【風の声】
『ヒューー』
「こ…に……にき…」
ん、何だ今の声。なんか柔らかい風が教室に吹き込んで……。
周りを見回しても誰もこっちを見てない。
まあ当然か。今は授業中だし。
あっ、でもよく見ると千奈美もキョロキョロしてる。
でも千奈美がキョロキョロしてるのは今の声とは関係ないか。
「ちょっとそこ何してるの!あと徳永さんもよ!」
ちぇ。見つかっちゃったか。石川先生、何気に目ざといよな。
「すいませんでした。」
一応謝っとかないと石川先生怒ると恐いからなあ。
でも何で千奈美もキョロキョロしてたんだろ。
虫でもいたのかな。
‐キンコーンカンコーン‐
よっし。これで今日の授業終了。
後は帰るだけだな。とりあえず荷物の整理しよっと。
片付けも済んで暇だからちょっと周りを見回してみるか。
清水と須藤が話してる。
いつ見ても清水は小さいし、須藤は大きい。
うん。今日も平和だ。
嗣永が石村にまた命令してるよ。
でもあれで仲いいんだから、すごいよなあ。
やっぱり、夏焼かわいいなあ。
俺は菅谷の片付けの手伝いをしてる夏焼を見る。
菅谷もかわいいんだが、いかんせん少し頭のねじが取れてるらしく
落ち着いて話ができない。なのに漢字だけは詳しくて漢字テストではいっつも負ける。
なぜだ。俺は漢字が小さいころから好きでこの年で漢字検定3級も持ってるというのに…謎だ。
でも俺が読めない漢字を出す石川先生も石川先生だよなあ。
「ねえ、何かわたしに用?」
えっ!?うわ!菅谷に向けてた笑顔のまま夏焼が俺に微笑みかけてきた。
「いや、別に用ってわけじゃないけど……
夏焼は今日もかわいいなあ。なんちゃって」
しまった。俺は何を言ってるんだ。こんなこと言ったら夏焼の奴ひいてるかも。
「えっ。」
夏焼の顔が赤くなってく。やっぱりこんなこと言うんじゃなかった。
俺嫌われちゃったかも。
「君、みやに何言ったの!?みやだいじょぶ?」
菅谷が敵意剥き出しで俺にまくし立ててきた。あと菅谷お前目が怖いぞ。
でもこいつ夏焼の隣にいたのに聞こえてなかったのか。
……まあ、そんなことより
「夏焼スマン。えーと…いや、まあやっぱり美少女二人が並んでるとかわいいっていうか
なんつうか……ぐえ。」
なんか背中が重いぞ。後ろを振り返ると……千奈美だった。
「もう、君雅ちゃんのこと口説いちゃだめじゃない。
雅ちゃんも真に受けちゃだめだよ。確かに雅ちゃんはかわいいけど、
こいつは、誰にでもこんなこと言うんだから」
「本当なの、君?」
「うーん。まあそう……か…な」
「そっか……そう…なんだ」
千奈美のおかげで、助かったけどこれじゃあ俺が軽いみたいじゃないか。
これでも硬派なつもりなのに……でも俺がまいた種だししかたないか。
夏焼達から離れた後、千奈美がまた話しかけてきた。
「ねえ、今日一緒に帰ろうよ」
ん、千奈美から帰ろうなんて珍しいな。
家が近いから低学年の頃は毎日帰ってたけど、6年になってからは数えるほどしか
一緒に帰ってないのに。うーん、まあいいか。
「いいよ」
千奈美の奴自分から帰ろうって言ったのにいないじゃん。
むーこんなかっこいい男を待たせるとは、これを知ったら
世界中の女の子が悲しむに違いない。うん。きっとそうだ。
「そんなわけないでしょ」
気づくと千奈美が真後ろに立っていた。
ていうかこいつ俺の心が読めるのか?
……まあいいか。そんなことより
「やっときたか千奈美。帰るぞ」
俺は千奈美と他愛も無い事を話しながら歩いた。
こんな風に話すのも久しぶりだから、結構話が弾む。
せっかくの機会だから授業中のことでも聞いとくか。
「そういえば、授業中なんかキョロキョロしてたけど、
虫でもいたのか」
「あれはねえ…………笑わない?」
「うん」
「なんかねえ…こえ、そう『声』が聞こえたの」
「声……ってもしかしたら女の子の声か?
なにいってるかよく分かんなかったけど」
「えっ、あんたももしかして聞こえてたの?」
「ああ、そうみたいだな」
「でもあれって何なんだろう?」
「うーん……」
俺たちはゆっくりと家に向かいながら、『声』の正体について考えていた。
だけど、もちろん答えは出ることなく、家まであと2,3分のところまで来ていた。
『ヒューーーー』
「ここに、こ…にき…」
「千奈美今の?」
千奈美が頷く。ってことはやっぱり学校のと一緒か。
「なあ、さっきもそうだったけど、声が聞こえる前に風が吹いてなかったか」
「言われてみればそうかも」
かぜとこえ何か関係があるのか?
『ヒューーーーーー』
「ここに、ここにきて」
またあの声が聞こえた。
今度ははっきりと。
『ここにきて』か……
「よし、千奈美行くぞ!」
「えっ!行くってどこに? きゃあ」
俺は気がつくと千奈美の手を取り走り出していた。
「もちろんさっきの声の人を探しにだよ」
「探すって何処から聞こえたのかわかってるの!?」
「ああ、もちろん。声がするとき風が吹いただろ。
その風がこの山の方から吹き込んでたんだ」
俺たちは昔よく遊んだ、山の中に入り頂上に向けて走っていた。
何か見えないものに突き動かされるように。
気がつくと千奈美が疲れてるみたいだったから、少し歩みを遅めた。
「はあ はあ はあ。もうっ。あんまり早く走らないでよ!」
「悪い、ちょっと急ぎすぎたな」
「……もうっ……離してよ!」
「んっ?ああこれか」
繋いでいた手を離して千奈美を見ると、
千奈美は真っ赤な顔をしていた。
まあこれだけ急いで走れば仕方ないか。
「もう頂上まであと少しだ。千奈美行くぞ。」
頂上の方からは異様なほどのけれど柔らかで温かい風が吹き込んでいた。
頂上に辿りついた時目に入ってきたのは、
目に映るほどの風とその吹き続ける風の中で微笑む眩いほどの輝きの女の子だった。
女の子が卒然と俺たちに声をかけてきた。
「ねえ、こっちに来て。お話しようよ」
そう女の子が言うと、まるでそれが合図だったように風が止んだ。
千奈美と一緒に女の子の方へ近づく。
見れば見るほどかわいい。長い髪がきれいだし、背が高く目が大きい。
夏焼もかわいいが、この子も同じくらいかわいいな。
『ポカ』
「いて!千奈美何するんだ!」
「別にいー」
「くす、二人とも仲良いんだね。
わたしは熊井 友理奈よろしくね」
不思議な女の子だけど、そんなことを忘れてしまうほどかわいくて良い子で、
すぐに打ち解けることができ俺と千奈美も自己紹介を済ませた。
その後俺たち三人は木陰に座って話をした。
「わたし達は幼馴染なんだ。それで、こいつね幼稚園の時に
木から落ちて大怪我したことがあったのよ。
そういえばここらへんじゃなかったっけあんたが落ちた場所。
それにしてもどんくさいよねえ。こんなところに傷まで作っちゃって」
俺の顔にはその時ついた傷のあとがうっすらと残っていた。
「ばか、お前なあ、あの時お前は近くにいなかったから、分からないだろうけど
ある事情によってだなあ!」
「はいはい。何がいたの?鳥?もしかして魚でもいた?」
くそ、千奈美め。あれは、俺がどんくさかったわけじゃなかったのに。
……あれ?でもなんで俺木から落ちたんだっけ?
「ごめんね」
ごくごく小さい千奈美にも聞こえなかっただろう声でなぜか友理奈ちゃんが謝ったように聞こえた。
なんでだろう?気のせいかなあ?
「ねえ、友理奈ちゃんは、何処の学校の何年生なの?」
「えーと……わたしは……君たちと同い年だよ」
「へえー、同い年なんだ。でも友理奈ちゃんの方がこいつよりも大きいし
わたしより大人っぽいしかわいいよねえ」
「そんなことないよ。千奈美ちゃんの方がかわいいよ。ねえ?」
「ん、ああそうだな」
……あれ俺変なこと言ったかな。千奈美の顔また真っ赤だ。
「ねえ、今って何を訊いたの?」
友理奈ちゃんに小声で聞いてみる。その答えを聞いて俺は……!!
やばい。友理奈ちゃんの『ごめんね』が気になって適当に答えちまった。
まあ千奈美もかわいいことはかわいいんだけど。でも俺がかわいいとか言っても
千奈美の性格だと嘘だと思って俺を小突くはず。……あれ?でも殴られないぞ。何でだ?
気になって千奈美の顔を覗き込む。覗き込んでいると……
「はれ、わたし…キャー!!。何してんのよ!!!」
『バチン』
結局殴られるのか。
朦朧とした意識の中友理奈ちゃんの心配そうな顔だけが見えた。
…………うん?どこだここは?
俺は千奈美に殴られて……あれ俺がいる。妙に小さいような?
女の子…誰だ?顔が見えない。
あっ。俺が木から落ちた。そういえば…俺あの女の子をかばって落ちたような。
でもあの女の子誰だ?女の子が木から下りてきた。顔が見える…もうちょっと…。
「起きて!起きてよ!ばか!!!。ねえ、ねえ。死んじゃやだよ!!」
ん?千奈美が泣いてる。俺が死ぬわけないじゃん。
俺にはまだやり残したことがごまんとあるんだぞ。
友理奈ちゃんも泣いてる。何でだ?どうしよう。
こんなかわいい子二人も泣かしたら世界中の男にタコ殴りにされちまう。
「千奈美…友理奈ちゃん…俺は大丈夫だから泣くな」
「あっ。やっと起きた!!ばか!!!」
いや、ばかってお前のせいだぞ千奈美。これ以上俺の頭を殴ろうとするな。リアルに死んじまう。
これ以上千奈美に殴られないためにも、俺は体を起こして大丈夫だということをアピールした。
どれぐらい寝てたか分からないけど、もう夕方みたいだ。
今は少しずつ日が短くなってくる時期だし早く帰らないと千奈美や友理奈ちゃんの親に悪い。
「千奈美もう時間も遅いし帰ろうか。
友理奈ちゃんも早く帰らないとお母さんに怒られちゃうよ」
友理奈ちゃんの目にうっすらと涙みたいなものが見えた。
そんな気がしたけどなんて言えばいいか分からず結局何もいえなかった……。
そうして俺たちは帰路についた。明日もここで会うことを約束して。
次の日
「オハヨー」
「あっ、おはよう」
朝の光が差し込む中、学校への道を歩く。
それにしても昨日会った友理奈ちゃんかわいかったなあ。
結局あの声が何だったのか分かんなかったけど。
今日も一緒に遊ぶ約束したし、楽しみだなー。
「おはよー!」
あれ夏焼今日はいつもより元気だな。
「おはようって言ってるでしょ。聞こえないの?君」
「ん?ああ悪い。夏焼おはよう」
「よし。それでいいの」
「なあ、なんで夏焼そんなに嬉しそうなの?」
夏焼は節穴とも呼ばれてる俺の目から見ても明らかに嬉しそうだった。
「えーとねえ、実は…このあいだオープンした遊園地あるでしょ。
あそこのチケットをお父さんがもらってきてくれて明日行こうと思うの」
「へえーそうなんだ。いいなあ夏焼」
あそこの遊園地はついこの間オープンしたばかりで今この辺に住んでる子供が行きたい場所ぶっちぎりの第一位だ。
実を言うと俺も行きたい。すごく行きたい。
そんな風に考えてたら夏焼が思いもよらないことを言った。
「ねえ、明日暇だったら一緒に行かない?」
「……えっ!!いいの!?……でも夏焼のお父さんが貰ったもんなんだろ。
俺は行けないよ」
「大丈夫だよ。チケットは……4枚あるの。それで……女の子の友達と一緒に行こうと思ったら男の子を誘って
ダブルデートすることになっっちゃって、わたしも男の子を連れてきてって言われてるの。
だから一緒に行こうよ。ねえ、いいでしょ」
クラスの男子に大人気の『雅スマイル』を夏焼が出してきた。さすがにこれを出されると断る理由が無くなる。
「…わかった。いいよ。一緒に行こう」
「やったーーー!約束だよ。じゃあ……明日の10時に駅前の時計の前に待ち合わせでいい?」
「OK。それでいいよ。」
「よーし、じゃあ明日は早起きして……」
「えっ。なに夏焼なんか言った?」
「ううん。なんでもないよ」
夏焼は今なら怒りそうにないし昨日はきちんと謝れなかったから、
もう一度昨日のことを謝っとくことにした。
「夏焼、昨日はごめんな」
「ううん。嘘でも嬉しかったよ。
それにわたしのほうこそごめんね。あと梨沙子が失礼なこと言わなかった?」
「いや、そんなことなかったよ。それにしても菅谷は夏焼のことが好きなんだな。
あのとき菅谷の目は俺を殺しそうだったもん」
「えっ。ほんと?もう梨沙子ったら」
きちんと謝ることができホッとしていると、前を歩いてる菅谷の姿が見えた。
「じゃあまた学校でね」
最後にとびっきりの『雅スマイル』を俺に向けて夏焼は走っていった。
今日はほとんど授業も聞かずに一日を過ごした。
たまに夏焼を見たときに見える笑顔が眩しかった。
夏焼の笑顔は昨日の友理奈ちゃんの笑顔や
千奈美の笑顔と混じり合って俺の頭の中をかき乱していた。
俺はどうしちゃったんだろうか。こんな気持ち初めてだ。
学校が終わったあとは、友理奈ちゃんのところに千奈美と急いだ。
今日も友理奈ちゃんは昨日と同じ笑顔……じゃなかった。怒ってる様に見える。
なんで怒ってるんだ?
「君、明日夏焼って子とデートするんでしょ!?」
「えっ。本当なの君?雅ちゃんとデートするの!?」
二人とも目が怖い。特に友理奈ちゃん目で殺されそうだ。
「君が行くんならわたしも一緒に行く!!」
「!!!」
友理奈ちゃんの発言に俺は凍りついた。
「友理奈ちゃん一緒に行くって言っても無理だと思うよ。
俺も夏焼について行くみたいなもんだし」
「それでも行きたいの!わたしも連れてって!」
友理奈ちゃんの目に涙がたまる。そんなにあの遊園地に行きたいんだろうか。難しいと思うけど……。
でも女の子を泣かせたらダメだって父さんも言ってたし。…………ああもうしかたない。
……ごめん夏焼。
「…分かったよ。じゃあ一緒に行こう。チケットのお金は俺がなんとかする……いやしてみせるから」
何言ってんだ俺?俺金持って無いのに。どうしよう。夏焼には借りれないし。親から前借するしかないか。
「じゃあわたしも行く!!」
「!!!!!」
…なぜ千奈美まで……!!?
結局二人とも行くことになってしまった。もうどうにでもなれ。
でも明日夏焼になんていえばいいんだろうか。憂鬱だ。
それにしても友理奈ちゃんはなんで俺と夏焼がデートするって知ってたんだろう。
あの近くにいたんだろうか。気になるなあ。
明日はどうなるんだろうか。楽しみなような…心配なような…。
次の日
あっー。もうどうしたらいいんだ!夏焼になんて言えばいいんだろう。それ考えてたらほとんど寝れなかったし。
金は親になんとか借りれたけど、これで半年は小遣いもらえないだろうなあ。
朝飯を食った後、だらだらと考え事をしていると千奈美と友理奈の声が聞こえた。
「オハヨー。早く来ないと置いて行くよ!」
はあ?千奈美の奴何言ってんだ。お前のせいで俺はこんなに悩んでるというのに。
「おはよう。早く行こうよ」
友理奈ちゃん今日は明るいみたいだ。それは俺も嬉しいけど……はあ。
『ガチャ』
「おはよう、二人とも今日も元気だね。ハハハ」
「何乾いた笑いしてんのよ。まあ、そんなことよりこんなにおしゃれした女の子が二人いて、
何か言うこと無いの?」
そんなことって俺は悩んでるんだぞ。
でも確かに千奈美の言うとおり二人ともすごいおしゃれしてるように見える。
すごくかわいくて、正直驚いた。特に千奈美は今までこんなにおしゃれしてるのは見たこと無い。
「ああ。二人ともすごくかわいいと思うよ」
「適当な褒め方ねえ。でもまあ君は褒めただけでも大きな進歩だからまあいいか」
そんなことを言いながらも千奈美は嬉しそうだったし、友理奈ちゃんも会ったときと同じような笑顔だった。
二人が笑顔になってくれたしそろそろ行かないと
約束に遅れかねないから出発することにした。
頭を使いながら歩いていると、あっという間に駅前についた。
夏焼は……いた。まだ約束の10分前なのに。
約束をしっかり守る子なんだな。夏焼だったら男は1日だろうと待つと思うけど。
それに今日はすごいなんていうか…きれいだ。いつも以上に。
夏焼に近づく……。
「あっ、おはよう。今日は晴れてよかったね。
えーとねえ…実は…友達これなくなっちゃったみたいなの。
だから今日は二人だけだね」
なんか夏焼すごい嬉しそうだな。でも今のうちに謝っとかないと。
「………夏焼スマン。このとおりだ許してくれ」
俺がそういうと千奈美と友理奈ちゃんが夏焼の前に出てきた。
「あれ?千奈美ちゃんと……誰?」
「ごめんね、雅ちゃん。わたしたちも一緒に行くことになったの楽しい休日にしようね」
「わたし熊井友理奈っていうの。よろしくね!夏焼さん!」
なぜか友理奈ちゃんは怒ったような顔になってる。
「えっ、君どういうことなの?」
ああ、やっぱり夏焼の奴驚いてるよなあ。明らかに面食らった顔してる。
「実はね、わたしたちもあの遊園地に行きたくてついて来ちゃったの」
「ごめんな。夏焼そういうことになっちゃったんだ」
「でもわたしは…君と二人で行きたかったのに」
夏焼が小声でつぶやいたがよく聞き取れなかった。
「いいじゃないですか。夏焼さん。友達来れなくなったんなら
チケット余ってるでしょ。それをわたしたち二人が使いますから」
そうか…友達が来れなくなったって事は……
チケットが二枚余る→余ったチケットを二人が使う→俺の金が無くならない→ヤッター
「ごめんなさい。実はチケット二枚しかないの」
なにーー!!ぬか喜びか。くっ。結局金は無くなる運命なのか。
「大丈夫。俺が二人の分は払うから。きっと大丈夫」
「あんた大丈夫?泣きそうじゃん。……まあいっか。友理奈ちゃん 雅ちゃん行こう」
そして電車に乗って、遊園地に向かった。
俺は電車の中ではこれからの半年の間ゲームも買えないマンガも買えないという生活を考えてぞっとしてた。
だからあとの三人が何か話してたけど上の空だった。
「君、起きてる?着いたよ」
夏焼の声が聞こえたので周りを見渡してみるといつの間にか電車は目的地の駅に着いていた。
「もー。もしかして話聞いてなかったの?」
夏焼が少し怒ったような顔してふくれてる。怒った顔もかわいいなあ。
友理奈ちゃんは笑顔で、千奈美は少しあきれた様な顔をしてる。
ここは終点の駅だからそれほど急ぐ必要は無いけど、ここにいても始まらないし、
電車を降りて遊園地までの道を歩くことにした。
「ねえ、何に乗る?」
「そうだねー。やっぱジェットコースターは外せないでしょ」
「うーん。わたしは観覧車が良いな」
夏焼の質問に千奈美と友理奈ちゃんが答える。
「そっか!観覧車かあ……よーし」
夏焼が何か嬉しそうだ。
「あっ!雅ちゃんずるーい。わたしも負けないからね」
「千奈美何を負けないんだ?」
「別にい。何でもないよ。ただ乗り物にたくさん乗ろうねって事」
ああそういうことか。まあ俺も楽しみだしなあ。女の子ならなおさらだろうからな。
徒歩10分ほどの道のりだったが、4人で喋りながら歩いているとすぐに遊園地の入り口が見えてきた。
夏焼と俺の分のチケットはあるので、千奈美と友理奈ちゃんの分を買おうと売り場に近づく。
「すいません。子供チケット2枚ください」
「はい、こちらになりますね」
俺がお金を出そうとすると……
夏焼、千奈美、友理奈ちゃん、三人が財布からお金を出そうとしていた。
「えっ!?いいの?」
「わたし達が勝手について来たのにあんた一人に全部出させたら悪いでしょ」
「そうだよ。少しずつだけど、わたし達も出すよ」
「元はといえばわたしが誘ってついてきてもらってるんだから、
これぐらいはしないと君に悪いからね」
「みんな……ありがとう」
「いいの、いいの。わたし達のほうこそ、色々と勝手なことしてごめんね」
「でもあんた、ほんとに電車の中で話聞いてなかったのね。
電車の中でお金、わたし達も払うって言ってたのに」
俺が悩んで話し聞いてない時にそんな話してたのか。
まあ三人のおかげで俺の財布の中も助かったし、今日は心から楽しめそうだな。
「よーし今日はたくさん乗るぞー」
「最初はやっぱりジェットコースターにしようよ」
俺たちは何に乗るか悩んだが、
千奈美が仕切って結局最初はジェットコースターに乗ることになった。
人が多かったから少し待つことになった。
「ねえ、どういうペアで乗る?」
友理奈ちゃんが俺たちに聞いてきた。
「そっか。それ考えないといけないね」
「えっ!適当で良いじゃん」
俺の発言はすぐに三人にかき消された。
「ダメ!不公平のないようにじゃんけんにしようよ」
またもや千奈美が仕切ってじゃんけんすることになった。
しかたないからやるか。俺が意味もなく気合をいれていると、三人揃って
「君はやらなくていいの!」
だって。なぜだ。さっきから俺怒られてばっかりじゃないか?
妙に気合の入ったじゃんけんの結果俺の隣は夏焼に決まった。
ジェットコースターに乗り込んでいる途中に夏焼が俺に話しかけてきた。
「ねえ、君はジェットコースター得意なの?」
「うーん。あんまり得意じゃあないかな」
「そうなんだ。……だったらわたしと手繋がない?」
「えっ!」
まさか夏焼の方から俺と手を繋ぐなんて言い出すとは思ってなかったから驚いた。
「あっ!いや別に深い意味は無くて、わたしは大丈夫だけど
君が怖いみたいだから手を握ったほうが怖くないかなって思ったからだからね」
何か夏焼がテンパってるように見えた。だけど夏焼の手元を見ると震えているのが分かったし顔も少し曇っていた。
これを見て夏焼はジェットコースター苦手なんだなって気付いた。
強がってても夏焼も怖いんだなってことが分かったら、
急に大人だと思ってた夏焼が俺と同い年の小学生だってことを思い出して嬉しくなった。
「そうだな。俺怖いから夏焼様のお言葉に甘えさせて頂きます」
俺はそう言って夏焼の手を握った。柔らかな感触と暖かな温もりに
俺の体と心は大地に包まれてるような気分だった。
「うん。そうだよ。人の好意はしっかり受け止めないとね」
夏焼はまだ強がってたけど、
さっきまで震えてた夏焼の手からはしっかりとした力を感じられたし、
夏焼の顔にも笑顔が戻ってたから俺も自然と笑顔になれた。
その後ジェットコースターが動き出してやっぱり怖かったけど、
夏焼が手を繋いでいてくれたから俺は笑顔のままでジェットコースターを降りることができた。
「あーっ!雅ちゃんずるい。もしかしてずっと手握ってたの!?」
千奈美につっ込まれて、まだ夏焼と手を繋いでることに気付いた。
「千奈美これはな、俺が怖いから夏焼に手を握っててもらったんだ」
友理奈ちゃんも混ざって俺たち二人は少し責められたけど、きちんと二人で説明したら一応二人とも納得してくれた。
その後俺たちはテレビなんかで話題に上がっているアトラクションに3つほど乗った。
そして時計を見てみるともう1時近くなっていたのでご飯を食べないといけないと思って
「なあ、どこで昼飯食べる?」
と三人に聞いてみると
「えーとね、実はわたし……お昼ごはん作ってきたの」
「えっ!雅ちゃんもなの?」
「……ってことは千奈美ちゃんも夏焼さんも作ってきたんですか」
………どうやら三人ともお昼ご飯を作ってきてくれたみたいだ。
嬉しいような……これからのことを考えると大変なような……。
俺たちは遊園地の中にある公園にある小高い丘で昼ご飯を食べることにした。
「でも、これどうするの?」
「うーん。どうしようか。こんなにはさすがに食べれないかも」
確かにどう見ても10人分ぐらいはある。
「大丈夫俺が全部食べるからさ」
「こんなに食べれるの 君?無理しないでも良いんだよ」
「大丈夫ほらこんなにおいしそうじゃん」
三人の作ってきてくれたお弁当をあらためて見るがやっぱりおいしそうだ。量さえ多くなければだが。
千奈美は昔千奈美の家に遊びに行った時によくおばさんが作ってくれた料理(ちょっと不恰好だけど)
夏焼はイメージに近い高そうなハムとか野菜とかが入ったサンドイッチ
友理奈ちゃんはいろんな形をした彩り豊かなおにぎり
「どれから食べようかなー。うーん、まずは千奈美のからいくか」
俺は千奈美のお弁当を食べる。
「……どう?」
「………う、うまーーい!!」
「ほんとに?」
「うん。本当にうまいよ。見た目があれだから期待してなかったんだけど、うまいよ。
これおばさんに作り方教えてもらったのか?」
「うん。そうだよ。……だけど見た目があれってどういう意味?」
「いや深い意味は無いと俺は思うぞ。…それよりもこんだけ上手く作れるようになるとは、
昔の千奈美からは想像出来んな」
小さい頃千奈美が俺に料理を作ってきてくれたことがあるが、そのころはお世辞にもうまいとはいえなかった。
っていうか正直不味かった記憶がある。
その千奈美がこんなにうまい料理を作れるとは、幼馴染の俺としては嬉しいし、
もうちょっと見ためよく作れればどこにお嫁に出しても恥ずかしくないな。
まるで父親のような気分で千奈美の事を見てたら千奈美も誰かといつか結婚するのかなあと思い
ちょっともやもやした。
次は夏焼のお弁当だ。
まずはこのハムと野菜の入ったのからいくか。
「おいしい?」
「うん。おいしいよ」
「よかったあ。おいしくなくて君に嫌われたらどうしようかと思ってたの。」
「はは、俺が夏焼のこと嫌いになるわけ無いじゃんか」
料理が下手なぐらいで夏焼のことを嫌いになる奴っていない気がするが。
逆にそのほうがかわいいって思う奴だっているだろうし。
この弁当は飾り付けもきれいだし、味も良いし、文句無しだな。
夏焼は顔もかわいいのに、勉強もなかなかできるし、さらに料理も上手いとは
すごい女の子だなあ。これで運動ができればパーフェクトだな。
最後は友理奈ちゃんのお弁当か。
やや不恰好な形が多いけど料理は見た目じゃないからな。実際千奈美のも美味かったし。
大丈夫だろうと思い黄色い円錐みたいな形をしたおにぎりを食べてみる。
けどその考えが甘かった。
「……!!!!……」
「えっ!?どうしたの?」
これはなかなかヤバイ。ちょっとぐらい不味くても食うつもりだったけど
これは想像を超えてる。……でも俺のために作ってきてくれたんだよなあ…。
よし、全部俺が食おう。人が作ってくれた物を残すなんて最低な男だし。
それに、たまに母さんが思いつきで作る中華だかフレンチだかイタリアンだか和食だかよく分からん料理よりは全然ましだし。
「いや、…何でもないよ。おいしいよ。三人ともお弁当作ってきてくれてありがとな。
でも俺ばっかりに食わせず三人も食べようよ。こんなにあるんだし」
「うん」
三人も弁当を食べ始めた。でも友理奈ちゃんの弁当はさすがに三人に食わすわけにはいけないから
俺が独り占めだ。少し辛いけど。
「もう、なに友理奈ちゃんのお弁当独り占めにしてんのよ。わたしたちにも食べさせなさいよ」
千奈美が俺の手元からおにぎりを奪い去った。やめろ、千奈美さすがに女の子にそれは刺激が……。
「えっ!!何これ……お、美味しくない」
千奈美の奴が苦しそうな顔でそう言ったあと、数十秒の沈黙があった。
その沈黙を破って友理奈ちゃんが…泣き出した。
「うえーーん。ごめんね、ごめんね。わたしお料理するの初めてで
美味く作れるか不安だったんだけど……ごめんね。ごめんね」
友理奈ちゃんはさっきから泣き通しだ。
「……友理奈ちゃん別に不味くなんかないよ。友理奈ちゃんが精一杯作ってくれたんだから
それだけで最高のお弁当だよ。ほらこんなに美味しい」
俺はおにぎりの中から茶色くて四角いのを手に取り口の中へと運ぶ。
口の中に入れて咀嚼してみる。まあ当然ながら美味しいとは言いがたい。
けど友理奈ちゃんのがんばりを想像すると美味しく感じてくる。
人の愛情を受けたものはどんなものでも良いものになるものだと俺は思う。
「ねっ、美味しいから友理奈ちゃん泣いちゃだめだよ。
友理奈ちゃんの笑顔見せてよ。ねっ」
「うん。ありがとう。みんな泣いちゃってごめんね」
友理奈ちゃんの顔に笑顔が戻った。やっぱり笑顔が一番だ。
四人で弁当を食べる。全員笑顔だったし話も弾んだ。
10人分ぐらいあった弁当が全部無くなった。
みんなで食べれば何とかなるもんだな(といっても5、6人分ぐらいは俺が食ったけど。死にそうだ)
けどさすがに腹はパンパンで少しの間動けそうにないな。
でも人の気持ちを感じられるものを食えるのってほんとに幸せだな。
俺はいっぱいになっているお腹を休ませるために座り込んで、トイレに行っている三人を待っていた。
三人が帰ってくるまでの間、俺は自分が三人のことをどう思っているのか考えた。
頭の中がごちゃごちゃしてて深くは考えれないけど……俺三人のことが好きだ。
でも三人のこと三人ともずっと好きでいたいと思う俺って傲慢なのかな。ずるいのかな。
そして三人は俺のことどれぐらい好きなんだろうか。
つづく