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【優しい恋の育て方】

1:名前:名無しさん [] 投稿日:05/01/16(日) 03:07:18

「ねぇ?ちゃんと聞いてる?」

誰かの声に起こされて、俺は5年1組の教室を見渡した。
未だに正月ボケが治らず頭が回らない。
「も〜、いつまでボーっとしてるんですか!!??」
声の方に顔を向けると、そこには千奈美が膨れっ面で俺の顔を覗き込んでいた。
「あ〜千奈美、おはよう」
「『おはよう』じゃないでしょ!あと5分で、昼休み終っちゃうよ!今日、君が日直なんだから、黒板消しクリーナ掛けといてよ」
・・・相変わらず、千奈美は面倒見がいいと言うか何と言うか
「千奈美・・・」
「何?」
「代わりにやっといて。」
「・・・バカっ!」
そう言って、千奈美は俺の頭を『バシッ』と叩いて行ってしまった。

幼馴染の腐れ縁と言うか、俺と千奈美は仲がいい。
千奈美は結構、顔も可愛い方だし性格もいい。
クラスの男子の8割以上はぶりっ子の嗣永や、お嬢様の菅谷、大人っぽい夏焼が好きみたいだけど、
一部の間で千奈美も人気がる。  ・・・・俺もその1人だったりするのだが
でも千奈美は、ただの幼馴染とか出来の悪い弟としか思ってないんだろうな。

そんな事を思いながら窓の外をボーっと見ていた。
廊下では千奈美が黒板消しクリーナーを掛けてる音が、俺の耳に入ってきていた。

放課後、未だに目が覚めない俺は掃除をテキトーにしながらテキパキ掃除をしてる清水を見ていた。
背は小さいのに人1倍作業している清水をボーっと見てると・・・
(バキッ)
「いっ・・・・・たぁぁぁ!」
ほうきで背中を叩かれ、振り返るとそこには熊井が仁王立ち状態で立っていた!
「ちゃんと掃除やんないとダメでしょ!」 熊井は、ちょっと怒ってる?
「・・・ちゃんとやってるよ。」
「ふ〜ん・・・そのわりには佐紀ちゃんをジ〜ッと見てたみたいだけど?」
「あぁ。見てたよ」
「・・・・・あ〜ゆ〜子がタイプなの??」
「えっ・・・」 見ると熊井は少し切なそうというか、悲しそうな表情をしていた。
「佐紀ちゃんみたいな背が小さくてかわいい、しっかりした子が好きなの?」
熊井はしかられた子供みたいに俺の顔を不安そうに見てる。
「いや・・・頑張ってるな〜と思って。 特にタイプとかでは無いけど〜」
「そうなんだ・・・そうなの・・・なるほど・・・」だんだんと表情が明るくなってきているのが目に見えて分かる。
俺には熊井の行動が何なのか、さっぱり分からなかった。
「ねぇ?何でそんな事聞くの?」
「えっ・・・ほら、クラスの皆とか桃ちゃんとか雅ちゃんとか人気あるから〜君はどうなのかな?と思っただけ」
「あぁ。俺は〜特にはいないかな。」
そう言って、俺は掃除がほうきの作業が終ったのに気付き、ほうきをしまおうと振り返ろうとしたときだった。

「ねぇ・・・・千奈美ちゃんの事は・・・・どう思ってるの?」
俺は、その言葉に(ドキッ)とした。

千奈美と熊井は大親友だった。

「ねぇ・・・・千奈美ちゃんの事は・・・・どう思ってるの?」
熊井の言葉に俺は、一瞬戸惑ってしまった。
「えっ?千奈美???あ〜千奈美は幼馴染だよ」
「そんなの知ってる! でも、幼馴染って感情しか無いの?」 熊井の表情は真剣だ
「えっと〜、小さい時から一緒だったし・・・感情ってもなぁ」 戸惑う俺 
「じゃあ、もしも・・・もしもだよ?私と千奈美ちゃんが犬に追いかけられてたらどっちを助けてくれる?」
「えっ?犬に追いかけられるの?何で?」 熊井は不思議な子だ・・・
「ピンチなの!どっちかやられちゃうの!そしたら、どうするの?」
「えっと〜・・・・(そりゃ、千奈美・・・と言いたいけど・・・・)」
俺を見つめる熊井、どう答えていいのか良くわからない俺・・・ そんな状況を一気に消したのは

「そりゃ〜桃子を助けてくれるよね?」
「うわっ!」 背後から、突然に桃子が俺に抱きついてきた。
「桃ちゃん!桃ちゃんは出てきてないの!」 熊井はちょっと怖い顔になってる
「まぁまぁ、固いこと気にしな〜いの♪ ねぇ?桃子だよね?」 桃子は俺の顔を覗き込んでる 桃子はいつも俺にくっ付いてくる。
「桃ちゃんは関係無いの!私か千奈美ちゃんの二人だけなんだから! それに、苦しそうだから離してあげなよ!」
・・・だんだん、熊井の顔が怖くなってきてる
「何で?桃子は軽いから大丈夫だよ。 それとも、くっ付いてるとマズい事でもあるの?」 桃子はクスッと笑った

マズい事は大アリで、桃子狙ってる男達は俺を睨んでるし、熊井も何故か怒ってるみたい。
何より、熊井の帰りを待って廊下に居た千奈美も俺を冷たい目で見ていた・・・・

クスクスと笑っている桃子。それを睨んでる熊井。 そして戸惑う俺を睨んでる桃子好きな男子と・・・・千奈美
そんな空気の中で
「はいはい、掃除サボらないの!関係無い男子は早く教室から出る! 友理奈ちゃんと桃ちゃんも掃除続ける」
やっぱり、事態を収めたのは清水だった。
「は〜い、今やります」 そう言ってほうきを置きに行く熊井
「委員長の佐紀ちゃんに言われたら、仕方ないか」
桃子は清水に弱い。4月に学級委員として名乗りを上げたのは桃子だったが、結果的には清水が委員長になってしまった。
そのためなのか、桃子は清水の言う事は素直に聞くのである。

事態が収まった事に「ふぅ」と一息付いた俺だったが『ハッ』と気付いてとして目を廊下にやった。
千奈美はジーっと俺を見ていた・・・と言うか、何故か睨んでた・・・ 
「何なんだよ〜・・・」とボソッっと呟く俺。
「それは、君がモテモテだからじゃないの?」 そう言って清水が俺の横に立っていた
「別にモテないけど」 清水を見て言う。
「ん〜、桃ちゃんはイタズラでやってるけど、友理奈ちゃんはどうだったのかな〜?」
「えっ、熊井? 別に、何とも思ってないんじゃないの?」
「・・・鈍っ(ボソッ)」 小声で何か清水が言った
「えっ?何? 水?」 聞き返したが、清水は何ごとも無かったように聞き流してた
「ねぇ?本当は千奈美ちゃんが好きなんでしょ?」 ニヤニヤと憎たらしいような可愛い笑顔を見せる清水
「ばっ、何言ってるんだよ!ち、違うよ!」 戸惑う俺
「またまた〜、絶対に千奈美ちゃんだね!ほら〜正直に学級委員に言いなさい!」
「ち、違うよ。千奈美はただの同級生だって」 何故かテンパる俺
「じゃ、桃ちゃん?」

訳が判らなくなったからなんだろうか? 今考えると全く何で、そんな事を言ったのかわからない。
もう、必死だったんだな。 俺は知らずのうちに大声で不思議な事を言ってしまってた。

「俺は、夏焼が好きなんだよ」

・・・我に返る俺
シーンとなる教室・・・       最悪だ・・・・ 

俺のバカ発言の後、教室が騒ぎになってる中で
熊井は俺の前に来た
「うそっき・・・さっき、桃ちゃんも、雅ちゃんもタイプじゃないって言ったじゃない!」
そう言うと、突然泣きだして千奈美に慰められながら帰って行った。
俺はポカーンとしてるのを横目に、清水が
「・・・何か、私のせいで・・・ごめんね」 とか言いながら心配そうに俺を見てた。
その後は記憶に無い。

次の日は、朝から凄かった。
こんな大ニュースがクラスに広まるのに時間が掛かる訳もなく、教室に着くと黒板には『あいあいがさ』
何故か、窓際だった俺の席は真ん中の席の夏焼の隣に置いてあるし・・・
男子からは「お前、勇気あるな〜」はまだマシだった。
「雅・・・俺と結婚してくれ」「きや〜雅嬉しい♪」とかのメロドラマは何度も目の前の特等席で見せられた。
女子は、俺の方見てキャッキャ噂してる。 隣のクラスからも見に来るくらいだった。
桃子は「ねぇ?今度、雅ちゃんに私からデート誘ってあげようか?」 とか何故か楽しそうだ。
千奈美は〜何故か、いつもと代わらない千奈美だった。 普通に「おはよ」って挨拶してくれたし。
そして、熊井は俺の方を全く見ようともしなかった。

学校は8時30分から始まる。
今は25分で、いつも通りなら・・・ 夏焼と菅谷が一緒になって教室に入って来た。
さっそく俺と夏焼は引っ張られて黒板の「あいあいがさ」の前に立たされた。
男子はちゃかす! 女子キャーキャーうるさい
先に席に着いた菅谷は夏焼を取られたみたいに俺を睨んでる。

どうしていいのか、夏焼に何て言えば良いのかわからなかったけど・・・『ヤレヤレ』とした顔の夏焼に何か話しかけないと
「あの・・・さ、こんな事になっちゃったんだけど・・・」 夏焼の顔を見て俺は言った。
夏焼は、俺の顔を見ると
「ん〜、内容は聞いたの。でも、私はその時、教室居なかった。 で、あなたは別に私に告白したわけではないでしょ?」
サラッとした感じで言う。 ただ、うなずく俺
「それじゃ、本当に私が好きだったら、今度告白する時は私がいる前でしなよ?ね? じゃないと何も始まらないでしょ?」
そう言って、夏焼は笑顔を見せて、自分の席に着いた。

なぜか「おぉ・・・」 と歓声が教室に流れてた。

夏焼の発言により、朝のような冷やかしは受けなくなった。
まぁ、それでも「いつ告白するの?終業式?」などの質問は続いたが・・・
それにしても夏焼のハッキリとした性格と言うか、大人っぽい所と言うか・・・人気があるのが何となく分かった気がした。
女子からの人望も厚いし、誰にでも優しい性格で、それに・・・可愛いよな
夏焼か・・・・・

中休みの間、俺は自分の席からボーっと夏焼を見てた。
菅谷と手帳を見せ合って笑ってる。
朝の事件以来、何故か夏焼がひっかかるんだよな・・・何だろう・・・

「やっぱり、雅ちゃんがが気になる?」 
そんなボーっとしてる俺の横から声が聞こえた。声の方に顔を向けると、そこには千奈美が立っていた。
「べっ、別にそんなんじゃないよ」
「はいはい。そ〜ゆ〜事にしておきます」千奈美はいつもみたいに笑ってた。
「本当に、何て言うか〜言葉の間違いって言うか〜唐突に色々あって・・・」 千奈美の前もあり焦って何を言ってるのかわからない。
「も〜!そんな隠さなくてもいいのに。雅ちゃん可愛いし、性格もいいし、好きになるのもわかるよ」
「違うんだって!!あの時は、熊井とか桃子とかに色々ちゃかされて〜」
「そうそう、色々あったからって友理奈ちゃんも泣かせて〜!私の親友に後でちゃんと謝っておいてよね」
ちょっと千奈美は膨れっ面になった
「あぁ、謝っておくよ(何で泣いたのかわからないけど)」
「それならいいですけど。」 また千奈美は笑顔になった。

でも、何でだろう・・・朝から気付いてたんだ。 「おはよ」って言った時も、今の会話の間も千奈美の笑顔はいつもと違って作り笑いをしてる。
幼馴染で、ずっと千奈美の笑顔を近くで見てた俺だからすぐにわかった。

千奈美の顔をジーッと見つめていた。
「・・・何?一言も喋らないで人の顔ばっか見て」 千奈美は不思議そうに俺に言った。
「あ〜、いや〜・・・何でもない」 あわててごまかそうと外に目をやる。
グラウンドでは須藤と清水が男子に混じってドッヂボールをやっていた。うわ・・・須藤の球を顔面に受けた男子が保健室へと運ばれてる・・・ご愁傷様。
「それにしても・・・」 その声に再度、千奈美を見る。
「それにしてもあの時、佐紀ちゃんに何を言われたの?」
「ん?あぁ、俺が千奈美の事を本当は〜・・・」 『ハッ』として俺は話のを止めた
「えっ、私の事?? 本当は〜何?」 千奈美は真剣な顔をしている。
「えっと〜本当は・・・だから・・・その・・・」 焦る俺。
「佐紀ちゃんから、もしかして私の事・・・聞いたの?」 千奈美もなぜか焦ったような顔をしている。
「えっ?千奈美の事? いや、別に・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」 
千奈美の発言も良くわからなかったが、自分が言いそうになった事で何をどうしていいのか分からず俺は下を向いて無言になった。
千奈美も、下を向いて、何も喋ろうとしなかった。

「あの〜何か、おとり込み中悪いんだけど〜」
突然の声に俺と千奈美は『ビクッ』っとした。
振り返ると石村がジャージを着て立っていた。
「あ・・・い、石村か」
「舞波ちゃん?ど、どうしたの?」 なぜか二人とも焦っていた。
「いや、もう休み時間も終るし次の時間は体育だから急いで着替えて!って言おうとしたの」
石村は体育委員だ。(桃子が自分が体育委員になりそうになった時に無理やり推薦したせいだが)
「あ〜了解。」 そう言って、外に出ようとした俺だったが
「あっ、ちょっと次の時間はマット用意するから手伝って欲しいんだけど」 石村が俺に言った。
「えっ?今日って外じゃないの??」
「えっと、突然変更になったの」 石村は何か焦ってる感じがした。

「それじゃ〜私も手伝おうか?」 話を聞いてた千奈美が言う。
「いや、1人いれば大丈夫だから!千奈美ちゃんは先に皆と向かって!」
舞波の言葉に「わかった」と言い、千奈美は更衣室に向かった。
「さて、私達も急がないと!」 石村は俺の手を引っ張って走り出した。
「ちょ・・・俺も着替えてから行きたいんだけど」 走る石村の顔を見ながら俺は言った。
「そんなのいいの!授業始まる前じゃないとダメなの〜」 石村はやっぱり何かおかしい。
「・・・・ってか、廊下走ってると生活委員に怒られるぞ」
「大丈夫!急用だし。 それに生活委員は雅ちゃんと仲良しだもん」 石村の言葉に一瞬、何故か戸惑った自分がいた。
「・・・生活委員って、夏焼だったっけ?」 俺は小さい声で石村に聞く。
「また〜、好きな人の事なんだからチェック済みのくせに〜」 石村はニヤニヤと笑いながら俺に言った。
「あっ、あのな〜 だから、それは・・・・」
「も〜そんなノロケ話はいいから、急いで行かないと!!!」
何を石村がそんなに焦っているのかわからない。 まだ、次の授業まで10分も時間があるのに・・・

予想通り、スグに体育館に着いた。
用具室の前に来ると鍵は掛かってなかった。
それにしても・・・まだ、誰も体育館に居ないのは変なだ・・・まぁ、いっか。
そんな事を思いながら用具室のドアを開けて中に入る。
中は薄暗くて、跳び箱やらマットが並んでる。 何とも少しカビ臭いのは仕方ないか。
「石村、マットはいくつ出せばいいんだ?」
そう言った時だった。

(バタン)

後から用具室のドアが閉まる音がして、用具室の中は真っ暗になった・・・・

「えっ、ちょちょっと・・・」 振り向いたけど、そこに石村はいなかった。
ポカーンと俺がしてるとドアの向こうから
「じゃ、あとは頑張ってね〜」 と石村の声に対して
「舞波〜あとよろしくね♪」 と、倉庫室の中から声が聞こえた。
石村が走って離れていく足音を聞きながら俺が声のした方を向く。窓から漏れる光で真っ暗ながらも倉庫内は確認できた。
そして、跳び箱の上に座ってる小さいシルエットに気付き、それが誰か確認・・・・

俺はため息を1つ付いて、そのシルエットに向かって言った。


「ど〜ゆ〜事か説明しろよ! 桃子!」

「さて、ど〜ゆ〜事でしょう?」 桃子はいつもの小悪魔的な可愛い笑みを浮かべながら言った。
「あのな〜・・・次は体育の授業なんだけど」 俺は桃子に近づいて言う。
「そうだね。外で確か男子はサッカー、女子はドッヂボールだったかな?」 
そう言いながら『ピョン』と跳び箱から降りると今度はマットに座った。 桃子は笑ったままだった。
「・・・石村は中でマット使うって言ってたけど・・・」 俺はちょっと桃子を睨みながら言う。
「あ〜、あれは桃子が考えた嘘でした〜♪ まぁまぁ、怖い顔せず隣に座りなって」 そう言って、マットをポンポン叩いてる。
キーンコーンカーンコーン ベルが鳴ってる。
「ってか〜授業戻らないと。先生や皆が俺達が居なくなったら探すだろ」 俺は桃子の手を取って立たせようとした。
「あ〜、桃子と君は体調不良で保健室って事になってるから大丈夫!」
「・・・何言ってるんだよ」 焦る俺。
「舞波がちゃんと先生に報告してるからご安心を〜♪」

・・・ヤバイ。桃子のペースだ

「じゃ、俺1人でも体調良くなったって言ってサッカーやるよ」 俺は桃子を見ながら言うと
「・・・そんなに桃子と一緒が嫌?」 と桃子が下を向いてしまった。
「いや、別に嫌じゃないよ」 あ〜何かマズい予感が・・・
「・・・そうだよね、突然意味わかんない事して。桃子なんて嫌いになっちゃ・・・う・・・ヒック」
「えっ、桃子?泣いてる?」 戸惑う俺
「いいよ・・・桃子・・・1人でここに居るから・・・」 桃子は涙声・・・ 俺は2日で熊井と桃子の2人も泣かせてしまう・・・それは男として何となくマズイ!!!
「もっ、桃子、泣くなよ! あ〜俺さ、ちょ、ちょい具合悪かった気がするし桃子とここに居るのもいいかな」 必死の返事に桃子は
「でしょ!桃子と一緒に居た方が絶対にサッカーなんかより楽しいから♪ も〜最初から桃子はわかってたんだ♪」 
・・・満面の笑み・・・やられた。嘘泣きかよ・・・
俺はもう諦めて腹をくくった。

「で〜何で、こんな事したんだ?」 俺はマットに座って脱力感を感じながら桃子に言った。
そう言うと桃子は少し恥ずかしそうに
「ずっとね、男の子と授業サボって一緒にいたいな〜って思って」 と言った。
「そうなんだ。 あ〜、でも俺も授業サボりたいって思った事あるなぁ・・・」
「何?それは雅ちゃんと一緒にって事?」 桃子は俺を見ながらニヤニヤしてる。
「なっ、何で夏焼と一緒なんだよ!!」
「あ〜、桃子なんかと一緒で残念でしたね〜だ!! 今度は雅ちゃんを自分で誘ってみたら?」
「あ〜の〜なぁ!!」

その後は普通に桃子と色々な話をした。
こんなに桃子と話した事は無かったと思う。 桃子の今まで知らなかった色々な所が見えた。
結構ハチャメチャ性格と思えば家ではおとなしいとか。
自分の性格が女子から嫌がられてないのかと悩んでたり。 
俺が、「桃子は皆に好かれてるよ」 と言うと、「本当に??」と安心したらしく嬉しそうに何度も聞き返した。

俺も桃子に自分の事とか、色々話した。 でも、夏焼の件は全く信じてもらえなかったのは何だかなぁ・・・

そんな楽しいような不思議な時間を過ごしてた。
突然、桃子が「さて、そろそろ戻ろうか♪」 と言い出した。
「えっ?」
「『えっ?』じゃないでしょ〜!もう体育の時間終っちゃうよ」 桃子が笑いながら言う。
「もう、そんな時間か〜何か早かったなぁ。」
「何?それは桃子ともっと一緒に居たいって事?告白ですか〜?ちょっと〜二股は良くないなぁ♪」
桃子はニヤニヤしてる。
「だから、二股以前に俺は夏焼と〜」 言い掛ける俺に
「はいはい、その話はいいから立った立った!」 桃子は俺の前に立つと手を差し出した。
「はぁ・・・何が何だか・・・」そう言って桃子の手を取り立ち上がる俺。 
「今日は〜ありがとね。桃子のワガママ聞いてくれて。」 桃子は俺の目を見ながら言う。
「あ、あぁ。別に〜俺も楽しかったし! 今度サボる時は突然は無しでね」 そう言って俺は笑った。
「あ〜1つ言い忘れてた」 その言葉に(も、もしや・・・)と俺はドキッとした
「実はね・・・桃子・・・」
「えっ・・・」

「君の事、好きとかじゃないから。安心して! 何となく、男子の中で1番仲いいから君を誘っただけだから」 笑顔で言う。
「・・・・あ、そうなんだ〜」 何か少しガクッとしてるに気付いたらしく
「何?告白でもすると思った? 桃子可愛いから好きになったとか〜?」 とまた子悪魔笑顔。
「ばっ、!!!もう、行くぞ!」 そう言って俺はドアを開けて用具室から出ようとした。
「あっ、ちょっと待って!! これ何だろ?」 桃子の声が後から聞こえた。
「ん?」そう言って俺は振り返った。

俺の唇に桃子の唇が重なった。

「さて、もう1つの桃子の夢も叶ったし。 ほら、ボケーっとしてないで走らないと間に合わないぞ」
5秒くらいの静寂の後に桃子は俺をポンと叩いて走って行ってしまった。

教室に戻ると先に戻ってた桃子は石村と何か話してた。
俺は、桃子がなんで突然キスをしたのかもわからず、頭の中が真っ白になってた。
ボーっとしてる俺に、千奈美が近づいて来て
「授業サボった不良君のお帰りですか〜」 と笑いながら言った。
「あっ・・・千奈美」 そう言えば、千奈美は俺が元気なの知ってたはず・・・ 
千奈美は小さな声で
「舞波ちゃんから理由は聞いたの。桃ちゃんのずっとやりたかった願いみたいだから〜黙っておいたから」
そう言って、俺にウインクをして行ってしまった。
「やりたかった事」 千奈美が言ったのはサボりの『方』だろうな・・・と思いながら俺は複雑な気持ちで千奈美の後姿を見ていた。


給食を食べ終わって昼休みになると、ダッシュで俺の前に何人かの男子が寄ってきた。 
そして俺にニヤニヤしながら言ってきた。
「あのさ〜体育の時間は何してたの?」
「・・・保健室で具合悪かったから寝てた」 そう言うと1人の男子が俺を見ながらニヤニヤと喋り出した。
「ふ〜ん、俺さドッヂボールで須藤に顔面にぶつけられて鼻血出して保健室行ったけど〜お前いなかったよな?」
「えっ・・・すれ違いじぁない?」 俺は自分の頭の中で訳がわからなくなって必死だった。
「俺は授業始まってから10分後に行ったんだけどなぁ・・・さて、正直に『嗣永』と何してたか言ってみ?」
ふと桃子の方を見ると、桃子も石村と一緒に女子にキャッキャ言われながら囲まれてた。

桃子も石村もどうしていいのか分からないようで困っていた。
千奈美と清水が必死になってごまかしてるが無理だろう・・・

・・・こうなったら仕方ないか。俺は覚悟を決めた。

ちゃかす男子を無視して『パッ』と席を立つと、俺はスタスタと黒板の前に立った。
「ゴホン」と咳を1つする。
それによって、桃子を囲んでた女子も俺に気付きの方に視線を向ける・・・
見ると桃子と石村、千奈美もそろそろ限界っぽかったし・・・
はぁ。これでもう、後戻りできないだろうなぁ・・・と意を決して俺は話した。

「俺が・・・無理言って・・・桃子に聞きたいことがあったから、サボってもらって一緒にいてもらったんだ」
(はぁ。桃子ファンの男子の視線が・・・痛い・・・・・ってか、これ言ったら絶対にこう質問が来るだろうな・・・)
「何を桃ちゃんに聞いてたの?」 予想通りの質問が女子から来た。 シーンとなる教室
桃子は少し涙目になっていた。 そんな桃子を見て、俺は軽く笑ってから正面を向いて、言ってやった。
「そんなの、夏焼の事に決まってるじゃん。 俺、夏焼が好きなんだぜ」 

その後はもう〜教室中がガーガーうるさかった。
男子は近寄ってきてちゃかしてくるわ、女子は夏焼に「雅ちゃん、放課後にでも告白されるんじゃない?」とか。
桃子や石村を囲んでた女子は全部、夏焼(と常に近くにいる菅谷)を今度は囲んでいた。
千奈美は・・・熊井の近くにいて何か話してた。 熊井は少し切なそうな顔をして、グラウンドの方を見てた。
(千奈美・・・本当にこのままじゃ、ただの幼馴染になっちゃうな・・・)
そんな時だった。 俺の中でちょっとした『ひらめき』があった。
このちょっとしたひらめきによって、さらに俺は混乱の中に・・・

その時、ふと俺は思った。 もし、この流れで夏焼を俺がデートにでも誘ってふられたら今までの事は0に戻るのでは?と
確かに、初めて女の子をデートに誘い、しかも皆の前でふられるという永遠にネタにされそうな事だが、
このままわけのわからない状態より・・・ましてや千奈美との関係を考えたら、その方がいいのでは?
(・・・それしか無い!)と俺は思い、ちゃかすクラスメイトをかき分けて夏焼の前に立った。
「オォー!」と盛り上がる教室。
夏焼は俺の方をジーっと見てた。 隣にいた菅谷はやはり俺を睨んでる。
「みやーに何の用ですか!」 
・・・やっぱり菅谷はちょっと怒ってる。
俺は用と言われても・・・と思いながらも菅谷と見詰め合ってしまった・・・ う〜ん困った・・・
「梨沙子、何怒ってるの? こっちおいで」 と夏焼は膝をポンポンと叩く。
夏焼が言うと、菅谷は素直に夏焼の膝の上に座った。 もちろん、俺を睨んでるのは変らないが・・・

(あぁ・・・さらば。俺は初めて女の子をデートに誘って皆の前で晒し者としてふられるのか・・・)そう思いながら話す。
「夏焼・・・えっと・・・日曜日に・・・日曜日に〜・・・」 ヤバイ、場所まで考えてなかった。
「日曜日に??何??」 冷静に返す夏焼
「日曜日に・・・八景島〜何とかパラダイス・・・でも行かない?」
焦ってたとは言え、思い付いた場所が誘っておいて名前もちゃんと言えない行ったことすらない場所とは・・・・
(我ながらアホっぽいなぁ・・・)と思いながら夏焼の顔を見る。
シーンと返事を待つ教室
「ん〜・・・ごめん無理かなぁ」 笑顔で答える夏焼
「あちゃ〜」とか「うわ〜悲惨・・・」などの声が教室をいっぱいにする。
(そりゃそうだよな・・・あぁ〜千奈美の前でふられるとか・・・千奈美はどんな風に俺を見てるんだろうなぁ)
『はぁ・・・』と俺はため息を付いた。


「日曜日は用事があるからダメなんだ。土曜日ならいいよ。雅も『シーパラダイス』に行きたかったし♪」 夏焼は『ニコッ』と笑って俺に言った。

クラス一同、唖然となった・・・

いくら、その日の学校が朝から慌しくても放課後になれば当然のように終る。
夏焼と噂になったり
桃子とキスしたり
夏焼とデートの約束したり
そして今まで生きてきた中でこれ以上無いってくらいちゃかされたり
それも、この掃除が終れば何とか終る。 (・・・まぁ、明日もちゃかされるだろうが)

(今日は急いで掃除して、帰ってゆっくりしたいな)ほうきを掃きながらそんな事を思っていると、トントンと誰かが肩を叩いた。
千奈美だった。
「あっ、千奈美・・・」 千奈美は俺の手を取ると人が居ない教室の端っこの方へ引っ張っていった。
俺は何故か少しドキドキしながら千奈美を見た。 千奈美は俺の顔を見て話しだした。
「さっきの事・・・・」 『ドキッ!』 さっきの事って・・・やっぱり夏焼をデートに誘った事か!? 焦る俺
「さっき言ってた、熊井ちゃんにちゃんと謝るって約束!忘れてたでしょ!」
「あっ・・・あ〜そっちの事か」
「えっ?そっち?」 千奈美が不思議そうに俺の顔を見る。
「いや、こっちの話。 わかってるって、掃除が終ったら話してみようと思ってたし。」 
あぁ・・・掃除が終っても、まだ安息の時間は来ないなぁ  そう思うとドッと疲れがきた。
「熊井ちゃんに・・・掃除終ったら学校の屋上に行ってて!って私が言っておいたから。ちゃんと話合ってみて」
「えっ?屋上に? あ〜わかった。ちゃんと行くよ。」 

1対1か・・・はぁ。 

「・・・・ねぇ。」 千奈美は心配そうな顔をして俺を見た。
「なに?」 俺も心配そうな顔になり千奈美を見る。
「今日だけでも色々あって、かなり疲れてるよね・・・こ〜ゆ〜のに慣れてないって言うか・・・苦手だもんね。」
「・・・・」 千奈美は続ける
「熊井ちゃんの事だって、後の方がいいかもしれないけど・・・私の大切な親友だから・・・」 千奈美は少し泣きそうな顔をしてた。
そんな千奈美を見て、(この流れならサラッと言える!)と、思った事を言った。
俺は笑って「千奈美の頼みだもん、疲れてたってちゃんと守るよ」 と、かなり頑張って言ってみた。
千奈美に笑顔が戻る。
「でも、何で俺が疲れてるってわかったの?」 俺は何となく千奈美に聞いた。

「だって私、ずっと君の事ばっかり見てたんだ・・・・あっ!」
そう言うと、千奈美は顔を赤くして「あの・・・えっと・・・」と言い出して走ってどっかへ行ってしまった。


・・・・千奈美も今日は疲れてるのかな? と俺は思い掃除を続けた。
焦ってる千奈美の顔も可愛いなぁ〜と思いながら。

掃除も終り、夕日が差す教室を後に俺は屋上に行った。
少し風が強く吹いてて、グラウンドで遊んでる生徒の声が聞こえる。
ドアを開けると、風に髪をなびかせながら手すりをつかんで下を見てる熊井の姿があった。
ドアが開く音に気付いてるはずなのに熊井は『ジッ』と後を向いたままだった。
「熊井・・・」 俺はその後ろ姿に話しかける。
「・・・」 熊井は何も言わない。
「あっ、あのさ・・・ごめん・・・」 その言葉を聞いて5秒の静寂の後、熊井は話し出した。
「・・・何で謝るの?」 静かな声だった。
「えっ・・・昨日、何か・・・泣かせちゃったから」 しどろもどろに言う。
そう言うと、熊井は俺の方をやっと振り向いた。 その顔は今にも泣き出しそうだった。
「何で私が泣いたかもわからないんでしょ? なのに謝るの変だよ・・・」  
(・・・ごもっとも)と俺は思って下を見た。 そして、少ししてから顔を上げて熊井の顔を見て言った。
「俺、熊井と仲良かったし・・・何で泣いたのかはよくわからないけど〜」
「ほら、やっぱりわかってないんじゃん!」 熊井は最初は少し強めの口調だったけど、最後の方は泣きそうな声になってた。
「わからないけど!!」 俺も強く言い返す。
「・・・・」
「わからないけど、熊井が泣いてるのは俺・・・嫌だ。」 そう言うと、下を見ていた熊井は驚いたような表情をして俺の方を見た。
「このまま、熊井と微妙な感じのままも嫌なんだ! だから、何でかわからないけど・・・」 俺の話を切るように熊井が話す。
「ゴメンね・・・本当にゴメンね・・・私が・・・私が勝手に泣いただけで、君は何も悪くないの・・・ゴメンね」
そう言って熊井は泣き出して、その場にしゃがんでしまった。

どれくら経っただろう?
熊井が泣き出してから数分くらいだったんだろうけど、30分くらいに感じた。
俺は熊井の近くに行き、何も言わずにしゃがんで熊井の髪をなでてた。

 ・
 ・
 ・
 ・

「あ〜何かいっぱい泣いたらスッキリした」 そう言って熊井は水平線に落ちそうな夕日を見てた。
「熊井・・・あのさ・・・」 俺が話しかけた瞬間に熊井は俺の方を見て話し出した。
「2つ・・・」
「2つ?」
「2つお願いがあるの・・・聞いてくれる?」 熊井の顔は少し笑ってた。
「何?俺にできる事ならいいよ」 俺が言うと、熊井は横にあったバッグの中から赤い手帳を取り出した。
そして、その手帳に付いていた水色のボールペンを取って俺に差し出した。
「???」 よくわからなかったが、俺はその手帳とボールペンを取った。
「この赤い手帳は、私が大切な人から貰った大事な物なの。 私の色々な思いが書かれてるんだ。」
「へ〜・・・そうなんだ」 軽くパラパラと見るとギッシリと色々な事が書かれてる。 
1番初めの所の題名に『友理奈のハピネス〜ちょこっと幸福歓迎!〜』 と書かれていた。
「あ〜!他のページは見なくていいの!」 慌てて熊井が手帳を取り上げる。
「あっ、ごめん」
「この手帳の事・・・千奈美ちゃんも知らないんだから」 熊井の顔が少し赤くなったのがわかった。
「そうなんだ。 で?俺は何すればいいの?」 そう言うと熊井は、新しい真っ白なページを開いて俺に渡した。
「ここに、その水色のペンで私のいい所を10個書いて!」
「じゅ、10個も書くの?」 俺は聞き返した。
「そう、10個!何でもいいから!ほらほら校門が閉まっちゃう前に学校出ないとダメなんだから」
「う〜ん・・・わかった」
そう言うと俺は、必死になって考えて書き始めた。

最初の2、3個くらいはポンポン出てくるのだけど、4個を超えるとなかなか思いつかない・・・
『やさしい、楽しい、運動神経いい、髪が長い・・・・料理が上手い(?)』
後ろからジーッと見てる熊井
「・・・」 やべぇ・・・もう思いつかない 
「・・・10個くらい書けば、出てくると思ったんだけどな〜」  後の方で熊井がボソッと言った。
「・・・何を?」 俺が熊井に聞き返す。
「『カワイイ』とか出てこないわけ?」 熊井は『も〜!』って感じで膨れてる。
「あ〜可愛いか・・・なるほど・・・」
そう言って俺は項目に『カワイイ』と書いてから・・・少し考えて『ちょこっと』と付け足した。
「あ〜!何で『ちょこっと』って付け加えるのよ〜!」 熊井は少しご立腹になった。
「だって、『ちょこっと幸福歓迎』なんでしょ? それなら『ちょこっと』だけ幸福になるようにさ」
そう言って俺は笑いながら熊井を見た。 熊井が小さな声で何か言った。

「・・・ちょこっとどころじゃない幸福だよ・・・」
「えっ?何て言ったの?」俺が聞き返したが「い〜のっ♪」 と言って熊井は笑顔で手帳を俺から取ってカバンに入れた。

「さて、そろそろ暗くなってきたし〜帰ろうか」 そう言って校舎内に入ろうとしたが、熊井は立ったままだった。
「熊井??」 俺が近づくと、熊井は下を向いたまま話し出した。
「・・・もう、1つのお願い・・・言っていい?」 ちょっと顔を赤くしながら上目遣いで俺を見てる。
「あっ・・・何?」 俺が言う。
「あのね・・・千奈美ちゃんとか桃ちゃんみたいに・・・私の事も「友理奈」って呼んで・・・欲しいの」
熊井は恥ずかしそうに、俺から目線をそらしてしまった。
(えっ?そんな事なの?)と思い・・・少し考えてから熊井の前に手を出した。

「一緒に帰ろ。友理奈」 

そう言うと、友理奈は笑顔になって俺の手を取った。
俺と友理奈は夕日が落ちる通学路を色々話しながら帰った。
もちろん、手は繋いだままで。

それは金曜日に起こった。
朝、いつものように学校に行くと下駄箱には1通の手紙が入っていた。
(こ、これって・・・もしかして・・・)と思ってると
「おはよ〜」 後ろから挨拶してきた千奈美の声にビクッとした。
手紙を急いでカバンの中にしまう。
「あっ、千奈美・・・おはよう」 俺は焦りながら言う。
「ど〜したの?何か戸惑ってるみたいだけど〜」 千奈美は笑いながら言った。
「いや・・・別に何でもないけど・・・」 そう言ったところで何となく千奈美と目を合わせられない俺。
「ふ〜ん、まぁいいけど。急がないと授業始まっちゃうよ!」 
そう言って先に走って行く千奈美・・・と、思いきや振り返って
「そ〜ゆ〜手紙は、ちゃんと1人で隠れて読まないとダメだぞ」
と、真面目な顔して言った後に何故か少し下を向いてからニコッと笑って走って行った。

(・・・全部見られてたのか)
と、思いながら『あ〜あ〜』と何となく凹んだが・・・
(・・・本当に見られてたのか? あんな一瞬で?) 確かに、少しの間、ボーっと手紙を見てたけど・・・
(も、もしかして・・・この手紙の相手って・・・千奈美!?)
俺は自分の体が熱くなっていくのが自分でわかった。


休み時間になって、手紙をポケットに入れて屋上へダッシュ。
誰も居ない事を確認してから急いで封を切り手紙を読む。

『どうしても、話したいことがあります。 放課後、音楽室で待ってます。』

相手の名前が無いって事は・・・・やっぱり千奈美??

胸がドキドキして止まらなかった。

授業中もドキドキは止まらなかった。
早く終って欲しいのと、終ったらどうしよう・・・みたいのがゴチャゴチャになっている感じだった。
昼休み。 ボーッと千奈美の方を見ながら(千奈美・・・かぁ)と思ってると・・・
(ピタッ)と冷たい感覚を俺は、おでこに感じた。
『ハッ!』として顔を上げると、冷たい手の相手は夏焼だった。
夏焼は何も言わないで俺を笑いながら見つめていた。

その行動に教室中がザワつく

「あ・・・夏焼・・・」俺はボーっとしたまま顔を上げて夏焼を見た。
「明日だよ?八景島。ちゃんと覚えてる?」 夏焼は笑顔のまま質問する。
「もちろん覚えてるよ!!」 (今まで、ず〜っと手紙の相手かもしれない千奈美を考えてたくせに・・・)
「それじゃ〜明日、どこで待ち合わせ?」
「・・・ど〜やって行けばいいんだっけ」
俺の答えに教室中爆笑!!
夏焼もクスクス笑ってたけど、別に悪い感じじゃなくて笑ってる。

「待ち合わせるなら、品川とか、そのまま八景島の前でいいんじゃないの?」 
そうやって、横から助け舟を出してくれたのは清水だった。
その時は、清水に何度も心の中で感謝した。 (もちろん、後で清水の前で「ありがとう」も言ったけど)
「じゃ、じゃ〜八景島の前で待ち合わせようか」 そう言う俺に夏焼は
「それはダメ!! 品川に9時に待ち合わせして一緒に行こう。 デートなんだし♪」
「そ、そうだよね。じゃ、じゃあそうしよう」 と、俺がそう答える間に周りは
『何か夏焼・・・積極的じゃね?』 『もしかして・・・雅ちゃんって・・・』等が嫌でも聞こえてきた。
そんな周りを見て、夏焼は「さて、ど〜でしょう?」 と言ってから俺を見てクスッっと笑った。
さらに、周りが盛り上がる!

「みやー!次の時間始まるから席に着くよ!」 と突然、菅谷が夏焼の手を引っ張って歩き出した。
菅谷は夏焼に話しかけてるのに、やっぱり俺をジーッと睨んでる
夏焼は「も〜、梨沙子ったら・・・」 と、ちょっと菅谷に言ってから、俺に小さく『バイバイ』って言って、手を振って自分の席に戻った。

さっきまで、千奈美を見てた俺だけど、最後の『バイバイ』って言った時の夏焼の顔が、何か凄い可愛くて・・・好きになったかもしれない。

授業が終り・・・待ち合わせまでもう少し・・・この掃除が終ったら・・・音楽室で・・・
そんな事を考えていると
「何か今日は真面目に掃除やってるね。 何か急ぎの用でもあるの?」
突然の清水の声に俺は焦りながらも
「いつも真面目にやってるって。 昨日だって一昨日だって。」 と、ごまかす。
「それならいいですけど〜。 あっ、明日のデートの用意とかで早く帰りたいとか?」 清水は笑いながら言う。
「そっ、そんなんじゃないよ・・・ あっ、さっきは・・・ありがとな」 
そう言うと清水は『いえいえ』と軽く言ってから、「ところで・・・」と小さな声で話し掛けてきた。
「友理奈ちゃんが一昨日から突然元気なんですけど〜仲直りした?」
「ん? あ〜友理奈とは今まで通りに戻ったよ」 俺が言うと
「『友理奈』か・・・なるほどね」 とニヤッと笑ってから清水は俺の頬を軽くつねった。
「な・・・なんだよ〜」 俺が言っても、また『いえいえ』と言いながら笑ってる。
「何とな〜く、かばいたくなるのよね〜。 何か弟みたいな感じで」 清水はまだ頬をつねったままだ。
俺は、やれやれと言う感じで
「はいはい。わかりましたから。佐紀お姉さんは弟を苛めないで掃除を続ける」 と、ポンと清水の頭を軽く叩いてやった。

「それじゃ、いつもと逆だね〜」 そう言って、後ろで見てた須藤が話に入ってくる。
「あっ、茉麻ちゃん」 清水がやっと俺の頬を離す。
「あれ?須藤?今日は掃除当番でも無いのに〜何で残ってるの?」 俺がそう言うと
「ちょっと放課後に色々とありまして〜」 と俺の方を笑顔でジーッと見た。 
「佐紀ちゃんも、早く『清水』じゃなくて『佐紀』なんて呼ばれるといいのにね〜」 そう言って清水の顔を笑って見る。
(???)俺は意味が良くわからないながらも同じように清水の方を見ると、清水が顔を真っ赤にしてあたふたしてる。
「なっ、何をわけのわかりゃんことをいっちゃていいのですか!!! そ、掃除してない人は廊下にスグでないでいってください!!」
と、意味のわからない事を言って俺に顔を見せないで教室から出ていってしまった。
「・・・・・自分が出ていっちゃったよ」 俺がポカーンと清水を見てると 横で見てた須藤が
「これは相当の鈍感君だね・・・皆、これは苦労するんじゃないのかな〜」 と俺の頬を清水と同じふうにつねって笑った。
俺も須藤の頬をつねりながら、あまりにも素直に笑ってる須藤につられて一緒に笑ってた。

掃除も終り、俺は3階の音楽室の前に1人立っていた。
生徒が何人か残っても不思議ではないのに廊下には誰もいない。
シーンとした感じと少し開いた窓から入る風が、また俺を緊張させた。 
手紙を取り出して読み直す。 
(・・・場所は間違ってないな。本当に相手は誰なんだろう・・・千奈美なのかな・・・ってか千奈美がいいなぁ。)
そんな事を考えていると、昼の夏焼の笑顔で『バイバイ』 ってした姿が思い出された。
(・・・俺、何か変だな) そんな事を考えてた。 
多分5分くらい、突っ立ってたと思う。

「・・・よし!」

俺はひとつ深呼吸してから音楽室のドアノブに手をやりドアを開け中に入った。
音楽室にはカーテンがされてなく夕日が射していた。
俺はすぐに音楽室の中を見渡した。 
壁に掛けられた作曲家の絵とか、机が綺麗に並べてあって、黒板の前にはピアノ・・・・

そのピアノの椅子に座っている1人の女の子・・・
ここからだと誰なのか確認できない・・・・ 
俺が近づこうとした時、その子は椅子から立ち上がりピアノの横に立った。

「突然呼び出して・・・ごめんね。」

俺はその子を確認して言葉を失った・・・

「突然呼び出して・・・ごめんね。」 

その何度も聞いた声で、目に映る事実を完全に確認した。
その子は、俺が予想もしなかった相手だった。

夕日でいつもより茶色になった髪
ちゃんと見た事は無かったけど、見詰め合って初めて気付いた綺麗な瞳
そして、色白の肌

「菅谷・・・梨沙子・・・」
俺は彼女に向かって言う。
菅谷は何も言わないでを見つめながら俺の前まで来た。
俺の心臓が、また激しくなる。 
見つめ合う俺と菅谷・・・

そのまま2人だけの時間が流れる・・・

突然、菅谷の目がいつもの俺を睨む目に変った。
「えっ!?」 俺が唖然とする。
「どうして!! 何でみやーにちょっかいばっかり出すの!!」 菅谷の顔はマジで怒ってる。
「ど、どうして・・・って言っても・・・」 俺は自分の予想とは全く違う菅谷の反応に肩透かしを食らった。
「明日みやーとデートするんでしょ? 何でみやーなの!!」
「そっ、そんな事言われても・・・色々あって、明日約束しちゃったし・・・」
(菅谷は夏焼を取られたと思って怒ってるんだろうな・・・)
俺は菅谷の顔をジッと見てた。
「何で・・・みやーなの! 桃ちゃんとか、友理奈ちゃんとか!クラスに可愛い子ならいっぱいいるじゃない!」
・・・そう言って泣きだしてしまった。

「えっ、菅谷・・・泣くなよ・・・」 焦る俺。
「バカァ〜!!」 と言って、菅谷は俺に抱きついて来た。
(・・・普通、俺が嫌なら抱きつかないもんじゃないのか???)と思いながらも、(夏焼にいつも甘えてる菅谷らしいな)と思った。
「どうしても・・・みやーとデートするの?」 菅谷は涙声で俺の胸に顔を付けたまま言う。
「そんなに俺と夏焼が一緒にいるの嫌なの?」 俺が聞く
「嫌っ!」  ・・・即答かよ。
「う〜ん困ったな・・・」 俺は、どうしていいかわからない。
「デートなら、みやーじゃなくて桃ちゃんか友理奈ちゃんにして!」 菅谷が言う
・・・本当に困ったな。 
俺は(まず菅谷のご機嫌を取らないと・・・)と考えた。

「えっと〜・・・夏焼も桃子も友理奈も可愛いけどさっ、菅谷もすっごく可愛いよな〜・・・」 俺がボソッと言う。

その発言に『バッ!』と菅谷が俺の胸から顔を上げる。
(よし来た! これで菅谷のご機嫌を直せる!) そう思った俺だったが・・・

「じゃ、明日は梨沙子と八景島行って、みやーとのデートキャンセルして!!!それでいいでしょ!」

俺は心の中でつぶやいた。
(・・・そう来たか)

「え〜っと・・・・」 菅谷の言葉に焦る俺・・・
「だって、梨沙子もみやーくらい可愛いんでしょ!? それじゃ、梨沙子とデートしよ!」
「可愛いいよ・・・可愛いけどさぁ・・・突然、そんな事言われても・・・」
菅谷の目は本気だ・・・マズイ! 

その時だった

「はいはい。 梨沙子ちゃん、無理言って困らせないの」
そう言って音楽室に入ってきたのは・・・・須藤だった。
「茉麻ちゃん、まだ話しの途中なのに!!」 菅谷は須藤の方を見て言った。
「えっ?何で須藤が?」 俺はポカーンとして須藤を見た。
「さっき、放課後に予定があるって言ったでしょ。 梨沙子ちゃんに頼まれて一緒に帰るために『用事』が終るまで教室で待ってたの。」
俺はさらにポカーンとしていた。
「でも・・・遅いから〜。 君と話し合うのは知ってたんだけど、気になって来たわけ」 そう言って俺を見た。  
「まだ、決着が付いてないんだもん! ねぇ!明日は梨沙子と八景島だよ!!」 菅谷は真剣な顔をして言ってる。
(・・・菅谷を好きなクラスの奴にしたら贅沢なお願いだよな)と思った。
須藤が菅谷に言う。
「じゃ、明日の私と買い物行く約束は???」 
そう言うと、スグに思い出して『あっ!』って顔をして、菅谷は黙ってしまった。
「一昨日から約束してたじゃん!」 須藤がさらに言う。
「・・・約束、破ったらダメだもんね。 みやーも約束破られたら・・・悲しいよね」 菅谷が下を見ながら言う。
須藤は笑って菅谷を見て
「よし!じゃ、この話はおしまいだね! 梨沙子ちゃん、帰るよ!」
須藤の言葉に菅谷は『コクッ』ってうなずいて走って教室から出ていった。

その、一連の流れを見てた俺に須藤は笑いながら、頬をつねって
「まぁ〜そんな感じだったんだ。」 須藤が言った。  
「・・・助かったよ」 俺は須藤の顔を見ながら、心の底から言った。
「全く、『世話の焼ける弟』だったかな〜それだよ。君は」 
そう言って『ニヤッ』と笑ってから、頬から手を離して菅谷の後を追って出ていった。

須藤も居なくなって1人、教室でボーっとしてる俺・・・・
 
の前に30秒後に戻って来る・・・・菅谷?
走って俺目の前に来て言う。
「まだ、みやーの事とか許してないんだからね!」 と、いつもの俺を睨む顔だ。
「あ・・・うん。」 そう言って菅谷の顔を見る・・・
突然、菅谷の顔が笑顔になって
「でも、みやーとか桃ちゃんとか友理奈ちゃんより『可愛いい』って言ってくれたのは嬉しかったよ♪」
そう言って、さっき須藤につねられた俺の頬に軽くキスをして「エヘヘ〜」と笑ってまた走っていった。

俺は、さらに呆然として夕日が落ちるまで音楽室に立ってた。

 

2:名前:〜八景島デート〜[] 投稿日:05/01/20(木) 01:21:55

土曜日の朝9時30分。 品川駅には人がたくさんいた。
すれ違う人をボーッと見ながら俺は改札の前で夏焼を待っていた。
いつもの学校へ行く服よりはカッコ良くは決めてみた・・・つもりだけど・・・

駅の入り口を見ていると・・・ 息を切らして走ってきた夏焼を見つけた。
俺は何となく夏焼に気付きながらも気付かないふりをして他の方を見てた。
夏焼は辺りを見渡して・・・どうやら俺に気付いたらしく遠回りして近づいてきた。
多分、後ろから驚かすつもりなんだろう・・・が、俺は逆に驚かしてやろうと思った。
気付かないふりをしてる俺に後から近づいてくる夏焼・・・俺は雰囲気で位置を確認して・・・
(今だ!!)
俺は一気に後ろを振り向いた・・・・

目の前5cmの距離に夏焼の顔があった。
「あっ・・・」 お互いにその距離で見詰め合ったまま固まってしまった。
数センチの距離にある夏焼。 夏焼の吐く息が俺の唇に当たる。
顔を赤くしながらも俺をジッと見つめる夏焼・・・・・・その目に吸い込まれると言うか・・・微妙にお互いの顔が近づいていく・・・
本当に少しずつだけど、何で近づいていくのかわからない。
でも・・・確かに少しずつ・・・お互いがひかれて行くように・・・ 
「・・・・・」 夏焼の目がそっと閉じて行く・・・・


『まもなく、9時45分発。東京行きの列車が発車します!』

場内アナウンスの声に、お互いに『ハッ!』として距離を取る。
上を見て「あ〜・・・えっと・・・」 と言う俺と 下を見たまま顔を赤くしてる夏焼。
「あ〜・・・駅の入り口に来た夏焼が見えたからさっ・・・逆に〜お、驚かそうと思って・・・・」 頭をかきながら必死に言う。
「えっ!!あっ・・・な、な〜んだ!そ、それで!! も〜、ビックリしちゃった・・・」 と夏焼は笑った。
お互いに『ハハハ・・・』と笑ってるが・・・ぎこちない。

数分間のぎこちない空気の中、夏焼が口を開いた
「そろそろ・・・行こっか。」 そう言って切符売り場に向かう夏焼に
「あっ!これ!!」 と先に買っておいた切符を渡す。
「えっ!!買っておいてくれたんだ・・・ありがとう」 俺と夏焼の手が少し触れた。

いつもと違って、髪をポニーテールにしていた夏焼の笑顔は本当に可愛かった。

1番後ろの車両の1番後ろ端の席に座る。
人はたくさん乗ってたけど、1番後ろの車両となると人の数は少なかった。
「乗り換えが途中であるけど、30分くらいは電車の旅だね」 夏焼は俺の方を見て言った。
「ん。30分か〜」 俺が言い返す。
「大丈夫!話したい事は、たくさんあるんだから♪」 そう言って、夏焼は笑った。
何だろう? いつもの夏焼と違う感じがして、今日の夏焼は本当に・・・何かドキドキする・・・
「そう言えば私、八景島って初めてだから色々調べてきたんだ。」
何て言うか、可愛く見える時の夏焼をず〜っと見てるような・・・
「何かね、水族館とかが凄いらしくってね!!」
一緒にいるだけで・・・夏焼の事・・・気になってくる・・・

「もしも〜し!? ちゃんと聞いてますか〜?」  
「えっ!?」 夏焼の声に焦点を合わせる。
夏焼はインターネットで調べてきてコピーした紙を手に何枚も持ったまま俺を見てた。 
「あっ、もちろん聞いてたよ」 そう言って急いで夏焼の持ってた紙を見ようとしたが『サッ』と夏焼は紙を隠してしまった。
「さて、今の質問には YES?NO? どっち?」 夏焼は笑いながら俺に質問する。
「えっ!? 今の質問?? えっと〜・・・・YESかな・・・ 」 俺は適当に答えた。
「なに〜? それじゃ、本当に雅に見とれてたんだ!?」 夏焼は笑いながら言う。
「えっ!?そんな質問だったの??? ってか、そんなに俺・・・夏焼を見てたのわかった??」 俺がポカーンとして夏焼に聞いた。
すると夏焼はビックリした顔をしてから、俺から目をそらして下を見た。
「・・・バカ。ほんのジョーダンのつもりで言ったのに・・・」 顔を赤くして小さい声で言う。
「えっ!! そ〜なの!?」 素の返事が俺の口から出る。
俺は、今頃になって恥ずかしくなり自分の体が熱くなるのがわかった。
「あっ、あのさ!見てたって行っても・・・き、今日の夏焼は、かっ、可愛いからさ!」 必死になって言って言葉はさらに泥沼にはまってるとしか思えない。
そう言うと突然、夏焼の顔が寂しそうな顔になる。
「・・・それじゃ〜、いつもの私は可愛くないの???」   
「えっ!?」 戸惑う俺・・・
「今日の雅が可愛いなら、昨日の学校の雅は・・・全然可愛くなかったんだ・・・」 さらに下を見る。
「いや、あのさ・・・今日の可愛ってのは、昨日も学校で会ったけど、その時と雰囲気が〜」 焦りまくる俺。
焦ってる俺の言葉の途中で夏焼は顔を上げた。 その顔は笑顔だった。
「本当に素直なんだね、君は。 こんなのにひっかかってたら雅はまだまだ先だぞ♪」 そう言って俺をジーッと見てた。
「!?!?!?!」 そんな夏焼の笑顔を見て、俺はさらに何故か恥ずかしくなって外を見た。

(ん?先って?) ふと不思議に思って夏焼の方を見たが、夏焼は水族館の写真を見て笑ってた。

電車の旅は乗り換えも無事に終らせて途中まで来た。
俺は夏焼の持ってきた八景島の紙を見てた。

「ところで!!」 突然、夏焼が俺の方を見て言う。
「えっ!?」と言って夏焼の方に振り向くと同時に、俺の口の中に夏焼の持ってたポッキーが入る。
俺が口を閉じてポッキーをくわえると、それを見て『よしよし』と笑いながらうなずくと、夏焼が話し出した。
「昨日、うちの梨沙子が大変ご迷惑をおかけしまして。」 夏焼はペコリと頭を下げた。
俺はポッキーをくわえたままで「あっ、いえいえ。こちらこそ・・・」 と意味のわからない返答をした。
それを聞いて、また夏焼が笑いだす。
「でも、何で知ってるの?」 俺が不思議そうに夏焼に質問する。
「昨日、電話が来たの。 『みやー・・・ごめんね・・・』って突然」 夏焼は持って来てた携帯を見ながら言った。
「で、君と放課後に待ち合わせして、無理な事を色々言ったりしたって事を聞いたんだ。」 夏焼は携帯から目を離し、俺を見た。
「確かに〜突然、色々と言われたり泣かれたりしてビックリしたけど、菅谷は夏焼の事を思って言ったんだろうし〜全然気にしてないよ」 
そう言うと、夏焼はニヤッと笑って、俺の頬をつねった。
「それに、梨沙子から嬉しいプレゼントもあったみたいだしね〜」 夏焼は桃子みたいに小悪魔っぽい笑い方をしてる。
「あれは、菅谷が突然で〜」 と言いそうになると、夏焼は頬をつねってた手を口の前に持って来て 
「はいはい。わかってますよ」 と言った。
・・・多分、俺は夏焼に遊ばれてる 自分でわかった。

夏焼の手が俺の口の前から離れると突然、今までより小さい声で話し出した。
「もし・・・さっき・・・駅でキスしちゃってたら・・・ファーストキスになってた?」
「えっ・・・」 俺は夏焼を見た。
「ねぇ? どっち?」 夏焼も俺の方を見つめる・・・
「・・・えっと〜」 ちょっと前の桃子との用具室の一件が思い浮かんだ・・・
「初めて・・・ではないかな」 少し恥ずかしそうに言う。
「それは小学校に入る前?」 夏焼は真剣な顔で聞く。
「えっと〜・・・入ってからかな・・・って、夏焼はどうなんだよ??」 
俺が聞くと、夏焼は『そっか〜』と小さく言ってから少し険しい顔をして考え事をしだした。
「って、俺にだけ喋らせて!!あのな〜夏焼はどうなんだよ!!」 と夏焼に言う。
そうすると夏焼は「ん?」と言って、俺をジーッと見た。
そして何事も無かったかのようにバッグからポッキーを2本取り出して自分の口と俺の口に入れた。

「ポッキーって、やっぱ美味しいよね♪」 
そう言って夏焼は『ニコッ』と笑い、何も無かったかのようにポッキーを口にくわえたま、ままた水族館の写真を見てしまった。

・・・絶対に俺は夏焼に遊ばれてる・・・・ 
そんな事を思いながら『はぁ・・・』と、ついた小さいため息さえも
『次は、八景島〜』 と言う、車内アナウンスにかき消されてしまった。

八景島の駅で降りたけど、駅からシーパラダイスは離れていて結構歩いた。
土曜日の休みもあって周りに人がたくさんいた。
入場口まで来て俺は夏焼の分と二人分払おうと周りを見渡したが、『入場するだけならタダだよ〜』と夏焼に笑われてしまった。
「片道の切符でキスされそうになっちゃうんだから。 入園料もあったら、それ以上狙おうとしてたんじゃないの?」 と笑いながら言った。
「あっ、あのな!別にあの時は後ろを振り向いたら目の前に・・・それに、夏焼だって目を閉じ〜」 と言ってる途中で、夏焼が
「何?またポッキーが食べたいって?」 と、夏焼は『ニヤッ』と笑って俺の方を見る。
「・・・・・・」 
『品川駅で〜不意に〜キスを〜カッコつけて〜♪』 と、夏焼は俺の知らない歌の替え歌っぽいのを軽く口ずさみながら園内に入ってしまった。

クラスの奴は気付かないだろうけど
『夏焼は桃子より、ある意味手ごわい気がする・・・』
そんな事を思いながら夏焼の後を追っかけた。

「さて、どこから行く?」 先を歩いてた夏焼がパンフレット片手に振り返り俺に言った。
「ん〜・・・電車の中で色々見てたけど、夏焼は水族館に行きたいんだろ?」 俺が夏焼に言う。
「水族館は1番の楽しみだから最後でいいよ。」 
「それじゃ〜・・・最初は適当に色々歩いて園内を周ろうか?」 
俺が言うと、夏焼は『了解〜♪』と言って俺の横に来た。 
夏焼と手を繋ぎたかったけど、何となくやめておいた・・・ってか、できなかった。


「ねぇ。あそこはショッピングする所かな?」 そう言って、夏焼がちょっと先にある建物を指した。
「う〜ん、それっぽいね〜人もいっぱい入ってるし。」 俺も夏焼の指した方を見て確認する。
「ちょっと入ってみようか?」 夏焼は俺の方を見て言う。
「そうだね、まだ午前中だし。寄り道しながら周ろうか」 
俺と夏焼は軽い感覚で中に入った。
中に入ると、オシャレな感じの建物の作りで広かった。

色々な小物とかぬいぐるみとかグッズが色々売ってた。
それを2人で見て話しながら歩き周ってた。
(外から見たら、やっぱり小学生カップルとかに見えるのかな?) 
そんな事を思い、勝手に1人で少し恥ずかしくなってた。

夏焼が足を止める。
「キャ〜!!可愛い!可愛すぎる〜!!!」 と言うと突然走り出した。
??? と思って、見ると、『わんにゃんふれあいランド』というコーナーが目に入った。
(あ〜、なるほどねぇ・・・)
俺は、夏の臨海学校の自由行動の時に『女の子って甘い物と可愛い物に目が無いんだよ!!』
と、桃子にクレープ屋の前で何回も言われ続けた後に、結局『授業料』としてクレープをおごらされたのを思い出していた。
「甘い物と可愛い物かあ・・・」 そうつぶいてから夏焼きの後を追った。
お金を払って中に入ると、予想通り夏焼は一気に走っていってしまった・・・

俺も入場すると夏焼は既に小さい仔犬を抱いていていた。
俺に『ホラホラ!見て〜!キャ〜!』と仔犬を見せて大満足の様子だった。
仔犬はちっちゃくて夏焼の胸でしっかりと抱きしめられていた。
仔犬も可愛かったが、それを抱きしめている夏焼の横顔はもっと可愛いと思ってしまった。

それにしても・・・
「キャ〜!も〜モコモコしてて可愛すぎ〜♪」
何か・・・
「こら〜!首とか舐めないでよ〜♪」
この犬・・・
「も〜!ウリウリ♪ どうだ♪」
見てるとムカツクなぁ・・・ 

(落ち着け、相手はただの仔犬だ!! 可愛い仔犬なんだから仕方な・・・・・・なに夏焼の胸に顔を埋めてるんだよ!!この犬!)
俺は心の中でそんな事を思いながら抱きしめられてる仔犬を見ていた・・・
まぁ〜・・・でも、夏焼が喜んでるならいいか。 そう思い仔犬から視線を夏焼に変えると、夏焼は『ジーッ』と俺の顔を見てた。
「えっ!?どうしたの?」 
慌てて俺が言うと、夏焼は『ニコッ』と俺の方を見て笑ってから「そろそろ行こっか。」と言った。
「えっ?もういいの?もう少し、仔犬抱いてたら?」 
そんな俺の言葉も関係無しに、しゃがんで仔犬を柵の中に戻した。
そして、なでながら夏焼が仔犬に話しかける。
「ごめんね〜。君と遊んでると隣にいるお兄ちゃんが、ど〜してかヤキモチ焼いちゃうからバイバイなんだ〜」 クスクスと笑いながら言った。
「な、別にヤキモチなんて・・・」 俺が言うと、夏焼は立ち上がって俺の方を見て言う。
「ねえ・・・この子みたいに胸でギュッって抱きしめたら・・・そしたら首にキスとかしてくれる??」 夏焼が笑いもしないで普通の顔で言う。 
「えっ、な、何言ってるんだよ!! そんな、普通に人とかいっぱい・・・」 そんな混乱してる俺をジーッと見ている夏焼・・・

突然、下を見て夏焼は笑い出した。 そして笑いが止まると、さっきまで抱きしめてた仔犬を見て言う。
「男の子ってエッチで嫌だね〜。も〜雅怖いよ〜。 嫌だ嫌だ♪」 と笑いなが言ってから仔犬に『バイバイ』って、手を振った。
「さっ、早く次ぎ行こうよ〜!」 と夏焼が俺の方を軽く見て歩き出した。

俺は何回、夏焼の『この手』にひっかかってるんだよ・・・
そう思って『はぁ・・・』と、また1つため息をついてから、50M先の夏焼を走って追っかけた。

2階に行くとTVで見た事がある芸能人の写真とか色々と売ってる店に人が集まってた。
「へぇ!こ〜ゆ〜のも売ってるんだ」 俺が遠くから見ていると
「アイドルとかの写真じゃないかな〜。友達とかでも持ってる子いるし」 と隣で夏焼が言う。
「ふ〜ん・・・アイドルねぇ・・・」 俺は。店の中で写真を見ながら何か書き込んでる客を見た。
「もし・・・」 夏焼が話し出した。
「もし、うちのクラスの女の子の写真とか売ってたら〜誰の買う?」 と夏焼は俺の顔を見て笑った。
「えっ・・・そうだなぁ・・・」 俺は戸惑いながら考える。
(う〜ん、千奈美と夏焼のは欲しいなぁ・・・写真なら友理奈も結構可愛く写るんじゃないかな・・・)
そんな事を考ている俺の横顔を見ながら夏焼が言う。
「桃ちゃんとか可愛く写ると思うな〜。梨沙子とかも写真とか見ると、さらに可愛いよ〜」 
「そっかぁ・・・桃子と菅谷もいいなぁ・・・」 夏焼の言葉に俺が言う。
「でも〜・・・君なら、千奈美ちゃんとか〜たくさん買いそうだね」 と夏焼は言った。
「えっ・・・いや、夏焼のも買うよ!!」 そう言って戸惑ってる俺を見て夏焼が言う。
「無理しなくていいよ。君は千奈美ちゃんが1番お気に入りだってわかってるから。」 夏焼はちょっと下を見て言う。
「そんな事ないよ!千奈美は・・・ただの・・・」 そう言い掛けた俺に、夏焼は笑顔になって
「さっ、次の所に行こうよ!」 と歩きだした。

(・・・夏焼とデートしてるのに、千奈美の事とか・・・このままでいいのか??)
俺はその場に立って考えて、決心して夏焼の手を掴んだ。
「えっ!?ちょ、ちょっと・・・」 戸惑う夏焼の手を取って走り、そのアイドルの店に入りレジの前に来た。
「いらっしゃいませ。あの〜注文の紙は?」 と言う店員。
「・・・ねぇ?どうしたの突然??」 小さい声で夏焼が俺に言った。
俺は店員に向かって言う。
「すみませんが、この店にクラスで1番可愛い夏焼雅の写真って置いてありますか???」
「はっ??な、夏焼雅ですか??」 店員が聞き返す。
「ちょ、ちょっと!!何言ってるの!?」 夏焼は俺の顔を見てビックリした表情で言う。
「夏焼雅です! すっごく欲しいですけど!! 置いてないですか??」
俺の言葉に店内に居た客もレジを見る。 シーンとした、空気が流れる。

「も〜!私の写真なんて置いてるわけないよ!」 夏焼は困ったような顔をして言う。
「わかんないよ!夏焼雅って、こんなに可愛いんだから置いてあるかもしれないじゃん!!」 俺が夏焼に真剣な顔をして言う。
それを見て夏焼が、少し照れながら『もぅ・・・』と小さく言ってから
「あとで一緒にプリクラ取ろうよ。 そしたら雅の写真になるでしょ」 夏焼は笑顔で俺の頭をなでた。
「・・・夏焼、ごめん」 俺が言うと、夏焼は笑顔で俺を見てから『行こっ!』と言って店を出ようとした。

その光景を見ていた店員が突然俺と夏焼に言った。
「あっ、お客様、ちょっと待ってください!!!」 俺と夏焼が振り向く。
「『夏焼雅』の写真ですよね? 当店に『夏焼雅』の写真は置いてますよ!」 と言って店の奥に行った。
「えっ!?」 俺と夏焼は声を合わせて驚く。
店内に居た客も『ザワザワ』と騒ぎ出した。

そして店員が戻って来た。 その手にはポラロイドカメラがあった。
「これ、お店にアイドルの子が遊びに来たら撮って写真にサインとか書いてもらう用のなんだけど〜」 と、言って夏焼を撮ろうとした。
「えっ、そんな・・・私、アイドルとかじゃないし・・・あの・・・」 と、戸惑う夏焼。
「ま〜ま〜。確かに芸能人では無いけど〜そこの男の子にとっては君がアイドルらしいし〜ほら、笑って笑って!」 と言う店員。
笑顔ながらも困ったような顔で俺を見る夏焼に
「ほら!俺は夏焼の笑顔の写真が欲しいんだから〜笑ってよ」 と言ってやった。

撮った写真に夏焼はピンク色のペンで
『雅の大切な友達へ♪』 と照れながら書いた。
そして、恥ずかしそうにジーッと写真を見てから『はいっ』と俺に差し出した。
写真に写る夏焼は少し緊張した感じで写ってたけど、すごく可愛いかった。

「あの〜、ありがとうございました。 写真のお金とか・・・」 そう言う夏焼に
「いいのいいの。 特別サービスだし」 と言った。
「でも・・・やっぱり、悪い気が〜」 そう言う俺に、店員は
「まぁ、ここは臨時営業だし〜少しはお客さんにもサービスしないと!」
「本当にありがとうございました。」 俺と夏焼は再度、店員にお礼を言った。
「可愛い彼女と仲良くね!」 
その店員の言葉に俺と夏焼はお互いに見詰め合ってしまった後で恥ずかしくって、すぐに目をそらして店を出た。

俺と夏焼は店を出てから、少し距離を取って歩いた。
何となく『彼女』と言う響きにお互いに意識してしまったらしい。
俺はスタスタと前を歩いて、後ろから下を見て夏焼がついて来てるみたいだった。

少し歩いてからポラロイドを取り出して写真の夏焼を見て思った。
(何となく恥ずかしいけど〜せっかくのデートなのに夏焼と一緒に話したりしながら周りたいよな〜)
そう思い、俺は立ち止まって後ろを振り向いた。
「あのさ、夏焼・・・って、あれ??」
後ろを振り向いたが夏焼はいなかった。
・・・はぐれちゃった。

ポツーンと一人立ちすくむ。
夏焼の事だから多分、色々と店でも見ながら俺を探してるんだろうなぁ・・・
そう思って、俺も店を見ながら夏焼を探すことにした。
(何か色々な物が売ってるなぁ。お菓子とか・・・この小さいイルカのキーホルダーとか清水とか好きそうだなぁ)
そんな事を思いながら夏焼を探しながらキョロキョロと店を見て周ってると、安物のアクセサリーが売ってる店があった。
まぁ、安物だけど指輪とかピアスとか色々売ってる店。
店の中に入って10分くらい物色。 
そして店を出て歩いているとベンチに座って下を向いている夏焼を発見した。
(あっ、夏焼発見!) そう思って俺は、気付かれないように『サササッ』と近くに行く。
夏焼は下を向いたままで気付いて無い様子だった。
俺は夏焼の真横に座ったが、それでも気付かない・・・ってかもしかして寝てるんじゃないか??
そう思って、俺は夏焼に向かって小さな声で「雅ちゃん?起きてますか〜?」 と、声を掛けた。
『ハッ!』として俺の方を振り向く夏焼。
その目は涙をいっぱいためてて潤んでた。

「な、夏焼?」 俺がボーッとして夏焼を見る。
夏焼は俺の顔を見て、すぐに嬉しそうな顔に戻ったけど、まばたきをした瞬間に潤んだ瞳から涙が流れてしまい
すぐに下を向いて俺に見せないようにした。
「夏焼・・・ど、どうしたの!?」 俺が夏焼に話しかけると
「お願いだから、絶対にそこから動かないで3分間だけ向こう見てて!」 と夏焼が涙声で言う。
夏焼の目から涙がたくさん流れてるのがわかった。
(え〜っ、何で泣いてるんだよ!?) 俺は心配になり 
「俺とはぐれてから何かったの!?夏焼!!大丈夫??」 と心配そうに言う俺に。
「いいから・・・とにかく5分、雅が『いい』って言うまで向こう向いてて!」 と言って俺の手を夏焼は『ギュッ』って握った。

俺は(何で2分増えてるんだろう・・・) と変な疑問を浮かべながら掌に感じる夏焼の体温と涙声を聞きながら、ずっと奥いた親子を見てた。

3分くらいして、夏焼の「いいよ」って声に俺は夏焼の方を見た。
夏焼は、まだ少し下の方を見ていて泣いてはいなかったけど目が少し赤くなってた。
「もう大丈夫?」 俺ができるだけ優しく夏焼に聞くと小さく夏焼は頷ずいた。
「どうしたの?何かあったの?」 俺が夏焼に聞くと
「君と・・・はぐれた・・・」 と小さい声で言った。
「えっ。あ〜・・・はぐれちゃったけど、すぐ出会えたし〜」 そう言った俺に夏焼は俺の方を怒った顔をして
「すっごい不安だったんだから!!」 と、また少し瞳を潤ませだした。
(え〜・・・何で!?) 俺は困ってしまって、「はぁ。ごめんなさい・・・」 と謝った。
「何で1人でドンドン早足で行っちゃったの??」 夏焼は今度は少し悲しそうな顔をして行った。
「えっと〜・・・」 俺をジーッと見てる夏焼。  
これは素直に言った方がいいな・・・ と俺は思った。
「さっきの店で、最後に『彼女〜』って言葉を言われた時に・・・」 俺は少し照れながら言う。
「何か〜恥ずかしいってか・・・嬉しいと言うか〜」 と言ってから夏焼を見た。
夏焼も少し顔を赤くして俺を見てた。
「だっ、だからって先に行っちゃうなんてヒドイよ!!」 
・・・ごもっとも

シーンとした静かな空間が2人の間に流れる。
「もう・・・今日1日は絶対に離れないから・・・」 そう言って夏焼は繋いでいた手をギュッと強く握った。
俺はさっきの仕返しとばかりに、ちょっとふざけて言ってやった。
「俺がキスしようとしても逃げないの?」 そんな俺の突然の発言に
「えっ!?キス・・・?」 と戸惑って俺を見てる夏焼。
「さっき・・・夏焼、駅で目とか閉じそうだったじゃん」 俺の顔がちょっと笑ったのを見て夏焼は気づいたらしく
「な、何言ってるのよ! そんな・・・キスなんて絶対にダメに決まってるでしょ!」 とあたふたとしていた。
そんな初めて見る夏焼の姿に、ひかれている自分がいた。
「・・・何〜?じっと私の顔を見て〜・・・」 と夏焼がちょっと怒った顔をして俺の顔を見て言う。
「いや、何でもないよ。 そろそろお昼でも食べよ。」 そう言うと夏焼も『そうだね♪』って言って笑顔になった。

俺と夏焼は歩き出した。 もちろん手は繋いだままで。
俺がふざけて『瞳をと〜じて キスをせがむよ〜 夏焼雅〜♪』と替え歌を歌う。
「も〜・・・バカ」 と小さくつぶやいてから。
「・・・そんな事ばっかり言ってたら・・・一生、離してやんないから」 そう言うって、俺の腕に抱きついた。

「どこで食べる?」 外に出て俺が夏焼に言うと
「ねぇ?すっごいお腹空いてる?」 と夏焼は俺の方を見る。
「えっ・・・もう、お昼だし〜お腹空いてるよ。夏焼は空いてないの?」 俺は不思議そうに答えると
「お腹空いているなら、ちょっとくらい味がダメでも多めに見てもらえるかな〜♪」 
そう言って夏焼は持っていたバッグを見た。
「ん?園内の料理って美味しくないの??」 そう言う俺に
「相変わらずだな〜もう♪ とにかく、どっかに座ろっか」 そう言って俺の方を見て笑った。


俺と夏焼は適当にベンチに座ると、夏焼は『ジャーン!』と効果音付きでバッグから包みを取り出した。
「えっ!?もしかしてお弁当?」
俺がビックリしたように言うと
「え〜っ!!本当に気付かなかったんだ!!」 
夏焼もビックリした顔で俺を見る。
「だって、お弁当なんて言ってなかったじゃん!」
夏焼が『クスッ』と、笑いながら言う。
「そうなんだよね。 君は素直に驚いてくれたり、素直に気持ちを言ったり・・・そ〜ゆ〜所が皆ひかれちゃうんだよね。」
「えっ?そうかな???」 俺がポカーンとして言うと
「まぁ、話はあとあと。 それより、雅特製のサンドウィッチ食べてみて♪」
そう言って夏焼は包みを開けた。
中はサンドウィッチとか、から揚げとか、フルーツとか。どれも可愛くリボンとかで見た目も本当に綺麗に出来ていた。

「・・・どうかな?」 と、少し恥ずかしそうに俺を見る夏焼
「これって、夏焼が全部作ったの?」 俺の質問に
「えっと〜難しい所はお母さんに手伝ってもらって・・・でも、サンドウィッチとかウサギのりんごとかは私だよ」 
夏焼の声は少し緊張してるみたいだった。
「え〜!!すごいじゃん! 夏焼すごいよ!! 本当に食べちゃっていいの?」 そんな俺に笑顔で夏焼は
「美味しくなかったらゴメンねだけど。 雅のはじめてのお弁当だから・・・食べてやってください♪」 
そう言って、俺に恥ずかしそうに『ペコリ』と頭を下げた。

「・・・俺」 夏焼が俺の方を見る
「夏焼の事、本当に・・・」 と、言いかけて『ハッ!』としてやめる
「えっ、私の事?本当に何?」 夏焼がジーッと俺を見る
(ヤバイ・・・何とかごまかさないと!!!)
「あっ・・・え〜っと・・・いただきます!」 と言って、サンドウィッチを食べる
「も〜!何〜!?気になるよ〜!!  ・・・サンドウィッチ美味しい?」 そう言って俺の顔を不安そうに見る夏焼。
「夏焼!すっごく美味いよ!」 お世辞とかじゃなくて本当に美味しかった。
「本当!? 良かった。 もし、美味しくなくて嫌われちゃったら・・・」 と言いかけて、夏焼は突然下を向いた。
「えっ?何?」 俺が聞いても
「えっと〜・・・何でもないの! とにかくいっぱい食べて!!」 と何か必死にごまかしてるみたいだった。
俺も、さっきの自分の発言を聞き返されても困るから、それ以上は聞かなかった。
だって、『本当に夏焼の事、いっぱい好きになってく』 なんて、本人の前で言える訳ない。 

2人でお弁当を食べていると、突然夏焼が
「ねぇ?さっき、君にひかれてる子がいるって言ったけど〜」
「ん?」 サンドウイッチを食べながら夏焼を見る。
「うちのクラスだったら〜誰だと思う?」 と、俺の方を笑顔で見ながら言う。
「えっ・・・そんな、別に誰もひかれてないでしょ」 俺がそう言うと
「やっぱりな〜・・・ダメだよ! 女の子の気持ちに気付いてあげないと!」 そう言って俺をの方を見た。

俺は少し考えて・・・ふと思った。
(・・・コレって、聞いちゃっていいのかな?) 
ドキドキしてたけど決心して「じゃあ・・・夏焼雅とかは・・・どうなのかな?」 俺が、ちょっと違う方を見て言う。
「えっ・・・私?」 と夏焼はちょっと恥ずかしそうに俺の方を見て
「結構・・・気になってるんじゃないかな〜・・・多分」 と曖昧な答えを出した。
「多分なの?」 俺が、ちょっと残念そうに聞き返すと
「えっと〜・・・だから・・・その〜・・・」 と夏焼は俺の方を見て
「ん〜、雅は・・・雅は〜・・・だから〜・・・雅はいいの!」 と突然切り返す。
「え〜!! 何で?」 俺の質問に
「だって・・・何か恥ずかしい・・・って、もう知らない バカッ!」 そう言って、反対を向いてしまった。
不思議な感じの空気がお互いの間に流れた。

「う〜ん・・・よくわかんないけど・・・じゃあさ」 俺の発言に少し顔を赤くしてた夏焼が振り向く。
「何で、俺って菅谷に嫌われてるのかな?」 と夏焼に質問する。
「えっ?梨沙子?」 夏焼は不思議そうに言う。
「そうそう。 何か、いつも俺って菅谷に睨まれるんだけど〜嫌われてるのかな?」 そう言う俺に
「嫌いな相手にキスなんてしないよ」 と笑って答える。
「えっ、でっ、でもさ〜」 俺が言いかけると
「も〜!嬉しそうな顔しちゃって」 と夏焼がちょっと意地悪に笑いながらが言う。
「いや、嬉しいとかじゃなくて! だっていつも夏焼の近くに行くと菅谷が怒ってるってか・・・今回だって呼び出されたのも夏焼とデートするからだし・・・」
夏焼は俺の話を聞いてから少し考えて
「それは、ちょっと違うんだよね〜」 夏焼が、少し冷静な感じで言う。
「違うって?」 俺が聞き返す。

「君、梨沙子が君に私を取られると思って怒って邪魔してるって思ってるでしょ?」
「えっ・・・そうでしょ?」 
俺の答えに夏焼は『何て言えばいいかな〜・・・』 と、小さく言ってから
「逆なんだよね・・・」
「逆?」 
「そう、私じゃなくて君だったら? それで、梨沙子本人もソレに気付いてなかったら?」 夏焼はジーッと俺を見る。 
「それって・・・」 俺は言った。
「それって・・・ど〜ゆ〜意味???」
夏焼はビックリした顔で俺を見た。
「えっ?だって俺と夏焼が逆って、別に俺と菅谷はいつも一緒にいないし」
真剣に答えたんだけど、夏焼は『ハァ・・・』って小さくため息を1つしてから笑顔で俺に言う。
「まぁ、梨沙子は君の事嫌いじゃないから安心して!って事で♪」
そんな夏焼の笑顔が可愛くて、また体が熱くなって? あれ?
「あ〜・・・じゃ〜そうなんだ・・・」 と、突然ふらつく・・・
「どうしたの???」 夏焼が不思議そうに俺を見る。
「いや、別に・・・あれ?」 
俺は突然『クラッ』とくる感じがして、そのまま夏焼に寄りかかった。

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」 寄りかかった俺に夏焼が言う。
その言葉すら、ちゃんと聞き取れないと言うか・・・
(朝から夏焼と一緒に居て緊張しすぎてたから体中が熱くなっちゃったかな?)
「ねぇ!?本当に大丈夫?」 夏焼が心配そうに俺に話しかける。
「う〜ん・・・何か少しクラクラする」 俺が言う。
夏焼は俺の頭を膝に乗せて膝枕をしてくれた。
「気分悪いの? これで少しは楽になった?」 夏焼はオロオロしながら俺の顔を見てる。
「えっ・・・あ〜ちょっと楽かも・・・」 
夏焼に膝枕されたまま足を伸ばして楽な姿勢になるが、ボーッとしたのが治らない。
「・・・もしかして、さっきのお弁当が原因かな」 夏焼が少し涙目になって言う。
「それは無いって・・・夏焼も一緒に食べたし。 それに、あんなに美味しかったから、これくらいなっても全然いいよ」 

俺は言葉の選択を間違ったが、もう遅かった。

「これくらいって・・・雅のお弁当で君がこんなになっちゃうなんて・・・ごめんね・・・」 夏焼の涙が俺の顔に落ちる。
クラクラする頭の中で必死に考える
(泣かせてど〜すんだよ!何とか夏焼を心配させないようにしないと・・・)
「きっと・・・」 (・・・全然思いつかない)
夏焼は両手で顔を隠して泣き出してしまった。
「きっと夏焼が好きなのがバレちゃったから、あのお弁当がヤキモチを焼いて〜」
と、意味のわからない事を言って元気づけようとしたけど
「・・・やっぱり雅のお弁当が原因なんだね」
夏焼はずっと『ごめんね・・・』 って、俺に小さい声で謝ってる。
(・・・ど〜したらいいんだろう)

「あれ?もしかしかして雅ちゃん?」
俺は膝枕されたまま顔だけ声の方を向く。 夏焼も涙を抑えながらそっちを見た。
そこには1人の女の子が立っていた。
(あれ〜・・・どっかで見た事あるなぁ・・・) 意識もうろうとする中で考える。
「あっ・・」 そう言って夏焼は涙を拭いた。
「雅ちゃん泣いてるの?どうしたの? それに、この膝枕されてる変な子だれ?」
(・・・変な子って) しかし、言い返す力すらない。
「・・・雅のせいで・・・」 と夏焼は泣きながら、その失礼?な女の子に事情を話してた。
俺はボーッとしながら『いや、夏焼のせいじゃなし』とか『あのお弁当は美味しかったよ』とか言ってたんだけど
『はいはい。 病人は静かに寝てなさい。』 と、言われて『ベシッ!』とおでこを叩かれた。

叩かれた瞬間
「・・・ちょっと君、熱があるんじゃない?」 そう言って失礼?な子は、俺のおでこに手を乗せる。
「う〜ん・・・熱があるのかな・・・」 そう言う俺に
「あるよ!! う〜ん・・・結構あるかもね〜・・・」 と少し心配そうな顔になった。
それを聞いて、さらに泣き続ける夏焼
「あ〜・・・もう、雅ちゃん泣かないで・・・う〜ん困ったなぁ・・・」 そう言って、その子は俺の顔をジーッと見てから
「ねぇ?君、結構ヤバイ?」 と言った。
(『結構ヤバイ?』って、そんなあっさりと言われても・・・) 
俺はボーッとした頭で少し考えてから
「あ〜、全然大丈夫・・・」 と言って夏焼の膝枕から起き上がった。
「大丈夫なわけないよ! もう帰ろうよ!」 そう言って夏焼が俺の頭をまた自分の膝に戻した。
「・・・じゃ、せめて水族館見てから帰ろうよ。 夏焼、楽しみにしてたじゃん」 そう言って、多分俺は笑ってたはず(意識曖昧・・・)
「そんな・・・の・・・いいから・・・ 早く病院とか・・・行こうよ・・・」 
もう、夏焼は話せないくらい泣いちゃってた。
それを見てた、失礼?な子は
「はぁ・・・。 雅ちゃん、ただ熱あるだけだから病院は大げさだよ」 と夏焼の頭をなでて優しく言った。
「それから君! 雅ちゃん泣かせない!! 君はこれからおとなしく帰る!! わかった??」 と言って、またおでこを『ベシッ!』と叩いた。

扱いが全く違うんですけど・・・ってか、俺は病人なんですが・・・

そうすると突然、その子は携帯を取り出して電話をはじめた。
『もしもし?うん、突然離れちゃってゴメンね! 突然なんだけど用事が出来ちゃって〜先に帰るね! えっ?そうそう!!』
一緒に来てた友達に電話してるみたいだった。
『うん!ど〜しても急用でさ〜! って事で、詳しくは月曜日に話すから学校でね! じゃ、本当にゴメンね! バイバ〜イ♪』
俺が必死になって言う
「・・・俺なんかのためにせっかく友達と一緒に〜」 と、言ってる最中にまた『ベシッ!』とおでこを叩かれる。
「そこの病人、静かにしなさい。 まだ電話するから病人は病人らしく素直に雅ちゃんに甘えてなさい!」 そう言って、また電話を掛けだした。
その光景をボーッとして俺と夏焼は見てた。

『もしもし?パパ? 今ね〜友達と八景島シーパラダイスに来てたんだけど〜そうそう。 でね、友達が熱出ちゃって〜ピンチなんだけど・・・来て♪』
(・・・いくらなんでも、そんな無茶苦茶な理由で来てくれるのか?) と俺が思ってると、3秒も経たないうちに
『うん。じゃ〜駅の前で待ってるから〜ダッシュで来てね♪』
そう言って電話を切った。
「・・・何か、悪いよ」 俺が言うと 
「さっき愛理が言った事を覚えてる? それとも、また叩かれたい?」 そう言って俺を意地悪そうに『ニヤッ』と笑いながら見た。

「愛理ちゃん・・・何か迷惑かけちゃってゴメンね・・・」 夏焼が、まだ少し涙声で言った。
「も〜! 雅ちゃんは何も心配しなくていいの。 それに雅ちゃんとは小学校ではクラスがずっと違ったけど、幼稚園の時から仲良しだしね。」 
そう言って夏焼にウインクした。
「それにしても・・・ 突然、熱なんか出して! しかも雅ちゃん悲しませるとか〜」 そう言ってから
「あんま頼り無いと雅ちゃんに嫌われるぞ」 と俺を見て『クスッ』と可愛く笑った。
「あ、愛理ちゃん!? 何言ってるの!?そんなんじゃないんだよ!?」 夏焼が何か焦ってるみたいだった。
「だって、どう見てもデートでイチャイチャにしか見えないんですけど〜」 と笑いながら言った。
夏焼は恥ずかしくって下を見たらしいけど・・・・膝枕してるから俺と目があって
『違うの!違うの!』と訳のわらない事を俺に向かって言って、真っ赤にしてた顔を隠してしまった。 
そんな夏焼が・・・メチャクチャ可愛かった。

そんな夏焼をフォローしようとして俺が言う。
「あっ・・・デートは俺が夏焼を誘って、それで〜」 と言いかけてる途中でまた『ベシッ!』と、おでこに1発。
「そんな当然の事言わなくていいの。 雅ちゃんは隣なのに5-1のウチのクラスの男子にも人気あるんだから、レベルが高いの!」 と言った。
「当然って・・・ってか、やっぱり愛理には弱いな・・・」 ボーッとした頭で俺は言った。
(ん?愛理?愛理・・・あれ〜?何で俺、愛理って呼んでるんだろう)
「君も変らないんだから まったく!」 そう言って俺を見てニコッと笑うと、携帯が鳴って愛理は電話に出た。
『うん。もう着いたんだ!! それじゃ、スグに駅に向かうね♪』 
そう言って、電話を切るとフラフラしながら立ち上がろうとする俺に愛理は手を差し伸べてくれた。

家の玄関に車が到着すると、母さんが玄関から出てきた。
俺を心配して〜・・・間違いだった。 母さんは俺を完全にスルーして愛理のお父さんの所に挨拶をしてる。
『ほんとうにウチのバカ息子が』とか『迷惑ばっかりで困ってますよ〜』と言う声がガンガン聞こえてくる。

俺を放置状態(夏焼は心配そうに俺に話しかけてくれてた)10分経過で話はやっと終ったらしく、愛理のお父さんはゴルフの練習に行ってしまった。
そんなお父さんに愛理は『バイバ〜イ♪』と、手を振って残った。
「さてと・・・」 と、母さんが俺の方を見る。
「あんた・・・本当にバカだねぇ」 と笑いながら俺を見た。
「・・・あの〜俺、熱があるんですけど、心配じゃないの??」 そんな俺を心配そうに見てくれてる子、役1名。
「どうしよう・・・早く風邪薬とか、布団で寝かせたり、おでこ冷やしたり・・・」 とアタフタする夏焼に母さんが言う。
「あ〜雅ちゃん、心配しなくても死なないと思うから安心していいよ」 と言った。
その発言にポカーンとする俺。 さらに母さんは
「愛理ちゃんも、本当に迷惑掛けてごめんね〜!」 そう言って愛理の方を笑って見た。
「いえ〜そんな、彼は相変わらずですから。 それにしてもお久しぶりです♪」 と愛理が母さんに言う。
「えっ・・・何で母さんと2人は知り合いなの!?」 俺が不思議そうに見てると母さんが
「あんた、熱で少しおかしくなった?」 と俺をやっと心配そうに見る。
「彼、全然覚えて無いみたいなんですよ〜まぁ、小さかったし仕方ないと思いますけど」 愛理が俺の方を見て『クスッ』と笑った。
(???) 俺は訳がわからなくて・・・2人の顔を見る。
夏焼が話し出す。
「幼稚園の時に組は違ったけど、いつも一緒に遊んでたんだよ。 君と雅と愛理ちゃんに千奈美ちゃん、それに梨沙子も」

「ちょ、ちょっいと待ってよ!! 突然そんな・・・」 俺が焦りながら言う。
そんな俺を『ニヤニヤ』と見ながら愛理が話す。
「私が1人で違う組。雅ちゃんはりーちゃんと同じ組。君は千奈美ちゃんと同じ組。 5人で自由時間に遊んでたの覚えてない?」
俺はボーッとした頭で考えた。 
「えっと・・・愛理・・・と、遊んでたかも!? あっ・・・遊んでた!!」 愛理は笑ってる。
「それで〜・・・みーやちゃんって子がいてたよね??」 
そう言うと母さんが
「それ、雅ちゃんじゃない! 何言ってるのあんた?」 
俺は夏焼の方を見た。 夏焼はちょっと『クスッ』と笑った。
「えっ?あの時、一緒に帰ってた子とかも・・・」 俺の頭の中でパズルが解けていく感じがした。
「そうね〜。お母さん同士も仲良かったから、一緒に帰ってたわよ。」 母さんが普通のテンションで言う。
「なっ、何で教えてくれなかったんだよ!! 連絡の名簿とか見て言うだろ普通!」 と、必死な俺に
「だって、あんたが何も聞いてこなかったから知ってるのかと思って。 ・・・ってか、あんなに可愛い子達の顔も忘れるとか・・・あんた息子失格」 
母さんがため息を付いて俺を見る。
「まったく・・・しかも、雅ちゃん泣かせてたんですよ!!」 愛理がをジーッと見る。
「あらら・・・雅ちゃん、ウチのバカが心配掛けてごめんね。 それにしても雅ちゃんは本当に可愛くなったね。」
夏焼が『いえ・・・そんな・・・』 とか、下を向いて恥ずかしそうに言う。
これで、俺が病人である事が完全に放置状態になっていた。
クラクラしてる俺に、母さんが言う。
「・・・あんた2人に迷惑掛けたんだから、罰として今日と明日、ずっと寝てなさい!」
そう言って、ポケットをガサゴソやってから愛理みたいにおでこを『バシッ!』 と1発。
その1発が愛理と違った点は、俺のおでこに『冷えぴたく〜る』が貼られたことだけど。

「う〜ん・・・」
布団に入って寝てから、どれくらい経ったんだろう・・・
既に限界だったみたい・・・ すぐに自分の部屋に戻って意識が『スーッ』と消えていって・・・

窓から刺す日が夕方のオレンジ色の光から、4時〜5時位だろうな・・・
ボーッとした頭で部屋を見渡すと、床に座って愛理が雑誌を読んでた。
そして、俺のベッドに寄りかかるように顔を隠して寝てる夏焼。 

「ん?お目覚め? まだ寝てた方いいよ。」 雑誌から目を離して愛理が俺に言った。
「何で夏焼と愛理が俺の部屋に?」 
そう言う俺に、愛理が口をとがらす。
「話しかけたのは私なのに雅ちゃんの名前が先にでるとか失礼なんですけど!」 
そう言った後で 『なんてね♪』 と、言って笑顔になった。
「私は帰ろうとしたんだけど、雅ちゃんが看病したいって言い出してね〜」 と、夏焼を見た。
「えっ?夏焼が??」 俺も寝てる夏焼を見る。
「雅ちゃんも疲れてたのに・・・さっきまでウトウトしながら、ず〜っと君の事を見てたんだよ」
そう言って、愛理は俺をジーッと見る。
「な、何だよ・・・」
「いや、どこがいいのかサッパリわからないから」 と言って笑った。
「別に、具合は悪くないけど・・・」 俺が言うと、愛理は呆れ顔で俺を見た。
そして俺は夏焼を見て言う。
「夏焼・・・俺の熱が自分のお弁当のせいだと思って・・・本当に優しいよな〜 そんなの違うから気にしなくていいのに・・・」
そんな俺を『・・・君、相変わらずだね』 と言って、愛理がさらに呆れ顔で見てた。

「私は雅ちゃん1人じゃ『かわいそう』だと思って、一緒に待っててあげたって訳」 愛理は『ニコニコ』して言った。
(・・・かわいそうって) 
何となく不満そうな顔で愛理を見る俺を気付きながらも無視して愛理が言う。
「それにしても、この部屋に来るのも懐かしいなぁ〜」 そう言って愛理が部屋を見渡す。
「えっ?俺の部屋に来た事あるの?」 俺が言うと
「あるよ〜!! ってか、あの悲惨な事件が起こった現場だしね」 意味深な事を愛理が言い出した。
「あのな・・・人の家を事故現場みたいに言うなよ・・・」 俺は愛理がふざけて言ってるのかと思ってた。
「まぁ〜事故とまではいかないけど・・・子供って・・・残酷だからね」 と悟りきったように『フッ』と笑った。
「・・・小学生も子供だろ」 俺の発言に『はいはい。ジョーダンくらい流しましょう』 と愛理が言う。
「それにしても・・・本当に、この部屋で何か起こったみたいに言うなぁ・・・」 俺が不思議そうに言う。
その瞬間、愛理が俺を見て・・・すごい険しい顔をした。
「・・・君、その発言はジョーダンじゃなくて?」 
「えっ・・・いや、愛理が来た事も忘れてたし・・・」 俺は普通の顔をして言った。
「・・・そっか〜」 と言ってから愛理は、ちょっと考えてから
「今の愛理の発言忘れて! その方がいいと思うから」 と俺に笑顔で言う。
「ちょ、ちょっと待ってよ!! そんな事件みたいな事が起こってるのに何で流すんだよ!!」 俺が愛理に言う。
「忘れた君が悪いんでしょ!! それに、知らない方がいい事が世の中にはたくさんあるの! それが今!! わかった!!」 と逆切れ!
「あのな〜!」 と、俺が言った瞬間に 『う〜ん・・・』と、夏焼が少し起きそうになる。
顔を見合わせて静かになる俺と愛理・・・ 
そのまま夏焼はスヤスヤと顔を横にして寝てしまった。

「うわ〜・・・寝顔も可愛いなぁ・・・」 
俺が夏焼の寝顔を見て言って・・・すぐに『ヤバッ!』と、思って愛理を見て言う。
「い、今のは、そ〜ゆ〜のじゃなくて〜」 必死に言い訳しようとしたけど、愛理は真面目な顔をしていた。
「君、雅ちゃんが好きなの? 千奈美ちゃんとずっと一緒のクラスだったみたいだけど・・・」
「えっ・・・俺は〜・・・」 愛理の質問に、俺は無言になる。
「もしかして、雅ちゃんと千奈美ちゃん以外に好きな子がいるとか?」 愛理の目は真剣だ。
「・・・よく・・・わからないんだ、最近」 そう言って愛理から目をそらした。
愛理が俺を『ジーッ』と何分も何も言わずに見てた。 
そして、夏焼の近くに行くと愛理は寝てる夏焼の頭を軽くなでた。
「ねぇ?今から話す内容は、聞いた後で『聞かなかった方がよかった・・・』って思うかももしれないよ?」 愛理が言う。
「それでも、あの時の話を聞きたい?」
愛理の質問に、俺は強くうなずいた。

俺の真剣な顔を見て・・・愛理は突然『ニヤッ』と、笑った。
(えっ?) 俺がきょとんとした顔で愛理を見た。
「まぁ、実はそんなに恐れるほどの内容では無いかもね〜」 と、言ってから愛理は話だした。
「私達が、多分4歳くらいで〜君の5歳の誕生日の時だったと思う。」 俺は真剣に愛理の話を聞いている。
「で、君の誕生日会みたいのがあって〜私達5人と何人かの友達が集まったんだよね」
「うん。何か、誕生日会やったのは覚えてる」 と俺が言った。
「それで・・・」 と言って、愛理が『コホン』と1つ咳払いをした。
「皆が帰って、残ってたのが愛理と雅ちゃん。そして千奈美ちゃん」 愛理が俺の目を見て言う。
「誕生日会の最後に千奈美ちゃんが君に『ある事』を言ったの? 覚えてる?」
「いや・・・『おめでとう』とか?」 俺が言うと愛理は首を横に振った。
「『大人になったら、千奈美をお嫁さんにして』 って・・・」 俺は頭が真っ白になった。
(そんな・・・幸せな事があったのか!?) と混乱する頭の中で考える。
「で、君が笑顔で千奈美ちゃんの手を掴んで『うんっ♪』 って、大きく返事をしたの」 愛理は笑いながら言った。

俺はポカーンとした状態で、愛理を見ていた。
そんな俺に、愛理は「ベシッ!」とおでこに1発。 それで、ちょっと意識が戻った。
「ってか、まだ続くから。 この後が事件なんだから・・・」 愛理は少し難しそうな顔をした。
「えっ!? それが事件だろ!?」 俺の言葉に首を横に振る愛理。
「君が『千奈美ちゃんをお嫁さんにする』って言っても、幼稚園の君は普通に『ずっと友達!』って意味だったみたいだけどね」
「・・・何でわかるの?」 俺が愛理に行った。
「だって、私が後から聞いたもん!『本当に千奈美ちゃんをお嫁さんにするの?』って。 そしたら『ずっと千奈美ちゃんとは友達だよ』だって・・・」 愛理がため息・・・
「・・・俺ってもしかして、最悪?」 
愛理は「この時点なら、まだ救えたね・・・」 と俺を切なそうな目で見た。
「・・・その続きは???」 俺がおそるおそる聞く。
「君が『うんっ♪』って言ったら、雅ちゃん・・・突然泣き出しちゃったんだ。」 そう言って寝てる夏焼の頭を、またなでる。
「何で泣くんだよ」 俺が愛理に聞くと 
「も〜、うるさい!鈍感男! だまって続きを聞きなさい!」 と、また1発。
「そしたら、君が千奈美ちゃんと手を繋いだまま雅ちゃんを慰めようとしたの」
「『泣かないで。みーやちゃん』とか? 俺、結構優しいじゃん」 
俺が言うと、愛理は俺を睨んだ。

「それならマシ! 君は千奈美ちゃんと手を繋いだまま、雅ちゃんに『泣かないで』って言ってキスしたんだよ・・・」

(もしかして・・・俺って最悪な事してるかも・・・)

夕暮れの日差しも少しずつ弱くなって、オレンジ色の光はそっと夏焼の綺麗な茶色の髪を輝かせてる。

「嘘だろ?」 俺が愛理の顔を見て笑った・・・が愛理の顔はただ、俺をジーッと見てるだけ。
「・・・嘘ですよね?愛理ちゃん?」 愛理の表情は変らない。
「・・・嘘だろ〜」 俺は小さく呟いてからそのままドサッと布団にまた倒れた。
愛理が話し続ける
「その後、千奈美ちゃんも泣き出しちゃって・・・雅ちゃんも泣きやまなし・・・」
「それで・・・どうなったの?」 俺が寝たまま愛理に聞く。
「私が怒って君のおでこに『ベシッ!』と1発。 そしたら主役が泣いちゃった」 愛理は笑いながら言った。
「ひで〜な・・・いや、それが正しいと思う。 ってかナイス判断だよ、愛理」 俺は天井をジーッと見てた。
「そしたら、泣いてた千奈美ちゃんと雅ちゃんが君を泣きながら必死に慰めてるの・・・もう、私もそれ見て何でか泣いちゃった」 愛理が『クスッ』と笑った。
「そっか〜・・・ねぇ?キスって・・・頬とかじゃなくて?」 俺の質問に、小さい声で返事が来た。
「ちゃんと『くちづけ』だったよ。 私のファーストキスだったんだから」 そう言って、夏焼が顔を上げた。
「夏焼・・・」 起き上がる俺に
「おはよっ♪」 って、言って夏焼は目をこすりながら俺を笑顔で見ていた。

「雅ちゃん、いつごろから起きてたの?」 愛理が夏焼に言う。
「ん〜・・・千奈美ちゃんのプロポーズの思い出らへんから・・・何となく聞こえてたかな〜」 と夏焼が言う。
「あのさ・・・夏焼〜」 言い掛ける俺に向かって『シーッ』と言ってから夏焼は俺のおでこに手を当てた。
「やっぱり、まだ少し熱があるね。ちゃんと寝てないと・・・」 心配そうに俺の顔を見た。
俺も夏焼の顔を見た。
「・・・ちょっと下行って、おでこに貼るやつ・・・新しいのもらってくるね」 夏焼は『ニコッ』と笑って下にいった。
愛理が俺の近くに来て話す。
「さて、私はそろそろ先に帰るね」 
「えっ?もう帰っちゃうの?」 そう言うと、愛理は俺のおでこの『冷えぴたく〜る』を取った。
「まぁ〜邪魔者は・・・ねっ」
「邪魔なんて・・・ってか、愛理ともっと色々話したいよ・・・」 そう言うと愛理は
「別に、隣のクラスにいるんだから会いに来ればいいじゃない」 そう言って笑った。
「そうだけど・・・」 俺が寂しそうな顔をすると
「何? 本当は愛理の事が好きだから離れたくないとか〜?」 と言って『ニヤニヤ』と笑う。
「ち、違うよ! 俺はただ・・・愛理と久しぶりに〜」 愛理が言い終わる前に、かぶらせて話し出す。
「何よ〜!! それじゃ、私に全然興味が無いみたいじゃない! 相変わらず君は失礼だな〜!!」
そう言って、また『ベシッ!』と、1発叩こうと俺のおでこに手を近づけた 
俺が目をつぶる・・・

おでこに感じたのは愛理の掌ではなく、唇だった。

「久しぶりに会ったら・・・恋にでも何にでも一生懸命の君のままだったから安心した。」 そう言って愛理は笑った。
「愛理・・・」 俺と愛理は少し見つめ合ってから・・・ 愛理は立ち上がって部屋から出ようとした。 
ドアの前で愛理は止まって・・・振り返った
「頑張って! 愛理が君を応援してるからね♪」 そう言って、笑顔で指を鳴らした。

階段で、すれ違った夏焼と愛理の声が聞こえてくる。
少ししてから夏焼が部屋に戻ってきた。
「愛理ちゃん、先に帰っちゃったみたいだね。」 そう言って俺のベッドの近くに来た。
「うん・・・」 俺は夏焼を見た。 夏焼も俺を見てる・・・
「夏焼に・・・言わないとダメな事があった」 俺が言うと
「何?」 夏焼が少し笑って聞いた。
「電車で・・・ファーストキスが小学生になってから・・・って・・・」 
その発言で、俺と夏焼は恥ずかしくなって目をそらした。
「・・・忘れてて、ごめん」 俺が下を見て言った。
夏焼は顔を上げて俺を少し見てから
「私も千奈美ちゃんも・・・君が忘れてたの知ってたけど、思い出したら君が『私達の事を嫌になっちゃうかな?』って思って・・・内緒にしてたの」
夏焼の言葉はとても静かだった。
「梨沙子にもね、私の事を『みーや』って呼んでたんだけど、君と同じクラスになった時に気付かれないように『みやー』に変えてもらったの」 
そう言って『クスッ』と笑った。
「そんな、俺は夏焼も千奈美も別に嫌いにならないし・・・逆に俺が嫌われて当然というか・・・」 そう言って夏焼を見た。
少し・・・静かな時間が流れた。

「水族館・・・俺のせいで・・・ごめんね」 俺が夏焼に言った。
「気にしないで。 水族館は行けなかったけど、君と色々な思い出ができたし・・・すっごく楽しかったし! 今度、また行こっ♪」 夏焼は笑顔だった。
「あのさ、今日の思い出に・・・夏焼の記憶にずっと残るように〜」 そう言ってバッグの中に手を入れる。
夏焼は不思議そうに、その光景を見てた。
「夏焼とはぐれた時に・・・ちょっと可愛いアクセサリー屋があってさ・・・」
そう言って、俺は買っておいた小さな銀色の指輪を夏焼の前に出した。
「えっ!? これ・・・私に!?」 夏焼は驚いた顔で俺を見た。
「安物だし、俺のセンスで似合うかどうかわからないけど〜」 そう言って夏焼を見た。
「・・・ありがとう。 私、ずっと大切にするね・・・」 そう言って、夏焼は涙目の笑顔で指輪を取った。
夏焼は自分が首に付けていたロザリオの付いたチョーカーを外すと指輪をチョーカーに通した。
「ずっと・・・ずっと大事にするからね」 そう言って、俺の目を見た。
「俺が熱出しちゃったから・・・これで『おあいこ』かな」 そう言って俺は笑った。
2人は見つめ合って笑う。
  
少しして、夏焼が俺の近くに来て言う。
「大切なこと・・・思い出した」 そう言って俺のおでこに『冷えぴたく〜る』を貼った。
「なるほど・・・」 俺が少し笑って言うと、夏焼は優しい声で
「それに・・・「おあいこ」って言うなら・・・」 


窓からこぼれるオレンジ色の光が少しずつ消えていく
『おあいこ』って言うなら・・・6年の時間を越えて2人の影が、そっと1つになった。  

あの時と同じ場所で、俺と夏焼はキスをした・・・

 

3:名前:〜私とあなたとあなた〜 【T】 [] 投稿日:05/02/02(水) 23:08:44

『ガバッ!!』
ベッドから起き上がり、30秒間の間に頭を整理して夢だと確認。
横に置いてある目覚まし時計は、朝の4時32分をさしていた。
「これで、3日連続・・・同じ夢・・・」
そう呟いてから、清水佐紀は 『はぁ・・・』と、小さくため息を1つ付いた。


学校の授業が終り、今月も掃除の当番の週になった。
ほうきを取りに行こうとした時、背中を『ポン!』と、叩かれて振り向く。
「掃除ふぁいと〜♪ バイバ〜イ♪」 そう言って、俺の返事を待たずに桃子が走って教室を出ていった。
「あ〜、桃ちゃん! 待ってよ〜!!」 その後を走って石村が追っかけていった。
「・・・相変わらずだなぁ」 俺がボーッと廊下を見てると、また背中を『ポン!』
(今度は誰だ??) そう思って振り向くと、そこには夏焼が立ってた。
「桃ちゃんのマネしちゃった」 そう言って、夏焼は『クスッ』と、笑った。
「夏焼は、もう帰るの?」 俺の発言に少し考えてから
「そうだけど〜・・・掃除が終るまで待ってて欲しい?」 と、夏焼が俺を見つめた。
教室が『ワイワイ』騒ぎ出す。
八景島以来、俺と夏焼はカップルだとか付き合ってるとか言われてた。
俺も夏焼も別に付き合ってる訳では無いし、普通に噂とかは流してるけど・・・役1名・・・流せない人が・・・
「みーや!今日は帰りにクレープ屋さん行くんだから! そんなのダメ!」
夏焼に言ってるのに、相変わらず菅谷は俺を睨んでる・・・
「もう・・・それじゃ〜先に帰るね。 また明日」 そう言って夏焼は『ニコッ』と笑顔を見せて小さく手を振った。
振り返る時に、胸に付けてるロザリオと指輪が当たって音が鳴った。
菅谷は俺を睨んでたくせに、振り返る時は『また明日ね〜』 と、笑顔を見せた。
(俺は菅谷に嫌われてるのか・・・そうじゃないのか全然わからない・・・)
そんな事を考えてると、また背中に『ポン!』と、1発。
「こら〜!掃除さぼるな〜!!」 振り返ると今度は友理奈。

「別にサボってないよ」 そうは言ったものの、手にほうきも持ってないで、ただ突っ立ってるだけの状態。
「も〜!!ちゃんとやりなさい!」 そう言って、友理奈は2本持ってたほうきの1本を俺に渡した。
俺のために、わざわざ取ってきてくれてたみたいだった。
「友理奈サンキュ〜!」 そう言って、友理奈の頭を『ポン!』とお返しに叩く。
「ちょっと〜!何で持ってきた私が叩かれるの〜!」 そう言って友理奈は顔を少しふくらせた。

そんな頬をふくらませた友理奈をジーッと見て・・・何となく指で頬を突っついた。
「友理奈〜怒るなって! 本当に感謝してるんだから」 そう言って、さらに指で頬を突く。
指で突いていくと、少しずつ友理奈の顔が普通に戻っていく。
「怒ってるより笑顔の友理奈が可愛いんだけどな〜」 そう言うと、友理奈の顔が真っ赤になった。
「そんな・・・お世辞言っても効かないもん!!」 友理奈はちょっと下を向いた。
「何で?友理奈は笑ったら、すっごい可愛いじゃん」 俺が不思議そうに友理奈の顔を覗き込んだ。
俺は顔を真っ赤にしる友理奈と少し見つめ合った。
「教室じゃなかったら・・・そのまま・・・」 少し小さな声で友理奈が言った。 
「えっ?このまま?」 俺の発言に『ハッ!』とした顔をして突然、アタフタしだした。
「と、とにかく!『掃除を終らせて早く帰ろう!』 って、言いたかったの!」 友理奈の顔は、さらに赤くなってる。
「・・・でも、『教室じゃなかったら』の後と言葉が繋がらないけど・・・」 俺の発言に、さらにパニック状態になる友理奈。
「だから〜!!!それは教室だと人がいっぱい・・・じゃなくて・・・何で・・・も〜!!!」 と、もう意味がわからない。

俺と友理奈が、そんな言い合いをしてる時に何か嫌な予感がして『あれ?』っと、思ったと同時に後ろからスリーパーを掛けられる。
あまりの苦しさに急いで、その首に掛かった腕にタップをした。 でも、腕は離れない
「あれ?茉麻ちゃん? 今日は掃除当番じゃないのに〜」 まだ少し顔が赤い友理奈が、後ろの相手に話しかけた。
「す、須藤・・・ギブアップ・・・」 俺の言葉にやっと腕が離された。
「ちょっと、気になる事があって〜 って事で、彼を少し借りるね」 そう言って、俺の腕を掴んで『ズズズ・・・』と。
友理奈が『えっ・・・あれ?・・・』って感じで、俺を見てた。 一応、友理奈にひきつった状態で笑顔で手を振っておいた。

「・・・これを、一般的には『拉致』とかって言うんじゃないかな〜?」 須藤を見ながらふざけて言ってみた。
「う〜ん、ある意味『拉致』になるね。 これで私も犯罪者だ」 須藤は俺を見て笑いながら返す。
「・・・それで、俺に何の用でしょう?』 そう言うと、須藤が突然止まって指をさす。
その先には、清水が先生の座る机を濡れ布巾で拭いていた。
「委員長の清水佐紀。 頭もいいし、人望もあるし、結構〜男子からも人気あるし・・・って事で、説明終わり。さようなら〜」
そう言って戻ろうとした俺の腕を、また掴んだ。
「・・・清水がどうしたの?」 俺が須藤の顔を見ていった。
「佐紀ちゃん見て、何とも思わない?」 須藤はジーッと俺の顔を見た。
「『何とも思わない?』って〜・・・あれ?」 俺は焦点を合わせて清水を再度見た。
濡れ布巾だと思ってたものは雑巾で、清水は拭いてる途中で立ったまま『スヤスヤ』寝てた。

「・・・珍しいな」 俺が須藤の顔を見て言った。
「珍しい以前に最近の佐紀ちゃんって、いつも疲れてるみたいなんだよね〜」 須藤も俺を見た。
「ん〜・・・で?俺が起こしてくればいいの?」 そう言った俺に須藤は真剣な顔をして
「何言ってるの! 友達の悩みとかを聞いて解決するのが私達、『ファイティングポーズはダテじゃない!』 通称『ファイポ』の役目でしょ!」
「・・・須藤が何言ってるの?」 俺がポカーンとして須藤を見た。
「私と君で、『ファイポ』 仕事は〜」 須藤の話の途中で俺が言う
「ちょ、ちょっと待った!!俺は何も知らないし!! ってか、いつ作ったんだよ!」 焦る俺
「えっと〜・・・30秒前かな?」 須藤は淡々と話す。
「・・・何で俺が入ってるんだよ」 『ジーッ』と須藤を見ると、須藤は少し考えてから
「そう言えば、梨沙子ちゃんと八景島でデートする予定、私が壊しちゃってごめんね〜」 そう言って『ニヤッ』と笑った
「・・・『ファイポ』頑張って行こう」 俺が脱力状態で言うと、須藤は『よしよし』と、うなずいた。
そして、俺と須藤の『ファイティングポーズはダテじゃない!』通称『ファイポ』は立ったまま寝てる清水に近づいた。

「・・・せめて名前を変えるのダメ?」 俺はため息交じりに言う
「そう言えば〜あの後、梨沙子ちゃん1人で音楽室に戻ったみたいだけど、何かあったの?」 と言って、笑いながら俺の頬をつねる。 
「ファイポ・・・オー・・・」 俺は、また1つため息をした。

「もしも〜し?」 俺は清水の肩を『トントン』と叩いた。
スヤスヤと清水は可愛い寝顔のまま。
「起きないけど・・・どうする?」 俺が須藤を見て言う。
「う〜ん、起こす方法と言えば〜・・・君が佐紀ちゃんにキスすれば起きるのかな・・・」 須藤は真剣な顔をしてる。
「えっ、ちょ・・・キスとか!! それはおとぎ話とかで・・・」 あたふたする俺に
「何を真剣になってるの? そんなんで起きるわけないじゃん」 俺の方も見ないで須藤はあっさり言った。
「・・・わかってるよ」 俺が少し『ムスッ!』として再度、清水の肩を叩く。
「佐紀ちゃん? 委員長? しみちゃ〜ん?」 色々と呼んでみたけどダメだった。
「あっ・・・そっか!!」 そう言うと突然、須藤が俺に耳打ちした。
その通りにやってみる
「佐紀・・・おはよう」 俺が清水の耳元で小さく囁くと・・・
『ガバッ!』
清水は突然目を開けて、顔を真っ赤にして俺の顔をジーッと見た。

「ごめんなさい・・・最近、寝不足で」 
掃除が終った後の教室に、俺と須藤の『ファイポ』と相談者の清水がトライアングル状に座って話してた。
「寝不足って〜・・・なかなか寝付けないとか?」 俺の質問に清水が首を横に振った。
「ちゃんと11時には寝てるの・・・寝てるんだけど〜」 
清水が『ハァ・・・』 と、1つため息をついて続けた
「5日連続で同じ夢を見て〜・・・4時から5時に必ず起きるの・・・」 清水はボーッとした顔で俺を見た。
「その夢の内容は?」 俺が真剣な顔で清水を見た。
清水は少し照れたように下を見て、小さい声で話しだした。
「それが・・・私が夢の中で・・・」 
俺が『ウンウン』と、うなずく。
「・・・授業中に突然抜け出したり、廊下を走ったり、男子を叩いたり・・・」 清水は顔を赤くした。
「えっ・・・それで?」 俺がポカーンとして聞くと。
「えっ?それで・・・終わり」 清水もポカーンとして俺を見る。

・・・シーンとした時間が少し流れる。

「わかった!」 突然、今まで『ジーッ』と話を聞いていた須藤が叫ぶ!
俺と清水が『ビクッ!』として、須藤を見た。
「それは、いつもの佐紀ちゃんと違う行動!! つまり、その行動をすれば解消されるはず!」
・・・はたして、そうだろうか?

次の日から実験は始まった。

【まずは授業をサボる】
「1時間目からサボって行こう!」 須藤は真剣な顔で清水に言う。
「ぜ〜ったいにそれだけは嫌!!」 清水はすっごい拒んだ。
「佐紀ちゃん、大丈夫! 彼は前に桃ちゃんとサボった常習犯だから!」 そう言って須藤は笑顔で言う。
(常習犯って・・・) 俺はジーッと須藤を見たが、須藤はシカトして清水を説得!
「絶対無理だよ〜!!」 2人で説得したが、最後は清水が涙目になって借りて来たネコみたいに静かになってしまい断念。

【授業中に大声を出す】
「12時ちょうどになったら立ち上がって叫んで!」 須藤は真剣な顔で清水に言う。
「そんなの・・・無理だよ・・・」 清水はまたまた必死に抵抗
「佐紀ちゃん、大丈夫! 彼も前に掃除の途中で『雅ちゃんが好きだ〜!』って叫んだ危ない子だから!」 そう言って須藤は笑顔で言う。
(危ない子って・・・) 俺はジーッと須藤を見たが、須藤はシカトして清水を説得!
「やっぱり、それじゃ変な子だよ!」 結局、12時ちょうどに清水は手を上げて先生に質問すると言う逃げ方をした。

【男子とケンカをして泣かす】
「男子に後ろから『バシッ!』と1発入れて泣かせちゃえ!!」 須藤は真剣な顔で清水に言う。
「泣かしたら可哀想だよ・・・」 清水は『ムリムリ!』ってポーズで手をバタバタさせた。
「佐紀ちゃん、大丈夫! 彼は前に掃除の時に嘘をついて友理奈ちゃんを泣かせた極悪非道な子なんだから!」 そう言って須藤は笑顔で言う。
(極悪非道な子って・・・) 俺はジーッと須藤を見たが、須藤はシカトして清水を説得!
「・・・女の子を泣かすって、確かに最低かも」 その清水の発言に、俺が凹む。 必死に慰める2人・・・そのまま授業が始まっちゃって断念。

その後も、【給食を残こす】とか【昼休みに校長室にノックしてダッシュで逃げる】とか【ウサギ小屋の扉を開けちゃう】とか。
色々やってはみるんだけど〜清水は本当に根から素直で優しい子と言うか・・・どれも上手くいかなかった。
最後には、『2人に色々やってもらってるのに・・・私・・・ダメで・・・ごめんね』と、本当に申し訳なさそうに泣いちゃうほどだった。

掃除の時間になって、清水はやっぱり眠たそうに掃除をしてた。
そんな様子を俺と須藤は遠くから見ながら話す。
「・・・何とかならないかな、本当に可哀想だよ」 俺の発言に
「う〜ん・・・どうしたもんかね・・・ワトスン君」 と須藤
「・・・って、誰がワトスンやねん」 そう言って須藤を『ビシッ!』と、軽く叩く。
「部長! 社内でのセクハラは止めてください!」 須藤は桃子みたいにブリった感じで言う。
「だ〜か〜ら〜!何で俺が部長なんだよ!」 俺がさらに『ビシッ!』と、1発
「あなた・・・子供の前で暴力は・・・」 今度は少し雰囲気を出しながら
「・・・これ、いつまで続けるの?」 俺の質問に
「そろそろキツくなってくるね〜」 と須藤は笑いながら俺を見た。

清水を心配そうに見ている俺・・・を、ジーッと見てる須藤・・・
「・・・俺見てどうするんだよ」 須藤に冷たい視線を送る。
それでも、ジーッと真剣な顔で俺を見る須藤・・・
「・・・そっか・・・何で気付かなかったんだろう・・・」 
須藤が俺を見る顔が驚いた顔に変った。
「えっ? 何か思いついたの?」 俺が須藤に言った瞬間に
「じゃ! 後でね! バイバイ!」 と言って、俺の頬を軽くつねってから須藤は帰ってしまった。

「・・・何が何だかわからんよ、ホームズ・・・」 
走って教室から出て行く須藤の後ろ姿に俺は言ってやった。

掃除が終り、夕暮れの通学路を俺と清水は一緒に帰った。
いつもは同じ掃除班の友理奈と帰るんだけど〜今日は千奈美と新しいクレープ屋が出来たとか何とか言ってダッシュで帰ってしまった。
「清水・・・大丈夫だよ、今日はグッスリ寝れるって」 俺は心配そうに清水を見た。
「うん・・・明日は元気な・・・いつもの私に戻ってると思うから」 そう言って無理に笑顔を作ってた。
きっと清水は明日も目が覚めても、俺と須藤に学校では『グッスリ寝れたよ♪』って言って、心配を掛けないようにするんだろう・・・
清水を何とか助けたいけど・・・
清水がわざと楽しい話ばかりするのが逆に寂しかった。

突然! 後ろからハイスピードで俺と清水を追い越した自転車が『キキーッ!』と目の前で止まった。
(!?!?) ボーゼンとする俺と清水
夕日をバッグに、まぶしくて見えなかった自転車に乗ってる人物が喋り出した。
「お待たせ!ワトスン君!」 そして『ニヤッ!』と笑った。 
「ホームズ・・・じゃなくて、須藤・・・」 俺が呆気に取られながら言う。
そして、自転車から降りると俺に向かって言った。
「君、自転車で今から『ある所』に向かいなさい!」 須藤は淡々と話す
「はっ!?何で!?」 当然、俺の発言は却下・・・と言うかシカト。 今度は清水を見た。
「佐紀ちゃんは後ろに乗りなさい! これを俗に『二人乗り』と言う」 須藤が自信満々に言う。
「えっ・・・ど、どうして!?」 清水が戸惑いながら言うと須藤がゆっくりと話し出した。
「この先に、新しいクレープ屋が出来ました。 そろそろ売切れそうなんだけど・・・私は既に買っちゃって!!」
「・・・えっ!?」 俺と清水が声をそろえて言う。
「あそこの店、チェックがきつくて〜1人1回で2個までなの! だから、君と佐紀ちゃんで4個買ってきて♪」 
そう言って須藤はウインクをした。
「なるほど・・・学校帰りの自転車!さらに2人乗りの買い食いと来たか!!」 俺が須藤に向かって言う。
俺は須藤から自転車を借りると清水に向かって言う
「早く!売り切れる前に行かないと!」 清水は戸惑っていた。
「でも・・・キャッ!」 
そんな清水を須藤は後ろから抱き抱えてステップに足が来るように乗せた。 立ち乗り状態!
「あっ・・・えっ・・!?」 と、戸惑ってる清水を無視して須藤が俺に
「さぁ!栄光のクレープ屋へ!! ワトスン君!GO!」 と、俺に向かって言う。
俺はその言葉と同時に『よし来た!』と言って、自転車を走らせた。
こうなっては清水は何も言えずに俺の背中に抱きついていた。

「・・・こんなことしちゃって・・・いいのかな?」 後ろから俺に抱き付いてる清水が言う。
「ん〜・・・メチャクチャ校則違反だし〜親にばれたら小遣いカットだね」 と、俺が笑いながら言う。
「・・・も〜無理やりだよ〜」 と清水はため息まじりに言った後に
「でも、今・・・すっごく『ドキドキ』してるんだ・・・」 そう言って俺を背中から、さらに強く抱しめた。
俺と清水は風を感じながらクレープ屋に向かった。
あと500M・・・200M・・・その角を曲がれば、新装開店のクレープ屋!
角を曲がってクレープ屋の前で自転車を止める。

『クレープ屋に到着!!!!』

そして店の前を見ると、すっごい行列ができてた。
(・・・これじゃ、買う前に売り切れちゃうな) 
俺は店の行列をジーッと見てから〜『あれっ?』 と、思って店の前に置いてある椅子に視線を合わせた。
椅子には千奈美と友理奈が座って俺達を笑顔で見ていた。
「あれ!?千奈美に・・・友理奈?」 俺と清水がポカーンとして2人を見た。
2人は俺達に近づくと、食べてるのと反対の手に持っていた2つのクレープを俺と清水にそれぞれ差し出した。
「茉麻ちゃんから話は聞いてるよ。 はい!『2人の分の』クレープ」 千奈美はそう言って俺にクレープを渡した。
「ブランコが2つある公園で茉麻ちゃんが待ってるみたいだから、『ゆ〜っくりクレープを食べながら自転車を返しに来てください』との伝言だよ」
そう言って友理奈は清水にクレープを渡した。
俺と清水はクレープを持ったままポカーンとした

(さすがに、そこまでは読めなかったよ・・・ホームズ)
心の中で思って、俺はちょっと笑った。

「クレープ美味しいね♪」 後ろに乗ってる清水が俺に向かって言う。
「ちゃんと片手でも、しっかりつかまってないと落ちるぞ〜」 俺の発言に
「じゃあ、君もちゃんと片手で運転してね」 そう言って笑った。
清水はクレープをスグに食べ終わると俺に『ギュッ!』と、また抱きついて
「君のクレープを私が持ってあげて、後ろから食べさせてあげる! だから運転に集中して!」
俺は言われる通りに清水にクレープを渡すと・・・また、片手で抱きつき清水はクレープを食べ出した。
「もしも〜し? 俺の口にクレープが来ないんですけど」 そう言う俺に
「甘い物は女の子の特権だもん♪」 そう言って清水は『ギュッ!』と、強く抱きついた
「桃子理論・・・恐るべし・・・」 そう言った時に、清水の持ってるクレープは俺の口の中に入った。
「ねぇ・・・間接キスも・・・校則違反かな?」 清水が少し小さい声で言った。
「えっ?そんなこと言ったらジュースの回し飲みも出来ないじゃん」 俺が普通に答えると。
「君は・・・相変わらずだね・・・」 そう言って清水はおでこを俺の背中に付けた。

次の日の朝

俺が家を出ると、家の前に清水が笑顔で立っていた。
「あれ?清水・・・おはよう」 俺がポカーンとした感じで言うと
「あのね! 今朝はちゃんと7時に普通に起きたの!」 清水は目をキラキラしながら言った。
「えっ!?本当に!! やったじゃん!」 俺も笑顔で清水に言った。
「君と茉麻ちゃんには大感謝だよ! あっ!茉麻ちゃんにも、お礼を言わなきゃ!」 そう言って清水は走って学校に向かった。
「・・・朝から忙しいなぁ。 でも、グッスリ眠れたみたいだし良かったな〜」 俺が1人で呟いた。
「朝から独り言とは・・・君、性格が実は暗いの!?」 横から聞こえた声に俺は驚く!
「うわっ!!! って、突然驚かすなよ!」 俺の隣には知らないうちに須藤が立っていた。
「隙が多いね〜君。 まだまだ甘い甘い」 そう言って俺を見て笑った。

俺と須藤は一緒に学校に向かって歩いていた。
「それにしても『ファイポ』は初めての仕事で大成功だったね」 俺の発言に
「君・・・5年生にもなって探偵ゴッコって・・・  『ファイポ』なんて子供っぽいのはもう解散だよ」 そう言って、俺を見て笑った。
「はぁ〜!? 何でだよ〜!! 結構、俺は気に入ったのに〜」 俺がちょっと膨れっ面になる。
「フフッ 私も実は好きなんだけど〜助手があまり役に立たないからね〜少し休業かな」 そう言って優しく笑った。
「・・・そりゃ〜俺は、あんまり役に立たなかったけどさ〜・・・」 俺がさらに膨れる。

校門の前で突然、須藤が立ち止まった。 俺も『ん?』 と、思って立ち止まり須藤を見た。
「ワトスン君、今回の事件の最後の質問だ・・・これがわかれば『ファイポ』は復活するだろう」 そう言って俺の顔を笑って見た。
「よし!ホームズ! どんと来い!」 俺も須藤を笑って見た。
「では・・・今回の『清水佐紀の睡眠不足事件』において、最高のクスリになったのは何だったと思う?」 
須藤が俺の顔をジーッと見た。
「えっ・・・だから、校則違反をしたからでしょ?」 俺の発言を聞いてから『ジーッ』と、俺の顔を見て
「やっぱり、『ファイポ』は少しの間は休業だね〜」 そう言って『クスッ』 と笑ってから歩きだした。
「えっ・・・違うの!? じゃ〜何がクスリだったんだよ!?」 俺が須藤の後を走って追いかける。

5年1組のクラスの窓から清水が『早くしないと2人とも遅刻だよ〜!』 と大声で俺達に向かって叫んでた。

【オマケ】

教室に入ると、清水が俺と須藤の所に走って来た。
「茉麻ちゃん!私、グッスリ寝れたよ! 本当にありがとう」 清水は笑顔で言った。
そんな清水を笑顔で見た須藤は・・・ちょっと意地悪な笑いをして俺に耳打ちした。
不思議そうに、そんな俺と須藤の様子を見てる清水
(何でそんな事?)そう思いながら俺は、意味がわからなかったけど須藤に言われた通りに言う。

「また2人きりでクレープ食べながら帰りたいな・・・佐紀! もちろんクレープは1個で」

俺が言った瞬間に、清水の顔が一気に赤くなって・・・
「あ、あの時は・・・無理やり自転車が動いたかのですので・・・抱きついたのは好きとかじゃあって・・・」
「え〜!? 佐紀ちゃんって、彼に抱きついたの? それに〜『好き』がどうしたって??」
須藤はニヤニヤしてる。
「だから〜!? 好きってのはクレープの味が・・・それに〜間接・・・キス・・・キスキス・・・キヤ〜!!」

・・・清水は、走って教室を出てしまった。
俺は、何が何だかよくわからないで『ポカーン』と、そんな清水を見てた。
「また寝れなくなっちゃったりして〜」 そう言って須藤は『クスッ!』と笑った。


言うまでもなく、そのまま30分は清水は戻って来なかった。
「初めから、こうやってれば遅刻になって校則違反できたね〜」
そう言った須藤と、俺は少し顔を見合わせてから笑った。

 

4:名前:〜私とあなたとあなた〜 【U】 [] 投稿日:05/02/04(金) 23:08:56

朝 
今日も家から学校へ向かう。
未だに外の風は冷たく、学校へ行く気が失せていく・・・
「う〜ん・・・家で10時くらいまで寝てたいなぁ・・・」 そんな独り言を『ボソッ』っと。
すると、背中を『バシッ!』と1発!!
「学校休んじゃったら、今日は髪型バッチリの桃子に会えないぞ〜♪」 そう言って、桃子は俺の前に立った。
「あっ・・・桃子! おはよう。 最近、良く朝の登校で会うな〜」 俺が桃子に言う。
「う〜ん偶然? それとも桃子と会いたくて、君が狙ってたりして〜」 そう言って桃子は『ニコッ♪』と笑った。
そんな会話をしていると、さらに後ろから小さい声で何か聞こえた。
「・・・ってか、桃ちゃんが逆に待ち伏せしてるんじゃん」 
振り向くと、そこには石村が立っていた。
「あっ・・・石村もおはよう。 今、何て言ったの?」 俺が聞き取れず、石村に質問したけど〜
「あれ〜!?舞波もおはよっ! 今日も一緒だね〜! 舞波も桃子と一緒に学校行きたかったんでしょ〜♪」 
そう言って、桃子は俺の発言を流した。
「あ〜!!石村も最近よく会うな〜!」 俺が石村を見て言った。
「・・・舞波、低血圧なんだけど・・・これで3日連続・・・」 と、意味のわからない発言。
俺が(???)と、思いながら石村をボーッと見ていたら、腕に桃子がしがみついてきた。
「急がないと遅刻しちゃうから〜歩きながら3人で仲良く学校に行こうね〜♪」

俺と桃子が色々と話をしながら歩いている後を、石村が眠たそうな顔でボーッと、ついてきてた。

次の日の朝 
相変わらず、家から外に出た瞬間に『家で寝てたい病』にかかる。
昨日と同じなら、ここで桃子の『バシッ!』と1発が来るんだけど〜その記録も5回目で止まった。
(う〜ん・・・そう偶然は何ども起こらないか〜) 少し寂しく感じながら歩き出そうとした。
「おはよ〜・・・」 後ろから聞こえた声に振り返る。
「あ・・・おはよう。」 俺は、眠たそうにしてる石村に言った。

「今日は桃子とはタイミング良く会わなかったなぁ・・・」 石村と学校に向かいながら俺が言った。
「桃ちゃん、今日は先に学校に行くって電話あったよ。 だから舞波だけでも・・・って」 石村が眠そうに答える。
「えっ?電話?」 俺が不思議そうに石村に聞き返すと
「あっ・・・え〜っと・・・朝に数学の宿題についての内容で電話があって、今日は偶然会わないね〜 って・・・」 
少し、石村は焦ってる風に見えた。
「ふ〜ん・・・そっかぁ」 俺は普通に返事をした。

「そう言えば、石村と桃子って仲いいよな〜」 俺が石村に言った。
「ふぇ? 桃ちゃんと? 仲いいよ〜・・・」 相変わらず、石村は眠そうだった。
「ずっと同じクラスだったとか?」 そう言うと、石村は小さくうなずいた。
「そっか〜・・・それにしても、石村に用具室に突然閉じ込められた時は驚いたなぁ・・・」 
そう言って石村を見たけど・・・目を閉じて半寝状態だった。
「いや〜・・・あの時は、本当に突然だったし驚いたなぁ!」 少し声を大きくした。
・・・石村は全く目を開けない。
「寝ながら歩いてると危ないよな〜!」 さらに大きい声で言う。
「・・・別に寝てないもん。 ちゃんと聞いてるよ」 石村は『も〜っ』 って、感じで俺を見た。
「あの時は桃ちゃんの夢を叶えたかったから・・・」 そう言って、石村はジーッと前を見てた。
「わかってるよ」 そう言った俺に、石村が俺の方を見て言った。
「本当にわかってる? 君は多分、本当の桃ちゃんを知らないと思うよ・・・」
「えっ?本当の桃子?」 俺が石村に聞き返す。
「そう。 本当の桃ちゃん・・・君は、桃ちゃんをどんな性格だと思ってるの?」 石村の目は真剣な物に変わってた。
「桃子は〜・・・元気で〜いつも明るくて、誰にでも気がね無く接して〜笑顔が可愛い〜強い女の子 って、所かな?」
俺が笑顔で石村に言った・・・けど、石村は『やっぱり・・・』 と、小さくため息をついた。
「えっ!?何で? 桃子って、そ〜ゆ〜子だろ?」 俺の質問を無視して、数秒後に
「そろそろ、予鈴が鳴りそうだから急ごう」 と言って、石村は走り出した。

教室に入ると、桃子は石村の言う通りに先に来てたみたいで、自分の席に座ってた。
俺は桃子の席に行き、桃子に声を掛けた。
「おはよっ! 今日は偶然会わなかっ・・・」 桃子は『ボーッ』と、黒板を見つめていた。
その姿をジーッと俺は見てた。 1分くらして、桃子が『ハッ!』 として俺の方を見た。
「あれ〜!? もう、居たなら挨拶してよ〜! おはよっ♪ 」 そう言って、笑顔で俺の腕をバンバン叩いた。
「いや、挨拶したんだけど〜桃子が気付かなかったみたいで『ボケーッ』としてたから〜」 そう言って桃子を見た。
「それは私も、華もうらやむ11歳ですから。 色々と悩み多き年頃なんですよ〜」 そう言って、俺にウインクした。
「そっか、それならいいんだけどさっ・・・」 そう言って、俺は桃子に笑顔を見せた。
「それより〜! 今日は桃と一緒じゃなくて寂しかった? それとも舞波に浮気とか〜!!」

そんな俺と桃子の会話を、遠くから石村は心配そうな顔をして見ていた。

「今日の桃ちゃん、何か凄い元気だね〜」
休み時間に、俺の席の近くに来た千奈美が言った。
「・・・本当に、今日は元気いっぱいだな〜・・・」 俺は、桃子を見ながら言った。
桃子は、男子と学校では禁止のトランプをやっていた。
と言っても、『負けた人は給食のデザート、桃子にプレゼントだからね〜♪』 と言って、自分は参加してなかったけど。
「桃ちゃん見てると、本当にこっちも元気になるね〜」 千奈美が笑いながら言う。
「・・・うん」 俺は、ボーッと桃子を見てた。
「どうしたの? 元気無いみたいだけど〜・・・君も桃ちゃんに元気を貰ってきたら?」 千奈美は俺の方を見て言った。
「・・・うん」 俺は、千奈美に元気無く返事をした。

昼休み
グラウンドを見ると、桃子は男子に混じってドッヂボールをしてた。
ぶつけられた桃子が『今の無し〜♪』 と、ウインク付きの裏技を使ってた。
そんな桃子を、俺は窓からジーッと見てると・・・俺の横に石村が来た。 
石村も窓から外の光景を見てた。
「なぁ・・・石村・・・」 俺の質問に『・・・どうしたの?』 と、少し元気の無さそうな声で返事が来た。
「何で、今日の桃子は元気無いの?」 
俺の質問に『バッ!』と、石村は俺の方を見た。
「えっ!? 君・・・気付いたの!?」 石村が俺を驚いたように見た。
「すぐ気付いた。 今日の桃子はいつもと違うよ・・・無理して元気にしてる」 そう言って、俺も石村を見た。
『ジーッ』と、俺を石村は見てから・・・またグラウンドの方に目をやって
「朝、君は桃ちゃんの事を全然見てないと思ってたけど・・・ちゃんと、桃ちゃんの事を見てたんだ」 と、小さい声で言った。
「桃子は元気な時もあるし、たまに元気が無い時がある・・・俺は、そんな時はあえて気付かないようにしてる・・・」 
俺も外を見て・・・話を続けた
「石村は知ってるんだろ? 桃子が元気が無い理由。 俺、桃子は大切な友達だから・・・力になりたいんだ!!」
そう言って石村の腕を掴んだ。
そんな俺を、真剣な顔をして石村が言った。
「放課後に・・・グラウンドにある鉄棒の前で待ってて・・・」 そう言って、石村は教室を出て行った。

放課後のグラウンド
俺は、帰りの会が終ってからスグに鉄棒の前に行った。
石村が数分遅れて来た。
「よっ! 待ってたよ・・・って、何か告白みたいだなぁ」 笑って言った俺に
「・・・バカッ」 と、少し睨んで石村が小さく言った。 そして、石村は芝生の上に座った。
「・・・ジョーダンだよ」 そう言って、俺が少し膨れっ面になって石村の隣に座った。
俺と石村は、2人で体育座りの状態でグラウンドでサッカーをやってる生徒を見てた。
「で? 桃子が元気の無い理由は?」 俺が石村の方を見た。
「舞波・・・」 石村はグラウンドを見つめたまま話し出した。
「2年くらい前まで、桃ちゃんとそんなに仲良いって訳でも無かったんだ・・・」
「えっ!? そうなの!?」 普通に俺は驚いてしまった。 
桃子と石村は本当に仲良くて、いつも一緒にいる感覚があったからだ。 
「舞波が、引っ込み思案な性格だったから・・・桃ちゃんとは逆だったのもあったし・・・」
俺は黙って石村の話を聞いていた。
「そんな時・・・あの事件が起こったの」 石村は切なそうな声で言った。

「舞波、3年生の時にクラスに好きな人がいて・・・勇気を振り絞って放課後に告白したことがあるの・・・」
「返事は?」 俺の質問に石村は首を横に振った。
「そしたら、次の日に教室に行ったら黒板に舞波の告白の言葉が書いてあって・・・クラス中に広まってた」
「はぁ!? 何だよそれ! 最低だな・・・そいつ・・・」 俺は、石村の話を聞いて本当に腹が立った。
「それで〜・・・男子にちゃかされて・・・泣いちゃって・・・他の女子は舞波を慰めてくれて・・・朝からクラスは大騒ぎ・・・」
石村は少し辛そうだったけど、話を続けた。
「突然『バシッ!』って、音がしたの。 クラス中が『シーン』となって音の方を見たら・・・桃ちゃんが、その男の子を引っ叩いてた。」
「えっ!?桃子が!?」 石村は小さくうなずく。
「それで、『君だって、2年生の時に桃子に告白してフラれたじゃない! あの時ふって正解だった! 人の気持ちを考えないで傷つける人って、やっぱり大っ嫌い!』 ・・・そう言ってその男子を睨んでた」
(桃子・・・すごいなぁ・・) そんな事を思いながら、石村の話の続きを聞いた。
「その後『シーン』となった教室を、スタスタと舞波の前に来た桃ちゃんが『舞波、保健室行こっ♪』って、笑顔で舞波の手を掴んだの」
「・・・桃子って、そんなに強くて優しい子だったんだ」 俺がそう言うと・・・石村は俺の頬を叩いた。
「勝手にそんな事言わないで!!」 石村の顔は本当に怒ってた。
「えっ!?」 俺がボーッとしてると・・・ 自分の行動に『ハッ!』 とした石村が
「あっ・・・ごめんなさい!!  突然・・・あの・・・」 と、あたふたとしだした。
「石村・・・ど、どうして???」 俺が石村を見て言った。
石村は体育座りの状態で、頭を下に向けて顔を隠して・・・話し出した
「叩いて・・・ごめんね。 でも、桃ちゃんは・・・本当の桃ちゃんは・・・違うの・・・」

石村は泣いていた。

「桃ちゃんが・・・元気で明るくてハチャメチャで、強い子だって・・・皆は言うけど・・・それは違うの・・・」 
石村は涙声のまま、話を続けた。
「舞波の手を取って・・・廊下を出て・・・桃ちゃんは保健室じゃなくて、すぐに舞波を連れてトイレの個室に入ったの。」
「保健室じゃなくてトイレ?」
「桃ちゃん・・・突然、声を殺して泣き出して・・・舞波に抱きついてきた・・・」
「えっ?桃子が何で泣き出すの?」 俺が石村に聞く
「桃ちゃんは本当に優しい子で・・・でも、すっごく心が弱い子なの・・・」
石村の発言に俺は『えっ!?』 と、普通に反応して声が出てしまった。
「人を傷つけたりするのが嫌いなんだって・・・あの時も舞波のためって理由だけど・・・『1度ふって傷つけた子を、また傷つけちゃった・・・』って」
石村は顔を上げると、さっき叩いた俺の頬をそっとなでながら言った。
「痛かったよね・・・ゴメンね。 でも、舞波は桃ちゃんを守るって、その時に決めたの・・・君には、本当の桃ちゃんを知って欲しいの」 
石村は泣き顔のままだった。
「いや・・・俺も、桃子がそんな子だったとか知らなくて・・・あんなに、いつも学校で元気だったから」
「桃ちゃん、自分が元気なキャラだとクラスも明るくなるって・・・それに・・・」 石村が一呼吸置いてから話す。
「それに・・・舞波は本当の桃ちゃんを知ってるから。 桃ちゃん、あの日に見せた涙と言葉を嘘にしようとしてるんだよ・・・舞波に心配させないように」 
「桃子・・・」 俺は桃子の何もわかってなかった。
そして俺自信も、いつも桃子の笑顔に元気づけられていたことに・・・
「桃ちゃんが・・・元気が無い日・・・そんな日は必ずここで会う事になってる・・・舞波と桃ちゃんの約束・・・」

校舎の方から、下を向いてて俺に気づかないで・・・桃子が鉄棒の前に向かって歩いて来てた。

「桃ちゃん!」 石村の声に、桃子が俺達から50Mくらい前で顔を上げた。
「あれ・・・何で君がいるの?」 桃子は少し、不思議そうに俺を見た。
「桃子・・・」 俺が心配そうに桃子を見た。 そんな俺に桃子は走って近づいて
「も〜! ちょっと何〜!? 2人で本当にラブラブしてたんでしょ!! キャ〜♪」 と笑顔で言った。
「桃ちゃん・・・無理しなくていいよ。 彼、桃ちゃんが元気が無かったのに気づいてた・・・」 
石村の言葉に、桃子は少し俺を見つめて
「そっか・・・まだまだ桃子は修行が足りなかったかな」 そう言って、少し寂しそうに笑った。
「桃子・・・何で今日は・・・ってか、元気が無い日が桃子は・・・たまにあるけど・・・」 俺は心配そうに言った。
桃子は下を見たまま黙っていた。  
石村が代わりに話し出した。
「これから桃ちゃん、告白されるの・・・ 元気が無い日は桃ちゃんが告白される日・・・」 石村は寂しそうに言った。
桃子は顔を上げて、無理に顔を笑顔にして
「仲のいい男友達って・・・桃子は思ってたんだけどね・・・ 人気者は辛いね・・・でも、本当に辛いのは・・・これから断られる相手〜」 
そう言いかけた桃子を俺は抱きしめた。
「1番辛いのは桃子なんだろ!! 相手の奴だって辛いかもしれないけど、桃子がこんなに相手の奴を思って断るんだから・・・桃子は悲しまなくていいよ」
俺の胸の中で桃子は泣きながら言う
「でも・・・やっぱり辛いよ・・・私、本当に嫌な奴だよ。本当に自分が大っ嫌い・・・」 そんな桃子の頭をなでて俺が言う。
「俺は、そんな優しい桃子が大好きだよ。 桃子は本当に・・・優しすぎるよ・・・」 俺の言葉に、桃子が小さく首を横に振って・・・
桃子は少しの間、俺の胸の中で泣いてた・・・

「それじゃ・・・ちょっと、行って来るね」 桃子は少し笑顔で俺と石村を見た。
「おう! 終わるまで〜ここで待ってるから」 俺は笑顔で桃子に返す。
「帰りに、桃ちゃんの好きなクレープ屋が待ってるからね!」 石村も笑顔で返す。
桃子は、『クスッ!』と笑ってから、走って行ってしまった。

「君に話して良かった・・・桃ちゃん、いつも行く時と違うもん」 石村は少し嬉しそうに言った。
「そっか・・・少しでも桃子の気持ちが軽くなったら良かった」 俺も嬉しそうな声になった。
「・・・桃ちゃん、本当に弱い子でね〜」 石村は少し『クスクス』と、思い出し笑いをした。
「えっ?何?」 そう言った俺の目を見ながら、石村が言う。
「君と、体育館の用具室でキスした後で・・・『嫌われたどうしよう・・・桃子ってバカだぁ〜!!』って悩んでて、ずっと舞波に相談してたんだよ」
「えっ!?石村・・・俺と桃子のキスの事・・・知ってたの?」 俺が、少し顔を赤くして言った。
「言ったでしょ! 桃ちゃんは舞波が守るって! 桃ちゃんは舞波には何でも打ち明けてくれる・・・舞波は、そんな桃ちゃんが大好き♪」 石村は笑顔だった。
「そっか〜・・・俺は、あのキスは〜・・・チョット嬉しかったんだよな〜」 と、言ってから
「石村! これ、絶対に桃子に内緒だからな」 と、笑顔で言った。
石村は少し下を向いてから・・・
「でも、ちょっと桃ちゃんとライバルになりそうなんだよな〜・・・」 と俺を『ジーッ』と、見てた。
「ん?ライバル?」 俺が聞き返したが、石村は『さて、何の話でしたっけ〜?』と、流した。

桃子は10分くらいして戻って来た。
「どうだった?」 石村が心配そうに桃子を見た。
「うんっ。 大丈夫!! 2人に行く前に『笑顔』で勇気を貰ったからね!」 そう言って、桃子はいつもの笑顔を見せた。
「それじゃ、クレープ屋に行こっか。 今日は彼のおごりみたいだし〜」 と石村が『ニヤッ』と、俺を見た。
「えぇ〜!? ・・・まぁ、いいけどさ〜今日は俺のおごりで!!」 俺は笑顔で2人を見た。
桃子と石村が『やったね♪』 と、手を叩き合って喜んでた。

桃子はいつもの元気な桃子に戻ってた・・・でも、やっぱり少し心を痛めてるんだろうな・・・
俺は、今度からも石村と一緒に『桃子が元気が無い日』には、この鉄棒の前にいようと思う。
(俺は桃子の笑顔が本当に好きなんだな・・・) そう思って、嬉しそうにはしゃいでる桃子を見ていた。
そんな俺に気付いた桃子は、俺の方を見て『ニコッ』と、笑って言う。
「そんなに桃子ばっかり見つめてて、好きになっちゃっても知らないからね〜♪」

・・・ちょっと心を読まれた気がして、俺は反対の方を向いて・・・落ちそうな夕日を見てた。

【オマケ】

「・・・そう言えば、桃子自信は好きな奴とかいないの!? こんなに人気あるんだし・・・」
俺が言うと、桃子はジーッと俺を見つめてから・・・
「好きな人は、ちゃんといるんだけどね〜」と言ってから・・・突然、目の前にあった鉄棒で逆上がりをした。
「えっ!?」 俺と石村が同時に声を揃えて驚く。

桃子が俺の前に来て言う。
「何色だった?」
「・・・ピンク・・・って、えっ!?」 突然の事に焦って、あたふたする俺に
「エッチ♪ これでクレープ2個、頂きかな♪」 そう言ってから
「今日は本当にありがとう♪」 そう言って少し恥ずかしそうにして・・・俺の頬にキスをして校門の方へ走って行った。

「・・・桃ちゃんがライバルで、それでいて・・・雅ちゃん、千奈美ちゃんよりも強敵かも・・・」 
石村もポーカンとして桃子の後姿につぶやいた。

「ほら〜!2人共、おいてくよ〜!」 
振り返って、叫んだ桃子のチェックのスカートが夕日でオレンジ色に染まって、なびいていた。

 

5:名前:〜私とあなたとあなた〜 【V】 [] 投稿日:05/02/06(日) 22:29:48

「それしても・・・結構狭いね」 俺が周りを見渡しながら言った。
「梨沙子、狭いところって結構苦手なんだけど〜・・・」 菅谷は少し不満そうに言った。
そんな俺と菅谷に向かって
「仕方ないでしょ!こ〜ゆ〜所なんだから!」 友理奈は少し怒り気味に言った。
3つの椅子に縮こまった状態で3人は座っていた。
「まぁ・・・あと、20分間くらいだし〜 話をしながら待とうよ」 俺は菅谷と友理奈を見て言った。
その話を聞いて友理奈が
「それじゃ〜恋愛の話なんてどうでしょ!?」 『ニヤッ』と、笑いながら言った。
「え〜っ・・・恋愛の話!?」 俺は少し不満な顔をした。
「梨沙子も・・・あんまり話すこと無いよ」 菅谷も嫌そうな顔をした。
そうすると、友理奈は俺の方を見て言った。
「例えば〜君と雅ちゃんのデートについてとかは〜?」 そう言って、笑って俺を見た。
「・・・そんな、普通に八景島で遊んだだけだよ。 特に何も・・・・」
「ダメ〜!絶対に何か隠してるでしょ!? 詳しく聞きたいな〜!!」 友理奈は興味深々だ。
「・・・梨沙子も、八景島のデートについて『詳しく』聞かせて欲しい!!」
トゲのある声に菅谷の方を振り向くと、予想通り菅谷は俺を睨んでた。

「別に、本当に普通だって!!」 俺がちょっと強めに言った。
そうすると、友理奈は初めから恐ろしい質問をしてきた。
「ねぇ?キスはしたの!? やっぱり別れぎわとか!?」 ・・・菅谷の目がさらに睨んでる。
「別に・・・デートでキスはしてないよ」 俺は普通に言った。
「・・・それって、デート以外ではしてるみたいなんですけど〜」 菅谷が突っ込んでくる。
「えっ!? 本当に? もうしてるの?」 友理奈が驚いたように言った。
「いや、八景島デートは途中で俺が熱出しちゃって中止になっちゃったし〜・・・」 と、必死に言う。
「デートの後は!? その後は? みーやと一緒だったの!? どっち!!」 菅谷がガンガン攻撃してくる。 
「・・・その話はいいから、別の話しようよ」 俺は話を逸らそうとした。
「本当に、みーやとキスしたんだ!! 付き合っても無いのに!! 何でキスするの!?」 菅谷が怒りながら言った。
「だから、何でキスの話になるんだよ! それに、そんな事は別に〜・・・」 俺も菅谷に負けずに強い口調で言い返す。
「もしかして・・・実は、みーやと付き合ってるとか!?」 菅谷は真剣な顔をして俺を見た。
「いや、本当に付き合ってないから!!」 言い返すのも辛くなってきた・・・

(とにかく話題を変えなきゃ!) 俺は、必死に考えてた。

俺と菅谷が『あ〜だこ〜だ』言い合ってる最中・・・その光景をボーッと見ていた友理奈が突然言い出した。
「ちょっと待って!! 千奈美ちゃんはどうするの!? 君、本当は千奈美ちゃんが好きなんでしょ!?」 友理奈はちょい怒り気味。
「えっ・・・なっ、何で俺が千奈美を好きとか・・・別に〜千奈美は〜・・・」 アタフタしながら言ってると
「君・・・幼馴染に弱いの?」 菅谷が『ジーッ』と、俺を見ながら言った。
「千奈美ちゃんは幼馴染だけど〜雅ちゃんは違うじゃん!」 友理奈が菅谷に言ったと同時に
「違うよ〜! 彼と梨沙子とみーや、千奈美ちゃんに隣のクラスの愛理ちゃんは幼馴染なんだよ」 と、笑顔で友理奈に言い返す。
「えっ!?菅谷・・・俺と幼馴染だった事、覚えてたの?」 俺がビックリして言うと
「・・・ってか、普通は覚えてるものなんですけど〜・・・ 忘れるのは君くらいだよ・・・」 と、険しい顔。
「え〜! 君だけ忘れたんだ〜! 相変わらずと言うか〜・・・アハハッ」 と友理奈は大笑い。
そして、菅谷は『スラーッ』と、とんでもない事を言ってしまった。
「誕生日の時に、千奈美ちゃんと結婚の約束して、みーやのファーストキス奪っちゃったのも、ちゃんと知ってるよ! 愛理ちゃんに聞いたもん!!」 

・・・菅谷は自慢気に言ってるけど、俺と友理奈は『・・・・・・』 と、唖然として菅谷を見てた。

「それ・・・本当の話?」 友理奈が菅谷に驚いた表情のまま質問。
「本当の話だよ〜! 5歳の時かな?」 と菅谷は笑顔で言う。
(・・・何で、このタイミングで言うかな・・・) 俺は「はぁ・・・」と、ため息を1つ。
「へ〜・・・そんな事があったんだ。 その話は千奈美ちゃんから聞いた事なかったな・・・それに〜雅ちゃんがファーストキスの相手なんだ。」
俺が、ちょっと『ガックリ』してると、友理奈は『クスッ♪』と、笑って〜俺の頭をなでながら言う。
「小さい時の話だもんね。 大丈夫だよ! 私、誰にも言わないし千奈美ちゃんにも知らないフリでいるから」
そう言ってから、今度は菅谷に
「梨沙子ちゃんも、この話は幼馴染同士の大切な秘密の話なんだから、他の人に言ったらダメだよ!」 笑顔で言う。
「了解〜♪」 と、菅谷は可愛い笑顔で答えた。 
俺は、その笑顔を見て『イタズラ好きな天使』と菅谷に俺だけのあだ名を付けた・・・いや、小悪魔?
そんな事を考えてると〜突然、 友理奈は〜俺の頭を、なでてる状態からヘッドロックと言うか『ギューッ』と、してきて
「で〜、プロポーズをOK!したって事は千奈美ちゃん?それともキスしたから雅ちゃん? どっちが好きだったの?」
(・・・友理奈の胸が・・・そんなに無いけど・・・苦しい・・・) 
俺は、何とか友理奈の胸から抜け出して必死になって言い返す。
「まてよ! 俺ばっかり話してるじゃん!! 友理奈と菅谷はどうなんだよ!?」 
俺が言うと『えっ!』と、驚いてから『え〜と〜・・・う〜ん〜・・・』
顔を少し赤くして、目を逸らす友理奈。

俺は(逃がすかっ!)と、『ジーッ』と友理奈を見続けていると
「梨沙子、好きな人なんていないもん!」 と菅谷が話に入ってきた。
「え〜!?全然いないの?」 友理奈が言った。
「全然!」 菅谷はキッパリうなずく。
「告白された事は〜何回かあるの?」 と友理奈が質問。
「告白は無いと思う。 でも、放課後に呼び出されたり〜手紙が下駄箱に入ってたり。それなら何回か・・・」 
そんな話を淡々と話す菅谷・・・
「それが告白だろ・・・ で〜?今まで何回くらい?」 俺が聞いてみると
「う〜ん・・・小学校入ってからなら〜・・・20回くらいはあると思う〜」 と、言ってから
「でも、みーやと帰りたいから『放課後に話が〜』とか言われても断わるし、手紙も読んで『付き合う気ないよ』って、ちゃんと本人に笑顔で言ったりしてるよ」
「・・・絶対に、何か接点がズレてると思う・・・」 と、友理奈がため息。
「友理奈ちゃんは告白されたことは〜何回くらいあるの!?」 と、菅谷が言った。
「え〜・・・私も普通に、同じで20回くらいかな? でも、全部〜断っちゃった」 と言って、菅谷と友理奈はお互いに見つめ合いながら笑ってた。

・・・20回が普通って
俺は(友理奈もズレてるだろ・・・)と、心で突っ込みを入れておいた。

「でも・・・好きな男子の1人もいないなんて〜」 と、友理奈が菅谷を見て言った。
「う〜ん・・・男子と付き合うなら、みーやと遊んでた方が楽しいもん!」 と、笑顔で答える菅谷
「そっか。 雅ちゃんと仲良しだもんね! でも、男子に人気あるのに〜・・・」 と、友理奈。
「う〜ん、菅谷は可愛いし本当に男子の人気もあるのにな〜」 
俺が言うと、菅谷は俺の方を見て『ニコッ♪』と、笑い
「前に、みーやより、桃ちゃんより、友理奈ちゃんより私の方が可愛い〜って、言ってくれたもんね〜♪」 と言った。
その発言に
「ふ〜ん・・・そんな事を言ったんだ・・・」 と、俺に友理奈の冷たい視線が・・・ よくわからないけど、軽く逆鱗に触れたみたいだ・・・
「あ〜・・・言ったかな〜? ハハハ・・・」
俺が友理奈の顔を見て笑いながら言ったけど
「ちゃんと言ったよ! 梨沙子が1番可愛いって♪」 菅谷はニコニコして言った。
「・・・そっか! 良かったね! 梨沙子ちゃん」 と、菅谷に笑顔で返してたけど・・・
何となく、友理奈の冷たい気配を感じた・・・
(・・・何で怒ってるのかな・・・まずいな〜) と、俺は思って菅谷に話題をさらにふった。

「でっ、でも〜気になる奴くらいはいるんだろ!? ほら、何か・・・あいつ見てると気持ちが〜 とか」 
俺の質問に『んとね〜』 と、少し考えてから『ハッ!』とした表情になって・・・ちょっと寂しそうな顔になった。
「ちょっと・・・最近・・・困った事ならあるかな・・・」 と、言った。
「ん?悩み事?」 俺が菅谷を心配そうに見た。
「どうしたの? 梨沙子ちゃんが悩みあるなら私達が聞くよ? 誰にも言わないし・・・」 友理奈も心配そうに見てる。
菅谷が、そんな俺達を見て・・・少し心配そうな表情で話しだした。
「最近ね・・・君がみーやと一緒にいるのが嫌なの・・・ みーやだけじゃなくて、桃ちゃんとか、千奈美ちゃんとか、友理奈ちゃんも・・・」
梨沙子は真剣な顔をして話を続ける。
「君が何か、他の子と一緒にいると・・・気持ちが『ドキドキ』するって言うか〜何か嫌なの・・・」 そう言って、俺と友理奈を見た。
「そ、それって・・・」 俺と友理奈が同時に言った。
「それって! 俺のことが、そんなに菅谷は嫌いなの? 俺は菅谷にそんなに嫌われてたとは・・・」 俺は凹んだ。
「そうなのかな? 梨沙子は君が嫌いなのかな? でも〜梨沙子、君と遊んだりしたいって思うよ」 と、俺の顔を心配そうに見て言った。
隣では、何故か椅子から倒れ落ちてる友理奈。
「あれ?友理奈どした!?」 俺が心配そうに友理奈に言う。
「友理奈ちゃん? 大丈夫? 椅子から落ちちゃったみたいだけど!?」 菅谷も心配そうに友理奈を見る。
友理奈は、『ポカーン』とした表情のまま立ち上がって椅子に座ると
「えっとね、今から言う事を『2人共』よ〜く聞いてね! それって、嫌いとかじゃないと思うの! 違う感情だって思わない?」
友理奈は真剣な顔をして俺と菅谷を見てる・・・俺と菅谷は『う〜ん・・・』と、少し考えた・・・

「そっか・・・」 菅谷が突然、呟いた。
「梨沙子ちゃん! 本当の気持ちに気付いた?」 友理奈は目をキラキラさせて言った。
菅谷は俺の方を見て言った
「トラウマだと思う!」 菅谷は真剣な顔だ!
「へっ!?」 友理奈が呆気に取られたような声を出した。
「幼稚園の時に、梨沙子〜1回、君と『かけっこ』で勝負して負けた事があった! あの時の悔しさだよ!」 
菅谷が俺の方を見て手を上げた。
「それだ! よし、昼休みなったらグラウンドで『かけっこ』の勝負してトラウマを消そう! そして、走り終わったら友情の握手だ!!」 
菅谷の上げた手を俺は『バシッ!』と、叩いた。 友情のハイタッチだ!!! 
笑顔で見つめ合う俺と菅谷。

友理奈は・・・また椅子から倒れ落ちてた。

「それじゃ、次は友理奈ちゃんだね!」 菅谷が笑顔で言った。
「え〜・・・私は別に・・・そんな・・・」 顔を赤くして下を見た。
「友理奈だけ言わないのはダメだろ〜! まぁ、好きな奴がいても名前は言わなくても〜ヒントくらい!」 
俺が友理奈を見て言うと・・・友理奈は『まぁ・・・この2人なら気付かないか・・・』 と、小さい声で呟いた。
「ん?何て言ったの?」 俺が聞き返すと、友理奈は『何でもない!』って、焦りながら否定してから話し出した。

「えっとね〜・・・私、好きな人がいて〜」 友理奈は顔を赤くして下を見てる。
「お〜!!」 俺と菅谷が声を出した。
「それで〜・・・その人って、少し抜けてる人で〜」 友理奈は俺を『チラッ』と、見た。
「はぁ〜? 友理奈って、そんな変な奴が好きなんだ〜。 ってか、そいつ抜けてるって〜!」 
俺がちょっと笑って言うと、友理奈は例の冷たい視線で、何か俺に言いたそうな顔をしてた。
「・・・何?」 俺が聞いても 『別に〜』と、言い返して・・・話を続ける。
「それで・・・その人って・・・結構人気があって、大切な友達も〜その人が好きで・・・複雑なの。 はい!おしまい!」
そう言って、友理奈は『クスッ♪』と、俺と菅谷に笑顔を見せた。
「え〜・・・それじゃ、全然わからないよ〜!」 俺が不満そうな顔をする。 
友理奈は『エヘヘ〜♪』 と笑顔。

話を静かに聞いてた菅谷が俺の方を見て言う。
「友理奈ちゃん、君の事が好きなんだって。 あと〜大切な友達だから千奈美ちゃんの事じゃないかな?」
淡々と話す菅谷に、俺は『ハハッ まさか〜』 と、笑いながら言って菅谷から友理奈に視線を合わせると・・・

友理奈は真っ赤な顔をして・・・なぜか泣きそうな顔になってた。

「えっ!? 何で? 友理奈?」 俺が友理奈の顔を見て言う。
「なんで・・・」 友理奈は小さい声で言ってから・・・
「なんで言っちゃうの〜!!!!」 と、大きな声になって梨沙子に向かって言った。
「えっ?だって、みーやも彼の話するときに、同じような事を嬉しそうに言うから〜・・・そうなのかな?って」 キョトンとした顔で言う。
「えっ!?友理奈・・・俺の事が・・・千奈美も・・・夏焼も!?!?!」 さすがに俺も混乱する。
友理奈は俺の方を見て
「ちっ、違うに決まってるでしょ! 何で君の事を〜私とか、雅ちゃんとか、千奈美ちゃんが好きなのよ!!」 と、睨んで言う。
「そ、そんな否定しなくてもいいだろ! そりゃ〜俺は人気無いけどさ・・・」 俺が、少し小さい声で言うと
「よしよし、大丈夫。 梨沙子は君の事を嫌いじゃないから〜・・・あっ!」
突然、菅谷は話を止めて・・・10秒の静寂の後で  
「梨沙子・・・君の事を好きかも!?」 と、言い出した。
「はぁ!?」 俺と友理奈が声を合わせ言う。
「だって、梨沙子・・・君と一緒にいたいし〜彼氏だったら楽しそうだな〜って、思った。 そっか!そうなんだ!」 菅谷の顔は笑顔になった。
でも、少ししてから・・・険しい顔になって言う。
「でも・・・そうなると、みーやと・・・えっ・・・どうしよう・・・」
俺は『ん?』と、思って菅谷に言った。
「何で夏焼が出てくるの?」 俺が普通に疑問を菅谷にぶつけると
「え〜? だから、みーやは君のことが、好〜」 と、途中で友理奈が
「わー!わー!!わー!!!」 と叫び出した!
「友理奈〜、何だよ突然・・・」 俺が友理奈の方を見て言うと、友理奈は『キッ!』と、俺達を睨んで
「いい!? これから恋愛の話は一切禁止! わかった!!」 と、怒った顔で言った。
「・・・はい。わかりました・・・」 俺と菅谷は何が何だかわからずに、素直に従う。

「自分で最初に『恋愛話が〜』って、言ったくせに・・・」 俺が小さい声で菅谷に
「友理奈ちゃんが1番、ガンガン聞いてたもん・・・」 菅谷が小さい声で俺に
「何? 何か言った!?」 友理奈の怒った声に 「いえ・・・別に・・・」 と、2人で小さく答えた。

突然、部屋のドアが開く。
「あの〜そろそろ時間なんだけどね・・・その・・・」 そう言って、長身の女の子が中に入ってきた。
「あれ〜!? 4年の時に一緒だった梅さんだ!!」 俺が、その女の子に言った。
「えっ?梅さん・・・そろそろ本番の時間?」 友理奈は3組の放送委員の梅さんに聞いた。

〜話の始まりはこだ〜
「〜って事で、来週は私達!5年1組が、お昼の放送で自分達のクラスを紹介する事になりました!」
放送委員の友理奈が黒板の前に立って言った。
「じゃ〜ウチのクラスから、代表者を2名出さないと〜・・・」 友理奈の隣で、委員長の清水が言う。
「そ〜なると、やっぱり5年1組のラブラブカップルがいいと思いま〜す!」 誰かが言うと、ワイワイと教室が騒ぎ出す。
俺は『もう慣れたよ・・・好きにやってくれ・・・』って、感じで外を見てた。
そのまま、俺と夏焼で決定ムードの中・・・  
突然、菅谷が立ち上がって言った!
「私が彼と一緒に出ます!みーやじゃなくて私が出ます!」 
『シーン』となる教室。 そして、菅谷は俺を『キッ!』と、睨んだ・・・
〜と、言う流れ〜

「そろそろだね! 2人共、原稿をそのまま読めばいいから!」 友理奈が俺と菅谷を見てウインクを1つ!
「OK!まかせろ!」俺の言葉に 「何回も練習したもんね!」と、菅谷。
そう言って、俺と菅谷は『友情のハイタッチ!』
準備OK! よし、俺と友理奈と菅谷のコンビネーションを学校中に聞かせてやる!!


・・・って、時に梅さんが
「あのね・・・本当に言いにくいんだけど〜・・・」
俺達3人は梅さんの顔を見た
「・・・ずっと、マイク『ON』で・・・さっきの会話は全部、学校中に流れてたよ・・・」 梅さんは少し苦笑いで言った。

「どうしよう・・・ もう、千奈美ちゃんに会わせる顔が無いよ・・・ごめんね・・・千奈美ちゃん・・・」 友理奈は顔を隠してすっごく泣いてる。
「みーや・・・ぜったいに怒ってるよ・・・絶対に・・・梨沙子の事を嫌いになってる・・・」 菅谷も下を向いて泣いてた。
俺も、どうしていいのか分からない以前に現状に戸惑い突っ立ったまま・・・
そんな俺達を見て梅さんが言う
「私は止めようとしたの・・・でも、顧問の先生が『これが5年1組の紹介だろ?』って、言って・・・」 
梅さんは謝りながらも・・・泣いてる2人を見て責任感からか涙目。
まさに最悪の状態・・・
俺は・・・ボーッと、その光景を見てて・・・

自分の、頬を1発グーで殴った! 目が覚めた!
そして、放送室を出てダッシュで5年1組の教室へ向かう!
教室の前に来て、勢いよくドアを開けた。
『モテモテ男がきたー!!』 とか 『キャー!すっごい!ありえない!!』 とか、クラスが騒いでる中・・・
俺は千奈美を見て・・・恥ずかしそうに俺を見つめてる千奈美の前に行く!
教室はさらに盛り上がる! 
「あっ・・・あの・・・」 顔を赤くして下を見てる千奈美の手を掴んだ。
そして、千奈美を立たせると今度は夏焼の席の方に向かう。
夏焼は俺の方をジーッと見てた。 そして、夏焼の席の前に来ると・・・
「・・・うん。 わかってる。」 夏焼は笑顔で俺に言って、立って俺の手を掴んだ。
そして、俺は両手に千奈美と夏焼と手を繋いだ状態で廊下に出ようとした。
さらに盛り上がる教室!! もう・・・うるさくて・・・ そんな時だった。

『バン!!!』
机を叩く音に教室が静かになる。 
皆が音の方を見ると・・・須藤だった。
そして、清水が立ち上がって黒板に突然チョークで無言のままデカデカと書き出した。
『給食時間は静かに!! これから喋った人は、掃除1週間です!!』 
そして前を向いて、教室を少し怖い顔で見渡すと黒板を『バン!!!』と、叩いた。
『シーン』と、なる教室。
俺と千奈美と夏焼も、『ぽかーん』として、その光景を見てた。
そんな俺達に清水は笑顔でウインクして「5時間目に間に合うようにね♪」 と、優しく言ってくれた。

「突然、連れ出しちゃうような事してゴメン・・・」 俺が廊下で千奈美と夏焼に謝る。
そんな俺を笑顔で見ている千奈美と夏焼。
「あの・・・千奈美と夏焼には〜」 そう、俺が言いかけてる途中で
「行こっか。千奈美ちゃん♪」 夏焼が千奈美と手を繋ぐ。
「急いで5時間目までに戻ってこないとね♪」 そう言って、千奈美は夏焼と笑顔で見つめ合った。
呆気に取られてる俺に向かって
「何も心配しなくていいから」 そう言って、夏焼は千奈美と繋いでる手と反対の手を上げた。
「大丈夫。 こんなの幼稚園の時から慣れてるよ」 そう言って、『クスッ!』と、笑って千奈美も手を上げる。
2人の手に俺がハイタッチすると、千奈美と夏焼は手を繋いだまま走って放送室の方に行った。

(さて・・・俺は、これから教室に戻らないとダメなのか・・・) 少し重い気持ちのまま教室に入ろうとした時・・・
『トントン』と、肩を叩かれた。
振り返ると、さっき自分で殴って赤くなってた頬に濡らされたハンカチがそっと付いた。
「そこのお兄さん! ちょっと、私と学校デートでもしませんか?」 
そう言うと、笑顔で指を鳴らして・・・ 目の前には愛理が立っていた。

「友理奈ちゃん♪」 
千奈美の声だとスグに気付いたけど・・・友理奈は泣いたまま下を向いていた。
千奈美は泣き止まない友理奈の近くに行くと、友理奈を包むように抱きしめた。
「友理奈ちゃん・・・泣かないで」 千奈美の優しい声に友理奈が返す。
「・・・本当に・・・ごめんなさい・・・学校中に・・・私のせいで・・・」 友理奈は上手く喋れないくらい泣いていた。
「別に気にしてないよ」 千奈美は友理奈のおでこに自分のおでこを当てて言った。
「千奈美ちゃん・・・」 友理奈は、数センチ前にある千奈美に向かって言う。
「何?」 千奈美が笑顔で言う。
「・・・友理奈を許してくる? ・・・親友でいてくれる?」 友理奈は千奈美の目を見て言った。
「許すもなにも・・・友理奈ちゃんは、ずっと私の親友だよ。 これからも仲良くしてください」 
千奈美の笑顔に、友理奈は瞳から涙をこぼしながら『千奈美ちゃん・・・ごめんね・・・』と、何度も謝った。

「梨沙子♪」 
そう言って、雅は梨沙子の近くに来ると、下を向いていた梨沙子の手を取って優しく微笑んだ。
「みーや・・・」 梨沙子は、親に怒られる子供みたいに・・・何も言えないで泣いていた。
「も〜? 梨沙子・・・どうしちゃったの? いつもの笑顔は?」 雅の声に
「みーや・・・梨沙子・・・彼の事・・・好きになっちゃった・・・」 と、言って・・・そのまま黙ってしまった。
そんな梨沙子を少しの間、見つめていた雅は『クスッ』と、笑って・・・梨沙子の手を強く握った。
「私・・・知ってたよ。 梨沙子が彼に好意を持ってるって。 梨沙子が自分の気持ちに気付いて良かった・・」
「みーや・・・梨沙子・・・みーやのライバルになっちゃうよ?? 敵同士だよ??いいの??」 梨沙子は心配そうに雅を見てる。
「人を好きになるのに許可も何もいらないんだよ。 大切なのは、梨沙子の気持ち・・・」
「みーや・・・」 梨沙子は雅に抱きついた。 そして、そのまま雅の胸の中で泣き続ける。
「梨沙子、私は梨沙子が大好きだよ♪」 そう言って、梨沙子の頭をなでた。

2人を抱きしめたまま、千奈美と雅は顔を見合わせて、お互いに『クスッ』と、笑顔を見せた。

体育館裏の日陰の場所
「突然デートって・・・」 俺は、周りを見ながら先を歩く愛理に聞こえ無いように言った。
そして、愛理は突然立ち止まって振り返る。 
俺も愛理の目の前に止まり・・・見詰め合って・・・

『バシッ!』と、1発。
おでこを抑えてる俺に愛理が言う。
「さすがに今回の事で、少しは自分がどんな立場かわかったでしょ?」 愛理は俺をジーッと真剣な顔で見た。
「・・・わかるような〜・・・わからないような〜」 そうんな俺を見て「ハァ・・・」と、愛理は1つため息。
「まぁ、梨沙子ちゃんと同じで、何となく気付き出したと思うから。 君にしては進歩した方だよ。」
そう言って、少し笑顔を見せて芝生の上に座った。
「相変わらず愛理はズバズバ言うな・・・」 俺が苦笑いで愛理を見ると、愛理は『ポンポン』と、自分の隣を叩いた。
俺が座ると、愛理は持ってきていたバッグの中を『ガサゴソ』と、手を入れて今日の献立の揚げパンと牛乳、それにデザートだったヨーグルトを出した。
「さっきの放送聴いてたけど、何も食べて無いんでしょ?」 そう言って、愛理はそれらを俺に差し出した。
「えっ・・・でも、これって愛理のだろ? 悪いよ・・・」 俺が言うと、『バシッ!』と、1発。
「せっかく、可愛い愛理ちゃんが持ってきた物なんだから! 残したら承知しないから!」 ちょっと怒った顔をしてから・・・『クスッ』と、笑顔を見せた。
「愛理・・・ありがとう いただきます!」 そう言って、俺が揚げパンをほおばる様子を笑顔で見ている愛理。
「幼馴染も・・・結構大変だな・・・」 そう言うと、愛理は頭を俺の左肩に付けて、寄り掛かって目を閉じた。

体育館裏の木陰の場所 
木々から漏れる光が少し暖かく感じる・・・
少し肌寒い風は、隣でウトウトしている愛理の髪のいい香りを俺に伝えた

 

【オマケ】

「それにしても、ここにいる4人共ライバルだね♪」 雅が笑顔で言う。
「ライバルか〜・・・ 親友同士でも、お互いに頑張らないとね♪」 友理奈は笑顔で千奈美に言った。
「梨沙子・・・3人とも好きだけど・・・ライバルなんだよね・・・」 ちょっと、困ったような顔をした。
そんな梨沙子を3人は、笑顔で見て〜
「ライバルって言っても〜皆、大切な友達だもん! それは絶対に変わらないよ!」 千奈美が笑顔で梨沙子言った。
梨沙子が『うんっ♪』 と、満面の笑顔でうなずいた。

「それにしても・・・何で、同じ人を好きになっちゃったんだろうね?」 友理奈が『クスッ』と、笑いながら言う。
「本当に、あんな『抜けてる人』を・・・なんてね♪」 雅がそう言うと、4人が顔を見合わせて笑い出した。
「私達以外にも〜きっと、桃ちゃんとか佐紀ちゃんも好きなはずだよね。 ライバル多いな〜」 千奈美が笑いながら言う。
「も〜!! こんなに可愛い子達が想ってるんだから!! 幸せ者すぎるよ!」 友理奈が言った。

「あの・・・」 
その声に『ハッ!』として、4人が振り返った。
「あっ!! う、梅さん・・・あのね・・・これは〜その・・・」 友理奈が焦って言う。
4人共、顔を真っ赤にしてあたふたと焦ってる・・・
「いや・・・私は別に誰にも言わないし、何となく知ってたから・・・」 梅さんの言葉に一同『ホッ・・・』としたけど

「マイク・・・まだ『ON』のままだよ・・・」

放送室に4人の悲鳴が響き渡る!!
キャーキャー騒ぎ出して、小さな部屋は台風が来たみたいになっていた。

『ソ〜ッ』と放送室から出て、廊下で梅田えりかは『クスッ』と、笑って
「ちょっと、やりすぎちゃったかな?」 そう言って、自分のクラスに戻っていった。

マイクの電源は友理奈が大泣きした時に『OFF』して、そのままだった。

 

6:名前:〜私とあなたとあなた〜 【W】 [] 投稿日:05/02/10(木) 23:08:45

放課後の教室
「ふ〜・・・やっと1日が終った〜!!」 俺は背伸びをしながら言った。
すると、後ろから俺の頭をなでながら
「はいはい。 お疲れ様でした〜♪」 
振り返ると、そこには千奈美が。
「あれ?千奈美? 今週は掃除当番じゃないの?」 そんな俺に
「今日は自分の机の周りのゴミを拾うだけで終りだって、先生言ってたでしょ!」 笑顔で言う。
「あ〜・・・そんな事言ってたなぁ・・・」 俺が頭をかきながら言うと
「相変わらずなんだから〜!」 そんな千奈美の声が返ってきた。

そんな感じで2人は机に座って話してると・・・
「あれ? 2人で何してるの?」 夏焼が近づいてきて話し掛けてきた。
「あっ、雅ちゃん! ちょっと帰る前に彼と話してただけだよ。」 そう言って千奈美が笑顔で答えた。
そんな2人を見て俺が言う
「千奈美と夏焼も・・・幼馴染同士でもあるんだもんな〜・・・」
2人は俺の顔をジーッと見てから・・・「クスッ」と笑って
「そんなの当たり前でしょ! だって、小学校になって違うクラスだったけど一緒に遊んでたもん!」 千奈美が言う。
「君だけだよ。 5人の幼馴染で忘れてたの!」 夏焼が笑いながら言った。
「そっか・・・ そうなると、愛理とも仲良いの?」 俺の質問に
「当たり前でしょ〜! 愛理ちゃんとも良く遊ぶよ!」 千奈美が『当然!』って顔で答えた。
俺は、そんな千奈美の言葉に『そっか・・・』と少し安心したような声で答えた。
「あれ〜!? もしかして愛理ちゃんが気になる!?」 夏焼が少し意地悪な笑顔で言った。

「ちっ、違うよ!」 俺が必死になって答えると
「いつもの君と違って・・・何か焦ってない?」 千奈美も『ニヤニヤ』しながら言った。
「本当に違うって! それに愛理は、いつも俺に意地悪って言うか『ベシッ!』って、やるし・・・」 
俺の発言に、千奈美と夏焼は顔を見合わせて
「愛理ちゃんらしい表現だよね」
「うん。 愛理ちゃんもライバルかもね〜」 と言って笑い出した。
俺は意味がわからなかったけど・・・続けて言う
「前の放送室の時も、2人が行った後で突然『デートしよう!』って言われて体育館の裏で〜」 と言ってる最中に
「体育館の裏で!?」 千奈美が目を輝かせて
「なになに!? 何があったの!?」 夏焼も身を乗り出して聞いてきた。
「・・・いや、自分の分の給食を『食べてないんでしょ?』って言ってくれた。」 俺が2人の行動にビックリしながら言った。
「な〜んだ・・・ びっくりした・・・」  
・・・そんな夏焼の言葉に(俺の方がビックリしたっての!) と、心の中で突っ込んだ。

「でも・・・やっぱり愛理ちゃんだね。 彼の事を1番良くわかってる。 小さい時からそうだった・・・」 千奈美が優しい顔をして言った。
「えっ?小さい時から?」 俺が不思議そうに聞くと、夏焼が俺の方を見て言った。
「幼稚園の時とか、私や千奈美ちゃんが泣いてると君が助けに来てくれたんだ・・・」 
俺は『へ〜・・・』と、感心した。
夏焼は『も〜!それも忘れてるんだ』と言って小さく笑ってから話を続ける。
「でも、君が可愛い女の子4人といつも一緒に遊んでるから、他の男の子にたま〜に泣かされて・・・」 
「その時から4人とも可愛くて人気があったんだ」 俺が言うと
「愛理ちゃんが1番モテモテだったかな〜?」 千奈美の言葉に、夏焼も『そうだね〜』と、小さく頷いてから話を続ける
「それで、君が泣かされると必ず愛理ちゃんが1番に飛んで行って君を助けるの。 それで、おでこに必ずキスして・・・君が笑顔になる」
夏焼は俺の顔を見ながら微笑んで言った。
「あの時から愛理ちゃんにとって、君は大切な〜・・・弟?」 と言って千奈美は笑い出した。
夏焼も一緒になって笑う。
「あ〜・・・確かに愛理って『面倒見がいいお姉さん』って気がするなぁ」
そう言って俺も一緒になって笑った。

俺の忘れていた、小さい頃の記憶が少しだけよみがえる。
「そっか。 愛理・・・結局は今回も助けてくれたのかな・・・」 俺が小さく呟くと
「愛理ちゃんだからね。 きっと放送を聴いて先読みしてたんじゃないかな?」 千奈美が俺を見て笑顔で言った。
(そっか・・・。 愛理に今度会ったら『ありがとう』って言わないと・・・)
そんな事を思って〜ふと、もう1つ言わないとダメな事を思い出した。
「あっ・・・2人共、あの時は〜ありがとう」 俺は2人の方を見て頭を下げた。
そんな俺を不思議そうに見てる夏焼と千奈美
「ほら・・・放送室に、2人が走って行ってくれて・・・」 そう言った俺に
「も〜! 何で君が謝るの!? 別に私は友理奈ちゃんがピンチだったから行っただけだよ〜」 千奈美が言う。
「でも、俺も一緒にいたのに・・・2人に何もしてあげられなかったし・・・」 俺は下を向きながら言うと
「私も梨沙子が困ってるみたいだったら・・・君が教室に来なくても行ってたよ。 だからそんなに心配しないで!」 
夏焼は少し笑顔で俺に言い返した。
「でも・・・2人に何かお礼と言うか・・・したいなぁ・・・」 俺は2人の顔を見ながら言う。
「相変わらず優しいね。 君は〜」 千奈美が笑顔で俺に言った。

「それじゃ! こ〜ゆ〜のはどうでしょ!?」
突然、横から声と同時に1人の女の子が真ん中に入ってきた!
「うわっ!」 「キャッ!」 俺達3人は突然の須藤の登場に驚いた。

「須藤!? あっ!! 須藤にも、あの時に助けてもらったからおれひふぉ・・・・って、ふぉい!」
須藤は途中で、いつものように俺の頬をつねった。
「はいはい。 さっき千奈美ちゃんと雅ちゃんが言ったように、君にお礼を言われる筋合いは無〜い!!」 と笑顔で言った。
そんな俺と須藤の言い合いを『ぽかーん』と見てた夏焼が言う。
「茉麻ちゃん・・・突然どうしたの?」
「ほうらほ、とふへん・・・っへは、ははふはなへほ・・・」 俺が須藤に必死になって言うと、やっと須藤の手が俺の頬から離れた。
須藤はそんな俺を『ニヤッ!』と見てからとんでもない事を言い出した。

「これから私がクイズを出します!」 
呆気に取られる一同・・・
「そして、そのクイズに答えられたら彼のキスが貰えます!!」 須藤が俺の方を見て言う。
「はっ!? ちょっと! 勝手に決めるなよ!! だいたい賞品が俺のキスなんかじゃ誰もやりたがらないよ! なぁ!?」
俺が千奈美と夏焼の方を見ると・・・・なぜか2人は真剣に須藤の顔を見ていた。

「わ、私は別に賞品とかじゃなくて〜・・・クイズとか面白そうじゃない!?」 夏焼が何か焦りながら言った。
「えっと・・・私も茉麻ちゃんのクイズがどんなのか聞いてみたいな〜・・・なんて・・・」 千奈美も恥ずかしそうに言う。
確かに須藤のクイズとなるとちょっと面白そうだ・・・
「じゃ、俺が答えたら賞品は??」 俺が須藤に聞くと
「2人はともかく・・・君じゃ多分答えられないから考えなくていいよ」 須藤が哀れ目で俺を見てる。
「って、ヲイ! 答えられるかもしれないだろ!! 賞品は!?」 俺が須藤を見て言うと
「君が2人にお礼したいからって企画じゃん。 君が賞品貰ってどうするの?」 須藤の言葉に
「あっ・・・なるほど・・・」 俺は普通にうなずいた。
そんな俺を『クスッ』と笑ってから、須藤が言う。
「君が答えられたら、この学校の生徒なら誰にキスしてもいいよ!私が保証する!」

(須藤って・・・そんなに権力があるの?)

こして、放課後クイズ大会が始まった。
須藤が問題を言う。
「私は、あなたが1番輝いている時にあなたを見る事はできない」
「はっ!?」 俺が言うと、須藤は俺をいつものようにシカトして話を続ける。
「私も、あなたが1番輝いてる時にあなたを見る事ができない・・・私達は何?」

「・・・えっ?何それ?」 俺が須藤に聞くと
「だからクイズ・・・」 須藤は俺に向かって言う。
「何だろう・・・・」 夏焼が考え込みながら小さく呟いた。
千奈美も険しい顔をして考えてる。
俺は・・・クイズの問題の意味すらわからなかった。

〜10分経過〜
「だから、水と油は混じらないだろ!」 俺が須藤に向かって言う
「あのね! 問題と答えが全く噛み合ってない! やり直し!」 須藤が強めに俺に言う。
くそ〜・・・全然わからない。 夏焼と千奈美も何も言わないで考え続けてるし・・・
須藤がボソッと言う。
「これ、初歩の初歩の問題だよ・・・サービス問題」
「え〜っ!」 俺が不満そうに声を出した。
「そうだよ。 これは初歩の初歩・・・」 と言い掛けて須藤は突然、教室を出て行った。

俺達が『ぽかーん』としてると、1分後に須藤は1人の女の子を連れてきた。
「あっ・・・」 夏焼が女の子を見て言う。
「クイズの女王だ・・・」 続いて千奈美も言う。
「・・・誰?」 俺の浮いた発言は、いつも通りスルーされる。
う〜ん・・・同じ学年に、こんな子がいたような・・・集会とかで見たような・・・ 
そんなことを考えてると須藤が1つ咳払いをして女の子を紹介した。
「生徒会の書記であり、陸上部のエースであり、4組のクイズの女王! 舞美ちゃんで〜す!」 と言って拍手。
「わ〜! 舞美ちゃんだ! 久しぶり〜!」 夏焼が『舞美ちゃん』と呼ばれる子と笑顔で見つめ合ってる。
千奈美も『舞美ちゃん』と呼ばれる子に笑顔で話し掛けてる。
俺が1人取り残された状態になって・・・
「あの〜・・・君の名前は・・・『舞美』って言うの? 苗字が『舞美』?」 
俺が、その『舞美ちゃん』と呼ばれる子に言うと・・・3人が俺の方を本当に驚いた表情で見た。
「えっ・・・本当に知らないの?」 千奈美が素の顔で言う。
「集会で生徒会役員として先生の隣に立ってるじゃん」 夏焼も言う。
「そうだっけ??」 俺が普通に答えると
「・・・やっぱり君は天然記念物だね」 須藤がため息まじりに言った。
そんなやりとりを見て『舞美ちゃん』と呼ばれる子は『クスクス♪』と下を向いて笑った。

あれ? この子〜結構可愛いかも!?

笑ってる『舞美ちゃん』と呼ばれる子をボーっと見てると・・・須藤のチョップが俺の頭に!!
俺が頭を抑えていると、須藤が俺に向かって言う。
「矢島舞美ちゃん 生徒会書記、陸上部のエースであると共にクイズの女王として有名で〜おまけに可愛いから『変な男の子』に注意しないとね」
そう言うと、舞美ちゃんは『クスクス♪』また可愛い笑顔を見せてた。
笑いが治まると須藤に向かって言った。
「茉麻ちゃん、ところで私に何の用でしょう?」 笑顔のまま質問した。
「舞美ちゃん! そもさん!」 須藤が変な呪文を言った。
「せっぱ!」 舞美ちゃんも変な呪文で答える。
「私は、あなたが1番頑張っている時にあなたを見る事はできない 私も〜」
須藤が言いかけてる最中で、舞美ちゃんは『クスッ♪』と可愛い笑顔を見せて須藤に耳打ち。
「はい、正解! さすがクイズの女王!」 須藤が笑顔で返す。
俺達はクイズの女王の実力の凄さを唖然として見ていた。

「ちょ、ちょっと待った! まだ全部言ってないじゃん!」
俺が必死になって舞美ちゃんに聞いた。
「ん? 全部は聞いてなかったけど〜答えが浮んじゃったんだもん♪」 そう言って笑顔で返した。
(・・・やべぇ、マジで可愛いかも)
『ボーッ』と舞美ちゃんを見てる俺に須藤が言う。
「君、ちょっとデレデレしすぎてると・・・周りを見た方がいいよ・・・」
その言葉に『ハッ』として千奈美と夏焼を見ると・・・ちょっと不機嫌そうな顔をしてる・・・
「あれ? 2人共・・・何で怒ってるの?」 俺の質問に
「知らないっ!」 と言って夏焼は横を向いてしまった。
千奈美も何も言わないでジーッと俺を睨んでた。
そんなやり取りを見て舞美ちゃんが『クスクス♪』と笑った。
笑顔の舞美ちゃんに須藤が言う。
「さて、舞美ちゃん。 クイズの賞品が残念な事に、この変な男の子のキスなんだけど〜・・・いらないよね?」
須藤が『アチャー』って感じで舞美ちゃんに言う。
「あのな! 俺のキスは罰ゲームか!」 俺が須藤に言い返すと、舞美ちゃんは笑いながら言った。
「おもしろい子だね。 でも、私は男の子にキスされるのはチョット嫌かな〜」と言った。
「やっぱりね〜」 須藤が『ニヤニヤ』しながら俺を見た。
心の中で俺が(チョット残念・・・) と思って下を向くと・・・

頬に柔らかい感触が・・・!!!

キスをしてくれた後で、笑顔の舞美ちゃんが言う。
「キスされるなら私からキスする方がいいかな〜って思ったりして♪」
俺も夏焼も千奈美も・・・さすがの須藤も予測不能だった行動に唖然とした。

クイズの女王からの突然のキスにより固まる空気の中
「あらら〜 クイズの女王からのキスのプレゼンとは・・・今のキスで、少しは君の頭がさえればいいけど〜」
聞き覚えのある声が後ろから。
皆が振り返ると、そこには愛理が立っていた。
「あれ、愛理ちゃん? もう時間?」 舞美ちゃんが愛理に言う。
「愛理・・・何で?」 俺が驚きながら聞くと
「えっ!? 生徒会の集まりがあるから舞美ちゃんを探してたんだよ?」 愛理は不思議そうに俺の顔を見た。
「・・・もしかして、愛理ちゃんも書記だって知らなかったんじゃ・・・」 須藤が俺を怪しげな目で見た。
俺は当然の反応で
「え〜! 愛理も生徒会の役員だったの!?」 俺が言うと同時に『ベシッ!』と1発。
「も〜!! 本当に愛理に興味0%ですか!」 愛理が頬を膨らませて怒った。
そんな愛理に須藤が突然言う。
「私は、あなたが1番輝いている時にあなたを見る事はできない」
「えっ!?」 愛理は突然の事に焦ってる・・・
「私も、あなたが1番輝いてる時にあなたを見る事ができない 私達は何?」

全部聞くと、愛理は『なるほど・・・なぞなぞかぁ・・・』 そう呟いて10秒位考えてから須藤に耳打ち。
「はい!愛理ちゃんも正解!」 須藤の言葉に愛理が笑顔を見せる。
俺達は、その異常な解答スピードにまた唖然とてした。
愛理が須藤に聞く
「クイズの女王は何秒だった?」 愛理の顔は真剣だ。
「問題の途中で答えたから0秒って所かな」 須藤が笑いながら答える。
愛理は『う〜ん・・・さすが女王!』 と舞美ちゃんを笑顔で見てた。 舞美ちゃんも笑顔で愛理を見てる。
呆気に取られてる俺達3人を置いてけぼりで須藤が愛理に言う。
「さて、賞品が・・・残念ながら〜ここにいる変な子のキスなんだけど・・・いる?」 愛理に『ニヤニヤ』しながら言う。
「だから賞品が罰ゲームみたいに言うなよ!!」 俺が須藤にちょっと怒り顔で言う。
「え〜・・・どうしようかな・・・キスか〜・・・う〜ん・・・あんまりいらないような〜・・・」 愛理は俺の方を見て意地悪な笑いをして言う。
その後で愛理は、夏焼と千奈美の顔をジーッと見てから・・・
「せっかくだからキスしてもらおうかな♪」 愛理は俺の方を見て笑顔で言う。
「・・・了解」 俺が少し渋々と言うと・・・

「あっ! する時は『愛理・・・好きだよ』って言葉と、感情を込めて『くちづけ』にして♪」 

愛理は笑顔でとんでもない事を言った。
(ヲイヲイ・・・愛理・・・いつもの意地悪だよな!?)

全員が驚いて、その空間だけ時間が止まったみたいな状態になってた。
そんな止まった時間の中で唯一動ける、時間を止めた本人がゆっくりと俺を見て言う。
「愛理はマジだよ。 愛理のファーストキスを君にあげるよ・・・」 愛理は真剣な表情で俺を見てる。
そんな様子を見て夏焼が焦って言う。
「あ、愛理ちゃん!? そんな・・・ファーストキスって大切な物だし!」 そんな夏焼に
「大切な物だよ。 雅ちゃんのファーストキスの相手も彼でしょ? 愛理も彼なら・・・いいかなって・・・」
愛理の真剣な発言に夏焼が顔を赤くして下を向いた。
「でっ、でも・・・これはゲームだし・・・頬にキスとかならわかるけど・・・くちづけは・・・」 そんな千奈美の言葉に
「いや、面白いからいいんじゃない!? 私は別にキスって言ったけど『頬に』とか条件は付けて無いし〜」 
須藤が『ニヤッ!』と笑って千奈美に言う。
千奈美は『えっ・・・でも・・・』と何か言いたそうだったけど・・・結局黙ってしまい下を向いてしまった。
そんな言い合いをボーッと見てた俺に愛理が言う。
「さて、話は付いたから〜・・・愛理の事を思ってだからね・・・」 そう言うと愛理は俺を見つめた。

・・・教室を見渡すと、俺達以外の生徒は廊下に出てたりしていて教室はシーンとして誰もいなかった。
ここにいる6人を除いて。

(マジの流れだ・・・) そう考えると俺は、突然緊張して胸の鼓動は早くなった。
(愛理は確かに可愛いし・・・でも、夏焼と千奈美・・・それに須藤や舞美ちゃんの前で!?) 俺が頭を混乱させてると・・・
「愛理が相手じゃ・・・ダメかな・・・」 少し切なそうに下を向く愛理・・・
愛理の少し潤んだ瞳とか・・・ふっくらとした唇とか・・・いつもと違う愛理の表情に・・・引き込まれて行く感じがして・・・
俺は愛理の肩を掴む。 愛理が少し震えながら・・・俺の目を潤んだ瞳で見つめる。
「愛理・・・」 俺が優しく名前を呼ぶと同時に愛理が目を閉じる。
俺も目を閉じて・・・愛理の唇にそっと自分の唇を近づけた。
唇にそっと・・・感触が伝わった・・・

静まり返る教室
俺は愛理の唇から自分の唇を離して目を開けた。
「・・・あれ!?」 愛理は下を向いていて・・・俺が唇だと思ってキスをしたのは愛理のおでこだった。
下を向いていた愛理が顔を上げて・・・少し恥ずかしそうに俺を見た。
(しまった〜!愛理にはめられた!?)
愛理の顔を見てアタフタとする俺だが・・・もう後の祭り。
須藤が俺の方を見ながら驚いた顔をして言う。
「あら〜・・・本当にくちづけしようとするとは・・・」 
「・・・・・」 
何も言えずに下を向いて顔が真っ赤になってるのを俺は皆に見られないようにした。
(も〜!!俺のバカ! 愛理が俺なんかにそんな事言う訳ないのに!!!)
そんな事を考えながらも数分前に起こった事を考えると・・・とても顔を上げられない。
愛理は、そんな下を向いたままの俺の頬を両手で触って顔を自分の方に向けさせて言った。
「最初は・・・ジョーダンだったのに・・・瞳を閉じて近づいてくるんだもん・・・愛理・・・どうしていいかわからくって」
愛理は顔を赤く染めて・・・少し潤んだ瞳で俺を見つめていた。
(普通なら気付くのに・・・ 逆に愛理を俺は困らせちゃったのかな・・・)
そんな事を考えて・・・でも、この状況からどうしていいのかわからない。  

「そんなに恥ずかしがらないで・・・くちづけじゃ無かったけど・・・君の感情はちゃんと愛理に伝わってたよ」
愛理が優しく俺に言う。
「・・・えっ!?」 俺も愛理を見つめた。 
愛理の表情が本当の笑顔だってわかったから。
「だから、恋にでも何にでも真剣になる人は・・・愛理は苦手 本当の愛理が出てきちゃうから・・・」 
そう言って愛理は目を閉じて・・・俺のおでこにキスをしようと顔を近づける・・・

愛理のふっくらとした唇の感触はおでこには伝わらなかった。
寸前の所で止めて・・・
おでこから顔を少し離してから、俺の目を数秒見つめた後で優しく微笑む・・・
愛理の瞳はゆっくりと閉じて・・・唇に本当にキスをした。

愛理のキスに・・・ただ瞳を閉じることしかできなかった。

そんな光景を4人は『ボーッ』と何も言わずに見ていた。

俺の唇からゆっくりと愛理の優しい感触が離れていく・・・

愛理がいつものように指を鳴らす。
時が動き出したように、一同が『ハッ!』となる。
「舞美ちゃん! そろそろ生徒会室に行かないと! 遅刻すると会長がうるさいよ!」 愛理が舞美ちゃんに笑顔で言う。
舞美ちゃんは『あっ・・・えっ・・・』と少し戸惑ってたけど自分の付けていた腕時計を見て目を大きく開いて驚いていた。
「あっ!こんな時間! 本当にヤバイね!!」 そう言って愛理の手を掴んで教室を出ようとした。
出ようとして、愛理は立ちすくんだまま動かない俺達4人の前に戻って来て・・・夏焼と千奈美に向かって言う。
「雅ちゃんも千奈美ちゃんも本当はクイズの答えがわかってるんでしょ? 愛理くらい積極的にならないとダメだよ!」
愛理の言葉に『!?』と驚いて・・・夏焼と千奈美は無言のままお互いに見つめ合った。
「えっ!? 2人共・・・答え・・・わかってたの!?」 俺が2人に向かって言うと、須藤が言う。
「だから最初に言ったじゃん! 『2人はともかく』って。 2人は途中で答えに気づいてたと思うよ。」
愛理は夏焼と千奈美に小さく何かを言った。 
その後で、夏焼と千奈美は少し笑って愛理と見つめ合っていた。
その表情を見てから愛理は2人に向かってウインクをして、廊下で待つ舞美ちゃんの所へ行ってしまった。

「さて・・・そろそろ私は帰るけど〜2人共、答えは言わないの?」
須藤の言葉に夏焼と千奈美はお互いに見つめ合ったまま何も言わないで困っていた。
愛理のキスの感触が頭から離れないながらも、俺は何故2人が答えを言わないのか全くわからなかった。 
そして、須藤のクイズの答えが何なのか・・・とても気になっていた。
見つめ合ったまま無言の2人・・・
須藤がため息を1つ吐いてから言う。
「愛理ちゃんも言ってたでしょ?『2人が、そうやって勇気を出さないでいるなら・・・本当に愛理が彼に告白するよ?』って」
「愛理・・・何が言いたかっはふはほ・・・っへ、ふぉひ!」 俺の頬をつねりながらシカト状態で須藤が2人にさらに言う。
「愛理ちゃんに本当に取られちゃうよ? 愛理ちゃんだけじゃなくて桃ちゃんとか佐紀ちゃんにも・・・」
(桃子に清水まで出てくるとは・・・いったい、このクイズの答えは何なんだ・・・)

その時だった。
「みーや!そろそろ帰ろうよ!」 そう言って音楽室の掃除が終った菅谷が教室に入って来た。
「梨沙子・・・」 夏焼が菅谷を見て寂しそうに呟やいた。
「私だけでも梨沙子ちゃんと一緒に帰ろうかな?」 そう言って須藤は菅谷のいる廊下に向かって歩き出した。
その様子を、ただ見てる夏焼と千奈美。
須藤が菅谷と一緒に教室をから離れようとした。
「ちょ! 結局、クイズの答えは!?」 俺が大きな声で須藤に言う・・・
 
「千奈美ちゃん!ごめんね!」 千奈美に向かって夏焼が謝る。

「答えは『太陽と月』 太陽が1番輝いてる時に月は太陽を見れないし、太陽も同じで月が輝いてる時は月を見る事が出来ない!」
夏焼は早口で俺に答えを言うと、俺の頬に軽くキスをして『バイバイ』と笑顔で2人の方へ走って行った。
そんな夏焼を『ニコッ』と笑顔で迎える須藤と・・・ちょっと複雑な顔をして迎える菅谷。
そして、そのまま3人は教室から見えなくなってしまった・・・

キスをされた頬をさすりながら俺が呟く
「なるほど・・・『太陽と月』か・・・」 
そんな俺に千奈美が
「正解がわかって良かったね・・・」 俺に小さく笑顔で言った。

夕暮れの教室には、俺と千奈美の2人だけが残っていた。

「それにしても、メチャクチャな放課後だったな〜・・・」 俺が1つ、ため息を吐いて言うと。
「色々な子とキスができて本当は嬉しかったくせに」 千奈美が笑顔で言った。
「べっ、別にそんな・・・」 俺が焦って言うと、千奈美は『クスクス』と笑った。
静かな教室は千奈美のそんな小さな笑い声さえ優しく響かせた。

「でも・・・愛理のキスにはさすがに驚いたかな」 俺が外を見ながら呟いた。
「愛理ちゃん・・・素直って言うか・・・君の事を本当に好きなんだろうな・・・」 千奈美が小さい声で言う。
「千奈美・・・」 俺は千奈美の方を見て言う。
「愛理ちゃんだけじゃない・・・雅ちゃんも・・・私には勇気が無かった・・・」 千奈美はちょっと寂しそうに笑うと・・・下を向いた。
「千奈美も・・・本当に答えを知ってたの?」 俺が千奈美に向かって言うと・・・無言のまま千奈美はうなずいた。

千奈美は下を向いたまま・・・泣いていた。

「千奈美?」 俺が千奈美を心配そうに見つめて言う。
「私には・・・愛理ちゃん、雅ちゃん、梨沙子ちゃんや桃ちゃん、それに友理奈ちゃんみたいに・・・勇気が無いダメな子なのかな?」
千奈美は無理して笑顔を作ろうとしたけど、涙は止まらずに頬を伝って床にポタポタと落ちた。

今まで見た事が無かった初めて見る千奈美の純粋な気持ち・・・俺は素直な感情で千奈美を見ていた。
千奈美は少し泣いてから・・・涙を拭いて
「ちょっとセンチメンタルな気分になっちゃった・・・  私・・・いつもの笑顔でいないと君に嫌われちゃうかな?」
そんな弱くもあり素直な気持ちを、こんなに必死になって伝える千奈美に・・・俺はただ・・・
俺は千奈美の目を見つめて優しく言う。
「太陽と月・・・」
「えっ!?」 突然の俺の言葉に千奈美が驚いて・・・

俺は瞳を閉じて千奈美にキスをした。 
答えを聞いた後で言うのは反則なのかもしれない。
でも、俺はちゃんと問題の答えを言ったから・・・
千奈美もゆっくりと瞳を閉じる。
潤んでいる瞳を閉じて・・・こぼれ落ちた涙は千奈美の頬を濡らした。

教室には俺と千奈美の2人だけ・・・
窓から流れてくる風が、そっと千奈美の濡れた頬をなでる。
大切な気持ちは・・・ 本当の俺の気持ちは・・・
 
ただ、お互いの気持ちを重ね合わせて・・・俺と千奈美はキスをした。

 

【オマケ】

教室の窓から入った冷たい風が廊下に流れる。
走り抜ける少女と共に、冬の風は廊下から下駄箱を通って外へと出て行った。

校内から出てきた少女に向かって梨沙子は大きな声で言う。
「みーや!? 忘れ物は教室にあった?」
走って2人の前に来たのはいいけど・・・涙が止まらない・・・
「あれ? みーや・・・泣いてるの? どうしたの?」 梨沙子が心配そうに雅を見ている。
梨沙子に向かって、いつものように『何でもないよ!大丈夫!』と言って笑顔を見せるだけの余裕は無かった。
ただ、今見た事実に・・・戸惑って・・・悲しくって・・・涙が止まらない。
「みーや・・・」 梨沙子も泣きそうな顔になる。

茉麻は雅を抱きしめると、そのまま頭をなでる。

「雅ちゃん・・・ 無理しなくていいよ・・・」

その言葉が雅の中で感情の鍵を開けてしまったみたいだった。
止めようとしていた・・・抑えていた感情が心の中に広がって行く・・・

声を出して泣き続けるしか無かった。

本当に好きだから・・・
純粋な気持ちだから・・・ 

2月の風は雅の濡れた頬もそっとなでた。

 

7:名前:〜冷たいキス〜 [] 投稿日:05/02/13(日) 01:26:54

雪が合わさった風の色は白く、そっと頬に当たると冷たい感覚を残して水へと変わる。
その水滴さえも一瞬で凍らせてしまうのではないだろうか?
そんなふうに思えてしまう・・・

「寒い?」 俺の隣にいる彼女が少し微笑んで俺に言った。
「ちょっと・・・寒いかな。」 俺が笑顔で彼女に言葉を返す。
そうすると、彼女は自分の付けていたマフラーを外すと俺の首に優しく巻いた。
「ちょ、そんな・・・俺は暖かいけど・・・」 俺が巻いてもらったマフラーを外そうとすると
「私は、この寒さに慣れてるから大丈夫だよ。 君は慣れてないんだし、風邪でもひいたら大変だよ」
そう言って、俺が少しほどいたマフラーを再度巻き治した。
「こ〜ゆ〜のって、男が女の子に『寒い?』って聞いてマフラーとか掛けるものなのに・・・情け無い・・・」
俺が小さく、ため息混じりに言った言葉を彼女は
「気にしなくていいよ。 その気持ちだけ貰っておくね。」 笑顔で俺を見ていた。

白い雪は止まる事を知らないかのように降り続いている。
人が多い『大通り公園』
2月の雪の季節・・・真っ白な祭りを見に来た人達とすれ違う。

「人が多いから離れないようにしないとね♪」 そう言って、彼女の手は俺の手を握り締めた。
彼女の顔を見ると、少し顔を赤くして・・・
そんな彼女のドキドキとした気持ちが繋いだ手を通して伝わってくるみたいだった。
マフラーのせいか・・・それとも彼女の行動によってか・・・体が少し熱くなる。

2月11日 金曜日
札幌の雪祭りの会場
俺は村上愛と出会った。

 

2月10日 木曜日

「それじゃ〜。また月曜日に!!」 俺が言うと
「うん。 月曜日まで・・・寂しいな〜・・・なんちゃって♪」 友理奈が笑いながら言った。
俺と友理奈は掃除当番の週は、いつも一緒に帰っている。
「それにしても、今週は連休で金曜日が休みで1日得したな」 俺が友理奈に笑顔で言った。
「え〜・・・1日損してるよ!!」 友理奈はちょっと顔を膨らせて呟いた。
「友理奈って掃除好きなの!?」 俺が不思議そうに友理奈に言うと、友理奈の冷たい視線が・・・
「も〜・・・何で、睨むんだよ〜!」 俺が、少し笑いながら友理奈に言った。
友理奈は放送室の1件以来、冷たい視線をよく使うようになった。
でも、俺はちょっと睨んだ感じだけど冷たい視線が友理奈のチャームポイントと言うか〜何となく気に入ってる。
俺はそんな視線に向かって笑顔で手を振る。
「それじゃ、月曜日に学校でな!」 
友理奈もスグに笑顔になって『ばいばいっ♪』って言って走って行ってしまった。

・・・と言っても、俺の家から友理奈の家500Mも離れてないけど。

「ただいま〜!!」 家に入って、まず第1声はこうでなくてはいけない!
俺は、いつものように2階の自分の部屋に上がる前に冷蔵庫に手をやり飲み物を探す。
ポカリを手に取り、食器棚からグラスを取ろうとしてる俺に声が掛かる。
「ねぇ? 最近〜一緒に帰ってる女の子・・・誰?」 母さんの声だ。
「ん? 窓から見えてた?」 俺がグラスにポカリを注ぎながら答える。 
「見えてたって言うか〜・・・そりゃ、嫌でも声は聞こえてくるんだもん。 見るわよ」 母さんらしい返事だ。
グラスを口に近づけて、それを一気に飲み干す。
「結構可愛い子じゃない? どんな関係?」 
こんな発言だけど、母さんの声のトーンは低く本当に興味があるのか怪しい・・・
「熊井友理奈って言って〜千奈美の親友だよ。 掃除当番が一緒だし、家も近くだから一緒に帰ってる」
そんな俺の言葉に、やっと母さんが俺の方を見て言う。
「あら〜!熊井さんの所のお嬢さんなんだ。 同じクラスだったとは・・・」
「えっ? 知ってるの?」 俺が言うと
「朝、ゴミ捨てに出る時とかに熊井さんに会うもん。 そのまま1時間くらい立ち話するし〜」 と答えた。
「ふ〜ん。 まぁ〜近所だし、知ってても普通か」 俺は2杯目のポカリに手を付けながら言う。

「母さん・・・愛理ちゃんとなら嫁姑関係も上手く行くと思うんだけどな〜・・・」
その言葉に、俺は口に含んでたポカリを噴き出した。
この人は何を突然言い出すんだ・・・

俺は母さんをジーッと睨んでいたが、おかまい無しに話を進める。
「雅ちゃんは可愛すぎるから勿体無いし〜千奈美ちゃんもあんたと一緒だったら不幸になりそう・・・」
(本人の前で失礼な・・・それに不幸になるって何だよ・・・)
「梨沙子ちゃんとも母さんは上手くやっていけそうだけど〜・・・お嬢様だからなぁ・・・」
俺は母さんの発言は無視して、噴き出してしまったポカリを布巾で拭く。
「熊井さんの所のお嬢さんも可愛かったけど〜・・・やっぱり愛理ちゃんを貰ってよ♪」 
母さんは笑顔で俺に向かって言う。
「貰って、って・・・猫じゃないんだし・・・」 俺は『ボソッ』と呟いた。
「いいじゃない!幼馴染なんだし! 何よ!愛理ちゃん可愛いでしょ! 文句あるの!?」
「あのな〜!俺が良くても愛理も気持ちもあるだろ!!」 俺が逆切れ調の母さんに強く言う!
「じゃ、あんたの方はいいのね! 一応、鈴木さんに今度言っておくわ!」 
母さんはそう言うと俺の顔から新聞へと視線を変えた。
「ちょ・・・勝手に何言ってるんだよ!! 愛理だって困るだろ!?」 俺は必死になって言うと
「ジョーダンよ。 相変わらず何と言うか〜・・・あんた、息子失格!」 
視線は新聞のままで顔を『ニヤニヤ』させながら母さんが言った。

そんなジョーダンも最近は何故か笑って流せない自分がいた。

この数日で色々あった。
清水と一緒にクレープ食べたり・・・
桃子の秘密を知ったり・・・
友理奈と・・・梨沙子と・・・
ちょっと前に俺は愛理、千奈美とキスをした。
そして夏焼・・・

俺は・・・本当に・・・誰の事が??

「そう言えば〜」 母さんの声に『ハッ!』とする。
心の中を聞かれた訳じゃないのに・・・何かドキドキしてる。
そんな俺の気持ちを知らない母さんは話が話を続ける。
「明日から3連休でしょ!? 予定は?」 
「えっ・・・あ〜・・・土曜日は清水って子と図書館で勉強会の予定が〜・・・」 
そう言う俺に、母さんは手前にあった電話の子機を俺の方に差し出して言った。
「じゃ、今すぐ電話してキャンセルしなさい!」 
「はぁ!? ちょっと待ってよ! 何でキャンセルしなきゃいけないんだよ!」 俺が言うと
「清水って子〜確か女の子でしょ? 小学生の時からラブラブとか不純性行為はダメ!!」 
「別にそんなんじゃないし〜・・・」 俺が不満そうに言う。
「それに母さん、清水って子知らないもん! だからダメ!」 
母さんは自分で言ってる事が無茶苦茶だから笑っていた。

俺も母さんと、これでも11年間も一緒に暮らしてる。 性格くらいわかってる。
「・・・で、今度はどこに旅行するの?」 俺が少し睨みながら言う。
そんな俺を『ニヤッ』と見て
「札幌の雪祭りが見たいから〜今日の夜の便で行くことになりました〜!!」 と拍手をした。
「・・・父さんは?」 
「出張だと思う!」 
「絶対に嘘だ・・・」
「うん!嘘。 まぁ、ちゃんと電話で言っておいたから大丈夫!」

・・・この人が突然、何かを思いついたら止まらない性格なのは俺も父さんも承知済み。
旅行に行くとなれば、必ず俺が着いて行くのも毎度の事・・・方向音痴な母さんの地図を読む係りとして。


こうして、俺の白い世界での週末は始まった。

「もしもし? 清水さんのお宅でしょうか?」 大きな声で言う。 
「はい。そうですが〜・・・」 母さんの携帯から聞こえてきた声は清水の声だった。
「あっ! 清水!! ちょっと突然なんだけど〜土曜日の図書館での勉強・・・ゴメン!行けなくなった!!」 
「えっ!? あっ・・・もしもし!? どうしたの!?」 
突然の事で、清水は何が何だか分からないと言うような声を出していた。
「突然、週末の予定を強制的に入れられたんだ・・・ゴメン!」 俺が大きな声で言う。
「えっ!?強制的!?・・・ってか、後ろですごい音がしてるけど〜・・・どこにいるの?」 清水も大きな声で言う。
「飛行場! これから札幌に行く!」 俺がさらに大きい声で言う。
「え〜!!これから札幌って〜!! 何で!?」
電話の先で佐紀が驚いてる!

・・・こんな時に自分で不意に思いついた洒落が恐ろしく面白くなくて一瞬凹んだ。
そんな俺から『サッ!』と母さんが携帯を取った。
『あっ!』と驚いてる俺を無視して
「清水さん? お土産は何がいい!?」 母さんが大きな声で清水に問いかける。
(この人・・・無茶苦茶だ・・・)
「もしもし? も〜!そんなかしこまらなくていいから! 何がいい? 時間が無いの!!」
電話先で戸惑っている清水が思い浮かぶ・・・ 
きっと『えっ!?あっ・・・そんなの大丈夫です!』とか戸惑ってるんだろうなぁ・・・
「じゃ、気にならない程度の物にしておくね。 何なら、この子にのし付けてあげるよ? いる?」
何なんだ、この母親は・・・ 

飛行機の離陸の時間は刻々と近づいていたいのに結局、母さんは10分も清水と話していた。
ギリギリになったのも、母さんが1時間も出発時間を勘違いしていたため・・・

あと2分で離陸と言うスリリングな体験をした後の機内のシートに座った。
一息入れる余裕も無く母さんが言う。
「ちょっと! 清水って子!少し脈ありかもよ!? それにいい子だし! 1度連れてきてよ!」
清水は母さんのツボだったらしい。
「う〜ん、愛理ちゃんも可愛いけど・・・清水って子も可愛いはず! でしょ?」
何で電話だけでそこまで清水を気に入ったのかは全くわからない。
「まぁ・・・確かに可愛いし人気もあるよ・・・」 
地上から飛び立つ瞬間を見ようと、窓を『ジーッ』と見ながら適当に返事をする。
「やっぱり!! そんな可愛い子とのデートをキャンセルとか・・・勿体無いなぁ・・・」
俺を『可哀想に・・・』って感じの雰囲気で見ながら言った。 

(この人、絶対にありえないよ・・・)

それにしても、母さんのこんな性格が何となく須藤に似てる気がしてならない・・・
そして須藤に弱い所も何となく似てる・・・

う〜ん・・・何だろう!?ちょっと複雑な気がする・・・
そんな事を思いながら、俺は一面の雲の世界を窓から見ていた。

2月11日 金曜日

〜大通り公園〜
「じゃ〜これから別行動!」 母さんの言葉に無言でうなずく。
既に俺じゃなくて雪像を見ている母さんに、これ以上何を言っても無駄だろう・・・
それにしても、こんなに寒いのに何でこの人は元気なんだろう・・・
「6時にはテレビ塔の前で! 迷子にならないでね!」 そんな母さんの言葉に
「・・・どっちが迷子になるんだか」 と小さく呟くと同時に『バシッ!』と1発。
何となく、母さんが愛理を気に入ってるのがわかる・・・
そして今にも走り出しそうな母さんに俺が言う。
「いい歳してナンパとかされないでよ・・・」 俺が寒さに震えながら言うと。
「28歳のオバサンはさすがにナンパされないでしょ!」 
笑いながら言ってる・・・

子供が言うのも何だが母さんは全然20歳でも通じるくらいで、しかも結構美人だったりする。
夏に海くと必ずナンパされるし・・・ しかも何人にも・・・
この性格を知ったら絶対に嫌がると思うんだけどな〜

突然、母さんが俺の手を握る。 手の中には5千円が入った。
「5千円あれば、あんたなら3ヶ月は生きれるね! よし!じゃね♪」 
そう言って俺の視界からダッシュで人ごみの中に消えて行った。
(・・・普通、小学5年生を置いて遊びに行く母親がいるか??) 
俺は既になれてたけど・・・

その場にボーッとしてるのも何だから歩き出した。

歩きながら本当に真っ白な世界に俺は感激していた。
東京でも雪がたまに降るけど〜こんな景色は見れないと思う。
本当に綺麗だ・・・けど寒い・・・
北海道を舐めていた訳では無いけど、ここまで寒いとは〜さすがに今着てる物だけでは寒すぎる・・・
俺は自販機で暖かいお茶を買うと通路から少し離れた、人のあまり居ない場所に行った。
手袋ごしに伝わってくるペットボトルのお茶の温かさを感じながら『ぼーっ』と周りを見ていた。

ふと、誰も気付かないような場所に小さな雪だるまを見つけた。
多分、子供が作ったものだろう。 
雑だけど・・・何となく愛らしい感じがした。
雪だるまの近くに行き、しゃがみ込んで雪だるまを見ていた。
何も考えないで『ジーッ』と雪だるまを見つめる・・・

「通路にも色々な作品もあるけど、こんな作品も可愛くていいよね♪」
後ろから聞こえた声に驚いて振り返る・・・と、同時に雪に滑って転ぶ!!
「あたた〜・・・」と普通に出た言葉と同時に、転んだ事が恥ずかしくてスグに立ち上がろうとすると・・・
目の前には白い手袋を付けた手が差し伸べられていた。
手を掴み立たせてもらい相手の顔を見た。

俺と同じくらいの歳の子で、髪が長くて目がパッチリしている。
真っ白なコートにマフラーも白で・・・本当に雪の妖精みたいな・・・
第一印象は・・・『可愛い』と言う感情しか出てこない。

「大丈夫? 私が驚かせちゃったかな?」 彼女は少し笑顔を見せて俺に言った。
「あっ・・・別に大丈夫!!」 俺が何となく焦りながら言うと『よかった♪』と、さらに笑顔を見せた。

あまりに可愛い笑顔に、つられて俺も笑顔になってしまった。

ちょっとしたキッカケだったけど、俺は彼女と一緒に雪祭り会場を周る事になった。
彼女の名前は『村上 愛』あだ名はめーぐる。
俺と同じ、小学5年生で札幌の小学校に通ってる。
今日は友達と一緒に雪祭りを見に来たんだけど、途中で友達が彼氏と出会って〜・・・1人で周る事になったらしい。
俺は6時まで1人で時間を潰さないとダメな事を話すと・・・
「私は5時に友達と待ち合わせして帰るんだ。 それまで良かったら一緒に行動したいな♪」
そう言って俺に笑顔を見せた。
もちろん、断る理由なんて無いし〜むしろ嬉しくって!!

そんな訳で、俺とめーぐるは雪祭りでにぎわう大通り公園を一緒に歩いている。
雪の像は小さい物から大きな建物まで色々あって、1つ1つを一緒に見て周った。
「こんなデカイの・・・どうやって作ってるんだろう??」 俺は顔を上げて雪で作られた城を見上げて言った。
「何週間も掛けて雪を持ってきたり、クレーン車を使ったりして作るんだよ」 めーぐるも城を見上げて言う。
「そうなんだ〜・・・」 そう言って、俺は数センチ先にあるめーぐるの横顔を見た。
めーぐるの髪に白い雪が落ちて、黒い髪をそっと飾る。

5年になってクラスで夏焼を初めて見た時(と言っても、小さい時に見てたんだけど)こんなに可愛い子が同年代にいるんだ・・・と驚いたけど、めーぐるには違う印象を受けた。
とても綺麗な顔をしていて、見ているだけで引き付けられると言うか・・・不思議な魅力があると言うか・・・

「どうしたの? 私の顔『じーっ』と見つめて・・・」 めーぐるの声に『ハッ!』とした。
「あっ・・・いや・・・」 焦りながらも、めーぐるの顔から目が離せない。
「そんなに私が気に入った?」 めーぐるは『クスッ』と笑顔を見せて言う。
「・・・うん。 めーぐるって可愛いな〜と思って・・・・・・あっ!」 
『ぼーっ』としてたとは言え、俺は自分で言った言葉に顔を赤くした。
「えっ・・・ そんなこと・・・」 めーぐるは困ったような顔をして・・・でも、少し顔を赤くして下を向いていた。
「あの・・・えっと・・・」 俺は色々と考えたけど、何を言っても上手くまとめられない気がした。
めーぐるは少しすると顔を上げて、まだ少し赤くした顔のまま笑顔で言う。
「・・・ちょっと、休憩所で休もっか♪」 そう言って俺の手を掴むと走り出した。
「あっ・・・」 俺は何も言えずにめーぐるに引っ張られるように走った。

自分が違う自分みたいな・・・どうして、ずっとドキドキしてるのかもわからない・・・

「自分でも何が何だか・・・わからない」 俺は休憩所のストーブの火を見ながら言った。
めーぐるは何も言わないで俺の横顔を見ていた。
「めーぐるを最初に見た時から・・・ずっとドキドキしてるし、さっきだって『可愛い』って言ったのは・・・」
そう言い掛けて、少し照れくさくなる。
めーぐるは、それでも俺の横顔を見つめてる。
「その・・・本当に可愛いと思ったし・・・でも、何で言っちゃったのか・・・わからないと言うか〜・・・」

不思議だった。 本人を目の前にして自分から色々と素直に気持ちを言うなんて・・・
言い切ると、何故か安心してる自分がいた・・・ 

数秒の沈黙・・・それが2、3分に感じるくらい長い・・・

何も言わないで俺の話を聞いていためーぐるが突然話し出した。
「ねぇ? 君、女の子の友達が多いでしょ?」 
「えっ? あ〜・・・多いかなぁ・・・」 俺の素直な気持ちを伝えた言葉に対して、全く関係無い返答に俺は『ぽかーん』とした。
「プリクラとかあったら見せてよ!!」 めーぐるは笑顔で俺に言った。
俺は学校に手帳を持って行ってて、その手帳に女子は勝手にプリクラを貼っている。
桃子のプリクラがダントツに多い訳だが〜・・・千奈美や友理奈のも貼ってある。
最近は夏焼とか清水もふざけて貼ったりしてて・・・俺自身のプリクラは1ケタも貼ってないのに100枚くらい貼ってあって・・・
手帳じゃなくて既にプリクラ帳・・・ 
それを俺はカバンの中から出すと、めーぐるに渡した。

「わぁ! やっぱりモテモテなんだ!」 めーぐるが手帳を見ながら言う。
「別にモテないよ〜 それに、ほとんど勝手に貼られるし」 俺がめーぐるを見て言う。
めーぐるは手帳に夢中だ!
「・・・見てて面白い?」 俺が不思議そうに言うと
「可愛い子ばっかりだね! この、いっぱい写ってる子は彼女?」
俺の話を流して、めーぐるは桃子のプリクラを指差した。
「彼女なんていないよ。 桃子は〜・・・仲がすっごくいい大切な友達かな」 俺が言う。
「この子は? すっごく可愛いけど〜・・・」 今度は夏焼のプリクラを指している。
「夏焼か〜! 可愛いよな〜・・・ う〜ん、幼馴染で大切な友達かな?」
「それじゃ、この夏焼さんの隣の子は?」 今度は菅谷。
「菅谷も幼馴染で〜大切な・・・友達・・・」
言ってて、自分でも何か変な感じだった。
「この子も可愛いね! あと隣の女の子も! ど〜ゆ〜関係?」 めーぐるは笑いながら聞く。
「千奈美は幼馴染で・・・友理奈は・・・2人とも・・・大切な・・・」 それ以上は何も言えなくなった。

そんな俺を優しい笑顔で見て、めーぐるが言う。
「君は自分で気付かないで女の子の事で悩んでる」
「えっ!?」 俺は驚きながら、めーぐるを見た。
「もし良かったら私に話してくれない? 今の君の気持ち・・・」

めーぐるの言葉が優しく俺の心に響いていた。

俺は最近あった色々な事をめーぐるに話した。
素直に話してたけど・・・何か、途中で良くわからない気持ちになった・・・

俺が話し終わると、めーぐるは俺の目を見つめて言った。
「君は色々な人に好かれてるみたいだね・・・それで、君も彼女達に好意を持ってる。」 
俺は何も言わずにめーぐるの言葉を聞いていた。
「でも、君には本当に好きな子が1人だけいるよ。 それに気づいてないんだね・・・」
「えっ!?」 めーぐるの言葉に俺は普通に驚いてしまった。
「話を聞いてたけど・・・1人の女の子だけ話をする時に君の表情が凄く嬉しそうだったから。」
「それって・・・誰だった?」 俺はめーぐるの目を真剣に見て言った。
めーぐるは『クスッ』と笑って
「それは自分で気付かないとダメだと思うよ。 その子のためにも・・・君自身のためにも・・・」

めーぐるの言葉を少しの間、頭の中で繰り返していた。
でも、答えは簡単には出て来ない・・・

ふと、めーぐるの発言で少し不思議に思った事を言ってみた。
「めーぐるは、何で俺が悩んでる事がわかったの? 心が読めるとか?」 
俺は少し笑いながら言うと、めーぐるも笑いながら答えた。
「私も少し前まで君と同じだったんだ・・・色々な友達がいて・・・大切な友達だと思ってたんだけど・・・」
めーぐるはストーブの火を『じーっ』と見つめていた。
「私は結局、誰が自分の中で1番大切な存在なのか・・・わからないまま終っちゃった・・・」
寂しそうに微笑んだ横顔も本当に可愛かった。
「君は、ちゃんと自分の気持ちに気付けるといいね・・・ううん!君なら大丈夫だよ。」
 
俺はめーぐるが思ってるほど強くも無いし、自分の気持ちに気付けないと思う・・・
そんな事を思っていたけど、弱音に聞こえそうだから言わないで飲み込んだ。

「寒い?」 俺の隣にいるめーぐるが少し微笑んで俺に言った。
「ちょっと・・・寒いかな。」 俺が笑顔でめーぐるに言葉を返す。
そうすると、めーぐるは自分の付けていたマフラーを外すと俺の首に優しく巻いた。
「ちょ、そんな・・・俺は暖かいけど・・・」 俺は、巻いてもらったマフラーを外そうとすると
「私はこの寒さに慣れてるから大丈夫だよ。 君は慣れてないんだし、風邪でもひいたら大変だよ」
そう言って、俺が少しほどいたマフラーを再度巻き直した。
「こ〜ゆ〜のって、男が女の子に『寒い?』って聞いてマフラーとか掛けるものなのに・・・情け無い・・・」
俺が小さく、ため息混じりに言った言葉を彼女は
「気にしなくていいよ。 その気持ちだけ貰っておくね」 笑顔で俺を見ていた。

テレビ塔の時計は4時50分を表示していた。
「そろそろ・・・行くね・・・」 そう言ってめーぐるは俺を見つめた。
「うん。 すっごく楽しかった・・・」 俺もめーぐるに言い返す。

・・・2人は、その場所に立ったまま動かないで見つめ合っていた。
それでも雪が空から地上に落ちてくるように時間は過ぎていく・・・

「何か・・・別れるのが寂しいね・・・」 めーぐるは笑顔で言ったけど、声のトーンは寂しさを感じさせた。
「明日も・・・ここで、めーぐるに会いたいな・・・」 俺は勇気を振り絞って言った。
めーぐるの表情が本当に嬉しそうな笑顔に変わった。
「うん・・・それじゃ、明日の1時にテレビ塔の前で待ってるね♪」 
「うん。 俺も待ってる・・・」 そう言って数分見つめ合った後で、めーぐるは後ろを振り向いて走って行った。

めーぐるの後姿を俺は見えなくなるまで見ていた。

2月12日 土曜日

「絶対にダメ!」 母さんは俺に向かって言う。
「でも・・・どうしても行かないと・・・ダメなんだよ・・・  お願い・・・1時間だけで・・・も・・・」
俺は母さんの服を掴んで立ち上がろうとしたけど・・・バランスを崩して、そのままホテルのベッドに倒れた。
「自分で立つこともできないのに無理に決まってるでしょ!」 母さんは心配そうに俺を見ている。
「でも・・・どうしても・・・」 38度7分の熱に頭がクラクラする・・・
「その、村上って女の子には母さんが会って事情を説明しといてあげるから!」 
そう言って母さんは俺の頭を『ベシッ!』と叩いた。
・・・何も言い返せずに、ただ天井を『ボーッ』とした頭で見つめる。
母さんが支度をしながらブツブツ呟いている。
「まったく、旅行先でも女の子を追っかけてるなんて・・・誰に似たんだか!!」
そんな母さんの言葉に俺が言い返す。
「昨日、大学生の人達にナンパされて食事だけおごらせて逃げて来たのは誰なんだか・・・」
そう言って、母さんに友理奈直伝?の冷たい視線を送っていたけど・・・
全く俺の言葉と行動を気にしないで、母さんはそのまま部屋から出て行ってしまった。

外の景色と同じ、真っ白なホテルの天井を見つめながら考える・・・
プリクラを見ながらめーぐるに話したのは
夏焼、千奈美、愛理と菅谷の幼馴染・・・
すごく仲がいい存在の友理奈と桃子・・・それに最近は清水とも仲がいいし・・・
須藤と石村の話もしたっけ・・・
この中に、本当に俺が大切に思う存在の子がいるって言ってたけど・・・
それに、気になるって言うなら・・・めーぐるの事も・・・

「本当の俺の気持ち・・・かぁ・・・」
そんな事を考えて・・・そのまま目を閉じて眠った。

どれくらい時間が経っただろう・・・
誰かが部屋に入ってくる気配を感じて目が覚めた。
ドアの方を見ると〜雪が少しコートに付いたままの母さんが立っていた。
「あっ・・・おかえり」 そう言ってベッドから起き上がった。
「どう? 調子は?」 俺の方を見ながら入り口から声を掛ける。
「あ〜・・・もう大丈夫っぽい。 それより〜・・・」 
俺がめーぐるの事を聞こうとすると、母さんは先読みしてたみたいでスグに反応して話し出した。
「1時前にテレビ塔に行ったけど、白いコートに白いマフラーの女の子なんて待ってなかったし〜来なかったよ」
「えっ・・・ちゃんと待ってた?」 俺は真剣な顔で母さんに聞く。
「その後も10分近く待ってたけど〜・・・やっぱり来なかったよ。 多分、忘れちゃったんじゃない?」
そう言って、母さんはシャワーを浴びるために服を脱いでシャワー室に入った。
「あっ・・・ちょっと!! 本当に居なかった??」 俺が大きな声で言うと
「居なかった!! だいたい、母さんだって特徴がそれだけあれば気付かない訳ないでしょ〜!!」
そんな声がバスルームのシャワーの音と一緒に聞こえた。

めーぐる・・・何かあったとか・・・俺みたいに体調崩したとか・・・
そんな事を考えて少し心配になったけど・・・
『めーぐるが最初から来る気が無かったのでは?』とは考えたくなかった。

熱は平熱まで下がっていた。
明日、この白銀の世界を離れて東京に戻る・・・
めーぐるとの思い出だけを残して・・・

もう1度、めーぐるに会いたい・・・

2月13日 日曜日

「短かった旅行も終りだね〜!」 母さんが俺の方を見て言う。
「本当に短かったよ・・・うん・・・」 俺は『ボーッ』としながら言う。

12時発東京行きの飛行機に乗るために俺と母さんは空港で待っていた。
只今の時間は11時・・・めーぐるとは会えないでこのまま帰る事になった。
心残りは・・・無い訳が無い。

「あのさ〜・・・」 俺は母さんの方を見て言う。
「無理だよ! それに、行っても居るわけ無いでしょ!」 先読みされてしまった・・・
「でもさ〜・・・」 俺は母さんをジーッと見て言う。
「だいたい、飛行機は12時に飛ぶの! 13時に大通り公園に行ける訳無いでしょ!」
ごもっとも・・・それに、めーぐるが居る可能性なんて0%に近い。
「母さん、搭乗手続きしてくるから〜あんた、そこに座って待ってて!」
そう言って母さんは行ってしまった。
空港のロビーの椅子に腰を下ろして『ジッ』と下を見て考える・・・
本当に・・・このまま別れていいの? 『別れていいの?』って言うか・・・別れるしか無いんだよな・・・
人生、諦めるしか無い事だってあるんだ・・・仕方ないよな。

10分以上待っただろうか?
(まさか!空港で母さん迷ったんじゃ〜・・・)
そんな事を思って辺りを見回すと、母さんが走りながら俺の方に来た。
「やけに時間掛かったね」 俺が近づいてくる母さんに言うと。
母さんは真剣な顔をして言う。
「本気で大通り公園に行きたいの?」 
「えっ!?」 俺は母さんの突然の言葉に戸惑う。
「どうなの!? もう、その子に会えないかもしれないんでしょ? 会いたいの?」
「どうしても会いたい・・・ 会っておかないとダメだと思う・・・」 俺も真剣な顔で母さんを見つめる。

1分ほど真剣な顔で見つめ合ってから、母さんは少し微笑んで俺に1万円を渡した。
「あんたなら半年は生きていける金額だね。 この借りは大きいぞ!」 そう言って俺にウインクした。
「えっ・・・でも、飛行機が〜・・・」 俺は母さんを見つめたまま言った。
「さっき、色々な人に頼んでた。 何とか15時発の飛行機に変えてもらたから心配しなくていいよ!」
そう言って、俺のおでこを『ベシッ!』と1発叩いた。
「母さん・・・ありがとう」 俺が笑顔で母さんに言うと
「簡単に諦めたらダメ! 特に、1度しか無いチャンスなら無理してでも掴みに行きなさい!」
俺は母さんの言葉を真剣に聞いた。
「母さんの子なら、それくらいの気持ちで生きなさい! 教訓よ! わかった?」
笑顔の母さんの言葉に大きくうなずいて・・・俺は駅のホームへ走って行った。

「まったく・・・無茶な性格は私譲りかな?」 
そんな事を小さく呟いていて息子の後姿を笑顔で見送っていた。

12時には大通り公園に着いていた。
1時間も早く着いたけど、15時発の飛行機なら最低でも14時には空港に向かわないと・・・
ギリギリまで待とうと思い、走ってテレビ塔の前に向かう。
テレビ塔の真下に来て、走ってきたために切れた息を整えようとする。
ゆっくりと呼吸を整えようとしても冷たい空気のために上手くできない。
・・・少しして普通の状態に戻って空を見上げる。
空から白い雪が自分の顔を目掛けて落ちてくる感じがした。
そんな俺を数メートル先で見つめている人の気配を感じた・・・
気配を感じる方に視線を合わせる。
俺の記憶のまま・・・最初に見た時と同じ服装で俺を見つめている・・・めーぐる。

「めーぐる!」 笑顔で俺を見つめている彼女に向かって言うと
「やっぱり・・・君なら来てくれるんじゃないかな・・・って思ってた」 そう言って俺に近づいて来た。
俺の目の前には本当にめーぐるが居る。
何も言わないで・・・ただ2人は見つめ合った・・・
雪が2人の間を無数に落ちる。
俺は、めーぐるの目を見ながら静かに話した。
「昨日・・・俺、熱出しちゃって・・・ここに来れなかったんだ・・・ごめん」 
そう言うと、めーぐるは何も言わずに俺に向かって話し出した。
「・・・自分の気持ちに気付いた?」
「えっ?」 めーぐるの言葉に反応して・・・
めーぐるは優しく俺を見つめている。 

真っ白なコートに真っ白なマフラー、めーぐるの綺麗な顔・・・本当に彼女に見とれていた。
本当の気持ちは・・・俺の今の本当の気持ちは・・・
「俺・・・本当に・・・めーぐるの事が・・・」

冷たい吐息と共に・・・俺の想いがめーぐるに伝えられる

「俺・・・本当に・・・めーぐるの事が・・・」 
続きを言おうとした時だった。 めーぐるが俺の言葉を切るように話し出す。
「今日は2月13日・・・バレンタインデーの前日・・・」 小さくて・・・寂しい声だった。
「・・・」 何も言わずに俺はめーぐるを見つめる。
「その続きの言葉は・・・この時期に男の子から言ったらダメな言葉じゃないのかな?」
そう言って、自分の付けていた片方の手袋を取ると俺の冷たくなった頬に優しくふれた。
手袋で温められためーぐるの手が俺の頬をそっとなでる。
「私も、君への気持ちは同じ・・・でもね・・・」 
めーぐるは少し寂しそうに微笑むと後ろへ3歩下がった。
そして、俺に向かって優しい声で言う。
「今日は2月14日じゃない・・・1日だけど・・・この1日が私と君との現実の距離・・・」
そう言って、下を向いたまま顔を上げようとしなかった。
「でも、お互いに気持ちが同じなら・・・」 そう言ってめーぐるに近づくと
「これ以上近づいたらダメ!! 本当に・・・離れられなくなっちゃうよ・・・」
・・・めーぐるが泣いているのがわかった。
俺は目の前で泣いているめーぐるを抱きしめる事ができなかった・・・
めーぐるの言葉が・・・それが2人の距離だと認めたみたいで・・・辛かった。

少しして、めーぐるが顔を上げる。
目は少し赤くなっていたけど、優しく微笑んで俺を見つめている。
目をそらさないで・・・涙を見せないで・・・そんな彼女が本当に素敵だと思った。
「私・・・君に会えて良かった・・・ 小さな時間だったけど・・・本当に・・・君に恋をしてたよ」
そう言って、めーぐるは1歩だけ俺に近づいた。
「俺も・・・めーぐるに会えて良かった。 本当に・・・めーぐるに恋をしてた・・・」
俺も1歩だけめーぐるに近づく。
目の前にめーぐるの顔がある・・・
そっと、瞳を閉じた・・・めーぐるの顔が・・・
俺も瞳を閉じて・・・彼女の冷たい唇に自分の唇を重ね合わせる・・・

『本当に・・・離れられなくなっちゃうよ・・・』

冷たいキスは・・・2人の願いを叶える事はできない。
それでも・・・ この瞬間だけでも・・・

あと1分で、めーぐるとのキスも昨日の事になってしまう・・・
東京の自分のベッドで時計の針を見ながら考えていた。

11時59分・・・残り30秒で1日が終り、始まる・・・

俺の部屋の戸を『トントン』と叩く音がする。
『ど〜ぞ』と言ってもいないのに母さんが部屋の中に入って来る。
「・・・プライバシーとか無しですか?」 俺が母さんに向かって言うと
「親子の間に、そんな物いらないから」 と笑いながら俺の近くに来た。
そして俺のベッドの横に座ると俺を見つめて言う。
「北海道旅行は楽しかった?」 優しく笑う母さんに
「色々あったけど〜行って良かった!」 笑顔で俺も返す。

母さんは俺が大通り公園から戻って来た後、めーぐるの事は何も聞かずに笑顔で迎えてくれた。
何も言わないで、ただ『おかえり』と言ってくれたのが嬉しかった。

母さんは俺を『ジーッ』と見つめると、そっと右手に持っていた綺麗に包装された箱を枕の横に置いた。
「バレンタインのチョコ? 何も14日過ぎてスグに渡しに来なくても〜・・・」 そう言って母さんを見て笑う。
そんな俺に笑顔で母さんが言う。
「それね、村上さんから母さんが預かってた物なの。『14日になったら彼に渡してください』って」
「めーぐるが!? 何で? いつ?」 俺が戸惑いながら母さんに言った。

戸惑っている俺の顔を、笑顔で見ている母さんが話し出す。
「12日に本当は母さん、村上さんに会ったの。 それで色々話したんだ」
「えっ・・・何だよそれ!?」 俺は母さんを『ぽかーん』とした感じで見つめて言った。
「それで、チョコだけ母さんに渡して、あんたと別れようとしてたから母さんが
 『明日、あのバカが本当に村上さんの事を想ってるみたいだったら、明日の同じ時間にテレビ塔に向かわせるから・・・待ってみる?』って言っておいた」
「そんな・・・最初から母さん・・・全部わかってて〜」 そう言い掛ける俺に『ベシッ!』と1発。
「バカっ! 飛行機のチケットは買ってあったんだから! 取り替えてもらうの必死だったんだぞ!」 
笑いながら言った後で・・・ 優しく母さんが俺に向かって言った。
「1度しかないチャンスなら・・・」 俺が続きを言う。
「無理してでも掴みに行け・・・」
母さんはその言葉を聞くと、俺の頭をなでて『おやすみ』と優しく言って部屋を出て行った。

めーぐるからのチョコには手紙も何も付いてなかった。
多分、手紙は必要無いんだ。
いつか、再会した時に話せばいいんだし・・・

俺の手帳の1番後ろのページには俺とめーぐるの2人で撮ったプリクラが貼ってある。
そして、住所録には可愛い文字で北海道のめーぐるの住所も・・・

めーぐるからのバレンタインチョコは彼女らしくハート型のホワイトチョコだった。

 

8:名前:〜恋する気持ち 溢れる想い〜[] 投稿日:05/02/22(火) 04:03:46

2月13日

「・・・って、事でいい?」 茉麻は電話先の雅に言った。
「・・・でも・・・私は・・・」 雅は何とも言えない気持ちだった。
そんな雅の気持ちを察して茉麻が言う。
「どうするかは雅ちゃん次第。 別に嫌なら嫌でもいいし・・・でも、このままじゃ・・・」

その後、会話は何も無く何分かの沈黙の後・・・
「それじゃ、明日学校でね!」 茉麻は雅に優しい声で言った。
少ししてから「うん・・・」と返事をしたものの既に電話が切れて『ツーツー』と音が耳に入ってくるだけで・・・
「わかってる・・・このままじゃ・・・ダメだって・・・」
携帯を右手で握り締めたままベッドに倒れこんで呟いた。
左手の中でチョーカーに付いている指輪を転がす。
銀色に輝く指輪・・・見つめる瞳には冷たく輝いているように映っていた。
薬指に指輪を通そうとする。
・・・はまる瞬間に指先から指輪がこぼれ落ちた。

「ダメなのは・・・私なのかな・・・」

瞳から溢れ落ちそうな涙を抑えようとして枕に顔をうずめた。

2月14日

北海道に比べたら東京の気温は全然寒くないのはわかってる。
でも、寒いものはやっぱり寒い訳で・・・
相変わらず家を出た瞬間に学校休みたい病に掛かる。
(う〜ん、あと1時間はベッドでヌクヌクしたかった)
そんな事を考えたと同時に2月の冷たい風が現実の世界に自分を戻す。
「・・・さて、行くか!」 自分に言い聞かせるように呟いて学校へ向かおうと歩き出した1歩目〜
「まだ、その寂しい独り言の癖が治ってないんだ・・・」
その声に『ハッ!』として顔を声の方に向けると・・・
「おはよう!!」 須藤が笑顔で俺を迎えていた。

久しぶりに須藤と一緒に学校へ向かう。
「いつもながら須藤の行動は読めないや・・・」
俺が須藤の顔を見ながら言うと
「行動が読まれちゃったら君の驚く顔が見えないじゃん!」 そう言って少し笑った。
「驚く顔〜ねぇ・・・」 
(やっぱり俺で遊んでるな) そんな事を思いながら須藤を『ジーッ』と見つめていた。
須藤はただ、前を見てるだけで何も言わない。
・・・その後、会話が一切無しの状態で学校へ向かう。
いつもの須藤と何か違う感じがした・・・と感じたのも束の間、須藤が突然立ち止まる。
(???) 俺も数歩先で足を止めて振り返る。
「どうしたの?」 須藤を見つめる。
須藤は立ち止まったまま俺を見つめて・・・静かに話し出す。
「君に言わないとダメな事があるの。 ちょっと学校行く前に寄り道しない?」
「えっ!? 今!?」 俺が驚いた声で聞き返すと
「そう。 えっと・・・そこの公園でいいや」 
そう言って300M先の公園に向かって須藤は歩き出した。 俺が『わかった』とも何も言ってないのに・・・

公園に着くと、須藤はブランコに腰を下ろした。
そして何も言わないで『ジーッ』と俺の顔を真剣に見つめていた。
(須藤・・・何か〜いつもと違う)
ただ俺の顔を見つめてる須藤が俺の目の前にいた。
「それで・・・話って?」 俺も須藤の顔を真剣に見つめて言った。
須藤は、それでも少しの間『ジーッ』と俺の顔を見て・・・一呼吸入れてから、ゆっくりと話し出した。
「今日はバレンタインデーだってのは鈍感な君でもわかってるでしょ?」 話してる顔も真剣だった。
「うん。 それは知ってるけど〜・・・」 俺は須藤の横のブランコに腰を下ろした。

須藤は俺がブランコに座るまで、ただ何も言わないで行動を目で追っていた。
俺がブランコに座るのを確認して須藤が話しを続ける。
「君の事を好きだって子が・・・学校の中に何人かいるんだよ」 須藤は俺の顔を見つめながら言った。
そんな須藤の言葉に俺はただ下を向きながら言う。
「うん。 最近色々あって・・・何となく気付いてた」 その言葉を聞くと
「さすがに気づいてたか」 と須藤は少し微笑んで言った。
「昨日まで北海道に旅行しててさ・・・色々あってね」 俺も須藤の顔を見て笑った。
俺の笑顔を見て、須藤が『クスッ』と笑って話しを続ける。
「昨日ね・・・ある女の子から電話が来たの」
「ある女の子!?」 驚いている俺に須藤が続ける。
「彼女が『そろそろ彼に決着を付けさせないと・・・』って言って、ある提案をしたの」
「その女の子って・・・」 俺は何となく・・・途中で言葉を飲み込んだ。
須藤も俺のそんな行動から気づいたらしく、質問に対して何も言わないで話を続ける。
「提案は・・・今日、君の事を本当に好きな女の子達が君にチョコを渡すから・・・」
「その中で、俺が本当に好きな子のチョコだけ受け取ればいいの? でも・・・」 俺が言い掛けると
「『でも、まだ誰が好きか自分でも気付いてない』って言うんでしょ? それも彼女は考えてたよ」 そう言って笑顔を見せた。
(やっぱり・・・その女の子って・・・) 俺の頭の中で1人の女の子が思い浮かんでいた。
「君は女の子達のチョコを受け取って、1ヵ月後の3月14日・・・本当に大切な相手に自分の気持ちを伝えてあげて・・・」

少しの間の沈黙・・・静まり返った公園に遠くから学校へ向かう下級生の大きな声が聞こえてくる。
「わかった。 俺も自分の気持ちを素直に伝えるよ」
そう言って笑顔を見せると須藤も笑顔になって〜俺の頬を右手でつねりながら言う。
「何か〜いつもの鈍感じゃない君って・・・ちょっと嫌な感じかも」
意地悪っぽい顔で『ニヤニヤ』笑って・・・いつもの須藤がそこにいた。
「あのな〜!! だからって何で俺の頬をつね・・・」
俺が言ってる最中に須藤は左手を俺の口に近づけて口の中に何かを入れた。

苦さと甘さが溶けながら俺の口の中に広がっていく

俺の頬から手を離すと須藤は俺の顔を見ながら言う。
「君の事が、ずっと好きでした・・・」 
顔を赤くして『ジーッ』と俺を見つめてる・・・
少しの静寂の後で
「まぁ〜私からの宣戦布告みたいなものかな?」 照れながら笑顔で俺に言った。
突然の出来事に呆気に取られいてた俺は「ありがとう・・・」と須藤に言うのがやっとだった。
そんな『ボーッ』としてる俺の手を掴むと
「そろそろ学校に向かわなきゃ! 告白してたから遅刻ってのは〜さすがにマズいでしょ!」
そう言って走り出した。

もう、溶けて無くなってるはずなのにチョコの甘さが、ずっと口の中に残ってるみたいだった。

俺と須藤は残り1分ギリギリで教室に入った。
入ってスグに自分の席に着いたけど・・・さっきの出来事が頭から離れないし『ドキドキ』が止まらない。
(須藤茉麻・・・須藤・・・茉麻・・・) なぜか頭の中で須藤の名前がグルグル回ってた。

・・・1時間目が始まっているらしい。
何も考えないで窓からグラウンドを見ていた。
低学年の男子がグラウンドでサッカーをやってる。
いつもなら『1時間目から体育なんて〜うらやましいなぁ』と見てる俺なのに・・・

周りがガヤガヤと騒がしくなったのに『ハッ!』として顔を上げる。
1時間目の授業は知らないうちに終っていた。
(えっ!? まだ5分も経ってない気がするのに・・・)
隣の席で千奈美が次の授業の算数の用意をしている。
そんな千奈美を『ポカーン』として見ていると、千奈美は俺が見ているのに気付いたらしく
「次の時間は算数だよ? 教科書でも忘れた?」
不思議そうに俺を見て言った。
「えっと・・・1時間目の国語って・・・もう終ったの?」
「もうっ! 授業中ずっと寝てたみたいだもんね〜・・・ちゃんと授業聞いてないとダメだぞ♪」
「う〜ん・・・そうなんだけど〜・・・」 俺が頭をかきながら言う。
そんな俺を見て『クスクス♪』と笑顔を見せる千奈美。
千奈美の笑顔はいつもと同じで可愛かった。

千奈美と国語の授業の内容について話していると・・・
「あの〜・・・」
後ろから声が聞こえて俺と千奈美が振り向く。
そこには菅谷が1人で『ポツン』と立っていた。
「菅谷・・・どうしたの?」 そう言って俺がいつものように菅谷に向かって手を上げる。
俺と菅谷が会うと必ずどちらかが手を上げて、上げられた手に相手がハイタッチする。
それが俺と菅谷だけの合図と言うか〜挨拶みたいになっていた。
笑顔で手を上げている俺に向かって菅谷が教室中に聞こえる大きな声で言う。

「大好きです♪ 君の事が大好きだから梨沙子のチョコを受け取ってください♪」
菅谷は笑顔で言うと、頭を下げて後ろに隠していたプレステくらいの大きな包装された箱を俺の前に出した。

10分休みで騒がしかった教室が『シーン』と静まって視線の先を俺と菅谷に向ける・・・
一瞬、戸惑ったけど・・・何か菅谷っぽい感じが嬉しくて・・・
俺は笑顔で「ありがとう。 すっごく嬉しいよ!」 そう言って菅谷のチョコを受け取った。
チョコを受け取った瞬間に菅谷が笑顔で俺に抱き付いてくる。
一気に教室中が騒がしくなる。 『キャー』とか『モテモテ男〜!!』とか変な野次が飛び交う中
「梨沙子ちゃん・・・皆がいる中で・・・言っちゃった・・・」 千奈美が驚いた表情で呟いた。
そんな千奈美に菅谷は俺に抱きついたまま言う。
「他の人なんて関係無いもん♪ 朝から『ドキドキ』が止まらなかったらスグに渡そうと思ってたんだ♪」
笑顔の菅谷を見て、千奈美も笑顔で菅谷に『梨沙子ちゃんらしいね』と優しく言った。
菅谷は『ギャーギャー』うるさい教室を関係無しに大きな声で言う。
「みーやは彼にチョコあげないの? 一緒に作ったじゃん!!」 そう言って夏焼を笑顔で見た。
さらに騒がしくなる教室〜だったけど、次の時間を告げるチャイムの音が鳴り響くと同時に少しずつ騒がしさも小さい物になっていた。

夏焼は少し照れた笑顔で『もう・・・』と小さく呟いて菅谷を見ていた。

3時間目の授業は音楽の授業だった。
リコーダーはそこそこできる方だったけど、今日のテストは100点と言ってもいいほど調子が良かった!!
女子と上と下に分かれて吹くんだけどパートナーが桃子だったのが良かった。
桃子と一緒に吹いた事は何回かあったけど全部◎を貰ってる! 相性がいいのかも?
吹き終わった後に桃子と見つめ合ってアイコンタクト!! 
席についてからも笑顔で合図!!

授業が終り、音楽室から次の授業へと皆がダッシュで教室に戻る。
俺もダッシュで教室に戻ろうとすると・・・突然、誰かが俺の手を握った。
「えっ!? ちょ・・・」 俺が戸惑ってるのも関係無しに彼女は走り出した。
彼女は後ろを1度も振り向かないで走り続ける・・・
階段を駆け上って・・・ 廊下を走って・・・ ドアを勢い良く開けて・・・
ドアの向こうには青空が広がっていた。
屋上に来て、やっと彼女は足を止めて・・・何も言わないで俺の手を握り締めたまま立っていた。
『キーンコーン カーンコーン』 次の授業を知らせるチャイムの音が空気を伝わって響く。
後姿の彼女に向かって俺が少し笑いながら言う。

「授業をサボるのは校則違反・・・また眠れなくなった?」
清水は何も言わないで、ただ俺の手を強く握っていた。

清水は俺の手を強く握ったまま手すりの所まで歩いて
「もう少し・・・時間もらっていい? まだ『ドキドキ』して・・・どうしていいかわからないの・・・」
ゆっくりと言った後で、ずっとグラウンドを見つめていた。
「授業1時間分・・・45分もあるんだし。 ゆっくり待ってるよ」 
そう言って俺も一緒になって誰もいないグラウンドを見ていた。

5分くらいして清水が小さい声で話しだす。
「ドキドキが止まらなくて死んじゃいそうだよ・・・ 私ってダメだね・・・」 そう言って、その場にしゃがみ込んだ。
俺も横に座って、下を向いてる清水に向かって言う。
「そんなにドキドキしてるの? 俺もドキドキしてるけど〜清水はもっとなんだろうな」
そう言うと清水は何も言わないで握ってる俺の手を自分の胸に持ってきて触らせた。
少し柔らかい感触と共に清水の鼓動の早い響きが手を通して伝わってくる。
「すごい・・・」 俺の言葉に何も言わないで顔を赤くしてる清水。
「すごい柔らかくて気持ちいい・・・清水の胸って・・・」 俺が真剣に言うと
「えっ!?」 小さい声で言って清水が俺の方を見る。
俺が清水の顔を微笑んで見ていたのに気付いて
「エッチ・・・ もう、宿題写させてあげないから・・・」 そう言って笑顔を俺に見せた。

清水の鼓動は少しゆっくりなものに変わっていた。

「・・・何で私が君を連れてきたかわかるよね?」 清水はちょっと笑顔で言う。
「また眠れなくなった訳じゃないよね?」 俺が少し笑いながら言うと
「それはもう治ったもん!」 清水がちょっと顔を膨らせて言う。
少しの間見つめ合って・・・2人で笑った。
笑ってる途中で清水がスカートのポケットから小さな箱を取り出して、その箱を見つめながら言う
「これ・・・何だと思う?」 少し恥ずかしそうに小さな声で・・・
「多分・・・チョコレートかな?」 俺が言うと清水は『クスッ♪』と笑って
「あのね・・・1つお願いがあるの・・・」 そう言って清水は俺の目を見た。
「何?」 俺も清水の目を見て言い返す。
「『佐紀』って・・・呼んで欲しいな・・・」 そう言ってから
「君の事をずっと見てました・・・ 見てるだけで幸せだった・・・」

・・・次の言葉が清水は続かなかった。 
震えながら・・・下を向いてしまった・・・

俺は清水の手を掴むと自分の胸に持っていった。
「えっ!?」 驚く清水に向かって言う。
「早く言ってくれないと・・・俺のドキドキが止まらなくて死んじゃいそうなんだけど」 そう言って笑顔を見せる。
清水は少しの間、何も言わないで目を閉じて俺の鼓動を聞いていた。
1つ深呼吸をしてから笑顔で俺の目を見て・・・

「好きです 君が世界で1番好きです」

ゆっくりと俺に言った。
優しい笑顔で俺を見つめている清水に
「告白は嬉しいんだけど〜・・・でも・・・」 
俺の言葉に『えっ!?』と少し困ったような表情をする清水。
「チョコはくれないの? 佐紀」 そう言ってちょっと笑う俺に『あっ!』って表情をして急いで小さな箱を俺に差し出す。
俺は小さな箱を受け取ると「ありがとう 嬉しいよ」そう言って笑顔で佐紀を見た。
顔を赤くして少し恥ずかしそうに俺を見つめてる佐紀・・・

「チョコは手作りなの?」 俺が小さな箱を開けて中のチョコを見て言う。
「うん。 すっごく美味しく出来たから全部私が食べたいくらいなんだけどね〜♪」 そう言って俺を見た。
かなり前に須藤に言うように言われて清水を困らせた?言葉を思い出して同じ風にふざけて言った。
「チョコ・・・食べる? 俺の口移しで良かったら?」 
一気に顔が赤くなる佐紀
「な!?!?! 何をいっちゃってりしてるんですか!!! だからそんなキスが口づけとか・・・キスなんて絶対にダメですよ!!」
アタフタしながら必死に何かを言う佐紀に
「何で敬語なんだよ〜!」 俺が笑いながら言うと佐紀は気付いたらしく
「あ〜っ! 騙した〜! ひっど〜い!」 佐紀は顔を膨らました。
俺は佐紀の可愛い怒り顔を見て笑ってる。
佐紀は俺の持ってる小さな箱からチョコを1個取った。
「1個没収!!」 佐紀は笑いながら言う。
「相変わらず甘いものは女の子の特権か〜」 俺は笑いながら言った。
佐紀はチョコを口に入れると・・・

そのまま本当に俺にキスをしてチョコを俺の口の中に移した。

「えっ!? 口移しとか?! えっ!?キスだよ!? な、何でですか?!」 俺は混乱してた。
「何で敬語になってるの〜? 少しは落ち着いてよ〜!」 そう言って笑いながら空を見てる佐紀。
佐紀の顔は真っ赤で〜何か言いそうに口を開けては、すぐに飲み込んで〜それを繰り返してる。
「突然のキスは反則だろ〜・・・って、絶対に佐紀の方がドキドキしてるくせに!」 
俺が笑いながら言うと佐紀は『クスッ♪』と笑ってから立ち上がり
「そんな事言っても、もう胸は触らせませんからね♪ エッチ♪」 そう言って笑顔でウインクをした。

4時間目の授業については、須藤が俺と佐紀の事を上手く誤魔化してくれたらしく別に先生に怒られなかった。
佐紀のいつもの行いの良さもあって『さぼってる』とは先生も考えなかったらしい。

給食の時間になって、給食当番だった俺は食器を取りに1階の給食室の前に行く。
生徒30人分の食器を持ちながら教室に向かうと、同じ給食当番の石村がパンの箱を持ちながら近づいてきた。
「食器〜1人で持って重くないの?」 石村は俺に向かって言う。
「たいした事ないよ。 それより早く給食が食べたいかな〜」 そう言って笑って石村を見た。
「ふ〜ん・・・もう何個かチョコ食べてそうだけどね〜」 そう言って石村は意地悪っぽく笑った。
「う〜ん、まぁ〜・・・ねぇ・・・」 俺が少し照れながら言うと
「昼休みに鉄棒の所で待ってて! 舞波がデザート食べさせてあげる♪」 
そう言って俺を『ニヤッ』と見て走って行ってしまった。

(・・・えっ? それって〜・・・石村が!?)
食器を持ったまま『ボーッ』とその場に立ちつくしてしまった。

昼休みになって、俺は3人の約束の場所・・・鉄棒の前で待っていた。
2月の風は冷たい。 それでも昼休みのグラウンドでは男子がサッカー、女子は縄跳びをしていた。
屋上の方に目を向けると女子と男子が何組かいて・・・多分チョコでも渡したり渡されたりかな?
(うちの学校ってチョコとか渡すの禁止のはずなんだけどなぁ・・・)
そんな事言っても『生徒が破るためにあるのが校則』なんて名言もあるし、既に3個貰ってる俺が言ってもなぁ・・・

『ぼーっ』と屋上の生徒達を見ていた。
(ついさっき・・・佐紀とキスしたんだよな〜・・・) 
佐紀とのキスはチョコの味がした・・・まぁ、当然なんだけど。
佐紀の笑顔を思い出して少し嬉しくなってる自分がいた。

屋上から校舎の方に視線を合わせると石村が俺の方に向かって歩いて来ていた。
(・・・あれ?) よく見ると、石村の横には1人の女の子が・・・
女の子は少し戸惑いながら石村に何か言ってる。

『桃子!?』

2人が俺の目の前に来る。
「石村に〜・・・桃子も!?」 俺が不思議そうに2人を見ると
「あっ・・・私は舞波に無理やり連れて来られたと言うか〜・・・ ほら!舞波がチョコ渡すの見届けるために♪」
少し焦ったような笑顔で言う桃子。
そんな桃子に石村は
「何言ってるの!? 桃ちゃんがチョコ渡さないと!!」 そう言って桃子を心配そうに見つめる。
「えっ・・・桃子!?」 俺が石村の言葉に桃子を見つめると・・・
「だから! 私のチョコはもう無いし〜それに愛理ちゃんの企画・・・私には関係無いよ・・・」
桃子は下を向いて寂しそうに言った。
「企画者の名前は言わないのが約束なのに〜! もう!!」 石村が桃子を少し怒った顔で見る。
(やっぱり愛理か・・・何となくわかってたけど・・・)

俺がそんな事を考えてると、スグに桃子が顔を上げて石村に笑顔を見せる。
「早く彼にチョコ渡して気持ちを伝えなよ! 桃子が待っててあげるから!」 石村に言った後で俺を笑顔で見て
「舞波って〜すっごくお菓子作り上手いんだよ♪ 絶対に美味しいから!! そのまま舞波の事も君〜好きになっちゃ〜・・・」
笑顔で言う桃子の言葉を切るように石村が
「桃ちゃん! それじゃダメだよ! 本当に彼の事を好きなのは桃ちゃんでしょ!! ずっと彼の事を見てたじゃん!」
石村の真剣な声に桃子は『・・・そんなこと』と小さく呟いて・・・また下を向いてしまった。
石村はそんな桃子を抱きしめて言う。
「桃ちゃん! 頑張って! 舞波、絶対に桃ちゃんを守るから・・・舞波の勇気も桃ちゃんにあげるから・・・」 ただ強く抱きしめる。
「でも・・・本当に私・・・チョコなんて用意してないよ・・・」 桃子が小さく言う。
石村は持っていたピンク色のリボンで可愛く包装された箱を桃子に渡す。
「昨日、桃ちゃんが作った・・・桃ちゃんの気持ちがいっぱい詰まってるチョコだよ」 そう言って笑顔を見せる。
「えっ・・・私の作ったチョコは必要無いからって・・・2人で全部食べちゃったじゃん・・・」 桃子が石村の顔を見つめながら言うと
「あれは本当は舞波のチョコ。 一生懸命にチョコを作ってる桃ちゃんの顔を見てて気づいたから・・・本当は彼のために作ってるんだな〜って・・・ でも、舞波の事を考えて桃ちゃんは・・・だから桃ちゃんのチョコと舞波チョコをすり替えておいたんだよ」

石村の優しい声と言葉に瞳から涙を流しながら・・・
「舞波・・・ごめんね・・・」 桃子は小さく呟いた。
桃子の頭をなでながら石村が俺の方を見て言う。
「桃ちゃんの気持ちを受け取ってあげて・・・ すごく純粋で優しくて・・・ 誰より君の事を好きな子だから・・・」
石村の笑顔を俺も笑顔で見つめた。

石村は桃子を優しく抱き離すと、桃子の泣き顔を見て言う。
「泣き顔も桃ちゃんは可愛いね♪ でも、笑顔の桃ちゃんはもっと可愛いからスマイルだよ♪」
そう言って桃子の涙をハンカチで拭くと、そのまま『ニコッ♪』と笑って走って行ってしまった。

何も言わないで石村の後姿を見つめている桃子・・・
少ししてから桃子が小さな声で話し出す。
「舞波・・・君の事が好きだったんだよ・・・桃子が気づいたのは最近・・・ 知らなかったって言っても体育館倉庫の時とか・・・舞波の事考えるとね・・・何か・・・」
そのまま桃子は声を出して泣き出してしまった。
「・・・」 俺も何て言えばいいかわからなかった。
「もう・・・どうしたらいいか・・・わからないよ・・・ 私・・・最低だ・・・」 桃子は両手で顔を隠して・・・そのまま泣き続けている。

俺は桃子を抱きしめて優しく言う。
「前に石村が『桃ちゃんは私が守る』って俺に言ったんだ・・・ それって桃子の笑顔を守るって事だと思うんだ」
俺の言葉に桃子が胸から顔を離すと、泣き顔のまま俺を見つめる。
俺は桃子の涙をそっと手で拭いて話を続ける。
「その時に、俺も桃子の笑顔を守りたいな・・・って思った。 俺は石村に『君は桃ちゃんがピンチの時は笑顔を見せ続けてあげて』って言われてたんだ」
そう言って俺は桃子に笑顔を見せる。
俺の笑顔を見て桃子は泣きながら笑顔になると、また俺の胸に顔を押し付ける・・・
「桃子の優しさとか笑顔で皆が幸せになってると思うんだ。 桃子の笑顔を俺も見ていたいって思うよ」
俺が言うと桃子は再び顔を胸から離して俺を笑顔で見つめて言う。

「桃子も君の笑顔を見ていたい・・・ 桃子を・・・ずっと笑顔で見つめていてください。 大好きです♪」

言い終わると桃子はまた俺の胸に顔を押し付ける。
「まだ・・・泣いてるの?」 俺が桃子に言うと
「恥ずかしくて・・・君の顔を見ていられないよ。 それに・・・こうやってるだけで桃子は幸せだから♪」

昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響く。
「次の授業が始まる前に戻らないとね♪」
顔を離して言った桃子の笑顔は、いつもより可愛く俺の瞳に写っていた。

「・・・桃ちゃん・・・良かった・・・本当に良かったね・・・」
遠くから2人の様子を見ていた舞波は目をこすりながら言う。
「何で舞波ちゃんが泣くかな〜・・・よくわかんないよ」 
隣にいた茉麻が舞波を見ながら言う。
「桃ちゃん・・・本当に彼の事好きだったから・・・舞波なんかより・・・ずっと・・・」
そう言った舞波を何も言わないで真剣な顔で茉麻は見つめ続ける・・・
「多分・・・舞波なんかより・・・桃ちゃんの方が彼を笑顔にしてあげれると思うから・・・」

『はぁ・・・』と茉麻が大きくため息を付く。
「なるほどね・・・彼を笑顔に・・・かぁ・・・」
そう言った後で泣いてる舞波にハンカチを渡して
「私・・・桃ちゃんや梨沙子ちゃんほど彼の事を思って・・・ないかな・・・ 私も一緒にこの企画から抜けるよ」
そう言って笑顔で舞波を見る。
舞波は茉麻の顔を涙目で見つめながら言う。
「茉麻ちゃんだって・・・彼の事をいっぱい好きなのに・・・」

茉麻は何も言わないで、舞波を笑顔で見つめていた。
今言った言葉が、自分の素直な気持ちとは反対なのに少し悲しくもなったけど・・・
「まぁ〜・・・彼が誰を選ぶか外野から寂しく一緒に見とどけますか〜」
そう言って舞波にウインクをする。

(初恋・・・だったんだけどな・・・)
小さく心の中で呟いてから茉麻は舞波に見られないように手で流れ落ちた1粒の涙を拭った。

「私の気持ち・・・どうやって伝えればいいのかな?」
夕暮れの放課後・・・友理奈に連れ出されて屋上にいた。
「私の胸にはチョコもある・・・大切な手帳もバッグの中に入ってる・・・」
俺を見つめながら・・・友理奈が言う。
「目の前には君がいて・・・後は素直な気持ちを私が言うだけ・・・」
そう言うと少し寂しい表情を見せて・・・友理奈は何も言わないで黙ってしまった。

沈黙が続き、静まり返る空気の中。
俺は何となく友理奈の気持ちを少し感じ取って・・・優しく話しかけてみた。
「ハピネス帳に書かれた事は増えた?」
俺が友理奈に笑顔で言う。
「あっ・・・うん。 そろそろ手帳のメモの部分は付け足さないとダメなくらいね♪」
友理奈も笑顔で俺を見て言った。
「そっか・・・俺も少しは書いて貢献してるからね! 友理奈のいい所だっけ?・・・8個書いたかな?」
「6個だよ! それに最後の『カワイイ』は『ちょこっと』って付けられたし!!」
友理奈が少し怒った顔で言うから、俺は『あ〜・・・そうそう』とか言って誤魔化した。

そんな俺を見ながら友理奈が話を続ける
「でも、ハピネス帳は途中から君の事ばっかり書いてあるんだよ・・・」
「えっ・・・そうなの?」 俺が驚いて言うと友理奈は『クスッ♪』と笑って・・・また寂しそうな顔をして下を向いてしまった。
「友理奈・・・何か寂しい事でもあるの?」
俺が心配になって友理奈に近づく。 
でも、俺が1歩近づくと友理奈は1歩下がる・・・
「友理奈?」 俺は立ち止まって友理奈を見つめる。
下を向いたまま友理奈は言う。
「千奈美ちゃん、雅ちゃん、桃ちゃん、梨沙子ちゃん、佐紀ちゃん・・・それに愛理ちゃん」 友理奈は寂しそうに言った。
「・・・皆がどうしたの?」 俺が不思議そうに友理奈に聞く。
友理奈は少し震えながら話を続ける。
「私は皆みたいに可愛くないし・・・良い所もあんまり無いし・・ この企画に参加する自体が間違ってる気がするの・・・」
「えっ!?」 俺は普通に驚いてしまった。
「絶対に輝いてる私を君に見せる事が出来ないと思うと嫌になるし・・・君に嫌われちゃうんじゃないかって・・・怖いの・・・」
消えそうな声で話す友理奈に俺が優しい声で言う。
「そんな事無いよ! 友理奈だって皆と変わらないくらい〜・・・」 俺の言葉をかき消すように友理奈が言う。
「ダメだよ・・・どうしても私・・・自信が持てないの・・・ 君に告白する勇気も無いんだもん・・・」
そう言った後で・・・
「君の前で弱音とか・・・最悪だよね・・・ もうだめだよ・・・私・・・本当に・・・」
そう言って無理に笑顔を作るけど瞳から涙がこぼれて・・・後ろを向いて泣き出してしまった。

後ろを向いて泣き続ける友理奈・・・

友理奈は強くて悩みとかも笑顔でふっ飛ばしちゃう女の子で・・・
俺の事をスグ叩いたりジョーダンを言うと大声で笑ったり・・・たまには冷たい視線とか・・・
でも本当はこんなにも自分に自信が無くて普通に悩んでる女の子だった。
(でも・・・だからって・・・)
俺はそっと友理奈に近づく。 2月の冷たい風を切るように・・・
近づくにつれ、何かに潰されるように心が重くなった感じがした。
でも、泣きながら肩をふるわせている友理奈だけを見つめて・・
(友理奈が・・・本当の友理奈が目の前にいるんだ)
そう思い、ただ素直に友理奈を受け止めてたいと思って1歩ずつ近づいていった。

俺は友理奈の真後ろまで行って、友理奈の背中に自分の背中を合わせた。
そして片方の手で友理奈の手を握って・・・ゆっくりと言う。
「『笑顔の友理奈』『放送室での真剣な友理奈』『本当は弱い友理奈』『泣き顔の友理奈』『冷たい視線を俺に送る友理奈』」
友理奈は何も言わないで聞いてる。
「『ふざけて俺を叩く友理奈』『縄跳びを必死に飛ぶ友理奈』『少し寂しい表情の友理奈』『恥ずかしがる友理奈』」
俺は手を離すと、振り向いて友理奈の後姿に優しく言う。
「『ちょこっとじゃなくて・・・本当にカワイイ友理奈』」
沈みかけのオレンジ色の夕日が友理奈の髪を淡く染める。
「友理奈のいい所・・・俺の好きな友理奈を10個言ってみた・・・もっと言えるよ! 素敵な所が友理奈にはたくさんあるのに自信が無い?」
後ろを向いたままで友理奈が小さい声で言う。
「私なら・・・君の好きな所・・・20個は言えるもん・・・」
言い終わると前を向き、俺の顔を見つめていた。 
水色の紙で包装された小さな箱を胸に抱きしめながら・・・

「もっと・・・もっと色々な私を見せるから! 君の事を今以上に好きになって・・・強くなるから・・・君には負けたくないもん!」
友理奈は顔を赤く染めながら真剣に話し続ける。
「誰にも負けたくないし・・・君を好きな気持ちだって絶対に負けない・・・だから・・・だからね・・・」
そう言って胸で抱きしめてたチョコを俺の前に出す。
「友理奈の気持ちを・・・受け止めてください。 君の事が大好きで・・・好きの言葉しか言えない・・・」

俺は笑顔で友理奈のチョコを受け取めた。
友理奈の言葉は俺の中でいっぱいになっていた。
友理奈も笑顔で俺を見てたけど・・・途中で涙がこぼれる。
「あれ? 幸せな気持ちなのに・・・私って変だね」 そう言って涙を流しながら笑顔で俺を見つめる友理奈。
そんな友理奈を見ていて、気持ちがいっぱいになったと言うか・・・なぜか俺も少し涙目になってしまった。
「君も涙目とか〜2人とも変だね♪」
友理奈が俺の目を見つめながら近づくいてくる。
「う〜ん・・・わからないけど・・・何か気持ちがいっぱいになったと言うか・・・ってか、何で涙が出てくるのかな・・・」
俺は自分の目から涙が出てるのが不思議で・・・でも、涙を流しながら友理奈の目を見続ける。
友理奈も俺の目を見続けて・・・

友理奈が少し顔を近づける。
そのままお互いの距離が引き寄せられるみたいに近づいていって・・・

夕日が眩しかったから・・・ 
お互いに泣き顔を近くで見られたくなかったから・・・
それとも・・・

俺と友理奈は瞳を閉じてキスをしていた。

「今日は君と一緒に帰れないよ」
友理奈が校門の前で俺に笑顔で言う。
「えっ・・・何で? 帰る方向だって一緒だし〜いつも一緒に帰ってるのに」
俺が不思議そうに言うと、友理奈は笑いながら俺に言った。
「今日はね〜・・・」
   ・
   ・
   ・
   ・
   ・
「友理奈ちゃ〜ん!? おかしいな・・・一緒に帰ってから彼の家に行くって言ってたのに・・・」
学校から出て来て辺りを見渡して・・・そんな千奈美に俺が近づいて行く。
途中で千奈美が俺に気づいて『あっ!』って顔をして見つめていた。

「あれ? 何で残ってるの?」
目の前にいる俺に向かって千奈美が言う。
「友理奈に〜千奈美と一緒に帰れって言われたもんでね」
千奈美を見ながら俺が笑顔で言うと
「えっ・・・・・・あ〜っ!! も〜!!友理奈ちゃんのバカ〜ッ!!」 
そう言って千奈美は顔を赤くして・・・俺から目をそらした。
千奈美はブツブツと『ズルいよ〜』とか『絶対に許さないんだから〜』と小さく呟いていた。
そんな千奈美が何となく面白いと言うか可愛いと言うか・・・俺は笑ってしまった。
「君まで何〜!? も〜!知らないっ!」 そう言ってそっぽを向いてしまった。
やっぱり、その行動が面白くて笑ってしまう。
ちょっとこっちを見て・・・『フフッ♪』と千奈美も笑った。

「そろそろ帰ろう」 俺が千奈美に笑顔で言うと
「そだね♪」 千奈美は優しく微笑んで俺の手を掴んだ。

「今日1日〜どんな1日だった?」 千奈美が俺の横を歩きながら言う。
「どんなって〜・・・色々かなぁ・・・」 俺が空を見上げながら言う。
千奈美は『そっか』と小さく呟いて、何も言わずに俺と同じく空を見ていた。
1面に広がるオレンジ色のキャンバスを眩しそうに見上げながら歩く2人・・・

「この企画・・・誰が考えたか知ってる?」 千奈美が小さい声で話し出した。
千奈美は優しい顔で俺を見つめながら返答を待っていた。
俺も千奈美の顔を見つめて言う。
「愛理なんだよね。 桃子が言ってた・・・でも、その前から何となく気づいてたんだけどね」
俺が少し笑顔になって言うと
「愛理ちゃん・・・君のために皆に電話して、君のために企画して・・・」 

何故か千奈美は途中で話を止めた。
俺は不思議に思いながらも・・・何も言わないで千奈美を見つめていた。

家に帰る途中にある小さな橋。
よく、千奈美と小さい頃に一緒に遊んだ記憶がある。
夕焼けを映してキラキラ光ってる川を見ながら歩く・・・
橋を渡りきった所で・・・違和感を感じ振り返る。
千奈美は反対側の橋の手前で立ち止まっていた。
「あれ?千奈美・・・どうしたの?」
俺は反対側の千奈美に向かって言う。
千奈美は俺の方を真剣な顔をして見てて・・・ 
突然『クスッ♪』と笑って言う。
「小さい頃に、良くココで遊んだよね」 千奈美の言葉に
「橋にチョークで絵を書いたり、川の中に入ってびしょ濡れになったりしたっけ」 俺が千奈美に言う。
「君、1年生の時に川で溺れかけたよね?」 そう言って笑い出す千奈美。
「千奈美は溺れてる俺を見て泣き続けて助けてくれなかったっけ〜」 俺も笑いながら言い返す。

微妙に離れた距離で、お互いに色々な思い出を語り合う。
『そう言えばあんなこと・・・』『あったね! あの時は・・・』 
本当に会話が止まらなかった。
「私が虫嫌いなの知ってるくせに〜バッタとか捕まえて追いかけ回したり〜・・・結構、苛められたな〜・・・」
「そんな昔の話は記憶に無いかな・・・ってか、でっかいバッタ捕まえたから見せただけだろ?」
言い返す俺を笑顔で見ている千奈美・・・その顔が少し寂しい笑顔に変わった。
「千奈美・・・どうしたの?」 俺が言うと
「この企画は愛理ちゃんが考えて・・・でもね、1つだけ・・・皆が知らないルールがあるんだよ」
千奈美がゆっくり歩き出して橋の真ん中で立ち止まる。
「ルールって『企画者の名前を言わない』・・・でしょ?」
言いながら俺も橋の真ん中まで歩く。
俺と千奈美は数センチの距離で見つめ合う・・・千奈美の表情は寂しい笑顔のままだった。
何も言わずに千奈美を見つめ続ける・・・そんな俺に千奈美がゆっくりと言った。
「企画者は告白することはできない・・・愛理ちゃんも君の事を・・・でも気持ちは伝えたらダメなんだって・・・」

「えっ!?」
俺は千奈美の言葉に驚いて声を出した。
千奈美は話を続ける。
「電話先の愛理ちゃんの声がすっごく優しい声で・・・君の事を好きだから安心してると言うか・・・」
俺は無言で千奈美の言葉を聞いていた。
「愛理ちゃんの君に対しての愛情も素敵だと思うけど・・・ でも、私は幼馴染のままの関係より君にもっと近づきたい!」
千奈美の表情が真剣なものに変わっていた。
「愛理ちゃんにも『千奈美ちゃんは絶対に気持ち伝えないとダメ!』って怒られちゃったんだ・・・だからね・・・」
千奈美は瞳を潤ませながら俺を見つめている。

「ずっと好きでした・・・これからも、この気持ちは変わらないと思う。 幼馴染じゃなくて・・・恋人として君と一緒にいたいの・・・」

言い終わると千奈美はこぼれ落ちた涙を手で拭いながら言う。
「いつから好きだったのかな・・・多分、君の存在を感じたときからだと思う。 やっと伝えられたら・・・力・・・抜けちゃった・・・」
一生懸命に涙を拭うけど涙は止まらなくて・・・
俺は千奈美の濡れた頬にキスをした。
『君の存在を感じたときから・・・』
小さい頃から遊んだり、喧嘩したり、笑ったり・・・俺と千奈美はずっと一緒にいたんだ。
いるのが当然のような存在・・・
途切れることなく・・・常にお互いが存在するのが当然のように・・・
『幼馴染じゃなくて・・・』
お互いに幼馴染の枠を抜けたい気持ちは一緒だったんだ・・・
俺が頬にキスをした後、千奈美も俺の頬にキスをする。
お互いに見つめ合って・・・小さく微笑んで・・・
瞳を閉じて・・・そのまま・・・

『ブーーー!!』
車のクラクションに『ハッ!』となって俺と千奈美は音の鳴る方を見る。
橋を通るのに邪魔だったのかな?と思って車を見ると・・・
「か・・・母さんの車?」 
千奈美が顔を真っ赤にして反対側を向いて顔を見せないようにした。
母さんは車から降りると俺と千奈美に近づいて言う。
「もしかして〜お邪魔だった?」 『ニヤニヤ』笑いながら言う母さんに
「と、突然どうしたんだよ!? 何か用!?」 と焦りながら言う。
母さんは俺をシカト状態で千奈美の方を見て
「千奈美ちゃん、久しぶりだね! 千奈美ちゃんも可愛くなって〜・・・このバカのお嫁さんに来て欲しいくらいだよ」
千奈美は赤くなった顔をさらに真っ赤にして
「お、お久しぶりです!!! あっ、あの、べっ、別にキスとかまだしてませんから!」 焦りながら言う千奈美に
「ほ〜・・・キスしようとしてたんだ!」 と笑いながら言う母さん
『バカッ・・・』小さく俺が呟いたけど千奈美は既に意識が飛んじゃったと言うか〜・・・『ぼーっ』とひきつった笑顔で立ったまま動かなくなってしまった。
突然、そんな千奈美の頬に母さんがキスをする。
(この人!!何やってんだよ!?) 俺も『ポカーン』として母さんを見る。
「ちょっと、このバカに用事があるから〜そろそろお返し願います♪ ちゃんと千奈美ちゃんは家まで送ってあげるから許して!」
そう言ってウインクを1つ。
「あっ・・・あ、あの・・・はい。 不束者ですが・・・」 千奈美が必死になって頭を下げて言う。
(その言葉って・・・もう、何を言ってるのかも自分でわかってないんだろうな)
俺も母さんも千奈美の言葉に笑ってしまった。

千奈美の家に到着。 
千奈美は車から降りる時に
「あの・・・これ・・・ねっ♪」
そう言って恥ずかしそうに俺にチョコを渡した。
「あっ・・・ありがとう」 俺も照れながら言って・・・お互いに見つめ合う。
「千奈美ちゃんからチョコなら毎年貰ってるじゃん! 何を今更恥ずかしがるかな〜そこの若者」
からかうような母さんの野次が飛ぶ。
俺が母さんを『何だよ〜・・・』って感じで睨む。
千奈美は母さんの言葉に『クスクス♪』と恥ずかしそうに笑って、そのまま笑顔で俺に手を振って家に入っていった。

「で〜・・・いったい何の用件でしょうか?」
俺が母さんを睨みながら言うと
「あんた、北海道での1件・・・忘れてないよね?」 そう言って『ニヤッ』と笑った・・・もちろん運転してるから前を向いて。
「北海道の1件って・・・別に息子のお願いだったんだし。貸借とか親子の間で・・・ねぇ?」 
『これ以上無い!』って笑顔を見せる俺に母さんは
「千奈美ちゃん、村上さんの事知ってるのかな? ちょっと電話して聞いてみようか?」 そう言って車を止めてポケットから携帯を取り出す。
「・・・何の用でしょうか?お母様・・・」 俺がしぶしぶ言うと『よしよし』と小さく呟いて
「3丁目の中島さんってお店〜・・・わかるでしょ?」 母さんがウインカーを右に付けながら言う。
「えっ・・・お店? あ〜・・・前に同じクラスの女子でいたよ。 中島早貴って〜写真屋さんの」
「そうそう。そこそこ!」 母さんが適当な感じで返事をする。
「で〜? 写真屋に何の用?」 俺は、何か嫌な予感を感じながら聞くと
「何か〜あんたに写真のモデルやって欲しいんだって。 男の子1人必要だって言うから〜・・・」 母さんが淡々と話す。
「・・・そんな頼みを何で受けたの? 俺の承諾も無しに・・・」 俺がローテンションの声で言うと
「昼にホテルの豪華な食事を食べさせてくれたから〜美味しかった! フカヒレとか出てくるんだもん!」
母さんの満面の笑みに『ハァ?』と俺が文句を言おうとした瞬間
「雅ちゃんは〜村上さんと性格合いそうよね? 今度、紹介してあげて仲良しにしてあげれば?」 間髪入れずに言う。
「わー!俺、写真のモデルなんて嬉しすぎてー! 母さんありがとー!」 ・・・これ以上無い棒読みで言ってやった。

「ところで、今年はチョコ何個貰った?」 母さんが運転しながら言う。
「別に関係無いだろ! そんなに貰ってないよ!」 俺が言い返すと
「去年は7個だったもんね〜・・・本当に人気が無いと言うか・・・もっと増やしなさいよ!!」
(・・・母親の発言とは思えないなぁ) 俺は何も言わずに母さんを軽く睨んだ。
いつものようにシカト状態で母さんは話を続ける。
「千奈美ちゃんからはさっき貰ってたし〜 あの清水って子も多分くれたでしょ?」 母さんのカンは良く当たる。
「・・・まぁ」 適当に返事。
「母さんの本命リストの中の2人、雅ちゃんと愛理ちゃんからは?」 笑顔で俺に言う。
「・・・」 
何も言わない俺に『幼馴染から貰えないとは・・・情け無い・・・』と呟く。

そろそろ店に着くかな? って時に突然、母さんが恐ろしい事を話し出した。
「そう言えば〜2年前かな? あんた、中島さんのお嬢さんからチョコ貰ったの覚えてる?」
「えっ!? そうだっけ?」 突然の母さんの発言に驚きながら返事をすると、母さんがため息混じりに『ボソッ』と呟く。

「家まで来て渡してくれたのにね・・・『ごめんなさい』とか〜・・・泣いちゃって・・・可哀想だったね〜」

俺の中で、その時の記憶が甦ると同時に『サーッ』と血の気が引いていくような感じがした。
しかし、俺の気持ちを考えもしないで車は止まり・・・
『中島写真店』に到着した。

「何で車から降りないの?」 母さんが不思議そうに俺に言う。
「あっ、あのな〜!何で最初にそれを言わないの!? ってか普通、知ってて『OK!』する!?」
混乱する俺のオデコを『ベシッ!』と1発。
「母さんはあんたに貸しがある!それがホテルのランチに変わった! それだけで十分!」 『当然!』って感じで母さんが言う。
(・・・だめだ。 この人と言い合っても無理だ・・・ってか、行くしか無いかぁ・・・)

店の裏から入ると母さんは出迎えてくれた中島のお父さんと『あ〜だ こ〜だ』話し出した。
『こんな息子でよかったら〜』 って言葉が普通に聞こえてくる・・・
数分くらい経って話が終わると〜中島のお父さんは俺に向かって言う。
「君、じゃあ〜奥に行って着替えてきてよ!」 俺が無言でうなずくと中島のお父さんは奥に向かって言う。
「早貴〜!お客さんを試着室まで案内してやってくれ!」
その言葉に『ドキッ!』とすると・・・数秒後に1人の女の子が走りながら来て・・・
「あっ・・・」 俺の顔を見て小さく声を出した。

俺の前をスタスタと歩く中島・・・ それに無言で付いていく俺・・・

俺を見た後の中島は何も言わないで・・・ただ真剣な表情で俺を見ていた。
「どうぞ・・・」と、小さく言うとスタスタと歩き出して・・・

この何とも言えない状況が辛くなり・・・俺は勇気?を出して声を掛ける。
「あのさ・・・」 俺の言葉に中島が足を止める。
「えっと〜・・・久しぶりだね・・・」 俺が言うと中島は後ろを向いたままで
「そうだね。2月14日のバレンタインデーに再会するなんてね・・・」 相手を凍らせるような小さな声で・・・
俺の顔から血の気が引く・・・ 話題を変えないと!!!!
「ま、まぁ〜4年の時から違うクラスだから・・・お互いに情報と言うか〜無かったしね〜!」 それに対して
「放送・・・聴いてたから知ってるよ。 彼女がいっぱいいるみたいだね・・・」 さらに冷静にトーンの低い声で・・・
(ヲイヲイ・・・俺を凍らせる気ですか・・・)
「えっと〜・・・だから〜・・・う〜ん・・・ 3年生ってさぁ〜何て言うのかな〜・・・も〜!!! え〜っと・・・」
俺がアタフタと焦っていると、中島の肩が少し震えた。
「な、中島?」 俺が心配そうに声を掛けると・・・
「アハハッ♪ も〜!何を心配してるの? ちょっと前の事だよ〜! 私が怒ってると思った?」
振り返って笑顔を見せながら言った。
「えっ!? だっ、だって・・・何言っても寂しい返事が来るんだもん・・・」 俺が呆気に取られた状態で言うと
「ごめん♪ 今のはジョ〜ダン♪ でも、これであの時に泣かされたの無しね・・・って、私が勝手に泣いちゃったんだけどね♪」
そう言って笑顔で舌を出した。
「はぁ・・・良かった・・・俺、マジで嫌われてたらどうしようと思って〜!!!」 俺が安心した顔で言うと
「だって・・・君が来るって、お父さんから聞いてたもん♪ だから、どうやって驚かそうかと思って〜」
笑顔の中島を見てたら・・・何か俺も笑顔になってて、一緒に笑ってた。

中島が青いドアの部屋の前で立ち止まる。
「ここが待合室と試着室! 同じ部屋なんだけどゴメンね〜!」 そう言って笑顔で俺に言うと・・・
突然、青いドアが開いて年下?の女の子が2人出てきた。
(何だ!?) 俺が『ぽかーん』として見てると
「舞ちゃん!千聖ちゃん! 突然出てきたら危ないでしょ!!」 中島が少し怒って注意する。
「ごめんなさーい♪」 舞ちゃんと呼ばれた子が頭を下げる。
「でもね!!待ってるの飽きたんだもん! 出番はまだ〜!?」 今度は千聖ちゃんと呼ばれた子が中島に言う。
中島は俺の方を優しい笑顔で見ながら言う。
「次のモデルが到着したから。 2人はそろそろ準備していいよ!」
その言葉を聞いて、2人は俺を少しの間『ジーッ』と見つめた。
俺は『可愛い子達だなぁ〜』と思って笑顔で2人を見つめ返すと・・・
「う〜ん・・・Aの下って所かな?」 舞ちゃんの辛口評価に呆気に取られる。
「まぁ〜・・・一緒に歩いてて形にはなるかな? 性格次第では化けるんじゃないの?」 千聖ちゃんが舞ちゃんに向かって言う。
混乱する俺をフォローするように中島が
「そっ、そんな事無いでしょ! ほら!カッコ良くない? 結構、学年でも人気あるんだよ!!」 と焦りながら言った。

「う〜ん・・・ ちょっと・・・ねぇ?」 舞ちゃんが千聖ちゃんの方を見て言うと
「相手役として〜・・・レベルが違いすぎると言うか〜・・・ねぇ?」 千聖ちゃんも舞ちゃんの方を見て言う。
(・・・相手って何だよ・・・) 俺がちょっと凹みながら考えていると
「も〜!舞ちゃんは早く2階で着替えてきなさい!」 中島のカミナリがついに発動!
それを聞いて『ヤバッ・・・』って顔で2人は笑いながら走って行ってしまった。
「・・・ごめんね〜。 可愛い子達なんだけど〜ちょっと生意気と言うか〜・・・」
少し申し訳なさそうに笑う中島に俺が「あの2人もモデルなの?」 不思議そうに聞く。
「えっ!? 舞ちゃんがモデルで千聖ちゃんは付き添いなんだけど〜・・・」
言った後で、俺の顔を見つめながら少し考えて・・・
「もしかして〜今日のモデルって・・・何の写真を撮るか知らないの?」 中島が『まさかね?』って感じで笑いながら言う。
「いや、全然聞かされて無いからわからないんだけど〜・・・それに千聖ちゃんが俺を見て『相手役』って言ってたけど〜・・・」 
俺が頭をかきながら言う。
そんな俺を中島は驚きの表情で見て〜・・・少し見つめてから『ニコッ♪』と笑顔を見せて
「多分、君のお母さんが内緒にしたんだろうな・・・まぁ、何のモデルかは部屋に入ればわかるよ♪」
そう言って部屋のドアを開ける。
俺が不思議に思いながら中に入ると・・・

部屋の真ん中には1人の天使が座っていた。
純白のドレス・・・ウエディングドレスを着て何も言わずに俺を見つめている。
その素顔が可愛くもあり、綺麗でもあり・・・
天使は椅子から立ち上がると俺の目の前まで来た。
俺の目を優しい表情で見て・・・少ししてから『クスッ♪』と笑った。

「新婦役の夏焼雅です♪ 今日はよろしくお願いします♪」

そう言って俺を笑顔で見つめた。

「えっ・・・え〜っ!!!!!!!」
俺は店中に響き渡るんじゃないかって声を出して驚いた。
そんな俺を夏焼と中島は顔を見合わせて『クスクス♪』と笑っている。
「な、何でウエディングドレス・・・夏焼結婚するの!?」 俺が焦り度MAX状態で言う。
中島が笑いながら話し出す。
「今日は結婚式のパンフレットで新郎とか新婦の子供版って言うのかな? それの撮影なんだよね」
「えっ!? だって、そんなの主役の2人以外いらないじゃん! 俺達の年じゃ結婚できないし〜・・・」
そんな俺に中島が笑顔のまま続けて言う。
「最近は子供とかも目立たせる〜って親が多くてね。 色々着せたがるの!結構いい商売なんだよ!」
中島がウインクを1つして、ふざけて『お金儲け』って感じで手で○を作る。
その行動に夏焼が『アハハッ♪』と笑うんだけど・・・
数センチ先の夏焼が・・・本当に可愛いすぎて・・・
(でね〜・・・って、あちゃ〜・・・)
薄く塗られた化粧が夏焼をいっそう綺麗に彩って・・・
(雅ちゃんにメロメロで聞こえてないね〜ってか、こんなに可愛かったら仕方ないか・・・)
本当に天使なんじゃないかな・・・

「わーーーーー!!!!!!」
突然、耳元で大きな声で誰かに叫ばれて・・・
キーンとなって目が覚める。
「少しは目が覚めた? 一応、モテるらしいお兄さん?」 声の主の舞ちゃんが真っ白なドレスを着て立っていた。
「えっ・・・あ〜・・・うん」 俺は耳がキンキンする状態で舞ちゃんを見つめていると
「雅お姉ちゃんに一目惚れしたの? 儚い夢は捨てた方が人生楽だよ〜」 今度は千聖ちゃんが言う。
中島はそんな2人に向かって
「はいはい!2人共邪魔しないの! 舞ちゃんは先に撮影してもらってきて! 千聖ちゃんは邪魔しちゃダメよ!」
そう言って笑顔で2人の頭を『ポンポン』と叩く。
『ハーイ♪』と元気な声で2人は部屋から出て行くと・・・
「本当に天使みたいに可愛い子達だよね♪」 夏焼が2人の後姿を見ながら言う。
「いや・・・天使は夏焼だよ・・・  あっ!!」 『ぼーっ』としてたとは言え何て事を!?
同時に夏焼の顔が真っ赤になって・・・
俺は必死になって『いや・・・あの・・・ドレスが似合ってて〜天使がいる〜じゃなくて〜だから〜・・・』
色々と必死に言うけど・・・さらに混乱していく。
夏焼は、そんな俺を『クスッ♪』と笑って
「お世辞でも嬉しいよ♪ 『パートナーとして合格』って解釈するね♪」 優しく微笑んで俺を見つめた。

(・・・ずるい。 こんな夏焼が目の前にいたら惚れない訳無いじゃないか)
俺は心の中で神様に文句を言った。

母さんが来て俺もタキシードに着替える。
「全然聞いて無かったんですけど!!」 文句を言う俺に
「・・・文句言うわりには何で顔はニヤけてるの? 今からキャンセルしてもいいよ?」 と意地悪な笑みを見せる。
「うっ・・・頑張ってきます・・・」 親子ならではの独特な話し合いをしてから着替え終わって待合室に戻る。
待合室には夏焼の横に女の人がいて〜・・・ 見た瞬間に『前に会った事あるなぁ』と思ったら夏焼のお母さんだった。
俺が夏焼の前に少し恥ずかしがりながら行くと、夏焼のお母さんが笑顔で言う。
「わ〜!見ない間に大きくなって! それにタキシードも似合ってるよ!」 そう言って夏焼に『ねっ?』と小さく言う。
夏焼も俺を『ジーッ』と見て「うん。 すっごくカッコいいよ!」と笑顔を俺に見せた。
もう、その笑顔の夏焼がやっぱり可愛いくて・・・ また見とれてしまっていた。
そんな俺に夏焼のお母さんが言う。
「雅は家では誰かさんの事ば〜っかり話してて〜最近も八景島の話を延々と・・・ねぇ?」
その言葉に顔を真っ赤にしながら夏焼がアタフタと『違うの!?』とか『何言ってるの!?お母さん!!』とか色々な表情を〜・・・全部可愛い。
焦る夏焼を笑って見ていた母さんが言う。
「うちの子も『雅ちゃん雅ちゃん』ってうるさくて〜! 可愛いとか綺麗とか〜もうベタ惚れと言うか〜・・・」
そんな母さんに『はぁ!?』とか『何訳わからない事言ってるんだよ!!』とか必死に抵抗するけど〜・・・親同士は、そんな子供の必死の言葉も聞かずに笑っている。
俺と夏焼は恥ずかしがりながらも目が合ってしまって〜・・・ お互いに『困った親だねぇ・・・』って表情をして笑った。

夏焼のお母さんは話を進める。
「雅がウエディングドレス着ちゃったから婚期が遅れちゃうか心配だったけど〜安心かな?」 そう言って俺を見て笑った。
「おっ、お母さん!! そ、それ以上言ったら私帰るからね!!」 顔を真っ赤に染めて夏焼が怒った声で言う。
それに対して俺の母さんが恐ろしい事を言い出した。
「でもね〜・・・結婚の話は幼稚園の頃から徳永さんに鈴木さん、菅谷さんにも言われますし〜・・・う〜ん・・・でも雅ちゃんならなぁ・・・」
そう言った後で夏焼を見ながら「さて雅ちゃん!どうする!?ウチに嫁ぎに来てくれる?」 と笑顔で夏焼に言った。
その言葉に、さらに顔を赤くして『あの・・その・・・』と困惑してる夏焼。
俺も必死になって夏焼をフォローする。
「な、何を訳わかんない事言ってるんだよ!夏焼が困ってるだろ!?」
焦ってる俺と夏焼の事は関係無しに夏焼のお母さんが話し出す。
「あ〜・・・結婚の話ありましたね! 幼馴染同士で男の子1人だったら誰のお婿さんになるかとか親同士で取り合ったりして〜」
そう言って俺の母さんと一緒になって笑っていた。
(子供の気持ちは無しですか・・・)
そんな事を思いながら俺が『ハァ・・・』と小さくため息をついていると
「そろそろ時間なんで撮影所に来てくださ〜い♪」 部屋に入ってきた中島が笑顔で俺達に向かって大きな声で言った。

途中から夏焼の表情が少し寂しいものに変わっていた事には誰も気づいてなかった。

撮影も無事に終わり衣装を脱いで帰る用意をする。
その間に、母さんは先に舞ちゃんと千聖ちゃんそれにお母さん達を車で送るために行ってしまった。

1人『ぽつーん』と待合室で待っていると・・・普段着を着た夏焼が入ってきた。
モコモコした感じの白いセーターに白のミニスカート、夏焼に似合った感じで〜やっぱり可愛かった。
俺が笑顔で夏焼を見ていると、夏焼も『ニコッ♪』と笑って俺の横に座った。
「君のお母さんから言伝で・・・歩いて帰って来いだって」
「えっ!? 何で??」 夏焼の突然の発言に驚きながらも聞き返すと
「私が1人で夜道を帰るのが危ないから・・・ボディーガードらしいよ」 そう言って笑った。
「・・・夏焼のお母さんは?」 俺は何となく予感はしてたけど・・・一応聞いてみた。
「今、皆で一緒に夕食を食べに行ったじゃない。 あれ?聞いてなかったの?」 不思議そうに俺を見る夏焼。
(やっぱりね・・・)
でも、ちょっと母さんに感謝したのは確かだ。
夏焼と一緒に帰る事になるなんて・・・
素直に言えば、俺は今日の彼女を本気で・・・
純白のドレスが夏焼を輝かせたから・・・それとも俺が誰かに魔法を掛けられてしまったのか・・・
多分、夏焼の本当の魅力にやっと気づいたのが今日だったのかな?

夜道を2人で歩きながら空を見上げる。
星が全く見えなくて、少し崩れそうな感じだった。
街灯の光が『ぼんやり』と歩く先を照らしている。

お互いに何となく気持ちが高ぶってたのかな?
夏焼の顔を俺が見ると、夏焼も俺の顔見て〜何も言わないで見つめ合う。
言葉は無かった・・・でも、俺は隣にいる夏焼の存在を感じながら歩いていた。『夏焼も同じ気持ちだったらいいな・・・』って思いながら。

夏焼の家までスグって所で、俺が夏焼に話しかける。
「夏焼・・・あのさ・・・」
俺が夏焼に話し掛けると同時に
「帰る前に・・・少しだけ公園に寄っていい?」
真剣な表情を夏焼は見せて・・・ただ、俺の返事を静かに待っていた。
「うん・・・俺もちょっと言いたい事があったし・・・」
そう言って俺は夏焼の手を優しく掴む。
夏焼の手の暖かい温もりが伝わってくる。
何も言わないで下を向いて顔を赤くする夏焼。

優しく握り返す夏焼・・・
『この手を絶対に離したくない』そんな事を思っていた。

公園は夜の冷たい空気を響かせているように静まり返っていた。
中に入ると、夏焼は繋いでいた手を離した。
2、3歩前に進み、振り返って俺の顔を見つめる。
俺も夏焼の顔を見つめて・・・
星も見えない、月の光も雲の中に消えてしまっていて・・・街灯の光だけが2人を照らす。

「今日は・・・何人の女の子に告白されたの?」
夏焼が少し笑顔で俺に言う。
「えっ・・・その・・・」 俺が困っていると
「千奈美ちゃん・・・梨沙子・・・桃ちゃん・・・友理奈ちゃん・・・佐紀ちゃんもかな?」
その言葉に俺が小さくうなずく。
夏焼は、そんな俺を真剣な表情で見つめた後でチョーカーに付いた指輪に触れた。
「この指輪が・・・2人の大切な思い出であって・・・2人を繋いでる・・・」

指輪を微笑みながら見つめる夏焼・・・ その表情は少し切なそうで・・・
俺は夏焼に言おうと思っていた事を言った。
「夏焼・・・あのさ・・・」

「あのさ・・・写真を撮る時に指輪を付けるように言われたのに・・・何で付けなかったの?」

写真を撮る時、中島のお父さんが夏焼に『その指輪〜イメージに合うから付けて欲しいんだけど』と言った。
ウエディングドレスを着た夏焼が自分がプレゼントした指輪をはめる。
俺は少し恥ずかしいながらも、本当に結婚するみたいに感じて〜・・・ちょっとドキドキしてた。
でも、夏焼は・・・
「ごめんなさい。 この指輪・・・ちょっと理由があって付けられないんです・・・」
寂しそうに呟いて下を向いてしまった・・・

俺が夏焼の表情を見つめていると、夏焼が質問の返事をするように・・・話し出した。
「この指輪が2人を繋いでる・・・でも、私は1度も指輪を指にはめる事ができなかった・・・」
夏焼は下を向いて悲しそうに言った。
「えっ・・・な、何で!?」 俺が夏焼に言うと
「指輪って・・・大切な人に送る物だと思うの・・・特に気持ちが込めてある物なら・・・」
夏焼は顔を上げて俺を見つめる・・・そして首の後ろに手を回してチョーカーを外した。
チョーカーからスルスルと指輪が夏焼の手の中に落ちた。
俺は何が何だかわからずに・・・その様子を見ている事しかできなかった。

夏焼は指輪を握り締めると、俺の前に来てポケットから小さな箱を出した。
その箱を俺に差し出して微笑みながら言った。

「君の事が・・・本当に好きでした・・・ 今まで楽しかったよ。 ありがとう・・・」
そう言って笑顔のまま瞳から涙を流していた。
小さな箱と一緒に指輪が俺の前に差し出されていた。

その指輪に降り出した雨の1粒が落ちた。

空から落ちてくる雨の粒が2人に降り注ぐ。
「えっ・・・な、何で!?」 俺が戸惑いながら言う。
(そんな・・・夏焼が・・・) 頭の中は混乱して・・・ただ、夏焼の顔を見つめていた。
夏焼の笑顔は少しずつ変わっていって・・・最後は泣き顔になって下を向いてしまった。
声を出しながら泣き出す夏焼・・・それでも必死になって俺に言う。
「君が・・・君が本当・・・に好きな・・・のは・・・わ・・・たし・・・じゃな・・・い・・・」
「そ、そんな・・・そんな事・・・」 俺が言い掛けると
「君に・・・とって・・・私は・・・ただの幼馴染・・・きっ・・・と・・・それは・・・ずっと・・・変わら・・・ないと思う・・・」
夏焼は泣いているために途中で声が止まりながらも必死になって言う。
「違うよ! 俺、夏焼の事をただの幼馴染だなんて1度も思った事ないよ!!」
俺はびしょ濡れになった夏焼の肩を掴んで夏焼に向かって叫ぶように言う。
少しして夏焼は顔をゆっくりと上げて・・・その顔は泣き顔のままだったけど必死になって笑顔を作っていた。
「もう・・・無理だよ・・・私・・・ね・・・もう・・・君の事を・・・いっぱい好きになって・・・満足・・・した・・・うっ・・・」
そう言って手で口を抑えて下を向いてしまった。
でも、すぐに夏焼は俺の手を振りほどくと顔を上げて俺の顔を見つめて・・・優しい声で言った。

「その指輪は・・・3月14日に本当に君が好きな子に渡してあげて・・・それが私の最後のお願い・・・」
その言葉に俺は下を向いて泣き出してしまった。
夏焼の顔を見てられなかったし・・・本当に大切だったものを失った感じがして・・・
そんな俺を夏焼は優しく抱きしめる。
「本当に・・・ありがとう。 大好きだったよ・・・」

夏焼は俺を抱き離して・・・  
俺の手の中に、雨に濡れた指輪とチョコレートだけを残して行ってしまった・・・
走って離れて行く足音だけが、いつまでも俺の耳に響いていた。
俺は雨に打たれながら夜の公園に1人で立ち尽くしていた。

「ただいま〜!」
大きな声で居間に向かって言う。
「おかえり〜! 塾お疲れ様。 突然雨が降り出したから、びしょ濡れになったんじゃないの?」
お母さんの声が居間の方から聞こえてくる。
「も〜!突然なんだもん! 天気予報も雨なんて言ってなかったし・・・傘を用意してる人がいたら超能力者だよ!」
玄関から、文句を雨じゃなくてお母さんにぶつける感じで言ってやった。
「はいはい。 今、バスタオル持って行くからね!」
そんなお母さんの声に向かって彼女は言った。
「えっと・・・途中で1人〜男の子を拾ってきたからバスタオル2枚〜それと彼の家に電話するから子機もお願い♪」

公園で雨に打たれている彼を見つけた時、最初は幽霊か何か!?と驚いたけど・・・私って、そ〜ゆ〜の信じないし。
ちょっと近づいてみたら彼で・・・右手に小さな箱と指輪を持ってた。
『そっか・・・』 事情が何となく読めた私は彼の目の前に行く。
彼は最初、驚いた表情で私を見たけど・・・ただ見つめてるだけで何も言わなかった。
泣いてる彼を私が『ギュッ』と強く抱きしめる。
雨に濡れて寒くてなのか感情からなのか判らないけど・・・彼は震えてた。
優しく声を掛ける。
「大丈夫だから・・・私が守ってあげるから心配しなくていいよ・・・」

「お母さん! あと、お風呂の用意できてる?」
お母さんが2枚のバスタオルと電話の子機を持って玄関まで来て、彼の顔を見て驚いていた。
「あら!? 君・・・幼馴染だった〜・・・それよりもびしょ濡れじゃない! スグにお風呂に入りなさい!」
母さんは私にバスタオルを投げ渡すと、もう1枚で彼を一生懸命拭いてあげた。
「娘よりも大事にするんだ〜・・・」 私が少し顔を膨らませて言うと
「はいはい。 愛理、あんたも彼と一緒にお風呂入っちゃいなさい! 風邪ひいたら大変だから。」

あのね〜・・・5年生にもなって一緒にお風呂入る幼馴染がどこにいるのか聞きたいよ。

「目を開けたら、一生口聞いてあげないからね!!」
暖かいお湯につかった状態で俺は愛理の言うとおりに目を閉じていた。
愛理が中に入って来るのがわかった。
「まだだからね!目を開けたら10回オデコに『ベシッ!』ってやってやる!!」
シャワーで体を洗っている音だけが聞こえる。
何も考えずにボーッとお湯につかる。 冷えた体が熱を欲するように吸収していく。
体の方はポカポカと温かくなったけど・・・気持ちまでは暖かくはしてくれなかった。
シャワーの音が終わると同時に
「目を閉じたまま端に寄って!! 絶対に目を開けたらダメだからね!」
その声に向かって
「・・・そんな念を押さなくても目は開けないって」
そう言いながら少し端の方に行く・・・と言っても、家の中を見て驚いたんだけど愛理の家は大きくて『リビングとか何畳あるんだ?』って感じで・・・
脱衣所もバスルームもメチャクチャでかかった。
浴槽の大きさなんて、普通に3人くらい大人が入っても大丈夫な広さだから『端に寄る』と言っても真ん中にいるのと同じくらいのスペースがある。
愛理は浴槽の中に入ると俺と背中合わせの状態になった。
「目を開けていいよ」
そんな愛理に向かって俺は「愛理が入って来てからずっと薄目開けてたから今さらなぁ〜・・・」とふざけて言うと
「はいはい。 ジョーダンが言えるなら少しは気持ちが落ち着いたみたいだね」と優しく答えた。
「・・・愛理は何でも、お見通しなんだ」 俺が少し寂しい声で言う。
愛理は何も言わずにいた。 
俺も何も言わずに触れ合っている愛理の背中を感じていた。

愛理がゆっくりと話し出す。
「こうやって〜また、一緒にお風呂に入る事になるとは思わなかったな」
「えっ・・・一緒に入った事なんてあったの?」 俺が驚きながら言うと
「幼稚園の頃にね〜・・・幼馴染の5人で入ってたよ♪ 皆、小さかったしね〜」 そう言って愛理は『クスッ』と笑った。
『小さかったしね〜』って言葉が何となく胸に残っていた。
もし、俺が小さい頃のままだったら・・・誰かを好きになったり・・・本当に大切な人を選んだり・・・
俺が選ばなかった女の子達は? 俺の今の気持ち以上に悲しんだりするんだろうな・・・
こんなに苦しい気持ちになるくらいなら・・・

「人を好きになった自分が・・・嫌になった?」
愛理の言葉に『えっ!?』と驚いて振り向く。 愛理は体育座りの状態で後ろを向いていた。
俺が愛理に『何でわかったの?』と言おうとしたら・・・
「『何でわかったの?』って、言おうとしてる」
そう言った後で体をこっちに向けて俺の目を見た。
何も言わずに俺も愛理の目を見てうなずく。
愛理は優しく微笑んで、ゆっくりと話し出した。
「勇気を出して気持ちを伝えた女の子達に対して、君がちゃんと本当の気持ちを伝えない・・・それは絶対にダメだよ」
俺は愛理の言葉を聞きながら、納得しないとダメな事はわかってた・・・でも、今の俺には・・・そんな・・・
見つめ合っていた愛理から俺が、どうしていいのかわからなくなって目をそらそうとする。
それと同時に愛理が俺の頬を両手で掴んで言う。
「人って・・・1番辛い時に強くなれるチャンスだって思うの。 それが・・・今じゃないのかな?」
愛理の言葉をぼんやりと聞きながら頭の中で色々考えてみた。
・・・色々考えてはみたけど、結局は夏焼の最後に見せてくれた涙の笑顔が思い浮かんでしまって・・・
「強くなれない人は・・・どうすればいいの?」
俺が愛理に質問をする。
愛理は『クスッ』と微笑んで優しく俺に言った。
「本当に強い人なんていないよ。 『強い』って事は『優しさ』とか『勇気』を持ってる人の事」
そう言った後で、少し下を向いてから・・・顔を上げて話を続ける。
「疲れたり、しんどくなったら誰かに助けてもらえばいいんだよ。 私が君を助けるから・・・君は疲れるまで走り続けてみて」

愛理の優しい笑顔を見て気づいた。
企画者の愛理は、俺が彼女達の告白で色々と悩んだり辛くなったりする事が最初からわかっていたんだ。
だから愛理は参加しないで・・・
千奈美の言っていた『愛理ちゃんの君に対しての愛情』って言葉を理解したと同時に・・・

愛理は、俺の瞳からこぼれ落ちる涙をそっと手で拭ってくれた。
感情が溢れて来るって感じなのかな・・・ 俺は素直に愛理に自分の心を伝えた。
「何か・・・夏焼と愛理・・・2人共・・・離れていっちゃう気がして・・・」
そんな俺の言葉に愛理が笑顔を見せて言う。
「私も雅ちゃんも・・・君の事が大好きだから離れて行かないよ。 だから心配しなくていいよ」

ほんの20分の入浴時間だったけど・・・
冷え切った心と体を暖かくしてくれた感じがした。

「寝る前だから、あんまり飲みすぎたらダメだよ♪」
そう言って俺に愛理がマグカップを渡してくれた。
1口飲むと、少し苦い感じの甘みが広がっていく。
「これって・・・何?」 
俺が愛理に不思議そうに聞くと、愛理は髪をドライヤーで乾かしていたのを止めて
「チョコレートを溶かしてミルクで薄めた感じかな? バレンタインデーだしね♪」 
そう言って俺の方を少し見て『美味しいでしょ?』って感じで笑顔を見せる。
俺も笑顔で返すと、愛理は『ヨシヨシ♪』って感じでうなずいてから再び髪を乾かし始めた。
俺は愛理のベッドの横に布団を敷いてもらい、そこに横になりながら壁に掛けてある可愛い時計を見ていた。
10時を少し過ぎた所かな?
俺は今日は愛理の家に泊まる事になった。 俺と愛理がお風呂に入ってる間に愛理のお母さんが
『疲れてるみたいだから・・・今日はウチに泊めましょうか?』と電話していたらしい。
服とか勉強道具とかは、明日の朝に母さんが持ってきてくれるらしく・・・俺は・・・そのまま・・・
疲れが『ドッ』と来た感じがして・・・まぶたが重くて・・・少しずつ・・・
愛理は誰かと携帯で電話してるみたいだった。
俺は、鏡を見ながら優しい顔で電話をしている愛理を見ながら目を閉じた。

・・・どれくらい時間が経ったんだろう?
突然目が覚めて〜・・・霧が晴れて行くような感じで目を少しずつ開けていく。
見つめる先には天井が見えていて部屋全体に薄暗い。
上半身だけ起こそうとして自分の体に掛かっていた毛布に気づく。
そのまま寝てたはずなのに・・・愛理が掛けてくれたのかな? 
そんな事を思いながら壁の時計を見ると・・・4時32分くらいだった。
俺は壁の時計からベッドに目をやると・・・愛理が『すやすや』と可愛い寝顔で寝ていた。
そんな可愛い愛理をベッドにほおづえを付いた状態で『ボーッ』と見つめていた。
2、3分くらい見つめていたら・・・
「目が覚めちゃった? 愛理の布団の中に入って来なよ」
ゆっくりと小さな優しい声で愛理が俺に話し掛けた。
俺は少しビックリしながらも小さい声で愛理に言う。
「・・・起きてたの? こんな時間まで?」
その言葉に目を閉じたまま『クスッ♪』と可愛い笑顔を見せて
「愛理、少しでも気配とか感じちゃうと起きちゃう体質だから・・・」
「あっ・・・俺が起こしちゃったのか・・・ゴメンね・・・」
俺が申し訳無さそうに言うと、笑顔のまま愛理は俺の手を優しく掴んで・・・そのまま自分のベッドの中に俺を招いてくれた。
目を閉じたままの愛理の顔を数センチの距離で俺は見つめていた。

何の音も無くって静かな時間だけが過ぎていって・・・ 愛理が小さな声で話し出す。
「君が寝る前に〜・・・愛理が誰かと電話してたのわかる?」
「えっ? あ〜・・・うん」 俺も小さな声で言うと
「あれ・・・雅ちゃんだったんだよ」 そう言って愛理は目を開いて俺を見た。
「えっ・・・夏焼・・・」 何となく、俺が少し戸惑いながら言うと
「雅ちゃん、涙声で色々言ってたよ・・・ 『彼を傷つけちゃったかもしれない・・・でも、彼の本当の気持ちが〜』とかね」
その言葉に少し切なくなって愛理から目をそらすと、愛理は俺の頭を抱えるように抱きしめて優しくなでる。
「君も・・・雅ちゃんも千奈美ちゃんも友理奈ちゃんも・・・他の皆も・・・優しい恋をしてるんだね。 自分が傷つく道を選んでる」
その言葉が安らぎを与えてくれたのか・・・そのまま愛理の胸の中で俺は瞳を閉じた。
(愛理だって・・・傷ついてるんだろ・・・)
伝えたかった気持ちを薄れさせて行くように自分の呼吸と愛理の呼吸が眠りに誘っていって・・・
愛理の言葉が、ずっと夢の中でも頭の中に優しく響いていた感じがしていた。

2月15日

教室は朝から『ガヤガヤ』と騒がしかった。
俺も教室入ってスグに違和感を感じて、騒がしくなってる中心を見て・・・すぐに視線を戻して席に着いた。
彼女なりの『ケジメ』と言うか・・・新しい気持ちのスタートを表してたのかな。

夏焼は綺麗だった茶色い髪を黒く染めて学校に来ていた。
『失恋?』とか聞いてくる女子に向かって『ただのイメチェンだよ〜』と夏焼は笑いながら言っていた。
黒い髪の夏焼も、今までと違って彼女の魅力を充分に引き立たせているように見えたけど・・・でも・・・

(俺には・・・もう関係無いのかな・・・)

そんな気持ちを助けてくれるように、騒がしい教室を予鈴のチャイムが静かにしてくれていた。

 

9:名前:〜さくら色の永遠〜[] 投稿日:05/03/13(日) 01:32:45

3月13日

放課後の教室

茉麻が雅を心配そうに見つめながら言う。
「明日だよ・・・本当に良かったの?」
その言葉に、一緒に居た舞波も雅を見つめる。
雅は少しの間、下を向いて・・・笑顔を2人に見せた。
「『良かったの?』とかじゃなくて〜これが彼にしてあげる私からの最高の思いやりだから♪」
雅の言葉と笑顔・・・それが無理をしている事くらい誰にでもわかる。 本当は・・・
でも、茉麻も舞波も何も言わずに笑顔で雅に返す。
(これが雅ちゃんが選んだ答えなんだから・・・)

少しして〜須藤が決心して2人に言う。
「それじゃ、明日は9時に私の家だよ!」
雅も舞波も、茉麻の顔を見てうなずく。

茉麻と舞波が色々と何か話している。
雅は2人から少し離れた所で、窓の枠に描かれる沈みかけの夕日を見ていた。

あれから私は強くなれたのかな・・・
ロザリオから指輪が外れただけなのに、心の中まで全部持って行かれちゃったみたいで・・・
夜が長くて・・・
ほどけた指先が2度と結ばれる事が無いと思うと、今でも涙が溢れてくる。
彼は多分・・・彼女を選ぶ。
彼女なら、きっと彼のほどけた指先を優しく結んでくれるはず。
彼女なら、彼の心を優しく包んであげられる。
そんな2人を私は笑顔で祝福できると思う。
そしてキッパリと諦めが付いて・・・
普通の幼馴染に戻って・・・
小学5年生の私の小さな恋は・・・

茉麻と舞波は何も言わずに教室を離れた。
雅は笑顔のまま涙を流して夕日を見つめていた。

そう・・・これが本当に『弱い私の最後の涙』

窓から流れる春を告げる風は、雅の濡れた頬と髪をなでるように触れて廊下へ流れて行った。

3月14日

時間なんて何もしなくても過ぎて行くものなんだ。
あれから1ヶ月が経った。
2月の冷たい風は3月の暖かい風を呼ぶための通り雨みたいなもので、すぐに雨は止んで雲の間から太陽の光が差し込んでくる。

そして、この季節は始まりと終わりを告げる。
誰もが新しい気持ちで出発する・・・

彼女達の想いを全て受け止めて・・・必死になって自分と見つめ合った。
苦しかったし、誰かに助けてもらいたいと何度も思った。
でも、夏焼と愛理が俺に勇気を与えてくれた。
『本当に強い人間なんていない』愛理はそう言ったけど・・・
でも、今日の1日だけでも俺の全てを出して強くなってやる!!

やっと自分の心に決心が付いた。
俺は本当の気持ちを・・・あの子に伝えようと思う。
素直に・・・俺の言葉を彼女に・・・

この時間、公園には俺以外誰も居ない。
遠くから聞こえる小さな音さえも伝わってくるような静けさ・・・
でも、俺の鼓動は『周りに流れるんじゃないか?』と思うくらい高鳴っていた。
目を閉じて・・・何も考えないで彼女を待つ。
夏焼と同じ用に指輪はチョーカーに通して俺の胸で静かに輝いている。
指輪の冷たい温度が、俺の熱くなった体と混じり合って時間の流れを遅くしてる感じがした。

(人を待つのに、こんなに苦しく感じた事・・・今まで無かったな)
どんな顔で彼女は来るだろう?
どんな顔で俺は彼女を見ればいい?
彼女に俺は最初に何て言えばいい?

無心になろうとしても色々な思いが頭の中を駆け巡る。

小さな足音。
公園の中に入って来て・・・鉄棒に寄り掛かっている俺の目の前で止まる。
俺の目には1人の女の子の姿が映っていた。
彼女の水色のスカートが風になびいて、彼女が左手で押さえる。
右手で・・・赤い手帳を胸にしっかりと抱きしめて・・・

友理奈は俺の顔を笑顔で見つめていた。

AM6:00 〜公園〜

「おはよう♪」 友理奈が笑顔で俺に向かって言う。
俺も『おはよう』と笑顔で友理奈に返す。
この場所を朝日が包み込むまでには時間があって、辺りは少し薄暗い。

友理奈は俺の横に来ると、同じように鉄棒に寄り掛かる。
「まだ・・・朝は肌寒いよね・・・」 友理奈が地面を見つめながら言う。
「これから少しずつ暖かくなるよ」 俺は友理奈を見つめながら言う。
友理奈は何も言わないで・・・ただ下を向いていた。

数秒が何分にも思える沈黙が2人を包む。

「友理奈・・・あのさ・・・」
俺が友理奈に話しかけるのと同時に友理奈は俺の方を見た。

・・・友理奈は泣いていた

俺が、そっと友理奈の頬に手を当てて涙を拭う。
友理奈は少しの間だけ目を閉じて・・・深呼吸を1つしてから目を開いて、涙で潤んだ瞳を俺に向けた。
そんな友理奈の瞳を見つめなら、自分の素直な気持ちを伝える。

「俺にとって友理奈は大切な存在で・・・ 友理奈に告白された時は本当に嬉しかった・・・」
友理奈は何も言わずに俺を見つめていた。
「でも・・・俺には他に好きな人がいるんだ」
友理奈から目をそらさずに言った。
途中で逃げたくなった・・・ 目をそらしたくなった・・・
でも、友理奈の気持ちに答えたくって俺は友理奈を見つめ続けた。
友理奈も何も言わずに最後まで俺を見つめていて・・・ 少しして『ニコッ』と優しい笑顔を俺に見せる。
友理奈は小さな声で、ゆっくりと俺に言った。

「ちゃんと返事を返してくれてありがとう。 最初からわかってたんだ・・・君には好きな子がいるって・・・」
「友理奈・・・」 俺には優しい言葉を掛けてあげる事もできず・・・ ただ、友理奈を見つめる事しかできなかった。
「でもね・・・ 可能性があるなら・・・ 少しでもあるなら・・・ って思ったんだ」
友理奈の頬に涙がこぼれ落ちた。

「友理奈の気持ちを受け止められなくて・・・本当にごめん」 俺は友理奈に頭を下げた。
そんな俺を友理奈は笑顔に涙のまま『クスッ♪』と笑って言う。
「私をふったんだから彼女を幸せにしてあげてね♪ 応援してるから・・・頑張ってね」
そう言って、友理奈は俺の首に手を回してチョーカーを外すと指輪を自分の手の中に落とす。
そして両手で指輪を握り締めると祈るように目を閉じた。

数秒してから指輪をチョーカーに再び通して俺に手渡す。
「君に幸せが来るように祈っておいたから」
笑顔の友理奈に俺が言う。
「何で・・・指輪の事を知ってるの?」
不思議そうに見つめる俺に友理奈は笑いながら話した。
「クラスの皆が気づいてるよ。 雅ちゃんが大切に持ってた指輪がバレンタインデーの次の日に君が持ってるんだもん」
「それで最近は夏焼の事で色々と周りから言われなくなったんだ・・・」 俺が言うと
「その分、梨沙子ちゃんと噂になっちゃったけどね〜」 そう言って友理奈は『クスクス』と笑った。
俺も一緒になって笑う。

熊井友理奈・・・本当に素敵な女の子。
可愛くて、性格も最高で、きっと何年経っても変わらずに皆から好かれて・・・
笑顔の友理奈の横顔に、俺は心の中で『本当にごめんなさい』と謝って
「そろそろ戻ろっか?」 友理奈に笑顔で言う。
友理奈は何も言わないで俺の手を握って・・・俺の顔を優しい笑顔で見つめて言った。

「私の最後のお願い・・・聞いてくれる? このまま・・・朝日が昇るのを2人で見ていたいの・・・」

俺と友理奈は無言で地平線を見つめていた。 
・・・言葉はいらなかった。
『少しずつオレンジ色に染まっていく公園』『ゆっくりと伸びる2人の影』『この瞬間だけは離れる事が無い手と手』
俺の横には優しく微笑む友理奈がいた。


AM8:00 〜朝の会が始まる前の体育館裏〜

彼女からのお願いだった。
『授業が始まる前に気持ちを聞かせて欲しい』って・・・

登校して来る生徒達のにぎやかな声が聞こえてくる。
横を向けばグラウンドでサッカー部が朝練をしていた。

体育館裏は日陰になっていて、肌寒さと緊張から少し震えていた。
『また、人を傷つける事になるのはわかってる・・・ でも・・・』
でも、自分の素直な気持ちを伝えないとダメなんだ。
何もかも全てを投げ捨てるくらいの覚悟で。
それが、今の俺にできる彼女に対しての優しさなのかもしれない。

恐怖はあった。
(あの無邪気な笑顔が本当に一生消えてしまうんじゃないか?)
純粋な女の子だから、強そうに見えても本当は繊細で少しのヒビが入ってしまっただけで・・・

5分後に彼女は俺の前に姿を現した。
綺麗な黒い髪が風になびいてる。
夏焼が髪を染めた次の日、彼女も綺麗だった茶色い髪を黒く染めてしまった。
それが夏焼の真似をしただけなのか・・・ それとも、彼女の決意だったのかは判からない・・・

「おはよう」 そう言って俺が菅谷に向けて手を上げる。
菅谷は笑顔で走って来てジャンプして俺の手を叩いた。
これが俺と菅谷の挨拶だから。

笑顔で俺を見つめる菅谷。
俺も菅谷を笑顔で見つめる。
菅谷は俺の方を見ながら、口をゆっくりと開いて話し出す。
「バレンタインデーから〜もう1ヶ月も経ったんだね♪」
空を見上げると雲の隙間からこぼれ落ちてくる光。
その暖かさを感じながら、ゆっくりと菅谷に話す。
「あの時は寒かったのに・・・今は少しずつ暖かくなってきてる。本当に時間が過ぎて行くのって早いね」
俺が見上げた空から視線を菅谷に合わせると・・・
菅谷は真剣な表情で俺を見つめていた。

ストレートな彼女の気持ちに対して、遠まわしの言葉も何も必要無かった。
俺も菅谷の目を真剣に見つめて言う。

「他に好きな人がいるんだ。 その人の事が俺は1番好きだから・・・ごめんなさい」
大きな声で・・・ゆっくりと・・・菅谷に自分の心を素直に伝えて頭を下げる。
数秒間の沈黙の後で、俺が頭を上げて菅谷を見る。
菅谷は・・・ただ笑顔を俺に見せていた。
何となく戸惑う俺に対して、菅谷はその場に座って笑顔で俺を見つめて言う。
「隣に座って欲しいな。 授業が始まるまで少し話したいんだけど」
俺は何も言わずに菅谷の横に座った。

「ねぇ? 何でみーやと変な状態になっちゃったの?」
菅谷はまっすぐ俺を見つめて言う。
「えっ・・・と、俺が夏焼を悲しませてばっかりだったし、俺がハッキリしてないからとか・・・」
菅谷は俺の話を笑顔のままで聞いていて、俺が話し終わるとゆっくりと話し出す。
「自分の責任ばっかり。 みーやは全然悪く無いんだ」
そう言った菅谷に向かって小さく俺がうなずく。
「梨沙子ね、みーやにも聞いたの。 そしたらみーやも自分ばっかり責めてて・・・君と同じ答えが返ってきたよ」
その言葉に俺は驚きながら菅谷を見つめる。
菅谷は話を続ける。
「『彼には本当に大切に思ってる人がいる』そう言ってたよ。 その時、梨沙子は何となく自分じゃないって気づいて・・・」
菅谷の目が少しずつ潤んでいく。
「話しながら必死に泣くのをこらえてるみーやを見て・・・思ったの。 みーやに頼ってばっかりじゃダメなんだっ・・・て」
抑えていた菅谷の感情が涙となって流れていく。
「少し・・・ずつで・・・も・・・強くなり・・・たいっ・・・て・・・」
泣きながら言い終わると・・・
「今は・・・これが精一杯・・・だから・・・ ごめ・・・んなさ・・・い・・・」
菅谷は途切れながらも自分の気持ちを必死に伝えて・・・ 下を向いて声を出しながら泣き出してしまった。
俺は菅谷を包み込むように抱きしめると頭を優しくなでた。
菅谷は俺の胸の中でロザリオに付いた指輪を強く握り締めていた。

菅谷は最初から必死になって笑顔を作っていたんだ。
すぐに泣きたい気持ちを抑えて・・・ 俺に気を使って夏焼の話をしてくれて・・・
「ごめんなさい・・・本当にごめんなさい・・・」
俺の胸の中で泣きながら何度も謝る菅谷。
菅谷は何も悪くなくて・・・本当に謝らないといけないのは俺なのに・・・
『本当に・・・ごめんなさい・・・』
そんな気持ちを伝えるように・・・
震えている小さな体を優しく抱きしめていた・・・ 菅谷の事を大切に想いながら・・・

抱きしめている菅谷の体は細くて、本当に少し力を入れてしまえば壊れてしまいそうなくらい繊細に思えた。
でも、違うんだ・・・

菅谷梨沙子・・・心は誰よりも強くって、優しくって・・・
俺がワガママを1つ言わせてもらえるのならば、その強さと優しさをずっと持っていて欲しい。
本当に大切な友達・・・ずっと友達でいよう。

2人だけの合図の『ハイタッチ』は、俺と菅谷の気持ちを『パチン』と言う高い音に変えて、これからも心に響かせて行く。

PM1:00 〜昼休みの屋上〜

いつもは生徒が何人かはいるのに、今日に限って俺と佐紀の2人だけ。
1ヶ月前に、この場所で佐紀の今まで知らなかった色々な魅力に気付いたんだ。
佐紀に告白されて・・・キスもして・・・
2人だけの授業をサボった時間がメチャクチャ楽しくって・・・
次の日からも、佐紀との関係は変わらずに過ごしていた。
でも、笑顔の佐紀を今までの何倍も見たような気がした。

そして『雨の日の2度目のキス・・・』
あの瞬間から佐紀に対する自分の気持ちが・・・

「何て言って断るの?」
突然の言葉に驚きながら佐紀の方を見つめる。
佐紀は手すりに向かって歩きながら言葉の続きを言う。
「一生懸命に考えて・・・この1ヶ月は辛い時間だったんだよね」
佐紀は少しの間、快晴の空に広がる真っ青なキャンパスを見つめて・・・振り返って真剣な顔で俺を見て言う。

「自分の気持ちと向き合って出した君の答えを・・・私に聞かせてください」
佐紀の言葉が俺の頭の中で何度もリピートされる。

見つめる事しかできなかった。
何も言えずに・・・ただ佐紀を見つめる。
言おうとした言葉は全て、口から出る瞬間にかき消されてしまい・・・
無理に発した所で、その効力は何の意味も持たない気がした。

何も言えないままの自分・・・多分、清水の突然の言葉が引っ掛かっているんだと思う。
自分の中で一気に何かが崩れた感じがした・・・それは『強さ』だと思う。
佐紀の真剣な気持ちを知ってしまったから・・・
ちゃんと自分の気持ちで伝えなくてはダメだってわかってた。
でも、この1ヶ月で作られた2人の時間を思い出すと同時に、気持ちが複雑になってしまった。
『弱さ』が出てしまった。 
その弱さを一瞬でかき消すほどの勇気が出せない。


あの雨の中で・・・俺と佐紀の心は繋がっていた・・・

  ・
  ・
  ・
  ・
  ・  

3月1日 〜雨が降る放課後〜

天気予報を裏切る突然の雨に、家に帰る事ができないで学校の玄関で雨が止むのを待っていた。
雨が小降りのうちに帰ってしまったために、この時間には生徒がほとんどいない。
予想外に音楽室の掃除に時間が掛かってしまった俺達の班。
最後のじゃんけんでゴミ捨に選ばれた俺。
不幸が同時に何個も重なってしまって、今は雨を見つめる事しかできない。
同じ掃除班の奴も全員帰っちゃったし・・・
その場にしゃがみ込んで雨を見続ける。
(たまには雨に見とれるのもいいさっ)
そんな事を思いながら。

数分待ったけど雨は止みそうにない。

『ガタッ』
誰かが下駄箱で靴を履き替えている音がした。
そして、その足音は外に出てきて・・・座ってる俺の横で灰色の空を見上げながら呟く。
「雨が全然止んでないよ〜!! 困ったなぁ・・・」

その声に『ハッ!』として相手を見る。
俺が動いたために気配を感じて、相手も俺の方を見る。

『あっ・・・』

俺と夏焼は同時に声を出した。

微妙な距離を空けて、2人はその場に座りながら雨を見つめていた。
お互いに何も言わないで・・・ただ静かに雨を見つめていた。

「雨・・・止まないね」 俺が前を見ながら夏焼に話しかける。
言い終わった後も、心臓の『ドキドキ』が止まらない。
「そうだね。 空の〜・・・」 そう言い掛けて夏焼は『クスッ♪』と笑った。
「えっ?どうしたの?」 俺が自然な感じで、何とか夏焼の方に顔を向ける。
夏焼は前を向いたままで笑いながら話を続ける。
「小説とかでね、突然の雨は『空にある大きなバケツの底が破れた感じ〜』なんて表現を使うけど、そのままだなぁ・・・って、思って」
そう言って笑顔で空を見上げる夏焼。
弱々しい風に運ばれた雨の粒が、そっと彼女の黒い髪を飾る。

彼女に見とれている自分がいた。
ずっと見つめていたかったけど・・・すぐに前を向く。

今度は夏焼が話し出した。
「最後に2人だけで会った時も・・・雨だったよね」
寂しそうな声に『そうだね』と俺も小さな声で答える。
「風邪・・・ひかなかった?」 
そう言いながら、夏焼は1度は躊躇したけど・・・2度目で俺の方を見た。
「大丈夫だった」 そう言って、俺も夏焼の方に顔を向けてた。
何も言わないで見つめ合って・・・お互いの表情は笑顔でも寂しい表情でも無かった。
ただ、俺が夏焼の目に・・・夏焼が俺の目に映っていた。
何度も口を開いて言い掛けた言葉は、俺の心を締め付けるだけで声にならなかった。
夏焼も俺の言葉を待ちながら、自分の言葉を伝えたいのか口を少し開いて・・・そんな時間が続いた。

突然だった。
『えっ!?』 俺と夏焼が同時に声を出す。
後ろから歩いて来て、俺達の間に立つ女の子・・・
同じ掃除班で、先に帰ったと思っていた佐紀だった。
手には2本の傘を持っていて、何も言わないで俺と夏焼の間に座る。
佐紀は、座ると同時に夏焼を見つめて・・・傘を渡した。
戸惑う夏焼に佐紀が心配そうな表情で言った。
「職員室に行って彼の分の傘も借りてきたんだけど・・・雅ちゃんは彼と一緒に帰った方がいいよ」
「えっ・・・」 驚きながら佐紀を見つめる夏焼。
「彼を見つめてた雅ちゃん・・・今でも本当は彼の事・・・」
佐紀の言葉の途中で夏焼が立ち上がり、傘を開いて2,3歩前に出ると振り返って佐紀に向かって言う。
「傘・・・借りるね。 明日も学校で会おうね・・・」 そう言って下を向いてしまった。
「雅ちゃん!! 何で!? どうして!?」 佐紀が立ち上がって夏焼の前まで行き手を掴む。
佐紀を傘で濡れないようにしながら、夏焼は顔を上げて俺の方を見つめた。

雨に打たれて濡れていたからじゃなくて・・・ 夏焼は泣いていた。
「ごめんね・・・」 小な声で言って夏焼は走って行ってしまった。

降り続ける雨に打たれながら・・・佐紀はその場所に立ち尽くしたまま下を向いていた。
立ち上がり、俺は目の前に行って佐紀が握り締めていた傘を取って開く。
「佐紀・・・帰ろう」 俺が佐紀に優しく声を掛ける。
佐紀は肩を震わせながら話し出した。
「勝手に・・・おせっかいな事して・・・ごめんね・・・」
泣きながらも、必死に下を向いて涙を見せない佐紀。
俺は、そのまま傘を地面に落として佐紀を抱きしめる。
俺の胸の中で声を出して泣き続ける佐紀。
俺は、落ちてくる雨を見るように上を向いていた。

泣いているのを佐紀に気付かれたく無かったから・・・

少しして俺が顔を下に向けると、泣き顔で俺を心配そうに佐紀が見つめていた。
服も髪も濡れて、小さな体がいつもより小さく見えた。
佐紀は、ただ俺を見つめていて・・・
「何で・・・ 自分だって泣いてるのに・・・ 何で俺を心配そうに見つめるの?」
俺も佐紀を見つめながら言う。
佐紀は震える声で言う。
「君が・・・好きだから。 私の心の中で君がいっぱいになっ・・・」
俺は、話してる途中の佐紀にキスをした。
佐紀も目を閉じて、そのまま俺の背中に手をまわして・・・

雨に濡れながら・・・
2人はキスをした。

  ・
  ・
  ・
  ・
  ・

無言で見つめる佐紀。
俺も見つめる事しかできなくて・・・
ただ時間だけが過ぎていった。

突然、佐紀は俺の目の前まで来て『クスッ』と笑った。
そのまま俺の顔に自分の顔を近づけて・・・

佐紀の顔が1センチも無いくらいの距離にあって・・・
佐紀は、その状態で俺を見つめる。
お互いの息が感じ取れる距離。
そんな微妙な距離で佐紀が言う。
「このままキスをしてくれたら・・・私は君を他の子には絶対に渡さない自信があるよ」
ゆっくりと息を吐くように佐紀が目を少し細めながら囁くように続ける。
「この距離が・・・私の精一杯の勇気だから。 後は君の気持ちを私に伝えて」
佐紀は、そのまま瞳を閉じて・・・
静かに時間だけが流れていく。

俺も目を閉じて・・・佐紀の肩を両手で掴んだ。

目の前の佐紀を自分から離す。
そして、ゆっくりと目を開けると・・・佐紀は笑顔で俺を見ていた。

(そっか・・・佐紀・・・)

俺は真剣な表情で佐紀を見つめて、小さく『ごめんなさい』と言って気持ちを伝える。
何も言わずに、佐紀はロザリオに付いた指輪を両手で握り締めて瞳を閉じた。
「君に私の勇気を渡したからね。 幸せになれるように頑張って」
そう言った後で、俺を見つめるために開いた瞳からは涙がこぼれていた。
佐紀はその涙を手で拭うと、俺に笑顔を見せて・・・そのまま屋上を去っていった。

清水佐紀・・・何にでも真剣で、その姿に俺は憧れていたのかもしれない。
誰にでも優しく接して、それでいて自分には厳しくって。
俺は、佐紀に色々な事で助けてもらったり教えてもらったと思う。

2月14日の1時間。
俺は本当に佐紀の事を好きになっていた。
もっと佐紀を笑顔にする事だってできたのかもしれない・・・
でも、5分前に俺がキスをしていたら佐紀は俺の頬を叩いてたと思う。

俺は指輪を握り締めて、上を向いて空に向かって言った。
「精一杯の勇気を・・・本当にありがとう」

PM5:00 〜夕暮れの教室〜

誰もいない放課後の教室で待ち合わせをした。
明日が開校記念日で休みとあって、掃除係りの生徒が教室をいつもより綺麗にしていた。
机も綺麗に揃っているし、黒板も深い緑色が夕日で輝いている。
俺は自分の机の上に座って彼女を待っていた。
この教室も、この窓際の席も・・・ 1週間が過ぎて3学期が終わればサヨナラなんだ。
そして、新しい教室で新しい学校生活が始まる。
だから・・・ ちゃんと自分の気持ちにも整理を付けなくちゃいけない。

友理奈と一緒に見ていた朝日が、最後の力を使って教室の中に光を差し込ませている。
最後まで輝き続ける夕日の光に目を細める。
時間が過ぎて行くのを目で見て感じるように・・・ゆれている夕日を見つめていた。

オレンジ色の光から目を離す。
ドアが開く音が教室中に響いたから・・・
机から降りて、ドアの前に立っている1人の女の子を確認しようとする。
・・・彼女は何も言わずに俺に近づいて来た。

近づいて来た女の子は、俺の目の前に来て・・・ 『バシッ!』と頬を叩いた。
突然の事に戸惑いながらも、彼女の気持ちが俺にはわかったから・・・ 何も言わずにそのまま叩いた相手を見つめる。
そんな俺を『キッ!』と睨んで、石村は俺の胸ぐらを掴んだ。
指輪が石村の手の中で強く握り締められる。

自分の行動に何も言わない俺に向かって石村が睨みながら叫んだ。
「何で・・・何で桃ちゃんの気持ちを断ろうとするの!!」
石村は泣きながら俺を胸を『バンバン』叩いた。
「守るって約束したじゃん! 桃ちゃんの笑顔を守るって・・・嘘つき!! 絶対に許さないから!!」
そんな石村に俺が『違うんだ・・・』と力無く言う。
石村は聞こうともしないで俺に向かって怒鳴るように言う。
「桃ちゃんの事なんて最初から好きでも何でも無かったんだ!! 可愛いから仲良くしてたの!? バカじゃないの!!」
「違うよ・・・本当に・・・」
「偽善はやめてよ! 桃ちゃんの気持ち考えて断るの!? それなら最初から〜…」
俺は服を引っ張っていた石村の手を振りほどきながら、石村の言葉を切るように叫ぶ。
「違うよ! 本当に桃子の事を大切に思ってる! それは今も変わらない!」
石村を真剣に見つめる俺に対して、石村は泣きながら睨んで言い返す。
「じゃあ、何で断るの!? 意味わかんないよ! 大切に…思って・・・るんでしょ・・・お願い・・・大切に・・・してあげてよ・・・」
最後の方は必死に言葉を無理やり絞り出すように・・・石村はそのまま泣き崩れて床にしゃがみ込んだ。 

俺もしゃがんで、石村に向かってゆっくりと言葉を伝える。
「俺は桃子の事を本当に大切に思ってる・・・それは嘘じゃない」
石村は泣いたまま俺の言葉を聞いていた。
「でも、俺には本当に大切に思ってる人がいる事に気づいたんだ・・・ それは桃子じゃなかった」
自分の言葉が石村をどれだけ傷つけているのか考えられなかったけど、それ以前に俺自身も傷ついていた。
自分で言った言葉を必死になって自分に納得させるように言い聞かせて・・・瞳には涙が溜まってきていた。
「偽りの気持ちで桃子と付き合えないよ・・・ だって、俺にとって桃子は大切な人なんだから」

「桃子にとっても・・・君は大切な人だよ」
その言葉に俺と石村は目をやると、教室の入り口には桃子が笑顔で立っていた。

「桃子・・・」
俺達に近づいて来る桃子は笑顔だった。
俺が立ち上がって桃子を見つめる。
桃子は石村の前に来ると腕を掴んで立たせる。
そして、そのまま笑顔で自分の胸で石村を優しく抱きしめる。

「桃ちゃん・・・ 勝手に・・・ ごめんなさい・・・」 石村は桃子の胸の中で声を出して泣き続けていた。
桃子は石村の頭をなでながら語りかけるように、ゆっくりと言う。
「1カ月前と同じだね。 あの時は舞波の気持ちが桃子を強くしてくれて・・・ 今は、舞波が桃子の代わりに泣いてくれてる」
桃子は今度は俺の方を優しく見つめて言う。
「そんなに険しい表情してると嫌われちゃうぞ。 ねぇ・・・桃子の目の前まで来て」
その言葉に俺は桃子の前に行く。
桃子はスカートのポケットからハンカチを取り出すと、目を閉じて俺の頬をそっとなでる。

俺は自分で気づかないうちに泣いていた。
桃子は気を使ってか・・・目を閉じてくれて・・・ 桃子・・・

「ごめん・・・本当・・・に・・・ごめん・・・」
止められない涙と共に桃子に俺の気持ちを伝える。
桃子は目を開いて微笑んで俺に言った。
「君・・・前に桃子の笑顔が皆を幸せにするって言ってくれたよね?」
俺は、ただ泣きながら桃子を見つめていた。
「桃子は今、笑顔だよ。 君も舞波も泣かないで笑ってくれるよね? 幸せになってくれるよね?」
その言葉に俺と石村は必死になって泣き止もうとするけど・・・
桃子の優しい気持ちに感情が抑えきれないでいた。

泣き続ける事しかできない俺と石村。
桃子は何も言わずに俺のチョーカーに付いた指輪に触れて言った。
「桃子の笑顔が・・・君を優しく包み込んであげられますように・・・」
そう言った後で、桃子は俺を笑顔で見つめながら話し出した。
「ごめん…そろそろ桃子も笑顔を保っていられるの限界なんだよね〜♪」
いつもの少し甘い感じの声を出して・・・涙を瞳いっぱいに溜めながら言う。
「桃子と舞波は大丈夫だから・・・ だから・・・彼女の所に行ってあげて・・・」
言い終わると必死に笑顔を見せて・・・そのまま涙がこぼれ落ちる。
俺は上を向いて、泣いている桃子を見ないで教室から出て行った。

教室を出ると同時に桃子の泣き声が聞こえて来て・・・
俺は急いで隣の教室に入って声を出して泣いた。

嗣永桃子・・・彼女の笑顔に何度助けられただろう。 彼女の明るさに何度元気を貰っただろう。
切ないほどの優しさ。 自分の弱さを犠牲にして相手を守ろうとする強さ。
本当に守ってあげたかった・・・でも、俺には『好き』と言って桃子を抱きしめる事ができなかった。
それが今の俺にできる1番の優しさだから・・・

「くそっ! 本当に俺って最低だ!!」
その場に座り込んで床を2回、力強く叩いて・・・そのまま泣き続ける。


「桃ちゃんの気持ちは・・・『ありがとう』って心から君に伝えようとしてたと思うよ」

その言葉と共に俺の体を誰かが優しく包み込むように抱きしめてくれる。
顔を見なくても・・・愛理だってスグにわかっていた。

PM5:30

気持ちが少し落ち着いた俺は、愛理の胸から顔を離して無理に笑顔を見せる。
愛理は何も言わないで笑顔で俺を見つめてくれた。
俺が1つ深呼吸をしてから…愛理に言う。
「自分が・・・どれだけ色々な人に助けられて、守られて、愛されていたか感じられた」
その言葉に愛理が優しく言う。
「皆の愛情とか、優しさとか、勇気とか。 それが君を強くしてくれたんじゃないのかな?」
俺は愛理に向かって大きくうなずく。
愛理は俺の顔を『じーっ』と見つめてから『クスッ』と笑って言う。
「その表情なら大丈夫だね♪」
そんな愛理の言葉に答える感じで後ろから声が聞こえた。
「あとは千奈美ちゃんに君の気持ちを伝えるだけだね」
その声に振り返ると、須藤が教室のドアの前に立っていた。

驚いてる俺を、いつもの意地悪な笑みで見る須藤。
須藤は俺の前に来て言う。
「他の人の事は心配しなくていいから。 君は、君が出した答えを彼女に伝えて来てあげなよ」
笑顔の須藤に向かって俺が強くうなずく。
須藤は俺の表情を見てから、しゃがんでロザリオに付いた指輪を手に取ると握り締める。
何も言わずに数秒握り締めて・・・ 立ち上がって笑顔を俺に見せて教室を出て行ってしまった。
そんな須藤の後ろ姿を笑顔で見つめている愛理。
「後で・・・茉麻ちゃんに『ありがとう』って言っておきなよ」
「えっ!?」 愛理の言葉の意味がわからずに聞き返そうとするより先に愛理が話し出す。
「ねぇ・・・自分の本当の大切な人が見つかったんだよね?」
愛理の少し寂しそうな言葉。
俺は愛理を見つめながら小さくうなずく。
愛理は『そっか・・・』と呟いてから、俺を笑顔で見つめた。
「君の心が変わらないなら大丈夫だよね。 愛理・・・1つだけ君に言いたかった事があるんだ」
愛理が目を少し潤ませて・・・そのまま涙を流す。

「愛理・・・ずっと前から君の事が大好きだったんだよ」

愛理が泣いた所を初めて見た気がした。
泣きながら俺を数秒間見つめて、愛理が続きを話し出す。
「でもね、誰よりも君の事が好きだから・・・ 幸せになって欲しいって思うんだ」
そう言って、愛理は下を向いてから・・・少しして顔を上げた。
いつもの愛理の笑顔がそこにあった。
「だから! だからね!! 絶対に今日は上手く行くって愛理には分かるの!」
愛理は笑顔のまま話を続ける。
「愛理は君が笑顔になってくれるなら、それだけで幸・・・」
「愛理!!」
言葉を途中で切るように大きな声で愛理に向かって叫んだ。
愛理は『えっ!?』って感じで俺を見た。

「いつでも皆の前で強がって・・・ 俺の前では弱さを見せてよ・・・」
そう言って笑顔で愛理を優しく見つめた。
愛理の瞳が涙でいっぱいになって・・・ そのまま俺の胸の中に飛び込んでくる。
俺は愛理を優しく抱きしめて頭をなでる。

愛理は俺の胸の中で必死になって話す。
「お願い・・・今だけでいいから・・・愛理の事だけ見ていて・・・」
愛理はチョーカーに付いた指輪にキスをしてから顔を上げて俺を見つめる。
泣き顔も可愛いくって、俺が笑顔を見せると必死に笑顔を作って・・・涙がこぼれる。
俺が目を閉じて愛理に顔を近づける。

「愛理の初恋・・・バイバイ」
小さな声で言うと愛理も目を閉じる。

鈴木愛理・・・愛理に言えなかった事があるんだ。
俺の初恋の人は愛理だって最近思い出した事。
今、それを言った瞬間に俺は愛理に告白してしまいそうだったんだ。
だから・・・言えなかった。
真剣に2人の人を好きになったのは初めてで・・・ 
俺の心に最後まで残って悩んでいたのは彼女と愛理・・・本当に好きなのはどっちなのかだった。

八景島で・・・
体育館裏で・・・
教室でキスをして・・・
お風呂の中で・・・
ベッドで見つめ合って・・・
夕暮れの教室で愛理を抱きしめてキスをしている。

何で時間は過ぎていくんだろう。
俺と愛理の頬を流れる涙は、時間が流れている事を2人に知らせているように思えた。
キスをしている瞬間も過去に変えていって・・・ 

俺も、鈴木愛理が大好きでした・・・

PM7:00

俺は走って思い出の橋に向かう途中だった。
彼女に俺の思いを伝えるために。
1ヶ月前に彼女に思いを打ち明けられた場所に・・・

途中、石につまづき転んでしまう。
それと同時にチョーカーが外れてしまい指輪を落としてしまった。
空は雲に覆われてしまって、街灯だけが指輪を探す頼りになっていた。

必死になって探すけど・・・ 明かりが全然足りなくて見つからない。
10分くらい探したけど指輪の輝きを見る事ができない。
大切な指輪を・・・ 皆の気持ちが入った指輪を必死になって探す。
(こんな大事な時なのに・・・)
何とも言えないもどかしさから地面を叩く。
そんな事をしても指輪が自分の手の中に戻って来る事は無いのに・・・

「1人で探して見つからなくても・・・2人で探せば見つかるんじゃないかな?」

後ろから聞こえた、聞き覚えのある声に戸惑いながら振り向く。
だって『聞き覚えがある』って言っても絶対に彼女がいるわけ無いと・・・思ってたから。
彼女は『クスッ♪』と笑って、驚く俺に向かって言った。

「手作りのホワイトチョコは美味しかった?」

俺の瞳に『村上 愛』が映っていた。

「めーぐる!? 何で!? えっ・・・夢!?!?」
戸惑う俺に、めーぐるが笑顔で答える。
「さて〜何ででしょう?」
それと同時に『クスクス』と聞き覚えのある笑い声・・・
数時間前にキスをした彼女の笑い声だった。
「愛理!? 何で愛理も・・・ え〜!?」
混乱する俺を横目に、めーぐるが愛理に『どこから話せばいいのかな?』と彼女らしい笑顔で愛理に言う。
愛理が俺の顔を笑顔で見ながらゆっくりと説明する。
「愛理と愛ちゃんは、同じ『愛』同士で『あいも〜ど』で繋がったメル友でした♪」
『ぽかーん』とする俺を見つめながら『2人共〜携帯はauなんだけどね♪』と、めーぐるが不思議な突っ込みを愛理に入れる。
戸惑いながら俺が必死に言う。
「えっ・・・ずっと前から2人はメル友だったの?」 そんな俺に向かって愛理が意地悪な笑顔で言う。
「知り合ったのは2月の終わり頃で〜仲介人は君のお母さんでした♪」
(・・・やられた ありえないよ、母さん)
混乱している俺にめーぐるが言う。
「電話で愛理ちゃんと話したら、意気投合って言うか〜仲良くなっちゃって! だから、春休みに入ったから東京に遊びに来たんだよ」
愛理が続けて言う。
「言っておくけど、愛ちゃんは『愛理』に会いに来たんだからね! 君は関係無し!」
めーぐるも『そうそう♪ 関係な〜し♪』と笑顔で言う。

その笑顔が札幌の雪祭りで見た彼女の笑顔と同じで・・・夢じゃない事を確信した。

俺は笑顔のめーぐるを見つめていた。
あの時、あの場所で見た笑顔と変わらない彼女の笑顔を懐かしく思いながら見つめていると・・・
『バシッ!』
・・・愛理の手が俺のおでこに。
焦って愛理を見ると、顔を膨らませて不満そうな表情をしていた。
俺が戸惑いながら『いや・・・懐かしくてさ!!』とか必死になって言う。
「何で必死になってるの!? 本当に美人に弱いんだから!」
そんな俺と愛理のやり取りに『クスクス』と下を向いて可愛く笑っているめーぐる。
めーぐるを見ていると、何となく心が安らぐと言うか〜・・・
俺と愛理も顔を見合わせて笑っていた。

めーぐるが俺に向かって笑顔で優しく言う。
「君にとって・・・大切な人は見つかった?」
俺は、めーぐるを少しの間見つめて・・・笑顔を見せてうなずいた。
めーぐるも『そっか・・・』と小さく呟いて俺を見つめた。
数秒見つめ合って・・・めーぐるはその場にしゃがんで、すぐに立ち上がると俺の目の前まで歩いて来た。
1ヶ月ぶりの彼女の笑顔を目の前で見つめながら、彼女の独特な魅力を感じていた。

めーぐるは俺の目の前に左手を出す。
その手には指輪が乗っていた。
「あっ・・・その指輪! えっ!?」
戸惑う俺に彼女の優しい声が伝える。
「さっき、下を向いて笑っていた時に見つけたんだ♪ ほらね!1人で探すより3人で探した方がみっかったでしょ?」
そう言って『クスッ』と笑顔を見せる。
「めーぐる・・・ありがとう」 
俺が言うと、めーぐるは指輪を両手で握り締めて目を閉じた。
少しの時間が過ぎて、目を開くと俺の左手に持っていたチョーカーを取って指輪を通す。
そして俺の首に手を回してチョーカーを付けてくれた。
「私の気持ちを込めたから・・・ 『奇跡が起こりますように』って♪」

『奇跡』って、あんまり起こらないから『奇跡』って言うんだろうけど・・・
彼女が言うと本当に起こりそうな気がする。
彼女の笑顔には、そんなふうに思わせてくれる力がある。

「それでは『あいあいず』はそろそろ帰りましょうか♪」
愛理の言葉にめーぐるが笑顔で『りょうか〜い』と言った。
「あいあいず? 何それ?」
俺が不思議そうに愛理に聞く。
「愛ちゃんの『I』と愛理の『I』で『あいあいず』 いいでしょ?」
愛理が笑顔で俺を見つめる。
めーぐるも『ね〜っ♪』って感じで笑顔を見せる。
(・・・何かセンスが感じられないなぁ)
微妙な顔の俺に愛理が気付いたらしく少し怒った表情で言う。
「何〜!?文句あるの!? じゃ、君が良い名前を考えてよ!」
「えっ!?」 突然ふられたから戸惑う俺に
「そうだよ〜! それじゃ、君が考えてよ!」と少し怒った声でめーぐるも迫ってくる。
(ヤバイ!)と思い、俺は愛理とめーぐるに笑顔を見せると逃げるようにその場を離れる。

 ・
 ・
 ・

数Mほど離れたけど・・・すぐにUターンして2人の前に戻る。
「あの・・・本当にありがとう。 俺、頑張ってくるから」
そう言って頭を下げた俺を2人は笑顔で見つめてくれた。
そして2人に向かって言う。
「めぐみの漢字の『愛』の『I』と愛理の漢字の『愛』の『I』 愛理は小さいから〜・・・『あぁ!』なんてどうかな?」
そう言って俺が2人に笑顔を見せて、そのまま走って彼女の待つ場所に向かった。

「『あぁ!』だって・・・ 結構いいかもね」
愛理の言葉に『クスッ』とめーぐるが笑って言う。
「彼が付けてくれたんだもん。 私も愛理ちゃんも大満足だよね♪」
その言葉に愛理の表情も笑顔に変わっていた。

PM7:30

思い出の橋の上で千奈美を待っていた。
空は少し曇っていたけど、月の光で川の水が『キラキラ』と輝いている。
俺は目を閉じて・・・ 静かに千奈美を待つ。

片思いだって思ってた。
先の事なんて何も考えてなくって、千奈美の笑顔を6年生になっても違うクラスになっても・・・ずっと見られると思っていた。
俺と千奈美は特別な関係・・・
幼馴染だから大丈夫なんて思っていたのかもしれない。

この橋で告白された時に、今まで両思いだった事を知って・・・
千奈美の告白の言葉を聞いた時は『ドキドキ』が止まらなかった。
ずっと好きだった人から『好きでした』って言われた事と、その瞬間に『幼馴染』の枠が消えた感じがして・・・
そこには1人の女の子『徳永千奈美』が俺の瞳に映っていたから。

夜の静けさが川のせせらぎの音を風によって運んでくる。
3月の冷たい風に、近くの公園に咲いた桜の花びらが踊るように舞っている。
俺は、ゆっくりと深呼吸をしてから橋の反対側に目を向ける。

千奈美は笑顔で俺を見つめていた。

優しい声で千奈美が俺に話しかける。
「こんばんわ。 こんな時間に桜とは〜風情がありますね♪」
そんな千奈美に俺も笑顔で言い返す。
「夜桜に見とれながら・・・ 徳永千奈美を待ってたから」

俺と千奈美は見つめあった。

足を前に出すだけで千奈美と俺の距離が近づいていく。
当然の事だけど、その『当然の事』が橋の真ん中で俺と千奈美の距離を数センチにさせた。
何も言わないで見つめ合って・・・

俺が先に千奈美に言う。
「桃子と体育の時間にサボった時・・・どう思った?」
千奈美は少し考えてから〜笑顔で答える。
「何度も先生に言いつけて計画を中止にしようと思ってたよ」
俺が笑いをこらえながら話を続ける。
「俺が夏焼と八景島に行ったのに・・・何とも思わなかったの?」
千奈美が『クスッ♪』と笑って笑顔で答える。
「『土曜日は雨になっちゃえ!』って祈ってたよ」
我慢できなくなって笑いながら質問を続ける。
「佐紀と2人乗りでクレープ屋に行った時は?」
千奈美は笑顔で下を向きながら答える。
「変な味のクレープを買って渡そうと思ったんだけど〜・・・ 友理奈ちゃんも一緒にいたから未遂に終わりました」
少しずつ・・・千奈美の顔が優しい笑顔に変わっていく。
「それじゃ〜・・・クイズの時に、目の前で俺が愛理とキスした時は?」
今度は俺の目を見つめながら答える。
「あれは最悪だったね〜! あの時は『裏切られました 千奈美は旅に出ます』って、傷心旅行を計画したっけ」

俺が優しい声で千奈美に言う。
「嘘つき。 全部、皆の事を笑顔で見てたんだろ・・・心の底から」
俺の言葉に千奈美が小さな声で言う。
「私も・・・君も・・・お互いの事を知りつくしてるからね。 ずっと一緒にいたんだもん」
そう言って千奈美は下を向いた。
俺も下を向いて・・・

静寂な時間が少しずつ2人の間で流れていた。

俺はチョーカーを外して指輪を手の中に落とすと目を閉じて握った。
そして、少ししてから目を開いて千奈美を見つめる。
千奈美も真剣な表情で俺を見つめていた。
指輪が俺の手の中で冷たさを感じさせながら勇気をくれる。
千奈美に・・・俺の気持ちを伝えるために。

「ずっと・・・ずっと千奈美の事が好きでした」

桜の花びらが2人の間を風に運ばれて通り抜けていった。
千奈美は俺の目を見つめて・・・ そのまま瞳を閉じて俺の胸に手を当てる。
俺は何も言わずに千奈美を見つめていた。

「ありがとう・・・」
千奈美は優しい声で、ゆっくりと俺に言った。

「桃子をふるなんて最低だよ!!」 舞波が大きな声で叫ぶ。
「舞波・・・いくら何でも早すぎるよ・・・」 桃子は膝枕してあげながら舞波のおでこを濡れタオルで冷やしながら苦笑い。
「何言ってるの! 桃子以上に可愛い子なんて存在しないのに・・・あのバカ〜!!」
近所迷惑なんてお構い無しに叫ぶ舞波を見て、友理奈が笑いながら言う。
「350mlのアルコール1%のカクテルを皆で分けて飲んだのに・・・酔っ払っちゃったんだ」
「『カンパイ♪』って雰囲気だけだったのにね〜」 そう言って桃子が『クスッ』と友理奈に笑顔を見せる。
友理奈も桃子に笑顔を見せて〜そのまま2人で笑い出して止まらなくなっていた。

笑いが少し収まって桃子が言う。
「それにしても、これだけ女の子がいるのに同じ人を好きになるなんて・・・不思議だよね?」
桃子の言葉に友理奈が答える。
「う〜ん・・・ 顔はカッコいいんだけど〜抜けてるし!鈍感だし!女泣かせだし!」 最後の方は感情が入って力強く。
その表現に皆が大笑い。 
そん中、佐紀が優しい声で言う。
「でも、彼の魅力って・・・気づかないうちに私達を笑顔にしてくれていた所だよね」
その言葉に皆が優しい表情になる。

『シーン』とした空気の中、佐紀が『ハッ!』と思い出した様に茉麻に言う。
「茉麻ちゃん・・・家の人とか大丈夫なの?」 こんな時でも心配をする佐紀に茉麻が笑顔を見せる。
「『明日が休みだから友達が泊まりに来る』って親に言ってあるし、少しくらい騒いでも怒られないから安心して」
佐紀は、その言葉に少し安心して笑顔を見せる。

「それにしても、ふられた人達で失恋パーティとは・・・恐れ入りました♪」
友理奈がポッキーとプリッツを同時に口に運びながら言う。
「まぁ〜・・・1人で枕を涙で濡らすよりは傷ついた者同士で騒いで忘れようみたいな〜・・・ねっ♪」
茉麻の言葉に皆が再び大笑いをする。

その中に、徳永千奈美の笑い声は無い。

「でも、桃子をふったのは絶対に許せないの〜! 桃子は・・・舞波が・・・絶対に守るからね・・・」
泣き出す舞波に『はいはい。 桃子は幸せ者だよ〜♪』と舞波の涙を優しく拭ってあげる。
同じく、最初の『カンパイ』でクラクラ状態の梨沙子が佐紀に膝枕をされながら言う。
「梨沙子もふられたんだ・・・梨沙子・・・まだまだ子供だから・・・」 そう言って泣き出す。
舞波が怒りっぽくなるのに対して梨沙子は泣き上戸みたいだ。 

佐紀が梨沙子の頭をなでながら慰めていると・・・
階段を上がってくる足音。 そのまま部屋の前に立って『コンコン』とドアを叩く。
「どうぞ」 茉麻の声にドアノブが回って・・・

「ジャーン! 徳永千奈美、遅刻してしまいました♪ 遅刻の理由は失恋したので髪を短く切って来たためです♪ ごめんなさい♪」

これ以上無い笑顔で千奈美が部屋に入って来た。
部屋にいた全員が切ない気持ちで千奈美を見つめる。
「あれ!? リアクション悪いよ〜!! オールで騒ぐんだからテンション上げて行かないと♪」
そんな千奈美を、立ち上がって笑顔で友理奈は抱きしめる。
「千奈美ちゃん・・・待ってたよ。 ずっと好きだったんだもんね・・・ 無理しなくていいから」
その言葉に千奈美の表情が変わっていき、瞳には涙が溜まっていく。
「私達が千奈美ちゃんの悲しみを全部受け止めるから・・・」
友理奈の言葉が、そのまま千奈美の涙に変わっていた。
「ずっ・・・と・・・ずっと・・・好きだっ・・・たから・・・ すぐに・・・忘れる・・・なんて・・できないよ・・・」
千奈美の言葉に友理奈も涙が止まらない。
「千奈美ちゃん・・・友理奈は・・・千奈美ちゃ・・・んが・・・大好きだ・・・よ。 ずっ・・・と・・・親友でいようね・・・」
泣いているために途切れながらも必死に千奈美に言うけど・・・
2人共その場に泣き崩れてしまった。
そんな2人を少し涙目で見つめながら茉麻が呟いた。
「雅ちゃん・・・皆の分も頑張ってね」

PM8:30

茉麻から聞いていた約束の時間は9時・・・
失恋パーティが本当は8時からスタートだっと後で知った。

雅は桜が舞い散る小さな公園に呼び出されていた。

PM7:45

「ありがとう・・・」
千奈美は優しい声で、ゆっくりと俺に言った。
そして・・・そのまま俺を見つめながら次の俺の言葉を笑顔で待っていた。

「何で・・・ 何で笑顔なんだよ・・・ 俺の次の言葉がわかるんでしょ・・・」
俺の目から涙がこぼれる。
それでも千奈美は何も言わないで笑顔を見せる。
俺も千奈美の事なら全部わかる。
千奈美が今、待っている言葉は・・・

「俺・・・ 夏焼の事を本気で好きになったんだ。 夏焼に俺の気持ちを伝えようと思ってる」
泣きながら言った俺の言葉に対して千奈美が言った言葉は・・・
「頑張ってね。 雅ちゃんと上手くいくように祈ってるから」 
そう言ってチョーカーに付いた指輪を握り締めながら涙で濡れた俺の頬にキスをした。
「千奈美・・・本当にごめん。 俺・・・千奈美の笑顔を・・・」
それ以上言葉が出ない俺に千奈美が優しく微笑んでいた。

徳永千奈美・・・彼女の笑顔を見るだけで幸せだった。
小さい頃から一緒にいて、彼女が隣にいる事が当たり前だった。 
それが俺と千奈美で、絶対に離れたく無かった。
一生の別れでも無いのに・・・切なくて、悲しくて涙が止まらない。
だって、俺には彼女が望んでいる事がわかったから・・・

俺が言い掛けた言葉が『俺・・・ 千奈美の笑顔を・・・ 壊したく無かった』
だから、ずっと笑顔で俺を見つめているんでしょ?
本当は泣きたいのに・・・ 傷ついてるのに・・・ 俺が千奈美を見つめているから無理して笑顔を作って・・・
何も言わないのは言葉を出したら涙が止まらなくなるから。
小さい時から千奈美はそうだもんね。 泣き虫のくせに・・・俺が泣いてると自分は何も言わないで笑顔を見せてた。

そう・・・ 今、俺に出来ることは・・・

俺は千奈美のおでこにキスをして・・・ 振り向かないで桜が舞う、この場所を離れた。

PM8:30 〜桜が舞い散る公園〜

春の到来を伝える早咲きの桜が、雲の隙間からこぼれ落ちる月の光に淡く染められている。
この場所の今、一瞬の風景を見ているのは俺と夏焼の2人だけ。
肌寒い風が音を立てながら2人に触れては過ぎていく。
365日の中の・・・普通の1日。 午後8時30分。

ただ・・・ 夏焼 雅を見つめていた。

夏焼の家に行き、戸惑う彼女を無理に連れてきた。
ここに来る間、夏焼は下を向いたまま何も言わなかった。

桜の樹に寄りかかりながら下を向いている夏焼。
そんな彼女に向かって俺が言う。
「1ヶ月前・・・俺は、ここで夏焼に『さよなら』って言われた」
その言葉に夏焼は少し時間を置いてから・・・小さくうなずいた。
「2人の思い出の指輪も返されて・・・ 『本当に大切な人に渡して』って言われた」
夏焼は顔を上げて真剣な表情で俺を見つめる。

俺が次に言う言葉を、彼女はどう受け止めてくれるのだろう。
小さく深呼吸を1つして・・・
俺が夏焼に向かって言う。

「俺にとって・・・1番大切な人は夏焼・・・」
「・・・いいの?」
俺の言葉を途中で切るように・・・夏焼が小さな声で言う。
夏焼の顔は不安な表情に変わっていて・・・
俺は、そんな彼女を優しく見つめていた。

夏焼は俺を見つめながら震える声で話を続ける。
「千奈美ちゃん、友理奈ちゃん、佐紀ちゃん、桃ちゃん、梨沙子・・・そして愛理ちゃん。 皆・・・君の事を大好きで大切に思ってる」
俺は何も言わずに夏焼の言葉を聞いていた。
「私は・・・君を悲しませたり、傷つけたり、泣かせたり・・・ これからも笑顔にすることができないかもしれないよ?」
言いながら夏焼の瞳には涙が溜まっていく。
「後悔するかも・・・しれないよ・・・」
夏焼の小さな声が夜空に響いていた。

俺は夏焼の言葉を聞いて・・・優しく微笑んで言う。
「別にいいよ。 俺は悲しんだり、傷ついたり、泣いたってかまわない。 夏焼が笑顔でいてくれるなら」
その言葉に夏焼の瞳から涙がこぼれる。
「俺が好きなのは・・・雅だから。 雅と一緒に入れるなら俺は幸せでいられる」
俺が笑顔で雅の頬に流れる涙に触れる。
雅は声を出して泣いて・・・ 俺は雅を胸で抱きしめた。
「私も・・・君を笑顔に・・・する・・・から。 君の笑顔が・・・私を・・・幸せにして・・・くれるから・・・」
俺は雅の頭を優しくなでながら『大好きだよ・・・雅』と言った。
雅も俺の胸から顔を上げて、泣き顔で見つめて・・・
「私も・・・君の事が大好きです」 そう言って泣きながら笑顔を見せた。

俺は右手に握り締めていた指輪を雅の前に出す。
そして、雅の左手の薬指に優しくはめた。

俺は雅を笑顔で見つめる。
雅の優しい笑顔を見つめて・・・ そのまま瞳を閉じて顔を近づける。
雅も瞳を閉じて・・・ そのまま2人の距離が近づいていって・・・

指輪が月の光を浴びて冷たく輝いて・・・ そのまま輝きを失う。
月が雲に隠れると同時に空から白い雪の結晶が2人に舞い落ちてくる。

奇跡のような・・・ そんな光景だった。
真っ白な雪の結晶が、散り行く桜の花びらを引き立てるように一緒になって春風に舞っていて・・・

さくら色の世界の中で、俺と雅は永遠を誓うみたいに・・・キスをしていた。

 

〜エピローグ〜

4月の平穏な1日

『ピンポーン』
チャイムの音に母さんが玄関に行き、ドアを開ける。
そこには笑顔で立っている少女が1人。
「はいはい! 雅ちゃん、おはよ〜! 毎日迎えに来てくれてありがとう!」
そんな言葉に雅も笑顔で『おはようございます♪』と元気に返事をする。
「あの子〜低血圧だから朝は弱くって。 急がせるから待ってて・・・ってか、雅ちゃん!お願いがあるんだけど!」
「えっ・・・私にですか?」

玄関から聞こえる2人の会話に急がされるように朝食を牛乳で流し込む。
そして、鏡で自分をチェックしてから走って雅の待つ玄関へ向かった。

「おはよっ! 遅くなって〜・・・ん?」
急いで玄関へ行くと、雅は顔を真っ赤にして『あの・・えっと・・・』と下を向いて何か呟いている。
不思議に思いながら『雅〜・・・おはよう?』と、もう1度言う。
雅は『あっ・・・おはようございます・・・』と、少し戸惑った感じだった。
呆気に取られる俺を後ろから押しながら母さんが言う。
「はいはい。 あんた邪魔だから早く学校行って現代社会の常識でも勉強してきなさい!」
(・・・本当に毎日、追い出すように俺を見送るなぁ)
俺は不満を持ちながらも『いってきま〜す!』と母さんに言って玄関を出る。

俺は玄関を出たけど〜・・・雅が出ない? 何で?
雅は恥ずかしがりながら「あの・・・言わないとダメ・・・ですか?」と母さんに言う。
母さんは『ニヤニヤ』と笑ってて・・・
(この人、また無理な事を言ったな!)と思った時だった。

「雅さん! 息子を今日も頼みますよ♪」 少し雰囲気を出しながら言う母さんに向かって
「行ってきます!お義母さん・・・ キヤーッ!!!!!!!!」 そう言って雅は顔を真っ赤にして走って行ってしまった。

(・・・何が恥ずかしかったんだ? 昼ドラか何かの真似!?)
俺には意味がわからだかったけど〜・・・ 走って行ってしまった雅を急いで追いかける。

「雅は足が遅いからなぁ」
スグに追いついた俺は、雅の横で笑いながら言う。
「も〜・・・意地悪!」 そう言って顔を膨らませる雅。 メチャクチャ可愛い!
そんな雅の怒った顔を見つめていると〜・・・雅も『クスッ♪』と笑顔を見せる。

「ところで〜・・・さっきの会話って何が恥ずかし〜・・・」
「あ〜!!そう言えば!!!」 と、俺の言葉をかき消すように雅が大きな声で突然言う。
「・・・はいはい。 理由は聞かないでおくから。 で?『そう言えば』の続きは?」
雅は少し照れながら『よしよし♪』と小さくうなずいてから話し出す。
「今、学校で〜仲の良い友達同士でチームを作ってダンスとか歌を練習するのが流行ってるんだ」
「あ〜・・・休み時間に女子が何かやってるね」
雅は俺の顔を見ながら笑顔で言う。
「今ね! 私、2つのチームに誘われてるんだ。 1つは5年生の時の同じクラスの仲良し7人で『Berryz工房』ってチームなんだ」
「5年1組って・・・桃子とか?」
「桃ちゃん、友理奈ちゃん、梨沙子、舞波ちゃん、佐紀ちゃんに茉麻ちゃん! それに千奈美ちゃん!!」 雅は嬉しそうに言う。

雅はあの後、皆の事(特に千奈美の事)を気に掛けてて・・・どうしたらいいのか真剣に悩んでた。
でも、16日に学校に行くと最初に笑顔で『おはよっ♪』と雅に声を掛けたのは千奈美だった。
千奈美の笑顔に雅は泣き出しちゃって・・・ちょっと教室は騒ぎになったけど、皆が笑顔で雅を迎えてくれていた。
俺に対しても、桃子も友理奈も今まで通り接してくれた。

「それでね!! もう1つのチームが愛理ちゃんが作った『あぁ!』って言うチームなんだよ♪」
「えっ!?」 雅の言葉に俺が一瞬戸惑う。
「愛理ちゃんと〜、君と同じクラスに転校生の『村上 愛』って子がいるでしょ?」
「あ〜・・・転校生が来たねぇ・・・」 俺が平常心を保ちながら言うと〜・・・雅は『ニヤニヤ』と意地悪な笑顔を見せてて・・・
俺は何となく嫌な予感を感じながら雅に言う。
「・・・母さんから・・・何か聞いた?」
その言葉に『クスッ♪』と可愛い笑顔を見せてから雅が大きな声で言う。
「『白い恋人 めーぐる』 美人で〜・・・ロマンティックな出会いをした女の子なんだよね〜?」
(母さん・・・マジでありえないよ!!!)
俺は戸惑いながら雅に言う。
「いや・・・だって!転校してくるなんて!! ってか、仲良く無いし!!!」
「え〜!? でも愛理ちゃんは『教室で2人で一緒に居る事が多いよ〜♪』って教えてくれたけど?」
雅は俺を笑顔で見つめている。
少し焦ったけど〜・・・すぐに俺も雅を笑顔で見つめて言う。
「遅刻しそうだから〜そろそろ走ろうか?」
そんな俺に『そうだね♪』 優しく雅が言う。 

今の2人には『心配』『不安』『迷い』は全く無かった。
俺は、雅の左手を掴んで走り出した。

雅の左手の薬指に光っている指輪には、皆の『小さな恋』で育てられた『優しさ』『勇気』『愛情』がたくさん詰まっていている。


                                                    〜おしまい〜