【友理奈となかさき続編】
「冬休みになったら会えなくなっちゃうね」
友理奈ちゃんが寂しそうに言う
「でも冬休みなんてアッという間だよ」
僕も友理奈ちゃんも里帰りする予定
「ねえ・・・・・・ちゃんと電話やメールしてね」
「うん・・・・・・でも僕のおじいちゃんの住んでる村、山の中だから圏外かも・・・・・・」
友理奈ちゃんは黙って下を向いてしまった
「ところで・・・・・バスケ部は冬休み中、練習無いの?」
うちの学校では、禁止されているわけじゃないのにどこの部活も冬休みは練習をしない
始めから知っていたけど、友理奈ちゃんが寂しそうな顔をするから話題を変えたかった
「うん、無いよ・・・・・・野球部も?」
「うん・・・・・あ、でも、始業式の前の日に、毎年恒例のちょっと面白いことが・・・・・・・・・・」
僕は新年恒例の野球部の伝統のイベントの話をした
「へえ、面白そうね・・・・・・・・・見に行ってもいい?」
「うんいいよ」
「じゃあ、なかさきちゃん誘って行くね!」
始業式前日
久しぶりに会ったチームメイトと新年の挨拶や土産話をしながらユニフォームに着替える
全員準備ができたようだ
「よし、おまえら!今日の試合は絶対負けられないぞ!いいか!」
俺はキャプテンとしてチームメイトに激を入れる
「えー?勝てっこないよ〜」
「そうそう、1人で熱くなるなよ」
「楽しけりゃいいんだよ」
俺以外の8人は文句を言う
俺だって勝てるとは思っていない
でも・・・・あの子が見に来ているんだ
ブザマな所は見せられない
「おまえらなあ、相手は野球部だぞ!サッカー部がサッカーで野球部に負けたら恥ずかしいだろ!」
「・・・・でも、去年も負けたじゃん」
そうなんだよな・・・・・・・・・・
「まあ、コールド負けにはならないように頑張るよ」
ザルという仇名のキーパーが言う
サッカーにはコールド無いけど・・・・・コイツの場合、冗談になってないんだよな・・・・
仕方が無いので顧問の先生(と言ってもクジ引きで押し付けられたのだが)に後を任せる
「じゃあ、辻先生、一言お願いします」
「アイアイ、楽しければいいのれす!でもケガだけはしちゃダメれす!」
はあ、この顧問じゃしょうがないか・・・・・・・・・・
黙っていたのに、なんで中島が見に来ているんだろ?熊井の仕業か?
「えー、毎年恒例の我が野球部とサッカーぶの親善試合ですが、サッカー部の弱体化で、
2年前から種目がサッカーになり、去年は初勝利を挙げるまでに至りました」
寺田監督が言う
「今年はなんと、サッカー部の弱体化に更に拍車がかかり、とうとう9人だけになっちゃいました」
うわー、そこまでヒドかったのかよ、あいつもキャプテンとして大変だろうな
「で、この試合も9人対9人で行うことになりました」
「ハンデでこっちは7人くらいでいいんじゃないの?」
誰かが冗談を言う
「まあ、それは今年以降考えるとして・・・・・・じゃあ、俺が徹夜で考えたスタメンを発表するでー」
野球の試合なら皆が固唾を飲む場面だが・・・・・今日は和気藹々
「えー、スタメンはレギュラーの9人」
まあ、妥当かな?
「次、ポジションだが・・・・・キーパーは投手守備の上手いまこと、お前や」
僕は色の違うユニフォームとキーパー用のグローブを受け取る
「で、あとは適当で、ロックを感じてテキトーに攻めてテキトーに守れ、以上」
・・・・・・・・・あの、それが徹夜で考えたスタメンでしょうか・・・・・・・・?
「いいか、くれぐれもケガだけはすんなよ、後のことは全てキャプテンのまことに任せる、じゃあな」
・・・・・・・・・・・・・・・帰っちゃった
ポカーンと寺田先生を見送るチームメイトに、
「とりあえず外野がフォワード、内野はバックスで、試合が始まったらあとはテキトーに」
と、キャプテンとして指示を送った
試合が始まった
あいつはキーパーか
蓋を開けてみると中盤で互角にボールを取りあっている
そりゃそうだよな
俺のマークに4人も張り付いているんだから敵の中盤は薄くなる
だが、前線にボールが抜けた後はこっちと相手じゃ大違い
野球部がゴール前に迫ると
「ザルー!止めろ!」
と言う絶叫がチームメイトから挙がるが、止められるのならザルなんて仇名はつかない
一方、俺たちサッカー部が突破した場合は・・・・・
俺にボールが集まるが、さすがに4人のマークはきつい
他のメンバーにボールが渡っても、奴がディフェンスに的確に指示を出す
シュートまで持ち込めても奴は決定的なシュートをバンバン止める
あっという間に点差が広がり、前半終了間際には0-7になってしまう
前半ロスタイム
ノーマークの俺にパスが通った
ドリブルで突破しシュートを打とうとした
だが、判断良く前に出た奴がシュートコースを完全に塞ぐ
俺はとっさに斜め前方にいるチームメイトの頭めがけてボールを蹴った
頭に当たったボールは角度を変え、ゴールに吸いkまれる
ヘディングシュートが決まったように見える
シュートを決めた奴は奇声を上げて走り回り、チームメイトも祝福する
本当にすごいのは俺なんだけど・・・・・・・・まあいいか
グラウンドの隅を見ると熊井と並んで見ている中島が大喜びしている
そこで前半が終わった
「わあ〜!すごいすごい!」
立ちあがって手を叩いてはしゃいじゃった
彼のことが気になるようになってからもう1年以上
私はず〜っとサッカーの勉強をしたから、あのプレーの凄さがちゃあんとわかる
あとでいーっぱい誉めてあげるんだ♪
「なかさき〜!あんたのダーリンやるじゃ〜ん!」
友理奈ちゃんも弟とよくサッカーをするからいまのプレーの凄さがわかったみたい
私は「ダーリン」なんて言われたのが恥ずかしくなって、顔が赤くなっちゃった
もう、友理奈ちゃんはイジワルなんだからっ!
「ねえ、ただ試合を見ていてもつまらないから、勝負しない?」
「しょう・・・・・ぶ?]
友理奈ちゃんにはちょっと男の子っぽいところがある
「そう、あんたのダーリンと、私のまことクン、どっちが勝つかの勝負」
「もう6点差だよ?試合は決まっちゃってるでしょ?」
「試合の勝ち負けじゃなくてね、あんたのダーリンが1点でも取ったらあんたの勝ち」
「で、1点も取れなかったら・・・・・・友理奈ちゃんの勝ち?」
「そう、これならいい勝負になりそうでしょ?」
「うん、そうだね・・・・・・・・・・・・・」
「じゃあ決まりね!負けたほうは罰ゲームでキスをするってことで」
ええーっ!キ、キス!?
私もちょっとは興味あるけど・・・・・・まだ小学生だし・・・・・・恥ずかしいし・・・・・・
「えっ、ちょっ、ぷっ、ぱひょっ・・・・・・・・・・・」
混乱して顔を真っ赤にしておまけに半泣きで意味不明な言葉を発する私
何やってんだー!落ち着けー!私ー!
「そんなに緊張しないでよ=!ホッペにチューよ!」
えっ?ホッペ?それなら恥ずかしいけど・・・・・・・・・頑張れる・・・・・かな?
後半になっても情勢は変わらない
それどころか、野球部は前半はメチャクチャだったポジションを的確に固定してきた
寺田先生は見当たらないからたぶん奴の指示だろう
手加減無しってか
俺は奴のそういう態度が好きだ
ポジションが定まって、奴の指示の精度が上がる
ファインセーブも連発
あんな凄いキーパー、市の選抜チームでもいないぞ
うちのチームに欲しいなあ
後半ロスタイム
点差は1-15
恥だ
何でサッカーにはコールドが無いんだろう?
中島もあきれてるだろうな
嫌われちゃうかな?
奴が「時間無いから全員上がれー!」と指示を出した直後、俺にロングパスが通る
ドリブルで一気に上がる
あの野郎、笑ってる
さては俺と1対1で勝負したくてわざと・・・・・・・・・・
ニヤリと笑って、俺はペナルティエリアの外ギリギリの所からシュートを打った
彼はペナルティエリアのギリギリの所でシュート体勢に入る
この試合で最初で最後の、ライバルと認めた相手との勝負
胸が高鳴る
シュートが打たれた
速すぎてて1歩も動けなかった
ボールがゴールに入るのとほぼ同時に試合終了を告げる笛が鳴った
間に合ったかどうかは関係無い
完敗だ
「ねえ、なかさきちゃん、入ったの?」
「・・・・・・・・・さあ?」
勝負の勝ち負けはわからない
罰ゲームのキスは、私か、なかさきか
もうどっちでもいい
ご褒美のキスをプレゼントしてあげるんだ♪
「ねえ、辻先生、入ったの?間に合わなかったの?」
審判をしている私にみんなが聞く
でもね、私はくじ引きでサッカー部の顧問になった人れす
未だにオフサイドがわかんない人れす
私の言葉をみんなが固唾を飲んで待っている
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わからないのれす・・・・・・」
結局、あのシュートは辻先生の提案で0.5点ということになった
普通なら文句が出るだろうが、あの点差じゃ誰も異議を申し立てなかった
みんな早く帰りたかったというのもある
俺と中島、熊井とまことの4人は教室に自然に集まっていた
熊井はまことにベタベタくっついて、今日の試合の奴の活躍をうれしそうに誉めている
奴もうれしそうに礼を言ったり相槌をyったりしている
俺は敗戦の悔しさと、中島の前で醜態を晒した恥ずかしさを、下を向いて噛み締めていた
中島も下を向いちゃっている
俺のカッコ悪さに呆れているのかも知れない
熊井と中島が水筒に水を汲むために教室を出た
「あのさあ・・・・・・・・・」
俺はまことに声をかけた
「うちのチーム、人数足りないから、今度助っ人で試合に出てくれないか?」
「うん、野球の方の都合が悪くなければいいよ」
「そうか・・・・ありがとう」
「僕もね、今度はキミと同じチームでサッカーがしたいと思っていたんだ」
熊井と中島が戻ってきた
戻ってくるなり熊井は
「まことくん、今日頑張ったご褒美でーす」
いきなり奴の右の頬にキスをした
俺と中島は、そしてまことも、熊井の大胆さにあっけに取られていた
私と彼、友理奈ちゃんとまこと君の4人で教室に集まった
友理奈ちゃんはまこと君の腕にしがみついて、今日の試合のことを楽しそうに話してる
まこと君もとっても嬉しそうだ
私も彼にそういうことをしてあげたいけど友理奈ちゃん達いるから恥ずかしい
彼の方を見ると・・・・・・・怒ってる
私がああいうことしてあげないからかな?
あーん、何とかしなくっちゃ!
友理奈ちゃんが私に「水筒に水汲みに行こう」って誘ってくれた
「ねえ、あの勝負はどうなったの?」
「ああ、あれ?もういいの、どうでもいいの」
友理奈ちゃんは嬉しそうに言っている
私の負けなら・・・・・キスできるのに・・・・・・・キスしてあげられるのに・・・・・・・
水汲みが終わると、友理奈ちゃんはウガイを始めた
「ガラガラ・・・・・・・ぺっ!よし、戻ろう!」
何かの決意をしたみたい
友理奈ちゃんはすがすがしい笑顔をしている
教室に戻ると、友理奈ちゃんは「ご褒美」って言ってまこと君のホッペにキスをした
私も・・・・・・・・私もがんばらなくっちゃ
深呼吸をした
ガンバレ、私、ガンバレ、早貴!
ああ、マフラー渡した時より何倍もドキドキする
「ねえ、私もご褒美あるの・・・・・・目を瞑って・・・・・・・・くれない?」
「ねえ、私もご褒美あるの・・・・・・目を瞑って・・・・・・・・くれない?」
中島が何度か深呼吸をしてから言った
まさか・・・・・中島も・・・・・・・・・・・熊井みたいに?
俺は中島の性格からは考えられない大胆な申し出に驚きながら目を閉じた
右かな・・・・・・?
左かな・・・・・・?
目を閉じていると時間が流れるのが遅く感じる
ドキン、ドキン、まだか?ドキン
両方の頬に全神経を集中させる
エッ?ウソだろ?
唇に柔らかくて暖かい感触・・・・・・・・・・・
唇の柔らかい感触が消えてから目を開ける
中島は「はふっ、はふっ」と変な呼吸をしている
そして「ふ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」と大きく息を吐くと、そのまま気を失ってしまった
崩れ落ちる中島を慌てて抱きしめた俺に、熊井は
「なかさきってやるときはやるのよね」
とニヤニヤしながら言った
俺は気絶した中島をおぶって帰ることにした
熊井たちと別れて、しばらく行ったところで中島は目を覚ました
「大丈夫?」
「うん・・・・・・・降りようか?」
「いいよ、このままで・・・・・」
中島の体温を背中で感じているのが嬉しくてそう言った
「友理奈ちゃん達は?」
「帰った・・・・・・・・びっくりしてたよ」
中島は黙ってしまった
何を考えているのだろう?
「ねえ・・・・・・・・・・・・もう一回キスしてくれない?」
中島は声を出して泣き出してしまった
「ゴメン・・・・・もうキスしてなんて言わないから・・・・泣かないでよ・・・・・」
そう言って謝る俺に、中島は
「違うの、違うの、うえーーーーん」
と、何がどう違うのかを言わずに泣き続けた
女心は・・・・・とくに早貴ちゃんは・・・・・・わからない
だがそこがカワイイんだよね
気がつくと誰かに背負われていた
この大きい背中、この髪型・・・・彼だ・・・・ちょっぴり嬉しくってちょっぴり恥ずかしい
「大丈夫?」
私の気配に気付いた彼が聞く
「うん・・・・・・・降りようか?」
「いいよ、このままで・・・・・」
ちょっぴり汗の匂いがする
がんばった汗の匂いは気持ちいい
「友理奈ちゃん達は?」
「帰った・・・・・・・・びっくりしてたよ」
ああ、友理奈ちゃん、どう思ったんだろう?恥ずかしい!
彼は黙ってる
いきなりキスなんかしちゃって怒っているのかな?
「ねえ・・・・・・・・・・・・もう一回キスしてくれない?」
怒ってなかった・・・・・良かった・・・・・・・・
そして、自分のやっちゃったことを思い起こすと・・・・・・・ものすごく恥ずかしい
またキスするとなるとあんな恥ずかしい思いを繰り返さなきゃならない
ものすごくものすごく恥ずかしい・・・・・・・・・・・
そう思ったら涙が出てきた
悲しくないのに泣き声まで出てきちゃう
「ゴメン・・・・・もうキスしてなんて言わないから・・・・泣かないでよ・・・・・」
「違うの、違うの、うえーーーーん」
悲しいんじゃない、キスが嫌なんじゃない、謝って欲しいんじゃない
そう言いたいけど上手く言えない
結局私は、嬉しいんだか悲しいんだか恥ずかしいんだか、なんだかわからないまま、
家に着くまで彼の背中で汗の匂いを感じながら泣き続けた
おしま