【強くなりたいとゆいたい】
強くなりたい―――――――――
河川敷の鉄橋の下、頭だけを橋桁にもたれさせ、俺は大の字になっていた
不良中学生3人は無茶だったか?いや、1人は完全にKO、残る2人もそれなりにダメージを与えた
もう少し強ければ勝てた
強くなるために始めた空手だが、ケンカに空手を使ったのがバレて破門になった
破門にさらなければ勝てただろうと思った
だいたい空手なんて、ケンカ以外に何の役に立つと言うのだろう?
「ぺっ」吐き捨てた唾には血が混じっている
口の中が切れたんだな
その時、誰かがこっちにやって来た
「またケンカ負けたの?クラス一のチビのくせにケンカ好きなんだから!」
クラス一の、いや、学校一の大女、幼馴染の須藤が現れた
こいつは俺がケンカをすると決まって終わった頃、というか俺が伸ばされた頃、こうやって現れる
「ほら、1人で立てる?」
差し出された右手を払いのけ、俺は1人で立ちあがる
「もう!なんでいつもケンカするの?」
「うるせえな!どっかの巨大女より強くなりてえんだよ!」
そう言った瞬間、須藤の右ストレートが俺の顔面に飛んでくる
思わず目を閉じる
風圧だけを感じた直後、目を開くと目の前に拳があった
寸止め
「私に勝とうなんて10年早いぞ、チ・ビ!」
「おまえに・・・勝ちたいんじゃないんだ・・・・俺は・・・・・」
その先は言うのをやめた
黙って家に向かって歩き始めた
ダメージが残っているのでゆっくり歩く俺の後ろを、須藤はいつものようについてきた 体育館の裏
俺はまた大の時になっている
雨が降ってきた
火照った体に冷たい雨粒が心地よい
相手は隣のクラスの奴、同じ学年なら負けないと思ったけど、さすがに7人相手じゃ多勢に無勢か
そろそろあいつが来る頃だ、と思ったまさにその時
「もう!学校でケンカするなんてバカじゃないの?清水委員長や藤本先生に見つかったら怒られるよ」
「うるせえよ」
自力で立とうとするが、足元がふらつく
無言で差し出された須藤の右手を掴んでやっと立ちあがった
「あんたケンカばっかりして飽きないの?バカだね・・・」
「だから俺はおまえより強くなりたいんだよ!そのために強い奴と戦ってるんだよ!」
「もう、男の子の考えることってわかんない!私に勝って自慢になるの!?」
「おまえに勝ちたいんじゃないんだよ!おまえを守りたいんだよ!」
とうとう隠していた本心を言ってしまった
その瞬間、強烈な須藤の張り手が俺の頬を打つ
打たれた頬より心が痛い
「こんなの本当の強さじゃないよ!こんなことで守ってもらっても私嬉しくないよ!」
ついカッとなった俺は、反射的に須藤の顔面めがけて右ストレートを放つ
やばい!殴っちゃダメだ!何とか寸止めできた
須藤は目を閉じることなく、大きな瞳で目の前の俺の拳を睨みつけていた
俺が拳を引っ込めると、須藤の視線は俺の顔へと向かう
無言で睨み合う俺と須藤
実際には1分くらいだろうが、俺には数時間にも感じられる時間が流れた
「本当の・・・強さ・・・・・・?」
須藤は無言で背を向け、そのまま立ち去ってしまった
雨に濡れた白いブラウスの背中に、ブラジャーのラインがくっきりと浮かび上がっていた
夢を見た
まだ須藤が俺より小さかった頃・・・・いや、俺と同じくらいの身長だった頃、4歳の頃だ
須藤が「ラビちゃん」と名づけて大切にしていた小汚いウサギのぬいぐるみを、
近所の小学生のワルガキ4人が奪い取り、仲間にパスをしている
「まーちゃんのレビちゃん返してよー!」
須藤は泣きながら宙を舞うラビちゃんを追って、右へ左へとトコトコトコトコ走る
「やめろ!」
そう言うと、12歳の俺はワルガキの群れ中に割って入り、彼らを殴り飛ばし、ラビちゃんを取り返した
「はい」
取り返したラビちゃんを4歳の須藤に手渡す
「こんなの・・・・・本当の強さじゃないよ!」
ラビちゃんを受け取った12歳の須藤は、目に大粒の涙を浮かべて答えた
そこで目が覚めた
また・・・・・本当の強さか・・・・
俺が強さに拘るようになったきっかけがあの事件だった
実際はあの時、4歳の俺は、小学生が怖くて震えているだけだった
そしてワルガキの1人がキャッチし損ねたラビちゃんはドブ川に落ちた
ドブ川に駆け寄った俺と須藤の目の前で、ラビちゃんはゆっくりゆっくり流れながら沈んでいった
泣き崩れた須藤をおぶっての帰り道、俺は自分の弱さ、情けなさを呪い、強くなりたいと思った
今日は日曜で特に予定は無い
いつものようにケンカの相手を求めて外をブラブラと歩いていた
本当の強さって一体なんだろう?
そう思って歩いていると、自然と破門になった空手道場に足が向かっていた
空手道場には藤本先生がいた
道着を着た藤本先生は、1人で型を練習していたが、俺に気付くと手を休めた
「おっ!破門小僧、何の用だ?道場破りか?とりあえず入れ入れ!父さんは今日いないから」
藤本先生は師範の一人娘である
学校でのクールなイメージと違い、道場では優しくて頼れるお姉さんタイプだ、いや、お兄さんタイプか?
「なあ、先生、本当の強さって何だ?相手が誰だろうと何人だろうとぶちのめせることじゃないのか?」
学校の藤本先生には相談できないようなことも、道場の美貴ねーちゃんなら相談できる
「本当の強さか、おまえ成長したなあ・・・・・・・でもな、こればっかりはな、自分で気付かなきゃならない、誰かに教わるものじゃないんだ」
「え?なんだよそれ?もったいぶるなよ!」
「もったいぶっているんじゃないよ、誰かに聞いても意味無いんだ、自分で気付かないと・・・・・」
そう言うと藤本先生、いや、美貴ねーちゃんは、俺の頭を撫でながらこう言った
「でもヒントくらいはあげられるかな」
「ヒント?」
「そう、まずはね、殴られた相手の痛みを考え、そして自分のことを殴った相手の痛みを考えること」
「俺のことを殴った相手・・・の痛み?」
「そう、それからね、相手が起きあがれないように倒すことは強さじゃない、相手を恐れる弱さだ」
「なんだそれ?よくわかんね」
「今はわかんなくてもね、本当に強くなりたいと思いつづければね、そのうちわかるよ」
騙されたような気もするが、微かな光が差し込んだような気がした
いちおうの礼を言って立ち去る俺に美貴ねーちゃんは
「本当の強さがわかったら道場に戻って来いよ!あんたならもっと強くなれるぞ!」
と声をかけてくれた
ケンカの相手ではない、別の何かを求めて町に出た
見なれた女の子2人、徳永と石村が通行人を掻き分け走っている
俺に気付いた2人はこっちに向かってきた
「ねえ、茉麻ちゃんが大変なの!そぐに来て!」
石村に案内されて裏通りの暗い路地に向かう
徳永は引き続き警官を探すらしい
須藤は実際の年齢よりかなり上に見られることが多く、よくナンパされたり水商売にスカウトされたりする
今度もガラの悪い高校生グループにナンパされ、断ったら相手がキレて・・・・ということらしい
現場についた
相手は4人、この前の中学生より強そうだ
「おまえら須藤から離れろ!」
4人はこっちを見る
「なんだこのチビ?泣かすぞ!」
一番近くにいた奴が折れに殴りかかる
これは寸止めだ、気配でわかる
その時、藤本先生の言っていた「殴った方の痛み」という言葉が頭に浮かんだ
わざと1歩前に出て、顔面で右ストレートを受け止める
鼻血が垂れるが、不思議と痛みは感じない
「いいからおまえら須藤から離れろ」
予想外の俺の行為にあっけに取られている相手を睨みつけながら言い放つ
一瞬相手のとまどいの表情に恐怖が混じったような気がした
「な、なんだこのガキ?おい、おまえら、やっちまうぞ!」
残り3人も俺の方に向かってくる
ああ、こいつら、弱いから俺を倒そうとしているんだな
そう思ったら自分が本当に強くなったような気がした
4人はよってたかって俺を殴る蹴る
いわゆる袋叩き・・・・・だが痛みも恐怖も感じない
「おまえら・・・・・須藤から離れろ・・・・・」
痛みは感じないが、ダメージは着実に蓄積しているのだろう、足元がフラつく
「このガキ、いいかげんにしろよ!」
1人がナイフを取り出す
さすがにこの状況でナイフ・・・・・・・これはもうダメだな
「本当の強さ」に近付けた満足感と、ちょっとした後悔を感じつつ、そばで立ち尽くす須藤に「逃げろ」と合図を送る
「須藤、逃げろ・・・・・・」
何度合図を送っても須藤は逃げず、俺に不安そうな視線を送りつづける
もう最悪だ、せmsて須藤だけでも何とかして逃がさないと・・・・・・そう思ったとき
「おまわりさーん!こっちですー!急いで急いで!」
徳永の声が近づいてきた
不良高校生は慌てて荷物を持つと一目散に逃げ出した
俺も逃げた方がいいかな・・・・・・そう思ったとき、今まで感じなかった痛み全身に走った
そしてその場に崩れ落ちた
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
須藤が駆け寄る
「ああ、たぶん大丈夫・・・・・・・・かな?」
そこに石村と徳永がやって来た
「千奈ちゃん、舞波ちゃん、おまわりさんは?」
「いないよ」
徳永は平然と答える
「見つからなかったからね、千奈美ちゃんと相談してウソついたの」
2人の機転に救われたわけだ
もっと早くやってくれよ、と思いながらも俺と須藤は礼を言う
「ねえ、立てる?」
須藤が差し出す右手につかまり、立ちあがってみたもののすぐ崩れ落ちてしまった
「なあ、俺ってカッコわるいよな」
結局立てなかった俺は、須藤におぶってもらってる
「そんなことないよ。すごくカッコよかったってゆいたいな」
「そうk、カッコよかったか・・・・・・・・俺、強かった?」
「うん、ちょっとはね」
「ちょっとだけか・・・・・・・・まだまだ先は長いな」
「ねえ、また空手始めたら?」
「うん・・・・・・・・・・そうする」
あの時とは逆に俺がおぶってもらってる
あの時とは逆に・・・・・・悲しくない
歩道橋を渡るときの揺れで、右腕が柔らかいものに触れた
「なあ、茉麻・・・・・・・おまえさあ・・・・・・・・・」
「なーに?」
「オッパイ大きいね」
「バカ!」
その場に落とされ、胸ぐら捕まれて張り手を食らった
今日一番痛かった
おしまい