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【時代劇(仮)】

1 名前:名無しさん 投稿日:05/04/13(水) 01:24:01

「山鳥はいらんかね〜ぇ!兔はいらんかね〜ぇ!」
毎日、山で捕らえた鳥や獣を麓の街道の市に売りに行くのが俺の日課だ
だが、俺には商売の才能が無いのか、売れることは滅多にない
まあ、別に売れなくてもいいのだ
持って帰って俺が食えばいいだけの話だ
山中の忍びの里で生まれ育った俺にとって、獣や鳥を捕まえるのは容易なことだ
自分が食う分くらいなら半刻もあれば捕まえることができる
雑穀や菜っ葉も、自分が食う分くらいなら簡単に調達できる
だから、人里に肉を売りに行く必要は無いのだが・・・・・・・
既に里を抜け、辞めたとはいえ、俺は忍びの習性で、人々の噂話を聞くのが好きなのだ
そのためだけに、俺は毎日山を下りるのだ

世間では、やれ、どこそこの大名が滅ぼされた、だの、将軍様が京を追われた、だの、不穏な噂が絶えない
だが、この国は至って平和だ
平和すぎて肉が売れない
今日も売れずに帰ることになりそうだ・・・・・・と思っていたのだが
「ちょいと、そこの男前のお兄さん!」
老婆が俺を手招きしている
「ん?婆さん、俺に用?」
「そうそう、あんただよ。兄さん、狸は売っておらんか?」
「ああ、悪いね。狸は今日は持ってない。でも、半刻もあれば獲ってきてやるけど、どうする?」
「ほぉ。抜け忍になっても腕は衰えていない・・・・・か」
この婆さん、俺が抜け忍だと知ってる!
里から俺を消すために送られた追っ手か?
懐の短刀を握り締め、老婆の気配を伺う
「焔・・・・・・いや、ほっちゃん、久しぶりね」
「俺のことをほっちゃんって呼ぶ・・・・・・桃か?」

忍びの里では俺は焔(ほむら)と呼ばれていた
だが、同い年のくノ一の桃だけには『ほっちゃん』と呼ばれていた
老婆は着物の袖で顔を拭った
老婆が顔を上げると、その顔は・・・・・・懐かしい、桃の顔に変わっていた
「桃・・・・・おまえ、相変わらず変装うまいな」
「どーも。それだけが取り柄ですから」
「で、何の用だ?また俺を殺しに来たのか?」
忍びの里を抜けた俺を、最初に殺しにきたのは桃だった
だが、俺は桃を返り討ちにし、峰打ちで腕の骨を折り、刀を持てないようにしてやった
あの傷はもう癒えたはずだ
「もう・・・・そのことはいいの」
「もういいって・・・・・・・・おまえも里を抜けたのか?」
「そうじゃなくて・・・・・・里が・・・・・滅ぼされたの」
「滅ぼされた?どうして・・・・?里のみんなは・・・・・・?」
「五日前に、織田の大軍が攻めてきて・・・・・全滅。生き残ったのは、任務で出ていた私だけ」
「そんな・・・・・・・嘘だろ?」
「私が里に帰ったら・・・・・・みんなの首が頭領の屋敷の塀に並べられてた・・・・・・・
 そして・・・・・・これが落ちてた・・・・・・・」
桃が手に持っているのは『頭領の証し』と呼ばれる石だ
里の者以外には、ただのその辺の石ころと変わらない
だが、里の者にとってはその存在は絶対で、頭領以外の者は触れることすら許されない
頭領でない桃がこれを持っているということは・・・・・・・・・・
「俺の・・・・お父とお母も?」
「・・・・・・・・・うん」
俺が死ぬまで終わらないと思っていた、追われる日々が終わった
だが・・・・・・俺が自由を手にした代償はあまりにも大きすぎた