【新連載2(仮)】
「ねぇ、○○。○○ってば!」
桃子の呼ぶ声に俺は我に帰った。
「何だよ、キンキンした声でうるせぇなぁ」
「も〜っ、そっちが返事しないからでしょ〜!」
突然大声を出した桃子に通学途中の生徒達が一瞬こちらの様子を窺う。
「朝っぱらから大声出すなよ、恥ずかしい奴だなぁ」
「む〜っ、何、その態度!」
こいつ、嗣永桃子は俺と同い年のいわゆる幼馴染って奴である。
何かある度にキンキン喚くうるさい奴だが
家が近いということもあり、毎朝一緒に通学している。まぁ腐れ縁って奴だ。
「それでさぁ、知ってる?」
「知ってる」
「ふ〜ん・・・、って私まだ何も言ってないでしょ〜!」
「いや、知ってる。お前のブリっ子が演技だってことを俺はよ〜く知ってる」
「あんたね〜〜〜!!」
「痛っ、つねるな、痛っ。わかった、わかった、天使、天使、桃子は天使」
「わかればいいの」
恐ろしい女だ。
「でさぁ、知ってる?」
「だから何をだよ」
「今日、うちのクラスに転校生が来るらしいよ」
「ふーん」
「何それ、ちょっとは驚いてみせてよ」
「な、なんだって〜!!」
「それは驚きすぎ」
「う〜んAAがないといまいち臨場感がでないな」
「何言ってんだか」
「二人ともおはよう」
「あっ、佐紀ちゃん、おはよ〜」
「おう」
このちっこいのは清水佐紀、クラスの委員長であり、桃子の一番の友達だ。
「いいんちょは相変わらずちっこいなぁ、よちよち」
「もう、挨拶代わりに頭撫でるの辞めてよ〜」
委員長は頬をふくらませて、下からこっちを恨めしそうな目で見上げている。
「おぉ、すまんすまん。つい癖でな」
「佐紀ちゃん、こんなバカはほっといて行こっ」
桃子が委員長の手を引っ張ってずんずんと先を進んでいく。
「お〜い、待ってくれよ〜」
「待たないよ〜だ」
こんな感じで桃子と口喧嘩したり、委員長をからかったりしながら学校まで向かう。
まぁ、いつもの通学風景だ。
「おはよ〜」
「おっす」
席についた途端、前の席の千奈美が話かけてきた。
「ね〜ね〜、知ってる?来るらしいよ」
「あぁ、知ってるぞ。転校生が来るんだってな」
「違うよ〜、私が言ってるのはデルピエロのこと。Jリーグに来るかもしれないんだって」
こいつは休み時間には男子に混じってサッカーをするような、かなりの男女だ。
「あぁぁ、もう、楽しみだよね〜」
「何だよ、おまえこの前はドイツ代表のバラックが好きだって言ってただろ」
「デルピエロもかっこいいから好きなの」
「ふん、ミーハー女はこれだから困る」
「何よ〜!」
千奈美と言い争ってる最中に、桃子と一瞬目が合った気がしたが
どうやら気のせいだったみたいだ。そんなこんなで朝のHRの時間になった。
「今日はこのクラスの新しい仲間を紹介する。さっ、入ってきて」
通称鬼のYOSHIKOこと、よしこ先生に呼ばれて入ってきた生徒を見て、
教室は一瞬静まり、そしてざわつきだした。
「何だ、何だ、何がどうなったんだ?」
前の席の千奈美に尋ねる
「バカね、あんたあの子知らないの?」
「あの子?」
千奈美の視線の先には転校生の姿がある。
「今日、転校してきたんだから知ってるわけないだろ」
「あの子、最近売り出し中のアイドル、夏焼雅よ」
「へ〜」
「アイドルがクラスメイトになるだなんて、あ〜、びっくりした〜」
「ほ〜」
「もう!せっかく人が感慨に浸ってるのに水ささないでよ!」
千奈美が怒った顔をしてみせる。
「さ〜、みんな静かに、静かに!」
YOSHIKO先生の一喝に教室が静まる。
「ん〜、じゃあ夏焼、みんなに自己紹介して」
「はい」
教壇に立つ少女が間違いなく夏焼雅本人であることを知り。教室が再びざわめく。
「みなさん、こんにちは。夏焼雅です。仲良くして下さい」
「みんなも知ってる通り夏焼はテレビの仕事をしてる。けど特別扱いせずに仲良くしてやってくれ」
YOSHIKO先生のことばに教室から元気のいい返事が鳴り響いた。
「さてと、夏焼の席は・・・、おっ、そこが空いてるな」
先生が指差した席は・・・
「きゃ〜、隣よ、隣よ!あんたの隣よ!」
千奈美が興奮を必死に抑えながらヒソヒソ声で俺に話し掛ける
「あぁ、そうだな」
「って、あんた少しは喜びなさいよ〜」
「残念だが俺は巨乳アイドルにしか興味がないのだ」
「あっ、こっち来る、こっち来る!」
千奈美は興奮しすぎて、俺のことばが聞こえていないようだ。
そして、転校生が俺の隣の席に来た。
「夏焼です、よろしく」
「あぁ、よろし・・・」
「徳永ですっ、徳永千奈美ですっ。よろしくっ!」
俺の挨拶を遮って、千奈美がまくしたてる。
「おまえなぁ、俺が挨拶してる最中だってのに」
「何よぉ、あんたみたいなスカポンタンは名乗る必要なんてないでしょ」
「んだと〜」
千奈美との間に火花が散る。
「クスッ」
その時、隣から洩れた笑い声に俺も千奈美も思わず振り向いた。
「二人、仲いいんですね」
夏焼が俺達二人の様子を微笑みながら見つめていた。
「今のシーンのどこをどう見たら仲良さげに見えるんだ?」
「そっ、そうですよ!全然仲良くなんてないですから!さっ、授業、授業!」
なぜだが動揺している千奈美は慌てて前を向いてしまった。
「名前、何て言うんですか?」
夏焼が小声で話しかけてくる。
「ん、俺?○○」
「これからよろしく、○○君」
「あ、あぁ、よろしく」
奇麗な茶色に染められた髪、小学生とは思えない大人びたルックス、流石アイドルと言った所だ。
こんな現実離れした奴とうまくやっていけんのかな、俺
休み時間になると、案の定夏焼のまわりには人だかりができる。
「ねーねー、今までどんな芸能人見た?」
「この前のシングル、いいよね〜」
人だかりの中心で一際大きな声を上げてるのは千奈美の奴だ。
隣の席のこっちとしてはいい迷惑だが、どうすることもできないため仕方なく便所に向かう。
「ビックリしたね〜」
廊下まで追っかけてきた桃子が俺に話し掛けてきた。
「おう、何だ桃子。連れションしたいのか?」
「そんなわけないでしょ!って今はそんなことどうでもいいや」
無視されると寂しい・・・
「夏焼さんがあんたの隣の席になるとはね〜、今どんな気分?」
「気分って言ってもなぁ・・・」
「嬉しくないの?」
「俺、別にアイドル好きってわけでも無いしなぁ」
「ふ〜ん、あんな奇麗な子なのに何とも思わないなんて、あんたはやっぱり変人ね」
「変人かなぁ・・・」
「うん、変人、変人。○○は変人。私も近付かないようにしよ〜っと」
何だか嬉しそうな様子で桃子は教室に戻っていった。何だ、あいつ?
昼休みになっても夏焼フィーバーは収まらず、俺は仕方ないから屋上に出てみた。他に人はいない。
よし、せっかく誰もいないんだ、ここは一つシャドーボクシングでもしてみるか・・・
と思ってファイティングポーズを構えた時、後ろから声がした。
「へ〜、屋上からの眺めって奇麗」
夏焼だ。取り巻きはいない。
「どうしたんだ、一人で?さっきまであんなに大勢に囲まれて質問攻めにされてたのに」
夏焼はちょっと影のある微笑をうかべた。
「あんまり芸能人扱いされるの好きじゃないから・・・」
「そうなのか?」
夏焼はコクリとうなずいた。
「まぁ、ミーハーな連中が多いクラスだからな。困ったもんだ」
後で千奈美にもよく言っておいてやろう。
「○○君はあんまりそういうの興味ないの?」
夏焼がそう尋ねてきた。
「そういうの?」
「うん、アイドルとかそういうの」
「あぁ、悪いが俺は巨乳アイドル専門なんだ」
「きょっ、巨乳・・・」
動揺している。
「冗談だ」
「あっ、冗談ね、あはっ、あはは」
二人の間にちょっとの間、沈黙が流れた。その沈黙を破ったのは夏焼の方だった。
「私、私のこと特別扱いしないような普通の友達がほしい・・・」
囁くような声でつぶやく。
「何だ、友達がほしいのか」
「私、前の学校では芸能人ってことでちょっと浮いてたから・・・」
遠くを見つめながら夏焼がさらに言葉を紡ぎ出す。
「よし、じゃあまずは俺が友達になってやる」
「えっ?」
夏焼が驚いた顔でこっちを見る。
「何だ?俺みたいな奴だとやっぱり嫌か?」
ぶんぶんと首を振る。
「まぁ、クラスの奴らはミーハーだがそれなりにいい奴らだからな。みんなともそのうち仲良くは
なれるだろうが手始めに俺が友達になってやろう」
「あっ、ありがとう、○○君」
「よしっ、じゃあ今からはその○○君っていう他人行儀な呼び方も無しだ、呼び捨てにしてくれ」
夏焼は一瞬迷った後、恐る恐る口にした。
「え、えっと、じゃあ、○○」
「おう、改めてよろしくな、えっと下の名前は何だっけ?」
「雅、夏焼雅!」
「よろしく、雅」
「う、うん!」
その瞬間に見せた雅の笑顔がさっきまでのものとは違って見えて
俺は何だか胸の鼓動が早くなったように感じた。
俺は学校へ向かおうとしているのだが何かが邪魔をして前に進めない。
「ちくしょー、どけよっ!何なんだ、てめーは!?」
その何かは嘲笑うかのようにこう言った。
「ERROR -593 99 sec たたないと書けません」
「連投規制、UZEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!!」
自分の声で目が覚めた。何だったんだ、今の夢は?
時計を見るとまだ7:00。くそっ、変な夢のせいでいつもより30分も早く起きてしまった。
仕方ないので下の階に降りる。そこでは既に起きていた妹が飯を食いながらTVを見ていた。
「あれっ、お兄ちゃん。今日は早いね」
「まぁな」
妹の名前は梨沙子、俺より3つ下の小3だ。
俺はリモコンを取りチャンネルをフジに変える。
「あぁぁっ、何すんの!」
梨沙子は凄い勢いで俺からリモコンを奪うと慌ててチャンネルを元にもどした。
「何だよ、目覚ましテレビ見せろよ」
「駄目っ、おはスタ見るんだもん」
兄に逆らうとは生意気な妹め。
「とりゃっ」
「あうっ」
必殺のデコぴんをくらわせてやった、ふはは。
仕方ないのでテレビに見入る。画面ではやたらテンションの高いもじゃもじゃ髪のおっさんが喋っている。
カメラがそのおっさんから隣の女の子に切り替わった瞬間、俺は目を見開いた。
「あれっ、これ、雅じゃねーか」
おデコが赤いままの梨沙子が当然と言った感じで答える。
「そうだよ、夏焼雅ちゃんだよ。お兄ちゃんも好きなの?」
「いや、実は昨日クラスに転校してきたんだ」
「何言ってんだか」
デコぴんで機嫌を害しているのか、まともに取り合ってもくれなかった。
家を出たところで梨沙子が手をつないできた。こいつは生意気だが甘えん坊なのだ。
そのまましばらく歩くと、こっちへと向かう桃子の姿が見えた。
「あれっ、○○、それに梨沙子ちゃん。今迎えに行く所だったのに」
「桃ちゃん、おはよー。お兄ちゃん、今日は早く起きたんだよ」
梨沙子が俺とつないでない方の手をぶんぶん振りながら答えた。
「そうなんだ〜、今日は何か大変なことが起こるかもね」
桃子と梨沙子は二人で笑い合う。
「桃ちゃんも手つなごう〜」
梨沙子は空いた方の手を今度は桃子とつなぐ。
今更手をふりほどくわけにも行かず三人で手をつないで歩く。
これはちょっと恥ずかしいぞ。クラスの奴らに見つからないといいんだが・・・
「おはよ〜」
さっそく見つかっちまった・・・
「あっ、佐紀ちゃん、おはよ〜」
桃子と梨沙子が声をそろえて言う。
「おう、いいんちょ、今日もちっこいなぁ」
いつもならこのからかいに頬を膨らませる清水だが
今日は何だか意味ありげな微笑を浮かべている。
「何だよ、いいんちょ。ニヤニヤして」
「う〜ん、別に」
清水の口の端にはあいかわらず微笑が浮かんでいる。
「何だよ、やっぱ笑ってるだろ〜」
仕方ないなぁと言った感じで清水は答えた。
「いや、たいしたことじゃないんだけどね、そうやって手を繋いで歩いてると
まるで家族みたいだな〜って思って何だか微笑ましくて」
「なっ…」
俺と桃子が同時に声を上げる。
「二人が結婚したら、幸せな家庭が築けるかもなんて思ったの」
そして清水は再びいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「やめてよ〜、何で私がこんなのと結婚しなきゃいけないのよ〜」
桃子が大慌てで清水にくってかかる。
「何だよ、こんなのって」
そう言った俺に、今度は矛先が向けられた。
「だってそうでしょ〜、あんたなんかね〜、ぶっきらぼうで意地悪でおたんこナスでXXでYYでZZで・・・」
考えられる限りの罵詈雑言が繰り出される。
「そんなあんたと何で私が結婚しなきゃいけないのよ〜!」
一息で言い切った桃子は肩で息をしている。
「桃ちゃん、顔真っ赤だぁ」
梨沙子の何気ないひとことのせいで桃子がさらに勢いよく噴火した。
「こ、これは、怒りで赤くなってんの〜」
怒ってる桃子、怒られて半泣きの梨沙子、相変わらずニヤニヤしてる清水
チラチラと視線をおくってくる通行人、う〜む、ちょっと恥ずかしいぞ、これは。
その時、俺を救うかのように一台の車が俺達のすぐそばに来て止まった。
そこから一人の人間が降りてくる。
「○○君、おはよう!」
「おっ、おまえは、なっ、長崎の夜蝶!」
「何それ?」
「すまんすまん、ちょっとした、ジョークだ。おはよう、雅」
「うん、おはよう!」
車から降りてきたのは昨日クラスに転校してきた、現役アイドル夏焼雅だった。
「おっ、おはよう、夏焼さん」
桃子と清水もおずおずと挨拶する。
「おいおい、おまえらもクラスメイトなんだからそんな水臭い挨拶はせずに雅ちゃんと呼んでやれ。
雅、こいつは俺の幼馴染で嗣永桃子、で、このちっこいのが学級委員長の清水佐紀だ」
「うん、おはよう、桃子ちゃん、佐紀ちゃん」
「あっ、おはよう、みっ、雅ちゃん」
桃子と清水は改めて挨拶しなおした。
「あっ、あぅ、あぅぅ」
ふと見ると妹の梨沙子が口をパクパクさせている。
「んっ、どうした梨沙子?」
「みっ、みっ、みや、みやっ」
「あぁ、雅だ。だからさっき言っただろ、クラスに転校してきたんだって」
「○○君の妹さん?」
雅がそう尋ねてくる。
「あぁ、梨沙子ってんだ」
「梨沙子ちゃん、夏焼雅です、よろしく」
雅に挨拶されて梨沙子はますますテンパってしまった。
「あっ、あうっ、梨沙子ですっ。わたっ、私、雅ちゃんの大大大ファンでっ、あのっ、そのっ、あばば」
「応援してくれてありがとう」
雅に笑いかけられて、梨沙子は真っ赤になってうつむいてしまった。
「ふふっ、じゃあ行きましょ」
雅が梨沙子の手をつかんで歩き始める。
困り果てた梨沙子は助けを求める様に、空いた方の手で俺の手をつかんできた。
くそっ、再び三人でお手手繋いで歩かなきゃいかんのか。もう学校も近いってのに・・・
ふと見ると桃子と清水がぼーっと突っ立っていた。
「何してんだ、おまえらも早くしないと遅れるぞ」
とりあえず声をかける。
「あっ、う、うん。桃ちゃん、行かなきゃ」
清水が何故か気を遣うようにして桃子に声をかける。
「あっ、そっ、そうだね」
桃子も我に返って歩き出す。
「何だ、ボーっとして。さっきまであんなに怒りまくってたのに」
「・・・、別に本心から怒ってたわけじゃないもん」
桃子の声に何か冷たいものが含まれてる気がして、思わず横を歩く桃子の顔を見たが
その表情からは何も読み取れなかった。
つづく