【跳び箱】
僕の名は小川まこと小学6年生だ
僕はクラスでは真ん中ら辺のポジションだ
成績も普通、体育も普通、顔もどうと言って取り得の無い顔だ
でも、唯一一番なところがある
それは同学年男子で一番背が低いのだ
それも一年の時からずっとだ6年連続チャンピオンだ
そんな僕も好きな女の子がいる
清水佐紀ちゃんだ
もちろんこんなに親しく呼ぶことも無くお互い苗字にさん君付けだ
彼女も学年女子一背が低いので僕の次に色々やることになる
しかも彼女も僕と同じで6年連続チャンピオンだ
うちの学校は体育の時は背の低い順だから常に一番手になる
走るのも、マット運動も、跳び箱も何でもだ
僕はなぜか清水さんが見てると必ずといっていいほど失敗する
普段はなんでもないものも清水さんが見てるとついあがってしまって失敗してしまう
そして清水さんは僕が失敗した後に難なくクリアーしてしまう
うちの校区は子供が少ないので一クラスしかないから
これを6年繰り返してきた
今日の体育は跳び箱だ
「よーし、じゃあ6段から行くぞ」
先生が僕を見る。僕も即座に立って跳び箱に対峙する
「小川君、頑張って」
次の番の清水さんがいつものように声をかけてくれる
また、あがってきた
そして、いつものように失敗した
清水さんはあっさりクリアした
僕と目が合って、Vサインして微笑んだ
可愛いなあと思ったが表に出さずふん、て横を向いてやった
はぁ、いつか成功して俺が清水さんにVサインしてやる
昼休み、友達の紺野と一緒に跳び箱で遊ぶ
余裕で、8段クリアーだ
「小川さー、清水が見てるから失敗してるんじゃないか?」
「え?」
「だってさ、今普通に飛んだし。でも、清水がいると失敗してるよな」
図星だ。でもそんな事を悟られてはいけない
「そんなことないよ、みんなに注目されてるって思うだけで清水さんは関係ないよ」
「そう?」
紺野はちょっといやらしい目で僕を見た
「とにかく、清水さんなんか関係ないよ」
「そういうことにしといてやるよ」
紺野はそういって片付け始めた、昼休みは終わりだ
教室に戻ると、さっきの紺野の言葉が気になって清水さんの方が見れない
すぐ左の席なんだけど不自然に僕は右の方ばかり見る
まだ、先生が来ないので後ろの席の紺野が
「壁の方に清水はいないぞ」
と囁く。馬鹿、聴こえたらどうするんだ
焦って振り返って「怒るぞ」と軽く睨むと
笑ってわりぃ、わりぃって紺野が謝る
ちっとも本気らしさが感じられないぞ
「先生、来たよー」
清水さんが俺の肩を叩いて教えてくれた
あわてて振り向くと
「うそー、うそー」
そう言って清水さんが笑った
そういうお茶目なところも好きだ
そんなこんなで3学期になった
僕は衝撃の事実を知った
清水さんは地元の中学でなく、隣町の私立の中学校に行くらしいのだ
気になって本人に確認してみた
「うん、中高一貫の女子高なの。小川君ともお別れだね」
と、ちょっと寂しそうに言った
「何でー、また一緒の学校で最小コンビ続けようよー」
すがるように僕は言った
「そうか、最小コンビ解散だねー。ちょっと寂しいかも」
両手の人差し指をつんつんさせながら清水が言う。
「まあ、でも小川君のことは忘れないよ」
かる〜い感じで言われた。とほほ
その日から僕は清水さんに告白しようと決心した
そう思ってチャンスを待ったがいざとなると臆するものである
とうとう、卒業まで後1週間となった
「よし、こうなったらもう決めた。明日の体育で跳び箱を清水さんの前で飛べたら告白するぞ」
そう自分を追い込んだ
そう思うとなかなか寝付けないので修学旅行のときの
たまたま僕と清水さんが2ショットの写真を見ながらニヤニヤしてるといつの間にか寝ていた
そして体育の時間
僕の前にはいつものように6段の跳び箱がそびえたつ
僕は普通だったら飛べるんだと念じながら先生の合図で立つ
「小川君、頑張って」
いつものように清水さんの声援だ
頑張るよ、必ず飛んで君に告白するんだ
先生の笛がなる
1歩、また1歩跳び箱に近づいている
そして・・・
失敗した
列の後ろに並ぶと跳び終えた清水さんがやってきて
「とうとう跳べなかったね。とほほ〜」
と、両手を目のところに持っていき泣くまねをした
僕は泣きそうになったけど踏ん張ってその場は堪えたけど
家に帰って悔しくて悔しくて泣いた
卒業式の前日、僕は諦め切れず清水さんを放課後呼び出した
「どうしたの、小川君」
尋ねる清水さんに
「清水さん、僕、今から跳び箱をちゃんと跳べることを証明します。
そして、ちゃんと跳べたら君に伝えたいことがあります。」
誰もいない体育館中に響くような声で宣言した
清水さんはちょっとびっくりしていた
「いきまーす」
気合を入れ跳び箱に駆け寄る
スピードも歩幅も十分だ、いける!!!
そして、僕は失敗した
僕は清水さんの前で悔しくて泣いた
清水さんはハンカチを出して
「大丈夫?無理しちゃ駄目だよ」
と、いたわってくれた
「で、伝えたいことって何?」
と清水さんが言う。
「僕、失敗したから・・・」
何かいたたまれなくなって逃げ出した
そして、卒業式の日
朝から清水さんとは一言も話してない
もう、終わりだ
希望も何も無い卒業式を終えかえろうとしたら
清水さんがやってきて
「小川君ちょっと来て」
と、僕を校舎の裏庭に連れて行った
「小川君、私さー、別に引っ越す訳じゃないんだよ
ただ、通う学校が違うだけだよ」
「そうだけど」
「だからさー、昨日小川君が私の前で跳び箱跳んだら伝えたいことがあるって言うの
期限無しで有効ってことにしてあげるわ」
「えっ?」
「ちゃんと跳べるまで、いつまでも待ってるよ」
そう言ってほっぺにキスしてくれた
そして、照れながら
「言ったでしょ、小川君のことは忘れないって」
清水さんは桜の舞散る校庭を走り去っていった
おわり