【富豪デカvs特命係・菅谷梨沙子】
1 名前:名無しさん 投稿日:05/03/20(日) 03:02:55 とある小学校の、5年2組
担任の藤本先生は大学を卒業したばかりで、美人だけど怖い
クラス全体の仲は、特別いい訳でもないし、悪い訳でもない
イジメみたいな問題点も特に無い
スポーツも、特に良くできる方じゃないけど、悪い方でもない
クラス対抗の球技大会などではいつも真ん中辺の順位
まあ、そんな、何の変哲も無い、平凡なクラスが俺のクラスだ
・・・・・・と、言いたいのだが、このクラス、他とは違うところが3つある
1つ目はクラスメイトの菅谷梨沙子
この子は5年生なのに九九が言えない
漢字の読み書きも極めて危なっかしい
そして、毎週必ず1度はおもらししてしまう
こんなちょっぴり困ったクラスメイトがいる
2つ目は特命係という名の係の存在
他の係の補佐や、ちょっとした雑用を、責任を持ってこなす、という、窓際族のようなどうでもいい係
元々はこれなら菅谷にでもできるだろう、ということで作られた係だった
だが、2学期から、この特命係に、俺も加わった
3つ目の違うところ・・・・・・・・これは知っている人はほとんどいない秘密だが・・・・・・
俺たちのクラスの教室には、『ナチスと旧日本軍が開発した世界征服をも可能にする悪魔の発明』
なるものの、設計図が隠されている・・・・・・らしいのだ
教室のどこに、どんな形で隠されているのかは俺は知らない
本当にそんな物があるのかと疑ったこともある
だが、これを狙っているプチモニーという秘密結社によって、多くの血が流されたのも事実だ
この3つ目の秘密には続きがある
プチモニーの魔の手から、設計図とクラスの平和を守る、というのが、特命係の本当の仕事だ
実は、菅谷のアホは世を忍ぶ仮の姿なのだ
本当の菅谷は大学教授並の専門知識と明晰な頭脳の持ち主だ(おもらしはするけど)
ひょんなことから菅谷と特命係の秘密を知った俺は、半人前の特命係として菅谷にしごかれている
「ねえ、そのブーちゃんは何者でございまするか?」
徳永が手を上げて、グダグダの敬語で質問した
「わたくしでございますか?」
太ったおっさんが徳永のような笑顔を振り撒きながら言った
「私、祖父の代から梅田家の方に仕えさせて頂いております、高木と申します。趣味はウクレレを少々」
太ったおっさんはブヒブヒ笑いながらお辞儀した
すげー!今度ウクレレ聞かせてよー!などという声が上がった
高木のおっさんはあっという間にクラスの人気者になってしまった
「あの、みなさま、私のことより、えりかお嬢様のことをよろしくお願いします」
木さんはちょっと困った顔で背の高い女の子の方を指した
「えりかお嬢様は梅田財閥の一人娘で、多少世間知らずな所はございますが、いい子でございますよ」
確かにえりかちゃんは背も高く大人びて見えるが、目は人懐っこい温かさや優しさが感じられた
クラスの連中も、えりかちゃんの優しさに包まれて、幸せそうな表情になっている
だが、俺はその目の奥に微かにうごめく冷たさに気付き、背筋が軽く震えた
もしかして、敵か?
プチモニーから送られてきた刺客か?
俺はそっとりーちゃんの様子を伺った
りーちゃんは転校生を睨みつけている
ひょっとして、素性に気付いて警戒しているのだろうか?
だが、りーちゃんの顔は、特命実行中のクールなスーパー梨沙子ではなく、アホのりしゃこのままだ
とりあえず、あのお嬢様が今すぐに危害を及ぼす敵である可能性は低いだろう
「じゃあ、梅田さんは、この席に座ってね」
藤本先生が教室の奥の方に机と椅子を運び込み、えりかちゃんを座らせようとした
だがその前に木さんが机を調べ、ホコリを掃い、自分が一度椅子に座ったりしていた
「さ、お嬢様、これで大丈夫でございます」
木さんがそっと引いた椅子にえりかちゃんは座った
「まあ、こんな硬い椅子に座っていては、腰を悪くしてしまいますわ!
高木さん、すぐに家具屋さんに電話して、イタリア製の椅子を届けさせなさい」
高木さんが胸ポケットから取り出した携帯電話を取り上げた藤本先生は、かつてないほど激怒している
「ちょっと!梅田さん!あなただけ特別扱いはできません!」
「まあ、そうでしたわね。木さん、クラス全員の、いや、全校生徒の分の椅子をお願いします」
「はい、かしこまりました、お嬢様」
木さんは革の鞄から予備の携帯電話を取り出して、家具屋に注文し始めた
途中で全校生徒の人数や学校の住所を藤本先生に質問しながら・・・・・・・・
藤本先生は呆れながらも、匙を投げたのか、木さんの質問にちゃんと答えていた
「じゃあ、授業を始めますから、お付きの人は帰っていただけませんか?」
「申し訳ありませんがそういうわけには参りません。旦那様に怒られてしまいます」
「じゃあ、せめて教室から出ていってください」
「わかりました。廊下の方で待機させていただきます。これでよろしいでしょうか?」
藤本先生が鬼のような目で黙って頷き、この騒動は一旦納まった
授業中も藤本先生は終始機嫌が悪そうだった
授業中、さり気なくえりかちゃんと廊下の木さんの様子を観察してみたが、怪しい様子は無かった
もっとも、木さんは居眠りしているようで、時々イビキが聞こえてきたのだが・・・・・・
りーちゃんも一応警戒している様子だったが、アホのりーちゃんのままだったからやはり平気なのだろう
まあ、それでも2時間目の後の長めの休み時間にでも中澤先生の所に相談に行ってみるか
「もう!なんなのなんなのなんなのなんなのよ!!!あのデカ女!!!!!」
保健室に入り、中澤先生の顔を見るなり、りーちゃんはブチ切れモードに突入した
「ちょっと、りーちゃん、そんなに興奮したら、また・・・・・・・」
俺はりーちゃんをなだめながらも一歩離れた
中澤先生が手馴れた様子でりーちゃんにそっと雑巾を手渡した瞬間、水の音が聞こえた
ぷしゅわ〜〜〜〜〜〜〜〜〜
見る見るうちに、りーちゃんの足元に水溜りが広がる
俺も一歩離れていなければ、直撃を食らっていただろう
「ほら、りーちゃん、またおもらししちゃって・・・・・・・」
俺も雑巾とバケツを手に取り、後始末を手伝った
「で、何かあったんか?ひょっとして噂の転校生のことかい?」
中澤先生は薬品や包帯や書類が入っている棚に向かった
一番下に『りーパン』と書かれたシールが貼られた引出しがある
中には梨沙子専用の真っ白なパンツが、ぎっしりと詰まっている
中澤先生はそこからミニモニのイラストの入ったパンツを取り出し、りーちゃんに渡す
「あの転校生、普通じゃない感じだったけど、敵ですか?」
りーちゃんがパンツを履き替えている間に俺は中澤先生に聞いた
「プチモニーが動いてるって話は聞いてへんで」
「じゃあ、味方ですか?」
「そんな話もないでぇ」
「あのデカ女は敵よっ!いい人なわけないでしょっ!」
パンツを履き替えたりーちゃんが会話に加わってくる
「ちょ、ちょっと、じゃあ教室を空けちゃあまずいんじゃない?」
「大丈夫よ。あのデカ女は初日からいきなり動くような小者じゃないわ」
「ああ、そうなんだ〜。良かった〜」
「おいおい、少年、良かった〜、ちゃうで。半人前のあんたじゃ危険やで」
「そうよ。あんた、一発でやられちゃうもーん」
「えっ?!ちょっと、脅かさないでよ」
「まあ、うちもちょっと窓から見たけど、あれは敵やないと思う出で。気になるんなら調べてみぃ」
休み時間が残り少なくなったので教室に戻ると、えりかちゃんが注文した椅子が運び込まれていた
「みなさま、庶民の暮らしを知るためとはいえ、安物の椅子ですいません」
えりかちゃんは申し訳なさそうにそう言ったが、俺の目には最高級品にしか見えなかった
見かけのいい椅子は座り心地も最高で、藤本先生の授業を聞いているうちにウトウト・・・・・・
気付くともう給食の時間だった
「みなさま、今日は梅田家からのお近づきの印がございますの」
えりかちゃんに合図された高木さんがみんなの机に小さな缶詰を配った
「キャビアでございますわ。缶詰にするような安物で申し訳ありませんが。パンに乗せてお召し上がりください」
生徒一同から歓声が上がった
藤本先生はもう諦めているようだ
「ちょっと、りーちゃん、お行儀悪いってゆいたいよ」
真っ先に缶を開けた須藤の元に梨沙子が現れ、いつものように匂いを嗅いでいる
次に缶を開いた貧乏の嗣永の所にも梨沙子は現れ、やっぱり匂いを嗅ぐ
そして俺が開けた缶の匂いも嗅いで、最後に自分の缶の匂いも嗅いだ
食べても大丈夫、と俺に目で合図を送ってきた
本当は全員の分の検査をした方がいいんじゃない?と以前聞いたことがある
だが、ヒョーホン調査とやらで、2人分くらいと特命係の俺と自分のだけ調べれば十分なのだと言われた
「いただきまーす」
高級品のキャビアは、俺の口には合わなかった
まずくはないのだが、特別美味しいとも感じない
クラスメイトの反応も、わけもわからず絶賛する奴と、違和感を感じつつも誉める奴、明らかに首を傾げる奴、と分れた
ポロロ〜ン
高木さんがウクレレを弾きだした
デブの木さんの手は赤ちゃんの手をそのまま大きくしたような、太くて短い指が特徴的
そんな指が、ウクレレを手にすると魔法の指に変身するのが不思議だった
高木さんのウクレレは、技術もすごかったが、安らげる素晴らしい演奏だった
少なくともこの人は、悪い人じゃない、敵じゃない、と確信するのに十分だった
えりかちゃんと高木さんがやってきて3日
クラスは驚くほど平和で、何か事件が起こるような気配は全く無かった
えりかちゃんは時々常識外れな発言で周囲を驚かせることがあったものの、次第にクラスに溶け込んでいった
木さんものんびりとした人柄とウクレレで、ファンを増やしていった
なんとあの藤本先生もその一人であった
俺は中澤先生に言われた通り、えりかちゃんのことを調べるため、接近しようと試みた
だが、うまくいかなかった
りーちゃんが怒るのである
普通の女の子なら目を盗んでいろいろできないこともないが、あのりーちゃん相手には困難だった
それでも、少しずつえりかちゃんに接近し、俺は男子で最初にえりかちゃんに名前を覚えてもらった
あの時感じたえりかちゃんのただならぬ気配は、気のせいだったのでは?
そう思い始めた4日目、クラスでちょっとした事件が起こった
いや、あれは普通なら大事件だ
プチモニーなんかとは無縁な普通のクラスならば・・・・・・・
朝の会で藤本先生が回収した、クラス全員の分の給食費が消えたのだ
「あの〜、消えた給食費って、おいくらでしょうか?」
1時間目を潰しての緊急学級会、えりかちゃんが手を上げて質問した
「一人あたりが3000円ちょっとで、クラスが30人ちょっとだから、およそ10万円よ」
大雑把な性格の藤本先生が言った
「ええ〜っ!?たった10万円ぽっちのためにこんな大問題起こしたのですか?」
みんなの白い目がえりかちゃんに集中した
「10万円なんてお小遣い1日分じゃありませんか?そんな些少なお金で事件起こすなんて・・・・・」
「あの、お嬢さま、庶民の方は10万円もお小遣い貰っておりませんよ」
木さんがフォローした
「失礼いたしましたわ。でも1ヶ月か2ヶ月のお小遣いでしょ?」
「あの・・・・ね、10万円あれば1ヶ月暮らせちゃうんだよ、庶民は」
俺はそっと耳打ちした
えりかちゃんは目をパチクリさせている
本当に知らなかったようだ
「じゃあみんな、目を閉じてください」
藤本先生は最後の手段に出るようだ
「今、手を上げて名乗り出れば、先生の胸の中だけにしまっておきます」
クラスは静まりかえっている
誰も手を上げる気配は無い
誰かが悪事を隠しているような、嫌な緊張感や胸の高鳴りも感じない
もっとも、これは俺がまだ半人前だから感じることができないだけかも知れないが・・・・・・
みんなが目を閉じて5分くらい過ぎただろうか?
藤本先生の苛立ちを俺が感じるようになった頃・・・・・・・・
「嗣永がやったんじゃないの?」
男子の誰かが言った
誰が言ったのかはわからない
だが、それに同調する声が次々と挙がった
「そうだよね。嗣永は貧乏だから怪しいよ」「桃子しか考えられない」
「証拠もないのに人を疑っちゃいけません!」
藤本先生が怒った
俺は目を開けてみた
俺以外にも、大多数が目を開いていた
「そんな、私、貧乏だけど、悪いことだけは絶対しないもん!」
嗣永はそう言うと泣き出してしまった
教室中を気まずい空気が支配したところで、チャイムが鳴った
緊急学級会はうやむやのうちに終わり、2時間目から通常の授業が始まった
「絶対あのデカ女が犯人なんだもーん!プチモニーの活動資金のために盗んだに決まってるもーん!」
2時間目と3時間目の間の休み時間の保健室
りーちゃんがブチ切れモードに突入
「りーちゃん、10万円なんて盗んでも活動資金の足しになんないよ」
「そうやで〜、菅谷、あんたらしくないで〜。ちょっと落ち着きぃ〜」
「でも、中澤先生、犯人捕まえるいい方法ありませんか?」
俺は中澤先生に質問したのだが、思わぬ方向から、思わぬ声が返ってきた
「罠を仕掛けてはいかがでしょうか?」
「デ、デカ女!あんた何しに来たのよ!?」
「えりかちゃん、俺たちの話、聞いてた?」
「聞こえちゃいましたわ。そちらの先生が菅谷さんに落ち着くようにおっしゃられてましたよね?」
良かった。プチモニーのことは聞かれていないようだ
「で、えりかちゃん、何しに来たの?」
「ああ、そうでしたわ。木さんがお腹を壊したのでお薬を頂きに」
「普通の下痢の薬でええか〜?」
「ええ。よろしくてよ」
中澤先生は正露丸を何粒か紙に包んでえりかちゃんに手渡した
「で、罠を仕掛けるって、どーすんのよぉ〜!?}
りーちゃんが口を尖らせて聞いた
「4時間目が体育ですよね?そこで、わたくしのお財布をエサにするのはどうでしょうか?」
「で、犯行現場を押さえるんだね?・・・・・・・・どうやって?」
「菅谷さん、その髪留めを貸してくださらない?それ発信機でしょ?」
「デ、デカ女、何故それを!?」
「高木さんが電波探知機をお持ちですのよ。では、お借りしますわね」
えりかちゃんはそう言ってりーちゃんの髪留めを外して、保健室から出ていった
えりかちゃんに対する疑惑は深まったが、敵ならこんな不用意に俺たちに正体を気付かせるような行動をするだろうか?
教室に戻ると木さんはいなかった
お腹を壊した、というのは本当なのだろう
クラスは、一見平和だが、嗣永は顔を伏せて泣き続けていて、他のクラスメイトも疑心暗鬼・・・・・・
ハッキリ言って最悪な空気である
「消えた給食費や犯人を探すのも特命係の仕事だよね」
3時間目が始まるまであと数分
俺は教室にはまだ入らず、廊下でりーちゃんに聞いた
「そうだもーん。あのデカ女を捕まえて騒ぎを押さえないと仕事がしにくいもーん」
「なんだよ、そんな理由かよ?」
「それより、おかしな様子の人はいないか探しなさいよ」
「おかしな様子?うーん、泣いてる嗣永の他では・・・・・・石村と須藤・・・・・・かな?」
「あんた、ホントに半人前ね。とりあえず、その2人に話を聞いてごらん」
実際に2人に話を聞いてみたら、確かに俺は半人前だった
石村は慰めても泣き止まない嗣永が気になって、須藤は来月の給食が食べられないのでは、と心配して、
今にも泣き出しそうな表情で、そわそわしていたのだった
「そのくらい、人間関係やいつもの様子知ってればすぐ想像できるでしょ?」
全くりーちゃんの言う通りだ
「じゃあ、りーちゃん、この中に誰か、怪しいのはいる?」
「それがね、誰もいないのよね・・・・・・・犯人は只者じゃないか、ここにはいない」
「それは・・・・・・・どういうこと?」
「答えは一つしかないでしょ?あのデカ女が、デブおっさんを使ったのよ!」
「じゃあ、俺、今日えりかちゃんの家に行って探ってみるよ」
「何?あんた、あのデカ女が好きなの?何考えてるのよ!男なんてみんなそうなの?」
「違うよ。中澤先生に、気になるなら探れって言われたでしょ?いい機会だから。りーちゃんも行く?」
「私はイヤよ!一人で行けばいいじゃん!」
「じゃあ、りーちゃんはどうすんの?」
「そうね・・・・・桃ちゃんでも探るかな?屁のない所に煙は臭わない、って・・・・・・」
「言わないよ・・・・・・・」
3時間目が終わった
4時間目が体育なので着替えなければならない
男子は廊下、女子は教室で着替えるのが4年生以上のうちの学校のルール
教室の中からえりかちゃんの声がする
「まあ、どうしましょ?高木さんがいないからお財布を預けることができませんわ!
中には40万円ほどしか入っておりませんけど不安ですわ!」
ものすごくわざとらしいが、犯人が男子だと廊下にも聞こえないと意味がない
「仕方がありませんね!机の中にしまっておきましょうね!机の中ですわ!40万円ですわよ!」
これなら全員の耳に届いただろう
だが、罠だとバレて、犯人が動かない可能性も高そうだ
案の定、4時間目が終わって教室に戻ってきても、財布は無事だった
「わたくしの完璧な演技にも釣られないなんて、犯人さんなんていないのではないでしょうか?」
えりかちゃんがりーちゃんに髪留めを返しながら言った
りーちゃんは黙ってえりかちゃんを睨んでいる
「ところでえりかちゃん、今日遊びに行ってもいい?」
「えっ?わたくしのうちにですか?よろしくてよ。お二人で?」
「いや、俺一人なんだけど・・・・・・・・・・」
「別によろしくてよ。菅谷さんは何かご用事でも?」
「あ、うん。そうなんだもーん!」
「では、後ほど地図をお渡しいたしますわ。でも、どういったご用件でしょう?」
「あ、せっかく仲良くなれたんだから、その記念と、高木さんのお見舞い。だめ?」
「とんでもございませんわ。大歓迎です。ウフフ」
ともかく、えりかちゃんの素性を探る工作の第一歩は成功だ
おかしい
この道であってるはずなのに・・・・・・・・
歩けど歩けど、道の両脇には荒れ野原、家はおろか建物すら見えない
もう一度えりかちゃんに貰った地図を見る
学校を出て左に向かい、消防署の角を左に曲がり、そのまま真っ直ぐ
途中、目印の神社も見た
どう考えてもこの道のはずなんだけど・・・・・・・・
そう言えば、この道は行き止まりになっているんじゃなかったかな?
県境の山が見えてきた
道はこの山へと繋がっている
この山、トンネルや峠道もなく、人が手を入れた形跡も無い
それでいて、登山やハイキングなどで行くこともない
そんな山に向かう道、これでいいのだろうか・・・・・・・?
坂道になってきた
人が通りそうな気配は全く無いのに、この道はアスファルトで舗装されている
不思議な道だ・・・・・・・
そう思いながら歩いていると、目の前に門が見えてきた
道路を門扉が塞いでいる
門の柱に、表札とインターホンのようなものがある
『梅田』・・・・・・・・・・・
ま、まさか、この山全部、えりかちゃんのお屋敷なのか?
インターホンを押して用件をと名前を告げると、その場でしばらく待つように言われた
3分ほどして、門が開くと、真っ黒い高級車が待ち構えていた
「えりかお嬢さまのご学友の方ですね。伺っております、さあ、お乗り下さい」
目をパチクリさせて車に乗りこんだ
「あの、お屋敷は・・・・遠いんですか?」
「いえ、すぐ近くでございます。車で5分ほどですから」
車のスピードメーターは80キロを指している
1分ほど走ったところで、お屋敷が見えてきた
5分というのは誇張だな、と思った
しかし、屋敷はどんどん大きくなっていく
すげー、学校の校舎よりでけー!と思ってからさらに2分、ちょうど5分で巨大なお屋敷に到着
車を降りるとメイドさんが出迎えてくれた
「えりかお嬢さまはポチのお散歩中です。しばらくお待ち下さい」
教室の倍くらいありそうな広い部屋に通された
「あの・・・・・ここは・・・・えりかちゃんの部屋?」
「こちらはえりかお嬢さまのお部屋のエントランス、玄関のようなものです」
その時、窓の外を馬に跨ったえりかちゃんが通りすぎた
「ひょっとして・・・・ポチって・・・・・・あの馬?」
しばらくすると、えりかちゃんが部屋に顔を出し、別の部屋に通された
そこがえりかちゃんの部屋だという
何もかもスケールが違い、圧倒されてしまい会話の内容が右の耳から左の耳へと抜けていく
気がつくと、俺は高級車に乗っていた
俺んちまで送ってくれるということだ
えりかちゃんとの会話で覚えていることは・・・・・・・・
『高木さんは梅田総合病院に入院した、明日から別の人が代わりに学校に来る』
ということだけだった
俺は少し早めに登校し、保健室でりーちゃんと打ち合せ
「ってわけで、えりかちゃんは本当の大富豪、10万円なんて盗んだりしないよ」
「そんなのウソかもしれないじゃん。エキストラ使ったりハリボテのセット組んだり・・・・」
「そんなことするにしても、莫大なお金が必要だってことは変わり無いよ。10万円なんてハシタ金」
「ぶぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「で、りーちゃん、そっちの方は?嗣永はシロでいいの?」
「ああ、桃ちゃんはシロよ。あの家だと10万円も臨時収入があればすぐわかっちゃうわ。
でも、怪しい素振りは無し。銀行口座もハッキングしたけど入金されてない」
「じゃあ、一体誰が・・・・・」
「あんなあ・・・・・・・」
俺たちの様子を見ていた中澤先生が会話に割り込んできた
「フジモっちゃんな、ああ見えて意外とそそっかしい所、あんねん」
「それは・・・盗まれていないって・・・・・こと?」
「っちゅうことになんなあ。もういっぺん、教室の中、調べてみたらええんちゃう?」
りーちゃんと教室に入って少しすると、一人のおっさんが教室に入ってきた
丸い眼鏡、髪はうっすらと禿げ、少し長い後ろ髪を縛っている
右頬に大きなホクロがあり、そこから長く縮れた毛が生えている
「うわっ、だ、だ、誰?何ですかあなたは?」
偶々入り口の傍にいた徳永が言った
「何だチミはってか?そうです、ワタスが変なおじさんです」
自称変なおじさんはその場でコミカルに踊り出した
「ちょっと、志村さん、おふざけにならないで」
えりかちゃんがいつのまにか現れ、変なおじさんに注意した
「どうも、わたくし、木さんの代わりに来た、志村っちゅーモンです」
志村さんは再びコミカルに踊り出した
「志村ぁー!後ろ後ろぉ!」
誰かが叫んだ
志村さんの背後に、鬼のような形相の藤本先生が立っていた
「お付きの人は教室に入らないで下さい!」
「お、お、お、怒っちゃヤーヨ!」
志村さんはションボリと廊下に出ていった
「ねえ、りーちゃん、あの人は・・・・・・・・」
「気配は全く感じないわね」
「じゃあ、敵ってことは・・・・・・・・」
「少なくとも、敵の下っ端ってことは無いわ」
授業中、廊下で待っている志村さんの様子を曇りガラス越しに観察したが、あやしい所はなかった
それどころか、時々クシャミをしたり、居眠りをしている気配まであった
だが、4時間目の途中、志村さんの影が立ちあがった
教室を離れ、どこかに行くように見えた
これは監視したほうが良さそうだが、何かいい方法は・・・・・?
「せんせ〜、おしっこぉ〜」
りーちゃんが突然手を上げて言った
「あらあら、菅谷さん、ちゃんと言えてえらいわね」
いつものおもらしキャラのせいか、全く疑われていない
もう5年生なんだから、誉められるようなことじゃないんだけど・・・・・・・
すごいや、りーちゃん!
りーちゃんは俺に目で合図を送り、教室を出ていった
4時間目が終わる5分くらい前、りーちゃんが戻ってきた
そしてチャイムが鳴るのとほぼ同時に志村さんが戻ってきた
「ねえ、りーちゃん、志村さんは・・・・・何だったの?」
給食当番の白衣を着て、俺とりーちゃんは2人で重い食器の入った籠を運んでいる
「電話していた」
「どんな内容?」
「飲み屋のおねーちゃん相手みたいな感じ」
「じゃあ、あの人は敵じゃないってことかな?」
「あんた、いつまでたっても半人前ね」
「はぁ?」
「あんたが敵の本部に潜入したとして、そのことを味方に伝える場合、電話で話す?」
「そんなこと、いくら半人前の俺でもするわけないじゃん!」
「じゃあ、電話以外に手段が無いとしたらどうする?」
「うーん・・・・・・・・・あっ!暗号を使う!」
「そういうこと」
りーちゃんがニヤっと笑った
ドキっとした
うちのクラスにはかわいい女の子が多いが、りーちゃんは格別だ
そのりーちゃんの笑顔を、至近距離で独占できる俺は幸せだ・・・・・・・・・
っと、いかにかん。特命を忘れかけてた
「で、暗号だとして、解読できそう?」
「今夜、飲みに行くって言ってたわ」
「なるほど・・・・・・・今夜、ね・・・・・・・・・」
放課後 午後4時半の教室
みんなは帰ってしまって、もう誰も残っていない
俺とりーちゃん以外は
息を殺して教室内で待っていると、足音が近づいてきた
ガラガラ
ドアが開き、志村さんが入ってきた
「おや、まだ帰っていなかったのかい?早くおうちに帰りなさい。宿題やって歯、磨きなさい」
俺とりーちゃんに優しい表情で語りかけるが、目の奥には邪悪な炎を感じる
「別に隠さなくてもいいわよ。プチモニーの志村さん」
りーちゃんが言った
いや、これはりーちゃんではない
スイッチの入った、真の特命係の菅谷梨沙子の、キリリとしたりりしい横顔だ
クラスの中で、俺しか知らないりーちゃんの本当のかっこいい姿
おもらしりーちゃんのかわいい笑顔も好きだが、俺はこの梨沙子の鋭い視線の方が好きだ
だが、梨沙子がこの姿になるということは、俺の生命の危機をも意味する
「初日から動くような下っ端だとは思わなかったよ、志村さん!」
俺は捨て台詞を残し、教室の後ろへと走って逃げる
「下っ端?とんでもねえ、わたしゃ幹部様だよ!」
志村さんが梨沙子にパンチを放つ
紙一重の所で交わした
志村さんが幹部だと言っていたのは本当のことらしい
あの梨沙子が一方的に押されている
いつぞやの保田先生とは大違いだ
ガードするのが精一杯どころか、急所に食らわないようにするのが精一杯のようだ
肩や腿に強烈な攻撃が何発もヒットする
梨沙子は攻撃を食らいながらジリジリ後退する
このままでは危ない
だが、あと2歩、2歩だけ志村さんが前に出れば・・・・・・・・
梨沙子が1歩下がる
その隙を逃さずに強烈なローキックが梨沙子の脛を掠める
梨沙子がもう一歩後退
間合いを詰めるように志村さんが前に出た
よし!今だ!
教室の後ろに貼られたみんなの習字
俺の作品を止める画鋲のうち、1本だけ色の違う画鋲を引き抜く
そして壁を力の限り、思いっきり叩いた
テストしたことは無いけど、うまくいってくれ・・・・・・・・・
祈るような気持ちで教室の前で繰り広げられる格闘戦を見た
ごーん!
天井から巨大な金盥が落ちてきて、志村さんの脳天に直撃した
よしっ!計算通りだ!
フラフラになった志村さんに、梨沙子の反撃の連続攻撃がヒットする
トドメの回し蹴りがクリーンヒットして、志村さんが吹っ飛んだ
「お、お、覚えてやがれ!」
志村さんが捨て台詞を残して教室から逃げ去るのと同時に梨沙子がへたり込んだ
「りーちゃん、大丈夫?」
「わ、私のことはいいから、追って!」
そう言う梨沙子をおぶって教室を出た
志村さんが走り去る方向に、背の高い人影が見える
「クククッ!丁度いい、人質に・・・・・・・」
そう言って近づいた志村さんを、シルエットの人は右手を軽くなぎ払うだけで吹き飛ばした
「木さん、あとはお願いね」
聞き覚えのあるかわいらしい声の主は、こちらに近づいて来た
え、え、えりかちゃん・・・・・?
「あなた・・・・・・何者?」
俺の背中から下りた、もうスイッチの切れたりーちゃんが言った
「ただのお金持ちのお嬢様よ」
「そんなの信じられないよ!半人前の俺でもタダ者じゃないってことはわかるよ!」
「じゃあ、教えてあげる」
えりかちゃんは志村さんを締め上げる木さんに指示を出してから語り出した
「梅田家はね・・・・・実は秘密結社『ダンボボ』の中心的存在なの」
「ダンボボ・・・・・・俺たちの味方・・・・・なの?」
「さあ、どうかしらね?今のところ、私達ダンボボの敵はプチモニーよ」
「じゃあ、あんたたちもアレを狙っているの?」
りーちゃんが睨みながら言った
「ふふふふ。私達はアレには興味無いわ。でも、アレをプチモニーに渡すわけにはいかなかったの
それで、この教室にもスパイを送り込んでいたんだけどね」
「それは・・・・牛乳の矢口さん?」
「あら、半人前にしてはいい勘ね」
えりかちゃんが俺の目の前に迫った
「でも、あの人引き上げちゃったから、私が直接確かめに来たの」
そう言うと、俺とりーちゃんの顔を笑顔で交互に眺めた
「あなたたちがいれば、アレは安心ね。私も引き上げることにするわね」
えりかちゃんはそう言うと、膝をかがめて俺のおでこにキスをした
「もっと頑張って、早く菅谷さんを楽にしてあげてね、半人前さん」
りーちゃんが俺の前に出た
「ううううう〜っ!りーちゃんの方が凄いんだから〜!」
そう言うと俺に抱きついて、ジャンプして俺の唇に自分の唇を重ねた
「あらまあ、妬けますわね。では、ごきげんよう。次に会う時は敵かも知れませんが。オホホホホ」
えりかちゃんは志村さんをかついだ木さんを連れて、廊下の先へと消えていった
あとには俺と、足元に水溜りを作ったりーちゃんだけが残された
「ねえ、こんな仕掛け、いつの間に作ったの?」
教室に戻り、盥を天井に戻す俺にりーちゃんが聞いた
「これ?半人前なりに役に立とうと思って、毎日少しづつ・・・・・ね」
「これ以外にもいっぱいあるんでしょ?」
「さすがりーちゃんだね。そうだよ・・・・・・・あれ?これ何だろう?」
黒板の上に据えられたスピーカーの上に、白い袋があった
この袋を手に取ってりーちゃんに投げて渡した
「この袋・・・・・・『りーぱん 教室用』?私のパンツの袋じゃん!」
「あれ?でも、りーぱん袋、黒板の下にぶら下がってるじゃん」
床に下りた俺は黒板の下のりーぱん袋を手に取ってみた
「ん?これって・・・・・・・・・・」
袋には『集金袋』と書かれていた
「中身は・・・・・・・お金、ちゃんと入ってる、無事ね」
「中澤先生、言ってたね、藤本先生ってそそっかしいって」
「ともかく・・・・・・一件落着・・・・・・疲れたぁ」
りーちゃんは再びその場にへたりこんでしまった
おわり