【夏休み】 玉田編
ここは体育館。外からアブラゼミの合唱が聞こえる。
僕は寝ぼけ眼で立っていた。
「…という訳で、夏休みに入っても…」
今日は一学期最後の日、終業式。校長先生の長い長いお話の真っ最中だ。
「そろそろ終わりかな?」後ろから友理奈が小さな声で僕に話しかけてきた。
同じクラスの熊井友理奈だ。彼女は僕より少しだけ背が高い。
「そうだな、『という訳で』も言ったし」
『という訳で』が終わりの合図なのだ。
「ねっあと3分ぐらいだよね」
「う〜ん」
「夏休みどっか行く?」
「別に」
「プールとか行きたくない?」
「肝試しとかもな」
「ええ〜。下心丸出し〜」
「なんでだよ!ただ普通にしたいだけだよ」
「嘘!どうせ女の子に抱きつこうとかそんな事考えてるんでしょ」
「違いますから」
「…まあいーや。そんで今度さ」
「お前等二人だけだぞ。うるさいのは」押し殺した声で担任の先生が僕達を叱った。
「は〜い」先生が遠くに行くのを見計らってから、
「お前が話しかけてきたせいだぞ」「なんでよ、あんたがあんな大きな声で話したからでしょ」
小さな声でこぜりあっていた。すると、
「以上を持ちまして、校長先生のお話を終わります。礼!」
やっと終わったようだ。あちこちから話し声が聞こえてくる。
「静かに!」マイクがキーンと鳴った。
体育館はすぐ静まりかえる。
「やっぱ愛ちゃんみたいなできる女が一番だよな〜。どっかの抜けてる人と違って」
僕は友理奈を見ながらボソッとつぶやいた。
愛ちゃんとは、これまた同じクラスの村上愛の事で、彼女は生徒会長の進行係を勤めている。
だから校長の話をしめるのはいつも愛ちゃんだった。今もマイクの前に立っている。
「どーゆー意味よー?」バシッと友理奈が僕の頭を叩いた。
「痛てーなー。どーゆー意味も何もそーゆー意味だよ」
「さいあく〜」僕の頭を小突きながら言った。
「おい○○!早く教室行こーぜ」そう言って僕を引っ張ったのは玉田圭司だった。
玉田は昔からの付き合いで親友だ。でも最近友理奈の事が気になるらしく、僕が彼女とよく話しているのが気に食わないそうだ。
だから少しでも僕と友理奈が話しているとすぐ割って入ってくる。
「バ〜カ」引っ張られながら僕は友理奈に向かって口パクをした。
「ば〜か」友理奈も同じように口パクで返した。
「これから通信簿を渡しま〜す。一番の人から貰いに来〜い」
教室に戻るとすぐに通信簿が配られ始めた。出席番号4の僕は早々と貰い、自分の席に戻った。成績は…予想通りだった。
「どうよ?」そう後ろから覗き込んできたのは玉田だった。
「うっせーよ。てか見せないし」
「何でそんな事言うんですかね〜」
玉田は頭が良いから、こういう時は結構嫌味だ。
「ね〜見せてくれれば良いのにね〜」
そう言って入ってきたのは、友理奈と千奈美だった。
千奈美とは、徳永千奈美の事で友理奈とはとても仲が良い。
「う、うん!そうだね。ほら○○。見せなさい」
突然友理奈が出てきて、玉田は動揺しているようだった。
「玉田!おい玉田早く来い!」先生の大きな声が聞こえる。
「やべ!もう俺か!」玉田は走って取りに行った。
玉田は先生に褒められているようだ。きっと良かったな…
「えい!」
千奈美が僕の通信簿を取った。
「どれどれ〜」
「おい!やめろよ!」
「まあまあ」友理奈が僕を押さえつける。
「おい、ちょっと…」友理奈はほとんど僕を抱きしめている状態だった。
通信簿の事より友理奈の体温の方が恥かしく僕は慌てて友理奈を引き剥がした。
一方で千奈美は、逃げるように遠くに行って通信簿を開いていた。
「あらら。こりゃひどい」
千奈美は呆れた顔で戻ってきて、友理奈に通信簿を渡す。もう抵抗する気も失せていた。
「うわ〜『大変良い』体育だけじゃん」
友理奈は嫌ーな笑顔で僕に返した。
「やあ○○君、僕にも見せてよ」
玉田が戻ってきた。
「お前はどうだったんだよ」
「俺?ほら」
見せられた通信簿はほとんどが『大変良い』だった。国語だけ『もう少し』だったのが気になった。
「玉田君すご〜い!」友理奈が褒めた。
「だ、だろ?で、○○は〜」いつの間にか玉田は僕の通信簿を持っていた。
「ほうほう。まあ良いんじゃない?」
「もうほっといてくれよ…」僕は机にうずくまった。
「まあ、元気だしなよ」千奈美がポンと肩を叩いた。
「そういうのが一番傷つくんですけど」
「ごめんごめん」さっきから千奈美は肩を叩きっぱなしだ
「あ、そろそろあたしだ」
友理奈が席を離れた。
「また後でね」千奈美も自分の席の戻っていった。
また、僕と玉田の二人になった。
「やっぱ友理奈ちゃん可愛いよな〜」玉田は最近そればっかりだ。
「告ってみれば?夏休みなんだし」実際、無理では無いと思う。玉田は成績は勿論の事、顔もそこそこ良い。
「え?ほんとにそうした方が良い?どうしよう?」
「した方が良いって。男だろ?」ちょっと面白そうだったから、後押しをした。玉田はごくりと息を飲んだ。
「う〜ん…友理奈さん好きです!…いや〜違うよな〜…」
ブツブツ言いながら、席に戻っていく玉田を尻目に、
「友理奈ねぇ…」
僕は改めて友理奈について考えてみた。
友理奈とは小3の時から同じクラスだ。当時から背が高く、友理奈は僕を弟のように接してきた。
昔は自黒で活発だった友理奈は男女などと言われていたが、最近になって急に可愛くなってきた気がする。
そのせいか玉田を始め、友理奈が好きな奴は多いそうだ。
友理奈の方に目をやると、千奈美達女子グループで固まって何か話している。
うーん可愛いかも。でもやっぱり…教卓では愛ちゃんが通信簿を返してもらっていた。
「すごーい!」
愛ちゃんの通信簿を見た女子達の歓声が聞こえる。愛ちゃんははにかんだ笑顔で自分の席に座った。
なんか寂しそうな顔だな…
そう思いながら愛ちゃんの顔をじっと見ていると、ふと彼女がこっちを向いた。
がっちりと目が合ってしまい、目をそらすのも何か恥ずかしかった。
「○○!ちょっとこっち来て!」
突然友理奈と千奈美が僕を呼んで、手招きをしている。もう愛ちゃんは前を向いていた。
「何?」
友理奈の席まで来る途中、玉田の視線が痛かった。今も背中越しに睨まれている気がする。
「いやさ、明日から夏休みでしょ?」友理奈がバッグを探りながら言う。
「そうだね」
「夏休みといえば?」
「えっ?」
「ほら、さっき話したじゃん」
「肝試し?」
「プール!」
「ああプールね」
「まあだから明後日一緒に行かない?っていう話なんだけどさ」横で見ていた千奈美が言った。
「じゃ〜ん。プールの無料チケット〜」友理奈がバッグからチケットを取り出した。
「四枚ありま〜す」千奈美が机に広げてみせた。
「おお!俺も行っていいの?」プールは普通に行きたかったし、タダなら行かない手は無い。
「このプールねぇ、色々あってかなり面白いんだよね?友理奈?」
「らしいよぉ」
「らしいよって…友理奈行った事あるんじゃないの?」
「まあ泳げればいいよ。俺は」
「あたし泳げないもん。ビーチボールとかがしたいの!」そう、友理奈はカナヅチなんだ。
「まあ私と友理奈と、○○。あともう一人誘ってよ」
「男?」
「そりゃねえ」
男とくればあいつを誘ってやるしか無い。
「玉田!」
「は、はい!行きます!」玉田は素っ頓狂な声を上げた。やっぱり僕達の話を盗み聞きしていたんだろう。
「あのね、今あたし達でプールに行こうって話をね…」
友理奈がチケットを配りながら説明を始めた。
「うん、うん」玉田は嬉しそうな顔で聞いている。
「じゃあ明後日ね!」友理奈達は先に教室を出て行った。
僕と玉田は帰り道の商店街を歩いていた。
「ふふ〜ん♪」
「お前、嬉しそうだなぁ」鼻歌を歌っている玉田を見ながら行った。
「分かる?」
「分かるよ」
「そんな事よりさ、告白の事なんだけど」
「おー。いつやるか決めた?」
「いやー、それがさぁ…」
こうして、夏休みが始まった。
「…それでは、今から明日のプールの作戦会議を行いますっ」
「わー」やる気満々の玉田を見ながら僕はパチパチとやる気無さげに拍手した。
友理奈達とのプールを明日に控え、玉田が作戦会議をしようと言ってきた。開催場所は僕の部屋だ。
時計は1時を指している。
「えっと、ではこれが例のプールのパンフレットでございます」玉田が床に冊子をぼんと置く。
「うわっ一体何冊持ってきてんだよ?」
「何言ってんだ。俺用、お前用、千奈美ちゃん用、俺の非常用、お前の非常用、千奈美ちゃんの非常用、そんでこれが友理奈ちゃん用」
「あっそう…」
玉田は8冊も同じ物を持ってきていたのだ。友理奈の分だけファイルに入れられている。
「こんなにたくさんどこで見つけてきたの?」
「さっき行ってきた」
「行ってきたって…ここに!?」僕はパンフレットを指差した。
「そうだよ。こっから30分ぐらいかな。チャリでね」
道理でこいつこんなに汗かいてる訳だ…
「実際に行ってみた感想としては…」玉田はお構いなしといった風に話し始めた。
玉田とパンフレットの情報によると、
今回僕達が行くのは屋内と屋外が両方ある大きなプール施設で、レストランや銭湯もあるらしい。
玉田曰く、二人乗りの浮き輪で滑るウォータースライダーと飛び降り用のプールが今回の作戦のミソだとか。
「とりあえずウォータースライダーには俺と友理奈ちゃんで乗るだろ。そんで俺が一番高いところから飛び降りて見せると。
そうすれば友理奈ちゃんもきっと『玉田君ってステキ!』みたいな感じになると思うんだけど…どうかな?」
「よく分かんないけどいいんじゃない?」僕はパンフレットのアトラクション案内を見ながら答えた。
「○○は俺を応援してくれるんだよな?」玉田が真剣な顔で聞いてくる。
「もちろんだよ。お前も俺と愛ちゃんの事応援してくれよ?」
「え?う〜ん愛ちゃんはお前には雲の上の人だからなぁ…」
「いや、まあそうなんだけどさ…」本当にそう思う。愛ちゃんとはほとんど話した事が無い。
「真に受けんなよ!お互い頑張ろうぜ」
僕達はニヤつきながら握手した。これが男の友情というものか。
玉田は燃えているし、この『波のプール』も高さ2mって書いてあるし、あと愛ちゃん…今年の夏休みは面白くなりそうだ。
でもなんか胸に引っかかるものがあるような気もした…
そして約束の日。日差しが強く、晴天だ。
僕と玉田は待ち合わせの駅にいた。
「ちょっと早かったかな?」コーラを飲みながら玉田が言った。
「うん。あ、でもあいつら来たぞ」
千奈美が走ってこっちに向かってくる。友理奈はその後ろをニコニコしながら歩いてきた。
「おーい待ったぁー?」友理奈が大声で言った。
「おい友理奈なに持ってきてんだよー?」僕も大きな声で返した。
友理奈は二人は入るであろう大きな浮き輪を体に通してきたのだ。
「だってあたし泳げないって言ったでしょ?それにウォータースライダーもあるんだって!」友理奈は手に何か冊子を持っている。
「あれ?何で知ってるの?」玉田が怪訝そうに聞いた。
「だってほら、これ」
案の定、友理奈が手に持っていた物は玉田が昨日自転車で30分かけて持ってきたパンフレットと同じ物だった。
「あちゃー…」僕は小声で玉田を小突いた。
「そんな事よりそっちはなんか遊べるもの持ってきてないの?」
千奈美はバッグから膨らます前のビーチボールを取り出してみせた。
「ごめんなにも持ってきてないや…」玉田は申し訳なさそうに言った。
こんな事なら作戦会議なんかしないでそういうのを調達すればよかったのに…
「ほんと何にも考えてくれないんだから…ま、いいから行こーよ!」
千奈美が玉田を引っ張る。
「ほらあたし達も行こ?」
小走りで前を行く玉田と千奈美を見ながら、僕達も歩き出した。
「ここかぁー」玉田が言った。
もう昨日の事は無かった事になったようだ。
何はともあれ目的の場所に着き、僕達は更衣室へと向かった。
「ちょっとトラブルもあったけど、昨日の作戦は忘れてないよな?」
パンツを脱ぎながら玉田が言う。
「分かってるよ、でもさあ俺と千奈美はどうすればいいの?ていうか千奈美にこの事言った方がいいんじゃないの?」
「駄目だよ。友理奈ちゃんに言っちゃいそうだろ」
「千奈美はそんな奴じゃないと思うんだけどなぁ」
「いや、千奈美って実は俺の事あんまり好きじゃないような気がするんだよなぁ…」
「なんで?そんな事無いよ」
「だってあいつ俺が何をしても文句を言うような…」
言われてみれば、玉田が授業中先生に当てられて当然の様に答えを言うと千奈美が必ず「こんなの簡単ですから」、
もし間違うと「こんな簡単なのに」と言っている気がする。その割には千奈美本人が当たるとすぐ玉田に聞くクセに。
そういえばこの間、玉田が体育委員をやりたいと言った時も千奈美は「やだぁ、あたしもやりたいのに」とみんなの前で言って
玉田を素で凹ませてしまった事もあった。結局二人とも体育委員にはなったけど。
「う〜ん…それってさあ…」
「よし!行こうぜ」もう、玉田は新品のハイビスカス柄の海パンをなびかせ更衣室を出ようとしていた。
「お前の事好きなんじゃ…」玉田に僕の声は届いていないようだった。
ロビーにはタオルを羽織った友理奈と千奈美が待っていた。
「なんで男のクセにあたし達より着替えるのが遅いの〜」
そう言いながら友理奈がこっちに向かってビーチボールを投げた。
「こんな所で投げるなよ…ん?」ビーチボールには空気が十分に入っていなかった。
「おいこれ空気が…」
「女の子だから出来ないの!やっといてよ」千奈美が言った。
「しょーがねーなー…はいよ」空気を入れて友理奈に投げ返す。
「さんきゅー。うわーパンパン!」友理奈はボールを落としてしまった。ボールは千奈美の足元に転がる。
千奈美はそのボールを玉田の所へ蹴り上げた。
「ほら玉田!上手いとこ見せてよ!」
「ちょ、ちょっと…」焦りながらも玉田は上手くリフティングする。
「すごーい!もっと!」友理奈は拍手をしながら玉田に言った。
「え!?よし見てろよー」そう言いながら玉田はヒールリフトを決めようとした。
しかし見事に失敗しボールはあらぬ方向に行ってしまう。
「やべっ」玉田が走って玉を取りに行く間、友理奈はくすくすと笑っていた。
「出来もしないのに調子に乗んないの!」戻ってくる玉田に千奈美が言った。
「ほら〜」と言った顔で玉田がちらっと僕を見た。わざと目をそらす。
ふと、思いついた。
そういえばボールって最初空気入ってなかったよな?
じゃあ途中まではあいつ等が…間接キス?
友理奈・千奈美どっちだ?
モヤモヤと考えていると、
「おい行くぞ?」玉田が不思議そうな顔で僕に言った。
「あ…はいはい」
まあ、今は玉田の作戦の事の方が重要だな…
ロビーを出て、まずは屋内プールへと向かった
「うわぁやっぱ混んでるねー」千奈美が言った。
「何からいく?」僕はボールを弾ませながら言う。
「まずはウォータースライダーでしょ!」玉田がすかさずそう返した。
「そ〜だな〜。行っちゃいますか?」僕達は友理奈達を見る。
ここまでは僕達の予定した展開だった。が、
「私は良いけど、友理奈はこういうの無理でしょ?」
「うん。あたし怖いからいいやー」
「じゃあなんでこんなでかい浮き輪持ってきたの?」玉田は泣きそうだ。
「みんながこれ乗ると思って持ってきたの!借りるのめんどくさいでしょ?」
友理奈は僕からボールを奪い取り、
「あたしここで見てるから3人で行っていいよ」と、自分の持っていた浮き輪を僕に渡した。
「でもあれ二人乗りだよね?どうやってペア組むの?」千奈美は痛い所を突いてきた。
「俺は乗らなくていいかな…」玉田はすっかり落ち込んでいる。
「なんでよ。あんたが乗ろうって言い出したんじゃない!」千奈美が玉田の背中を叩く。
思ってもいない状況に、僕はどうするべきかと考えていた。すると
「ピンポンパンポーン。××からお越しの○○様。お忘れ物がありますので至急ロビーまでお越し下さい」
アナウンスが僕を呼んだ。
「○○呼ばれてんじゃん!行って来なよ」千奈美が浮き輪を取って言う。
「じゃあ…」僕は玉田を見た。
「ウォータースライダーは私達で言ってくるからさ。ほら!」
しょうがないよな…
待ってくれよと言いたげな玉田を振り切り、ロビーに向かった。
僕は財布を落としていたみたいだった。
ロビーから戻ると、友理奈が一人で座っていた。
「あいつら行ったの?」友理奈の隣に座る。
「うん。ほら」そう言って指差した先には玉田と千奈美が長蛇の列に並ぶ姿があった。
「結構時間掛かりそうだな」
「うん…」
「どうした?元気ないじゃん」友理奈は俯いて、急に黙ってしまった。
「あのさぁ、これあんま言っちゃいけないのかも知れないけどさぁ」
友理奈が顔を上げて僕を見た。その顔に笑みは消えていた。
「なに?」僕はドキッとした。
「もしかしたら、分かってるかも知れないけど千奈美って玉田君の事、好きなの」
「う、うん…正直…薄々気付いてたかな…」
ここでそんな事を聞かされるとは思っていなくて僕は動揺した。友理奈は続ける。
「だから千奈美、その事玉田君に伝えたいんだって。でも千奈美っていっつも玉田君の事をさ、」
「いじめてるよな」
「はたから見たらそうかもしんないけど、千奈美はそんなつもりじゃないんだよ!?」友理奈が語気を強めた。
「分かってるよ。だから気付いたんだろ?」
「だったら協力してくれるよね?○○、玉田君と仲良いでしょ?誤解解いてくれるよね?」
「そりゃ…うん…」
「私だってウォータースライダー乗りたかったぁ」
「え?怖いんじゃないの?」
「玉田君と千奈美を一緒にするためだよ。昨日話し合って決めたの」
そうだったのか…僕達と同じじゃないか…
「外行こ!」友理奈は立ち上がった。
「え、でも」
「これも決めたの!私達はお邪魔でしょ?」友理奈は僕の手を掴んだ。
やばいなぁ…
突然の展開に僕は言われるまま友理奈についていくしかなかった。
玉田達を見ると、やっと順番が回ってきているようだ。
外はむわっとするような蒸し暑さだった。
「やだー焼けちゃう!」
友理奈はパラソルの立つ椅子に座る。僕もそこに腰を下ろした。
「お前元々焼けてんじゃん」
「ひどいっ、なんて事言うのー?」友理奈は僕の頬をつねる。
「ごめん。そんなつもりじゃ…」
「ふーん。じゃあ罰として、ジュース買ってきて?もちろん○○のおごりで!」
「えー?」ポケットを探ると、200円ぐらいしか入っていなかった
「ほら早く!」
「分かったよ…まあ喉乾いたしな…」
僕は自動販売機へ向かおうとした。
「あたしが飲むんだからねー。ポカリねー」
いってらっしゃいと手を振りながら友理奈が言った。
「ほら」友理奈にペットボトルを放る。
「ありがとー。ってこれウーロン茶じゃない!」
「ポカリなんてなかったんだよ」
「それでもコーラとかあったでしょー?」
僕は元の位置に座り、ぶつぶつ言いながらも飲み始める友理奈を見た。
玉田の顔が頭に浮かぶ。そういえばあいつ等今どうしてるんだ?もうとっくに戻ってきているはずだ…
「なにじろじろ見てんの?飲みたいの?」友理奈が飲むのをやめた。
「そんな事無いよ」
「喉乾いたって言ってたしね。はい」
「でも…」
「なに?間接キスだとか思ってんの?さっきやったばっかじゃない」
「え?風船の事?」
「やっぱ意識してた?」
「ちょ、そんなつもりじゃ」
「分かった分かった。ほら飲みなっ」
そうかぁ。あれは友理奈だったのか…
「ほら!」
友理奈がペットボトルを僕の口に押し付けようとする。ばっと避けた。
「ひどーい!」
「違うよ!いきなりだったから…」
「もう怒った。また罰だからねー」
「だからさー…大体もうお金ないよ…」
「決めた!」友理奈がポンと手を叩く。
「なに?」
どうせ昼飯おごれとかなんだろうな…
「今度は…今度は間接なんかじゃなくて…ほんとのキスをする…」
「…え?」友理奈は真剣に見えた。
「なんちゃって…冗談だよ!」
「だ、だよなー?びっくりしたー」僕は無意識にウーロン茶を飲む。
「あ、飲んだ…」
「別に、そんなの気にしないし。いやー喉カラカラだったから美味い!」
気まずくなりそうだったから、僕は精一杯元気に振舞う。
「うん…」友理奈の顔には少し笑みが戻っている。
ウーロン茶なのに、少し甘い気がした。
「あ、もうこんな時間!ほら行こ!」
友理奈は立ち上がって時計を指差す。2時5分過ぎだ。
「行こって…どこにいるか分かるの?」
「大丈夫!分かってるから」
「もしかしてそれも…」
「昨日から決まってましたから♪」
二人はレストランの前にいた。
「どこ行ってたんだよー」
玉田は文句を言っているけど…そんな機嫌は悪くもなさそうだ。むしろ千奈美と打ち解けている気がする。
「じゃ、着替えてからもっかいここに集合ね!」
きっと友理奈達の「作戦」は今も予定通りなんだろう。僕達より一枚も二枚も上手だ…
更衣室に戻ると、玉田は嬉しそうな顔で話し始めた。
「いやー千奈美ってそんなヤな奴でもないのな」
「え?なんかあったの?」
「ウォータースライダーさ、一緒に滑ったんだけど千奈美の奴怖がってずっと俺にぴったりでさぁ、
その後飛び込みやったんだけど俺が一番高い所から飛び降りるのを見て拍手するんだよ…」
「へぇー。で、友理奈には見せなくていいの?」
本当の事を知りながら知らないフリをして僕は話している。玉田の何も知らない笑顔が痛い。
「うーんどうしよっかなあ…ていうかさぁ」
「何?」
「やっぱ千奈美にも俺が友理奈ちゃん好きって事言っとこうかなぁ」
僕はふっとびそうになった。
「駄目!それはやめとけ!」
「え?お前さっきと言ってる事違うぞ?」
「い、いやよく考えたらそれは良くないと思ったんだよ。そういう事を簡単に言うもんじゃない」
「なんでよ?なにかと協力してくれるかも」
「お前一人でやらなきゃ!な?だから千奈美には言わないでおこう?」
「う〜ん…分かったよ…」
なんとか玉田の暴走を抑えられそうかな…?
着替えも終わったし、とりあえずレストランに行こう…
そう思っていると、玉田が一番聞かれたくない事を聞いてきた。
またふっとびそうになった。
「そんな事より!お前友理奈ちゃんと何処に行ってきたんだよ!」
「あ…あれはちょっとな…」
「おい。はぐらかすなよ!いや、分かった。
お前も友理奈ちゃんの事好きなんだろ?そんで俺のジャマするつもりなんだろ?
千奈美に言っちゃたら自分が不利になるから駄目とか言ったんだろ?」
玉田が僕に詰め寄る。
「違うって!あれだよ…ほら、友理奈が迷子になっちゃてたんだよ!」
「どういう事だよ?」
「あのね、俺がロビー行ったでしょ?で、戻ってきたら友理奈がいなかったんだよ。
でもお前等はウォータースライダーに並んでただろ?そしたらあいつ一人じゃん?だから心配になって探しに行ったんだよ」
「ふーん。で、何処にいたんだよ?」
「外にいた。そんで戻ってきたらお前等がいなかったから…分かった?」
「ほんとかなぁ…」
冷たい目で僕を見る玉田の背中を押しながら、レストランへと向かった。
「またあんた達の方が遅いじゃない!どれだけ待たせんのよ?」千奈美が玉田の尻をバシッと蹴った。
友理奈は僕を見てちょっと笑う。
「はは…」僕は苦笑いで返した。
「何食べる?」千奈美がメニューを皆に回す。
「あ、そうだ○○!おごってよ!この…特製ピザ!」友理奈が僕に言ってきた。
「なんでだよ!」
「さっきの罰まだでしょ!忘れたなんて言わせないよ」
「やだよ〜お金ないよ〜」
「じゃ、割り勘!皆で食べよ?ね?」
「さんせ〜い!玉田もいいよね?」千奈美が言った。
「別にいいよ…」玉田は僕を睨んでいるような…
「じゃあ、あとカルボナーラ頼んどいて。俺トイレ行ってくる」
この場から逃げるように僕はトイレに向かった。
「はぁ…」
今日初めてやっと一人になり、深いため息を吐いた。
千奈美は玉田の事が好きで、玉田は友理奈の事が好きで…
これを両方とも知ってるのを僕だけだ。
このままだと大変な事になるのかもしれない。でも僕はどうすれば…
戻るのがすごく嫌だったけど、僕はなんとかトイレのドアを押した。
「待って」
トイレの横で、友理奈が壁にもたれていた。
「友理奈…」
「席には戻らないで、ちょっとだけ千奈美達二人にさせとこう?」
僕は友理奈の横に座った。
「どんくらいここにいるつもり?」
「あとちょっと…一緒に…」
「俺らが一緒にいてもしょうがないだろ」
「え?まあ…そうだね…でも、あともうちょっとだけ待と?」
「分かったよ…」
そのまま何も喋らずに、少し時間が過ぎた。
そろそろ行った方が…
そう伝えようとして僕は友理奈を見上げる。目が合った。
目が合うとは思っていなくてお互いビクッとしたと思う。
「そろそろ行った方が良いんじゃない?」
「うん…」
僕が立ち上がろうとしたその時
「ガチャン!」
グラスが割れる音がした。同時に
「何処行くんだよ!」と、玉田の声が聞こえた。
僕達は顔を見合わせ、急いで席に戻ろうとする。
千奈美が僕達の前を横切った。その顔は泣いているように見えた。
「ちょっと、千奈美!待って!」
友理奈が千奈美を追って外に出て行ってしまった。
僕は席の方へ向かう。
店員がほうきを出している。
どうやら僕達の席のグラスが割れたようだった。
玉田は呆然とした表情で立っていた。
「何があったんだよ?」
「違うんだよ…千奈美に友理奈ちゃんの事言っただけだよ。そしたら急に泣き出して…」
「だからやめろって言ったんだよ!」僕は大声を出してしまった。
「なんだよ…訳分かんねーよ…」玉田はすっかり落ち込んでしまい、席にもたれた。
「あのーご注文の品を…」
店員が申し訳なさそうに料理を置く。
「なに頼んだんだ?」
「えっと…特製ピザとカルボナーラと、ドリアと、ハンバーグと…」
「食える?」
「食えない…」
「払える?」
「分かんない…」
僕達はほとんど料理を残し、店を出た。お金は何とか払えた。
結局友理奈達は戻ってこなかった。
僕達は家の近く、昔よく遊んだ公園に向かった。
「あそこ座ろうぜ」僕はブランコを指差す。
僕はそこで今日、友理奈に聞かされた事を全部玉田に教えてやった。
昨日僕達以上に綿密な「作戦」を組んでいた事。千奈美が玉田を好きな事。千奈美が一番今日を楽しみにしていた事…
玉田は真剣な顔で耳を傾けていた。
「…って事だよ。千奈美の事は俺も考えてやるから。な?」
すべて話し終え、玉田の肩にポンと手を置く。
「分かったからもうほっといてくれよ!」
玉田は僕の手を払い除け、走っていってしまった。
僕には、玉田を追いかける勇気はなかった。
丸二日が経った。
誰からも連絡はなく、かといって自分から電話をかけるような事も出来なかった。
あれ以来、僕は自責の念に駆られている。
もっと早く、あの更衣室で僕が玉田に事実を教えてあげていれば、こんな事にはならなかったのに…
こんな事ばかり考えていて、無性にムシャクシャしていた。
なんとか気を晴らそうとして、もう夕方だけど散歩でもしようと思い、外に出た。
今、僕は本屋にいて、目の前に千奈美がいる。
「よ、よう」ぎこちなく千奈美に声を掛けた。
「あ、○○…元気?」千奈美の顔はやつれているような気がする。
「うん…」
黙りあってしまう。
「あのさ…ごめんな…」本当に申し訳なくて、これしか言えなかった。
「別に…○○は悪く無いじゃん…私が勝手にやった事だもん…」
「そんな…」
「ねぇ、こんな所で話すのもヤだからさ、外行こ?」
この前の公園で、僕達は同じようにブランコに乗った。
千奈美はブランコをゆるやかに漕ぎながら話し始めた。
「友理奈と、ケンカしちゃった」
「え?」
「玉田がさあ友理奈の事好きって私の目の前で言ったんだよ?そりゃムカつくよ。八つ当たりもしたくなるよ」
「でも、友理奈はお前の事思って…」
「分かってるよっ、だから友理奈は私を追っかけてくれて、慰めようとしてくれてっ」
千奈美はどんどん強く漕いでいく。
「なのにっ」
「なのに?」
「私友理奈になんて言ったと思う?」
「分からないよ…」
「『アンタなんかいなきゃいいのに』って言ったのっ。最悪じゃん私」
「…」
「最悪じゃん…」
千奈美のブランコがいつの間にか止まっていた。
千奈美の嗚咽だけが辺りに響いた。
「ごめんなさい!熊井友理奈は玉田君とは付き合えません!」
突然大きな声が目の前で聞こえた。
顔を上げると、友理奈と玉田がビシッと立っていた。まるで「起立」のように。
玉田はうつむいていているけど、友理奈はこっちを見てニコッと笑った。
僕等はキョトンとして二人を見ていた。
すると、玉田が顔を上げた。その顔はキリッとしていて、今までで一番カッコよく見えた。
「徳永千奈美さん!二人でお話がしたいです!聞いてくれませんか!」
さっきの友理奈なんか比較にならないぐらい、大きな声で玉田は言った。
泣き過ぎて真っ赤な目をした千奈美は大きく頷いた。
友理奈が僕に手招きをしている。
僕と友理奈は黙って公園を出た。
何も言わなくても分かった。今回ばっかりは本当に僕達はお邪魔だもんな…
「玉田君とはしっかり話したから、もう大丈夫だよ」
公園の前で友理奈が言った。
「友理奈…ごめんな…」さっきも同じ事を言った気がする。
「なんでよ。アンタは悪く無いでしょ?」
なんて言えばいいのか分からなかった。すると友理奈が
「さて!どっか隠れて見れるところ探そう!」と、僕の腕を掴んだ。
「はい?」
「だって気になるでしょ?ほらどっか隠れる所!」
「それなら…」
僕達はブランコの後ろの草むらに隠れた。ここならばっちり聞けるはずだ。二人はブランコに座っていた。
でも、声が小さすぎて何を言っているのか全然分からなかった。
「なーんだ。全然聞こえないじゃん」友理奈は茂みの隙間から二人を見ている。
「うーん。でもちょっとだけ聞こえるような…」
僕は「シーッ」のポーズを取りながら聞いていた。
すると友理奈が僕を見て、
「ねえ」
「なに?」
「いい事教えてあげようか?いや、怒るかな?」
「なんだよ」
「この間のプールの時、私達前の日に予定組んでたって言ったでしょ?」
「うん。言った」
友理奈は視線を二人に戻して言った。
「あれ…嘘なんだよね…」
「え?」
「だから!私が勝手にやったの。千奈美と玉田君を二人にさせたのも。全部っ」
「千奈美のために?」
「うん」
「おまえって良い奴だな…」
「そうかな?」
「そうだよ」
「ま、あたしのためでもあったんだけどねぇ」
「どういう意味?」
「あっ…なんでもないよっ。あ!ほら!」友理奈が二人を指差した。特にさっきと変わずそこにいる。
「なに?」
「いや。いいなぁーってさ…」
「そう?」
「そうだよ!」
僕と友理奈はその場に寝転んだ。
玉田と千奈美の話はまだまだ続きそうだ。
太陽は今にも地平線に飲み込まれそうで、空には星が瞬き始めていた。
8月6日(金) 晴れ
「読書記録まとめてやっちゃわない?あと玉田〜宿題教えて?」
そう言い出したのは千奈美だった。
基本的に勉強嫌いな僕と、成績優秀ながら国語嫌いな玉田は当然食いついてきた。友理奈は、
「ごめ〜ん!あたし明日から家族で旅行行っちゃうんだよね〜」だそうだ。
そんな訳で僕達3人は図書館にいる。
僕と玉田は先に好きな本を持ってきて、テーブルに着いた。
「千奈美とは最近どう?」あの日から一週間以上経ち、玉田と千奈美の仲は一体どうなったのだろうか。
「別に…前とそんな変わらないよ」
「付き合ってはないの?」
「そんな雰囲気ではないんだよね。でも毎日会ってるよ。俺も千奈美も犬の散歩してるから」
「ふ〜ん」
それってもう十分アレな気がするが。
「あ〜重かった〜!」
千奈美が分厚い本を持って席に戻ってきた。
「それなんの本だよ?」玉田が指差す。
「えーっと…なんだろ?」
その本のタイトルには『LOVE〜』と英語で全部は読めないが書かれている、恋愛物だという事はよく分かった。
「読むの?」
「最後だけね」
玉田は相変わらずだけど、千奈美はやっぱりちょっと心境の変化があったのだろう。
「ねえ玉田。今度サッカーの試合なんでしょ?」
「そうだけど…なんで知ってんの?」
「友理奈の弟から聞いたの。あの子もサッカー部じゃん」
「ああ、あいつか…」
「私、応援に行っていい?お弁当なんか作ってきちゃったりして」
「ええ〜別にいいよ〜」
「あ、そう!じゃあ良いよ、絶対行かないから」
「おい嘘だよ。来てよ!」
「やだよ〜」
「だからごめんって…」
「…じゃ、行ってあげようかな〜?」
玉田と千奈美ばっかりずっと喋っていて、話に入れない。
耐えられなくなった僕は黙って席を立とうとした。
「おい○○!何処行くんだよ!」こういう時だけ玉田は無駄に気付く。
「え?ちょっと本を探しに…」
「行ってらっしゃ〜い」
二人共手を振って僕を見送った。これからはこの3人で遊ぶのはよそうかなぁ…
僕は階段を上がった。2階には大人が読むような難しい本が置いてある。
1階より人が少なく、ちょっとホコリっぽくて大きな窓から日差しが差し込むこの空間が、なにか神秘的に見えた。
整然と並べられた本を見ながら歩いてみるが、どうも僕に読めるようなものは無い。
戻ろうか…
そう思った時、窓の下にある小さなソファに座り本を読む一人の少女が目に留まった。
「愛ちゃん…?」
そこにいたのは村上愛ちゃんだった。
『○○は俺を応援してくれるんだよな?』
『もちろんだよ。お前も俺と愛ちゃんの事応援してくれよ?』
ふと、前にした僕と玉田の会話を思い出した。
玉田は最初の予定とはかなり違うが、結果的には千奈美という彼女?が出来たのだ。
じゃあ僕は…?
そんな事を考えていると、僕の視線に気付いたのか愛ちゃんが顔を上げた。
太陽の光が愛ちゃんの顔を包む。
「あ、○○君…こんにちは」
「こ、こんにちは…」
「こんな所に来るなんて珍しいね…○○君らしくない…」
「そ、そんな感じする?」
「するよ」
僕の事をそんな風に見ていたのか。これは良いのか悪いのか…
僕は愛ちゃんの隣に座った。
「めぐみ…いや村上さんはよくここに来るの?」
「うん。どうせ暇だし」
「1人で?」
「うん。○○君は?」
「俺は…俺も1人だよ」
ここで千奈美と玉田がいると言ってもしょうがないだろう。
「そっかぁ…」愛ちゃんは顔を本に戻してしまった。
やばい。なにか話題を作らないと…
「それ…何読んでんの?」
「これ?これはねぇ…」
愛ちゃんが読んでいたのは、意外な事に魔法使いが出てくる冒険物だった。
「こういうの読むんだ?」
「意外?」
「うん。もっとなんか違うの読みそう」
「例えば?」
「ん?え〜っと…恋愛物とか?」
「やっぱ私ってそんなの読んでる感じするのかな〜」
「よく分かんないけどそんな感じするよ」
「実際、私はそんなの好きじゃないんだよ。映画だってアクション物とかが一番好き」
「ほんと?あ、じゃあ今やってる『××』見た?」
「ううん。一緒に見に行ってくれる人いないから…」
「まあ女同士でそういうのは見ないかもね…」
愛ちゃんの顔が暗くなった。太陽が雲に隠れたせいだけではないと思う。
「違うよ…一緒に映画を見に行くほど仲が良い人がいないからだよ」
「めぐ…村上さんが?いつも皆と一緒にいるじゃん」
僕の見てきた愛ちゃんにはいつも周りに人がいる気がする。
「学校の中だけの関係っていうのかな?外に出ちゃえば全然違うよ。ほら、私無愛想でしょ?」
「そんな事無いよ。少なくとも俺の中では」
「うれしいなぁ。そんな事言ってくれて」ニコッと笑った。
愛ちゃんはいつもはにかんだ笑顔をしている。
けど今の顔は初めて見る、本当の笑顔だった気がした。
「あのさぁ、それなら…」
「なに?」
「俺と今度映画見に行かない?もちろん『××』を!」
「…え?」
愛ちゃんは黙って視線をまた本に戻す。
駄目か…
けどすぐに、本を閉じてこう言った。
「ほんとに?」
「ほ、ほんとだよ!」
「一緒に行ってくれるの?」
「行こう!」
雲が抜け、また愛ちゃんの顔を照らした。
「…うん。行く…」
こんなにいきなり愛ちゃんと会い、しかもデートの約束まで取れるなんて思ってなかった。
僕は天にも昇りそうな気持ちだったけど、そこは抑えた。
「じゃ、じゃあいつ行く?俺はいつでもいいよ」
「私もいつでも…」
「なら、明日は?」
「うん。いいよ。あと場所と時間は?」
「場所は街の映画館で、時間は…」
そのあと僕達は映画やクラスの話とか、ともかく今まで二人で話した事なんてほとんど無かったから話題は尽きなかった。
「…そんでその公園で俺等が寝ちゃってさぁ…」
「へぇ〜、玉田君と徳永さんが…じゃあ今は付き合ってるの?」
「まあ、ほとんどそんな感じ」
「すごいね〜でもお似合いだよねあの二人」
「うん。俺もそう思う」
「うん…」
気が付くともう陽は傾き、図書館も薄暗かった。
そして愛ちゃんは突拍子も無い事を聞いてきた。いや今の流れなら聞かれても当然かもしれない。
「…じゃあさ、○○君には好きな人いないの?」
君だよ
オレンジ色に照らされた愛ちゃんの顔を見ながら僕はそう思った。
けど僕にそんな事は言えない。
明日また会える。まだ急ぐ必要は無い。
「一応いるよ…」
「誰?」愛ちゃんの目が僕をじっと見る。
「そんなの教えるわけ無いだろ!」
「いーじゃん!教えてよ〜」
「…うちのクラスの人だよ」
「え〜誰だろ?」
「誰でしょう?」
「…分かった!熊井さんでしょ?」
突然友理奈の顔が頭によぎった。
「ちがっ…違うよ!」
「仲良さそうに見えるけどな。一緒にプールで遊んだんでしょ?」
「そうだけどさ…それは玉田のために…」
「熊井さんはきっと○○君の事が好きなんだよ」
「そんな事無いって!あいつとはただの友達だから!」
「そうかな〜?」
「ほら、もう暗くなるから帰ろうよ!」
「ん〜まあいいや…」
一階のテーブルに戻ると、もう玉田と千奈美は帰ったしまったようで僕のノートだけが残っていた。
僕は一人だと言ってしまっていたのでそれはそれで好都合だった。
「ここで勉強してたの?」
「うん…ちょっとね」
「ごめんね…邪魔しちゃったのかな」
「別に、大丈夫だよ」
外はもう薄暗い。
「じゃ私、家こっちだから」
「うん。じゃあまた明日」
「じゃあね」
図書館の入り口で僕達は別れた。
手を振って愛ちゃんを見送っていると、ノートに何かメモが挟まっている事に気付いた。
『私のようになって欲しくないから 特別に教えてあげる
友理奈は○○が好きだよ』
ベッドで寝転んでいる僕の頭の中では友理奈の言葉がぐるぐると回っていた。
『今度は…今度は間接なんかじゃなくて…ほんとのキスをする…』
『あとちょっと…一緒に…』
『ま、あたしのためでもあったんだけどねぇ』
さっきのメモをもう一回手に取る。
『私のようになって欲しくない』のはきっと友理奈の事だろう。
僕はどうすればいいのか。友理奈に告白?
でも明日は愛ちゃんとの約束がある。憧れの存在で、今まで良く知らなかった愛ちゃんとやっと仲良くなれそうなんだ。
友理奈は僕の親友だ。あの公園の茂みに隠れながら玉田達を見ていた友理奈に、改めてそう思った。
『友理奈は○○が好き』だなんて言われても、気持ちの整理がつかない。
しかも友理奈にはもう僕が愛ちゃんが好きな事を言ってしまっている。
あの時友理奈はどんな気持ちだったんだろう?やっぱり千奈美の様だったのだろうか?
ん…?
メモには裏にも何か書かれていた。
『君が誰かを好きだと思う時、なぜ好きなのか、自分で理解できる?
なぜその人がいいかしら その人じゃないとダメかしら』
なぜ好きかって
愛ちゃんは可愛いし、頭も良いし、性格も良いし…
じゃあ友理奈は…?
あいつだって可愛いし、良い奴だし…
なら何で愛ちゃんが良いんだろう。愛ちゃんじゃなければ駄目?
どうなんだろう…よく分からない…
簡単なようで難しい質問の答えが見つからないまま、僕は眠りに落ちていた。
8月7日(土)雲り
「おーい!ここだよ〜!」愛ちゃんが手を振って僕を呼んだ。
映画が始まるのはお昼の1時からなのだけど、僕達は30分前に映画館で待ち合わせていた。
「めぐ…村上さん?」
「なに?」
「やっぱり早すぎるような…」
「いいの!映画が始まる前のこの雰囲気がいいんじゃない!」
まだ明るい館内には僕達とあと数人しかいない。
「ふーん…」
「ねえ、ポップコーン買いに行かない?」
「食べたいの?」
「二人で食べようよ」
「よし。じゃあ俺が買ってくるよ」
「いいよ私も行く」
「いいから」
「そう?」
「うん」
「あの〜このLサイズのやつ…とウーロン茶」
ポップコーンだけじゃ喉が渇くと思い、飲み物も買った。お金の都合で一つだけ。
「はいよ」
ポップコーンを愛ちゃんの膝に置いた。
「おっきーい!ウーロン茶も買ったの?いくらだった?」
「要らないよ。俺のおごり」
「ほんとに?じゃあ食べちゃおっかなー」
「あんま食べたら始まる前になくなるぞ…」
愛ちゃんはもぐもぐとポップコーンを食べている。
なにか素の愛ちゃんを見ているようだった。
これを見れるのはきっと僕だけなんだ。
「私さ」
ふいに愛ちゃんが話しかけてきた。
「ん?」
「友達と二人で映画館来たの初めてなんだぁ」
「お…俺だって二人は初めてだよ」
「だからすごい嬉しくて…」
「そっか…」
照明が落ち、スクリーンが明るくなった。
「ねえ…一つお願いがあるの」
「なに?」
「私の事『村上さん』なんて呼ばないで『愛』って呼んで?」
「え?」
「○○君さ、昨日からそう呼ぼうとしてたでしょ?今日だって…」
スクリーンの明かりが反射する愛ちゃんの顔は僕をしっかり見ていた。
「ばれてた?」
「まあね。で、呼んでくれるのくれないの?」
「そんな、もちろん呼ぶよ!」
「じゃあさ○○君、問題出して良い?」
「なに?」
「問題、私は誰でしょう?」
そんな分かりきった質問されても…何か裏があるのか?
「早く!答えは?」
村上愛…村上…愛……もしかして…
「め…愛ちゃん…?」
「正解!ご褒美にポップコーンどうぞ!」
愛ちゃんはニコッと笑ってポップコーンを渡した。
「どうも…って俺が買ったんですけど」
「まあまあ。とにかくこれからもそう呼んでね」
「うん」
「ねえ…そんな食べたらすぐ無くなっちゃうよ?」
「へ?」
なんかドキドキしてしまって、気が付くとポップコーンは半分以下になっていた。
「食べすぎ」
「ごめん…」
「喉乾いたんじゃない?」
「うん。乾いたかも…」
「飲む?」
愛ちゃんは自分の飲んでいたウーロン茶を僕に差し出した。
「いいの?」
「いいよ」
このウーロン茶の味、なにか懐かしいような気がする。
「…」
友理奈だ。プールの時の、あのウーロン茶と同じ味なんだ。
忘れかけていた昨日の千奈美の手紙の事も思い出した。
「あ。映画始まるよ!」
愛ちゃんが僕の袖を引っ張った。
「ほんとだ…」
「楽しみだね」
「うん…」
「どうしたの?元気ないよ?」
「…そんな事無いよ!さ、見よ!」
「なら良いけど…」
正直、友理奈と愛ちゃんの事ばかり考えていて映画の内容は殆ど入ってこない。
目の前に映る派手なアクションを、ただ呆然と見つめていた。
「すごいね!」
愛ちゃんが小さな声で話しかけてきた。
「ん?…ああ、すごいな」
一瞬何の事か分からなかった。
「ね…すごいよね…」
二人はすぐ視線を前に戻す。
僕は愛ちゃんをチラッと見た。
愛ちゃんの顔は真剣…いや、思いつめたような顔でスクリーンをジッと見つめている。
僕はそれを見て、自分が今まで愛ちゃんを適当にあしらっていた事に気付いた。
そう思うとその顔がどんどん悲しく見えてきて、すごく申し訳なくて…
暗いから、はっきりと見えてしまわない事だけが救いだった。
いつの間にか映画は終わり、黒い画面にスタッフロールが映り始めた。
「面白かった!」
愛ちゃんを心配させたくなくて、よく見てないくせにそう言ってみる。
「ほんと?」
この返事の意味が僕には深すぎて、胸に突き刺さるような気がした。
「うん。俺にはすっごく面白かった!愛ちゃんはつまんなかったの?」
「ううん。私だってとっても面白かったよ!」
「そっか。なら良かった…」
愛ちゃんの声が明るくなって、僕は少し安心した。
相変わらず、スクリーンには延々と名前が流れている。
僕はこれがずっとこのまま終わらないで欲しかった。
現状を壊したくない。でもいずれ進展させなければいけなくなるだろう。
僕は椅子に深く座り、目をつぶった。
確かに僕は愛ちゃんが好きだし、付き合いたい。
でも告白したら友理奈を傷つけてしまうかもしれない。
大体愛ちゃんが僕の事を好きかどうかも分からないのに。
これでもし振られたら、僕にはもう戻る場所は無いだろう。
いや、友理奈だって本当に好きなのか…
昨日も、今日の朝も、ずっと同じ事を考えていた
けどついに、一つ答えが出そうになる事が起きたのだ。
「手…つないじゃ…駄目?」
愛ちゃんがボソッと言った。
「へ?」
「…嫌?」
「そんな事無いけど…なんで突然…」
「なんか、したいなって…」
「本気?」
「本気だよ」
「じゃあ…する…?」
愛ちゃんの手が僕の手の甲に触れた。
その手の温かさにビクっとして、僕は手を引っ込めてしまった。
「ごめん…やっぱり嫌だよね?」
「違うよ!びっくりしちゃって…今度は大丈夫」
「ほんとに…?」
「う、うん…」
今度はしっかりと、二つの手は重なりあった。
「明るくなるまで…このままでいよ?」
「うん…」
その5秒後、照明がつき館内はいっきに明るくなった。
「ありゃ…?」
僕達は見詰め合って、笑った。
「また、一緒に映画見に行ってくれる?」
「もちろんだよ。俺でいいなら」
「○○君だからいいんだよ!」
「それって…」
「そういう意味だよ…」
「あの、俺も…」
「ちょっと待って!」
愛ちゃんの手が僕の口を押さえた。
「まだちゃんと言うには気が早すぎるよ…」
「ごめん…」
「…じゃ、そろそろ出よっか?」
「うん。あ…」
まだ僕達の手はそのままだった。
「これ…どうする?」
愛ちゃんが言う。
「…そのまんまでいいんじゃない?」
「そうだね…」
外はまだ日差しが強く、入る前と殆ど変わらなかった。
「あー!今日は本当に楽しかった!」
「俺も!で、これからどうする?」
「…ごめん私、これからお稽古あるからもう帰るね」
「え、もう?」
「うん。また今度ね」
「分かった…じゃあね…」
「じゃあね!」
つないでいた手は解かれ、僕は小走りで去っていく愛ちゃんを見送った。
「熱いなぁ…」
きっと今気温は30度を越えているだろう。
でも、まだじんわりと残るあの手の温もりの方が断然強烈で、僕の右手だけが異常に熱かった。
8月8日(日)雨
夜、玉田から電話が掛かってきた。
「おーすっ○○。調子どう?」
「ん…?まあ、いい感じだよ」
「あっそう。そんな事より、お前来週ヒマ?」
「基本的に毎日ヒマだけど」
「なら良かった!遊ぼうぜ!」
「なにして?」
「き・も・だ・め・し♪」
「肝試しって…」
「お前さぁ旧校舎の噂知ってる?」
「3年2組のやつ?」
「その通り!な、面白そうだろ?」
「別に俺は良いけど、誰が来るんだよ?」
「もちろん俺と千奈美はペア。お前は友理奈ちゃんとだ!」
「え?でも俺…」
今、僕と愛ちゃんは両思いかもしれない。
折角仲良くなれたのに、それを壊すような事もしたくなかった。
「○○。あの手紙は読んだよな?」
「手紙って…あれの事?」
「友理奈ちゃんを泣かすような事したらぶん殴るからな」
「ちょっと待てよ」
「来いよ?」
「はい…」
「時間とかは友理奈ちゃんが帰ってきてから決めるから。じゃ、オヤスミ」
「おやすみ…」
僕達の学校には5年前から封鎖されている旧校舎がある。
3年2組の噂というのは、旧校舎で事故死した生徒がその教室に出るというベタなものだ。
当然そんなのは信じていないけど、肝試しなんて久しぶりだから行ってみたい気持ちはあった。
でも、問題は友理奈が来る事。
千奈美達の言う事が本当なら友理奈にどう接すればいい?
思わせぶりな態度をとられたら、答えを出すのが一層難しくなる…
「馬鹿か…俺…」
バチッ
自分の頬を叩いた。
結局、友理奈も愛ちゃんも僕の事が本当に好きかどうか分からない。
なのに僕は一丁前にも二人の中から一人を選ぼうとしていたのか?
まずは、友理奈の気持ちを自分で確認する事。
きっとこれが最優先なんだと思う。
8月11日(水)晴れ
…ピンポーン
家のチャイムが鳴った。
「はいはーい…ってあれ!?帰ってきたんだ!」
「うん。ただいまっ」
「お、おかえり」
「はい。これお土産」
「なにこれ?熊…井だから?」
「そう!可愛いでしょ?」
「まあ可愛いけど…普通、お土産って行った所にちなんだ物買わない?」
「うるさいな〜じゃ返して!」
「ごめんごめん、嬉しいよ!」
「ほんと?」
「ほんと!」
友理奈がくれたのは小さな熊のキーホルダーだった。熊といっても、テディベアみたいなやつ。
「そうだ。肝試しの話聞いたよ!あたしも行く!」
「あぁ、玉田がお前が帰ってきてから時間とか決めるって言ってたけど…」
「それも聞いた。金曜日の1時だって、夜の!場所は校門の前!」
「…ちょっと遅すぎない?」
「でもほら、親が寝てからじゃないと…ね?」
「そりゃそうだけど…まあいっか…」
「そんでさぁ、あたしと○○、ペアになるよね」
「そうなるかもね」
「もしなんかあったら…ちゃんと守ってよ?」
「ま…守るよ!」
「ほんと?」
「ほんと!」
「なら…安心だね…」
友理奈は壁にもたれて、ニコッと笑った。
僕はそれを見て下を向いてしまう。
だって、友理奈が旅行に行っている間、本当に色々な事が起きたんだ。
やっぱりそんなすぐには自然に振舞えなかった。
「でも、良かったね」
「何が?」
「言ってたじゃん。肝試しやりたいって」
「ん〜…そういえば言ったかなぁそんな事」
「楽しみ?」
「うん、楽しみ」
「あたしと一緒だともっと楽しみ?」
「え?そりゃ…もっと楽しみだよ…うん」
「ほんと?」
「ほんと」
「あたしもねぇ、楽しみ…ちょっと怖いけど」
「…大丈夫だよ。だって俺が」
「守ってくれるもんね?」
「そ、そうだよ」
「…よし!じゃ、あたし帰るね」
「うん…じゃあね」
「バイバイ」
「あ!友理奈」
門を閉じようとする友理奈を呼び止めた。
「なに?」
「これ、ありがとな」
熊のキーホルダー。まだお礼を言っていなかった。
「へへ…どういたしまして…」
「金曜、絶対来いよ?」
「当たり前じゃん。絶対行くよ」
「じゃあ、またな!」
「またな!…なんちゃって」
手を振って、見えなくなるまで見送った。
ちゃんと目を見て話せばこんなに楽しい…
腕を降ろした頃、僕はやっと気付いた。
友達として…なんかじゃない。友理奈が好きだという事に。
8月13日(金)曇りのち雨
「遅っいねえ…」
「…幽霊でも出たんじゃないの?」
「バカ!変な事言わないで!」
深夜2時、僕と友理奈は校門の前にいた。
「…ルールは旧校舎を一周する。ゴールは3年2組だぞ!」
「は〜い」
「じゃ、俺と千奈美が先に行ってくるから。待ってろよ!」
「気をつけてね〜」
「玉田、無理するなよ〜」
「うっせーよ!」
玉田達が意気込んで出発し…1時間以上経つ。
「なんか寒くない?」
「ちょっとな…」
雲が月を隠し、夏に似合わない涼しい風が吹いた。
「…ねえ、なにしてるの?」
突然、後ろから声が聞こえた。
人形…?
振り向いた時そう思った。そこにいたのは本当に人形の様な可愛い女の子だったんだ。
その子は無表情でじっとこっちを見ている。
「ちょっと…こんな時間に…早く家に帰りな?」
「お兄さんたちだっているじゃない。ねえ、なにしてるの?」
「俺らは…その、ちょっと用事があるんだよ。…君は?」
「梨沙子はねぇ…学校にわすれものしちゃったの」
そう言って旧校舎を指差した。
「あっちで?」
「うん」
旧校舎で遊んでいて、忘れ物でもしたのだろうか。
僕らもこれからそこに行くのに、放っておくわけにはいかないし…
「梨沙子ちゃん…っていうの?」
「うん。梨沙子…菅谷梨沙子」
「あたしは熊井友理奈。このお兄さんは○○。よろしくね!」
そう言って友理奈は梨沙子と名乗る女の子の髪をなでた。
梨沙子はやっとニッコリと笑った。
「忘れ物、あたし達が一緒に探してあげるよ」
「ほんとう?」
「でもちょっと待って。千奈美達が帰ってきてからね」
「ちなみ?」
「そう。あ、ほら帰ってきた!…あれ?」
千奈美の奴…
玉田におんぶされながら帰ってきた。
「…千奈美、どうしたの?」
「なんか、腰抜けちゃったみたいで…」
「どうして」
「見たんだって」
「…幽霊を?」
「らしいよ、そうなんだろ?」
千奈美の背中で顔をうずめたままコクッと頷く。
「お前は見てないの?」
「俺は全然見てないんだけどさぁ…ちょっとお前等は行くの止めといた方がいいかもな」
「う〜ん…でもなぁ…」
梨沙子は友理奈の後ろから玉田達を見ていた。
「この子誰?」
「旧校舎に忘れ物しちゃったんだって。そんで俺等が探してあげようって」
「明るくなってからの方がいいんじゃない?」
梨沙子は困ったような顔でブルブルと首を振った。
「駄目?」
「うん…」
「でも、千奈美はもうこんなだし…おい、もう立てるか?」
「早く降ろして…」
「お前、おんぶしてもらってたくせに」
「早く…」
「まったく…ほら、大丈夫か?」
「大丈夫だって!」
千奈美は地面にしりもちをついて、顔を上げた。
心配させないためか笑ってはいるけど、目には涙を浮かべている。
「いや〜…本当に見ちゃうとは思わな…」
「ん?」
「ちょっと、その子…」
千奈美の顔からは笑みが消えている。
「ああ、この子は…」
「ちなみさん。だいじょうぶ?」
梨沙子はいつの間にか千奈美の前にいて、顔を覗き込んでいた。
この時、世界がスローモーションで見えた。
千奈美は梨沙子の顔を見ると、目を大きく見開く。
梨沙子は笑顔のまま千奈美を見ている。
そして…
「キャ〜〜〜!!!!!」
鼓膜が破れそうなくらいの声で千奈美は絶叫し、走って外に出ていってしまった。
「おい千奈美!ごめん、ちょっと俺行ってくる!」
玉田もそれを追う。
「行っちゃった…」
残された僕と友理奈はそれを呆気に取られたように見ていた。
梨沙子はというと、頬を膨らませ泣きそうな顔をしていた。
「梨沙子、おばけじゃないもん!」
「…うん!そうだよね!梨沙子ちゃんはおばけじゃないよね!」
「そうそう!あいつ、怖がりだから!だから泣くな!な?」
「泣かないもん…」
とりあえず千奈美は玉田に任せて…
最初とは目的がガラッと変わってしまったけど、こうして僕達は旧校舎へと入っていったのだった。
月がまた、雲から顔を出してきていた。
旧校舎の中は当然真っ暗でかなり荒れているのに、何故かヒンヤリと澄んだ空気が流れている。
「…なんかほんとに出そうな雰囲気…」
「ねぇ〜お願いだからそういう事言わないで…」
「あ!ほらあそこに」
「ヤダ!止めてよ〜…」
「ゴメンゴメン…」
「もぉ〜…」
「おいおいお前も泣くなよ〜」
「泣いてないよ、バカ!」
友理奈は僕の肩に顔をうずめている。ジャンプーの良い匂いが鼻をつく。
怖いからそうしてるんだっていう事は分かっているけど、
今こういう事を考えている場合ではないのは分かっているけど、
まるで友理奈と恋人同士になったような気がして…
でも右手にかかる力が強くなって、すぐ現実に引き戻された。
僕の手には、梨沙子の手が結ばれていた。
梨沙子はさっきから黙ってじっと前を見ている。それが余計に不安になって僕も強く握り返す。
「…そういえば梨沙子」
「…?」
「何を忘れたんだ?」
「…お絵かきちょう」
「お絵描き帳?」
「…うん」
「何処で忘れたとかは分からないの?」
「…わかんない」
「何処で遊んでたとかは?」
「…うえ」
「2階?」
「…うん」
「じゃあ、行こう!」
「うん」
階段を上り、僕は思わず辺りを見渡した。
「なんか、すごい…」
「こんなに広かったけ?旧校舎って…」
友理奈も顔を上げ周りをキョロキョロと見ている。
2階は、見渡す限り長い長い廊下が続いていた。その先は暗闇に包まれ全く見えない。
窓・教室のドアもまるで無限にあるかのように続き、闇に飲み込まれていく。
「これ全部探すの…?」
「しょ…しょうがないだろ?」
ここには電気も通っていないから、明かりは持ってきた懐中電灯だけだ。
しかもこんなに沢山の教室探し出すなんて無理じゃないのか?
やっぱり明るくなってからの方が…
「なあ、梨沙子…」
『戻ろう』と言いかけた時、梨沙子はふいに手を離した。
「あそこだ…」
ポツリと呟き、突然走りだす。
「おい!何処行くんだよ!」
梨沙子は何かに吸い込まれるように教室に入っていた。
「ここなの?」
「…」
あとからその教室に入った頃には、梨沙子はもう忘れ物を探し始めているようだった。
「俺等も探そっか?」
「うん…そうだね」
僕達も机の中とかを探したのだけど、何も無い。
それよりその机がホコリ一つ無く、窓もすごいキレイな事が気になった。
「あった…」
「え、ほんと?」「ほんとかよ!」
梨沙子に駆け寄ると、ノートのような物を手に抱えていた。
「これかぁ。良かったね!」
「うん」
友理奈が梨沙子の頭を撫でると、梨沙子はニコッと笑った。
「良かった良かった…」
じゃあこれで梨沙子を家まで送れば全部終わりだな…
そう思い、ふと教室を見回した。僕はその光景に息を呑んだ。
綺麗…
窓から差し込む月の光が整然と並ぶ机に反射している。
青白く光る四角いパネルが闇に浮かび上がっているようだ。
ここは本当に旧校舎?
さっきから変だと思ったんだ。
空気といい、机といい、なんかおかしくないか?でも床はきしむし、物は倒れているし…
もしかしたら、旧校舎の形をした変な空間に紛れ込んでしまったんじゃないのだろうか?
急に不安になってきた時、僕のすぐ後ろで声が聞こえた…違う、それは頭の中で響いた。
『ごめんね…』
体の力が抜けて、ガクリと崩れていくのが自分でも分かった。
...
…ふと目を開けると、視界は横になっていて顔の右側に心地良い暖かさを感じた。
「○○…目覚ましてよぉ…」
友理奈の声が上から聞こえる…
あの声が聞こえた後、僕は倒れて…
そうか。僕は今、友理奈に膝枕をされているんだ。
「え…?まぁそうだよね…寝てるだけみたいだし…
「…」
「うん。疲れてたのかな…」
寝たふりをして聞いていると、なにかおかしいような気がした。
さっきから友理奈、一人で誰と喋ってるんだ?
梨沙子の声は聞こえない。
というか、そこにいる気配すらしない。
とりあえず、僕はその不思議な会話?にまた目を閉じて耳を傾けた。
「なに〜急に〜」
「…」
「まだ梨沙子ちゃんにそういう話は早すぎます〜」
「…」
「じゃ〜…○○には内緒だよ…?」
「…」
「好き…かなぁ…」
二つ、ドキッとした。
一つ目は誰の事…それ以前に何の事かすら分からないけど、友理奈の『スキ』の言葉。
それともう一つ。
友理奈、今確実に『梨沙子ちゃん』って言った。
まあ僕はユウレイなんて信じてないけど。きっと梨沙子の声が小さいだけ…
「告白〜?あたしには無理だよ…」
「…」
「なんでって…それは…」
「…」
「○○にはねぇ、他に好きな人がいるんだ…」
「…」
「…村上愛ちゃんって子」
「…」
「カワイイよぉ!頭も良いし…」
やっぱり…千奈美達の言っていた事は本当だったのかな。
だって…友理奈の言ってるのはどう考えても僕の事?
そんな事を考えると耳が熱くなって、心臓のドキドキが周りに響きそうなぐらい大きくなった。
気が付くと、友理奈(と梨沙子)は黙ってしまっていた。
耳を凝らしても自分の胸の鼓動ばかり聞こえる。
「いいの…もうあきらめてるから」
そんな静寂の中突然聞こえた友理奈の声はすごい震えてて、か細かった。
「こんなに…アピールしてるのに…全然見てくれないもん…」
「…」
「このままずっと友達でいい」
「…」
「ううん。○○だってきっとそう思ってる。あたしと○○は一生ただの友達」
「…」
「どうせあたしなんて、どうでもいいんだよ…」
「そんな事無い!」
我ながら、カッコ悪いと思う。
僕は膝枕されたまま、叫んでいた。
考えるより先に、声になっていた。
「…起きてたの?」
「うん」
「もしかして…聞いた?」
「聞いた」
「そっか…」
「俺、お前の事ただの友達だなんて思ってないから」
「うん…」
「俺、お前の事どうでもいいだなんて思ってないから」
「うん…」
「俺も、お前の事好きだから」
「うん…」
友理奈に言いたかった事。全部言った。
一言出ると、もう止まらなかった。
でも、相変わらす僕はカッコ悪い。
まだ僕の頭は友理奈の膝の上。
恥ずかしくて、友理奈の顔を見ることさえ出来なかった。
1999年 7月
…バサッ バサッ
カーテンが風になびく。
病院のベッドの上で、菅谷梨沙子はそれを眺めていた。
「り〜さこちゃん!」
「あ〜!早貴ちゃん来てくれたの!」
花束を持って梨沙子の元に一人の少女がやってきた。
名前は中島早貴、小柄で可愛らしい女の子。
「みんな心配してるよ〜」
「ふーん…」
「今度はいつ退院できるの?」
「分かんない…長いかも」
「そっかぁ。でもすごいね、こんな広いお部屋に泊まれるなんて」
「こしつっていうんだよ」
小学3年生、若干9歳の子供達だ。
また視線を窓に戻す梨沙子も、部屋中をキョロキョロと見回す早貴も、この個室の意味を知る由は無い。
当然、梨沙子が重い難病で余命2ヶ月である事も。
少し沈黙が続く。
一足早く鳴きだした蝉の声が聞こえる。
花束を花瓶に差し、窓際で外を見ながら早貴が話し出した。
「そろそろ夏休みだね〜」
「うん…」
「あ、そうだ。これも渡さないと!」
そう言って早貴がランドセルから取り出したのは一枚のプリントだった。
「…?」
「あのね、今日学校で先生が言ってたんだけど、夏休みに1年生の子達と学校で肝試しするんだって」
「肝試し?」
「そう!3年一人に1年二人のペアで」
「ふ〜ん…」
「楽しみじゃないの?」
「早貴ちゃん楽しみなの?」
「私も別に…」
「やっぱり」
梨沙子達の通う学校は下級生・上級生の交流を重んじていてこういう行事はよくあるのだ。
遠足は一つの学年で行くことなんてまず無い。
「分かった!梨沙子ちゃんは一年生と一緒なのが嫌なんでしょ?」
「え?そんな事無いよ…」
「好きな人いるんだもんね〜」
「え?え?」
「その人と一緒のほうがいいもんね〜」
「う…うう…」
「顔真っ赤だよ〜?」
他愛も無い会話は続き、いつの間にか部屋は薄暗くなり涼しい風が吹いていた。
「じゃそろそろ、ピアノのおけいこだから帰るね」
「もう?」
「うん、ごめんね」
「分かった…じゃあね」
「ばいばーい!」
バタンッ!
ドアは窓を開けていたせいか強く閉まり、梨沙子は『ビクッ』として肩をすくめた。
そのドアをじっと見る。
夕日に赤く染まり、自分の影伸びている。
…今日はなんで来てくれなかったのかな?
梨沙子は小さくため息を吐いた。
梨沙子が入院した翌日、一人の男の子が見舞いに来た。
学校の席が隣でちょっと野球が上手いちょっとカッコイイ、ちょっと好きだった男の子。
でも、「よお!」といきなり部屋に入ってきた時には「何か用事なのかな?」としか思っていなかった。
「なぁこれやろうぜ」
男の子は梨沙子のベッドの上に一冊のノートを置いた。
「なに?」
「なにって…あれだよあれ」
不思議に思ってノートを開いてみると、そこには少年らしいすこし下手な字で日記のようなものが書かれていた。
「なにこれ?」
「だから、交換日記しよう!」
「二人で…?」
「やっぱ駄目?」
「別にいいよ…」
「え?ホント?」
「うん」
「そ、そっか!あの、じゃあ俺帰るわ!明日も来るから!」
男の子は小さくガッツポーズをして、すぐ帰ってしまった。
ちょっと冷めた感じで振舞っていたが、内心梨沙子も嬉しくてノートを何度も見返していた。
次の日も男の子は来て、ノートを受け取りに来た。次の日もその次の日も…
そんな日が2週間以上経った。
別に毎日来るわけじゃないから、特別気に留めないようにしたかったけど少し寂しい。
梨沙子はノートを手に取り、最初のページを開いた。
『今日、りさ子がにゅういんしたって聞いた
りさ子は1人でさびしいと思ったから、おれはりさ子に日記で学校のこととかいろいろおしえてあげようとおもう
だから、おれにはりさ子のことをいろいろおしえてほしいとおもう』
「へたっぴな字…」
気が付くと口元がほころんでいる。
寂しくなった時、このノートを見れば元気になれる気がした。
梨沙子は鉛筆を手に取り、続きを書き始めた。
『7月15日 はれ
今日はきてくれなくて、少しさびしかったよ
そういえばこの間…』
梨沙子の入院は長く続いた。
終業式は欠席、そして夏休みに入って1週間が過ぎた。
「これ、かわいいね〜。また中島ちゃんが持ってきてくれたの?」
看護婦が花瓶に差された一輪の花を撫でる。
早貴もあの男の子ほどではないがよく見舞いに来て、その度に花を持ってきていた。
前は控えめな花束だったが、最近は一本だけの事が多くなった。買いすぎてお小遣いが底をつき始めてしまったのだ。
「ねえ、かんごふさん…」
「なに?」
「私、いつお家にかえれるの?」
「う〜んそれは…」
「8月13日にみんなときもだめしをするの。だから、それまでに…」
「…」
「ねえ!」
「…うん。大丈夫だよ」
「ほんと?」
「ほんと!」
けれど、いつまで待っても退院が決まる事は無かった。
ついに肝試し当日になっても梨沙子はまだベッドの上。
その日の夜7時、男の子が見舞いに来た。
「まあしょうがないよな…」
「だいじょうぶ!ぜったい行くよ!」
「でもどうやって?」
「夜だもん、抜け出しちゃうよ」
「駄目だよ…そんな」
「やだ!行く!」
「いいって!」
男の子は声を荒げた
「なんで…?私がいると嫌なの…?」
梨沙子はみるみるうちに涙目になっていく。
「あ…ごめん、そうじゃなくって…」
「じゃあなんなの…?」
「あの、あのさぁ…」
「なに…」
「俺も肝試し行かない事にしたんだ」
「え?」
「梨沙子が行けないなら俺も行かない」
「そんな…行ってきなよ…」
「いいんだよ。もう」
「私の…せい?」
「まーね」
「…ごめん…」
梨沙子はシクシクと泣き出してしまった。
でもなぜか、男の子はニコッと笑って梨沙子の頭に手を置いた。
「その代わり、今日は一緒にここにいよう!」
「…え?」
「駄目?」
「あの…でも…」
「やっぱ駄目か…そりゃそうだよな…」
「ううん!そんなことない!」
梨沙子は顔を上げて男の子の手を掴んだ。
少し赤く腫れた目で梨沙子はジッと男の子を見た。
「一緒に、ここにいて…」
男の子も顔を赤くして、頭をポリポリと掻きながら言った。
「な〜んかお腹減ったなぁ。…梨沙子は?」
「少し…」
「よし!お菓子でも買ってきてやるよ」
「うん…」
「ちょっと学校寄ってくから遅くなるけど待ってろよ」
「なんで?」
「俺の弟も肝試し出るんだよ。ホントは一緒のペアだったからさ、今日は行けませんって一応言っとかないと」
「けいじ君だっけ?」
「そうそう!あ…あとさぁ、これ渡しとかないとな」
男の子はいつもの交換日記を差し出した。
「じゃ、行ってくる」
「早く帰ってきてね…」
「おう!」
男の子が部屋を出てから少し経った。
「へへ…『一緒にここにいよう!』だってさ…」
梨沙子は一人で顔を赤くしながら微笑んだ。
ノートを開くと、こんな事が書いてあった。
『8月13日 くもり
今日は来れなくてざんねんだな
いきなりだけど、おれはきもだめしが嫌いだ
なぜなら、おれはこわがりなおくびょう者なんだ
下級生のめんどうをみながら学校をまわるなんてむりだ
りさ子はどうなんだろう?
おれと同じで嫌いだといいな
そしたら、いっしょにちがう所にいればいいんだから
でもあんなに楽しみにしてたってことはやっぱり好きなのかな?』
「嘘ばっかり…」
前のページには『きもだめしチョー楽しみ!』と書いてある。
自分なんかのために、彼は嘘をついてくれている…
気を使わせている事は明らかで、でもどうしていいか分からなかった。
布団を頭から被って、彼の事を考えた。
それから1時間以上経った。
さすがに遅すぎないかな…?
やっぱりきもだめしやっちゃてるのかな?
そんな事を考えた時、窓から強い風が吹いた。
それは机の上のノートのページをめくった。
パラパラとめくれていく真っ白の紙、そして一つのページを開かせて止まった。
覗き込むと、隅っこに薄い鉛筆で小さく何かが書いてあった。
『オレ なんだってするから かみさま りさ子のびょうきをなおして
はやく いっしょに外であそびたいから
りさ子 ダイスキ』
最初は、何かの暗号かと思いその言葉を見つめた。
しかしその意味に気付くと、途端に顔を赤くしてページを閉じてしまった。
これって…?
もう一度、ゆっくり開いてみる。
『ダイスキ』
この言葉にどこまで意味があるかどうかは分からない。
けれど梨沙子の心には深く深く染み渡った。
涙が止まらなくなった。
親ですら、ここまで言ってくれる事は無かった。
幾度もの入院、梨沙子自身も慣れてしまっていた。
「もしかしたら、一生このままなのかもね」
そんな風に考え、妙に納得してしまっていた。
しかし今、それは変わった。
このままじゃいけない!
彼が戻ってこない理由、きっと彼は学校で待っているんだ。
梨沙子はベッドから飛び起き、ノートを抱えて外へ出ていった。
私の事、待ってる!早く行かないと!
それから数分後、病室のドアが開いた。
男の子がコンビニ袋を持って帰ってきた。
「いや〜ゴメン梨沙子!遅くなっちゃって…あれ?」
つづく