと・・・
いやいや、自惚れるな。さっき村上さんに告白されたからっていい気になっちゃ駄目だ
「田中君て好きな子いるの?」
徳永が僕の目の前に立った
「えっ」
不意の質問は僕の動きを止めた。何故か夏焼の顔が浮かんだ

「今日来てる子の中にいる?愛?茉麻?」
「そんな、急にそんな事言われても。わかんないよ」
「そっか、ごめん。そうだよね、まだ田中君来て2週間ぐらいだもんね」
くるっと向きを変えてまた歩き出した
「なんて言うのかな田中君てなんか気になるんだ。愛も茉麻もそうだと思う
田中君の話してる時の二人の顔、とっても嬉しそうなんだ」
何が言いたいのか分からず、ただ徳永の言葉を聞きながら付いて行く
「そうだよね、まだ、2週間だもんね」
僕に言ったのか独り言か分からない声量だった。また、沈黙になった
売り場に着いて僕達は、みんなの分も含めてジュースを買った
僕は手を一杯にして徳永の後につき従って戻る
皆が見える所の角まで来た時
「私みたいな女の子って、田中君どう思う?」
立ち止まって振り返らずに徳永が言った
「え、そうだね、う〜ん、いいと思うよ。元気でかわいいし」
徳永が、小さく笑ったようだった
「田中君、優しいね」
徳永はみんなのところに駆け出して行った

午後からは、皆でいろんなアトラクションに並んだ
村上も徳永も何も無かったように楽しく遊んだ
もう、時間がなくなってきたのでお土産を買ってテーマパークを後にした
電車のホームまでは、帰り客で混雑していた
電車に乗ろうとした時、僕は誰かに引っ張られた。ドアが閉まっていく
亀井たちがドアを叩くが、電車は無常にも動き出す
僕は、駅員さんかなと思って後ろを向くと僕の服の裾を掴んだ須藤が立っていた
「す、どうさん?」
「ごめんなさい。どうしても二人っきりになりたくって」
裾を掴んだまま、下を向いている
「まあ、兎に角次の電車待とうか」
無言で須藤は頷いた

でも、学校では元気で給食ももりもり食べてるのに僕と話すときは何故か元気が無い
「あのね、愛ちゃんや千奈美ちゃんとは二人きりの思い出があったでしょ」
どうやら、午前中のことと昼のジュースを買いに行ったときのことを言ってるらしい
「だからね、今日、田中君と二人だけでいた時間が欲しかったの。それだけ」
ほっぺを真っ赤にして僕を見ている。僕より背が高いのにとっても小さく感じた
須藤は手を握ってきた。僕はその手を離す事が出来なかった
電車が来て乗り込んだ
須藤の手から須藤の脈動が感じられた。多分僕のも同様だろう
次の駅までがとても長く感じられた
次の駅のホームで皆が待っているのがみえた
そこで須藤は手を離した。そして耳元で
「ありがとう」と呟いた

「お前等、何トロトロしてるんだよー」
亀井が、ご立腹だ
「都会のラッシュに慣れてくれよ。須藤さんも案外、鈍いんだね」
「ゴメンゴメン、押し出されちゃって。須藤さんも巻き込んじゃったんだ」
「まあ、いいじゃない、いこうよ」
徳永が、皆を促す
僕が家に着いたのは門限の18時ぎりぎりだった

「あれ、晩御飯食べてこなかったの?」
裕子さんの第一声は、綺麗に片付いている食卓と共に僕の晩御飯が無い証だった
「友達と遊んでくるって言うから作んなかったわよ」
「そ、そうなの。門限が迫ってるから必死で帰ってきたのに」
なんてことだ、みんなとファミレスに行けばよかった
「裕子さん、私がラーメンでも作ってあげるよ」
傍にいた夏焼が、助け舟を出してくれた
「ああ、そう、じゃあお願いね。今からドラマ見るから〜」
スキップでリビングに消えていった
「いいの?夏焼」
「高いよ〜」
悪戯っぽく笑う。僕は夏焼のこの笑顔を見ると何かほっとする
「何かでまた返すよ」
「そうだね〜、君にはお風呂覗かれたり、蜜柑差し入れしたり、ラーメン作ってあげたり
貸しがどんどん増えてるよね〜」
鍋に水を入れながら、楽しそうに僕をからかってくる
「勘弁してよ」
笑ってる夏焼を見ながら椅子に座った
夏焼の後姿を見てるとなんだか幸せな気分になってきた
もし、夏焼と結婚したら毎日こんな風なんだろうな
夏焼の笑顔が迎えてくれたらどんな困難でも乗り越えられる自信があるぞ

もし、僕と夏焼が結婚したら田中雅か。なかなかだな
それで家に帰ってきたらエプロン姿の夏焼が、お帰りのキスを・・・
「・・君、田中君」
夏焼の声が現実に僕を引き戻す
「どうしたの椅子に抱きついたりして?」
僕は、妄想しながら横の椅子に抱きついていたようだ
「い、いや、ちょっと疲れてるのかな」
「変なの」
まずいな、ちょっと夏焼におかしなところ見られちゃったな
「はい、できたよ」
夏焼が、野菜とバターの乗ったラーメンを僕の前においた。湯気が食欲をそそる
「すごい、うまそうだ」
「インスタントだよ。誰が作っても同じだよ」
いやいや、このまま店に出してもおかしくない出来栄えだ
夏焼が、目の前に座って僕が食べるのを肘を突いて見ている
「うまい」
「またまた〜、そんなに褒めても貸しは減らないよ」
「ちぇ、しっかりしてるな〜」
二人を笑いが包んだ

「ところで今日は楽しかった?」
夏焼の目が興味津々て感じに輝いている
「うん、僕の田舎にはあんなテーマパーク無いから。それに、行く暇も無かったし」
「そっか、田中君、ほとんどお父さん家に居なかったんだよね。寂しくなかった?」
「いや、もう物心ついたときには居ないのが普通だったからね。平気だよ
それを言ったらここの皆だってそうじゃないか」
夏焼は一瞬、寂しそうな目をしたが、すぐに元に戻り
「そうだね、皆一緒だね。あ〜ん、それより今日はどうだったの?」
「楽しかったよ。ジェットコースターで水に濡れるなんて思ってなかったけど」
僕は今日乗ったアトラクションを身振り手振りで説明した
僕の話を楽しそうに聞き入る夏焼が、それに拍車をかけた
どうしたんだろう、何故か夏焼と話してるととっても楽しい
夏焼の笑顔を見るのが、堪らなく嬉しく思える。これって・・・

「あ〜、いいんだ〜。」
ふいに、後ろから声がした
「梨沙子、あなたはちゃんと晩御飯食べたでしょ」
僕のラーメンをうらやましそうに見てる梨沙子ちゃんを夏焼がなだめる
「ひいき、ひいきー」
梨沙子ちゃんは収まりそうに無い
「じゃあ、向こうで一緒にお菓子食べよ」
「うん、それで勘弁してあげる」
何とか夏焼が、梨沙子ちゃんのご機嫌をとった
二人はキッチンを出て行こうとする
「あ、田中君洗い物しといてね」
夏焼が戸口のところで振り向いた
「分かった、サンキュ」
このやり取りの後、僕はキッチンで一人になった

洗い物をしながら僕は考えていた
今日はいろんな事があったな
村上や徳永、それに須藤、皆僕を好きみたいだ
僕のいったい何が気に入ったんだろう?
僕はいったい誰が好きなんだろう?
何かよく分からなくなって来た
考えても仕方ないと思ってお風呂にはいって寝た

「田中さん、起きて、ねぇ、起きてよ〜」
んっ、誰だ。僕を起こすのは?
「も〜、起きてー」
誰だよー、よいっしょっと
「あっ」「えっ」
誰かが僕に抱きついてきた
「あっ、ごめん」
体を離して顔を見ると友理奈ちゃんがいた
「す、すみません。あの、今日はちょっと連れて行って欲しい所があって、その」
焦って、あたふたしてる
「あ、ああ、いいよ。特に今日何にも約束ないし」
「よかったあ」
友理奈ちゃんは胸に手を当ててほっと一息ついた
「何処行くの?」
「じゃあ、早く着替えて朝ごはん食べてね。準備してくるから」
元気に部屋の外に出て行った

「あら、今日は友理奈ちゃんとデート」
裕子さんたらなんて事を言うんだ
「えー、舞波ちゃんに言ってやろー」
「夏焼までなんだよ」
「そんなんじゃないんです。あの…」
「友理奈ちゃんをからかったんじゃないのよ。ちゃんとお別れしてくるのよ」
お別れ?誰の?
「このお兄さん分かってないみたいね。薄情だねー」
夏焼、完全に僕で遊んでる
「え、早貴ちゃん。田中さんには話したって言ってたのに」
早貴ちゃん…、中島さん?今日は2月26日。まさか、今日出発なのか?
「今日なの?っていうか友理奈ちゃん知ってたの」
「友達だよ。当たり前じゃん」
友理奈ちゃんて本当はこんなに元気な子だったんだ
「友達か、そうだよね。うん、早く行こう」
「うん」
その笑顔は、何も心配する必要ないものだった

飛行場に向かう電車の中で僕は友理奈ちゃんから、中島さんと遊んだ思い出を聞いた
そして、引っ越さなければならないと聞いたときのショックを
「でもね、早貴ちゃんが引っ越しても私との友情は変わらないってお互い分かってるから」
「そうだね、引っ越すって行っても日本国内なんだし。いつでも会いに行けるよ」
「そうは言ってもやっぱり寂しいんだけどね」
俯いた友理奈ちゃんが無理をしてることが横顔から伝わってきた
「でも、二人とも泣かないって約束したの。二人とも強くなったんだもん」
「うん、わかるよ」
そう言って友理奈ちゃんの頭を引き寄せ耳元で囁いた
「僕も泣かないよ」
電車は終点の飛行場駅に着いた

各飛行機会社の搭乗口前ロビーに中島さんはいた
「早貴のお友達ね。ありがとう、仲良くしてくれて」
中島さんのお母さんが、僕達に微笑んでくれた。優しそうな人だ
「お母さん、ちょっとだけ良い?」
「10分後には戻ってくるのよ」
「は〜い」
僕達は、ちょっと離れた休憩所のソファーに座った
二人とも何も話さない。やっぱり、いざ別れとなると辛いんだろう
「友理奈ちゃん、本当に楽しかった。私絶対忘れない」
「早貴ちゃん、私も。でも、これからだって一緒だよ
手紙書くから。電話かけるから。休みになったら会いに行くから…」
友理奈ちゃんは泣くまいと必死で堪えている
「ありがとう、私も手紙も電話も会いにも行くから…」
二人は抱き合った
「二人とも我慢しなくていいんだよ。悲しいときは泣いていいんだから」
その言葉が堰を切ったのか二人は顔をぐしゃぐしゃにして泣いた

「あらあら、早貴ったら」
中島さんのお母さんが、迎えに来た
「本当にありがとうね、この子本当に内弁慶で外では弱弱しかったのに、あなた達のおかげね」
中島さんの涙をハンカチで拭いながらお母さんが僕達に頭を下げる
「いつでも遊びに来てくださいね、じゃあ、行こうか、早貴」
返事できずただ、頭を下げる
搭乗入り口に消えようとした時、中島さんが駆け足で戻ってきた
「これ、お礼です。ありがとうございました」
小さな紙包みを渡してくれた
「開けて良い?」
中島さんが頷くのを確かめて開けると其処にはさそり座のペンダントが入っていた
「田中さんも友達です」
そう言って泣きあとが残る顔で微笑む中島さんを見てると僕も頬を冷たいものが走った
「あっ、田中さんも約束破った〜」
友理奈ちゃんが、ハンカチで顔を押さえながら僕を見た
「本当に二人に会えて私は幸せです」
中島さんも友理奈ちゃんも本当にいい顔してる
「友理奈ちゃん向こうに着いたら連絡するね。じゃあ、二人ともまたね」
今度こそ中島さんは搭乗入り口に消えていった
中島さんが乗った飛行機が飛び立つのを見ながら
「田中さん、私、今度早貴ちゃんに会うときに恥ずかしくない様に頑張る
だから、変な方向に行ってたら叱ってくださいね」
「ああ、今度こそ約束だ」
ちょっと大人びたように見える友理奈ちゃんと家に帰った

夕食後、友理奈ちゃんは中島さんに電話してるようだった
僕は、部屋に戻ろうとした時
「ねえ、れい君。明日暇?」
振り向いた僕の目の前には清水さんがいた

「暇といえば暇ですけど」
「ちょっと、ここじゃ何だし」
清水さんは、辺りを気にしながら僕の部屋まで着いてきた
扉を閉める時もきょろきょろ見回してから閉めた
「来週ね、桃子の誕生日なの」
「そういえば、裕子さんが来週開けとく様に言ってたな」
「それでね、桃子最近、好きな人が出来てね毎日その人のお店に通ってるのよ」
清水さん急に話が飛んだような気が?まあ、聞いてよっと
「でね、そのお店の人に誕生日に告白するって言ってるの」
「えーっ、んぐむぐ」
清水さんが僕の口を手で塞いだ
「大声出さないで」
口を塞がれたまま僕が頷くと手を離してくれた

「そこでね、明日私と一緒にその人を探りに行って欲しいの」
「なんでまた。嗣永さんが、告白するんでしょ。別に清水さんが気にする必要は・・・」
「実はね、あんまりこういうの言いたくないんだけど、その人あんまりいい噂聞かないの」
よくある話だな。でも、当人間のことだから恋愛話にあんまり首突っ込みたくないな
「れい君、友理奈ちゃんは助けても私は助けられないんですか?」
清水さんは理不尽な怒り方をしてる
「いや、そう言う訳では。でも、恋愛に関して僕が人の役に立てるとは思えないんだけど」
「いいからいいから、れい君は何もしなくてもいいよ。私一人だと目立つのよそこ。だから、ね」
拝むような格好で上目遣いで僕を伺ってる。まあ、明日暇だし、嗣永さんの好きな人ってのも気になるからいいか
「わかりました。いいですよ」
「さっすがー、れい君、だから好きよ」
ウインクする清水さんが、僕より年上には思えず笑ってしまった
「じゃあ、明日ね。くれぐれも桃子に気づかれないようにね」
どんな人なんだろう、嗣永さんの好きな人って・・・

翌朝、僕と清水さんは嗣永さんが出かけたのを確認して家を出た
家を出ると同時に、清水さんは帽子とサングラスとマスクを僕に手渡した
僕が不思議そうにしていると
「れい君、探偵なのよ。気付かれないように変装しなくては」
清水さん、顔がマジだ
「あ、あのですね、とりあえず帽子だけで良いと思いますけど。あとはかえって目立つような・・・」
暫くサングラスとマスクを見て
「それもそうね。じゃあ、帽子だけにしようか」
「ええ」
それから電車に乗り、例のショップのある街に向かった

駅に降りた時僕は、人の多さに辟易した
「こんなに人いるんですか?」
「ふぁっしよんの街よ。当然です」
清水さんなんか言い慣れてないぞ
少し駅から歩いて裏道に入った(と言っても人通りは多いが)所にその店はあった
なるほど、嗣永さんが着てる服ぽいデザインのものが並んでいた
僕達は緊張しながら店内に入った

僕達以外に5〜6人客がいてそこそこ流行っているみたいだ
「あの人よ」
清水さんが指差した先に、なるほど芸能人のようなルックスのファッション雑誌に載ってそうな服を着た
カッコいい店員さんがいた。嗣永さんでなくても憧れそうだ
「見てよ、あのにやけた感じ、いかにも女の人を騙しそう」
どうも、清水さんには受けがよくないらしい
「う〜ん、確かにもてそうですけど。人柄までは見てても分からないと思うんですけど」
「だめです。桃子が騙されてからでは遅いんです」
何か清水さん人がかわってる・・・
「お客さん、冷やかしですか?」
その声に振り向くと、嗣永さんがとっても怖い顔で僕達を睨んでた

コソコソと僕達を店の外に引っ張り出してから
「佐紀ー、な〜にやってるのかな〜」
「い、いや、桃子あのね。あ、そうそう、れい君が流行の服が欲しいって言うから一緒に買い物に来たの。ね」
清水さんが、追い詰められた草食動物みたいに震えながら僕に話を振ってきた
「あ、ああ、そうです。そうそう。清水さんがセンスの良いお店知ってるって聞いてたから」
嗣永さんは、疑いの視線で
「まあ、いいわ。佐紀。何度も言ってるけど私のことはほっといて」
釘をさすように強い口調で僕達に言った
「うんうん、さ、れい君次の店行こうか」
僕達はそそくさとその店を後にした

「しくじったわね〜、やっぱり変装が足りなかったわね」
「普通にばれると思うんですけど。ばれてからの事考えてなかったんですか?」
清水さんは、ああそうかって顔をした
「何で変装まで考えてそこに考え付かないかな〜」
「えへへ、そうだね」
まあ、別に何が困るって事もないからいいけど
「折角だから、ちょっと回ってく?もうすぐお昼だし」
「う〜ん、そうですね。そうしましょうか」
とりあえず、食事して帰る事にした

いろいろな店を見てるとやっぱり清水さんも女の子なのか服を見てはかわいーとか体に当ててみて欲しそうにしたりした
その様子がとっても微笑ましくて見つめてると
「彼女の服選んでるの?とってもこれ似合ってるよ」
店員さんが近寄ってきた
「い、いや、その」彼女じゃないって言おうとしてしどろもどろになってると
「ねー買ってよー、彼氏ー」
清水さんが、服を手に擦り寄ってきた
「だあっ、清水さんまで何言ってるんですか」
「ごめん、ごめん」
そう言いながら服を戻す清水さんがとっても可愛く見えた

「ここ、前から行ってみたかったんだー」
清水さんが昼食に選んだ店は洒落た感じのパスタのお店だった
「ここの、ランチが大人気なんだよ」
確かに、それを証明するような行列だった
「こうやってさー、並んでると私達どんな風に見えるかなー」
清水さんは手をモジモジさせながら続けた
「恋人同士みたいに見られてるのかなー」
横で一人で恥らってる
「い、いやー、それはー」
僕も清水さんの恥じらいが伝染したのかとっても恥ずかしくなってきた
全く、いきなり何を言い出すのやら
「ゴメンねー、れい君には舞波ちゃんがいるのにね」
うーん、根本的におかしい
「清水さんは好きな人いないんですか?」
その質問に清水さんは真顔に戻り
「う〜ん、どうなんだろうね。まだ、よくわからないんだ」
「そうですよね、僕もそうです」
僕達の番が来て、とってもおいしいランチを楽しく食べた

「今日はありがとうございます」
清水さんは、駅から家までの帰り道に丁寧にお礼を言ってくれた
「いや、いいですよ。初めての所行けたし。清水さんと一緒だと楽しかったし」
清水さんは、顔を真っ赤にして
「だめです。そんな、私は年上ですし、その、舞波ちゃんに悪いです・・・」
手をばたばたさせて必死なところがまた可愛かった。確かにからかったら年上に失礼かな
「まあ、嗣永さんに関しては何も出来なかったですけどね」
しまったって感じで清水さんは手を口に当てた
「そうだ〜、どうしよう」
がくんと肩を落とす。ホントに表現の豊かな人だ
「当日、清水さんがよかったら僕付き合いますよ。何か見届けないと気がすまないかな」
満面の笑みで
「本当にいいんですか〜」
「ええ、大丈夫ですよ」
実は、消化不良なところがあるのは確かだ
相手の人だけどかなりもてそうな感じだし、嗣永さんが騙されてないか確かに気になる
「じゃあ、この日曜日は、お付き合いください」
「はい、お姉さん」
家の明かりが見えてきていた

次の日の昼休み、僕のクラスに舞波ちゃんが訪ねてきた
集団登校で毎朝一緒に学校に行くし、家ではたまにご飯を一緒に食べたりする
でも、学校内では一度も訪ねて来る事は無かった舞波ちゃんがだ
心なしか顔に元気が無い。朝はそんなでもなかったのに・・・
「どうしたの?珍しいね、訪ねてくるなんて」
「ちょっと、付いて来て・・・」
僕の顔をハッキリと見ずに先を歩き出した

屋上は寒さの所為か誰もいなかった。今にも雪が降りそうな曇天だ
手すりに手をかけてちょっと伸びをするような感じで下を向いたままだ
いつもの舞波ちゃんらしくなく僕は、どうしていいのか分からず持て余し気味だ
「れい君・・・」
急に僕の方を向いてか細い声で呼びかけてきた
「どうしたの、何か気になることがあるなら全部言ってみてよ、すっとするよ」
舞波ちゃんのくりくりとした小動物のような瞳がオドオドしている
「さっきね、ある人かられい君が3組の村上さんから告白されたって聞いたの」
意を決したように一息で言った。もう、泣きそうな感じだ
「それは・・・」
嘘って言うのも抵抗があるし、かといって素直に言うのも何か気が引けた

「別にね、れい君と付き合ってるわけでもないし、幼馴染って言っても本当に少しの間だし・・・」
一度言葉にしたら安心したのか次々と僕に投げかけられる
「部活があるから、帰りが一緒にならないし、
噂だと、2組の徳永さんや須藤さんもれい君のこと気になるらしいし
何より、雅ちゃんは毎日一緒に住んでるし・・・」
そこで、舞波ちゃんの独白は止まった。溢れる涙で喋れなくなったからだ
風が冷たい
「舞波ちゃん、あのね」
僕は、誰とも付き合ってないし、舞波ちゃんは大切な友達だって言おうとした
「私だってれい君のこと・・・」
その言葉とともに舞波ちゃんが僕の胸に飛び込んできた
「舞波ちゃん」
涙でぐずぐずになった顔でゆっくりと僕を見上げる
暫くの沈黙が二人を包んだ。濡れた瞳がきらきら光っている

「ごめんなさい」
恥ずかしくなったのか急に離れた
「舞波ちゃん」
呼びかけにビクッとして震えながら僕の方を向いた
ぎこちない笑顔を浮かべて陽気さを装って喋りだす
「ごめんなさい、今の忘れて、あの、どうしたんだろ?私、あっ」
僕は自然に舞波ちゃんを抱きしめていた
「舞波ちゃん、ゴメンね。今度休みが合ったら一緒に遊びに行こう」
舞波ちゃんは僕に体重を預けてきた
「うん、約束だよ」
まだ涙のあとの残る顔で笑った
笑窪と八重歯がとっても印象的だった

その日、僕は舞波ちゃんの部活が終わるまで待っていた
舞波ちゃんは校門のところで待ってた僕に驚いたが、すぐにいつもの笑顔になった
「一緒に帰ろうか。先生に用事言われて遅くなったんだ」
「うん」
その笑顔は僕の心に沁み込んだ
帰る途中僕たちはいろんなことを話した。朝と違って、今日の出来事をすぐ言い合えるのが新鮮だった
「れい君、ありがとう。私もう泣いたりしない。だから、無理に待ってなくていいよ」
舞波ちゃんは何でもお見通しだな
「これからはちょっと厚かましい幼馴染で行くけどね」
そう言って家に帰って行った
門のところを見ながら舞波ちゃんて本当に可愛いななんてにやけてたら
「こら、モテモテ児童。前を見ないと危ないよ」
裕子さんが、庭先を掃除しながらからかう
「あ、ただいま」
「はいおかえり。女の子泣かしたら許さないよ」
そう言って僕のお尻をポ〜ンと叩いた
肝に命じます。はい

夕食後の憩いのひと時
リビングでお茶を飲んでいると、夏焼がニコニコしながら近づいてきた
「ねえ、今日ね、裕子さんとクッキー焼いたの食べる?」
かわいい紙袋を持った夏焼が白い歯を見せて笑っている
「もちろん。頂戴」
「はい、あんまり残ってないんだけど」
夏焼は僕の目の前の席に座り、お皿の上で紙袋を開いた
シンプルだけどおいしそうに焼けてる
「いただきま〜す」
うん、カリッとしてて美味しい
「それだけ美味しそうな顔してると作った甲斐あるな〜」
「ほとんど裕子さんが作ったんじゃない?」
「ひど〜い」
はははは、二人は見合って笑いあった
二人を暖かい空間が包んだ

「あ、いたいた」
そこに友理奈ちゃんが近づいてきた
「やるねー、田中さん」
友理奈ちゃんは意味ありげに笑ってる
「どうしたの嬉しそうに」
夏焼も気になったのか問いかける
「へへー、あたし見たんだ〜。今日の昼休み」
上唇を突き出して得意そうな顔をしている
「えっ」
まさか・・・
「あの〜、隣の〜石村さんとラブラブでしたよねー」
「あ、友理奈ちゃん」
やっぱり、見られてた。夏焼は
「れい君、おなか一杯みたいね。これいらないね」
クッキーを仕舞って席を立ってしまった
顔に明らかに怒りマークが・・・
「あれ〜、夏焼さん。何か怒ってるね???」
もう知らない
「まー、邪魔はしないからさ〜。頑張ってね〜」
天真爛漫な笑顔で友理奈ちゃんは、去っていった
そして食堂は僕一人だ・・・
ひ、ひどい

日曜の朝だ
裕子さんが皆に今晩は嗣永さんの誕生会をするから早く帰って来る様に言った
「桃子ちゃんもいいわね」
「は〜い、早めに戻ってきます」
明るく元気に返事する
僕と清水さんは目で合図し、互いに頷いた
嗣永さんが出かけた。早速、清水さんと出かける準備に入る
部屋にパーカーをとりにいく途中で夏焼とすれ違う
ふん、て感じで相手にしてくれない。あの日からずっとこんな感じだ
皆といるときもナチュラルに拒絶してくれる。なんで?

「れいくーん、早くー。見失っちゃうよ」
清水さんの声に急かされ僕は急いで玄関に向かった
清水さんは全身真っ黒でサングラスにマスクをしていた
清水さんの変装のイメージってこれしかないのかな
「あ、あの〜、清水さん」
「ああ、駄目だよれい君。そんな目立つ格好じゃ。此間の失敗を生かしてないでしょう」
「いや、服はいいとしてもサングラスとマスクはいらないと思いますよ」
「駄目です。前回の失敗を繰り返してはいけないでしょう。さ、れい君も」
結局、僕もサングラスとマスクをさせられた
「あ〜、探偵ごっこしてる〜」
梨沙子ちゃんが、指をさして笑った。なんだかな〜

嗣永さんをつける僕達は明らかに怪しかった
電車内は暖房が効いててマスクが蒸れて苦しかったので取ろうとしたら
清水さんにサングラス越しに睨まれたのでやめた
今日も清水さん言うところのふぁっしよんの街は混雑していた
ただでさえ小さいターゲットの嗣永さんを見失いそうで必死なのに
それ以上に小さい清水さんが、はぐれそうになった時は本気で焦った
「ごめんなさい。じゃあ、はぐれないように手を繋ぎましょう」
そう言って、清水さんは手を握ってきた。小さくて柔らかくてマシュマロみたいだった
嗣永さんは、なかなかあの人のいる店に行こうとせず、いろんな店を出たり入ったりしていた
「う〜ん、やっぱりいざ告白となると度胸がつかないのかな」
「このまま、諦めてくれたらいいのに」
「でも、清水さん。よくは知らないけどやっぱり自然に任せた方が・・・」
清水さんは歩みを止め、怒った顔で
「れい君、桃子が騙されてからでは遅いんですよ。まだ、私たちは子供なんです
勉強や部活動に勤しまないでどうするんですか」
「はあ・・・」
仕方が無い、清水さんに付き合うって言ったんだ。最後まで見届けよう
でも、やっぱり興味本位で何でもほいほい言うもんじゃないな。気をつけよっと

あれ?嗣永さんがいない
清水さんも見失ったようだ。きょろきょろしてる
しまった、今の会話の最中に嗣永さん消えちゃった
「こうしてても仕方ないから、あの店の前で張り込みましょう」
「そうだね。ナイスアイデア」
僕の提案に清水さんは指を鳴らす真似をして乗ってきた
店に向かおうとしたとき
「ねーねー君たち、ちょっといいかな」
何だ、カメラを持った女の人に止められたぞ
「私達、『小学生の友』って言う雑誌で小学生カップルの取材やってるんだけどいい?」
え、小学生カップル?
ははは
僕はカップルって所より小学生って言うところが受けた。やっぱり、清水さんは小学生にしか見えないんだ
「れい君、何笑ってんですか」
清水さんは、僕が笑ってる意味が分かるのか怒っていた
「本当に仲いいね〜。さっきからずっと見てたのよ」
「いや、あのですね」
「まあまあ、で、何でそんな暑苦しい格好してるの?」
この人全く僕達の言う事聞いてくれないな
でも、とりあえずこの格好はおかしいのでサングラスとマスクを取った
「あら、二人とも綺麗な顔してるのね」
女の人は、僕達に興味津々な顔をした。どうも諦めそうに無い
「れい君、仕方ないよ。ここはそういう事にしとこう」
清水さんあっさり折れてる。いいのかな中学生なのに

そして色々な事を質問されて適当に答えておいた。写真も数枚取られた
「ありがとうね、これ使うかどうか分からないけどもし、採用されたら本送るね。じゃあ、お幸せに」
最後までマイペースにその人は帰っていった
ふう、二人は一息ついて見詰め合ってやれやれって顔をした
「あらあら、ベストカップルさん達、おつかれね〜」
僕達はその声に心臓が止まるかと思った
嗣永さんがニコニコして立っていた
「本当に仲いいのね〜。ず〜っと、手繋ぎっぱなしだもんね」
二人を交互に見て悪戯っぽく笑った
「あ、あの、桃子。違うのよ、あの」
急いで手を離して清水さんがパニくりながら否定してる
尾行はすでに失敗してるし、僕はもうどうにでもなれって感じで開き直った
「嗣永さんは、今日は何してたんですか?」
「またまた〜、ずっとつけてたくせにぃ〜」
このこのって感じで僕の胸を肘で突いてきた
「この格好でばれないと思ってる佐紀ちゃんが、凄いよ」
そう言われて清水さんは、そうかなあって感じで自分の姿を確認している

僕は更にもう思い切って訊いてやれって勢いで言った
「告白は?」
「何それ?」
僕は嗣永さんが、どうも本当に告白について何の事って感じに思えたので清水さんを見た
「桃子、誕生日にあの店の人に告白するって言ったじゃない」
清水さんが、つっこむ
「そうだっけ?忘れちゃった」
嗣永さんはあっさり否定した
「も〜も〜こ〜」
清水さんは気の抜けた顔になった
どうやら清水さんの早とちりだったらしい
「まあまあ、今日はいいもの見れたし。楽しかったよ、お二人さん」
僕と清水さんは顔を見合わせた。清水さんはトホホ〜って感じで互いのひとさし指をつんつんしてる
「ところで私の誕生日プレゼントは買ってくれたんでしょうね」
僕と清水さんは互いに顔を見合わせた
「そうだと思った。でも安心して。ちゃ〜んとさっきいろいろ回ってリストアップしたから。はいこれ」
渡された紙には欲しいものリストと書いてあった
「じゃあ、後はよろしく。ベストカップルで選んでおいてね。先、帰るから〜」
嗣永さんは人ごみを駅の方に消えていった
僕達はその中から一品をそれぞれ選んで買って家路についた

誕生会の席上、終始ご機嫌の嗣永さんが突然、今日の出来事をみんなの前で話した
「え〜、それは凄いね〜。いよいよデビューじゃない」
裕子さん、意味が分からないよ
「すーご〜い、でも、清水さん小学生じゃないよねー。大丈夫なの〜?」
友理奈ちゃんは、もっともな様でなんか的外れな心配をしている
「二人とも本に載るんだ、凄いね〜」
梨沙子ちゃんは素直に感動している。カップルって所はあまり気にならないようだ
「いや、まだ採用になるかどうかはわかんないんだ。決まったら教えてくれるって」
ぼくは貰った名刺を皆に見せた
「○○書店?聞いた事無いわね」
裕子さんが顔をしかめて名刺を見てる
「載る載らないは別に結構お似合いかもね。佐紀ちゃんとれい君」
嗣永さんが無責任に茶化す
「もう、桃子。ふざけないでー。まだ、そういうのは早いんです」
「じゃあ、もう少ししたらいいの?」
完全に清水さんは嗣永さんの手の上で踊らされてる。顔を真っ赤にしている
「ゴメンゴメン。佐紀、本気にしないで」
手を顔の前に合わせて謝っている
「もう、知りません」
清水さんの言葉でその場は笑いに包まれた
僕は、そっと夏焼のほうを向いた。隣に座っているがずっと反対側の梨沙子ちゃんとしか喋ってない
初めて夏焼は僕の方を見て
「大変ね、もてる人は」
笑顔で言われた分余計に怖かった
何で、夏焼は怒ってるんだろう?
ひょっとして夏焼・・・、いや、まさかね・・・
3月6日はこうして終わった

あれから僕は毎日舞波ちゃんと学校に着くまでいろんな話をする
一緒に帰れない分、余計に一杯話す
夏焼はずっとあまり話してくれない。でも、舞波ちゃんとは普通に話してる
よくわかんないけど、やっぱり焼きもちなのかな?
こっちに来ていろいろあったけど、これからどうなるんだろう
もうすぐ僕達は卒業するけど、中学校も皆一緒だし、清水さんや、嗣永さんとも一緒になる
友理奈ちゃんや、梨沙子ちゃんたちとは一緒に登校できないのが寂しいかな

クラスの前で舞波ちゃんと夏焼と別れる
僕は席に着こうとして、びっくりした
「どうしたの」
徳永が髪を切っていた
「えへ、似合う?」
いつものように甘い声だけどとっても大人びて見えた
かわいいというより綺麗だと思った
「う、うん」
胸がドキドキしている。徳永の笑顔が前にも増して木漏れ日のように暖かい
「お〜、男女、どうした〜、遂に男になる下準備かよー」
横から茶々を入れた亀井は、徳永の突っ張りに吹き飛んだ
「田中、顔、にやけてるよ」
道重の冷静な突込みに我に帰った
「あの、でも本当に似合ってるよ。凄く綺麗」
徳永は目を大きく開けたかと思うと
「ありがとー、やっぱり切ってよかったー」
両手を胸の前に組んでほっと一息ついていた
女の子って髪型で凄いかわるんだな

「おはよう」
後ろから須藤の声がした
「茉麻、かわいい」
徳永の声に振り向くと髪を後ろでくくった須藤がいた
ただ下ろしていたときと違って須藤の大きな目がいい感じに目立ってる、こちらはかわいいって感じだ
「須藤さん、感じ変わるね」
道重が少しモジモジしている。どうしたんだろ?
「本当に?変?」
「いや、いいと思う」
何か道重一杯一杯だな
でも徳永も須藤もどうしたんだろう
「田中君、小学校生活もあと少しだけどいい思い出つくろうね」
徳永が屈託の無い笑顔でこちらを向く
「うん」
つい、つられてしまう
「田中君あと少しだけど楽しもうね」
須藤も大きな瞳で僕を見つめる
僕はどうしたらいいんだ

「道重、馬鹿らしいな」
「ああ、馬鹿らしい」
亀井と道重がぼやきながら席に着く

先生が来て朝の会が始まる
でも、僕は徳永と須藤が気になって気になってそれ所じゃ無かった
ボンヤリと二人のことを考えていた
「なかくん、田中君」
徳永さんが呼んでる
「なに?」
「一緒に出よう」
満面の笑みで僕を見た。思わず
「いいよ」って答えてしまった
「はーい、先生。田中君も出まーす」
「えっ」
黒板には卒業生恒例駅伝大会参加者とあった
亀井、道重、須藤、徳永、そして僕だった
う〜ん、まあ、いいか
いい思い出になるよな、楽しもう

それから僕達は、集まって毎朝自主的に練習することになった
ちなみに各組の代表には夏焼、舞波ちゃん、村上と顔馴染みがでるらしい
今回、別グループなので違うグループで練習している
1年から5年までは全校マラソンがあり、梨沙子ちゃんや友理奈ちゃんはブーブー言いながらも練習してる
今朝は大会前の最後の練習日だ。最初は乗せられて嫌々だったけどだんだん楽しくなってきていた
僕は、一本目を終えて少し休憩を取っていると道重が近寄ってきた
「なあ、ちょっといいか」
普段の道重らしくない深刻な顔つきで佇んでいる

「何?」
沈黙が続く
何か言いたそうなのは分かるが何も言おうとしない。僕達の横を亀井と徳永が張り合いながら駆け抜けていった
「須藤さんなんだけどさ」
道重の搾り出すように言う仕草が、深刻なことを言おうとしていると感じ取れた
「お前、須藤さんのことどう思ってる」
僕の方を見れないのか下を向いているため表情が伺えない
「道重・・・ひょっとして」
その先を言うか言わないか迷って口ごもっていると
「俺、須藤さんの事好きなんだ」
今度は僕の方をハッキリと見てきた
やっぱり、僕はなんと言っていいのか完全に思考停止していた
「皆と遊びに行って二人組になって、何にも無かったけど、でも、好きになっちゃったんだよ」
「そうか」
僕の脳裏に電車を待っているときの切なそうな顔をした須藤が浮かんだ

「でも、須藤さんは、田中、お前が好きだ」
びっくりして道重を見た
「あの日からずっと須藤さんのことばかり見てるから分かるんだ
須藤さんはお前のことばっかり見てる」
僕自身気付いてなかったけど、そうなのか。道重が黙り込んだ
「どうするんだ?」
僕は、自分のことを言わず卑怯にも道重に選択を委ねる事で沈黙を破った
「俺、明日の駅伝大会でお前のタイムに挑戦する
そして、お前に勝ったら須藤さんに告白する
もし、駄目だったら心にしまって生き続けるよ・・・」
寂しそうな目をしていた
そりゃそうだ。僕と道重のタイムは1,000mで20秒ぐらい違う、勝てる確率は低い
(駅伝大会とはいえ競技場のトラックを男子が1,000女子が500走るだけだ。タイムの比較は出来る)
「そんな事誓わないでいいじゃないか。好きならずっと好きでいたら・・・」
道重は首を振った
「須藤さんな、お前の話する時凄い楽しそうなんだよ」
「道重・・・」
道重は、最初から須藤さんの事を諦めるつもりでこんな事を言ってるんだ
胸が締め付けられる思いだった

「ゴメン、僕には何にも言うことが出来ない」
「いいんだ、好きになった俺が悪いんだ」
違う、と言おうとしたけど言えなかった
須藤さんか・・・
お母さんみたいに安心感があって、いつも笑顔で怒った所なんて見たことないし
元気でひょうきんなところもある。顔もかわいいときてる。誰かが好きにならない訳が無い
僕は、どうしたらいいんだろう。道重にわざと負けるなんて出来ないし
須藤さんに道重と付き合ってあげてと言うのも嫌な感じだ
好きだって言ってくれた人にそんな事言えない
「何やってんの」
走り終えて汗で髪の毛がべったり付いた須藤さんが近づいてきた
「い、いや。田中、もう一周良いか」
「あ、うん」
きょとんとする須藤さんを置いて僕達はもう一周走り出した
「皆には内緒だぞ」
「うん」
それから僕達は一言も口をきかなかった。いや、きけなかった・・・

マックでも寄ってくっていう誘いを断り、帰宅した僕は、ご飯の時も上の空だった
相変わらず夏焼とはあんまり話してない、このまま只の同居人のままなのかな
「でも、凄いわね。れい君も雅ちゃんも隣の舞波ちゃんも選ばれるなんて鼻が高いわ〜」
裕子さんが、ちょっと元気のない食卓を盛り上げようと話題を振る
「別に、速いから選ばれたわけじゃないわ。ごちそうさま」
夏焼は、片付けを淡々としてその場を後にする
「みやねえちゃ〜ん」
お箸の先を口につけたまま、梨沙子ちゃんが心配そうに夏焼を目で追った
「れい君、いったい何したの?」
嗣永さんが、興味津々な顔で覗き込んでくる
「な、何にもしてないですよ。それが分かれば・・・」
まさか、舞波ちゃんとイチャイチャしてたから嫉妬されましたなんて勘違いなことを言ったら笑われるだろう
でも、そうじゃないとしたらなんで怒ってるんだろうか?
「そ〜お、結構長いよ。冷戦状態」
嗣永さんの目が嫌らしい
「桃子、やめなよ。れい君嫌がってるよ」
清水さんが助け舟を出してくれる
「何〜、何〜、夏焼さんと喧嘩してるの〜?」
友理奈ちゃんが、自分の発言が発端とは全く思わないのか身を乗り出してくる
「はい、はい、それまでー」
裕子さんが、その場を納める
「れい君、一つだけ言うわ。いい加減なことだけはしないでね」
裕子さんの一言が胸に突き刺さる。道重のことが思い出され、また気が重くなってきた

「ごちそうさま」
部屋に戻って布団の上に寝っ転がっていろいろ考えようとした
でも、ごちゃごちゃしてきて全く考えがまとまらない
はぁ、どうしたらいいんだろー
どれぐらい経っただろうか
寝返りを打ってため息をついてると、紙飛行機が僕の目の前に落ちた
「ん」
振り返ると扉が少し開いていた
外を伺うが廊下には誰もいなかった
部屋に戻って時計を見ると9時半を指している
いったいなんだろうと思って、紙飛行機を見てると何か字のようなものが見える
紙飛行機を開いてみるとメッセージが書かれていた

『ごめんなさい
         雅』

「夏焼!」
僕は扉を開けて廊下に再び出た
「なんでしょー」
今度はすぐそこに夏焼がいた。心臓が止まるかと思った
その夏焼は、黒い髪をしていた
笑ってるようなちょっと怯えてるような微妙な顔をしている
「ごめん、僕が、悪かったよ。」
「れい君、何か悪い事した?」
僕が謝ったことで緊張がほぐれたのか笑顔で覗き込んでくる夏焼の顔は、いつもの夏焼だった
「髪、どうしたの」
「へへ、似合う?まあ、そんな事より、中入ってもいい?」
僕の腰の辺りを押しながら夏焼は部屋に入ってきた
ちょこんと布団の側に座り込む
近くに置いてあるクッションを膝の上にのせて、部屋を見回す。そして紙飛行機だった紙を見つけた
「あのね、梨沙子がね、喧嘩したなら仲直りの仕方教えてあげるよって教えてくれたの」
「それが、あの紙飛行機?」
シワシワで原形をとどめてない紙飛行機を二人は見た
「そっ、半信半疑だったけど、れい君には効くみたいね」
「梨沙子ちゃんが・・・」
僕は、皆に心配かけてたんだ。夏焼は女の子じゃないか、何であれ僕が先に謝るべきだったんだ

「ごめん」
もう一度夏焼に頭を下げた
「また、謝る〜」
僕は久しぶりの夏焼の笑顔に顔が真っ赤になっていた
「でも、また舞波ちゃんとイチャイチャしてたらまた怒っちゃおうかな」
僕は、何かとても胸がドキドキしてきた
「なんてね」
クッションをポーンと僕に投げつける
「私、明日の駅伝、2組だけには負けないわよ」
手をグーにしてファイティングポーズをとる
「僕もだよ。負けないぞ」
「ふふ、じゃあね」
夏焼が出て行った後も暫く胸のドキドキが収まらなかった
なんかよく分からないけど仲直りできてよかった

お風呂から上がって布団に入った
明日は小学生最後のイベントか。考えても仕方ない、楽しもう
でも、道重と須藤さんに関してはちゃんとしなくちゃな
須藤さんも道重も悲しい思いはさせたくない・・・

卒業記念駅伝大会の日が来た
今日は皆ジャージで登校だ。と言っても競技をするのは学校じゃなくて近くの競技場なんだけど
学校までの道、夏焼と舞波ちゃんが僕に対抗心むき出しで話しかけてくる
「今日は、敵なんだからね〜。絶対負けないよ〜、ね〜、舞波ちゃん」
「うん、手加減なし。勝っても恨まないでね」
そういった後、二人は手を繋いで「ねー」って揃えて顔を見合わせる
「僕だって負けないぞ」
3人の間にバチバチと火花が散る
「ねー、田中さん、何番目なの?」
友理奈ちゃんが、聞いてくる
「僕、3番目だよ」
そう、走る順番は道重、須藤、僕、徳永、亀井と男子女子の遅い順だ
亀井が、自分が目立てるのはこういう体育関係のイベントだけだからゴールは、俺が切ると勝手に決められた
「みや姉ちゃんは、2番目なんだよね。舞波姉ちゃんが4番で」
梨沙子ちゃんが、よく知ってるでしょって言わんばかりの顔をしてる

「そうそう、れい君の番になる前に私が差をつけてあげる」
得意そうに夏焼が僕を見る
「でも、二人ともそんなに速そうに見えないんだけど」
「そんなことないよ、ねー」
また二人で、僕をのけ者にする
そうこうしてるうちに学校が近づく。ここからバスで競技場に向かう事になっている
皆、各々の組に行く前に舞波ちゃんが近づいてきて
「良かった、雅ちゃんと仲直りしたんだ」
「え」
「ずーっと、二人、朝話してなかったでしょ。だから心配してたんだ。良かった、じゃあ、頑張ろうね」
いつものあの笑顔で去っていく舞波ちゃん
微かにその場に残るいい香りが、自然に僕の頬を緩ませた
だんだん、魅かれ始めている自分に戸惑ってしまった

「おぉーい、こっちこっち」
徳永が、相変わらずの元気な声で僕を呼ぶ
側にいた亀井が割り込んできて
「田中、今日は俺たち2組が、最強であることの証明の日だ。分かってるな」
と、握り拳で凄んでいる
「こんなバカほっといて、さ、バス乗ろう」
強引に僕の腕を引っ張ってバスに連れ込む徳永
「夫婦仲良くもいいけど、頼むぜ・・・」
言い終わる前に亀井の頬を徳永渾身の右ストレートが捉えていた
「さ、乗ろう」
振り返って満面の笑顔を浮かべる徳永、こ、こわい
徳永の彼氏になると大変だな。変なことをしたら亀井みたいになりそうだ
などと訳のわからないことを考えながらバスに乗り込んだ
朝の挨拶や、激励を受けながら、後ろの席に僕達は向かった

すでに道重と須藤が、座っていた
「おはー」
須藤が、僕達を手を上げて迎える
「茉麻ちゃん、頑張ろうね。」
徳永が須藤の上げた手にタッチしながら座る
「うん、絶対優勝だよねって、話してたの。ね、道重君」
「あ、ああ、うん」
道重が僕の顔を窺いながら返事する
やっぱりあの宣言、有効なんだろうな、僕は、顔に出さないように装って道重の隣に座った
「道重・・・」
「田中、普段通りにしてくれ。頼む」
隣に聴こえない位の声で話す
僕は、声に出さず頷いた
「こっらー、男女ー」
亀井が勇んで乗り込んでくる
「何よー、また行くわよ」
拳を握り、張り合う徳永
「いや、大事な勝負の前だ。勘弁してやろう」
そう言いながら、僕の横に座り込んで
「男女の世話は任せたぞ」
と、耳打ちしてくる
僕は、僕より亀井の方が面倒見てるじゃんと思ったが、心に伏せておいた
「はい、じゃあ出発ー」
先生の声でバスは競技場に向かった

競技場では、全校生徒による開会式が行われていた
生徒代表で亀井と村上が、選手宣誓する
何でも、6年の男子と女子で優れた体育の成績で、先生の推薦した者が宣誓するらしい
亀井はともかく、村上って体育得意なのか。まあ、でも分かるけど
二人とも緊張が伝わってくるような選手宣誓だったけど様になっていた
からかわれながら戻ってくる亀井に、ねぎらいの言葉をかけた
「サンキュ」
テレながらの返事が妙におかしかった

駅伝は、1年から5年の学年ごとのマラソン大会の後に行われる
もう、卒業間近なので6年生の控え席は、クラスの位置は決められてるが、移動は自由だ
とはいえ、選手である僕達は、5人まとまって座っていた
「相変わらず仲良いね」
聞き覚えのある声は村上だった。正直、あの遊園地以来だ
くりくりした瞳で僕達を、見ている
宣誓の時は遠くてよく見えなかったけど、ポニーテールにした村上は活動的な感じがした
「愛、今日は手加減無しよ。同じ第4走者として正々堂々戦おうね」
徳永が、ライバル心むき出しで村上に歩み寄る
「ふふっ、そうね、でも、前の人次第だね」
村上が不意に僕の方を見た

久々に近くで見る村上の大きな瞳が、僕を映している
「れい君、速いんだよ。愛のクラスには負けないんだから」
僕の代わりに徳永が必死で言い返す
なんにでも全力になる徳永って面白いな
「はいはい、お互い頑張りましょう。茉麻、頑張ろうね」
須藤のほうにも挨拶して村上は、自分のクラスの方に戻っていった
「ぜ〜ったい、勝とうね」
徳永の瞳に炎が。う〜ん、燃えてるね

「おい、また、俺たち無視か」
亀井が、道重に話しかけるが、聞いてなかったのか返事がない
「おい、道重?」
「え、あ、ああそうだね」
慌てたように答える
「何か、今日お前おかしいな。大丈夫か」
「な、なんでもないよ。大丈夫。頑張ろう」
取り繕う道重に少し首をかしげる亀井だが
「まあ、いいか。よし、勝とうぜ」
そういって道重の肩を叩いた

4年生が走る番になった
梨沙子ちゃんはどの辺りだろうか、探してると隣に須藤が座ってきた
「えへへへ」
僕の方を見て微笑んでる。寒さで赤くなったほっぺが須藤を幼く見せる
「寒いね」
「そうだね」
「でも、田中君の隣でいると暖かくなってくる」
須藤は、下を向いて真っ赤になっている、寒さの所為だよね
「僕、体温高いのかな」
「そ、そうだね、そうかも」
急にあたふたしてる。でも、こんなところを道重に見られたら
「のど渇いてない?」
言わんこっちゃ無い
振り返ると道重が後ろにドリンクを二つ持って立っていた
「はい、どうぞ」
そう言って僕達に差し出す
「わあ〜、ありがとう」
須藤が嬉しそうに受け取る
「道重・・・」
受け取りながら僕は道重を見た
「二人とも、なかなかいい雰囲気だよ。焼けるね」
微笑む道重
僕は、照れてる須藤さんを後にして道重を引っ張って通路に出た

通路は人通りが少なかった。今頃4年生がスタートしてる頃だろう
「どういうつもりなんだ?」
僕は、道重の真意が分からずに訊いた
「どういうって、見たとおり思ったとおりの事を言ったのさ」
道重の顔は無表情でその内面を窺うことを拒んでいた
「普段通りしてくれって言ったろ」
道重は、今度は強い口調で僕に言った
「変な気は使わないでくれ。その方が傷つくよ・・・」
「あの、この前の件だけどさ、やっぱりそこまでしなくても」
「田中、俺の人生だ。俺が決めるよ」
道重の眼に強い意思が読み取れる
「分かった、じゃあ、僕も全力で行くよ」
「そうこなくっちゃな。それに駅伝、勝たないと亀井が荒れるしな」
そう言いながら笑う道重の顔がとても純粋に僕の心を打った
「あ、それと田中、お前が別に須藤さんと付き合う付き合わないは関係ないからな」
そう言って観客席に戻っていく道重の背中が大きく見えた
俺の人生か・・・道重のほうがよっぽど大人だな

僕は観客席から離れた最上段に一人でトラックを眺めていた
梨沙子ちゃんは中団よりやや後方を走っている
表情までは見えないけど、真面目に一生懸命走ってるのが伝わってくる
「少年、悩み事か」
ふいに後ろから声がした
振り向くと白衣を羽織って腕組みしている藤本先生がいた
僕がタバコの方を見ると
「ああ、スマンスマン。教育上よろしくないな」
タバコを近くの吸殻入れに棄てて、僕の横に並んだ
「少年、何を悩んでいる」
藤本先生って顔は綺麗なのに本当に男みたいだ
何も言わないでいると
「一人で抱えてても解決しないぞ、言ってみろ」
何か、不思議な先生だなと思いながら打ち明けてみることにする
「先生、もし、自分を好きな人を友達が好きになったらどうします」
「君は、その子のことはどう思っているんだ」
「うーーーーーーーーーーん、友達です」
考えた末にそう答えた
先生は胸ポケットからタバコを取り出した
もう僕にもお構い無しで火をつけ、吸い込んだ煙を前の空間に吐き出した
「なら、ほっとけ」
「は?」
藤本先生は僕の方は見ずタバコを吸ってる
「君がその子を友達に取られたくないのなら戦え、そうでないならほっとけ」
そう言ってその場を去って行った
僕は言われた意味が良く分からず、その場に立ち尽くしていた

藤本先生に言われたことを考えていると
「一人かな?」
呼びかける声がした。振り向くと村上が立っていた
「藤本先生と何話してたの?」
「ちょっとね」
「そう」
横に並んで手すりに凭れ掛かる
一番上にいるとはいえ、組も違うかわいい女の子と二人で話してるなんて誤解されないかな
「誰を気にしてるのかな?」
僕の心を見透かしたように村上が、意地悪な質問をしてくる
「1組の方かな?ふふっ」
慌てて僕は、視線をグラウンドに戻した
「れい君はね、何でも真面目に考えすぎだよ」
村上の口調は、淡々としている
「何が?」
「いろいろ」
村上も藤本先生みたいにハッキリと言ってくれない
「今は私にどうやって接したらいいか分からないってとこかな」
グラウンドの方を向いたまま僕の内面を言い当てる
しばらく僕達は、5年生が準備を始めているトラックを見ていた
そういや次は友理奈ちゃんだな。憂鬱そうな顔してたけど大丈夫かな

「あの日以来、意識的に私を避けてたでしょ」
「そんな事無いよ」
「いろんな女の子が自分に好意を寄せてくれることに戸惑ってる?」
図星を突かれてちょっとたじろいだ所を村上は目聡く見ていた
「好きって言われることは迷惑?」
「そんな事無いよ、素直に嬉しいよ」
心からそんな事は無い、それが皆可愛い子ばっかりだから余計に嬉しい
「誰かに決めることが出来なくて迷ってるんだ」
意識したことは無いけどそうなのかもしれない、返す言葉が出てこなかった
「無理に好きな人を作らなくっていいんだよ」
そう言うと村上は、真面目な顔で僕の方を向いていた
「でも、それじゃあ僕はどうすればいいんだ」
いろいろな子が僕に好意を抱いてくれているのをいいことにそれに甘えてろって言うのか?
「そこ、そういうところが、君の長所でもあり、短所でもあるんだよ」
村上はまた前を向いて
「苛めにはハッキリと立ち向かうのに、こういうことは全く駄目だね、真面目君」
村上は少し笑った
「ハッキリさせろって事?」
さっきと言ってることが違うじゃないか。好きな人を作るなとか、ハッキリ立ち向かえとか
村上は何も言わずに首を横に振る
「どうしたらいいんだよ?」
ちょっと馬鹿にされた気がしてむっとして言った

「普段のままでいいのよ」
淡々と語る村上。常に同じ感情の状態を保っている
僕はその掌の上で遊ばれてるみたいだ
「僕はいつも同じだよ」
強がって言い返す
「違う。最初に君と会ったときと今では大きく環境が変わってるの
その影響を受けて君は、変化してきてる」
「どんなふうに?」
村上は僕に何を伝えたいんだろう
「それは言えないわ」
肩透かしを食らったみたいに僕は、脱力した
「なにそれ」
「無理に考えないで、普段通りでいればいいのよ」
気にせず、普通に応える村上。それきり黙ってしまってる
どうやら、村上はこれ以上教えてくれなさそうだ
考えると混乱してきた。村上の真意はいったい何なんだ
「ヒント。女の子ってそんなに弱くないのよ」
全然分からないやって顔をしていると
「れい君は、それでいいよ。後は私たちの問題だから」
僕はもう村上に今の状況をどう思ってるか聞くことにした
「村上はさー、どうなの?僕は、まだ村上のことよく分からないんだけど」
「わたし?」
村上は、ワザとらしくびっくりしたような声を出して自分を指差した
まっすぐに見つめてくる大きな瞳が僕を金縛りにする
少し息を吸った後、村上は微笑んでこう言った
「ずっと、好きだよ」
村上は通路を下りて自分のクラスに戻っていった

相変わらずの村上の本気かどうか微妙な告白にドキドキしながらも、今話した内容について考えていた
藤本先生も村上も結局、普段通りにするのが良いって言ってくれた
難しいな〜と考えながら自分のクラスに戻ることにした
5年生のマラソンも終わり、そこそこの成績の友理奈ちゃんが夏焼や舞波ちゃんを見つけて手を振っているのを見た
「何処行ってたの?」
須藤が、先ほどと変わらない笑顔で迎えてくれる
「うん、本番前に緊張しちゃって、風にあたりに行ってきたんだ」
「そう。もう大丈夫?がんばろ〜ね!」
右手を高々と上げて嬉しそうに僕の方を見る
自然に僕も釣られて手を上げる
そこにパシッと軽い衝撃が走る
「がんばろ〜!」
徳永が、目の前に立っていつものように目を細くして笑ってる
「田中〜、青春してるじゃねーか、俺達も混ぜろ」
亀井と道重が割り込んでくる。徳永、須藤と続けてハイタッチしてる
本番前になんか団結してきたぞ
道重はいつもと変わらないマイペースな顔をしている
よし、僕も今は集中しよう

選手入場が始まる
各組からの選手への声援が飛ぶ
僕にも2組の皆や、友理奈ちゃん、梨沙子ちゃんの声援が飛んできた
各出発地点に散らばっていく、僕は300m地点だ
結構伝統のイベントらしく各組や下級生達が熱心に観戦している
6年の各クラスはそれぞれ横断幕を作って自分のクラスの前に飾っている
応援してくれるクラスの為はもちろん、道重の為にも僕は一生懸命走ろう
それがあいつを友達として、ライバルとして敬意を示すことだから

いよいよスタートだ
僕のところから道重のスタート地点は、前方になるので後姿しか見えない
でも、心から頑張れって思ったんだ
パーン、乾いた音とともにスタート地点の3人が走り出す
声援が絶え間なく続く、前の学校でもこんなに盛り上がったことはなかったな
道重は、明らかに普段よりとばしている
他所のクラスが、そこそこ速いのを揃えてきたので道重は必死でついて行く
一周目僕の前を過ぎて行く道重、辛そうだ。このペースで大丈夫だろうか?
しかし、頑張って3人がほぼ横並びの抜きつ抜かれつの激走を続けている
2回目に僕のいる地点を過ぎようとした時だった
道重は転んだ
転んだというか、道重のチョイ前を走ってる選手が一瞬遅れ、道重がたじろいだ時に後ろの選手の足が絡んで転ばされた
あっ、という声とともに沈黙する競技場
「道重、大丈夫か」
僕が近寄ろうとすると、手で制して立ち上がりまた走り出した
明らかに足首を捻挫したような庇う走り方だった
どんどん離されていく道重、しかし彼は走るのを止めない
先生が近寄って何か話しかけてるが、道重は首を振って走り続けている

もう、他の組の第2走者が走り出していた
夏焼が僕の前を通り過ぎて行く。ちらちら後ろを振り返っている
皆気になるみたいで道重に視線が集中する
ようやく第2走者の須藤の前に辿り着いた
須藤は、両手でたすきを受け取ると全力で走り出した
僕の目の前をあっという間に過ぎていく。須藤も明らかにペースオーバーだ
でも、僕は何も言うことが出来なかった
須藤は、泣きながら走っていたからだ

須藤はもう、僕の地点に辿り着く頃にはフラフラになっていた
でも、僕はそのたすき、道重と須藤の思いを受け走り出した
もちろんオーバーペースで
僕の視界はボンヤリとしか見えない
でも横たわる道重と須藤、そして僕を待つ徳永・亀井の声援、クラスのみんなの声援が聞こえた
胸が潰れそうだったけど何とか徳永にたすきを渡せそうだ
いつもの笑顔でなく顔をぐしゃぐしゃにしながら手を僕に差し出している徳永に
徳永も同じだった、いつも以上のペースでただひたすら泣きながら走った
そして亀井にたすきが渡る
亀井は泣いてはなかったけど、いつも見る亀井ではなかった
明らかに優勝はない、でも僕達は全力で走った
それが棄権をせずに走り抜いた道重の思いを繋ぐ事だから

スタート地点でアンカーを待つ為に僕達は集合していた
道重は治療の為、藤本先生に担がれ治療所に連れて行かれ居なかった
でも、僕、須藤、徳永の想いは一つだった
全力で完走しよう

「あ〜あ、あいつなにマジで走ってんの」
不意に茶化すような声が聞こえた
「ホントだよな、もうビリだってのに。まあ、何勘違いしてるのか。嫌だね、青春小僧は」
僕は、そいつらを殴ろうと思った
しかし、その前に徳永が飛び掛っていた
「あんた達に何が分かるのよ」
そう言いながら、手を振り回している
僕は、反撃されそうな徳永を加勢に行く
「徳永さんに何するんだ」
僕は最初に言った奴を殴った
生まれてはじめて人を殴った
僕と徳永は先生に止められる
見ると夏焼や舞波ちゃんが心配そうに僕達を見ていた
僕達の前に須藤が来て
「二人ともお願い、気持ちは分かるけど、道重君や亀井君の為にもう止めて」
今までに見たことない顔だった
その迫力に威圧され僕と徳永は落ち着きを取り戻した
そうだ、今は亀井を応援しないと
彼もまた僕達の思いを無駄にしないように走っているんだ
亀井は全校生徒の拍手の中ゴールインした
僕達は亀井を迎えた
4人とも泣いていた
僕の小学校最後の思い出が、生涯の思い出になった瞬間だった

 

つづく