【うたたね】
もうあれから10年以上にもなる。
小学生のあの頃は、何も考えずにバカやってたけど
あの女子が好きだの嫌いだのって話は今と変わらずやってたな。
と、そんなことを手元にある絵葉書を見ながら思い浮かべた。
絵葉書には、真新しいコンビニを背景に笑顔で映る男女。
ジーンズとシャツのラフなスタイルで、隣の男の腕に捕まり笑っている女性。
俺があの頃恋した女の子、桃子。
俺のもとには届かなかった絵葉書。
先日、偶然会った須藤に聞いて知ったんだ。
『あれ! ひさしぶりだねえ』
『そういえば知ってるかな? 桃子の事』
それで須藤からこの絵葉書の場所を聞いた。
やっぱり、桃子が俺に送るわけはないか。
別に嫌な別れ方をしたわけじゃあないけど
2年前に自分が振った男に結婚の報告をするような
頭の回らない女じゃなかったはずだ。
果たして、何の考えもなしにこの真新しいコンビニの前に来てしまった。
何か言う事を考えていたわけじゃないし
むしろ場所を知らないはずの俺が来たところで
逆に桃子を傷つけてしまうかもしれないのに。
とか思いつつも、俺の足は自然と店のほうに進んでいた。
進むたびに心拍数がどくどくと高まっているのがわかる。
でも何故だか足は止まらない。
自動ドアを潜り抜け、出来るだけ店員を見ないように店内を回る。
どこにでもある、普通のコンビニ。
しかし特に何も買うものはないんだけど。
そして、ついに何も持たないままレジの前に来てしまった。
一体何をやっているんだろう俺は。
「あ、すみません! お待たせしました」
甲高い、アニメみたいな声。 懐かしい声が店の奥から響いた。
「あの…マイルドセブン」
咄嗟に目の前にあったタバコの銘柄を言った。
「はい、マイルドセブンで…あっ、あれ?」
ひさしぶりに見た桃子は、2年前と全然変わっていなかった。
むしろ、小学生の頃のあの頃とも変わっていないように見える。
「…よっ」
「うわあ、ひさしぶりだねえ」
屈託の無い笑顔で話しかけてくる。
「須藤から聞いたんだけど、意外と近くにあったからさ…」
それから俺達は他愛もない話をした。
しばらくして今の桃子の『いい人』らしき男が出たきたところで
俺はそろそろ帰ることにした。
「また来てねっ」
「おう」
目の前で笑っていた、僕の遠い初恋。
家に帰って、ソファに寝転がる。
絵葉書の二人を眺めながら、昼間の日差しの中うとうとと眠りについた。
気がつけば、膝に毛布が掛かっている。
カーテンは夕陽でオレンジ色に染まっていた。
夕食の匂いが台所から漂ってくる。
うんっ、と背伸びをして目をひと擦りする。
「腹減った〜」
わざと台所に届く声で言ってみる。
「さくちゃん起きた? もうすぐ出来るからね」
「うん」
今はここが、僕の愛する毎日。
「だんしじょし 超番外編・うたたね」
Respect! 槇原敬之「うたたね」