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【笑顔まで距離】

1 名前:名無しさん 投稿日:2005/03/26(土) 23:28:07

(本当に可愛いいよな〜・・・)
彼女を見つめていると時間が過ぎて行くのを忘れてしまう。
ほら! もう、昼休みの終わりを知らせるチャイムの音が聞こえる。
友達と話をしながらも彼女に目が行ってしまって・・・

「これこれ!」
その言葉が耳に入ると同時に俺の頭が丸められたノートによって叩かれた。
『ポンッ』と言う音に、何となく叩かれた場所を手で軽くなでながら振り向く。
須藤茉麻が意地悪な笑みを浮かべながら立っていた。
「・・・いったいなぁ〜! 何だよ〜!」 不満を言う俺。
「たいして痛く無いくせに・・・ 大げさ」 須藤が小さい声で言う。
そんな須藤の言葉に俺が大きな声で言い返す。
「あ〜!!これは緊急手術が必要だな! もうヤバイよ! マジで119番!」
大げさに言った俺を、須藤は少しの間『じ〜っ』と見つめて・・・
スカートのポケットから携帯電話を取り出した。
(ま、まさか・・・)
そして『ピッ・ピッ・ポッ』とプッシュ音を鳴らす。
(ヲイヲイ・・・最初の2つの音が同じで3桁の電話番号って〜・・・ 『110』か『119』のどっちか!?)

俺は焦りながら須藤の手から携帯電話をダッシュで取り上げる!
そして、スグに『電源』のボタンを押す。
「じょ、じょ〜だんだよ! 全然大丈夫だから!!」 冷や汗をかきながら俺が必死に言う。
須藤は真面目な顔で俺を見つめて〜・・・少しして、俺から携帯を取り上げて俺に満面の笑みを見せる。
携帯の画面を俺に見えるようにして『履歴1』で通話を押す!!!
「だっ、だから!俺は本当に全然大丈〜・・・」

『午後1時 25分 25秒をお知らせします・・・ピッ・ピッ・ピッ・・・』

・・・やられた。

「転校生を苛めて面白い?」
俺が少し不機嫌そうに須藤に言う。
「うんっ!! と〜っても楽しいよ♪」 本当に嬉しそうに言うから〜・・・何となく憎めない。
俺は『はぁ・・・』と小さくため息を1つして自分の席に着いた。
『席に着いた』と言っても隣の席は須藤なのだから意味が無い。
次の授業は算数だった。
教科書を出して・・・3つ前、1つ左の席の彼女を見つめる。
彼女も次の時間の授業の用意をしていた。

転校して、その日に俺は彼女に恋をした。
彼女の雰囲気にひかれた? と言っても、未だに1度も話した事は無いのに。
彼女の笑顔や笑い声、細い指とか・・・

「止めた方がいいと思うよ・・・」
その言葉に『ハッ!』として左の席に視線を合わせる。
「彼女の事・・・好きになっちゃったんでしょ?」
嗣永桃子が俺の顔を見つめていた。
「えっ!? な・・・何を言ってるんだよ!?」
「焦る意味無いよ。バレバレだから」 そう言って右の席から須藤の声が聞こえる。
「いや・・・本当に見つめてないし!! そんな〜・・・」 
俺の言葉の途中で桃子が言う。
「『見つめてる』って、誰も言ってないよ。 ダメだよ!少しは隠さないと!」 そう言って俺に少し意地悪な笑顔を見せた。
その言葉に『いや・・・その・・・』と混乱する俺を2人は『ニヤニヤ』と見つめていた。

そんな俺を助けてくれたのは5時間目の授業の始まるチャイムだった。

「本当に好きなんだね〜・・・」 須藤が俺に向かって言う。
突然の言葉に、手に持っていたモップを俺は落とした。
「カタン!」と大きな音を立てて床に落ちたモップ。 その音に教室に残っていた皆が注目する。
俺は須藤の手を掴むと窓際に行き、小さい声で須藤に言う。
「あっ・・・あのなぁ!! 皆に聞こえたらどうするんだよ!!!」
戸惑う俺を見ながら須藤が言う。
「別に〜私と桃ちゃんしか気付いてないから大丈夫だよ」と笑顔を見せる。
その言葉に『いや・・・だからって・・・』と言いたい事は色々あったんだけど何故か何も言えなくなる。
須藤の魔力と言うか〜・・・須藤には何となく弱い。

5月の最初の月曜日
6年1組に転校して来た俺に、誰よりも先に話し掛けてくれたのは須藤だった。
自己紹介をして席に着いた俺に対して『よろしくね! 転校生君♪』と隣の席から笑顔で声を掛けてくれた。
須藤の笑顔に俺も笑顔で『よろしく!』と言い返した。

あれから2週間
・・・毎日、意地悪されてる気がする。
隣の席から桃子は助けてくれるんだけど〜・・・須藤は俺の反応が面白くてしょうがないらしい。

突然、須藤は『あっ・・・』と小さな声を出してドアの方を見る。
1人の男子が(たしか隣のクラス)入ってくる。
そして、俺の好きな彼女と彼女の友達の近くに来て笑顔で何かを話し出す。
2人の女の子も彼に笑顔を返して〜・・・放課後は毎日同じパターンだった。

「止めた方がいいよ・・・」
桃子も俺の近くに来て小さな声で言った。
俺は何も言わないで、笑顔で話している3人を見つめていた。
そんな俺の顔を少し心配そうに見つめながら桃子が話しを続ける。
「色々あって〜・・・もう少し〜・・・」
「大丈夫。 理由はわからないけど〜・・・何となく今はダメな気がしてるから」
俺の言葉に桃子が『そっか』と小さく呟いた。

少しして、夏焼さんは笑顔で彼と一緒に笑顔で『じゃあね』と彼女に言う。
彼女は笑顔を見せながら2人に手を振る。

その瞬間の彼女に惚れたんだっけ。

彼女の笑顔や笑い声、細い指とか・・・そして、無理に隠す弱さ。
彼女は彼の事が好きなんだろうな。
でも彼には彼女がいて・・・

勝手な想像だけど〜・・・彼女は切ない片思いをしてる。
俺はそんな彼女の表情にひかれていた。

彼女の名前は徳永千奈美。
ショートカットが似合ってて、笑顔がすっごく可愛い。
でも、その笑顔には少し寂しい所がある気がして・・・
俺は彼女の本当の笑顔が見てみたいんだ。

次の日の体育の時間

隣のクラスとサッカーの試合をやる事になっていた。
女子も隣でフットサルやってるけど、フットサルは人数少ないから半分くらいの女子は休憩しながら男子のサッカーを見ていた。
俺は、前の学校でサッカー部に入っていたから一昨日の体育の時間、サッカーの基礎練習でクラスの皆の注目を浴びた。
そんな経験者の俺が『あの人も〜・・・サッカー部なの!?』とクラスの男子に聞くほど上手い子が1人いた。
リフティングとか、パスの正確さとか、前の学校でもトップクラスに入るくらい上手かった。
よく見たら夏焼さんの彼氏の人だった。
・・・しかもサッカー部じゃないらしい。
(何なんだ・・・この人!?)

試合直前、俺はFWのポジションでキックオフを待っていた。
相手チーム(隣のクラス)の彼はMFのポジションにいて〜他の男子と何か話しながら笑っていた。

キックオフ!!
素人ばっかりの体育のサッカーだから、皆がボールに集まって『ワイワイガヤガヤ』状態。
そんな中、俺はクラスに1人いるサッカー部の人とアイコンタクトで敵のDFラインギリギリの所でパスを待つ。
そして、それを確認したと同時にサッカー部の人がボールを奪って俺に一気にロングパス!

『よし来た!!』

トラップして振り向き、DFの裏をかいた作戦で一気にゴールへ向かってドリブル!!
・・・の途中で俺が足を止める。
1人、作戦を読んでいて俺のマークに付いていた生徒がいた。 
夏焼さんの彼氏だった。
(やっぱりこの人か!)

1対1のボールの奪い合いが始まる。
俺は相手を抜こうと、相手は俺からボールを取ろうと必死になる場面なのに・・・
俺は必死になってボールを取られないように守っていた。
この人・・・マジで上手い!!!
「君・・・本当にサッカー部じゃないの? メチャクチャ上手いじゃん!」
必死にボールをキープしながら彼に話しかける。
「サッカー部じゃないよ。 小さい頃に少しだけチームに入ってたけど・・・『BKFC』って所なんだけどね」
「『BKFC』!?!? ま、マジで!?」
俺はその言葉に驚いた。
BKFCは入団テストが恐ろしく難しくて都内最強のチームだった。
チームに入れる子供なんて1つの学校の全生徒の中に5人いたら・・・ この人何者!?

必死のボールの取り合い。
俺は耐え切れずにバックパスでボールを仲間に渡す。
それと同時にボールにほとんどの生徒が集まって行く。
俺は、そのまま彼と見つめ合って・・・話しかける。
「『小さい頃に』って・・・今はやめちゃったって事!? 何で!?」
俺の質問に彼は笑顔を見せて言う。
「まぁ〜色々あって・・・ って、よそ見してていいの?」
その言葉と同時に俺の横をすり抜けていく。
『えっ!?』と言って振り向くと、彼は近くにいたボールを持っている生徒に向かって行き、そのままボールを奪う。

(しまった!!) 俺は急いで彼の背中を追いかけた。

相手がドリブルしてる分、彼よりは早く走れるから何とか追いつけそうだった。
それにしても・・・うちのチームの友達がガンガン抜かれていく。
小学校の体育の時間だぞ!次元が違うだろ!!

俺が何とか追いついて、彼と1対1になった時には既にゴール数メートル前で・・・
お互いに息を切らしながら微妙な間合いを取る。
さっきとは逆な状態・・・ ましてや抜かれる訳には行かない!

「・・・行くよ」 そう言って真剣な表情で彼が俺に近づく。
俺も彼の足と体の動きを見ながらボールを奪いに行く。
何度も彼のフェイントに抜かされそうになりながら、俺も足を出して何度かボールに触れる。
そんな攻防に他の生徒は付いてこれずに見守っている状態。
緊張感が走る状況・・・ そんな中、突然の出来事だった!

「こらー! 雅ちゃんがフットサル中で見てないからって、手を抜かないで早く抜きなさい!!」
その言葉に応援していた女子達から『クスクス』と笑い声が聞こえる。
大きな声を出した彼女の言葉に対して「雅は今は関係無いだろ! 大声で名前出すなよ!友理奈!」と大きな声で言う。
彼に隙ができる!!
(しめた!)
それと同時に彼の足から離れたボールをカット! 俺が彼からボールを取る!
「あっ! しまった!」
彼の言葉を背中に聞いて一気に速攻!
相手陣内へ向かってボールを大きく蹴ろうとした時だった・・・

「ナイスカット! 千奈美ちゃんのために頑張れ〜♪」

その言葉に俺の足は、ボールじゃなくて空を切る。
グラウンド中に響く声! それは同じクラスの菅谷さんだった・・・
それと同時に男子から『まじで!? 転校したばっかなのに!?』って声が聞こえる。
女子からも『え〜!!そうだったんだ〜!』という言葉が大きな声でグラウンド中に響いていた。
(ありえない・・・ ってか、徳永さんに今の聞かれ・・・!? えー!?)
戸惑う俺の後ろから何かが通り抜けると同時に〜・・・彼がボールを持って俺の目の前に!!

「あっ! しまった!」
数秒前に彼が言った言葉と同じセリフを俺は言っていた。

彼は俺の目の前でボールをキープした状態で俺を見つめて・・・少ししてから言う。
「君・・・もしかして千奈美の事・・・好きなの?」
(・・・千奈美って・・・何で呼び捨て!?) 俺が驚いいると彼は『そっか・・・』と小さく呟いてから・・・
「雅が『体育で千奈美ちゃんとフットサルで勝負してる』って言ってたから〜多分、2人は今はフットサル中。 今の菅谷の言葉は千奈美に聞かれてないと思うよ」
「えっ・・・あっ・・・そうなんだ」 俺が彼の言葉に疑問を持ちながらも徳永さんに聞かれなかった事に安心する。
彼は俺を笑顔で見つめながら言う。
「これで振り出しに戻った! さて、悪いけど〜千奈美の事が好きなら俺と勝負してもらおうかな?」
「えっ・・・何で君と勝負しないとダメなの!? ってか、夏焼さんって彼女がいるじゃん!!」
「雅は彼女だよ。 でも、千奈美も俺にとって〜・・・大切な存在だから」
(はぁ!? 何だよこいつ! あんな可愛い夏焼さんと付き合いながら徳永さんと2股・・・ 彼女は遊びなのか!?)
その時の俺は徳永さんの『悲しい笑顔』が目の前にいる彼が夏焼さんに内緒で徳永さんと隠れて付き合って・・・絶対にそうだ!!
そんな事を勝手に想像していて彼の言葉がそれ以上入ってこなかった。

「千奈美は俺の幼馴染だから。 小さい頃からずっと一緒でさ〜・・・」 そんな彼の言葉が全く聞こえてなかった。

俺は真剣な表情で一気に彼からボールを取りに行く!
突然の俺の行動にも、彼はボールを上手くキープしながら真剣な表情に変わる。
「負けない・・・君には絶対に負けられない!!」 俺は自分に気合を入れるように言った。
激しい攻防戦! 体育のレベルを通り越して数分も取り合いが続いていた。
そんな俺達に声援が届く。

「雅ちゃんが見てるぞ〜! 負けたら雅ちゃん泣いちゃうぞ!! 絶対に泣かすな〜!」
そんな大きな声に対して「別に泣かないし!! しかも大声で変な事言わないでよ!梅さん!」
夏焼さんの声だった。
彼は、そんな言葉にも動じずに必死になって俺を抜こうとフェイントを何個も入れてくる。
「フットサルがメンバーチェンジしたみたいだね! 雅も千奈美も見てる・・・お互いにカッコいい所見せたいね!」
俺は彼の言葉に対して大きな声で返す。
「徳永さんの事を『千奈美』とか気安く呼ぶな〜!!」
それと同時に彼のボールを一か八かで取りに行く。

紙一重だった。

彼がバランスを崩しながらも俺の横をすり抜けて行って・・・
数秒後にネットが揺れる音が俺の耳に入る。
完全に1対1で負けてた。
何よりキツかったのは盛り上がる女子の声援の中の徳永さんの声だった。

「すごい・・・ 綺麗に抜いちゃった・・・ 魔法みたい・・・」

全てにおいて惨敗した瞬間だった。

「あ〜!こりゃ完全にダメだわ・・・」
俺の目の前で手を振りながら須藤の声が聞こえてくる。
何も考えられずに〜・・・ただ帰りの会が進むのを見ていた。
「途中までは、ずっといい勝負だったんだけどね〜・・・ちょうど雅ちゃんと千奈美ちゃんが見てからスグに抜かれちゃって・・・」
体調不良を理由に体育を見学していて試合をずっと見ていた桃子が俺を心配するように切ない感じの声で言った。
「それにしても〜・・・梨沙子ちゃんって、変な所でカンが鋭いと言うか〜・・・ねぇ?」
須藤は桃子に『クスッ♪』と小さく微笑んで言った。
『綺麗に抜いちゃった・・・』『魔法みたい・・・』 徳永さんの声がずっと頭の中を回っていた・・・

俺は『うわの空』状態で掃除を適当にやっていた。
クラスの全員が俺の事を色々話してるみたいだったけど〜・・・徳永さん本人には内緒にしてくれていた。
(後で聞いたら、須藤が徳永さんには言わないようにクラスの皆に言ってくれてたいらしい。)
俺がため息交じりに掃除をしてると〜・・・
教室のドアの方から『よっ!』と言う彼の声が聞こえてきた。
今日は夏焼さんと菅谷さん、それに彼と一緒に来た隣のクラスの女子の4人で仲良く話してる。
(・・・何で人気あるんだよ。 彼には彼女がいるんだぞ)
そんな事を考えていると、彼の声が嫌でも聞こえてきた。
「雅、悪いんだけど〜・・・ 今日は一緒に帰りたい人がいて一緒に帰れないんだ」
(うわ〜! 絶対に今日は隠れて徳永さんと帰るんだ・・・ 毎日彼女をチェンジして・・・腹立つ〜!!!)
彼の言葉に勝手に妄想。
夏焼さんは『そうなんだ〜・・・わかった♪』と可愛い笑顔を見せている。
(あぁ・・・夏焼さん、疑おうよ・・・浮気だよ! 彼は浮気する気だよ!!)
彼の隣にいた女の子が言う。
「で〜・・・雅ちゃんが寂しくって泣いちゃわないように、私が一緒に帰るから〜元気だして♪」
笑いながら言う彼女に対して
「べっ、別に泣かないもん! も〜!!愛理ちゃんの・・・いじわるぅ・・・」そう言って顔を膨らます夏焼さん。
(夏焼さん・・・本当に可愛いなぁ・・・ いや!!徳永さんの本当の笑顔の方が可愛・・・つめ噛んでる〜!キャワ♪)
俺が『ボーッ』と夏焼さんを見ていると・・・

「話があるんだけど〜・・・一緒に帰らない?」
彼は一緒に帰る相手に俺を誘った。

「・・・いったい何の用?」
小さな公園のブランコに座りながら、少し『ムスッ!』とした表情で彼に言う。
彼は俺の顔を見ながら笑顔で言う。
「あのさ、一緒にサッカーやらない?」
「えっ!?」 突然の言葉に俺は驚いて自然に言葉が出ていた。
彼は少し時間を置いてから話を続ける。
「今日の体育で君と勝負してたら面白くって!! 俺と君が一緒に組んでサッカーやったら絶対に面白いと思わない?」
嬉しそうに話す彼に戸惑いながら俺は言う。
「ちょ、ちょっと・・・突然言われても!! それに〜サッカーを1度辞めちゃったんでしょ? BKFCなんて名門クラブ辞めたって・・・
何か嫌な事があったとか!足の怪我が原因とか!挫折してトラウマとか〜・・・」
俺の話の途中で彼は笑い出して〜・・・ 俺にゆっくりと話し出した。
「この話は千奈美しか知らないんだけど〜・・・ 他の人には内緒にしてね!」
(また『千奈美』とか呼び捨て・・・)と少し不満ながらも彼の言葉にうなずく。
「4年前にクラブに入って〜・・・2年で辞めたんだけど入った理由は〜・・・その〜・・・」
「何?」 何か言いずらそうな彼に俺が言うと、彼は少し顔をひきつらせながら話す。
「2000年にワールドカップがあったでしょ・・・ それで〜中田とか大活躍でさぁ・・・」
俺は彼の言葉にうなずく。
「で〜・・・ 母さんが・・・ 中田にハマって・・・ 無理やり〜・・・」
「・・・えっ!? ハマって!?」 俺が驚きながら聞く。
「それで都内で有名なサッカー部に入れって〜・・・ 特訓の日々が・・・」
彼は苦笑いで話を続ける。

「テストは1発で受かったんだけど〜・・・ その時はサッカーよりも友達と遊んでる方が楽しくて〜・・・」
「1発で!? 練習とかしたの!?」
驚く俺を不思議そうに見て彼が言う。
「テストっていっても相手に正確にパスするとか〜5人連続で抜くとか〜・・・何とかなるじゃん!!」
(・・・何ともならないから、合格者の数が少ないのに)
「それで〜2年後には母さんのサッカー熱も冷めてて〜・・・ 俺も友達と遊ぶ時間が欲しかったし〜・・・」
彼の話の途中で俺が言う。
「友達って・・・夏焼さんとか!?」
「あ〜・・・ その時は雅の事知らなかったから。 千奈美と遊ぶ事が多かったかな? 千奈美の家に泊まりに行ったり!」
「とっ、徳永さんの家に泊まったりしたの!?」
「うん。お互いの家に泊まりあったりしたよ。 千奈美って寝相が悪くてさぁ」
そう言いながら笑う彼。
(この人・・・何て羨ましい事を・・・ あんな可愛い徳永さんの寝顔とか、朝起きた時の寝ぼけた感じの表情とか・・・)
それと同時に(あぁ・・・家族ぐるみの付き合いとか〜 徳永さん・・・彼の許婚か何かなんだ・・・)
俺の勝手な妄想が続いている間も彼が色々と話を続けていた。
「まぁ〜その話はいいとして! 今日、一緒にサッカーやってみたら本当に面白くて!
今までも何回か地元のサッカーチームにに勧誘はされてたんだけど・・・ 君とならサッカーするのもいいかな〜って思った!!」
彼は嬉しそうに俺に言った。

「でも・・・俺〜君より下手だし・・・ 『魔法みたい』に君に抜かれちゃったし・・・」
そんな俺に向かって彼が言う。
「君を抜いた技、あのターンって俺の最高の技だもん! こっちも必死だったよ! 雅の前だからカッコつけてやったけど〜・・・
抜けたとは言えバランス崩してギリギリだったの初めてだよ!!」
笑顔で俺に向かって言う彼。
「いや、だって・・・ 小学校の体育で君の最高のターンを止めれる人なんて〜・・・」
そう言いかけた俺に彼が満面の笑みで話す。
「何言ってるんだよ。 BKFCで優勝した時に決勝戦で俺、3点取ったんだよ! あのターンで!」
「えっ!? そ・・・そうなの!?」
2年前の小学4年生でレギュラーだった事も驚きだけど、優勝した時にハットトリックを決めたターン・・・それを俺が!?
「だから、君を抜いた後も自分でも『ドキドキ』したんだ!」
彼の目がキラキラ輝いていて嘘を言っているとは思えない。 でも・・・
「確かに、俺も前の学校ではレギュラーで地区までなら得点王にもなれたけど・・・ だから、逆に君との実力の差がわかるから〜・・・」
『絶対に追いつけない』と言おうとした途中で彼が言う。
「得点王だったの!?凄いよ! それじゃ〜2人でコンビ組んだら絶対に誰にも負けない! それに練習すればスグに上手くなるよ!」
「でも・・・」 彼とサッカーをやったら最高に楽しいと思う・・・でも、俺の中で決心がなかなか付かない。
そんな時だった。

「こら〜! 学校帰りに道草とか! ちゃんとまっすぐ帰らないとダメなんだぞ〜♪」
その声に2人が振り向く。
彼のクラスの熊井さんと・・・徳永さん!? 
彼女達は笑顔で走りながら俺達の方に近づいて来た。

「何言ってるんだよ! 2人だってクレープ屋に寄ってたくせに」
彼が2人に笑顔を見せながら言う。
その言葉に熊井さんが『ばれたか♪』と笑顔を見せる。
それと同時に熊井さんが俺に気づいて〜・・・
「あれ!? 君って、確か千奈美ちゃんのクラスの転校生の〜・・・」
その言葉に条件反射と言うか慌てて挨拶。
「あっ・・・始めまして! 徳永さん!熊井さん!」
その言葉に徳永さんが『クスッ♪』と笑いながら言う。
「『始めまして』って、同じクラスじゃん! あっ・・・私の存在とか知らないかな? 話した事無かったもんね♪」
(可愛い・・・可愛すぎる・・・) 徳永さんに見とれていると熊井さんが笑いながら言う。
「千奈美ちゃんの存在を知らないわけ無いよ! だって〜・・・ねぇ?」
その言葉と同時に体育の時の菅谷さんの歓声が思い出されて・・・そうか!熊井さんは聞いてるんだ!!
「いや!? あの・・・その〜だから!!!」 戸惑う俺と、不思議そうに熊井さんを見る徳永さん。
熊井さんは何も言わないで俺に笑顔で1つウインクをしてから〜彼を見ながら言う。
「それで〜今日の体育のMVPの2人が揃って何をしてたの?」
上手く熊井さんは話を変えてくれた。
彼は笑顔で俺を見てから〜・・・2人言う。
「俺と彼で地元のサッカーチームに入ろうと思ってるんだ! 最後の小学校生活で全国大会目指そうと思って!」
その言葉に嬉しそうな笑顔で2人が言う。
「え〜っ!凄い! じゃ、私と千奈美ちゃんが応援してあげる♪ ねっ!千奈美ちゃん!」
「うん♪ 私、サッカー好きだし〜・・・ カッコいい所見せてよ!」
そう言って俺に笑顔を見せる徳永さん(彼にも笑顔を見せていたけど意識が飛んでて記憶無し)

『ちょ・・・! 俺はまだ決めてない・・・』
彼に、そう言い掛けた俺の言葉は「絶対に全国大会行こうね!」に変わっていた。

次の日、俺と彼は一緒に地元のサッカーチーム『すっぺしゃるじぇねれ〜しょんず』に入団。
・・・何て弱そうなチーム名なんだ。
一応、入団テストがあったけど俺達は余裕で合格。
入団テストの時点で彼のサッカーセンスが凄い事がわかった。
30分の練習試合の間に俺のゴール数8本は自分でも驚いたけど・・・
今まで受けた事の無いような彼の正確なパスや、ドリブルで相手を抜いて自分にひきつけてからフリーの俺にパス。
彼は2ゴールだったけどアシスト8・・・俺のシュートの全てが彼のアシストだった。

入団の次の日から朝練が始まった。
運が良いのか悪いのか、一気に戦力と判断されるとスグに俺達は3週間後の練習試合のレギュラーに選ばれた。
突然入ったばっかりの俺達がレギュラーに選ばれたら今までやってきた子が嫌がると思うんだけど〜・・・
弱小チームだったためにチームメイトは大歓迎してくれた。

朝の練習中、低血圧の彼は目を半分閉じた状態で基礎練習をしていた。
月、水、金が毎日学校が始まる30分前までの練習。
学校が終わってからも6時前まで練習の毎日。
土曜日は朝から昼まで。
それは普通のサッカーチームの練習と同じなんだけど〜・・・不思議な事が1つある。
朝の練習には毎回、なっちゃん(夏焼さん)、友理奈ちゃん、そして徳永さんが見に来てくれた。
なっちゃんは俺の分までスポーツタオルを用意してくれていて笑顔で渡してくれてマネージャーみたいだった。
徳永さんと友理奈ちゃんも土曜日になると、お弁当を用意してくれて〜・・・天国のようだった。
夕方の練習も 桃子、須藤、菅谷のウチのクラスの女子以外に、隣のクラスの清水、梅さん、なかさきちゃん、舞美ちゃん、めーぐる、愛理ちゃんに石村と練習を見に来てて・・・
彼はいったい何者なのだろうか? こんなに可愛い女の子と何人も友達で、なっちゃんが彼女とか。
俺も彼と一緒にいる間に皆と仲良くなって呼び方とかも『さん』付けじゃなくなった・・・1人を除いて。

どうしても徳永さんが目の前にいると緊張してしまい戸惑いながら意味不明の事を言ったり、なかなか上手く話せなかった。

練習試合2日前の金曜日
「ねぇ? 何か新しい技とか開発してるでしょ?」
夕方の練習の休憩時間に彼が俺に言った。
「えっ・・・何でわかるの!?」 密かに練習していたのを彼は見ていたのだろうか・・・そんな事を思っていると
「だって、俺も新しい技を開発してるから〜何となく練習中に変わった動きをしてると『仲間だ!』って〜わかったんだ」
彼の洞察力と言うか、ちょっと違った動きだけで見抜いてしまうとか・・・やっぱりすごい!

練習が終わって今日は徳永さん、なっちゃん、友理奈ちゃんの3人と一緒に帰る。
楽しく話をしながら帰ると途中で彼が公園に寄ろうと言い出した。

7時くらいの公園には誰もいなくて、そんな中で彼はボールを1個取り出すと女の子3人に言った。
「いつも応援してくれてる3人に感謝を込めて、これから〜俺と彼が開発中の技を見せます」
(えっ!? な・・・何で!?) 戸惑う俺を関係無しに女子は一気に『ワー!!』と歓声を上げる。
俺が焦りながら彼に言う。
「いや! 俺の技とか・・・まだ開発途中だし・・・ 成功した事ないし・・・」
彼は俺を笑顔で見ながら言う。
「俺も開発途中で成功した事無いから〜・・・『あと2日で完成させよう!』って追い込むのにも良いと思うんだけど〜・・・行くよ!」
そう言って彼は持っていたボールを地面に置いてリフティングを始める。
彼がリフティングを始めたと同時に俺も気持ちを切り替えて彼の開発した技に期待を持ちながら彼を見つめていた。
そして地面にボールを落としたと同時に俺に向かって走って来た。

彼に抜かれたは抜かれたんだけど〜・・・ ボールは『コロコロ』と転がって徳永さんの足元に。
「う〜ん・・・やっぱり、まだ未完成だったか」
振り返って独り言のように呟く彼と、失敗した事に笑ってる女子3人。
俺は笑うどころか呆気に取られていた。
目の前で抜かれたからわかった。 その複雑な彼の動きとボールが一瞬にして足元から消えて〜・・・
あんなドリブルされたら誰も止められない・・・ってか完成させるのは不可能に近いと思った。
「まぁ・・・3日後の練習試合ではカッコ良く相手を抜く所を見せるから!」
そう言ってなっちゃんに向かって彼が笑顔で言う。
「うん・・・ 頑張ってね♪」 なっちゃんも少し顔を赤くしながら彼を見つめている。

「やれやれ・・・ 皆のいる中で見せ付けられても『ラブラブ』なのは知ってるから〜気にしないで彼に抱きついてもいいんだよ?」
意地悪な笑みを見せながら友理奈ちゃんがなっちゃんに言う。
「えっ!? ちっ、違うもん! そんなんじゃないもん! 友理奈ちゃん変な事言わないでよ!」
顔を真っ赤にして『あたふた』としているなっちゃんの行動に皆が大笑い。
彼が少ししてから、なっちゃんに言う。
「じゃ、この技の名前は『MNフェイント』って名づけようかな」 そう言って笑顔でなっちゃんを見つめる。
少しして『あっ!』と小さく呟いてなっちゃんが顔を赤くする。
「はいはい。 またラブラブ劇場の始まりですか!?」 と友理奈ちゃんはなっちゃんの頬をかるくつねる。
「ちかうふぉん! そんなんしゃないふぉん!」
つねられてて変な言葉になりながら必死にいいわけするなっちゃんに皆が笑う。

でも、徳永さんの笑顔には何となく寂しさと言うか〜・・・
隠れて付き合ってるから、なっちゃんみたいに皆の前でも彼と『ラブラブ』したいんだろうな〜可哀想に。
それにしても彼は何で二股なんて掛けてるんだろう!
なっちゃんが可哀想だし、徳永さんが・・・

俺は徳永さんの目の前に行く。
友理奈ちゃんは『あっ・・・』と小さく声を出す。
徳永さんは、まだ少し寂しそうな笑顔の状態で俺を見つめてくれていて・・・
その寂しい笑顔の魅力に俺は自分でも信じられない事を言っていた。

「今から新技やります! 名前は『徳永千奈美』のイニシャルのC・Tから『Cツイスト』」

その言葉に『えっ・・・』と少し徳永さんの顔が赤くなる。
なっちゃんと、友理奈ちゃんは『キャーッ♪』と小さく歓声を上げる。
俺は真剣に彼女を見つめる。
徳永さんも俺を見つめて〜・・・少ししてから俺に向かって言った。
「『ダブルツイスト』は〜・・・ちょっとマズいかも・・・」
そう言って苦笑いをする。
それと同時に俺の後ろから彼の声が聞こえる。
「ごめん。『Cツイスト』って名前は君を体育で抜いたターンの名前に、2年前〜俺が先に付けてた・・・しかも同じ理由で」

カッコ付けた俺って・・・もしかしてメチャクチャ寒い!?

『し〜ん』と静まり返る公園。
(終わった・・・ カッコ良く決めようと思ったのに・・・ 全然ダメだった・・・)
凹んでる俺に友理奈ちゃんが言う。
「ほ、ほら! 技に名前とか関係無いし〜・・・それに、千奈美ちゃんの名前を付けようとした所とか〜・・・ねぇ?」
突然の友理奈ちゃんのパスに戸惑いながらも、なっちゃんが必死に言う。
「そ、そうだよ! 千奈美ちゃんも嬉しいと思うし〜・・・ 名前より技だよ!!」
俺は下を向いたまま顔を上げられない。
だって、目の前には徳永さんがいるんだし・・・どんな表情で彼女を見ればいいんだ。

そんな中・・・ 『クスッ♪』と小さな笑い声と一緒に徳永さんの声が聞こえた。
「・・・『ちなこたーん』って名前にして欲しいな♪」 
俺が驚きながら顔を上げると徳永さんが笑顔で俺を見ていた。
(徳永さんが・・・笑顔で俺を見てる!! しかも自分のあだ名をターンの名前にして欲しいとか・・・ヤッター!!!)
俺は心の中で歓喜の渦に飲み込まれながら徳永さんの顔を見つめていた。
「千奈美って・・・昔から名前付けるセンスが無いよな・・・」 彼が少し、ため息まじりに言う。
その言葉に友理奈ちゃんも「千奈美ちゃん・・・それって『ちなこた〜ん♪』って変な呼び方してる人みたい」
そう言いながら『クスクス』と笑う。
「え〜! ひっど〜い!! 可愛い名前だから絶対に良いと思うんだけど〜・・・どうかな?」
笑顔で俺の顔を見る徳永さんに俺は大きくうなずきながら笑顔を見せる。
ってか顔がニヤけてしまって・・・変えられない。

そして、その顔を隠すように振り向く。
目をと閉じて・・・集中して・・・
一気に彼に向かってドリブルをする。
1度も成功した事ないけど・・・『ちなこたーん』を絶対に徳永さんの前で成功させてやる!!
彼の少し前で俺はボールを浮かせて、そのまま彼に背中を向ける。 
ボールを足に軽く乗せて体を回転させて一気にボールをキープしながら抜く!

・・・大失敗だった。
『テンテン・・・』と転がって行ったボールが今度はなっちゃんの足元に。

女子3人が『キャッキャ』言いながらパス回しをして遊んでる間に、俺と彼で新技をお互いに研究しあう。
俺が彼に言う。
「君の新技、確かに出来たら誰も止められないけど〜・・・あれは本当に可能なの!?」
そんな俺の言葉に彼が言う。
「俺もダメだと思ったんだけど・・・1度だけ成功したんだよ! だから絶対にできると思うんだ!」
1度だけ成功って・・・あの技が1度でも成功させられるなんて・・・やっぱり!凄い!!

今度は彼が俺の新技について言う。
「君の技だけど〜・・・どうしても一瞬だけ足でボールをキープする時にバランスが崩れて・・・ドリブルしながらは難しいんじゃない?」
その言葉に俺が少し小さい声で言う。
「それ以前に立った状態でも成功した事ないよ・・・ 不可能なのかも・・・」
そんな俺を少しの間見つめて〜・・・彼がボールをバッグから、もう1個出して地面に置いて・・・
『ちなこたーん』を俺の目の前で1回で成功させてしまった。
呆気に取られる俺に向かって言う。
「立ったままなら俺にはできる。 でも、ドリブルしながらは俺は不可能だと思う」
彼の顔は真剣だった。
「でも・・・千奈美が名前を付けてくれた『ちなこたーん』 千奈美が好きなら絶対に成功させないとダメなんじゃないの?」
その言葉に、俺は何も言わずにうなずいた。

それから彼は必死になって俺に『ちなこたーん』のコツを教えてくれた。
そして1対1で何度も彼はやって見せて、俺のダメな所を訂正してくれて〜・・・2人で必死になって練習していた。

・・・どれくらい時間が経ったんだろう?
俺が彼のアドバイスのおかげで、立った状態なら『ちなこたーん』が100%できるようになっていた。
笑顔で喜びあう俺達に向かって後ろから声が聞こえる。
「はいはい。成功おめでとう・・・で〜!何・時・だ・と・思ってるのかな?君達!?」
その声に彼が『ビクッ!』となる。
俺が声の方に振り向くと、そこには20代前半くらいの女の人〜・・・彼のお姉さん?が立っていた。
彼はその女の人に言う。
「母さん!? いや・・・これは〜・・・色々と・・・」
その言葉に驚いて俺が言う。
「えっ!? お母さんって・・・君のお姉さんじゃないの?」
その言葉に彼が小さな声で言う。
「いやいや!若く見えるけど本当は2〜・・・ウッ・・・」
『にじゅう〜』の後を言おうとした彼のお腹に向かって早いブローが1発入る。
「おっ! そこの転校生は見る目があるね! よし!ウチに来て夕食を食べて行きなさい!」
彼のお母さんが何事も無かったかのように笑顔で俺に言う。
「えっ・・・でも〜家に連絡〜・・・」
そう言い掛けた俺に向かって彼のお母さんが言う。
「そんなもん知らない! 私は君が気に入ったから君はウチで夕食を食べていくの決定! わかった!?」
「・・・はぁ。」 俺は戸惑いながらも彼のお母さんの勢いに押されて〜・・・そのまま車に向かう。
彼が小さな声で呟くように言う。
「これを一般社会では拉致・・・ウッ・・・」 彼のみぞおちに、さらに1発すごい速さでお母さんのブローが入る。
「本当にあんたら!! 雅ちゃん達にも謝りなさいよ!ずっと待っててくれたんだから!!」
その言葉に『ハッ』として俺と彼が車の後ろの席を見ると〜・・・3人が笑顔で手を振っていた。
(しまった! ターンの練習ですっかり忘れてた)

車の中で俺達は必死に彼女達に謝って〜・・・彼女達は笑いながら許してくれた。
結局、時計は8時半をまわっていて、途中で友理奈ちゃんが彼の家に電話をしていたらしい。
車の中で徳永さんは『ちなこたーんが少しできるようになって良かったね♪』と笑顔で言ってくれた。
(あぁ・・・徳永さんに笑顔で言われるなんて・・・幸せすぎる)
彼女達を家まで送って俺は彼の家で夕食をご馳走になった。
彼の家の夕食は見たことも無い不思議な料理が出てきた。
全部、お母さんのオリジナル料理だけど〜・・・形や色から想像できないくらいメチャクチャ美味しい。
作り方は秘密と言う不思議な料理だった。

多分、この料理をなっちゃんか徳永さんのどちらかがお母さんから直伝されるんだろうなぁ・・・
(なっちゃんが料理を伝授してください!)と祈りながら美味しく料理を食べた。


練習試合前日 土曜日の夜

金曜日の夜から彼の家に泊まって朝から新技の練習を続けていた。
俺と彼は必死になって『ちなこたーん』の練習をしていた。
彼は自分の『MNフェイント』が全く完成してないのに必死に俺の練習に付き合ってくれた。
ドリブルしながらの『ちなこたーん』はどうしても途中でスピードが落ちてしまうのとバランスを取るのに悪戦苦闘した。
嬉しかったのは彼が1度もDFで手を抜かなかった事だった。
だから、俺も弱音を吐かないで何度も練習した!
・・・それでも成功はしなかった。

10時を過ぎても練習は続く。
『もう寝なさ〜い♪』と言うお母さんの優しい声も無視して練習していると2人にお母さんのボディーブローが入った。
苦しんでいる俺と彼を無理やりお風呂に入れて、11時には布団に投げ飛ばされた。
そう言っても彼のお母さんは本当に優しくって食事から俺達の練習時間とかも心配しながら色々と考えてくれてて・・・
確かに、このお母さんがいないと彼に天才的な才能があってもサッカーは上手くならなかったと思う。
まぁ、練習途中で『翼&岬のゴールデンコンビ』やら『バズーカチャンネル』やら『幻の左』と言った不思議な単語にジェネレーションギャップも感じたけど・・・

寝る前に彼が俺に向かって言う。
「君〜・・・俺と千奈美がどんな関係だと思ってる?」
そんな彼の言葉に俺が少し不満そうに言う。
「なっちゃんって〜メチャクチャ可愛い彼女がいながら、裏で徳永さんと付き合ってるんじゃないの?」
その言葉に彼は笑い出して〜・・・すぐに笑うのをやめて寂しそうに言った。
「二股〜・・・ 確かに否定はできないかなぁ・・・ちょっと前の俺だったら」
「えっ!?」 俺が少し不思議そうに聞くと彼は話を続ける。
「千奈美は俺にとって大切な幼馴染だよ。 でも、俺は雅が好きだったから〜千奈美をふって雅と付き合ったんだ」
彼の衝撃的言葉に戸惑う俺。
「だから、絶対に浮気とかはしないよ。 千奈美のためにも・・・絶対に・・・」
彼の言葉の最後らへんは少し切なそうに小さく真っ暗な天井に消えて行った。
「そうだったんだ・・・それじゃ〜・・・」 言い掛ける俺に彼が言う。
「でも、千奈美は簡単には渡したくない!」 彼が笑いながら俺を見て言った。
俺が『え〜!!』と驚きながら彼を少し睨む。
「大切な幼馴染を変な奴に取られるくらいなら〜・・・俺が二又してでも千奈美を幸せにしてやる」
そう言って意地悪に笑顔を見せる・・・ 彼は『自分の力で徳永さんを振り向かせろ』って言いたいんだ。
俺は笑顔で彼に返す。
「徳永さんの気持ちも笑顔も全部、明日の試合に『ちなこたーん』で奪ってやる!」

俺と彼の間に友情が芽生えた瞬間だった。

試合当日
練習試合20分前

日曜日の昼は五月晴れなんて言葉が似合う快晴。
グラウンドの状態も、俺と彼の体調も万全で絶好のサッカー日和だった。
ただ、小さなチーム同士の練習試合を見に来る人なんて普通はそんなにいないんだけど〜・・・クラスの女の子が何人も来ていた。
ほとんど彼を応援しに来た感じかな?
全員マネージャーにでもなってくれたら近くの小学校の全生徒がこのチームに入るだろうなぁ・・・

彼はストレッチをしながら愛理ちゃんと話していると、後ろから倒れ込むように桃子が彼の背中に乗りかかって・・・苦しそうにしている。
愛理ちゃんはお父さんの仕事の関係でメンタルとか体調管理とかをマスターしていて試合前に色々と彼をチェックしてる。
さっき、俺も愛理ちゃんに色々と見てもらったけど〜・・・何か本当にチームドクター?そんな感じだった。
なっちゃんは、いつものように須藤と梅さんに色々と茶化されて〜顔を真っ赤にしながら漫画みたいに手を『ぶんぶん』振っていた。
多分『桃ちゃんにヤキモチ焼いたらダメだよ〜♪』あたりを言われたんだろうな。
俺もストレッチをしていると〜・・・1人の女の子が近づいてきた。

(も、もしかして!?)
俺が期待を込めて顔を上げると友理奈ちゃんが俺の目の前に立っていた。

「練習試合だけど〜体調は万全?」
笑顔で俺を見ながら言う。
「うん。『ちなこたーん』は未だに成功してないけどね〜・・・」 そう言って笑顔を返す。
「そっかぁ。  ・・・あのさ、千奈美ちゃんの事なんだけど・・・」
「わかってる! でも、俺は徳永さんに今から告白しようと思ってる」
そんな俺に友理奈ちゃんは少し心配そうな顔をして言う。
「私からは『頑張って』としか言えないけど〜・・・千奈美ちゃんの気持ちも今は複雑だから・・・」
俺を心配してくれる友理奈ちゃんに俺が真剣な表情でうなずく。
友理奈ちゃんも少し見つめてから〜・・・真剣な表情でうなずく。
「それじゃ、千奈美ちゃんを私が呼んできてあげるよ!」
そう言って離れて行ってしまった。

俺の心臓の鼓動が『ドキドキ』と高鳴っていく。
5月の終わりの風を髪で感じながら静かに目を閉じて聞こえてくる小さな音を聞く。
足音が1つ近づいてきて〜・・・俺の近くで立ち止まる。

目を開けると徳永さんが俺の横に笑顔で座っていた。

「『ちなこたーん』は完成しましたか?」 そう言って笑顔を俺に見せる徳永さん。
そんな可愛い笑顔に俺が少し微妙な笑顔で「まだ未完成」と言い返す。
徳永さんは「そっか・・・」と小さく呟いてから、そのまま前を見てグラウンドを見つめていた。

2人の間に沈黙と、風に吹かれた草の青い匂いが通り過ぎていく。

「徳永さんの事が・・・ 俺、好きです」
俺は徳永さんの顔を見つめながら言った。
徳永さんは俺の顔を少し寂しそうに見つめて〜・・・下を向きながら言う。
「あのね・・・私は〜・・・」 徳永さんが言いかけてる途中で俺が言う。
「今日の試合!!」
「えっ!?」
「今日の試合で『ちなこたーん』絶対に成功させるから!! それを見てから決めてください!」
俺が真剣な表情で彼女を見つめる。
彼女は下を向いたまま少し考えて〜・・・顔をすぐに上げて笑顔を見せて俺に向かって小さくうなずいた。
俺も笑顔で徳永さんを見つめている。

「そろそろ試合始まるよ〜!」
石村が走りながら知らせに来てくれた。
俺は彼女に笑顔で手をふられながらグラウンドに向かった。

試合開始

相手のチームは守り中心のチームで皆で攻めて来る感じの攻撃方法だった。
残念ながら弱小のウチのチームのDFでは必死に守ってもガンガン抜かれていってしまい得点を何点も取られてしまう。

こっちも彼が必死に相手を抜いたり最高の場所にパスをしたりするんだけど・・・
キーパーとDFに地区の代表に入るのが3人いて、その3人が厄介だった。
彼は何とか『Cツイスト』を使ってキーパーを抜いて1点。
彼がキーパーの目の前で、その強敵DFを2人をひきつけてフリーの俺に倒れながらパスをして俺が1点。
その後は彼に一気にマークが付いて〜・・・なかなかボールが彼に回らなくなる。
俺も必死にボールを運ぼうとする。
何度か『ちなこたーん』を出してみるけど失敗してしまいチャンスを作れない。
その間にも相手がメチャクチャな全員攻撃で点を取って〜・・・

前半終了

4対2という結果と既にスタミナが一気に減っている彼。
俺のFWのポジションと違って、彼はMFだから攻撃に入りながら何度も守りのために戻って・・・
グラウンドを前半だけでもずっと走っていた。
さすがに交代させたい所だけど〜そんな事も言ってられない。
愛理ちゃんにマッサージされながら彼がスタミナ回復を10分で何とかしようとしてる。
(いくらなんでも無理だ・・・)
愛理ちゃんも必死になって色々とやってるけど〜・・・なかなかスグにとはいかなくって。

チームの皆の心配とは裏腹に後半戦の開始時間が迫り皆がグラウンドに向かう。
俺がグラウンドに入ろうとした時に彼が俺に小さい声で言う。
「悪いけど〜後半の半分、俺は体力回復のためにDFラインで守りながら回復するから得点よろしく!」
俺は少し考えて〜・・・彼に小さくうなずく。
「絶対に1点は取るから・・・君が回復したら残り時間で2点取ろう! それまでDFは頼んだよ!」
そう言って彼に笑顔を見せる。

後半開始

さっきと同じパターンで一気に敵がガンガン攻めてくる。
でも、さっきと違うのは彼が相手の先を読んで何度もパスカットをして得点を許さない。

FWの俺にも何度もボールが回ってきた。
でも、1人で強敵2人を抜くのは俺には不可能だった。
すぐに囲まれてボールを取られてしまう。
一気に相手が攻める!
彼が何度もボールをカットしたんだけど〜・・・結局、守りきれずに1点取られてしまった。

これで試合も5対2・・・
しかも彼を休ませるどころか逆に負担が一気にかかって疲れがピークになっている。
息を切らしている彼・・・
(もうダメだ・・・)そう思った時だった。

「サッカー少年達!『あきらめたらそこで試合終了』だぞ! 最近の子供は安西先生の名言を知らないの!?」
その大きな声に皆が声の主を見る。
彼のお母さんだった。
「あと、雅ちゃんを泣かせたままだったら一生家に入れてやらないから!」
その言葉に周りがザワザワとなる。
なっちゃんの方を見ると彼がボロボロになってるのに見かねて菅谷に抱きしめられながら泣いていた。

俺は彼の方に近づいて声を掛ける。
「なっちゃん泣いてるけど〜・・・何か声とか掛けてあげたら?」
そんな俺に対して息を切らしながら彼が言う。
「いいよ・・・すぐに・・・俺が・・・得点・・・決めて・・・笑顔に・・・変えるから・・・」
そう言って深呼吸を、ゆっくりとしながら呼吸を整える。
俺は彼の呼吸が少し整った所で疑問に思った事を聞いてみた。
「安西先生って〜・・・何の事?」 俺の言葉に彼は息を切らしながら話をする。
「安西先生・・・知らないの? この試合終わったら・・・スラムダンク全巻貸すよ。 ウチの家じゃ・・・必読書だから」
そう言って笑顔を見せる彼。
残り時間が15分。
正直、3点差をひっくり返すのは不可能に近いと思ったけど〜・・・彼の笑顔を見ていると可能な気がしてくる。

キックオフと同時に俺は一気にドリブルでガンガン攻める。
一気に攻めたのはいいんだけど、やはり途中のDF2人が壁になってしまう。
強敵の2人同時にボールを取りに来られてキープするのに必死になる。

(やばい・・・ もうキープしきれない・・・)
そう思った時だった。

「パス!」
後ろから聞こえた言葉に振り向きもせずにバックパスを送る。
DFの裏をかいた攻撃!
彼が敵陣地まで走って来ていた。
それと同時に反応した強敵DFの1人が彼に向かっていく。
そして、後ろから反則覚悟で彼にタックルを仕掛ける・・・

一瞬の出来事だった。

彼はそのまま走りながら強敵DFを本当に魔法みたいに抜いてしまった。
『MNフェイント』を成功させて・・・そのままゴールに向かってシュート!

ネットが揺れる音が静まったグラウンドに響いた。

『マジかよ〜!!』『何だよ今の技!?』『すげ〜!!』
敵味方、観客関係無く大歓声が飛び交う。
俺はダッシュで得点を決めた彼に向かって走って行く。
そして彼の背中を大きく『バン!』と叩いて彼に向かって言う。
「凄い! 本当に成功させちゃ〜・・・」
彼は俺の顔を見ないで、どこか一点を見ていた。

観客席のなっちゃんを見つめていた。
なっちゃんも涙顔のままで彼を見つめていて〜・・・
そんな彼女向かってに彼は左手を出して薬指を右手の人差し指で『トントン』と叩いた。
何かのおまじないだったのかな?
一瞬にして、なっちゃの顔が笑顔になって彼女も同じ行動を彼に向かってやっていた。
そんな行動を『ポカーン』と見ていた俺に彼が言う。
「次は君が決めてよ! 『ちなこたーん』が成功しなくても〜・・・千奈美が好きな君なら絶対に得点取れるから!」
そう言って彼は俺に笑顔を見せた。
『ちなこたーん』ができなくっても・・・ 俺なら・・・ そうか!!
俺は客席の徳永さんの方を見ると〜・・・ 彼女はDFラインに戻っていった彼を少し切なそうな表情で見つめていた。
(やっぱり、徳永さんの気持ちを掴むためにも俺が決めなきゃ!!)

相手ボールでキックオフ

敵が『時間潰し』とばかりにパス回しを始める。
客席からブーイングが飛び交う中〜・・・一瞬の隙をついて彼がパスカット!
そして前線の俺にロングパスを出す。
限界ギリギリな状況のはずなのに彼のパスは未だに優しくドンピシャに俺の足元に渡してくれる。
(絶対に決めなきゃ!!)
そんな決意を消し去ってしまうかのように、また2人のDFが俺に付く。
本当は彼が攻撃に参加してくれてたら2人を分担できたんだけど、彼がDFに付いたと同時に俺に集中してマークを付ける。
でも、俺には相手を抜く自信があった。
だって、目の前で彼に何度も見せてもらったし『ちなこたーん』よりは絶対に簡単だから今の俺にもできると思って・・・
俺の足元にあるボールを奪いに来た2人のDF!
(まだだ・・・まだ・・・ あと1歩・・・そこ!!!)
俺は一か八かでDFに突っ込んでいって・・・
次の瞬間、俺の目の前にはキーパーと真っ白なネットだけが写っていた。
『Cツイスト』が成功した!!

(ここで決めなきゃ!)

俺がペナルティーエリア内でシュート体勢に入った瞬間だった。
突然、左足に激痛が走ると同時にバランスを崩して地面に倒れる。

ホイッスルの音が高らかに鳴ると同時に敵のスライディングによって、俺は足を押さえながら苦しんでいた。

試合が中断すると同時にチームメイトが一気に集まってくる。
そんな中で1番最初に俺の所に来たのは何故かベンチに座っていた愛理ちゃんだった。
愛理ちゃんは、その場で俺の左足を色々と触れながら怪我の状態を調べる。
どの場所に触れられても激痛が走ると共に、自分で見ると倒れた時に膝が切れて血が流れていた。
この時点でウチのチームは絶対絶命になった。

俺がチームメイトに運ばれてグラウンドの外に出る。
PKを決めても1点差。
彼は既にボロボロだし・・・
さすがに皆が諦めムードになっている時だった。

「諦めたらそこで試合終了!! 安西先生も言ってたでしょ!!」
俺の足を治療しながら愛理ちゃんが大きな声で皆に言う。
「さすがにこの状況は・・・」
彼が言うと共に愛理ちゃんは彼のオデコを『ベシッ!』と1発叩いた。
「いいの? 負けたら確実に雅ちゃん泣いちゃうんじゃないの?」
そんな『喝!』を入れても試合時間も少ししか残ってないのに・・・

俺は絶対に逆転は無理だと思った。

突然、椅子に腰を掛けていた俺と彼のお腹にボディブローが同時に入る。
俺と彼は同時にお腹を押さえて下を向いて苦しんでいると〜・・・ お構い無しにブローを入れた本人が俺達に話し掛ける。

「2人共・・・負けたら〜わかってるんでしょうね!雅ちゃんを泣かして!しかも私の手料理を食べて負けるとか・・・ありえないから!」
俺が彼のお母さんに向かって言う。
「ちょ・・・ちょっと! なっちゃん泣かしたのは彼で〜俺は関係無〜・・・」
足に激痛が走っている怪我人の俺に向かって2発目のブローが入る。
苦しむ俺にお母さんは『怪我人は体力温存!』と一括。
「・・・はい」と下を向いて苦しむ俺。

チームの監督が後ろで『あの〜・・・』と申し訳なさそうに言ってるけど関係無しに彼のお母さんが話し続ける。
「残り時間はあと7分! あんたがPKを絶対に決める!? OK!?」
彼の目を真剣に見つめながら言う。
彼も真剣な表情でうなずくと彼のお母さんは『よし!』と小さく呟く。
そして、今度は俺の手当てをしている愛理ちゃんに向かって言う。
「怪我の状況は? どれくらいでピッチに上げられる?」
「多分、捻挫で少し腫れてて痛みがあって〜・・・ 無理をさせられないけど〜・・・」
そんな愛理ちゃんの言葉を聞くと同時に俺に向かって言う。
「死ぬ気になれば出れるって! どうする!? 交代する!? このまま情け無い姿を好きな女の子の前で見せる?」
その言葉に『ハッ!』として周りを見ると女子が集まってて〜・・・・ 徳永さんが心配そうに俺の事を見ていた。
徳永さんと俺が少し見つめ合って〜・・・
俺は彼のお母さんの方に顔を向かって真剣な表情で大きくうなずいた。

それを見て、彼のお母さんは『ニッ♪』と笑顔を俺に見せてからすぐに真剣な顔をして言う。
「愛理ちゃん、残り2分までに無理やりでもいいから何とか動けるようにしておいて!」
その言葉にに愛理ちゃんが『わかりました』と言って力強くうなずく。
今度はチームメイトに向かって言う。
「PKが決まって相手ボールでキックオフになったら10人で守らないで一気にボールを持ってる相手に向かって取りに行きなさい!」
その言葉に全員が『ハイッ!』と真剣にうなずく。
「それでボールを取ったら、すぐにウチの息子に渡す! そして・・・」
彼のお母さんは彼を睨むように見つめてゆっくりと言う。
「今の時間とPKの時間をギリギリまで使えば体力は何とか持つでしょ? ボールが来たら得点を絶対に1点取りなさい! 残り2分のタイミングで!」
その言葉に俺が言う。
「得点を決めれたら、それで充分ですよ! 残り時間から俺が出ます! 時間指定まで・・・絶対に不可能だ!!」
そんな俺の言葉に彼は俺の顔を少し見つめてから〜・・・笑顔で誰かの方を見て言う。

「雅、奇跡が起こる瞬間とか・・・見てみたい?」
その言葉になっちゃんは少し心配そうに彼を見つめてた後で〜・・・
「無理しない程度になら見せて欲しいかな♪」と笑顔で彼を見つめる。

それと同時に審判の『時間です!』って言葉にチームメイトがダッシュでピッチに戻る。
俺と愛理ちゃん、彼のお母さん以外は皆〜応援しようと応援席に戻った。
・・・もう1人残ってた女の子がいた。

「あっ・・・徳永さん・・・」
徳永さんは俺の事を心配そうに見つめていた。

徳永さんは何も言わないで俺を見つめていた。
彼女の不安な表情が、俺の鼓動を『ドキドキ』と早くさせていた。
徳永さんは、今の彼となっちゃんのやり取りをどんな気持ちで見ていたんだろう・・・ 辛いはずなのに・・・
そんな事を少し考えていると愛理ちゃんがテーピングをしながら彼女に言う。
「千奈美ちゃん・・・いいの? 彼の応援しなくて」
そんな言葉に徳永さんの表情が切なそうな表情に変わる。

(そっか・・・ 俺に気を使って・・・)

俺は笑顔で彼女を見つめる。
彼女は『えっ!?』って感じで驚いた顔を見せた。
「彼の応援・・・してきてあげてよ!」
そんな俺の言葉に顔を下に向けて〜・・・徳永さんが小さい声で言う。
「でも・・・私が応援してもしなくても変わらないと思うから・・・」
少し寂しそうな・・・いや、辛そうな顔をしている徳永さん。
俺は彼女の表情に自分も切なくなったけど〜・・・無理やり笑顔を作って言う。
「そんな訳無いじゃん!徳永さんの笑顔って可愛いし見てるだけで元気がでるし!徳永さんが応援したら彼だって頑張ると思うよ!」
少しずつ徳永さんの表情が和らいでいく。
「それに、彼が俺に『千奈美は俺にとって大切な存在』って言ってたよ。 確かに彼女としてじゃないかもしれないけど、
それって誰でもない徳永さんじゃないとダメって事で〜・・・彼の中にある徳永さんだけのポジションがあるんだと思うんだ!」

途中から訳のわからない言葉になっていたけど〜・・・俺は何とかして徳永さんに気を使わせまいと必死になっていた。
俺の熱意が通じたのか、徳永さんが俺を心配そうに見ながらもグラウンドの方を少し気にしだした。

彼がPKを決めたらしく一気に会場が盛り上がる。
逆転するなら・・・あと2点!!
グラウンドを切なそうに見つめている徳永さんに向かって言う。
「早く! 彼の事が好きなら応援してあげて!!」
俺の言葉に『ハッ!』とした表情に変わって〜・・・徳永さんは走って皆の居る応援席に行った。

「あんた、偉かったよ」 そう言って彼のお母さんが俺の頭をグシャグシャと力強くなでる。
愛理ちゃんは俺の顔を見ないようにして必死に俺の足の治療に専念をしていた。

彼女の後ろ姿を、俺は涙でにじませながら見つめていた。

グラウンドでは必死なボールの取り合いが繰り広げられていた!
残り時間が刻々と過ぎて行く。
必死に敵に食らい付くチームメイトに敵がバックパスでボールを戻そうとした時だった。
1人のチームメイトがボールを何とかカット!
それと同時に無茶苦茶なロングパスを彼に送る。
彼は疲れた体で必死に走って〜何とかボールをトラップした。
でも、今のダッシュで体力は一気に底を付いていたみたいだった。
そして、そのままゴール前に行くけど〜・・・体が付いていかなくて1人のDFが追いついてしまい必死に攻防を繰り広げていた。
その後ろにも、もう1人DFが待ち構えていて1人抜いてもスグにもう1人が対応する形になっている。
彼のワンマンチームと化してるだけに、こうなると手の打ちようが無い。
彼も疲れからかボールをキープするのに必死〜・・・ えっ!?彼が相手を抜けないわけ・・・あっ!そうか!!

彼は必死にボールをキープし続けていて〜・・・スタミナがどんどん消えて行く。

そんな中『バシッ!』と俺のおでこが叩かれる!
おでこを押さえながら目をやると愛理ちゃんが笑顔で俺の前に立っていた。
「治療完了! 何とか騙しながらなら痛みを絶えれば走っても大丈夫だから!」
それと同時に俺がピッチの中に入ろうと椅子から立ち上がろうとしたけど〜・・・
「まだ! ウチのバカが得点取るギリギリまで足を使わない!」
そう言って俺を立たせなかった。

残り時間は2分30秒を回った・・・残り2分25秒・・・

『あと20秒だよ!!!』 なっちゃんと徳永さんが大きな声で彼に向かって言う。
それと同時に彼が一気に動き出す。

彼が『ちなこたーん』で1人目を抜く。
確かに彼はドリブルしてなければ100%出来るからって〜・・・本当に決めてしまった。
それと同時に後ろにいた、もう1人のDFが彼に向かって走ってきて〜・・・
バランスを崩しながら彼が何とか『Cツイスト』で2人目を抜く。
既に彼はフラフラになりながら・・・必死にゴールに向かおうとした時だった。

目の前でキーパーがゴールから離れて彼のボールを取りに行っていた。

(もうダメだ・・・)

数秒後に『パサッ』と言う音と共にネットがゆっくりと揺れる。
最後に彼が見せたのは『MNフェイント』
彼はギリギリのスタミナの状態で3つの技を連続でやってしまった。
神技みたいな・・・本当に奇跡を起こしたと同時に彼が一気にゴールまで走るとボールを持ってハーフラインまで戻る。
それと同時に俺の背中が押されて『行って来なさい!』と言う彼のお母さんの声。
奇跡に酔いしれる瞬間すら与えずに彼は勝つ事だけにこだわっていた。
なっちゃんに見せるって言った奇跡は『得点を取る』じゃなくて『試合に勝つ』と言う意味だったんだ。
俺がヨロヨロの彼の前に行くと彼は顔も上げられないで俺に向かって言う。
「奇跡・・・起こさないと・・・ 雅も・・・千奈美も見てるんだから。 俺は・・・雅に・・・見せたよ。 君は・・・千奈美に・・・」
そう言い掛けてる途中で笛が鳴って敵がキックオフをすると同時に彼の表情が変わる。
走り出して相手から『サッ』とボールを取って走り出す。
(この人・・・本当にすごい!!)

残り時間は1分半を過ぎていた。
俺は彼と平行に走りながらパス合いをしながらガンガン敵陣内に攻め込んでいく。
走るたびに激痛が体中に流れたけど〜・・・俺も彼も敵を『Cツイスト』でバランスを崩しながら抜いていく。
ドリブルしながら、スタミナが底をついている彼と怪我をしてる俺の2人が唯一できる技だった。
敵ゴール目の前で俺と彼に強豪DFの2人が1人ずつ相手が付く。
ボールを持っていた俺は相手が突っ込んでくるとギリギリのタイミングで彼に無理やりパスを出す。
残り時間は30秒!
彼は相手と1対1になって、相手のチャージに吹っ飛ばされれながらもゴール前に走っていた俺の目の前にパスを出す。
残り15秒!
俺がキーパーと1対1になって『Cツイスト』で抜こうとした時だった。
足に走った激痛によってバランスを崩してスピードが落ちる!
それと同時に1度抜いた敵が後ろから走り込んでくる・・・

(ここだ!)

俺はボールを軽く浮かせて走りながら体を回転させて・・・
そのまま自分ごとゴールの中に飛び込んだ。
 ・
 ・
 ・
 ・
「ボールは!?」

俺が周りを見渡す。
『コロコロ』と俺の横にボールが転がっていて・・・得点に・・・なってる!!!

俺はホイッスルの音と大歓声が響く中、五月晴れの空を見上げながら目を閉じて深呼吸を1つした。

 

さっきまで苦しかった状態が心地よい疲れに変わっていた。
少しフラフラな状態は治ってなかったけど〜・・・ 俺と雅は、ゆっくりと歩きながら多色に彩る風景を見ていた。

「本当に雅は泣き虫だよな」
笑いながら言う俺に雅が目を赤くしながら顔を膨らませて言う。
「泣き虫じゃないもん! それに最近泣いたのだって〜全部同じ人に泣かされてるんですけど!」
雅は少し早足で俺の数歩前を歩きながらオレンジ色に焼けた空を見つめていた。
俺はそんな雅の後ろ姿を見ながら追い抜かないように歩いていた。

突然、雅が『クルッ』と振り向いて立ち止まり俺の方を笑顔で見つめる。
俺も立ち止まって『ん?どうしたの?』と雅に言って笑顔を見せる。
雅は俺に小さい声で言った。
「『ちなこたーん』だっけ? 本当は走りながらできるんでしょ? 雅にだけ見せてよ♪」
そう言って『クスッ♪』と俺に笑顔を見せる雅。
俺も笑顔を雅に見せて〜・・・バッグの中から1個のボールを出して雅に向かって走る。

『スッ』と雅を『ちなこたーん』で抜いた後で、少しの間立ち止まって〜・・・ 『はぁ』と、ため息を1つして雅に言う。
「成功率は10%も無いよ。 今は運が良かっただけ・・・ましてや試合中のバランスを崩した状態なんて・・・1%も成功しないかな」
そう言って振り向くと雅が笑顔で俺を見つめながら言う。
「でも、私が見ていたら〜・・・成功率は50%くらいまで上がるよね?」
嬉しそうな顔に俺は少し『う〜ん』と考えてから・・・
「いや・・・無理無理。 雅、また試合中に泣くから集中できないと思う!」と笑いながら言ってやった。
雅は、また顔を膨らませながら『ひっど〜い!』と俺を可愛く睨んでいた。

そんな雅を軽く流して俺が言う。
「そう言えば〜・・・今日のMVPは?」
「病院に行ったはずだよ♪」 雅が笑顔で俺に言う。
「じゃ〜・・・千奈美は?」
「病院に行ったはずだよ♪」 全く同じテンションで同じセリフを俺に向かって言った。
俺は数秒『ボーッ』としてから空を眺めながら呟く。
「う〜ん・・・弱ったなぁ・・・」
そんな俺の表情を少し切なそうに雅は見つめて〜・・・小さい声で言う。
「千奈美ちゃんの事〜・・・気になる?」
その言葉に『えっ!?』と驚いて俺が雅に向かって言う。
「いや・・・スラムダンク・・・全巻貸す約束が〜・・・」
「えっ・・・ 千奈美ちゃんの事じゃ・・・無いの?」
「う〜ん・・・いや、絶対に読むべきなんだよ! あれは本当に〜・・・そう言えば雅は全巻読破してるよね?」
その言葉に『ブンブン』と顔を横に小さく振る雅。
俺は雅の表情を見て『ニヤッ!』と意地悪な笑みを見せて言う。
「母さんが決めたウチの規則で、俺と関係ある人は必読書になってるから〜・・・読んでないって知ったら母さんが・・・」
俺の言葉に雅が少し『え〜!』って顔をして・・・ すぐに微笑む。
俺は雅の手を取って、そのままゆっくりと夕日に向かって歩いた。

 

静かな川辺を2つの影がゆっくりと歩いていた。

「足の怪我〜・・・大丈夫?」
足を少しひきずりながら歩く俺に向かって徳永さんが心配そうな表情で話しかける。
「ただの捻挫だったみたいだし!1週間は安静にしなきゃダメだけど〜大丈夫だよ!」
そう言って笑顔を徳永さんに見せる。
俺の言葉を聞いて徳永さんの表情も少し笑顔になる。

俺のゴールと同時にホイッスルが鳴り響いて〜・・・
劇的な逆転勝利だった。
ボロボロになりながら何とか勝ち取った勝利。
ただの練習試合だったけど〜俺と彼、それに皆に取っても色々な意味を持った試合だった。

「最後の・・・」
徳永さんは俺を優しい笑顔で見つめながら話し出した。
「最後の攻撃の時、君が足を怪我しながら必死に走ってた時は本当に『ドキドキ』しながら見つめてた」
(徳永さんが俺の事を見ていてくれてた・・・)
徳永さんの言葉の1つ1つに緊張しながら彼女を見つめていた。
『じ〜っ』と見つめる俺に、少しは恥ずかしそうに彼女は下を向いて〜・・・ちょっと小さい声で言う。
「最後にバランス崩して転びそうになっちゃった時も『転ばないで!!』って・・・ずっと祈ってた」
そう言って『クスッ♪』と微笑んだ彼女。
俺は突然立ち止まって・・・
2、3歩先に進んでしまった彼女が振り返った瞬間に笑顔で言った。

「俺にとっての勝利の女神は徳永さんだったから。 徳永さんの祈りが俺に最後のゴールを取る力をくれたんだよ」

徳永さんは俺を少しの間見つめて・・・ すぐに笑顔を見せて俺の目の前まで歩いてきた。

俺の目の前に徳永さんが立っていた。
俺と彼女は見つめあった状態で沈黙の時間が数秒流れた。

少しして彼女が俺の声を掛ける。
「最後に相手を抜いたのって『ちなこたーん』だったんだよね。本当に成功させたんだもん・・・ちゃんと君に『返事』を言わないと」
そう言って1つ深呼吸をして・・・ 彼女が話し出す。

「あのね・・・」
「まって!!!」

彼女の言葉と同時に俺は彼女に大きな声で言う。
突然の俺の言葉に『えっ・・・』と少し驚いた表情を見せる彼女。
そんな彼女を真剣な顔で見つめながら俺が言う。
「最後のターン・・・ 完璧じゃなかったんだ。 今日の試合が勝てたって言っても彼に頼ってばっかりだったし・・・」
彼女は『そんなこと・・・』と小さく呟きながらも俺の話の続きを黙って聞き続ける。
「それに、徳永さんの気持ちが整理もされてないのに告白とか、何か〜・・・ズルイって言うか〜・・・ だから、お願いがあるんだけど」

川の流れて行く音。
風が通り過ぎて行った音。
自然の響きが2人の耳にかすかに残していく。

「俺が『ちなこたーん』を完成させて、その時に徳永さんの笑顔を心の感情そのままの笑顔に変えられたら・・・答えを聞かせて欲しいんだ」
俺の言葉を真剣な表情で聞いていた彼女。
少しの間、何も言わずに俺を見つめて〜・・・『ニコッ』と優しい笑顔を俺に見せた。
「うん。わかった。 そのかわり〜・・・1つだけ私もお願いがあるんだけど・・・」
そう言って彼女は少し恥ずかしそうに下を向いて、すぐに少し赤くなった顔を上げて俺を見つめて言う。
「私だけ『徳永さん』は無いんじゃない? せめて『千奈美ちゃん』とか『徳永』って言ってよ!」
そう言って笑顔を見せる徳永さんは本当に可愛くって・・・ 彼女の事がさらに好きになってしまった。

「『千奈美』って呼び方は〜・・・まだダメ?」 俺が少し期待をしながら聞くと
「それはダメ! もう少し仲良くなって〜・・・も、やっぱりダメかな?」
そう言って徳永は少し意地悪な笑みを見せる。
俺は『え〜!!』と不満そうな表情になると彼女は『クスッ♪』と可愛い笑顔を俺に見せた。

少しずつでもいいから彼女の笑顔を俺が本当の笑顔に変えて行きたい。
彼女が彼の事を忘れられなくてもいい。
でも、切なくなったり悲しい表情に変わらないように俺が彼女を受け止めて行ければ・・・それでいいんだ!

俺と徳永の距離を少し縮めてくれた大切な1日。
そんな時間を終わらせようと落ちて行く太陽の光を眩しく感じながら2人は色々な事を話しながら笑顔で家に向かう。

「でもね!! 失敗だったとしても、最後の君の『ちなこたーん』は本当に魔法みたいだったよ♪」
そう言って嬉しそうに笑う彼女が、俺の心をいっそう暖かくしてくれていた。

                                           〜おしまい〜