【雪が降る季節に・・・】
ここは、北海道の小さな町。
当たり前のように毎日が来て、毎日が過ぎていく。
そんな小さな町の小さな小学校に大きな『騒ぎ』が来ると言えば・・・
「はいはい。 今日から、この5年1組に新しい仲間が増えますよ〜!」
朝の会が始まる前の先生の『突然の発表』は皆をワクワクさせた。
俺は、転校生が入ってくると言っても何とも思わなかった。
普通にクラスが1人増えるだけ・・・ そんな感じだった。
「それじゃ〜入ってきて。」
先生の言葉に1人の女の子が教室に入ってきた。
歓声と共に入ってくる女の子は少し、恥ずかしそうに下を見ていて顔がよく見えない。
「それじゃ自己紹介・・・お願い」 先生の声で、その女の子が顔をあげた。
その子を注目して騒がしかったクラスが一瞬で静かになる。
笑顔の女の子は芸能人みたいに可愛くて、その目はとても綺麗に輝いているように見えた。
「東京から来ました・・・村上 愛といいます。」
その声に男子は大喜び、女子もキャーキャー騒いでた。
これが、俺と村上愛との出会いだった。
その時、俺の心の中で時間が止まっていたような気がした。
俺は男子全員の恨むような痛い目を喰らってた。
転校生が突然クラス入るとしたら、空いてる席なんて後ろしか無い訳で・・・
俺は窓際の1番後ろの席だったため、隣の席に村上愛が来たからだ。
「よろしくね。」 そう言って笑顔で話しかけてきた村上に
「あ・・・よ、よろしく」 と俺は勝手に1人で照れてスグに窓から外を見た。
村上は不思議そうに俺を「?」と見てたが、逆側に座ってる男子に声を掛けられて同じふうに「よろしくね。」と話していた。
朝の会が終り、1時間目の始まるまでの休みのたった10分だったけど俺の席の隣は大人気だった。
男女関係無く村上の席の周りに来ては色々な質問をしてる。
俺は隣の席で外を見ながらも、その質問を盗み聞いていた。
彼女は転校が多くて、前の東京の学校にも1年くらいしかいれなかったらしい。
村上が話すたびに、『可愛すぎ〜!』喜ぶ男子の声が聞こえた。
9時になり、先生が来てやっと村上の席は静かになった。
先生は入ってくるなり「村上さんは前の学校の教科書が違うものらしいから隣の席に見せて貰ってね!」
そう言うと、俺の方じゃない逆側の男子が『俺が見せてあげるよ〜!』 と、即効でアプローチ!
村上は笑顔で席を付けようとする。 俺だけじゃなく、他の男子が心の中で『あ〜あ〜・・・』とその光景を見ていたが・・・
「ゲッ!俺、算数の教科書・・・忘れちゃった」 シ〜ンとなる教室。
そんな訳で、俺の席と村上の席はくっつくことになった。
すごい近くにいる村上にドキドキが止まらない。 まだ、会って1時間も経ってないのに・・・好きになったみたいだった。
真ん中に置いた教科書さえ、俺は全く見れないで外ばかり見てた。
授業の音さえ聞こえず・・・ただジーッと外を見ていた。
「ねぇ?」 突然、聞こえた村上の声にハッ!として隣を見る。
「えっ・・・何??」 俺の心臓はドキドキが最高潮になっていた。
「ず〜っと外見てるけど、その窓から何が見えるの?」 村上は俺にしか聞こえないくらいの小さな声で聞いていた。
「そうだなぁ・・・雲とか・・・空とか・・・」 別に何も見てなかったから、こんな答えしかできない。
「そうなんだ・・・ねぇ?雪は見えないの?」 と村上は俺の方を見て笑顔でさらに質問した。
「雪は〜・・・そうだな。今は9月だから・・・早くても11月とかじゃないかな?」 俺はそんな笑顔の村上を近くで感じながら言った。
「そっかぁ・・・私ね・・・まだ、雪って見た事ないの」 村上はノートの端っこに雪の結晶のマークを書きながら言う。
「えっ?でも東京でも雪とか、たまに降るんじゃないの?」
「私、東京にはそんなに長くいなかったし」
「1年だっけ?」 そう言った俺に
「隣でちゃんと聞こえてたんだね」 と笑顔で言った。
俺は「あっ、あ〜・・・聞こえててさぁ〜」 とごまかして頭をかいた。 その姿を見て村上が『クスッ』と笑う。
「その前は関西。その前は四国・・・もう、北海道より上は無いから転校はこれが最後だといいんだけどね〜」 と言って「はぁ。」とため息を付いた。
その姿すら、俺はボーッと見てた。
「だから、まだ雪って見た事ないから・・・楽しみなんだ。」 村上は今度はノートの端っこの雪の結晶のマークの隣に『めーぐる!ついに雪と出会うのか!?』と書いた。
「めーぐる?」 俺が声を出す。
「あっ。『めーぐる』って、私の中だけの私のあだ名なんだ」 そう言って。1人でクスクス笑ってた。
「めーぐる かぁ。 いいじゃん!」 俺が言うと
「じゃ、君だけに『めーぐる』ってあだ名を呼ぶの、特別に使わせてあげる。」 と言って、新しいノートを取り出すと何かを書き出した。
「他の友達とかに言ったらダメだからね〜・・・・っと。できた!」 そう言ってノートの最初のページに大きく何かを書いた。
そこには『めーぐるとのやくそく』と、書かれていて
『1、めーぐると呼ぶからには、村上愛と仲良くしなくてはいけない』
と書いてあった。
「・・・1って事はどんどん増えるの?」俺が質問すると、村上は自分の使っていた青色のペンを渡して
「さて、それはわかりませんね〜♪ まぁ、とにかく下に名前書いて!!」 と、そのページの下の方に書かれてる自分の名前の隣を指した。
俺は『あいよ〜』と言いながら書いたが、心の中で『ヨッシャ!』と大喜びしていた。
俺が名前を書いた後にめーぐるは突然ペンを取って『ニヤッ』と笑って『めーぐるのやくそく』 その2を勝手に書き出した。
「約束は絶対だからね♪」 そう言って笑ってるめーぐるを俺はポカーンとして見ていた。
『2、めーぐるが雪を初めて見る時は一緒にいること』
1カ月経っても、めーぐるはクラスの中で中心的存在になるくらいの人気だった。
予想通り『愛ちゃんファンクラブ』なんてものが設立され、他のクラスや6年生にも会員がいるほどだった。
俺は、教室では他の男子と同じ感じで、めーぐると普通に話したりしていたが学校の帰りや夜に電話で良く話してた。
『めーぐるとのやくそく』も変な約束がどんどん増えていって、20を超えていた。
『6、お互いに給食で嫌いな物が出たら食べてあげる』とか『14、流れ星を見たらめーぐるが雪を見れるように願う』など、むちゃくちゃな物もあった。
そんな感じで俺の中で、めーぐるの存在は大きくなっていたんだと思う。
それを、後になって気付くなんて・・・
11月に入り、いつものように俺とめーぐるは学校帰りに2人だけの秘密の場所に来ていた。
そこは、ちょっと丘になっていて金網をかいくぐって行かないと入れない場所で、俺の昔からのお気に入りの場所だったけど、口を滑らせてしまった時にお約束の『めーぐるとのやくそく』の37に書かれてしまい、2人の秘密の場所になったのである。
でも、俺はめーぐるが37を書かなくても教える気だったけど。
その場所で、今日の学校でのめーぐるが元気が無かったのに気付いた俺は聞いてみた。
「ねぇ?今日は学校で元気無かったけど〜めーぐる、何かあったの?」 俺の質問に『えっ!?』って感じで俺を見るめーぐる。
その後、下を見て何も言わない・・・ 俺はそんなめーぐるを見つめる。
下を向いたままで、めーぐるが話し出す。
「ねぇ?12月までには・・・雪・・・降るかな?」 めーぐるの声は元気が無い。
「う〜ん、今月中には降りそうな感じするよね。でも、こればっかりはな〜」 俺の答えに
「・・・そっか」 と静かに答えた。
「そんなに、心配するなよ!あと、2カ月待てば確実に辺り一面は銀世界。冷たい雪を感じられるよ!」 そう言って、めーぐるを元気づけようとする。
その質問に、めーぐるは
「そうだよね・・・雪は、一緒に見る約束だもんね!」 と笑顔で言った。
でも、その笑顔は俺には無理に作ってるのがスグにわかった・・・
「ねぇ?」 突然めーぐるが俺に、話しかける。
「今ね、『めーぐるとのやくそく』は49なんだよ」 そう言って俺にノートを見せる。
「もう、49か〜!2カ月で一気に増えたね!!」 俺は、ノートを見てめーぐるに笑顔を見せる。
「次が・・・50個目の記念になるね・・・」 そう言って、めーぐるは50個目の『やくそく』を書いた。
書き終わると、めーぐるは下を向いたまま止まってしまった。
「めーぐる?」 俺がめーぐるに話しかける・・・
めーぐるは泣いていた。
俺は、めーぐるからノートを取って新しく出来た『やくそく』を見た。
『50、めーぐるが12月に転校しても、ずっと友達でいること』
俺は頭の中が真っ暗になった気がした。
9月に来ためーぐるは、たった3カ月と言う時間で転校してしまう。
クラスの男子も女子も、隣のクラスの奴も『愛ちゃんファンクラブ』の全員が悲しんでいた。
めーぐるは、あの涙の次の日はいつものように笑顔で俺に接して、先生が皆に転校の話をした後もクラス全員に逆に元気をあげるくらいに笑顔だった。
クラスでのお別れ会では女子の中で泣く子が何人もいたり、会の途中でめーぐるを廊下に呼び出して告白してる男子が何人もいた。
どの答えも悲しい答えだったらしく、クラスの男子半分が凹んでるようだった。
「なぁ、お前は告白しないのか?」 男子の中で1番仲が良い奴が俺に言う。
「俺は・・・いいよ・・・」 俺は女子に囲まれてるめーぐるを見ながら言う。
「そっか・・・俺、村上ってお前と居る時が1番、目を輝かせてたの気付いてたからさっ。」 そう言って、俺の方をジーッと見た。
「・・・俺も、村上見てた時が1番・・・」 言いかけてやめた。 めーぐると目が合ったから。
めーぐるはそんな、俺の顔を見てニコッと笑ってた。
『めーぐるとのやくそく』はあの日の50で止まったままだった。
めーぐるは金曜日に帰る事になっていてクラス全員で見送りはできなかった。
でも、俺には日曜日に帰る事を金曜日の夜に電話で教えてくれた。
12月5日、日曜日の朝。
今年に限って雪は12月に入っても降らなかった。
駅のホームでめーぐると残り少ない時間を待っていた。 両親は先に空港に向かっているのを無理を言ってギリギリまで待たせたらしい。
「3カ月か・・・短かったな〜」 そう言ってめーぐるは空を見ていた。
「本当、転校してきたのが1年も前みたいに〜」 そう言い掛けた俺に
「それは言いすぎだよ」 とめーぐるが笑った。
「また、東京に戻るんだってね・・・」 俺の言葉にめーぐるは何も言わずにうなずいた。
お互いに何も喋らずに・・・ただ、時間だけが過ぎていった。
「ねぇ・・・」 めーぐるが俺の方を見て言う。
「これ・・・君が持ってて・・・」 そう言って、バッグから『めーぐるとのやくそく』のノートを取り出した。
「・・・俺が持ってていいの?」 俺がめーぐるに言う。
「君に、村上愛をずっと忘れないでいて欲しいから・・・」 そう言って俺の方を見て笑った。
「・・・バカ・・・忘れる訳ないだろ」
情け無い事に、俺はめーぐるのその言葉に切なくなり泣いてしまった。
そんな俺を、めーぐるは抱きしめて
「51の所に、泣いてはいけない・・・って書き足しておけば良かった」 と言いながら頭をなでてくれた。
電車が来て、めーぐるが乗る。
扉の前で最後に見つめあう・・・
「東京でも・・・雪が降るといいね・・・」 発車のベルが鳴る中で、俺がめーぐるに言った。
めーぐるは下を向いて・・・顔を上げた時は泣いていた。
「君と見れなかったら・・・意味ないよ・・・」 そう言って座り込んでしまった。
俺はそんなめーぐるに触れようとしたが、無常にもドアは閉まり・・・俺を残して、電車は行ってしまった。
めーぐるがいなくなった学校は退屈だった。
多分、お互いに切なくなるのがわかっていたか電話も手紙も出さなかった。
心を整理するのに時間が欲しかった。、
これほど、俺の中でめーぐるが大きな存在だったのに気付かせられるのは時間が経てば経つほどに会いたい気持ちで一杯になるから。
雪は・・・それでも降らなかった。
12月24日。クリスマス・イヴは終業式で、俺はあの日以来、行かなかった秘密の場所に行ってみた。
もちろん、その丘にめーぐるは居ない。
俺はその丘に座り、持ってきていた『めーぐるとのやくそく』のノートを開いた。
別れの日に手渡されてから1度も開けなかった・・・開けれなかったノートを開いた。
1つ1つの約束を見て思い出す。
『19、めーぐるより先に帰ってはいけない』『44、電話は5コールまでに出ること』
「・・・変なのばっかり」 俺はパラパラとノートを見ながら笑った。 最後のページに目が止まった。
最後のページにはめーぐるからの最後のメッセージが書かれてた。
最後のページにはめーぐるからの最後のメッセージが書かれてた。
『初めて教室で君を見た時から・・・愛の中で君がいっぱいになってた。
話しかける時もドキドキしたし、どうしていいのかわからくて・・・このノートを作ったの。
愛の一方的な一目惚れ・・・
君を見ていたら雪を一緒に見たいと思った。
一面、白銀の世界で君と愛で小さなかまくらでも作って・・・雪が溶けるまで見ていたい。
今度会う時は白銀の世界で会いたい。
そして、ノートじゃなくって・・・愛の口から伝えたいです』
それを読んでいたら、俺は涙が止まらなくなっていた。
どうして、お互いに近くにいたのに気持ちに気付かなかったんだろう・・・ そう思うと涙しか出てこなかった。
その時、俺はノートに落ちる雪を見て・・・顔を上げた。
少し曇った空から落ちてくる真っ白な雪。 そして俺の視線の先には、めーぐるが立っていた
「め、めーぐる・・・ど〜して!?」 俺は立ち上がり、走ってめーぐるの前に立つ。
それは、本当に俺の記憶の中そのままのめーぐるだった。
「も〜、51は『泣いてはいけない』なのに」 そう言ってめーぐるは笑って言った。
俺は急いで自分の涙を手で拭いた。 それを見て『よしよし♪』とめーぐるがうなずく
「東京の学校が終業式で休みになったから・・・会いに来たの」 そう言って、めーぐるは恥ずかしそうに笑った。
俺はただ、めーぐるを見つめていた。
「それにしても・・・これが雪なんだ〜」 空を見上げて落ちてくる白い結晶をめーぐるは目を輝かせて言った。
少し空を見上げてから・・・
「じゃ、ノートの公約を。 あのね・・・私・・・君の事が・・・」
そう言い掛けるめーぐるを俺は抱きしめた。
「めーぐる・・・俺、めーぐるの事が好きだから・・・だから・・・」
めーぐるは何も言わないで、俺の背中に手を回した。
俺とめーぐるに小さな白い雪が降り続ける。
雪が連れてきてくれた白い恋人は、俺の心の中を真っ白にしてくれた。
村上愛 が俺の心の中で、これからも・・・・いつまでも溶けないで残る雪になった。
『雪が降る季節に・・・』 〜おしまい〜