【修学旅行編】
今日は修学旅行初日
行き先は京都だ
俺が所属する班は
班長 清水
俺 俺の悪友 悪友2 桃子 まーさだ
ちなみは友理奈、雅と一緒の班になってる
駅では先生の話が続いていた
修学旅行は初日の夜を迎えた
昼間は観光一色で特になんという事も無く終わり
旅館についた俺たちは食事を終え自由時間になった
俺はひとつ重大な問題を抱え悩んでいた
実は旅行に行く前、ユースの試合で参加できない
まことにちなみの写真を撮ってきてくれと頼まれてるのだ
もちろん断ったが奴は俺がちなみの幼馴染で仲が良いから
頼みやすいだろうととか、最終的にはお前ちなみが好きだから
撮りたくないんだろうとか言い出したので渋々受けることにした
とはいえ、班も違うこともあって今日はちなみと一言も口をきいてない
しかし、撮って来ないとまことになんて言われるかわからない
意を決して部屋を出ることにした
何処行くんだという悪友の問いかけが遠くに聞こえた
意を決して出てきたものの
女子の宿泊棟に足を踏み入れるのも
なんか気が引けるのでロビーで逡巡してると
天の配剤とばかりにちなみと友理奈が通りかかった
うそだろ・・・ラッキーと思いながら俺はちなみに声をかけようとした
「あっ、○○君!」
弾んだ声で友理奈が俺に気づく
先に言われ、ちょっとうろたえる俺
だが、もうこうなったら野となれ山となれだ
「よっ」
思いのほか普通の声が出た
「一人で何やってんのよ?友達いないの」
ちなみが毒づく
「いや、ちょっとね」
「それより折角だから記念写真でも撮らないか?」
なんて上手いこと言うんだ俺と自己満足しながら
カメラを持つ手をちょっと上げてみた
「うん、いいよ。撮ろう、撮ろう」
友理奈が嬉しそうに賛同する
結構表情豊かなんだなと心で新発見に驚きつつ
「ちなみは?」
と、振ってみると
ちょっと友理奈を見て
「いいよ、じゃあ私がまず二人を撮ってあげるよ」
と返してきた
「もう一寸寄ってよ、はいんない」
ちなみがファインダーを覗きながら指示する
夏なので友理奈も俺もTシャツの為、肌が触れ合った
友理奈の腕が少し動いたのが感じられて少し緊張して
手が動かせなくなった
「何、意識してんのよ変態」
ちなみの容赦ない突込みが入る
隣で友理奈が
「変態じゃないよねー」
と、悪戯っぽい笑みを俺に向けた
その笑顔がいつも見てるどの笑顔より輝いて見え
ますます緊張してしまう
「はい、撮りまーす」
ちなみが片目を閉じてファインダーを覗いてる姿が面白くて
つい、噴出してしまった
「ちょっとー」
「ごめんごめん」
訳は話せないと思いつつ今ので緊張がほぐれたのか
自然体で撮られたと思う
「じゃあ、次私が二人とってあげる」
友理奈が切り出してきた
「いや、次は俺が二人を撮るよ」
そう言って見合うと自然に二人で笑い出した
「そう、じゃあ、撮って。はい友理奈こっちこっち」
一寸強めにデジカメを俺に手渡すちなみ
何怒ってんだろうと思いながら
「はいはい」
とデジカメを構える
ファインダー越しに二人を見ると改めて可愛いなと思う
クラスでも二人が好きって奴をよく聞く
友理奈は大人ぽい雰囲気のある美人て感じだ
ちなみのことはずっと幼馴染で女の子として意識した事無かったけど
一寸今胸に何か不思議な感覚が沸いて来てる様な気がした
そのあと各人の写真を撮った
ちなみは一寸喋ってくと誘ったが何か今の気分だと
普通に接することが出来ないようで
悪友連中と部屋でトランプすると言ってその場を後にした
一寸、気持ちを落ち着けようと外に出てみることにした
(と言っても旅館の庭園だけど・・・)
一寸歩いてると一寸端の暗がりに人が座ってるのが見えた
誰だろうと思って近づいてみると
旅館の方をボンヤリと見つめる須藤がいた
「こんなところで何やってんの?」
俺が声をかけると
「えっ」
て、何かに気づいたようにこっちを見た
須藤は俺を暫く睨み付けていた
俺がそう感じただけかもしれないが
どれぐらいだろうか1分以上
いや、5秒ぐらいかもしれない
兎に角、沈黙が続いた
「○○君さ〜」
須藤が先に沈黙を破った
俺はまだ須藤の顔を見据えながら
何を言い出すのかその先を待った
「徳永さんのこと好きでしょ」
絶句した
「な、何言い出すんだよ、急に」
声が少し裏返っていて変なトーンだった
先程の写真を撮ってた時の変な感じが
また、体を突き破らんばかりに膨らんできた
「今日、君、徳永さんの方ばかり見てたでしょう」
鋭い指摘が俺の何かを刺激する
「い、いや、そうかな・・・えっ、そ・そう?」
「さっきも写真楽しそうに撮ってたし」
無表情で言う分、須藤に気圧されていた
「君はさー、思ってる以上に無防備だね」
「ち、徳永とはそんなんじゃないよ」
嘘だ
確かに今日俺はちなみを追っていた
でもそれはなんて言うか好きとかそんなんじゃなくて;mヴぁtb;v
再び先程とは違う沈黙が流れた
「て、言うかなんでそんな事気づくんだよ」
「鈍いわね、本当に」
「?????」
「私が君をずっと見ていたからよ」
何度目の沈黙だろうか・・・
「それって、」
俺が言いかけた瞬間
「まーさー、ここにいたの」
学級委員で班長の清水がなぜか茂みのほうから現れた
「どうしたの佐紀ちゃん」
須藤は清水の頭の上についている葉っぱをとりながら言った
「私達の班のお風呂の時間だよ」
「そうなの、ありがとう。探してくれたんだ」
何事も無かったかのように須藤は振舞っている。
「嗣永さんも探してるわ。先に行ってて」
清水は須藤にそう言って先に帰るよう促した
須藤が旅館の方に消えていく後姿を確認してから
徐に俺の方に振り向き
「今の事は忘れた方がいいわ」
と、少しきつい口調で言った
俺が何も言わずにいると
「好きなんでしょ。ちなみが」
それでも黙っていると
「兎に角、ただでさえ複雑なんだからはっきりさせときなさい」
俺は何の反応も出来ない。
金縛りにあったと気ってこんなのかなって一寸思った
「まあ、いいわ。男子も入浴時間よ。君の悪友たちが探してたわよ」
と言い残し足早に去っていった。
清水って・・・・
大人だと思った(小さいのに)
部屋に戻ろうとロビーを歩いていたら
桃子がなぜか浴衣姿で歩いていた
「あー、カメラ小僧見っけ」
なるほど人気が出るわけだと思わせる笑顔で俺の方を指差した
「何で、浴衣着てるんだ?ジャージ着用だろ」
「エーッ、折角温泉来てるんだよ。浴衣は当然でしょ」
と、これまたアイドル歌手のような笑顔でニコニコしている
「それよりさー、この私の浴衣姿を写真に撮らせて上げようか」
「一万円で」
桃子が言う前に言ってやった
「ちぇっ、まあいいや。じゃーねー」
屈託の無い笑顔で去って行った。
ちくしょう、かわいいぞ。
俺は部屋に戻り何処行ってたんだよと文句を言う悪友どもと風呂に入った。
風呂から上がった俺たちは部屋で
自然発生的に枕投げとなるも
見回りの藤本先生に見つかり思いっきり叱られた
仕方なく布団に入ると誰ともなく
誰が好きか言いあいっこしようぜ
と言う事になった
俺は急に今日あった出来事を思い出していた
他の班の連中が桃子が俺たちの班にいるのが羨ましいと
文句を言ってるのがうっすらと認識できた
夏焼や菅谷の名前も挙がっているようだ
今、俺の頭の中は、ちなみと友里奈と須藤がグルグル回っている
3人とも三者三様に可愛いと思う
でも、好きってどういう事かななんて考えたりもした
「おいっ、お前の番だぞ」
悪友が俺を突付いた
みんなは興味津々な顔で俺を見ている
「お前には徳永がいるもんなー」
悪友2がなかなか言い出さない俺を見かねて言った
「うんうん、やっぱりそうだよな」
「まあ、それしかないよな」
など勝手にみんな納得し始めた。
「勝手に決めるなよ」
一寸、満更でもない感じもしながら否定した
「良いや、次々」
なんかあっさり次に行かれて一寸肩透かしだが
まあ、今の俺の心境からすると
一番いい結果でこの場をスルーしたと思う
それにしても須藤・・・
やっぱりあれって告白なのかな
でも、好きとは一言も言ってないし
清水は忘れろって言ってたけどそれが良いのかも知れない
話はもう、怪談に移っていた
徐々にドロップアウトする連中に混じり俺も寝た振りをした
相変わらず3人がぐるぐる回ってるけど段々眠くなって・・・
寝た
いろいろ考え込んだ所為か目が覚めてない
何も考えられない状態で食堂へと向かう
「オハヨー」
の、声とともに俺の背中に激痛が走った
「痛っー」
背中をさすりながら顔を上げると須藤がいた
「今日は買い物だね。ちゃんと決めた?」
昨夜はいったいなんだったんだーって言うくらい弾けていた
「うん、清水がコース決めてるから間違いないんじゃない」
「そうだね、あ、私達の班はあそこだよ」
いつもの元気な須藤だ
バイキングの皿には一杯食材が乗っている
清水が一寸こっちに一瞥をくれたのがわかった
やっぱり昨日は夢じゃないのか
食堂では各班ごとに場所が決められていたので
須藤と一緒に席に着いた
流石に桃子もジャージに着替えていた
あちこちからの桃子への視線を感じる
凄いなこの子は、俺なんて一人の子に手玉に取られてるもんな
朝食を済ませて俺たちは部屋に戻り出発の準備をし
バスに乗り込んだ
バスの中は、トランプをする者、会話を楽しむ者
ひたすら携帯ゲームに打ち込む者
間近に居るのにメールで会話する者など様々であった
あいにく?ちなみ達の班は俺達より後部の座席だったので
よく見えなかった
俺達は桃子が胴元でunoをやっていた
それからバスは土産物屋で賑わう繁華街に止まった
藤本先生がくれぐれも危ないことはするなと注意事項を説明していた
拡声器の調子が良くないのか音切れがしていたが
そのたびに藤本先生は拡声器にあたっていた
「じゃあ、出発ー」
桃子の元気な声とともに俺達の班は清水の計画した土産物屋巡りに出かけた
「待ってー」
と、そこにちなみ達の班が近づいてきた
「佐紀ちゃんの買い物ルート乗ったぁ」
と、ちなみが元気に話しかけてきた
友理奈も嬉しそうにこっちを見ている
男連中は雅に加え桃子とも一緒に行動できると諸手を挙げて賛成してる
俺は、ちなみ、友理奈、須藤の3人が居る事で不安になってきていた
ええぃ、成る様になれだ
正直びっくりしている
須藤が俺から離れないのだ
何を見るにも付き添って時には顔を近づけたりする
悪友達が
「お前らいつの間に」
「ああ、熱い熱い」
など、冷やかしが止まらない
あまりに恥ずかしいので
「なあ、須藤。もう少し離れてもいいんじゃないか」
と言ったら
「邪魔?」
と言って大きな目をこちらに向けてくるので
思わず心拍数が上がった
やっぱり昨日のことは・・・・
そういうことだったんだよなあ
と、ちなみの方を見やると
知らないって感じで友理奈の腕を引っ張って遠ざかっていく
「徳永さんの事、気になる?」
須藤が昨日の夜のような顔になってこちらを向いた
「ん、あ、あ、いや。でも同じ班なんだしみんなで・・・」
「行動はしてるじゃない」
はっきりと言うその口調に二の句が告げなかった
それを遠くで見つめる嗣永と清水がいた
「案外積極的ね、須藤さん」
桃子が抑揚のない声で言う
清水は昨夜のことを思い出していた
・・・・
「彼にはちなみが居るわ。後で悲しむわよ」
清水が諭すように言う
「佐紀ちゃん、私さっきで分かったわ。
まだ、徳永さんのことは特別な存在にはなってない
微妙な状態だわ。
このままだと、二人は付き合うようになるかもしれない。
でも、今ならまだ入り込める。」
須藤は清水を見ずに淡々と語った
「でも、」
話しかけた清水を須藤は遮った
「佐紀ちゃんが私のことを思って言ってくれてるのは分かってる
でもね、どんな結果になってもいいの
あの時みたいに後悔したくないの」
「!」
「まーさ、まだたいせー君のこと・・・」
「まさか、でもあの時みたいに言わないで悔やむより
全力を尽くしてみたいの」
「好きだから・・・」
そう呟いてから須藤は何も喋らなくなった
・・・・
「でもこれからどうなるのかな」
桃子はまだ喋り続けていた
「さあ・・・」
清水は生返事をした
「私も参戦してみようかな」
清水は桃子を初めて見た
「嘘よ、ふふっ」
そういって含みのある笑いをして
「次行こう。飽きてきちゃった」
桃子の後姿を見ながら
(まーさ、今度は後悔しない様にね)
と心に思いながら
やがて班長の顔に戻っていった
「ゴメン、ちょ、一寸トイレ」
そういって俺は須藤から逃げ出した
実際、須藤が体を寄せるもんだから
俺の肩に須藤の胸が当たってなんていうか
兎に角もう耐え切れなくなって
それで逃げ出したって所だ
行動予定は清水に貰ってるからこれから何処行くかは分かってる
のぼせてる頭を冷やす意味でも一寸一人になろうと思った
土産物屋の筋から外れるといきなり静かな街並みが広がった
俺ん家の近所とは違う何か圧倒される空間だった
古そうな木造の家や歴史を感じさせる木々に鳴く蝉の声も新鮮に聞こえる
石を敷き詰めて作られた道を軽快に歩いてると何か気分も軽くなってきた
小さな神社があったので入ってみた
鳥居をくぐり境内に向かって歩いていたら
「色男、迷子になるわよ」
後ろからちなみの声がした
境内の柳にもたれ掛かって腕を組んでこちらを見ている
逆光になって表情が読み取れない
「ちなみこそどうしたんだよ」
俺は手を翳しちなみの表情を伺うが良く見えない
「色男が迷子にならないよう見に来たの」
そう言うとちなみがこちらに近寄ってきた
「友理奈はどうしたんだよ」
「桃子とタレントショップに行ったわ」
俺のそばをすり抜け石段に腰掛けた
そして両腕に顎を乗せ再びこちらを見た
蝉の声が遠くに聞こえるように感じた
「あのな、須藤の事だけど」
必死で声を振り絞り喋ろうとすると
ちなみは微笑んで首を横にゆっくり振った
「よく、近所の神社で3人で遊んだよね」
微笑んだままちなみが言った
「うん」
なぜかあの頃のように素直な気持ちで返事が出来た
「覚えてるよ。走り回ってたよなアウトドア派だからな俺達」
二人とも声を出さずに笑って見つめあった
「かくれんぼしてて私が野良犬に追いかけられた時、
犬の前に立ちはだかって私を守ってくれたよね」
「そんなことあったっけ?」
「あったわよ。震えてるのに手を広げて・・・ふふっ」
そういえばそんな事あったような
「結局近くを通りかかった大人に追い払ってもらったんだっけ」
ちなみは頷いた
が、そのまま頭を上げない
俺が近ずこうと二歩ほど傍に寄ったとき
すっと顔を上げ俺の眼を見ながら
「これからもずっと守ってくれる?」
目が潤んでいた
(今頃どうしてるかしらあの二人・・・)
「どうしたの桃子、ニヤニヤして」
友理奈が、ショップの袋にタレントグッズを一杯にして問いかけた
「な〜んでも、ないっ!」
おどけた感じで友理奈に笑い返す
「でも、みんな何処行ったのかなー。みんな来てるとばっかり思ってた」
この子顔は大人っぽいけどまだまだ子供ね
桃子は、その感想を表に出さずに
「さあ、でも大丈夫よ。委員長の作った予定表があるから
えっと次の行き先はふんふん。さ、行くわよ友理奈」
そういって友理奈の背中を押しながらショップを後にする
ん、待ってよ?ここどこ?ひょっとして私迷ってる?
桃子はいっこうに次の目的地らしきところに近づけないことに焦っていた
「ねー、桃子ひょっとして迷ってる?」
「そ、そ、そんなことないよ。待ってよ」
がさがさと京都地図を出し場所を探し始めた
「桃子、それじゃあ、分からないでしょ」
桃子は京都府の地図を見ていた
「そうね、まあでも北に向かえばいいのよ。丁度此処に抜け道みたいなのがあるじゃない」
二人は人通りの少ない裏道に出た。
「ねー、大丈夫なのかな。この道であってる?」
友理奈が不安そうに桃子に尋ねる
(私だって分かんないわよ、でも本当に子供ね)
桃子は先程から同じような感想を友理奈に抱いていた
道を確かめながら友理奈が頼ってくるのを
鬱陶しく感じていた
でも、考えてみると友理奈を○○君も来ると言って
タレントショップに誘ったのは私だ
騙した挙句、迷子になって不安にさせているのは私のせいだ
そう思ったら急に絶対に私がこの状況を何とかしなければいけない
桃子に責任感のようなものが生まれていた
「大丈夫友理奈、此処は日本の京都よ。観光名所よ。
どうやったって、おかしなところには出ないって〜」
何か説得力有るのか無いのか桃子自身にもわからなかったが
そう言って勇気付けた
「あれ、さっきと同じ所だ。」
友理奈はそう言うとちょっと泣きそうな顔になった
「だ〜いじょ〜ぶよ〜〜」
桃子は明るい感じで友理奈の肩を手でぽ〜んと叩いた
しかし、だんだん雲行きが怪しくなってきていた
「こんな狭い所通ってないよー」
私だって分かってるわよーと言いかけたのを飲み込んで
「なんとなくわかるわ、もうすぐだから。泣かないでよ、友理奈ー」
もう責任感だけが桃子を支えていた
きっかけがあれば桃子も泣き出す寸前であった
そんな二人に、希望の光が見えてきた
小径がもうすぐ終わりそうになったとき
神社の裏らしき所に出た
潤んだ瞳で俺のほうをずっと見ているちなみ
いつもの勝気さは影を潜め、なんていうかとても頼りなく見える
何か言わなければ
ずっと俺が守ってやる
そう言わなければと決意した瞬間
「わ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
と大きな泣き声とともに何かが俺の胸に飛び込んできた
「桃子!!!」
そう言ったのはちなみだった
決して背の高い俺ではないがそれでも桃子よりはある
丁度鼻の辺りに桃子の髪のいい匂いがした
名前のとおり桃みたいに甘い匂いだ
小刻みに震えながら、しゃくっている
柔らかい感触の奥から桃子の胸の鼓動がわかる
思わず手を肩にかけてしまったその時
「○○のばかー」
と言って、ちなみがなぜか突然現れた友理奈を連れて神社を出て行くのが見えた
友理奈もなんだか泣いてるように見えた
しまった
と思ったが後の祭りである
「桃子、ちょっと、ちょっとどうしたんだよ」
俺は、桃子を離そうと手に力を入れたが、それに桃子は抵抗した
「私、私、・・・」
その先は聴き取れない
もう俺は観念して桃子の好きにさせる事にした
ちなみ怒ってるだろうなという思いが何とか俺を支えていた
「怖かったの、私だって怖かったの」
そういって桃子は俺から離れた
「ゴメンね、急に抱きついたりして」
ちょっと落ち着いたのかだんだん普段の桃子らしい屈託の無い顔に戻りつつあった
「なあ、桃子」
俺が訳を聞こうとすると
「誤解しないでね、友理奈と道に迷ってそれで、友理奈が私を頼るもんだから
だから、そんなつもりじゃないの。ごめんね」
「いいよ、もう落ち着いたみたいだし」
「ごめん、ちなみとなんか話してたんでしょ。ゴメン、邪魔して
あとで私から話しとくから。」
「そんな所だと思った。でも、びっくりしたよ。いきなり飛び込んでくるから」
「エヘヘ」
その笑顔は、いつもと違って何か神聖なものにみえた
「さ、行こっ!!!」
そういって桃子は歩き出した
俺は桃子の半歩後ろから付いて行った
何か俺罰当たりそうだな
そう思いながら ちなみ、友理奈、須藤のことを考えていた
次の目的地まで桃子の後を付いていく俺は不思議な感覚に包まれていた
石畳の道を覆いつくす蝉の合唱の中前を行くのはクラスのアイドル桃子
まさか、桃子を抱きしめるなんて想像もしてなかった
もちろん、単に心細さから開放された安心感で偶々いた俺に飛び込んできたんだけど
さっきの桃子の香りを思い出しながら、
そういえば須藤もいい匂いがしてたな
友理奈もいい匂いさせてるし
ちなみ
ちなみはどうなんだろう?
いつも傍に居て口喧嘩ばかりしてるのが普通だった
でも、さっき見せたあの弱さ
やっぱり気丈夫に見えて女の子なんだな・・・
「傷つくな〜」
桃子が立ち止まって振り返りながら言った
「???」
つられて俺も立ち止まる。桃子はちょっとほっぺを膨らませながら続ける
「どんな理由でも私が抱きついたんだよ。」
????何を言い出すんだ????戸惑ってると
「私以外の人のこと考えてたでしょ」にじり寄ってくる桃子
桃子の瞳に全ての動きを止められてるようだ、でも、何でわかったんだろう
顔に息がかかるくらい近づいてきた、心臓が破裂しそうだ
「なんかね、あそこで君が見えたとき凄く頼もしく見えたんだ
いつもに無い素敵な顔して見えた。」
聞き取れる限界の声でそう桃子は言った
「私じゃ、駄目?」
心臓が飛び出しそうになった
「だって、だ、えーーーー!!!!!」
誤解しないでってさっき言ったのは桃子じゃないか
もう混乱して何がなんだかわからなくなってきていた
「本気じゃないと思ってるんでしょ」
そういうと桃子は目を閉じた
ごくんと唾を飲み込んだ。思った以上に大きい音だ
桃子に聞かれたんじゃないかと思うと頭に血が上ってきた
俺、どうしたらいいんだ・・・
クラスのアイドル桃子が自分からキスを求めてきてる
チャンスじゃないか行ってしまえよ
そう、心が俺をせき立てる
誰も見てないし・・・
よし、
そう思ったとき、もっと心の深い部分から閃光のようにちなみの顔が浮かんだ
!
「桃子・・・ゴメン」
えっ、て顔で桃子は俺を見た
「なんていうか、桃子は明るくて可愛くてでも、結構責任感あって・・・
えと、その・・・」
俺は何を言ってるんだ
桃子の怪訝そうな顔が笑顔に変わっていく
「えー、本気にしたの?ちょっとからかっただけだよ」
そう言った桃子にがっかりすると同時にちょっと安心して
「そうだろ、危うく引っかかるところだったよ
あれだろ、ここまで1万円だよって言うんだろ」と俺がからかうと
桃子はそれには反応せず、真顔になって
「そんな訳ないじゃない・・・・」
桃子の頬を涙が伝っていた
それに気づいた瞬間、桃子は走り去っていた・・・
しばらく桃子の去った後を眺めていた
桃子、ゴメン・・・
もう一度心の中で謝った
俺がしっかりしてないばっかりに
須藤、友理奈、桃子、そしてちなみを泣かせてしまった
どうすればいいんだろう
そんな事を考えながら集合場所に着いた
「○○君、なにがあったの」
清水が血相変えて俺に言ってきた
「えっ」
「えっ、じゃないわよ桃子が泣きながら通り過ぎて言ったわよ」
「なんだって」
俺は馬鹿だ。女の子の気持ちを本当に理解してない
何で追いかけなかったんだ。もし、桃子が
いや変なこと考えるのよそう
「みんな探しに行ったわよ」
俺も行かなきゃ
「待って」
清水が止める。表情が硬い
「何で、まーさから逃げたの?」
「そ、それは」
唐突に痛い所を突かれしどろもどろになる。
「嫌なら嫌と言えばいいじゃない。まーさは本気なの
別に好きじゃないならこれ以上、中途半端にしないであげて。」
清水の目は真剣に俺を捕らえている。
「う・・・うん」
確かに俺は須藤の行為をはっきりとは否定せず、しかも自分勝手にそこから逃げ出した
なんて酷いことを、俺がそんな事されたら絶対傷つくだろう
好きだと言う気持ちを知ってて、気分がいいからその状態を続け
そして、自分が鬱陶しく思ったので逃げ出した
なんて奴だ俺って・・・・最低だ
「本気で好きな相手に中途半端にされるのは振られるより傷つくのよ」
須藤の笑顔が胸に突き刺さる。精一杯の笑顔で俺と一緒に買い物を楽しんでいた
須藤だけじゃない。桃子に対してもそうだ。友理奈の好意にも甘えてる
「本当の優しさを見せてよ。男でしょ」
清水に止めを刺された
本当の優しさか・・・
ちなみの顔がふと浮かんだ
「わかった、俺、これ以上いい加減にしないよ」
「うん」
清水が笑わずに頷く
「はっきり答えを出すよ」
もう迷いは無い
「じゃあ、探しに行くよ」
そう言って行こうとすると
「いい顔になったよ」
清水の声が後ろで聞こえた
本当に清水って大人だ
探しに行こうとして走り始めると前から須藤が戻って来るのが見えた
須藤は俺に気付き立ち止まった。目を見開いて俺を凝視してくる
「○○君・・・」
須藤が呟いたまま固まっている
「須藤、ごめん。俺、君にとっても酷い事してしまった」
須藤は固まったままだ
「俺は君の思いを受け止めることは出来ない。俺は、」
「言わないで。私、それでもいいから。いつまでも君を待つから。」
搾り出すように須藤は言った
「ゴメン、俺はずっと守らなきゃいけない人がいるんだ、だから」
「それでも」
そう言って急にこっちに迫ってくるが、それを制して
「ごめん」
俺は深く頭を下げ須藤に囁いてから
桃子を探しに走り出した
立ち尽くす須藤の下に遠くから見ていた清水が近寄ってきて横に立った
「佐紀ちゃん、私かっこ悪いかな」
清水は須藤が震えているのを感じる
清水はあえて須藤の顔を見ず同じ方向を向いて答えた
「人を好きになる事にかっこ良いも悪いも無いよ
そう言って手を握った
「それにまーさは本当に好きな人に全力でぶつかっていった。
でもその人には本当に全力で好きな人がいた。それだけだよ」
しゃくり上げてる様な感じが伝わってくる
握っている手を清水は強く握り
「それにもし、まーさを悪く言う人いたら・・・私が許さない」
今度は須藤の顔を見上げて清水が優しい顔で言った
「ありがとう」
そう言って、須藤は清水の手を握り返した
桃子は小さな川の土手で佇んでいた
「もも・・」
声をかけようとしたが、桃子の背中がそれを拒む
風が無く、少し草いきれで咽そうだ
ふいに
「何しに来たの」
落ち着いた声で沈黙が破られた
「桃子、俺、言わなきゃいけないことがあるんだ。」
肩が僅かに震えた
意を決し、桃子の正面に立つ
俺を見上げる桃子。涙の痕がわかる
その眼差しの奥は読み取れない
「わざわざ私を振りに来たんでしょ」
いつもの笑顔は無い
「桃子、違うんだ」
慌てる俺を桃子は見透かしたように
「違わないわよ」
俺を捕らえていた目線がそれる
抑えていた感情が溢れ、桃子の目が潤んでいく
「ごめん、俺、桃子の事何にも分かってなかった」
ありきたりな言葉しかかけられない自分が情けなかった
桃子は涙を見せまいと下を向いた
風が吹いてきた
「私ね、ちなみちゃんが羨ましかった。」
桃子の顔に寂しそうな笑みが浮かぶ
「いつもは口喧嘩ばかりなのに」
風に飛ばされてしまいそうな声だ
「いざという時はいつも君が駆けつけてちなみちゃんを守ってた」
桃子は川の方へ歩き出した
「そんな君達に意地悪したかったの
須藤さんをけしかけたのも、ちなみに一人で後を追わせたのも
優柔不断な君を困らそうとした私の差し金なの」
俺は今日の出来事を思い返す
桃子は歩みを止めず続ける
「あなたが、困るのを見て楽しんでたの」
後ろを付いていく俺に振り返った
哀しい表情
「でも、私が道に迷って心細くて泣きそうになった時、あなたがいた」
立ち止まる
「その時気付いたの、あなたが好きって」
その顔は美しかった
少し間をおいて
「でも、ちなみちゃんが泣きながら走っていくのが分かった」
「桃子・・・」
顔を振り
「帰り道、一時の気の迷いと思い込もうとした」
桃子が、近づいてきた
「でも、振り返って君を見た時、その気持ちが本物だって」
ゆっくり俺の胸にすがった
目の前で泣いている桃子
なんて儚くて脆い子だったのか
いとしいという感情が湧いてきそうになる
だが、清水の言葉が、俺を抑える
本当の優しさ
ここで桃子に優しくする事は本当の優しさだろうか
一時の感情でまた桃子を傷つけるだけじゃないのか
ちゃんと言わなければ自分自身を許せない
須藤の涙や、清水の助言が無駄になる
そして何より、ちなみを悲しませてしまう
俺は桃子を離して
「ごめん」
出来るだけ冷静に振舞おうとする
「駄目」
俺に抱きついて
「わかってるから、わかってるから。でも、言わないで」
俺の夏服が千切れそうなぐらい掴む
桃子の温もりが感じられ、安らいだ気分に包まれる
川のせせらぎだけが二人を包んでいる
暫くして急に桃子が俺から離れた
「あ〜、すっきりした」
いつもの桃子の顔で言った
「さて、桃子様の初恋は終わったわよ
こんな良い女の子をふった罰よ
本来なら罰金一億円だけど今回は特別に
ちなみにちゃ〜んと告白することで許してあげる」
桃子はウインクする
「桃子」
二人は見詰め合った
そして微笑んだ
「行くよ」
桃子に手を振り俺は駆け出した
「ちゃんと告白するんだよ」
言葉が風に乗り俺を後押ししてくれる
桃子、ありがとう
服が汗でまとわり付く
ちなみは何処にいるのか
同じところを何十回も回り続けてる様だ
道行く人が押し寄せ邪魔をする
もどかしい
今すぐ会いたい
会って話がしたい
ずっとちなみを守ってやる
そう言いたい
しかし、肝心のちなみが見つからない
脇道の方から風が吹いてきた
ちりん
風鈴の音が聞こえた
澄んだ音
引き寄せられるようにその音に向かって進むと
先ほどの神社の前にたどり着いた
ちりん
またあの音がした
蝉の声が聞こえなくなった
導かれるように中に入ると
ちなみが風鈴を手に社の階段に座っていた
静寂の中、ちなみは俺を見て微笑んだ
見つけた
俺は涙を堪えるのに精一杯だった
ちなみはいつもの笑顔で迎えてくれている
「遅かったね、色男」
ちなみの笑顔がよく見えなくなってきた
俺はちなみに凭れ掛かった
ちなみはそっと俺の頭をなでた
「かっこ悪いな、俺」
「そうだね、私のナイトとしては心細いかな」
ちなみは少し楽しそうだ
ちなみにあったら言おう言おうと思っていたことも
全て忘れてしまった
「ちなみ」
顔を上げるとちなみの笑顔が広がっている
「今日は色々ゴメン」
「いいよ、ちゃんと戻ってきてくれたし」
ちなみは俺のおでこを軽く突いた
「でも、そうだな〜」
ちなみは立ち上がりながら
「このまま許すのも気がすまないから〜」
悪戯っぽく笑って
「ねえ、ちっちゃい時、あの神社で約束したこと覚えてる」
確かめるようにゆっくりと俺を見た
俺は、傍にある大きな松の木に登った
枝のしっかりしている所に座り
「この木に登れたら何でも言うこときいてやるよ」
ちなみがあの時と同じく軽々と俺のいる枝近くまで登ってきた
隣に座り、顔を寄せてきた
「私の初恋を一生の恋にしてくれる?」
ちなみの目が閉じていく
俺の返事はちなみの唇が封じていた
そこだけがあの時と違ったところだ
ちりん
風鈴が鳴った
セミ達が何かの合図のようにまた鳴き始めた
そして修学旅行は終わった
おしまい