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クルマ好きのための自転車講座! | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
1.はじめに スポーツタイプの自転車用主要パーツ(*1)は現在、日本のシマノとイタリアのカンパニョーロでほぼ寡占状態にあるのですが、つい20年ほど前までは、トップレベルの自転車競技におけるカンパニョーロの占有率は7〜8割を占め、その世界はカンパニョーロの独壇場であったということをご存じでしょうか。そんなカンパニョーロって自転車好き(特に古くからの)にとっては、ちょっと特別な存在なのです。それは、ツール(*2)においてヤンキーが何勝しても、その自転車にインストールされているパーツがわが国のシマノの秀逸なコンポーネントであっても、自転車好きにおけるカンパニョーロの精神的地位は微動だにしません。 思い起こすに20年くらい前までは、カンパニョーロは神々しいばかりでした。自転車店で、そのコンポーネントが入ったショーからは独特のオーラが発せられマニアを釘付けにしていましたし、すべてカンパニョーロで組まれたイタリア車などは店頭に人だかりができるぐらいでした。デザイン、性能、価格(*3)、どれをとっても他を寄せ付けないレベルにあったカンパニョーロはまさに神であったのです。 このようなブランドゆえ、その歴史やら、パーツそのもの変遷やらは研究論文よろしく詳細に語られていますが、それは学芸員的オタクマニアに譲るとして、今回は、クルマ好きの自転車ライフにおけるカンパニョーロの位置づけについて、SEXDRIVE的考察を行ってみたく、題して「現代カンパニョーロ考」。御用とお急ぎでなければご一読の程を。
2.その歴史 大上段から歴史などというと敬遠される諸兄も多いかもしれません。しかしちょっとまってください。物の価値って、ニーズとプライス、そしてロイヤリティの3つの要因によって決まるんです。そして、この「ロイヤリティ」の一要素が「歴史」なんです。考えてもみてください。アジアの名もない自動車メーカーが突然高性能GTを作ったからって食指が動きますか?信用とか歴史とか、そういったものがそのものの価値を決める重要な要素なんです。すみません。話が横道にそれました。 では、本当にカンパニョーロの歴史です。カンパニョーロ社のファウンダー、トゥリョウ カンパニョーロは1901年生まれ。自転車レーサーとしてそこそこの活躍をしていました。でもこの人、自転車レースだけでは飽き足らず、自転車レースでの経験を生かし、みずから変速システムを作ってしまうという、まあ、なんというかオタクっぽいレーサーでもあったのです。 その変速システムの開発の逸話が残っていますので参考までにご披露いたしましょう。「とあるレースでのこと。トゥリョウ・カンパニョーロは雪の峠道(クローチェ・ダウネという峠で、後年その峠の名前を冠したパーツまであった)にさしかかり、ギアチェンジ(単にタイヤをはずしてひっくり返すとういきわめて原始的な方法)のため、リアホイールをはずそうとナットを緩めるも、かじかんだ手は冷たいナットを回すことができず、そうこうしているうちにレースどころではなく結局はリタイアするはめに・・・」 ここで当のご本人がこの教訓を更なる鍛錬の糧にしていれば彼は平凡なレーサーとしての一生を終えていたかもしれません。でも自転車の神様は彼をして、これを自転車パーツ開発へと向けさせたのでした。その後、この逸話の中から生まれた変速システムは製品化され、また特許も取得。その3年後の1933年に念願の会社をヴィチェンツァに設立、トゥリョウ自身も自転車競技から退き自転車パーツメーカーとして本格的に活動を始めました。敗戦国イタリアでもわが国同様戦後復興期があったのかどうかは詳しく分かりませんが、戦後の自転車競技ブームの波に乗り、また、‘50年代にリリースしたリア変速機「グラン・スポルト」は堅牢、且つ先進的なメカニズムで大きな評価を受け、カンパニョーロは徐々に競技自転車パーツの雄としてその名を高めていきます。また、それまでのパーツメーカーは変速機なら変速機に、クランクならクランクに特化する傾向があったのですが、その後カンパニョーロは、クランクやブレーキ、ハブやペダルといった具合に他の部品も次々に開発、リリースし総合パーツメーカーとして成長していきました。 この当時のカンパニョーロが総合的にパーツを製作したことは、現代のコンポーネントといった概念を先取りしていた訳で、オールカンパニョーロで組んでこそ初めてそれぞれのパーツの機能が完璧に引き出されるのですよ、といった呪縛は、トップメーカーにはずいぶんと都合のいい考えでもありました。(パーツどころではなく、それをインストールするための超高級な専用工具の使用も半強制していたのです) 60年代、70年代はまさにカンパニョーロの黄金期です。トップチームの自転車のパーツはカンパニョーロしかありえなかったし、繰り返すようですが性能とデザインは贔屓目にみても他の追随を許すものではなかったのです。また、カンパニョーロの特徴として、ハイエンドパーツへの傾注もあげられます。例えばシマノ。それこそママチャリのパーツからレーシングコンポーネントの作成まで幅広い品揃えですが、カンパニョーロはハイエンド、作ってもセカンドブランドぐらいまでにすることにより、そのブランドイメージを高めることに成功しました。 そして現在のカンパニョーロはというと。冒頭でも書いたように、いつの間にか力をつけてきた、シマノとのすさまじいバトル。商品入れ替わり早さや、グレードの多さ、新素材の多用等々、オールドカンパニョーロファンにとってはなんとも隔世の感があるのですが、これも浮世の定めというものでしょう、と、最後は東洋的な締めで。
3. Maid in Italy そうでした、クルマ好きの諸兄であればカンパニョーロの生まれがイタリアであることを強く認識していただければもっとすんなりイメージをつかんでいただけるのかもしれません。デザインと機能性の絶妙なバランス。ひとことでいえば機能美とかいったちょっと陳腐なことばになってしまうんでしょうけど、カンパニョーロにはクルマ好きにならきっと理解してもらえるはずのイタリア気質とイタリアンデザインの秀逸が多く盛り込まれているんです。これは、今は凋落の一途をたどるフランスパーツ(*4)なんかと比較してもらうと歴然でして、そのあたりの事情もかなりクルマと似通ったところをもっています。各パーツ概要は、次項で語りたいと思いますが、カンパニョーロは自転車界においてはあのフェラーリやマセラティと同じような存在であることをイメージしてください。
4. パーツバラエティー ページの制限もあるし、ここではあくまでも概論的カンパニョーロ論と思っていますので過去から現代までにリリースされた膨大なカンパニョーロのパーツについての個々の解説や寸評は避けたいと思っていますが(当店HPのカタログをご参考あそばせ)、パーツ種類別ぐらいの解説はしなければその魅力は理解いただけますまい。そんなわけで、主要なパーツを時代横断的且つ独断的に少々。
○端整の極み−クランク&チェンリング− 本来、クランクとかチェンリング(フロントギア)とかチェンといった所謂駆動系パーツは、乗り物が左側通行であった国(英国らしい)において、自転車の進行方向左側から目に付かぬよう、その右側に配したということですが、その意図とは裏腹にクランクとチェンリングはだんだんと自転車の顔となり、さまざまな装飾がされるまでになりました。当然、このことはカンパニョーロも意識していて、デザイン的にもかなり力を注いだのでしょう。現在に至るまで素材やデザインに変化はあるものの、秀抜であることは疑う余地がありません。特に優れていると思われるのは、アルミ軽合金製の「溝つき」といわれるクランク。50年代後期から登場し70年代後期まで、時代によって若干の変更はあるものの、20年以上カンパニョーロの「顔」として君臨したその端整なデザインは、多くの他メーカーにコピー商品を作らしめたほどでした。
○ カンパニョーロの真髄−リア・ディレイラー(変速機)− チェンを移動させて変速する役目を持つこの機械には、カンパニョーロに限らず多くの意匠が生まれました。自転車マニアにはこれをコレクションとする御仁も多くいるほど、そのメカニズムやデザインには世のオタクを引き付けてやまないものがあるのです。そしてカンパニョーロにおいてもこのパーツの歴史は古く、その変遷をたどるのは真に興味深いことですが、ここではそれは割愛させていただき、いきなり真髄に。デザイン的にも、そして当時の機能としても他の追随を許さなかったのは「縦型」といわれるリア・ディレイラー群でした。少々話がそれますが、リア・ディレイラーには、大きく分けて「縦型パンタグラフ」方式と「横型パンタグラフ」方式がありまして、横型のほうが機能的に優れていることから、現代はほとんど横型になってしまったのですが、自転車を真横から見た場合のチェンラインやらパンタ部のボリューム等々、デザインは断然縦型に軍配があがると思うんです。そして、カンパニョーロにおいてのリア・ディレイラーの真骨頂は、縦型パンタグラフの機能を極め、デザイン的にはパンタ部にレリーフまでほどこしてしまったリア・ディレイラー「鉄レコード」あるいは「ヌーボレコード」ではないでしょうか。
○究極の曲線美−ブレーキアーチ− カンパニョーロのブレーキアーチ(*5)は現行品においてもそのアールの美しさは際立っています。これまた私見ですが、この現行品の曲線美は過去のそれがあってこそ初めて出せた美しさだと思うんです。カンパニョーロがブレーキ関係のパーツを製作したのは比較的あとのほうなんですが、その初代「レコード」は、稼動していない開いた状態での美しさは言うに及ばず、特筆すべきは稼働時、つまりアーチがすぼまったときにもそのアールが破綻しないことです。これだけ完璧なお手本があれば進化(というか時代の流れというか)において駄作が登場する余地もなく、現行「レコード」の持つアールが優美であるのも頷けるのです。
○メンテナンスまでも完璧−ペダル− 自転車パーツのグリスアップなんてまあ、めったにやることはないでしょう。ましてペダルをバラすなんて経験は一般の方はほとんど皆無でしょう。でも、すこし自転車をかじりはじめると、回転部をバラしてみたくなるのが人の常なんですね。で、案外面倒なのがペダルなんです。例えばフランス製某社のペダル。バラして、グリス入れて、さあ組み立て。スパナ組み合わせて何とか組み上げても、最後の玉あたりの調節は困難を極めます。ちょっと締めれば、ゴリゴリ。それだからといってちょっと緩めるとガタガタ。でもカンパニョーロは違います。デザインもさることながら、メンテナンス性にもずいぶんと気を配っているんです。カンパニョーロの開発担当は多くのレースに足を運び、選手のみならずメカニックからもさまざまな意見を聞いて開発にフィードバックしていたといいます。カンパニョーロのパーツにはこんなところにも、マニアを惹きつけずにおかない仕掛けが隠されているんです。
○未だに攻めあぐねる名機−コルサレコード− ごめんなさい。時代横断的といっておきながら、一時代だけスポットを当てさせてください。それは80年代中期に登場した高級コンポーネント「コルサレコード」です。それまでの「レコード」、「スーパーレコード」と一線を画すデザイン。それはシマノのエアロダイナミズムへの傾注に対抗するカンパニョーロの渾身の一作だったのですが、どういうわけか性能は今一つ。ブレーキ(本体)は利きが甘く回収されるは、先行していたシマノはエアロダイナミズム路線からの撤退を決断するは、と歴史的には失敗作の「極み」みたいなコンポーネントなんですが、数十年来の路線をガラリと変更しただけに、並々ならぬ力がその開発には注ぎ込まれたようで、リリースされたパーツはどれもオブジェのような逸品でした。特に、現代でも語り草は「デルタブレーキ」。従来のサイドからワイアで引き上げる方式から、中心から引き上げる複雑な方式に変更。その曲面を多用した異様なありさまはブレーキの概念を打ち破りました。そのほか、リア変速機や、クランク等、ボリューム感ある面と女性的な線はなんともゴージャスな容姿を誇ったものでした。つらつら思うに、ボリュームがあるパーツだけに、当時の比較的線の細いフレームでは、パーツにフレームが負けてしまい、ミスマッチの感が否めませんでした。それこそ現代のカーボンあたりの太い曲面を多用したフレームにこれをインストールすればさぞやかっこいいのではないかと思う今日この頃です。いずれにしろこんな肉感的なパーツを七転八倒やっつけて、ビッシ!と決まる自転車を組み上げてみたい、まるでグラマスな淑女を物にするみたいに、と思うのは今となっては儚い夢でしょうか。
5.カンパニョーロを遊ぶ 真の大人が少なくなった現代において、そこらへんの自転車小僧に負けない「正しい大人のカンパニョーロ遊び」とは如何なるものであるべきか、本日の講義のメインテーマです。 現代の自転車パーツはコンポーネント全盛の時代。シマノもカンパニョーロもコンポーネントを無視した各パーツの使用は想定していません(つまり、同じ会社でもグレードを超えたパーツの互換性は一部を除いて不可です。ましてや、A社の変速機にB社のチェンをつけるなんてことはまったく想定外です)。しかし昔は違いました。フランスの変速機にカンパニョーロのブレーキ、金がないから日本製のペダル、なんていうのもゼンゼンありでした。 そもそも、なぜそんなに独自の規格化が進んでしまったのか?根底にはレースでのより早くより正確に、があるんでしょうが、できれば自転車に乗るときぐらいゆっくり、そして型にはまらず乗ってみたいと思っている疲れた大人たちに、効率を追及したレーシングコンポーネントが必要でしょうか?答えは「ノー」だと思うんです。 では、こんな大人たちが乗るのに最適な自転車はなにか?まずは現代のコンポーネントなんか無視して、好きなパーツを好きなフレームに組み込んで、好きなスタイルに組み上げればいいということに気がついてください。時代や国、メーカーなどさまざまな呪縛から開放されれば、その組み合わせはほとんど無限大。まさしく「オリジナル」な自転車にまたがることが可能になるはずです。つぎに考えていただくことはカンパニョーロを軸に展開することが成功の秘訣です。その理由はもうおわかりですよね。 そして最後に、できましたらカンパニョーロのヴィンテージパーツをぜひ組み込んでください。ロードにしろ街乗りにしろ、大人のテイストが加わります。そして何よりも貴兄に所有する喜びをもたらしてくれるでしょう。いいですか、今流行の街乗りクロスバイクなんかではそこらの自転車小僧には絶対勝てません。彼らの方が知識にしても自転車への投資額も数段上です。彼らの視線を尊敬の眼差しに変えたければ、どうぞヴィンテージカンパニョーロをメインに据えた自転車に跨ってください。 次にフレームをどうするか、という問題があります。これも選択枝はそこそこあります。渋く行くのであれば、やはりヴィンテージのフレームを手に入れるべきでしょう。現代はこんなものもそこそこ流通しています。サイズの問題とかでヴィンテージが入手困難であれば、次はオーダーです。幸いにも日本には鉄フレームを作る優秀な職人が多く存在します。それは多分に競輪の存在が大きいのですが、これを生かさない手はありません。彼らは乗り手の体に合わせミリ単位でパイプを刻み溶接してくれます。 こうして出来上がった自転車。でも侮ってはいけません。ヴィンテージといっても、今現在まで残っているパーツはそれぞれの時代のトップグレード。つまり数十年前まではツールなどのレースで活躍していた部品なのです。耐久性や基本性能はそこらへんで売っている数万円の自転車とは比較になりません。つまり貴兄が自転車ビギナー程度の脚力(失礼!)であれば、どんな使い方をしたとしてもさしてトラブルになるようなことはないのです。
6.おわりに 物欲を満たすことで人生を豊かにすることはできないかもしれません。しかし、少しの工夫と幾ばくかの投資で、自転車という日常品があらたな癒しを与えてくれる可能性は十分にあります。そのときカンパニョーロがその自転車にインストールされていれば、それが放つ独特の「匂い」はその効果をさらに高めてくれるかもしれません。
(*1) 一般的に競技自転車の世界においてはパーツメーカーと自転車メーカー(あるいは工房)が完全に別会社として存在しており、自転車メーカーは、フレームといわれるダイアモンド型の骨格を、鉄パイプ(現在であればアルミやカーボンだが)をつなぎ合わせて製作し、それにパーツメーカーが作るパーツを取り付け完成車として出荷する。パーツメーカーと自転車メーカーはほぼ対等な関係で、自転車メーカーによっては、同じフレームについてカンパニョーロ仕様とシマノ仕様の選択が可能なであったりする場合もある。 (*2)「ツールドフランス」といわれるフランス一周自転車レース。その他「ジロデイタリア」(イタリア一周)、「ベルタアエスパーニャ」(スペイン一周)をもってして3大ツールという。 (*3)70年代当時カンパニョーロの製品は日本の同一部品とくらべ10倍ぐらいの差があった。例えば、ボトムブラケットと呼ばれるクランク軸に付属する樹脂性ウオーターシールドは、日本製は100円程度だったが、カンパニョーロ製は当時900円程度していたと記憶する。 (*4)フランスも自転車パーツ生産ではそこそこの実績を誇っていた。「MAFAC」、「STRONG LIGHT」、「TA」等は有名。概して耐久性や精巧さこそないものの、デザインに独自のエスプリがあり、特にツーリング系はフランスパーツが王道である。 (*5)自転車はリム(ホイールの淵)をはさんでホイールの動きをとめることにより制動を行う。このはさむ機械がブレーキ装置で、その形状から「ブレーキアーチ」または「キャリパーブレーキ」とも言われる。
いかがでしたか?今回の講義は。さて、少々宣伝をさせてください。当SEXDRIVEではカンパニョーロのヴィンテージパーツや海外のビンテージフレームを扱っています。もし、今回の号で少しでもビンテージ自転車に興味がわきましたらぜひご相談ください。貴殿の自転車ライフに最適なアドバイスをさせていただきます。 次号は・・・ぼちぼち、自転車メーカーを取り上げましょうか、と思っています。 第二話完
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