クルマ好きのための自転車講座! 
第一話 現代自転車界俯瞰図(プロローグ)

Text: Watal-KOIKE(こいけわたる)

 

1.はじめに

温暖化だ、エコロジー(*1)だと喧しい昨今、ちょっとしたオツカイにまで、V8をうならせ狭い道をかっ飛ぶには少々後ろめたさを感じませんか。また、どっぷりはまったクルマのお陰で、すっかり運動不足。駅の階段を駆け上っただけでも心臓ばくばく。「すこし運動せにゃアカン」と思いつつも、ゴルフって柄でもないし、水泳?ジョギング?そこまで健全になっちゃ裏街道を走ってきたこの自分の沽券にかかわるし・・・といって悩んでいる諸兄に、大胆にもクルマのサイト(SEX−DRAIVE)が「自転車のす々め」をしてしまおうというこの企画、単なる自転車入門ではなく(そういうのをお求めの方はダイレクトに自転車関係のサイトへどうぞ)、独断と偏見、趣味性と恣意性をたっぷり織り込んで、「自転車」を語っていきたいと思います。

さて、そもそもこの自転車、100年以上の歴史を持つ乗り物は、極めて趣味性が高く、海外ではそのコレクターたちがビンテージ自転車とその当時のスタイルに身を包み、走ったりメンテナンスの仕方について語りあったりと、きちんと趣味の世界が確立しています。(*2)また、供給サイドも極めてクルマに似ていて、主にはイギリス、イタリア、フランスの各国(*3)が大小さまざまなレース(*4)に、さまざまな意匠を凝らしコンストラクターズチャンプを目指してしのぎを削ってきたという歴史があり、クルマと比較しても遜色ない情熱が注ぎ込まれた乗り物なのです。そして、ついでに体にもいい。お気に入りの自転車で週一回2時間でもペダルを踏めば、有酸素運動の頂点に立つ自転車は、ココロとカラダに大いなる癒しを与えてくれるでしょう。

まずは「現代自転車界俯瞰図(プロローグに代えて)」と題した初回、自転車界の多様性とその分布を整理しました。この相関関係をきちんと頭に入れて頂き、次号以降はメーカーや工房へと話を展開させていく予定です。諸兄のクルマ観とオーバーラップさせながら読んでいただければ幸いです。

2.現代自転車界が1分で分かるマトリックス

まずは図をご覧ください。かなりの独断かもしれませんが、現代の自転車界を整理すればだいたいこんなもんです。まあ、トラックとかフリースタイルとかが抜けてるといえばそうなんですが、いきなりこれらに興味を持つとも思えず割愛しました。さらに恐縮ですが、ロードレースとかMTBレースとかフィットネスなどの実走派もここでは語りません。最新の自転車でレースに出たい!なんて方、つまりクルマでいえばGT2買ってサーキットに持ち込んで的な御仁、これまた別のサイトをオススメします。つまりここでは、メカに興味があって、でもちょっと懐古趣味的で、所有することが楽しめる自転車、この楽しみ方について薀蓄を語るのが最大の目的です。

3.それぞれの派のあらまし

(1)フランス耽美派

1940年代初頭から'80年代までパリにあった自転車店(「アトリエ」と呼ぶ)「ルネ・エルス」(Rene Herese)の自転車を至上とする集団です。当然、自転車に装備される部品も骨董的なフランス部品に拘る傾向があり、メッキやアルミ(合金)の輝きと「パリのエスプリ」などといった非常に情緒的なコトバを好みます。クルマでも知られるプジョー等(*5)レース系の自転車もないことはないのですが、なぜかツーリング系が重視され、日本の侘び寂びの文化と相俟って、'60年代から'70年代は「ランドナー」(仏語では「ランドヌーズ」というらしい・小旅行用自転車の意)なる車種で鄙びた旧跡を訪ね地酒、漬物、温泉、地元の人間との慎ましやかな交流を楽しむいった、これまたなぜかフランスのバタ臭さとは対照的な趣味が流行しました。当時から、この派のバイブルとされていた雑誌「ニューサイクリング」(*6)がその興亡を物語るように後継者問題に悩まされ高齢化現象によりたまにイベントを開いてもオタクおやじの集まりと化すのがなんとも寂しいかぎりです。

(2)イギリス古典派

日本に伝わった自転車は英国経由であり、本来フランス派より歴史が古いはずなのですが、戦争の混乱や戦後日本人のフランス贔屓やらが災いして、派としての歴史は短いようです。ここ十数年、フランス派の若干の衰退を契機に、地味ながら啓蒙活動を繰り広げてきましたが、フランス人気は根強く、フランス派を凌駕するどころか、ともに滅びる可能性をも孕んでいて予断をゆるさない状況です。ただ、工業製品としての出来はクルマと同様に、大英帝国時代の面影を色濃く残していて、特に古い時代のものに、メカニズム、ダイカスト等、強くそそられるものも多く存在することは否めません。

(3)イタリア至上主義派

工房といわれる大小の自転車メーカーから作られた、個性的でレーシーでカラフルなイタリア自転車と、傑出したデザイン、メカニズムを誇る自転車コンポーネントメーカー、カンパニヨロ(Campagnolo)社を至上とする派です。(*7) 派の中はそれぞれ贔屓の工房に分科していきますが、そこで対立関係が生まれることはなく、ラテンっぽい(つまりいいかげんな)交流が保たれています。ここもご多分にもれず高齢化は進行していますが、「速い」「派手」「いいかげん」といったイタリア文化は若者にも受け入れられやすいようで、また、現行モデルでのイタ車実走派が、旧モデルにも興味を示し、それぞれズっぽりはまってしまうといったケースも昨今散見されます。たしかにこれらのイタ車が放つオーラは抗しがたいものがあり、イタリア人の速いものに賭ける情熱はクルマ好きの諸兄をいとも容易くこの世界に引きずり込むかもしれません。

 

(4)国産懐古派

実はここ日本、シマノという世界有数の自転車コンポーネントメーカーが存在する自転車先進国であることをご存知でしょうか?古くは、鉄砲鍛冶の技術を生かして日本の自転車産業が発展したことに始まったようですが、所詮は後発の弱み、低価格路線でしか活路を見出せなかったため、高級品としての賞賛こそ受けなかったものの、独自の着眼点と器用さで、今となってはツールドフランスのコンストラクターズチャンプにまで登り詰めたのです。このような道程のなか、奇抜だったりやたら凝ったつくりだったり、といった部品が数多くのメーカーから生み出され、そして淘汰され・・・・ これらの部品を懐かしみそして愛しむのが国産懐古派です。この背

(5)MTB新派

アメリカから吹き始めたまったく新しい自転車カテゴリーであるマウンテンバイク。形式や伝統などにはまったくこだわらず、自分たちの好きなように自転車を楽しむ姿勢はなんとも羨ましい限りです。快楽にはとめどがなく、アメリカ的物質主義とも相俟って急速に発展してきたこの世界ですが、だんだんと時間がたつにつれ、ここにも懐古趣味的な分野が芽生えつつあります。マウンテンバイク創設のころのメーカーや現在に至るまでに存在したエポックメーキング的な自転車ブランドを再評価する動きがこれですが、まだまだ少数に過ぎません。ただ、世代的にはパワフルな団塊ジュニアたちが属する派であることから今後の動向は要注意といったところでしょうか。

以上が現代の偏見に満ちた自転車界バードビューでした。いかがでしたか?では、次回は「カンパニヨロ」についてすこし薀蓄を傾けたいとおもいます。題して「カンパニヨロの楽しみ方」(仮題)です。お楽しみに。>>>第2話へ進む

 

 

(*1)そもそも自転車とエコロジーの縁は古く、1971年には米国で自転車とエコロジーを融合させたバイコロジー運動なるものが生まれたりもした。

(*2)英国などでは所有する自転車の年代と同じ時代の衣装に身を包み同好の志とツーリングを楽しむイベントなどが開かれる。日本でもビンテージバイク(自転車)を持ち寄って品評会をする「ポリージャポン」なる催しが存在する。

(*3)もちろんこの3カ国に限らず欧州、米国、日本においても大小の自転車メーカーが存在するし、台湾はいまや世界の自転車工場である。

(*4)大きなものでは「ツールドフランス」(フランス一周)、「ジロデイタリア」(イタリア一周)、「ベルタアエスパーニャ」(スペイン一周)などが有名

(*5)プジョーはかつてフランスでもっとも大きな自転車メーカーであり、クルマより自転車メーカーとしてスタートしたとの説もある。

(*6)自転車ツーリングを主体とした自転車雑誌。創刊は'63年。創刊から'70年代までは、巧みな文章で綴られた紀行文が知的自転車階級を魅了したが、現在は書店店頭での販売がされておらず廃刊が危ぶまれる。

(*7)一般的に自転車の世界において自転車メーカー(あるいは工房)は、フレームといわれるダイアモンド型の骨格を、鉄パイプ(現在であればアルミやカーボンだが)をつなぎ合わせて製作し、それにパーツメーカーが作るパーツを取り付け完成車として出荷する。特記すべきはパーツと車体が完全に別会社で製作されていることだ。