【星の降る丘】
1 名前:名無しさん 投稿日:2005/03/27(日) 21:07:21月曜日
「ん〜、ん〜・・・」
「梨沙子ぉ?何やってるの?」
「ママぁ・・・携帯・・・壊れたぁ。ずっと圏外なのぅ・・・」
「当たり前でしょう。ここは携帯の電波なんか届かないところなんだからぁ。
そんなに携帯を振ったってどうにもならないわよ。」
「えぇ!・・・圏外じゃ、みやぁとメールできないよぉ」
わたしは、都会の猛暑を避けるため夏休みの一週間だけ
おじいちゃん、おばあちゃんのいる田舎にやってきた。
携帯は場所悪の圏外。
大きなビルもなくコンビニも見当たらない。
あるのは自然とのんびりとした空間だった。
「少しお外を散歩してきてもいい?」
「遅くならないうちに帰ってくるのよ」
「ハ〜イ♪」
「痛っ!」
ロクに舗装もされていない砂利道を
わたしは、不慣れな足取りで歩いていた。
「石ころで歩きづらいなぁ・・・」
わたしは、ふと立ち止まって辺りを見回した。
砂利道に気を取られて気がつかなかったが周りを見ると
道端にたくさんのタンポポや名前もわからない白や赤の大きな花が咲いていて
向こうには堤防も必要ないほど小さな小川が流れていた。
「なんか・・・こういうのもいっか♪」
アスファルトやコンクリートのない世界もいいものだ。
ふと、わたしの目の前を東京じゃ見たこともない大きな蝶々が横切った。
「あぁ〜〜♪大きな蝶々ぉ〜〜♪」
わたしは、大きな蝶々に興奮しながら後を追いかけた。
「蝶々さぁん!待ってよぉ〜〜〜」
「キャァァァアアアア!!!!!」
ドサッ!
蝶々しか見ていなかったわたしは土手から落ちてしまった。
「いたたたた・・・」
「だ、大丈夫かい?」
声のする方向を見ると男の子がいた。
「こんなところで落ちる人初めて見たよ・・・」
「あ・・・う・・・あの・・・蝶々が・・・」
「蝶々?」
「大きな蝶々がいたんだもん」
男の子は、わたしの言葉にキョトンとした表情をしながら言った。
「アゲハチョウのこと?」
「アゲハチョウ?」
「そう・・・ここにいる蝶々のことだろ?」
男の子の後ろを見ると一面のお花畑に
たくさんの『大きな蝶々』が飛び回っていた。
「わぁああああ・・・・・」
「キミ、この辺りじゃ初めて見る顔だけど・・・」
男の子はお花畑とアゲハチョウに夢中になっているわたしに言った。
「あ・・・わたし、東京から
おじいちゃん、おばあちゃんの家に遊びに来たの」
「東京!?そんな都会からこんな田舎に。」
「うん」
「東京には、アゲハチョウもいないのかぁ・・・」
「うん」
男の子は、哀れむような表情でわたしを見ていた。
「あ・・・そろそろ帰らなきゃ・・・」
「ここに来れば、いつでもキレイな花とアゲハチョウに会えるよ。」
「うん♪」
わたしは、日焼けした顔に白い歯が印象的な男の子に
手を振ってその場からお家に帰った。
「梨沙子ぉ!どこ歩いてたの?スカートが泥だらけよぉ!」
「土手から落ちちゃって・・・うんとね、キレイなお花畑と
大きな蝶々・・・えっと・・・アゲハチョウがいたの!」
「ハイハイ。いいから早くキレイなお洋服に着替えなさい。」
「ハァ〜〜イ」
明日もあのお花畑に行ってみよう・・・
火曜日
朝から降っていた雨も止んで午後にはキレイさっぱりと
雨の痕もなくなっていた。
「ママァ・・・昨日のお花畑に行ってくるぅ」
わたしは、昨日のお花畑に行きたくてうずうずしていた。
小走りで昨日の場所へ行ってみると
今朝の雨のせいか昨日よりもお花が満開になっていた。
「わぁあああああああ♪」
驚いているわたしに聞き覚えのある声がした。
「やっぱり今日も来たね。」
昨日の男の子がいた。
「うん♪キレイなんだもん♪」
「そっかぁ、気に入ってもらえたみたいだね。」
わたしは『うんうん』と頷いた。
「いつも、ここにいるの?」
わたしは、男の子に尋ねた。
「・・・うん。ここにいると落ち着くんだ。」
「お友達はいないの?」
「・・・・・・」
気まずいコトを聞いたと思い
わたしは、慌てて違う話をしようとした。
「友達は・・・みんな、遠くへ行ってしまった・・・」
男の子は、寂しそうに遠くをみつめながら答えた。
「遠く?」
「うん。遠く。ずぅ――――っと遠くさ・・・」
「ヘンなこと聞いてごめんなさい・・・」
「いや、いいんだよ。気にしてないから。」
わたしは、覗き込んで顔を見た。
目が合った瞬間、男の子は照れて目をそらした。
「あの・・・お友達になりませんか?」
わたしは、思い切って言ってみた。
男の子は驚いた顔をした。
「今度の日曜日で東京に帰っちゃうけど、
それでもよければ・・・お友達になろ?」
「え・・・いいの?」
わたしは、『うんうん』と頷いた。
「わたし、梨沙子。りぃ〜ちゃんって呼んで♪」
「ボクは・・・リュウイチ・・・」
「じゃあ、リュウちゃんだね♪」
「え、あ・・・リュウ・・・ちゃん?・・・」
「ダメ?」
わたしは、また覗き込んで顔を見た。
「いや、いいよ。あ、あのさ、そんなに顔近づけられると・・・照れるよ・・・」
「ぶー。りぃ〜ちゃんって呼んでくれないの?」
「え???」
「呼んでくれるまで離れないもん。」
「・・・り、りぃ〜・・・ちゃん・・・」
「あは♪やっと呼んでくれたぁ♪」
わたしは、なぜか嬉しくなって抱きついて喜んだ。
「り、りぃ〜ちゃん、くっ付き過ぎだってば(焦)」
「あ・・・りぃ〜ちゃん。しぃー・・・」
リュウちゃんは、そう言ってわたしの口に人差し指を当てた。
「ほら・・・やっとアゲハチョウがお花畑に戻ってきたよ・・・」
「ホントだぁ・・・」
「雨が乾くのを待っていたんだね。」
お花畑には何羽ものアゲハチョウが飛び舞っていた。
「りぃ〜も、このお花畑が好きだなぁ・・・」
「東京にはないから?」
「東京にもお花畑はあるよ。
でも、こんなにお花が嬉しそうに咲いてて
アゲハチョウが楽しそうに舞ってるとこはないもん。」
「このお花畑は、心のキレイな人にはそう見えるんだよ・・・」
わたしは、リュウちゃんとつないだ手をギュッと握りしめた。
「ねぇ・・・いつも何して遊んでるの?」
「何にもないから気になるかい?」
「・・・うん・・・」
「ここには、確かに東京にあるような
ゲームセンターや遊園地、観光地なんてものはないよ。
でも、お花畑や山がある。山に行けば大木の『つた』で出来た
自然のブランコや小さな滝壷で出来たプールだってあるんだ。」
「りぃ〜、見てみたい!!自然のブランコやプールが見たいっ!!!」
わたしは、今すぐにそれらが見たくてリュウちゃんの手を引っ張った。
「りぃ〜ちゃん、そんなに引っ張ったら痛いよ(笑)
今すぐは無理だよ。山の中に行かなきゃいけないんだぞ。
今日は、山の中に入ったら暗くなっちゃうから
明日、行こうよ。ね、明日早い時間に行こうよ。」
「うん♪わかった。絶対だよ。絶対連れて行ってね。」
わたしは、リュウちゃんの小指を強引に指きりにした。
「梨沙子?何をニコニコしているの?」
手ごろな大きさに切られたスイカを前にしながら
わたしは、ニコニコしていたらしい。
ママがたて続けに聞いてきた。
「そんなに、スイカが食べたかったの?」
「違うよぉ、ママぁ。
あのね、昨日お花畑で出逢った子とお友達になったの♪」
「あら、もうお友達が出来たの♪」
「うん♪リュウイチくんっていうの。だからリュウちゃん♪」
「男の子なんだ。」
「日焼けしてて真っ黒でぇ・・・歯が真っ白な男の子♪」
昨日、ここに来たばかりの不満だらけの表情と変わって
すぐに友達が出来たことで、何だかママも嬉しそうだった。
水曜日
わたしは、昨日の約束のために早起きをした。
「ママぁ!今日は、お友達のリュウちゃんと山に行ってくるね。」
「梨沙子ぉ!山に行くならスカートはダメよぉ。」
「えぇ〜・・・このスカートかわいいのにぃ。」
結局、わたしはジーンズに履き替えて
サンダルもスニーカーに履き替えた。
午前10時にはあのお花畑にいた。
「リュウ・・・ちゃん?」
どこを見渡してもリュウちゃんの姿が見えなかった。
「グス・・・う・・・リュウちゃんの・・・ウソつき・・・」
そのとき、お花畑にアゲハチョウの群が舞い降りた・・・
「泣き虫さぁん♪」
「あ・・・遅いよぅ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」
わたしは、たまらずリュウちゃんの胸に抱きついた。
「ちょ、ちょっと・・・りぃ〜ちゃん・・・ご、ごめん・・・」
「うわぁああん!!!」
「ホントにごめん・・・ちょっとからかおうと思って・・・」
「ヒドイよぉ〜〜いじめっこぉ〜〜〜」
泣き止まないわたしにリュウちゃんは、
ポケットからあるものを出した。
「りぃ〜ちゃん・・・コレあげるからボクのこと・・・許して・・・」
リュウちゃんの手のひらには、
緑色の初めて見る小さな木の実が2個あった。
「・・・コレ、なぁに?」
「食べてごらん。」
「食べれるの?」
「もちろん!」
1個、勇気を出して食べてみた。
「わぁあああ!!甘酸っぱくて美味しい!!!」
「『コクワの実』っていうんだよ。」
「すごい!!!美味しいの!!!」
「機嫌が治ってよかった♪」
「あ・・・意地悪したことまだ、怒ってるもん。」
わたしは、頬をふくらませた。
「つん♪」
「ぷぅ〜」
リュウちゃんは、わたしのふくらんだ頬を人差し指で突っついた。
口から空気が漏れた。
そのマヌケな音にわたしたちは、爆笑した。
「山に行けば、いっぱい『コクワの実』がなってるんだ。」
「えぇええ!!!いっぱい食べたい!!!」
「あははは。りぃ〜ちゃん、おめめがパチクリしてる♪」
「いやぁ〜〜〜(恥)」
わたしは、お菓子や果物系のことになると
目がパチクリする癖を見抜かれて顔が真っ赤になった。
「そんな表情のときのりぃ〜ちゃんって・・・とても可愛いよ。」
わたしたちは、山に入って行った。
真夏なのに山の中は少しひんやりとして心地よかった。
少し歩いて行くと大きな木や笹薮や竹が生い茂っていた。
「笹の葉で船が作れるの知ってる?」
「えぇぇえええ!!!どうやって作るの?」
「いいかい、葉っぱをこうやって・・・そして、ここを・・・」
「うんうん♪」
そして、ちょっとたって
「ほらっ!出来た!!」
「すごぉい!!!ホントにお船だぁ!!!」
「ちゃんと水に浮くんだよ。」
「ホントにぃ?沈まないのぉ?」
「沈まないさぁ(笑)」
リュウちゃんは、笑って答えた。
リュウちゃんは、わたしにいろんなことを教えてくれた。
「この葉っぱをこうすると笛になるんだよ。」
〜〜♪〜〜♪♪〜〜♪〜♪
「わぁぁぁあああああ!!りぃ〜も作れる??」
「作れるよ。こうやって、吹いてごらん。」
フゥー、フゥー・・・フゥーーーー!!!
「ぶぅー!!」
全然、笛の音がしないことにわたしは、苛立ちふくれた。
「りぃ〜ちゃんって子供だなぁ(笑)」
「まだ、10歳だもん。」
「10歳なの?大人っぽいなぁ。」
「・・・どっちなの?子供っぽいの?大人っぽいの?」
「え・・・あ・・・はははははは(笑)」
「ごまかしてるぅー。リュウちゃんは何歳?」
「ボクは・・・12歳・・・だよ・・・」
「年上だぁ♪お兄ちゃんだね♪」
わたしは、お兄ちゃんが出来たみたいで嬉しかった。
山の中を1時間ほど歩いた。
「そろそろお腹が空いただろ?」
「うん♪空いちゃったぁ。」
「この赤紫っぽい小さなブドウみたいなの食べてごらん。」
「あ、ホントに小さなブドウだぁ♪」
わたしは、パクッっと口に入れた。
「あうっ・・・ちょっと、酸っぱい!」
「りぃ〜ちゃん・・・
それは、まだ緑っぽいから熟してないよ。こっちの食べてみなよ。」
「あ、ちょっと甘い♪」
「これは、『山葡萄』っていうんだよ。」
「へぇ〜・・・リュウちゃん物知りぃ♪」
「山には都会にないものがいっぱいあるんだ。」
わたしは、『うんうん』と頷いた。
そして、少し歩いたところにちょっとした広場が現れた。
「りぃ〜ちゃん、都会にはない自然の遊園地だよ。」
「わぁぁああああああああ!!!!!」
わたしは、一瞬目を疑った。
大きな木の『つた』が絡まり合いブランコになっていたり
ターザンロープのようになっていたり
工夫しだいではいろんな遊び道具になりそうなもので溢れていた。
「すごい!すごいよぉ!!」
わたしは、早速『つた』の絡まったブランコに乗った。
「ん〜、ん〜。」
足をバタつかせてリュウちゃんに押してとアピールした。
「・・・それ、押せって言ってる?」
リュウちゃんは、ゆっくりと背中を押してくれた。
今、この天然の遊園地にはわたしとリュウちゃん、
ふたりだけの貸切状態だった。
「今度は、ターザンしたぁい♪」
わたしは、リュウちゃんに甘えっぱなしだった。
たまに『つた』の棘が手に刺さったりもしたけど
抜いてはまた登ったりぶら下がってして遊び続けた。
「りぃ〜ちゃん、楽しい?」
「うん♪楽しい♪」
しばらくして、リュウちゃんがわたしを呼んだ。
「りぃ〜ちゃん、こっち来てごらん。」
呼ばれた方に行くとそこには今朝、
リュウちゃんがポケットから出してくれた
『コクワの実』がいっぱいなっていた。
「あぁあああ!!!!『ココアの実』!!」
「『コクワの実』!!」
「ねぇ、ねぇ、食べてもいい?」
「いいよ。あまり食べ過ぎるとお腹こわすからほどほどにね。」
「うん♪」
「また、おめめがパチクリしてた(笑)」
「美味しい♪甘酸っぱぁいの♪」
「山の空気がおいしいってなんとなくわかった気がする。」
わたしは、リュウちゃんと背中合わせに座りながら言った。
「そうか・・・自然を気に入ってもらえたみたいだね。」
「東京に帰りたくないなぁ・・・」
わたしの気持ちは、いつのまにか来たときと逆になっていた。
「もう、暗くなるから山を降りよう。」
「うん♪」
しばらく歩いていると山登りで疲れたせいか
わたしの歩くスピードが遅くなってきた。
前を歩くリュウちゃんとの距離が
少しずつ、少しずつ離れていった・・・
・・・・・・
・・・・・・
いつのまにか、わたしはリュウちゃんとはぐれていた・・・
「リュウちゃぁぁあん・・・・・・」
名前を呼んでも返事もなく
わたしは、知らない山の中で
完全にはぐれて迷子になったことを確信した。
「リュウーーーーーーちゃぁぁぁぁああああああん!!!・・・・・・」
わたしは体力が限界になり歩くことすら出来なくなっていた。
辺りは薄暗くなり涼しく感じていた気温も山の中のせいか肌寒くなっていた。
道らしきものもない山の中でわたしに出来ることは
その場にうずくまることだけだった・・・
・
・
・
・
・
・
いつのまにかわたしは山の中で眠ってしまった・・・
寒い・・・
わたしは、夢を見てるのだろうか
何もない暗闇の中で、
ひとりぼっちたたずんでいた。
向こう側に小さな光がある・・・
わたしは、その光に向かって走った。
でも、走っても走ってもその光は近づいて来なかった。
「パパァ・・・ママぁ・・・
うっ・・・うっ・・・グスッ・・・
お家に帰りたい・・・」
・・・りぃ〜・・・ちゃん・・・
・・・りぃ〜ちゃん・・・
「・・・リュウちゃん?リュウちゃんなの?」
いつのまにか、小さい光りが
わたしの周りを飛び回っていた。
意識が朦朧とする中で
その光りは大きくなっていった・・・
わたしは、その光りに包まれ
そして意識を完全に失った。
・
・
・
気がついたらわたしは、
誰かに背負われていた。
その背中は、パパの背中よりも全然大きくなかったが
とても、温かくて優しさに満ちていた。
思わずわたしは、
後ろから背負われたまま
抱きしめた。
「りぃ〜ちゃん、気がついたかい?」
「うん・・・・・・」
わたしの目から涙が一気に溢れ出た。
「リュウちゃんのバカぁ・・・先に行っちゃうなんて・・・
バカぁ、バカぁ・・・うわぁ〜ん」
「ごめん。ごめんよ。
大事な友達を泣かせてしまった。」
「りぃ〜、死ぬかと思ったもん。もう、お家に帰れないと思ったもん。
リュウちゃんにも会えなくなると思ったもん。」
「ごめんね・・・」
リュウちゃんは、ひたすら謝っていた。
しばらくすると
いつものお花畑に着いた。
山の中では、暗かったのに
山から出るとまだ薄暗い程度だった。
「りぃ〜ちゃん、着いたよ」
わたしを降ろそうとするリュウちゃんにわたしは言った。
「やだもん。もうちょっとおぶさってるもん。」
「でも、そろそろお家に帰らないと
お父さん、お母さんが心配するよ。」
「ん〜〜・・・じゃあ、このままお家まで送ってって♪」
「仕方がないなぁ・・・ボクが悪いんだし・・・」
わたしは、リュウちゃんに甘えていた。
「うんとねぇ、そこを右に曲がると
おじいちゃんとおばあちゃんのお家ぃ。」
「よいしょっと・・・りぃ〜ちゃん着いたよ。」
「うん。ありがとう♪・・・えっと・・・」
「ん?どうしたの?」
「えっと・・・」
リュウちゃんが、気になったのかわたしを覗き込んだ。
目が合ってわたしは、思わず視線を反らした。
リュウちゃんを背にしてわたしは、やっと言いたかったことが言えた。
「リュウちゃん・・・りぃ〜のホントのお兄ちゃんだったら良かったのに・・・」
リュウちゃんは、笑いながらわたしの頭をなでてくれた。
「また、明日りぃ〜と遊んでくれる?」
「もちろんだよ。」
そう言って、リュウちゃんはわたしの両手の手のひらに
『コクワの実』と『山葡萄』をくれた。
「梨沙子ぉ?いるのぉ?」
「ママぁ・・・ただいまぁ」
「遅かったじゃない。みんな心配してたわよ。」
「ごめんなさい・・・あのね、お友達のリュウちゃんがいるの」
紹介しようと振り向いたら・・・
リュウちゃんの姿はすでにもうなかった・・・
「あれぇ・・・リュウちゃん、さっきまでここで
りぃ〜とお話してたのにぃ・・・」
「あらぁ?何をいっぱい手に持ってるの?」
「リュウちゃんがくれた『コクワの実』と『山葡萄』。
ママぁ、食べたことある?」
「懐かしいわぁ。ママが子供の頃、
ここの山に採りに行ってよく食べてたもの。」
帰りが遅かったので怒られると思ってたのに
この山の木の実のおかげでわたしは怒られずに済んだ。
木曜日
昨日の疲れからか、今朝は起きるのが遅かった。
時計を見ると10時過ぎ。
「ん〜〜、よく寝たぁ。」
わたしの枕もとには、2個の『コクワの実』があった。
夕べ、家族が『コクワの実』と『山葡萄』で昔話で盛り上がってしまい
慌ててわたしは、この2個だけを持ってきたのだった。
りぃ〜の分とリュウちゃんの分♪
わたしは着替えてお花畑に行った。
お花畑はいつものとおりキレイなお花が咲き乱れていた。
さすがのリュウちゃんも今日はお寝坊さんかな?・・・
そのとき、1羽のアゲハチョウが飛んできた・・・
「ごめん・・・待たせちゃった?」
突然のリュウちゃんの声に驚いて振り向いた。
リュウちゃんの姿を見るとなんだかホッとする・・・
わたしの気持ちに変化が起きてることは
このときは、まだ自分ですら気がついていなかった。
「今日は、小川の上流に行きたい♪」
「いいよ。上流に行けば滝があって滝壷で
泳ぐことも出来るし魚を捕ることも出来るよ。」
「すごぉぉおおい!!りぃ〜もお魚が捕れるかなぁ。」
「こんなに大きいから、りぃ〜ちゃんなら食べられちゃうかもぉ。」
リュウちゃんは、両手をいっぱいに広げて
わたしを追い掛けて来た。
わたしが逃げるといつのまにかお花畑に
群れていたアゲハチョウが一斉に舞った。
わたしたちが、小川に沿って歩いて行くとやがて山の中に入って行った。
「ここは、昨日の山の反対側に当たるんだよ。」
「へぇ〜・・・」
昨日とは違って日当たりがよく明るいところで
光に水が乱反射していてキラキラしていた。
「あ、これ・・・」
わたしは、ブラウスの胸ポケットから
2個の『コクワの実』を取り出した。
「りぃ〜の分と、リュウちゃんの分。」
「じゃあ、ボクも・・・ハイ!」
リュウちゃんの手のひらには赤い木の実があった。
「わぁ・・・これなぁに?」
「山いちご・・・『ラズベリー』っていうんだ。」
「食べていい?」
「いいよ。そのために取って来たんだから。」
わたしは一個頬張った。
「う〜ん♪甘酸っぱい♪」
「山の中にはコンビニに行かなくても
こういうものがいっぱいあるんだ。」
「りぃ〜、山が好きかもぉ♪」
今日は、リュウちゃんの手を離さないんだもん。
小川の流れはさっきとは違い細く水量もなかったが
白波を立てるくらいの激しい勢いに変わっていた。
パシャッ!
小さな魚が水面から跳ねた。
「わっ!魚が跳ねた!!」
東京では見ることの出来ない光景にわたしは興奮した。
「ここで魚を捕まえるときは、こうやって・・・石を組んでいくんだ。
そしたら魚は勝手にこの窪みに入り込んで出られなくなるんだ。」
「へぇ〜・・・道具なんていらないんだね。」
わたしは、窪みから出られなくなっている魚を素手で捕まえてみた。
魚は、暴れてピシャピシャと水をはじきわたしの手から小川へと逃げていった。
「あばばばば!」
「あははは。逃げられた(笑)」
「笑い事じゃないもん。」
暴れた魚のせいで頭から洋服全部が濡れてしまった。
リュウちゃんは、その姿を見てどこからか大きな葉っぱを持ってきた。
「ほら!これで拭いたら乾くの早いよ。」
言われたままに拭いてみた。
「わぁ、ホントだぁ。バスタオルより乾くの早い!」
「もうちょっとで滝に着くよ。ほら!耳を澄ますと音が聞こえないかい?」
わたしは、静かに耳を澄まして全ての音を拾った。
・・・かすかに・・・かすかに『ザー』という音が聞こえた。
10分ほど歩くと景色が一変した。
「わぁああああ!!!」
小さな滝が幾重にも重なり差し込む光で水の羽衣を見ているようだった。
「ここの滝壷は腰ぐらいの深さしかないから、ちょうど天然のプールなんだ。」
「この滝の上からすべれそう♪」
「それ、楽しいよ♪」
ここまで来てわたしは重大なことに気がついた。
「あぁああああ!・・・りぃ〜・・・水着ないよぅ・・・」
「え?・・・」
「でも、滝の上からすべりたいぃぃぃいいいい!!!!」
「で、でも水着がないんだろ?」
「いやぁぁあああああ!!!!」
わたしは、手足をじたばたさせてごろついた。
リュウちゃんは、困った様子でわたしを見ていた。
「あのさ・・・りぃ〜ちゃん・・・
このまえ、『かなづち』って言ってたよね?」
「かなづちでも、すべりたいのぉおおおお!!!!」
「困った子だな・・・」
リュウちゃんは、そう言ってどこからか
さっきの『大きな葉っぱ』を持ってきた。
「・・・これ・・・からだに巻いて水着代わりにするしか・・・」
「きゃぁああああああああ♪」
わたしは、散々リュウちゃんを困らせたのにも関わらず
水着の代わりになるものが出来たことに喜んだ。
この『大きな葉っぱ』をどうやって水着にするか悩んでいた時、
リュウちゃんは、大きな岩の上から上半身裸になって滝壷に飛び込んでいた。
ザッパーーーーーーン!!!!!!
まるで野生児のごとく振舞うリュウちゃんが魅力的だった・・・
わたしは、なんとか2枚の『大きな葉っぱ』を
からだに巻きつけて水着の代わりとした。
「う〜ん・・・ちょっと・・・『せくしー』すぎるかなぁ・・・」
「準備は出来たかい?」
向こうの方からリュウちゃんの声が聞こえた。
「うん♪・・・でも、ちょっとヤバめかなぁ・・・」
リュウちゃんは、滝壷からあがってきてわたしの恰好を見た。
「・・・ごめん・・・ちょっと・・・露出が・・・」
「あ・・・そんなに見られると恥ずいから・・・」
わたしが視線を落としたとき、すぐ傍を野生のリスが走った。
「あ!リスさんだぁ♪」
「ここは、水辺だからいろんな動物がいるんだ。
りぃ〜ちゃん・・・一緒に泳ごうか。」
「うん♪一緒にだよ!りぃ〜泳げないから離さないでね。」
「ホントに深くない!」
「だろう♪水も澄み切っているから底も見えるでしょ?」
「うん♪あぁ!小さな魚も泳いでるぅ!」
「リュウちゃん?」
「ん?」
パシャ!
「うわ!冷てぇ!やったなぁ!!」
「キャァァアア!!」
水の掛け合いなんて何年もしたことがなかった。
「ねぇ、ねぇ、泳ぐから引っ張って。」
「引っ張る?」
「両手をこうやって・・・」
「あぁ、なるほどね。」
「ビート板の代わりか・・・」
「なに?」
「なんでもないよ。りぃ〜ちゃん。」
わたしは、優しくしてくれるリュウちゃんにずっと甘えていた。
「さて、そろそろ帰ろっか。」
「うん♪」
「さっきの傷にこの葉っぱをつけなよ。」
「これはなんの葉っぱ?」
「薬草だよ。切り傷や擦り傷につけるとバンソウコウの代わりになるんだ。」
「へぇ〜・・・」
わたしは、滝のウォータースライダーで肘に擦り傷を作っていた。
「着替えたら呼んでよ。向こうにいるから。」
「うん。覗かないでね。」
「の、覗かないってば。」
「・・・絶対においてかないでねぇ!」
「大丈夫だよ。」
わたしは、夜中に熱を出してしまった。
からだを冷やしたせいだと思う・・・
金曜日
「梨沙子ぉ。熱測ったぁ?」
「うん。・・・6度8分ぅ・・・」
朝になって夕べの熱も下がってきていた。
「今日は、外出はダメよぉ。」
「え〜〜〜・・・熱が下がったらいいでしょう?」
「だぁ〜〜〜め!!」
「ブーーーーーーーー!!!」
あさってになったら、東京に帰るんだぁ・・・
また蒸し暑くてどこに行くにもお金がかかって
どこにでも人がいっぱいいて・・・
ここみたいに静かで落ち着くところはないなぁ・・・
・・・リュウちゃんと離れたくない・・・
・・・・・・ずっと一緒にいたいなぁ・・・・・・
昼寝をしていたこともあって夕方になっていた。
「あぁぁぁあああああ!!!寝すぎたぁぁああああ!!!!」
わたしは、とりあえず熱を測ってみた。
・・・6度3分・・・
「ママぁ!!!熱が下がったぁ!!!」
「どうしても出掛けたいって顔してるわね。」
わたしは、『うんうん』と頷いた。
わたしが出掛けたい理由をなんとなく理解していたママが
「仕方がないわね。」と許してくれた。
わたしは、からだを冷やさないように
薄いピンクのカーディガンをまとって
いつものお花畑に小走りで向かった。
薄暗くなったお花畑にアゲハチョウはもういなかった。
リュウちゃんはもう帰っちゃったのかなぁ・・・
辺りを見渡しても人の姿は見えなかった。
わたしは、熱を出して寝込んだ自分を憎んだ。
田舎の空は、都会と違って薄明かりの空でも星がキラキラと瞬いていた。
なんか・・・手を伸ばせば捕まえそうな感じ・・・
「今日は・・・見せたいものがある・・・」
その声にわたしは、慌てて振り向いた。
「リュ、リュウちゃん!ごめんね。りぃ〜ね、あのね・・・」
リュウちゃんは、黙って頭を撫でてくれた。
そしてそのまま抱きしめてくれた。
このまま時間が止まってくれたらいいのに・・・
『見せたいものがあるんだ・・・』
出逢ってからずっとわたしの願望を叶えてくれていたリュウちゃんが
初めて『見せたい』と意思表示をしてきた。
わたしは、抱きしめられた余韻に浸りながら
これから起こりうる出来事にワクワクしていた。
わたしたちは、ちょっとした丘にやってきた。
星はさっきよりも強く瞬いていて今にも降り出しそうなくらいだった。
「東京よりも星の数が多い・・・」
「都会は空気が汚れているから見えないだけだよ・・・
ホントは、どこでも同じ空が見えているはずなんだ・・・」
「ふぅ〜ん・・・・・・なんかねぇ、宝石みたい・・・」
丘に上がるとホントに背伸びをすれば星に手が届きそうな感じだった。
「りぃ〜ちゃん・・・」
「はぁい♪」
「ボクがいいよと言うまで・・・目を閉じていてよ・・・」
そして、わたしは言われるがままに目を閉じた・・・
4〜5分が過ぎていただろうか・・・
「りぃ〜ちゃん♪もう目を開けていいよ♪」
「わぁぁぁぁあああああああっ!!!!!」
目を開けると・・・
星が舞い降りたかのように丘一面がいくつもの小さな光に包まれていた。
「えぇぇぇ!!!こ、これ、なぁに??いったい、どうしたの???
星が・・・ホントに・・・降ってきちゃった・・・」
「そんなに驚くとは思わなかった(笑)これは、『蛍』だよ。」
「『ほたるぅ』!?」
夜空に流れる『天の川』に飛び回る星たちの群れと
丘に集まってきた『蛍』の群れが
まるでわたしたちを包むかのように静かに光り輝いていた・・・
ディズニーランドの光のパレードと比べると規模が小さいが
夜空の星たちと『蛍』の放つ光は、
優しさを帯びていて・・・わたしたちを祝福してくれているようだった。
「りぃ〜ちゃん・・・話さなきゃならないことがある・・・」
「なぁに?」
わたしは幸せの絶頂にいた。
・・・リュウちゃんの話を聞くまでは・・・
リュウちゃんが、静かに話し始めた。
「・・・今日で、りぃ〜ちゃんとお別れなんだ・・・」
一瞬、時間とともに心臓も止まったかと思った。
呼吸が苦しくなった。めまいもした。
光に優しく包まれていたはずなのに目の前が暗くなった・・・
「な、なんで?どういうことなの?『お別れ』って・・・」
「・・・ボクは、もう行かなくちゃ・・・」
「行くってどこへ行くの?」
「・・・友達のいる遠いところ・・・」
「『遠いところ』って、引っ越すの?」
「・・・りぃ〜ちゃんは、可愛いね(笑)・・・
残念だけど・・・引越しじゃないんだ・・・もっと、
もっと遠いところなんだ・・・」
「りぃ〜・・・リュウちゃんの言ってることがわかんないよ・・・
「・・・りぃ〜ちゃん・・・想い出をありがとう・・・」
「やだ・・・やだよぉ・・・リュウちゃん・・・何言ってるかわかんない・・・」
「・・・ボクには、もうそろそろ迎えがくる・・・」
そう言って、リュウちゃんはわたしの頭をいつの日かの時と同じように撫でた。
「りぃ〜も一緒に連れて行って!!!」
わたしは、リュウちゃんの胸に抱きついた。
「・・・それは出来ない。
りぃ〜ちゃんには、お父さんもお母さんも友達もいる。
ちゃんと待ってる人たちがいるんだ・・・」
「いやぁぁあああ!!おいて行かないで!!!!!」
「・・・りぃ〜ちゃん・・・涙を拭いて・・・行きづらくなるよ・・・」
「やだもん・・・やだもん・・・」
リュウちゃんは優しくわたしを抱きしめた。
「・・・この丘の景色をりぃ〜ちゃんにあげたかった・・・
この丘から見る星は、永遠にその輝きを失わない・・・
そして、集まる蛍の放つ光は決してその優しさを失わない・・・
りぃ〜ちゃん・・・逢えてよかった・・・」
「どうして・・・もう逢えないっていう・・・言い方・・・するの?」
「・・・りぃ〜ちゃんには、戻るべきところがあるんだよ・・・」
「一緒に・・・ヒック・・・一緒に行くもん・・・」
「・・・困った子だな・・・」
「好きだもん。リュウちゃんのことが好きになったんだもん。」
「・・・ありがとう・・・ボクも好きだよ・・・」
リュウちゃんがわたしを強く抱きしめると同時に
辺りが強い光に包まれた・・・
「・・・どうやら、もう迎えが来たようだ・・・」
「ダメ・・・行かないで・・・やだぁぁああああああ!!!!!!!」
「・・・りぃ〜ちゃん・・・この・・・この指輪を・・・」
リュウちゃんは、そう言って右手を『天の川』が流れる夜空にかざした。
かざした右手に星の光が集まった・・・
握られた右手がわたしの目の前に差し出された。
開いた手の中には金色に輝く指輪があった。
「・・・この、指輪を・・・ボクだと思って大事にして欲しい・・・」
そう言いながら、リュウちゃんはチョーカーに指輪を通し
わたしの右手に握らせた。
「ホントにお別れなの?」
「・・・そうだよ・・・何かつらいことがあったら
その指輪を見てボクを思い出して欲しい・・・きっと・・・
きっと力になるから・・・ボクはいつでも
りぃ〜ちゃんの傍にいるからね・・・」
「待って!!!」
わたしは、最後にもう一度抱きついた。
「・・・りぃ〜ちゃん・・・ダメだよ・・・行くのがつらくなる・・・」
わたしは、リュウちゃんの声など無視して抱きついた。
最期の、ホントに最期のリュウちゃんの抱きしめる感触だった・・・
「・・・もう・・・ボク・・・行かなきゃ・・・」
リュウちゃんは立ち上がった。
「・・・想い出をありがとう・・・」
「リュウちゃん!!!」
「・・・りぃ〜ちゃんは、笑顔でいるのが一番素敵だよ。
だから、もう泣かないで・・・」
「うん!・・・でも・・・今は・・・泣くことしか出来ないよ・・・」
「・・・さようなら・・・ボクの大切なひと・・・」
そう言うとリュウちゃんのからだは光に包まれて消えていった・・・
リュウーーーーーちゃぁぁぁあああああああああああん!!!!!!!!!!
わたしが気がつくとベッドの上だった。
ここは、どこ?
知らない人がわたしを覗き込んでいる・・・
あれ?・・・パパ・・・ママもいる・・・
からだが・・・チューブでつながれてる・・・
「梨沙子ぉ!!!!」
「え?・・・ママぁ・・・」
「意識が回復したぞ!!!!」
「先生!!!10歳女児の意識が回復しました!!!」
「・・・りぃ〜・・・どうしちゃったの?わかんない・・・」
「梨沙子!!!よかったぁ・・・意識が回復したのね。」
「なにも覚えていないのか?梨沙子。
学校へ行く途中でダンプが突っ込んできて・・・
・・・意識不明の重態になってたんだよ。」
わたしは、そのまま1週間も意識が戻らずICUにいたらしい。
わたしは、夢を見ていたのだろうか・・・
『コクワの実』も木の『つた』で出来たブランコも
滝で出来たウォータースライダーもなにもなかった。
ママはそんな田舎の話なんて知らないと言った。
当然リュウちゃんの存在も・・・
でも、わたしの記憶の中にはあのキレイなお花畑と
たくさんのアゲハチョウが鮮明に残っていた。
リュウちゃんだって確かにいたんだもん・・・
だって・・・わたしの右手には
あのとき、リュウちゃんがチョーカーに通した指輪が
しっかりと握られていたから・・・
〜おわり〜