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【秘密国家公務員】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/01/19(水) 22:56:20

私の名前は清水佐紀
背は低いけど実は全国の小中学校の治安を守る
秘密国家公務員なの(安っぽいネーミングだけどそうなんだから仕方ないわ)
今回の学校には生徒に手を出す極悪変態教師の実態を探りに来たの
本当は私中学生なんだけど身長と顔つきのせいで助かってるわ
私のパートナーを紹介しておくわ
嗣永桃子私と同じく中学生なんだけどほぼ同じ理由で小学校廻りよ
ちょっと金に弱いけど案外頼りになるの
二人は学校の誰にも内緒で自然に転校してきた事になってるの
凄いでしょ、てへへ
さて、その桃子がやってきたわ
「ねー、ねー佐紀ちゃん。今日焼きそばパンが安かったの。
100円のところが2個で150円よ。佐紀ちゃんの分も買ってきてあげたよ」
「ありがとー。実は私は焼きそばパンに目が無いのであった」
手を差し出すと、「お・か・ね」と桃子が微笑みながら言ってきた
まあそうだと思ったわよ「はい75円」
「駄目よ、佐紀ちゃん100円よ」
「えっ???」ちょっと桃子の言ってる意味がわからない「なんで?」
だって普段は100円よ。私がたまたま安いの買ってきただけで普通に買ったら
「ほへっ?」こんなことだと思った。桃子ったらホントにいい根性してるわ

「ふぉころででふぁいへいふふんでる?」焼きそばパンを口一杯にして桃子が聞いてきた
「桃子ちゃん、何言ってるのがさっぱりわかんない」
桃子はそばにあったジュースを1口飲んで、ふーっ、と一息ついてから
「ところで、内偵進んでる?って言ったの」「しーっ、声が大きい」いくら屋上とはいえ誰がいるかわからない
「大丈夫よ、どうやら今狙われてるのは同じクラスの熊井さんよ」ちょっと声を潜めて言う
「あー、あの子。確かに桃子の次にかわいいよね」人の苦労も知らずに能天気なものね

「しかし、あの山崎って言う変態教師にも困ったものね。親が政界の実力者でこの学校にも
多額の寄付をしている。被害にあった子は泣き寝入り。許せないよ」
「ふぉんふぉにふぉーよねー」桃子は焼きそばパンに夢中だ、何でいつも私この子がパートナーなのよ
「引き続きお願いね」青海苔が口の端についてる桃子を後に私は校舎内に戻った

屋上から校内に入る階段の踊り場に山崎と熊井さんがいた
なんていいタイミング、良い事あるかなーと桃子みたいなこと思いながら
陰に隠れて様子を伺うことにした
「君が今の私の推しなんだよー、ぐへへへ」あ〜、陰で聞いててもキモイよー
そうも言ってられないのでさらに聞き耳を立てることにした
「でも、私みたいな子供と何して遊ぶんですか?」熊井さんが山崎に尋ねた
「決まってるじゃないねー」「!」心臓が止まるかと思った「桃子、黙って」
「ダイジョーブよー。山崎は耳が遠いのよ。ちゃ〜んと調べてるんだから」勝ち誇ってる桃子
「そんなことよりこれだと今夜当たり行動に移しそうね」桃子は続けた
「じゃあ、放課後5時にまたここでね、ぐふぇふぇふぇふぇ」だんだん妖怪じみてきたわね
でも、これで尻尾はつかんだわ。後は現行犯逮捕ね「らじゃ〜」おどけた調子で桃子が言う
「ふに〜。大丈夫なのかな」ちょっと不安

放課後になり人気もだいぶ無くなった校内
私が熊井さん、桃子が山崎をチェックしていた。二人は昼休みの会話通り、
屋上から下りてくる階段に向かっていた
でも、熊井さん知らないのかしら変態教師の噂。こんなにあっさり行くなんて
その頃、桃子は山崎のどう見ても好きな所が見つけられない顔を見ないようにつけていた
「でも、私みたいに可愛い子がいるのに何で熊井さんなのかな〜、
やっぱり私だと完璧すぎて駄目なのね。
金はありそうなんだからあの顔さえどうにかしてくれたらね〜、私が囮になったんだけど」
そんな事を思ってつけてるなんて桃子以外知りようが無かった

「ぐふぇ、ぐふぃ。友理奈君、来てくれたんだね〜」完全に妖怪だ
「だって、先生がここで遊ぶから来るようにって」
「そうだったね〜、でも君本当にかわいいね〜」そういって山崎は熊井さんの方に手をかけた
まだよ桃子。目配せして桃子が出ようとするのを静止する。
「先生の秘密の部屋で素敵な事しようか〜」おげー、気分が悪くなってきた
山崎は熊井さんの手を握って誰も使ってない小部屋に入っていった
入ると同時に桃子が私のそばに上がってきた「どうするの〜、もういいんじゃない。
私これ以上あの顔耐えられないかも」桃子が吐くまねをしながら言う
今のではまだ証拠として弱いわ。もう少し待って。「でも、鍵かけたっぽいわよ」
「しまった」焦る私。「え、考えなかったの〜。普通かけるでしょ」桃子が少し軽蔑目線で見る
「きゃー」
悲鳴だ、近くにいないと聞こえないぐらいだけど確かに悲鳴がした。私は桃子と顔を見合わせる

「このままじゃボスに叱られるー」私がパニくってると「あれ、扉が開いたよ」と桃子
「はっ?」開いた扉の向こうでは小学生の写真にうつ伏せで倒れてる山崎と
背中に足をかけてる熊井さんがいた
「この、変態。あ〜、気持ち悪かった」勝ち誇ったような顔で熊井さんが言った
「あ、あの〜、どういうこと?」桃子が即座に質問する。
「同業よ、ていうかあなた達じゃ不安だって言うから私が追加で派遣されたの
あなた達より先にね」「それって追加って言う?」桃子がつっこんだ
「あ〜、ボス信用してくれてないわね〜、凹むわ」そう続ける桃子と顔を見合わせる
「まあ、いざって時はあなた達の力も借りようと思ったけど必要なかったみたい」
両手を挙げてアメリカ人みたいに呆れてる「じゃ、後片付けよろしくねー、私すぐ次のヤマあるから」
階段を颯爽と下りていく熊井さんの後姿を見ながら、桃子が私を見ずに言った。
「今回、報酬出るのかな」

私は桃子にそういって部屋の写真を撮ろうとした。
「でもまあ、よくこんなに集めたよね〜。あっ」
「どうしたの、桃子」私は何事かと桃子を見る。
「ちゃんと私のも撮ってるじゃない。でもアングルがいまいちねー」
私は脱力した。「大丈夫よ〜、ほら、佐紀ちゃんのもあるよ。」
「どっちでもいいわよ」ファインダーを覗いた刹那
「久しぶりね、裏切り者」
ガラスのように透き通って冷たいこの声は
「舞美、、、、矢島舞美、」桃子が目を見開いて声の主を睨んでいる
「舞美!」私は桃子の声に反応して振り返る。
「元気そうね、佐紀」桃子の視線を無視して私に話しかける
綺麗な外見とは逆に無言のプレッシャーを与える雰囲気がある

「舞美、あの時、それに愛とえりかはどうしたの」私は尋ねた
「二人も生きてるわ。でも、あなた達二人、私で十分よ」そういった瞬間桃子が飛びかかろうとする
「だめ、、、」そう言おうとしたが遅かった。桃子は後ろ手にとられている
「ZYX(組織)は、壊滅したんじゃないの」気になっていたことを私はきいた
「裏切り者がそれを知ってどうするの」そう答える舞美のそばで桃子が呻いている
「あなた達がいなくてもZYX(組織)はあるのよ」舞美は桃子を解放する
「いった〜い」桃子が肘をさすりながら構え直す
「もう、おしゃべりは無用ね。ここから帰す訳には行かない」そういって舞美が構えた
「くっ」私はZYXにいた頃、舞美に勝った事は無い、桃子もそうだ。
何か活路は無いの、、、
「いくわよ」舞美が動いたと同時に剃刀の様に鋭い舞美の手刀が襲ってきた
間一髪避けたけど、「速い」確実に以前より速くなっている
桃子もそう感じたのか顔から笑みが消えている
プレッシャーがきつくて不用意に近づけない
どうすればいいの、、、
ひゅるるる〜〜〜〜〜〜〜〜〜緊張感の無い音が聞こえる
近づいてきたと思ったら部屋中が煙に包まれた
「今だ、桃子ちゃん」言うまでも無く桃子も部屋を出ようとした
不意を突かれたのか舞美は煙を吸い込んでむせている
「古典的な手で、けほ、けほ」その声を後に私達は脱出した
全力で逃げる私達の後ろをスポーツバックを抱えて付いてくる子がいる
「ありがとう、舞波」私たち秘密国家公務員の武器開発班の石村舞波だ。
「舞波の武器も役に立つ時あるのね」危機を脱し、桃子が軽口になる
「えっへん」ちょっと得意げだ
「とにかく、このヤマ。終わった訳じゃ無さそうね」
「まさか、秘密犯罪組織ZYXがまだ存在していたとはね」
桃子と私はもともとZYXで秘密犯罪訓練を受けていたんだけど、ある事件をきっかけに
疑問を抱くようになったの。そして秘密国家公務員のアジト襲撃のドサクサに脱走して保護されたわ。
その時ZYXは殲滅されたはずなんだけど、、、
私達もアジトの喫茶店「Berryz」に戻った

「Berryz」には店番の梨沙子が居た
「ただいまー」
「それを言うならおかえりよ、梨沙子」桃子が突っ込む
「マスターは梨沙子?」私は聞きたいことが一杯あった
「今お買い物行ってる」梨沙子はニコニコしている。退屈してた様だ
「私、じゃあラボに帰るね」舞波はそう言って出て行った
「ありがとう、今日は助かったよー」私は礼を言う
「てんきゅー」桃子も礼を言ってるつもりだろう
「ばいばい」梨沙子も手を振って舞波を見送った
「でも、びっくりしたよね〜」桃子がしみじみ言う
「なに、なにー、どうしたのー」梨沙子が聞きたがる
そこに「おいっすー」扉が開いてマスターこと私たちのボス寺田さんが入ってきた

「マスター」私と桃子は同時に叫んだ
「どうしたんや〜」マスターはとぼけた感じで返事をした
「私たち信用して無いでしょ〜」桃子がふくれながら言う。何か全然迫力無い
「熊井って同業者(秘密国家公務員)?」桃子だと話が核心に近づかないので単刀直入に聞いた
「あ〜、いや〜、それやねんけどな〜。お前らと熊井が一緒に活躍するところが見てみたくなったんや〜」
何なのよそれ?
「まあ、それは冗談や。今回のヤマは深い。だからまず熊井に山崎の件を
早めに処理して欲しくてな。そしたら、出てきたやろZYX」
「!!!知ってたのマスター!!!」また、桃子とハモッて驚く
「そや、今回は総動員する予定や。頼むで」何か深刻さが感じられないけど
マスターはいつもこんな感じだ

「ふん、ここか〜。あいつらのアジトは」不敵な笑みを浮かべて「Berryz」の前に一人の少女が立っていた。
でも、舞美も案外、頼りないわね。あの程度でロストするなんて。
手にはゲーセンのコインが数枚握られカチャカチャと音をたてていた。
さてどうしよっかな〜、ガムを膨らませ風船をつくる。
「ねえ、あなた誰?」その声にガム風船が弾ける。あたしが後ろを取られた!驚いて振り返る少女。
「あそこ(Berryz)に何か用?さっきからずっと見てるみたいだけど」
この子、隙が無い。少女は目の前に立っている微笑む少女を睨む。
「千奈美、何か悪い事したかな〜?何で睨んでるのかな」微笑む少女は千奈美と言うらしい。
「いや、別にあそこ(Berryz)を見てたんじゃないよ」少女はここはいったん退くことにした。
すれ違いざまに千奈美は「千奈美が名前言ったんだからあなたも教えてよ」と投げかけた。
ふん、と鼻をならしてその少女は2,3歩進んだ時、握っていたコインを一つ振り向きもせず放った。
そのコインを軽くつかむ千奈美。「あっぶないなー」といってコインを投げ返す。
振り向いてそのコインを掴んだ少女は「愛、私の名前よ。また会いましょう」不敵な笑みとともに去っていった。
千奈美はコインを掴んだ手に痣が出来ているのを確認しながら
「のぞむところよ」そう呟いて「Beryyz」に入っていった。

「いらっしゃーい」入ってきた見知らぬ女の子に梨沙子が元気よく挨拶する。
「マスター、鼠がうろちょろしてたよ。追っ払ったけどね。」女の子はそう言いながらマフラーとコートを脱いだ。
「千奈美、スマンな〜」マスターが緊張感の無い声で答える。千奈美っていうらしい。
「あなた達?一緒に仕事する人たちって?何か頼り無さそう」笑いながら私と桃子を見た。
「ちょっと〜〜〜、ちまきだか何だか知らないけど、頼りないって何よ〜〜〜」桃子が反撃する。
「おいおい、喧嘩すんなや〜」マスターがなだめようとする。
「この子は千奈美。お仲間(秘密国家公務員)や。」マスターが改めて私たちに紹介する。
続けて「こっちは、佐紀と桃子。今回は大仕事なんや〜。連携頼むで」マスターは千奈美に私たちを紹介した。
「くれぐれも千奈美の邪魔しないでねー。」満面の笑顔で愛嬌があるのだが言う事は腹が立つ。
「よろしく」私はなるべく平静を装って挨拶する。桃子は向こうを向いたまま「ふん」と拗ねて答えない。
「ま、いいけど。そうそうそれより表にいた子、愛とか名乗ってたわ。マスター何か知らない?」
「めぐみだってーーー」桃子と顔を見合わせる。どうやら本当にZYXは存続してるらしい。
マスターの方を伺うと柄にも無くまじめな顔をしている。
今回の件は山崎の息子の不祥事を足がかりに山崎自身の不正を暴くのが真の目的らしい。
山崎は権力を使って、壊滅させたはずの秘密犯罪組織からZYXの三人(舞美、愛、えりか)を
秘密裏にその配下において様々な追及の手をかわしているらしいのだ。
今後については私と桃子は引き続き学校で様子を探り、向こうのアクションを待つ。
千奈美は友軍のような形で学校関係を外部から探る。そういう事になった。

「あの友理奈って子は?」私は気になってることを聞いた。(秘密国家公務員は名前で呼び合わなければいけない。
本名かどうかは本人しか知らない。)確か次のヤマに向かったといってた。
マスターは、山崎自身を張っていると答えた。大変危険な役回りだ。
「私たちって小中学校の平和を守るのが任務じゃないの?」桃子が発言する。
ふふふっ。千奈美が笑いながら言った。
「あなた達の任務はそうかもね。他の秘密国家公務員は違うわ。日本の影の部分の不正を摘発してるのよ」
「そうなんだ」私はちょっとショックだった。私と桃子だってZYXで相当訓練を積んだ自負がある。
でも、ここでは危険の少ない仕事をこなすだけ。
「違う、違う」マスターが手を顔の前で振って、否定する。「お前達の任務だって、凄い重要なんや」
マスターはあの学校に何か手がかりがあると睨んでる。そこでの捜査は熟練の秘密国家公務員でないと出来ない。
しかも一人だと大変危険なので二人組みで活動してる私達を選んだらしい。実際、二人組みで行動してるのは
私と桃子二人だけで、大体単独行動するのが普通だと言った。
だから今回、友理奈や千奈美と私達が顔を会わせること自体そうとう大きな事件ということなのだ。
更に私達がZYX出身だから今回出てくるであろうZYXにも対応できるだろうという配慮もあったらしい。
(期待にはこたえてないけど・・・)
私達全員を知ってるのはマスター、梨沙子、舞波だけらしい。友理奈と千奈美はお互いを知らないとマスターは言った。
事実、千奈美は「そんな名前初耳よ」と答えた。一言多いけど嘘はつきそうに無い。多分本当だろう。
「とりあえず、そういうことね、じゃあ、千奈美オツトメに行ってきまーす!!!」元気に言って千奈美は出て行った。
「またねー」梨沙子は、にこやかに送り出す。
「お前らー、喧嘩するなよ。千奈美は年下なんやから」
「あ、やっぱり・・・」私と桃子は顔を見合わせた。

私と桃子は翌日何事も無かったかの様に登校した
私達に対して登校中の妨害も無く少し拍子抜けした
「何もないって言うのも逆に怪しいわよねー」桃子が鞄を持ったまま欠伸する
「そうだね」私はいったい山崎側が次にどんな手を使ってくるのか全く読めない
仮にも失敗したとはいえ息子の悪事は明らかになった。そして私と桃子がそれに絡んでいるのはバレてる。
「考えてもしかた無いっか」桃子が軽く言う。確かにその通りだ、私も考えるのを止めた。
教室に入ると2つの噂で教室は持ちきりだった
一つは山崎が入院したこと。表向き原因は病気だが、昨日まで元気だったからみんな不審がっている。
そしてもう一つはクラスに転校生が来ること。私達が入ってまもなくだから
うちのクラス転校生多いよねーとあちこちで話している。
そうこうしていると先生が入ってきた「今日は皆さんに新しい仲間を紹介します。」といって一人の少女を招きいれた。
「矢島舞美さんです。」
「矢島舞美です。皆さんよろしくお願いしまーす。」
「そうくるーーーー」私がずっこけてると後ろのほうから鉛筆が折れる音がした。桃子だろう。
「え〜っと、じゃあ矢島さんの席は」先生がそう言うと男子達がそわそわし始めた。
そりゃ見た目は美少女だけどさ、本性知ったら君たち吹っ飛ぶよ。私がそう思ってると
「嗣永さんの後ろが開いてるわね」先生が言った。
「げっ」また桃子だろう。
「じゃあ矢島さん嗣永さんの後ろの席に座ってください。」
そう言われると舞美は桃子の後ろの席に向かって歩き出す。横を通ってる時の男子の顔、みてられないわ。
「よろしくね、嗣永さん。」舞美が微笑む。「ふぁーーー」桃子は奇声を発してる。
「嗣永さん。仲良くしてあげてくださいね。」先生の声に桃子はダウンした。

昼休みの屋上
「あ〜、もういらいらするぅ〜」
桃子がストローを噛みながらぼやく
「ぼやかない、ぼやかないー」
私は、さっきからずっといらいらしてる桃子に閉口している
「だってね、佐紀ちゃん。いい、ずっと舞美の爽やかお嬢オーラを浴びてるのよ」
メロンパンをほうばり、地団太踏んでる
なんだそれ、マークされてるプレッシャーじゃないの?
「私を素通りする男子の視線。許せない〜〜〜〜〜」
「どうどう」桃子はすっかり舞美のペースに嵌ってしまってる。
「舞美が私たちを牽制して愛とえりかが外から封じる気だね」
普通に分析するが
「分かってるわよ〜、それぐらい。佐紀ちゃんもあの位置座ってみなよ〜」
桃子はよっぽど舞美が人気を独占するのが嫌なのか怒りっぱなしだ。
すっかり頭に血が上って冷静さを欠いている。
そういった意味では連中(ZYX)のとった舞美転入作戦は成功してるといえる

困ったな〜と伸びをしてると頭上に千奈美の顔があった
「相変わらずだね。大丈夫?」冬なのに焼けた肌が活動的な千奈美らしい。
「あ〜、もうここにも居た〜イヤミっ子〜」桃子はもう何かてんぱっててどうしようもない。
「千奈美ちゃん、いいの私達と接触しても」
「平気平気、ちゃんと誰もいないの確認済みだよ。それにもう連中にはばれてるしね」
アクティブな割には幼い声に私は少し千奈美に親しみを感じていた。
「舞美だけど、特に怪しい人間と接触して無いみたいよ。あなた達の監視一本て感じ」
「そりゃ、私みたいに出来る人間にはマンツーマンで無いと封じること出来ないからね〜」
桃子がストローを口に加えながら私の肩に手を置いて割り込んでくる。
その格好、クラスの男子が見たら百年の恋も冷めるわよ。
「そうだよね〜、ガチガチになってたもんね。舞美が消しゴム拾っただけでビクついてたし〜」
「あんた、見てたわね〜」桃子は手を出すがちなみは軽くよける。
「まあ、もう暫く様子見るわ。いつ、愛が実力行使してくるかも分からないし」
去り行く千奈美の姿を見届けながら
「友理奈のほうは大丈夫なのかな」山崎本人の周りを張ってる友理奈が心配になっていた。
「舞美〜、次の体育で思い知らせてやるわよ、おほほほほ〜」桃子は全然人の話を効いてなかった。
とほほ・・・

「さあ、体育の時間よ。この舞波から借りたジャンピングシューズで
舞美を完膚なきまでに叩きのめしてやる」
桃子が、怪しげなばねの付いたシューズを手に燃えている
「桃子、でもそれ反則だよ。」
「分かってるわよ、ちょっとしたギャグよ。最近、緊張の連続でしょ
少しでもリラックスさせようっていう友情がわからないの」
本気で言ってるのかどうか分からなくなってきた
「頭痛い」
「そりゃいけないわ、佐紀ちゃん。保健室で休んだら
私が華麗に舞美に勝つところを見せられなくて残念だけど」
何か、桃子目的間違ってきてるわよ
「さあ、そろそろ行かないと先生に叱られちゃう」
とにかく、運動場に向かった

「遅かったわね、チビペア」
舞美が皆に聞こえないところで失礼なことを言う
「あんたも、調子に乗って地が出ないよう気をつけなさいよ」
おほほ、うふふ
私は、正直引いた

今日は60メートル走だ。舞美の最も得意とする競技である
桃子は、私より早いが舞美は洒落にならないぐらい速い
天は幾つのものを舞美に与えたのか、凹んじゃう
とは言っても別に桃子と舞美は一緒に走ることは出来ない
タ行とヤ行の間には10人近くいるからだ
むしろ私と桃子が一緒に走ることになった
私が1コースで桃子が6コースだ
桃子はもう私なんか眼中に無く、舞美をずっと見ていた
よっぽどストレスがたまってるんだろう
私はあっさり最下位でゴールイン、桃子はこの組ではトップだった
しかし、その栄光は舞美により奪われた

段違いに速く舞美は、一人抜け出てゴールした、しかもケロッとしてる
クラスの皆が舞美の周りに輪を作って賞賛してる、様になってるなー
舞美は、輪から抜け出し近づいてきた
「桃子、お疲れ様。ちょっとは速くなったのね」
お嬢スマイルで桃子を嫌味っぽく見下している
「ん〜も〜〜〜〜〜〜、悔し〜」
地団太踏んで悔しがる桃子。
「仕方ないよ、最初から結果分かってたし」
「佐紀ちゃん、駄目よそんな負け犬根性じゃ」
桃子は勝負事になると人がかわる。勝ち負けに異常に拘るのだ
でも、舞美は相変わらず速かった
つまりそれは以前と同じ強さを維持していることなのだ
舞美がいることは、この学校で私たちは封じられたのと同じなのだ
桃子じゃないけど確かにやり難い
でも、舞美ちゃん敵になってからキャラ変わったな〜

「しまったな、私らしくない」
友理奈は、苦境に立たされていた
山崎の身辺を洗っていたのだが、自身がつけられていたとは誤算だった
「あなたの人生最大の失敗は、ここで私にあったことね」
その女は友理奈に対峙している。慎重は友理奈より10センチ以上高そうだ
友理奈は、全てにおいて圧倒されていた
(この人、強い・・・)
本能が恐怖した、鳥肌が立ってきている
「よかったら、名前を聞かせてくれない。」
「処分される人間に名乗ることも無いわ」
そういって、間を詰めてくる
危ない!と思ったときには友理奈の鳩尾にアッパーが入っていた
気を失う友理奈、崩れ落ちる
「秘密国家公務員、大した事無いわね。佐紀、桃子、次はあなた達よ」
ZYX最後の一人、梅田えりかは呟きながら、友理奈を抱えて去っていった

学校から「Berryz」に戻った私たちは友理奈がさらわれた事を知った
「すぐ、助けなきゃ」私はいてもたってもいられなくなった
「まあ、佐紀、落ち着け。助けるといっても何処にいるかわからんやろ〜」
マスターの言わんとする事も分かるが、どうなるか分かったものじゃない
友理奈は、山崎の息子を直接退治してるのだ
桃子も心配そうに黙り込んだままだ
「きたー」梨沙子が、扉の方を見た
「マスターお待たせ」舞波がなにやら携帯テレビみたいなのを持って入ってきた
「待っとったで」マスターが、カウンターから出てくる
「何なの?」不思議そうに桃子が覗き込む
「友理奈に取り付けた、発信機の追跡システムよ」舞波は、なにやら画面横のスイッチを弄くってる
「そういうのがあるなら、早く言ってよ〜」マスターったら意地悪だ
「スマンスマン、実際、ちゃんと動くか不安で」
「どういう意味ですか?」舞波が心外だといった感じでマスターを見る
「まあまあ、で、友理奈は何処?」
「う〜ん、西に移動してるわね」
「すぐ追いかけよう。マスター、車」私は催促した
「よっしゃ、いくで」我々は、マスターの運転するミニバンに乗り込んだ
マスター、私、桃子、千奈美、舞波、梨沙子総勢6名が友理奈救出に向かった

高速を西に向かう車に友理奈は、後ろ手を縛られた状態で後部座席にいた
口には猿轡が嵌められている。うんうんもがいている
「無駄よ、静かにしなさい」横に座ったえりかが、友理奈を押さえる
車は、暫くして高速を降りた。其処はリゾート施設のある湖の近くだった
そして暫く山道を走り着いたところはコテージ風の建物だった
「ふふふ。ここの地下室で僕とずっと楽しいことしようね〜、ぐふふ」
山崎Jr.が嫌らしい目つきで友理奈を見る
「とりあえず中に入ろう」
えりかは、雇い主ながら気味悪くなった

「とりあえず、そこまでー」
えりかは、声の方を見た
「あなた、誰?」
「愛と正義の秘密国家公務員、ま〜さ。あなた達の悪事は、私が許さない〜」
ポーズを決めるま〜さ、あきれるえりか。ちょっと嬉しそうな山崎Jr.
「ふざけた子ね、まあいいわ、私の前に立ったことを後悔させてあげる」
言い終わらないうちにエリカの鉄拳がま〜さの鳩尾を狙う

しかし、ま〜さはその手を掴んだ
「あっま〜い。本当に相手が悪かったのはあなたの方ね、ふふっ」
掴んだ手をそのままくるっと回してえりかを地面に捻じ伏せた
「くっ、そんな」
「ふふっ、真打って後の方に出てくるものよ〜」
ま〜さは、えりかに手錠をかけ、逃げようとした山崎Jr.に
「待ちなさい、未成年者誘拐の罪で逮捕しま〜す」
こうして、えりかと山崎Jr.は取り押さえられた
「ありがとう、助かったわ」
縄を解かれた友理奈は、ま〜さに礼を言った
「同業者は助け合わないとね」
遠くからサイレンの音がする、ま〜さが手配した警官隊だった

その頃、私たちはそんな事も知らずにSAでパンク修理をしていた
「マスター、ちゃんと点検ぐらいしてね」
「すんまそん」

「相変わらずバカやってるわね佐紀」
その声は聞き覚えがある。間違いない村上愛だ
「愛。なぜあなたまで悪い人の味方するの?」
私は、目の前に立っている愛が私たちの敵だなんて信じられなかった
「佐紀、私はね善悪は関係ないの。ただ強い敵とギリギリの緊張感の中で
全力で戦いたいだけなの。それに山崎には拾ってもらった恩もあるしね」
取り付く島もない
「でも、愛、あなたとは戦いたくない」
「佐紀、私はねさっきも言った通り、ただ強い敵と戦いたい。それだけ」
「まあまあ、強い敵って言ってるけど、私が本当に強い敵って何か教えてあげるよ」
車の中から千奈美が降りてきた。その目は愛を鋭く捕らえている
「今度はすんなり帰さないわよ」
「あなたとは決着をつけたかったわ」
二人はもう互いの間合いを計っている

「千奈美・・・」
マスターが心配そうに声をかける。桃子たちも同様だ
そこへピーッと無線のコール音がした
マスターが、何か話している
「みんな、友理奈は無事保護されたで。あと、愛さんとやら
お仲間のえりかって子も我々の仲間が確保したらしいで。大人しく投降しいや
佐紀も桃子もおるんやし」
「無駄よ。私は戦う為だけに生きる」
千奈美に対峙したまま愛が答える
「じゃあ、私はそんな貴女みたいな人をコテンパンにやっつけるのが生き甲斐かな」
千奈美が不敵に笑った
「何を」
愛が、コインを投げつける。早い
「馬鹿の一つ覚えね〜。もう通用しないわよ」
千奈美は全てを紙一重で避けた
「やるわね。そうじゃなくっちゃ」

愛は千奈美との間合いを詰めコインを弾いた
至近距離で避けきれず、1〜2枚千奈美に命中した
「くっ」軽いダメージが千奈美を襲う
千奈美は、愛を捕まえようとするが素早い動きで翻弄する
「千奈美」
「駄目、手を出さないで。大丈夫よ」
千奈美は手を広げて私を制する
「やせ我慢がいつまで持つかな」
ちょっと、愛の顔が嗜虐的な笑顔で歪む。違う、愛はこんな子じゃない
一歩前に出ようとするが、桃子が私の肩を掴んで無言で首を横に振った
小さな休憩スペースだが何故か一台も入ってくる車が無かった
おかしく感じるべきだったのだろうが、そのときは二人の対決に見入っていた

二人の戦いは続いていた
愛は、もはやコインを投げつくしていた。しかし、千奈美に与えていったダメージはかなりのものだ
至近距離で急所を狙っているので数発でも千奈美の動きを止めるのには、十分であった
千奈美もまた、愛が接近したところに打撃を加えて体力を消耗させていた
お互いに体は痣だらけになり、立っているのもやっとの状態にきていた
「愛、千奈美、もういいよ。山崎はもう捕まったんだよ。二人が戦うこと無いよ」
私は、見ていられなくなり、二人を止めようと必死で叫ぶ
近づこうとするが二人の気迫と、桃子が制止するので動けない
「佐紀、見ておくの。これが私たちの仕事」
私の肩を掴む手に力が入る
「でも、もう終わったんじゃないの?」

「そうはいかないわ 」
高飛車な女の声がした
「誰?」
私たちはその声の主を探した
「お、お前は、矢口・・・」
マスターが、絶句する。私たちも言葉が出ない
矢口とはZYXの創設者でありリーダーでもある。しかし、最終決戦の際、死んだはずだ
「愛、この程度の敵にだらしが無い」
蔑むような目で愛を見る
「何が目的なんや」
マスターが、私たちを庇って前に出る
やれやれといった感じで、首を振ったあと、冷たく言い放った
「復讐よ」
「復讐・・・」
私と桃子は、元師匠の意図するところが分からない。ただ、見つめるだけだ
「あなたは、私を使い捨てにした。秘密国家公務員オリメンの私を・・・」
「ち、違う、お前には秘密国家公務員のリーダーとして引っ張って行って欲しかったんや」
「戯言はいいわ。愛、貴女には失望したわ」
やっと立ってる状態の愛のほうを向いて冷たく言い放つ
「ち、違う・・・、私は、まだ、負けてない・・・」

「兎に角、ここで決着をつけましょう」
気がつくと私たちは黒尽くめの集団に囲まれていた
「師匠・・・」
「あら、出来損ないの落第生たちね。裏切って秘密国家公務員とはね」
「裏切ったんじゃない・・・。私はあなたを尊敬してた
だから、修行にも耐えたし、任務もこなした。でも、気付いたの
単に悪人に利用されてるだけだって」
桃子が、睨む。私も同じ思いだ。拾ってくれた恩は感じるけど悪いことはしたくない
「変わったな、矢口。お前そんな奴やなかったやろ」
「ふん、ここがあなた達の墓場よ」
黒ずくめの軍団が間を詰めてくる。張り詰める空気
私たちだけなら何とかなりそうだけど、傷ついた千奈美、戦闘できない舞波や、梨沙子にマスター
どうする

「あなた達の相手は、わ・た・し」
天使のような笑みを浮かべながら現れたのは、そう、舞美だった
「いつかのように逃がしたりはしないわ」
その笑顔に私は戦慄した・・・

「舞美、あなたなら1分ね。やっておしまい」
矢口が、指示する
「はい、ぶっちぎります」
にこやかに応える。憎憎しい
「それはこっちの台詞よ、ま・い・み」
桃子が舞美の前に立ちはだかる。ライバル意識が顔に溢れている
「チビコンビさん、二人まとめてかかってきたら」
私は桃子を見る。すでに臨戦態勢だ。よし、やるしかない
私と桃子は舞美を挟み込む形で二手に分かれる。舞美を中心に1直線になる
そして、同時に攻撃をする。スピードも乗ってる、いける
私と桃子のパンチが舞美を捉えた・・・
かに見えたが
舞美は、白鳥のように優雅に私達の拳をそれぞれの手で掴んでいた
時が止まったように私と桃子は動けない。舞美は涼しい顔で、私達の動きを封じている
舞美の手から力が伝わってくる
本能がそれを嫌い、舞美から離れた。桃子も同様である
汗が、頬を伝う。桃子も追い詰められた怯えた目になっている
強い!段違いに強くなっている

「よし、お前達。あとのザコを倒してしまいなさい」
矢口は、私達の戦いを尻目にマスターたちを殲滅しようと指示する
「こっちきちゃ駄目」
妙に冷静な舞波が、見たこと無い空気銃みたいなものからボールを打ち出す
そのボールは、破裂すると粘々した液体が溢れ、黒服たちの動きを止めた
マスターと梨沙子も舞波から別のネバネバ銃を借りて応戦している
しかし、相手の数から時間の問題だろう
私たちは、舞美の相手で手一杯だ。て、言うか、いつまで堪えられるかといった感じだ
千奈美はもう戦闘能力を失っている。相手の愛も同様だが

「よそ見してる余裕があるの?」
舞美は、私たちに手招きする
「なめないでよ〜」
桃子が飛び込む。駄目、単独じゃ勝ち目無い
桃子の拳は空を切り、舞美の膝が桃子の鳩尾を捉えた
くっ、桃子が跪く。このままじゃ、桃子が
私は、無理を承知で飛び込む
「無駄よ」
舞美は軽く身をかわす
膝は間一髪、ガードしたが、ダメージを受けた
どうすればいいの

舞美の膝が、私の腕と胸に痺れを残していた。左手が動かない
桃子は頭を振りながら起き上がる。かなりきついのか動作が鈍い
「あと10秒ね」
舞美は、言うが早いか長い足で私に回し蹴りを決めた。右手でガードしていたが頭に衝撃が伝わる
もう、駄目・・・
朦朧とする意識の中で、桃子も同様に吹き飛ばされているのがボンヤリと分かった
「57秒か、ちょっと早かったかな」
涼しげに手を叩きながら、舞美はマスター達の方に向きを変えた

「ねえー、きりが無いよー」
梨沙子はもう一杯一杯だ。相当疲れてるのかネバネバ銃ももう構えていない
「あの二人もやられたみたいだよ、どうする」
舞波が焦ってるのか落ち着いてるのか分からない声でマスターの指示を待つ
「どうするってもな〜」
もう終わりか、自分の門下生の手にかかって生涯を終えるとは・・・
それも良しか
いや、この子達のためにも自分がしっかりしなくでどうする
「梨沙子、舞波、あきらめるんやない。まだ、希望はある」
そう、現地に辿り着かない我々を心配して迎えが来るはずだ、それまで持ちこたえれば
「無駄な、足掻きは止して覚悟を決めなさいよ」
矢口が非情に言い放つ
舞美が、ゆっくりとマスターたちに近づいていく
冷たい笑顔を浮かべて

「ま、ちな、さいよ・・・」
弱弱しい声で舞波の前に立ちふさがる影
千奈美だ。小刻みに震えながら立っている
愛は、倒れている。全ての力を使い果たしたようだ。微動だにしない
ただ、呼吸による動きでその生存が確認できるのみだ
「愛、情けないわね〜。だから貴女はトップになれないのよ。所詮、私の引き立て役ね。まあ、いいわ。
さて、誰だか知らないけど私の前に立ったその根性だけは褒めてあげる」
言い終わるが早いか、動きの取れない千奈美に舞美の裏拳がヒットした
信じられない、仲間である愛まで、侮辱するなんて。確かに舞美の強さは昔から半端じゃなかったけど
こんなに非情じゃなかった。私が修行で行き詰った時、優しく教えてくれたあの舞美が・・・
桃子とは確かによく喧嘩してたけど、ふざけあってのものだ。愛やえりかも・・・
「舞美・・・なぜ」
私の声は届かないのか倒れている千奈美の傍をゆっくりと通り過ぎる

「あんたね〜、いい加減にしなさいよ」
桃子がいつの間にか立ち上がっていた。相当なダメージがあるはずなのにしっかりと両足で大地を踏みしめている
「いつの間に本当に嫌味っ子になっちゃったのよ〜」
桃子の目が鋭く舞美を捉えている。強い意思を秘めた目だ
「裏切り者が・・・」
舞美が桃子を睨み返した

その時、SAの入り口の方から騒がしいバイクの音と悲鳴が聞こえてきた
バイクは黒服たちを掻き分けながらマスターの車まで辿り着いた
バイクには黒のツナギを着た二人が乗っていた
運転している方が、ヘルメットを取ると見たこと無いショートカットの女性だった
「愛と正義の秘密国家公務員、ま〜さ。あなた達の悪事は、私が許さない」
茉麻と名乗る秘密国家公務員らしい女の人が決めポーズをとっている
「ちょっと、そういう感じじゃないみたいだよ〜」
後ろでヘルメットを取った女性は友理奈だった
「もう、気分よ、気分」
二人は、場違いな雰囲気でバイクから降りた
「お前ら、遅いぞ」
「へへー、ゴメンゴメン、でももう安心して。私達が来たからにはもう大船から乗ったつもりで」
「茉麻、それを言うなら大船にや」
マスターは、やっと援軍が来たって感じで普段の調子が出てきてる
二人は早速黒服たちを倒し始めた

「何してるの、舞美。早く倒しなさい」
矢口が、二人の出現に慌てている
「了解、ふざけた連中ね。覚悟しなさい」
舞美が、茉麻と、友理奈の方に行こうとする
「舞美、あなたの相手はこっちよ。自分で言ったんでしょ」
桃子が、毅然とした態度で舞美に啖呵を切る
私も何とかダメージが少し和らいだので立ち上がった
茉麻と友理奈の戦いっぷりから向こうはもう大丈夫だろう
「私もよ、舞美。今のあなたは許せない」
何が変わったのか知らないけれど、今の舞美はおかしい。とにかく桃子と二人で倒すしかない
「まだ、足りないようね。分かったわ、遊んであげる」
舞美は、再び私たちに対峙した

私と桃子、そして舞美の3人とも動きを止めた
次の一撃で全てが決まる。いや、決めなければ私たちに勝ち目は無い
もうあれを使うしかない
私と桃子の最後の大技「桃子スッペシャル(桃子が勝手にそう名付けたんです)」で・・・
桃子を見る、やる気だ。これ以上無いくらい高潮している
舞美は不敵な笑みを浮かべていたけど、何かに気付いたのか顔から笑みが消えた
私たちは舞美との間合いをじりじりと詰める
舞美の気と言うか威圧感が、ビリビリと皮膚に感じられる。全身が総毛だってる
怖い・・・でも、ここで引くわけには行かない
みんなの為に、見捨てられた愛の為に、そして舞美に目を醒まして貰う為にも負けられない

精神が研ぎ澄まされていく。静かだ・・・
今!
閃光が走った
桃子と同時に舞美めがけてダッシュした
舞美の両腕が私たちを掴もうと伸びてくる、掴まれる、刹那
桃子がジャンプして舞美の右手が空を掴む
私は、倒れるように体を落とし、舞美の左手をギリギリのところでよける
桃子が空中で捻りを入れながら舞美を蹴りにいく
私はそのまま水面蹴りの要領で舞美の足を狙う
今までで一番の速さとコンビネーションだ
確かな手ごたえとともに舞美が膝をついた
「そ、そんな、私が、あなた、たちに・・・」
言い終わる前に舞美はその場に崩れ落ちた
私と桃子ももう戦える力は残ってなかった

「舞美、大丈夫、舞美」
私と桃子は、舞美を抱え呼びかける
「ね、もう終わったのよ」
舞美は、さっきまでと違う優しい目になった
「私、寂しかった」
弱弱しい声で私たちに話し始めた
「いいの、今は喋っちゃ駄目。もう、いいの」
「そうそう、また私のライバルとして頑張ってもらわなくっちゃ」
そう言う桃子の目が潤んでいた。もちろん私はとっくにだけど
「ごめんね、でも、分かって欲しいの。山崎は私たちを利用したかもしれないけど
私たちのことを救ってくれたの。秘密国家公務員に処刑されるところを・・・ぐっ」
舞美が咽る
「もう、分かってる。今はじっとしてよ、ね」
「で、でも・・それも誤解だった。あなたたちを見てれば分かる
私たちは、知らない間に言いなりのロボットのようになっていた・・・」
舞美の目にも涙がにじんでいた
「これからは、また、皆一緒だよ。そうでしょ」
強く舞美を抱きしめる。桃子も同様に抱きしめてくる

「さ、もうお仕舞いみたいよ」
茉麻が一人になった矢口を追い詰める
「く、どいつもこいつも役立たずね。こうなったら道連れよ」
矢口は、胸ポケットから何かを取り出した
「高性能爆弾よ。半径50メートルは、木っ端微塵ね」
「矢口、もうええやろ。山崎の呪縛から解き放たれたんや、うちに来て後進の指導してくれんか」
マスターが、説得する
暫く、マスターを見つめていたが、ゆっくりと首を振り
「マスター、あなたと一緒に死ねるなら、もういいわ」
静かに矢口はスイッチを押そうとした
私の腕が急に軽くなった
「舞美ーーーーーー」
桃子の声で私は舞美が矢口のもとにかけていくのに気付いた

舞美は矢口を抱えて崖の方に向かった
二人が視界から消えた
「駄目ーーーーーーーーーーー」
私の声は爆音に重なった
「なんで、なんでこうなるのよ」
桃子が震えながら私を見る
私は何も言えず桃子を見ていた、いや、虚空を見ていた
「阿呆・・・」
マスターの寂しそうな声でその場は沈黙した

爆発した場所には大量の血が飛び散っていたが二人の遺体は見つからなかった
「舞美、師匠、きっと生きてるよね」
「そうね、きっと・・・」
桃子の返事が悲しく響いた
一つの事件が終わった、そう、悲しいけどこれは一つの事件に過ぎない
それが秘密国家公務員の仕事・・・

 

2 名前:リプレッシブ・プリンセス 投稿日:05/03/20(日) 23:05:28

さくらの花びらが窓の外に舞う
新学期、梨沙子は初めて任務としてこの学園に転入していた
私立ヘーゼル学園−小中一貫のお嬢様女子高である
最近、ここで不自然な自殺者が出たと言うことで秘密国家公務員に潜入指令が下った
今回は、幅広く情報を集めると言う事から3つの学年にそれぞれ派遣された
5年生に梨沙子が、初めて派遣されたのだ

とある日のBerryz・・・
「私、何にも出来ないよ」
梨沙子はきょとんとした感じでマスターを見返した
「ええねん、上の方の判断で今回どうしても梨沙子が必要なんやて
とりあえず梨沙子は普通に通学して普通に過ごしてくれたらええねんて」
「ふ〜ん、じゃあ行く」
マスターの説明は要領を得なかったが、初めて任務とはいえ学校に行けるのが梨沙子は嬉しかった
「よかったね」
桃子の呼びかけに梨沙子は「うん」と満面の笑みで頷いた
嬉しそうな梨沙子、家庭教師がついているので教育はされてるが
同年代の子たちと一緒に学校で学べるのはやはり嬉しいのだろう

4月某日、初登校の日
「頭がいたい〜」
梨沙子は、頭を押さえて苦しがってる
折角、髪も黒くして行くのを待ち遠しがっていたのにとても苦しそうだ
「どうしたの梨沙子」
私は、見かねて訊いてみた
「何か嫌な感じがするの。頭の中に誰かいるみたいな」
辛そうだ
「どうする、今日は行くのやめる?」
「やだやだ〜〜〜」
仕方ない、一緒に6年生に編入する友理奈が、付き添っていくことになった
苦しそうだけど、健気にも学校に向かって出かけていった

「大丈夫かな〜」
千奈美が、小さくなる梨沙子と友理奈の影を見ている
「で〜も〜、今回さ〜、梨沙子や友理奈が小学校で〜」
私の前に座っている桃子が、オレンジジュースのストローを口に加えたまま喋りだす
「テストで行く愛とパートナー兼監査役の千奈美が中一てのはいいんだけど〜」
私はまだ言ってるって感じで半分聞く気を失ったが、それに構わず桃子は続ける
「な〜〜〜んで〜、私と佐紀がまた中一やらなきゃいけないの」
そうなのである、今回は実年齢での任務が4人、サポートとして茉麻と同じくテストのえりか
発明班として舞波、ここまではいい
但し、私と桃子だけ実年齢より下の中一での任務なのだ。折角、実年齢潜入できると思ったのに
「だから、しょうがないじゃない。二人いっぺんに転入するより新入学のほうが怪しくないからだって」
「そんな当たり前の説明要らないわ」
私の説得に桃子は聞く耳を持たない。この任務を聞いてからずっとこんな感じだ
昨日の入学式は不承不承行ったのだが、明日の対面式を前にまた不満を思い出したらしい
「まあ、よろしくやってや〜」
千奈美がマスターの真似をしてからかう
「も〜〜〜」
桃子が、怒りの表情を見せるが、バイバイって感じで千奈美はBerryzを出て行った

始業式が終わり気分が落ち着いた梨沙子は、5年2組に案内された
「菅谷梨沙子です。あまり〜、えと〜、???」
「菅谷さん?」
先生が、どうしたのって梨沙子の方を見る
「あ、勉強は苦手だけど、スポーツは好きです。よろしくお願いします」
そう言い切ってニコニコしながら先生を見返した
「あ、ああ、はい、皆さん仲良くしてあげてくださいね。じゃあ、菅谷さんはあの鈴木さんの隣に座ってね」
先生が指差した先には、元気良さそうな少女が座っていた
「よろしくね」
梨沙子は、軽く会釈して自分の席に座った
「あなた・・・まさか・・・いや、よろしくね」
鈴木といわれた子は、梨沙子を見て不思議そうにしていたが、普通に戻った
「私、鈴木愛理。児童会で副会長してるの。わからないことがあったら何でも言ってね」
「うん」
梨沙子はこういうやり取り全てが新鮮で目をキラキラさせて愛理に微笑んだ
窓の外を眺めるとさくらの花びらが風に舞い上げられて美しかった

6年1組の教室でも同じやり取りが繰り広げられていた
「熊井友理奈です。負けず嫌いなので何でも頑張ろうと思います。よろしくお願いします」
「はい、元気ですね。皆さん仲良くしてあげてくださいね。じゃあ、中島さんの隣が空いてるかな」
友理奈は、中島さんと呼ばれた子の隣に座った
6年生だけど背が低くて、友理奈は可愛いと思った
「よろしくね」
「うん、よろしく。私、中島早貴って言います。早貴って呼んでね」
弱い声だけど明るく自己紹介してきた
「私も友理奈って呼んでいいよ」
友理奈は、早くも友達が出来て嬉しくなった

友理奈は違和感を感じていた
皆授業中に一言も喋らないのだ。先生が粛々と授業を進め、児童は指された時しか声を発しない
午前中のホームルームの時はそうでもなかったのだが、午後の授業になると一変した
早貴の方を見てもただ教科書だけを見てる。友理奈が向いているのも相手にしていない
何なの?
色々な小学校に潜入してきた友理奈だが、ここまで不自然に静かな授業は見たことが無い
友理奈は、寒気が走った。これが不自然な自殺と関係があるのかも
様子を探ろうと体調が悪いフリをして教室を出ようと考えた
「すみません、気分が悪いので保健室行ってもいいですか?」
沈黙を破り友理奈が訴える
一斉に友理奈をこの空間の全ての瞳が捉えた
何、何なのよ、これ・・・
全身から嫌な汗が噴き出してくる
「熊井さんはまだ転入したばかりだったな。行ってきなさい」
先生は、無表情なまま友理奈が出て行くのを許可した

教室の外も耳が痛くなるほどの沈黙が支配していた
絶対、おかしい。友理奈は調査モードに入った
各クラスの様子をさり気なく伺う
何処も水を打ったように静かだ
ふと中庭の講堂が目に入った、いったい何処の様式の建物なんだろう
東洋のような西洋のようなはたまた中東の様でもある
あそこで、始業式したんだよね・・・
「なにしてるの?」
「なにしてるの?」
友理奈は、不意を突かれ少し焦った
私が気付かなかった・・・
見ると小さい小学校低学年らしき二人の女子児童が立っていた。腕に黄色い腕章をつけている
「今授業中だよね、舞」
「うん、今授業中だよね、千聖」
色の黒い男の子みたいな子が、見るからに幼い子に話しかけると鸚鵡返しにその子が返す
何、この子達・・・友理奈は全身から汗が噴き出してくる
服が体にまとわり付いて気持ち悪い

何か言わなきゃ、この子達は危険だわ
「私はー、気分が悪くなって保健室を探していたの。でも今日転入したばかりだから迷っちゃってー」
千聖と舞は、顔を見合わせた
「ねえ、舞。こいつ生意気だよ」
「うん、千聖、こいつ生意気だよ」
「こらしめようか」
「こらしめようか」
「でも、勝手にやったらまた叱られるよ」
「うん、勝手にやったらまた叱られるね」
友理奈はその場を動けない、体が重く感じられて立ってるのもやっとだった
「じゃあ、ちょっとだけね」
「うん、ちょっとだけ」
二人の女の子は私を一斉に見た
二人の瞳が私の自由を奪った。身動きが出来ない、そんな馬鹿な・・・
頭痛が、してきた
何かが頭の中に入ってくるようだ
薄れ行く意志の中で無邪気に笑う二人の姿が、印象深かった

その頃、梨沙子は妙に静かな授業に学校ってこんなに静かにしてなきゃいけないんだと後悔していた
こんなのだったら、Berryzで留守番の方が楽しいな
愛理の方を向いても相手にしてくれない
あ〜あ、任務って思ったよりつまらないな〜
頬をプーっと膨らませて足を伸ばした
「駄目よ」
愛理が、梨沙子の方を見て首を振ってる
梨沙子は、ニコッと笑ってみるが、愛理は黙って首を横に振るだけだった
その時、梨沙子は、朝と同じ頭痛に襲われた
何かに押さえつけられるような、そして次第に誰かが頭の中に入ってくるような・・・
「痛いッ!」
堪らず大声を出す
「大丈夫、菅谷さん」
黙っていた愛理が、今度は声を出して心配する
梨沙子には1時間ぐらいに感じられた頭痛は、実時間にして5秒ぐらいで治まった
「大丈夫?」
もう一度愛理が尋ねる
「うん、何かもう平気みたい」
嘘の様に頭がすっきりしている
「調子に乗って・・・」
梨沙子には、愛理の呟きの意味が分からなかった

目覚めた時、友理奈は保健室にいた
「よかった〜、気が付いた」
弱弱しい声で早貴が、友理奈を心配そうに見ていた
「わたし・・・」
「ずっと眠ってたんだって、保健の先生が言ってた。凄い気分悪かったんだね」
「あの子たちは?」
まだ少し重い頭を支えながら、気になってることを聞いた
「あの子たち?」
早貴は、何の事って感じだ
「黄色い腕章をした二人組みのチビちゃん達よー」
早貴は、全く心当たりがないって顔をしてる
「夢じゃないの」
「そんな・・・」
じゃあ、この頭痛は?本当に気分が悪かった?何?混乱する友理奈
「初日で緊張したんだね。もう今日は終わりだよ。帰ろ」
早貴が、支えながら友理奈を起こす。もう放課後になっていた
「うん・・・わかった」
先生に挨拶をして学校を出た
早貴は、別れ際も心配そうにして家まで送ろうかと言ったが
友理奈は状態がだいぶ良くなったので礼だけ言ってBerryzに戻ることにした

「二人ともどうしたのよ〜」
桃子が浮かない顔の友理奈と梨沙子を気遣う
帰ってきてから二人とも沈んで一言も喋らない
二人とも普段は結構我先に喋ろうとするのにどうしたんだろう
「学校ってつまんなーい」
梨沙子が、口を開いた。不満たらたらって口調だ
「何で、友達とか出来なかった?梨沙子は学校初めてだもんね。難しいか」
「違うよ〜、友達は出来たよ。愛理ちゃんて言うの。何とか会の副会長なんだって」
「なにそれ?でも、友達できたなら、もう学校行った意味あるわよ。そこから手がかりが・・・」
桃子が言ってるさなか梨沙子は、喋りだす
「でも、誰も授業してる時、喋んないんだよ。桃ちゃん、お喋りが楽しいって言ってたのに・・・」
「ふえ、梨沙子もそうだったの?」

急に友理奈が口を挟む
「友理奈も同じだったの?」
私は、何か引っかかり、尋ねた
「うん、でね、おかしいと思ったから、調べようと外に出たの
そしたらね、ちっちゃい変な二人組が現れて、急に頭痛がして気が付いたら保健室に寝てたの」
「梨沙子も頭痛くなったよ」
梨沙子はちょっと嬉しそうだ。おいおい
「友理奈、頭痛がしたの何時ごろ?」
「う〜ん、2時ぐらいかな」
「梨沙子は?」
「えっとね、えっと、う〜〜〜ん」
腕組みをして考え込む
「多分友理ちゃんと同じぐらいかな〜」
自信無さそうに私を見る
「う〜ん、何か繋がりがあるかもしれないなー。桃子、今回は一筋縄では行かないかもね」
「まあ、私が明日行けば、大体分かるわよ。ナンバー1公務員だもん」
胸を張って、自信満々だ。いったい何処からその自信が湧いてくるのよ
「まあ、お前達、あんまり無理すんなや」
マスターが、自重を促す。確かに今回のヤマは、奥が深そうだ
謎の頭痛、静かすぎる授業、そして怪しい二人の児童、何なんだろう?

翌朝、桃子が、私を起こしに来た
「佐紀、遅いわよ、まずは早めに行って探るのがポイントよ。さ、起きた起きた」
何張り切ってるのかしら。私はパジャマを着替えて下りるから先に朝食を食べるよう促す
「いっそいでね〜」
おかしいわね、共学じゃないのに、まさか本当に仕事に目覚めたとか
下に降りると、友理奈や梨沙子と朝食をとっていた
「やっぱりね〜、こういう難解なヤマはこの桃子様のような優秀な者でないとね
体力だけじゃ駄目、やっぱり知性も私たちには必要よね。友理奈、今回は私が助けてあげるわよ」
友理奈と梨沙子はうんざりした顔でパンを食べてる
なるほど、二人がてこずるヤマを解決して前回助けられまくった事を帳消しにしたいのね
「さ、行くわよ、佐紀」
まだ食べてる私の制服の肩の辺りを掴んでいこうとする
「まだ、たべてるのー」
強引に私は、連れ出され、学校に向かう事になった

「特に怪しいところはないわね」
桃子が腕組みして講堂に凭れ掛かる
そんな、ちょっと朝早く行った位で分かるなら私たち潜入しないわよ
と、出かかった台詞を飲み込んで
「そうね、でも、桃子が寄り掛かってるこの建物、何かへンだよ」
桃子は、慌てて
「どこどこ、なにが」
それを無視して
「デザインが、なんて言うんだろ。ごちゃ混ぜって言うか」
教会のような、お寺のような、西洋のお城のような、時代劇のお城のような
とにかく訳が分からないデザインなのだ
「そ〜お。なかなかいかしてると思うんだけど。特にあの屋根の犬みたいなの」
講堂の屋根の四隅に、何か犬のような動物の彫刻?が飾ってあった
「そろそろ人が集まってきたわ。一旦、教室に入りましょう」
ピョンピョン跳ねて彫刻を見ようとする桃子を教室に引っ張って行く

私たちは1年1組だ
これはそうなる様に調整してこうなったのだ。無論、学校側にはそれとは分からないよう自然とである
千奈美と愛は、同様に調整されて3組である
教室には、生徒がほとんど来ていた
きちんと机に座って微動だにしない一団と普通にお喋りしている一団が分かれている
まあ、これぐらいは不思議じゃないわね
桃子と私は自分達の席に座る。机には今日の予定表が置いてあった
入学式の時は、体育館だったのだがどうやら今日の対面式は先程の講堂を使うらしい
しかし都内なのにこんなに土地があるなんてここはさすがお嬢様学校ね
感心して教室内を見回すと桃子がジーっと一点を見つめている
視線の先を追うと髪の長い子が座っている
その子は、何か書類のようなものを机に広げて考え事をしているように見えた
斜め後方からの見た感じだけれど相当な美少女に見える
それで桃子ったら過剰に意識してるのね
そうこうしてるうちに先生が入ってきた
本木先生って言う頼り無さそうな先生だ
「はい、皆さん。では対面式ですので静かに講堂に移動しましょう」
移動を始める椅子の音で一瞬、教室がにぎやかになった

対面式が始まった
講堂の中は案外普通の造りだった
私たち新入生(と言っても5分の4は小学部からの繰り上がりだけど)が入り口側でステージ側を向き
2・3年生たちがステージ側で私たちのほうを向いている
いろいろな偉い人たちの挨拶の後、新入生代表の挨拶になった
司会の先生が挨拶する生徒の名前を読み上げる
「新入生代表 夏焼雅」
その呼び出しとともに私の後方から元気な声で
「はい」
と、先程の桃子のライバル?こと夏焼雅が返事をした
少し艶のあるそれでいて子供っぽい声だった
足音が近くなってくる。私の横を通り過ぎる時、気のせいだろうか、寒気を感じた

上級生と新入生の間に立てられたマイクの前に止まった夏焼雅は、講堂内の空間を支配していた
この講堂にいる全ての者を惹きつける一つの芸術品がそこに存在している
後姿だけでも私は、目が離せなくなっている。きっと正面から見たら虜になってしまうだろう
こんな時、桃子の顔が見えないのが悔しい。きっと苦虫を噛み潰したような顔に違いない
それにしても、静かだ
夏焼雅の声以外何の音も聞こえない
よほど教育が行き届いているのか、またはお嬢様学校というクオリティーがそうさせているのか
静かな中で続く夏焼雅の語り口が、一つのメロディーのように聴こえる
内容自体は何の事はない当たり障りのないものだが、何か人を酔わせる力を持っている
魅力的な声とその雰囲気でそう受け取れるのかもしれないけど
一瞬、耳鳴りがした
ホントに僅かな間だと思うけど確かにキーンてした
気のせいだろうか。でも周りを見ると何人かの新入生が頭に手を添えている
しかし、誰も体調の変化を訴えようとしない
私は一瞬だったけど、こめかみ辺りを押さえている人がまだポツリポツリいる
桃子はどうなんだろうと思ったがあまりに静かなのと誰も大きな動きをしないので大きく振り返ることが出来なかった
えりか、茉麻、どっちでもいいわ見ててね
サポートの二人から後で聞こうと思い、その場は夏焼雅を見続けることにした

やがて挨拶が終わり、夏焼雅が元居た場所に戻ろうとこちらに向かってくる
正面からはじめて見たが、中学生には見えない大人びた少女であった
一歩一歩近づくにつれて、私は、体の自由を奪われていく。動けない
長い艶のある黒髪に漆黒の闇を思わせる瞳、そして何よりも整ったその顔立ちが、人形のように見えた
私は蛇に睨まれた蛙のように体が動かせない。意識だけが夏焼雅の存在を次第に近くに感じている
私のすぐ前まで来た。脂汗がにじんでる
そして夏焼雅は、私の横を通り過ぎる
笑った!
ほんの少し口元を上げただけだが確かに彼女は、私を見て笑った
心臓を氷で包まれたように体が震えた

対面式は、粛々と終わり2・3年生が先に退場する
そして、1年の学年主任の先生が
「中学からの新入学の人だけ残ってあとは退場してください」
と、指示する。小学部からのエスカレーター組が整然と退場していく
その様子は何か機械的で人間らしさを感じさせなかった
残った人数は20人ぐらいだろうか
そして先生達もいなくなり、彼女が私たちの前に出てきた
「中学からの入学組の皆さんですね。よろしくお願いします」
ハッキリと目の前に立つ夏焼雅は、より神秘的で、深い淵のようにその底を覗かせない
長く見ていると引き込まれていく、先ほどから受けるその感じが私には危うく思えた
桃子は無表情で凝視している。教室内で見ていた時とは明らかに違う視線だ
少し離れた所に千奈美と愛の姿を見つけた
千奈美は、腕を組んで右頬を舌で膨らませている。こちらも無表情に近い
愛は、なんだろう?何か廻りをきょろきょろと見回している。何かを感じ取っているのか
「それでは校内を案内しましょう」
夏焼雅の後を付いて私たちは講堂を出た
講堂を出て直ぐの所で立ち止まる
いつ見ても西洋とも東洋とも思えない意匠が施されていていったいどこの国に居るんだろうと錯覚しそうになる
「ここは講堂です。今の対面式のように学園の式典に使われたり、週に一度の全体集会の時間に使います
全体集会は、当学園の小中学生全員が参加することになっています」
私達に説明している夏焼雅は、何か命の息吹が感じられない不自然な存在に感じられた

その後、食堂やら、体育館などを案内してもらう
私たちは、この学校の先ほどからの整然とした様子に中てられたのか黙って付き従う
図書室に来た時、ふと気付くと夏焼雅が私の横に来ていた
この壁にかかってる絵は、シンデレラの物語を描いているのよ
「ねえ、清水さん。なぜシンデレラが、描かれてると思う?」
質問の意図がよく分からない
「シンデレラは、人間が生まれた時に持っている恵まれた環境を生かして出世することを目指せというお話なの」
雅は、窓の外を見る
そんな話だったっけ?私が知ってる話とは少し違うみたいだけど
「だからこの学園にいる生徒は皆恵まれた天賦の才や、豊かな財産を生かして、栄達を掴むことを至高として教育されるの」
そうなんだ。さすがお嬢様学校と言うべきか、桃子が聞いたらなんていうかしら
「でも、このシンデレラは、私たちの知っているシンデレラじゃない
灰かぶりのシンデレラ。その方が私たちには相応しい・・・」
雅の瞳が読めない
「結局は自分の力じゃない。人知を超えたものに利用されただけ」
笑った夏焼雅は、寂しそうだった
何が言いたいのだろう
しかし、もう夏焼雅は元の顔に戻り、私達を先ほどの講堂に連れ戻した

 

つづく